(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明フィルムと、該透明フィルム上に設けられたハードコート層と、該ハードコート層の表面上に層間充填剤を介して貼合された前面板と、を有するハードコートフィルムであって、
前記層間充填剤が活性エネルギー線硬化性樹脂であり、その表面自由エネルギーが45.2mN/m以下であり、
前記ハードコート層の表面自由エネルギーが30mN/m以上であり、
前記ハードコートフィルムが、前記透明フィルムの成分と前記ハードコート層の成分が混在している混在領域を有し、
前記ハードコートフィルムが、前記ハードコート層におけるハードコート層の成分からなる領域と前記混在領域との間に界面を有さず、
前記混在領域の屈折率がハードコートフィルムの厚み方向に向かって連続的に変化しており、
式(1)に規定する屈折率変化傾斜a(μm−1)が0.003≦a≦0.018を満たす、ハードコートフィルム:
a=|nA−nB|/L・・・(1)
式(1)中、nAは前記ハードコート層固有の屈折率、nBは前記透明フィルム固有の屈折率、Lは前記混在領域の厚み(μm)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.ハードコートフィルムの概要]
本発明のハードコートフィルムは、透明フィルムと、該透明フィルム上に設けられたハードコート層と、を有する。また、ハードコート層の表面自由エネルギーは30mN/m以上である。さらに、ハードコートフィルムは、透明フィルムの成分とハードコート層の成分が混在している混在領域を有する。混在領域の屈折率はハードコートフィルムの厚み方向に連続的に変化し、式(1)に規定する屈折率変化傾斜a(μm
−1)が0.003≦a≦0.018を満たす。
a=|n
A−n
B|/L・・・(1)
式(1)中、n
Aは上記ハードコート層固有の屈折率、n
Bは上記透明フィルム固有の屈折率、Lは上記混在領域の厚み(μm)を表す。
【0019】
上記混在領域は、ハードコート層と透明フィルムとの境界又はその近傍からハードコート層の厚み方向中途部にわたって形成されている。
【0020】
上記混在領域の一方の端部は、ハードコート層の厚み方向中途部に存在し得る。上記一方の端部は、例えば、ハードコート層と透明フィルムとの境界から、ハードコート層の厚みに対して少なくとも40%以上ハードコート層の厚み方向に上記境界から離れており、好ましくは60%以上であり、より好ましくは80%以上である。このような範囲内であると、本願発明の効果はより確実に奏される。
【0021】
上記混在領域の他方の端部は、
(1)ハードコート層と透明フィルムとの境界(すなわち、ハードコート層形成材料を塗布した時点における透明フィルム表面)、
(2)上記境界より透明フィルム側、又は
(3)上記境界よりハードコート層側、の何れにあってもよい。
上記他方の端部は、界面を形成していてもよい。
【0022】
図1〜3を参照して、上記(1)〜(3)の態様をそれぞれ説明する。さらに、
図4を参照して、さらに別の実施形態を説明する。但し、図面で示される発明は、何れも本発明の一態様に過ぎない。
【0023】
図1において、1つの実施形態に係るハードコートフィルム1は、透明フィルム2と、透明フィルム2の上に設けられたハードコート層3と、を有する。図中に符号31で示す領域は、上記混在領域である。なお、ハードコート層3の厚み方向中途部は、界面5とハードコート層3の表面3aとの間の厚み方向の中央部を意味するわけではないことに留意されたい(「中途部」について、以下同様)。1つの実施形態においては、透明フィルム2とハードコート層3との境界には界面5が存在している。界面の詳細については、1−3項で後述する。
【0024】
図2は、別の実施形態に係るハードコートフィルムを示す。本実施形態においては、混在領域は、透明フィルム2のハードコート層3に近接する部分からハードコート層3の厚み方向中途部にわたって形成されている。すなわち、混在領域は、混在領域31と図中に符号21で示す領域とを含む。界面が存在する場合、当該界面5は、透明フィルム2のハードコート層3に近接する部分に存在し得る。以下、混在領域31を第1領域と称する場合があり、図中に符号21で示す領域を第2領域と称する場合がある。なお、本明細書において用語「第1領域」および「第2領域」は、
図2に係る実施形態を説明する場合にのみ用いることとする。
【0025】
図3は、さらに別の実施形態に係るハードコートフィルムを示す。本実施形態においては、混在領域31は、ハードコート層3の透明フィルム2に近接する部分からハードコート層3の厚み方向中途部にわたって形成されている。この形態においては、ハードコート層3の透明フィルム2側の端部近傍に移行領域33が形成され得る。混在領域31と移行領域33との間に、界面5が認識され得る場合がある。
【0026】
図4は、さらに別の実施形態に係るハードコートフィルムを示す。本実施形態においては、ハードコート層3の上に層間充填剤6及び前面板7がこの順に設けられている。本実施形態は、
図1に準じた形態として示されているが、
図2又は
図3に準じた形態であってもよいことは言うまでもない。
【0027】
なお、
図1〜4に示すハードコートフィルム1においては、ハードコート層3が透明フィルム2の片面に設けられている。しかし、ハードコート層が透明フィルムの両面に設けられていてもよい(図示せず)。
【0028】
[1−1.混在領域]
(屈折率が厚み方向に連続的に変化)
上記のとおり、混在領域の屈折率は、ハードコートフィルムの厚み方向において連続的に変化している。
【0029】
本明細書において「連続的に変化」とは、屈折率が部分的に一定である場合も含む概念である。より詳細には、「連続的に変化」とは、混在領域の屈折率がハードコートフィルムの厚み方向において不連続値を有さないことを意味する。ハードコートフィルムの厚み方向における任意の2点X及びYにおける混在領域の屈折率n
X及びn
Yを用いて得られる式(2)に規定する屈折率変化傾斜b(μm
−1)は、例えば、0.003≦b≦0.018を満たし、好ましくは0.004≦b≦0.008を満たす。
b=|n
X−n
Y|/D・・・(2)
式(2)中、Dは2点X−Y間の厚み方向の距離(μm)を表す。
【0030】
これらの屈折率は、プリズムカプラを用いる方法により測定することができる。
プリズムカプラではプリズムを介して薄膜中にレーザー光を導入し、その導入される光の強度が特定の入射角度においてある周期性(薄膜導波条件に合致した角度)を持って強くなる状態を検出する。
屈折率が深さ方向で連続的に変化していない薄膜において、この特定の入射角とその周期性はその薄膜の屈折率と膜厚から一義的に決まることから、得られた複数の(モードと呼ばれる)入射角から薄膜の屈折率と膜厚が算出できる。
一方で深さ方向に屈折率が変化している薄膜においては、その入射角と周期性とに薄膜導波条件からのズレが生じるために、それを解析することで薄膜の深さ方向に対する屈折率変化を定量的に求めることができる。
【0031】
(屈折率変化傾斜)
上記ハードコートフィルムにおいて、上記式(1)に規定する屈折率変化傾斜a(μm
−1)は0.003≦a≦0.018を満たす。また、aは、0.004≦a≦0.008を満たすことがより好ましい。上記範囲内であると、ハードコートフィルムの干渉縞をより確実に抑制でき、より高い耐擦傷性が確保される。
【0032】
式(1)において、n
A<n
Bの場合、n
Aは、1.30≦n
A≦1.66を満たすことが好ましく、1.38≦n
A≦1.55を満たすことがより好ましい。
n
Bは、1.33≦n
B≦1.66を満たすことが好ましく、1.47≦n
B≦1.55を満たすことがより好ましい。
このような範囲であれば、干渉縞がより確実に抑制できる。
【0033】
n
B<n
Aの場合、n
Aは、1.33≦n
A≦1.90を満たすことが好ましく、1.47≦n
A≦1.74を満たすことがより好ましい。
n
Bは、1.33≦n
B≦1.66を満たすことが好ましく、1.47≦n
B≦1.55を満たすことがより好ましい。
このような範囲であれば、干渉縞がより確実に抑制できる。
【0034】
n
A<n
Bであっても良く、n
B<n
Aであっても良いが、n
B<n
Aであることが好ましい。この場合、干渉縞がより確実に抑制できる。
【0035】
|n
A−n
B|は、通常0≦|n
A−n
B|≦0.42であり、好ましくは0.03≦|n
A−n
B|≦0.26であり、より好ましくは0.04≦|n
A−n
B|≦0.10である。このような範囲であれば、干渉縞がより確実に抑制できる。
【0036】
混在領域の厚みLは、通常2.0μm以上であり、好ましくは3.0μm以上であり、より好ましくは4.5μm以上である。このような範囲であれば、干渉縞がより確実に抑制できる。
【0037】
[1−2.ハードコート層]
ハードコート層の表面自由エネルギーは、30mN/m以上であり、32mN/m以上であることが好ましい。上記範囲内であると、ハードコート層上で塗工液がはじかれることなく濡れ広がりやすくなり、ハードコート層の層間充填剤への対応の自由度が一層向上し得る。また、親水化による表面改質処理をする必要が一層低下し、生産性の低下、耐擦傷性の低下という問題を一層確実に回避できる。上記表面自由エネルギーについては、液滴法により測定されることができる。ハードコート層の詳細については、3項で後述する。
【0038】
[1−3.界面]
上記ハードコートフィルムは、上記1項で説明した通り、界面を有していてもよい。界面は、透明フィルムの成分とハードコート層の成分とによって形成され得る。界面は、反射スペクトルの解析によって検出され得る。
【0039】
ハードコートフィルムの厚み方向において、反射スペクトルの解析によって検出可能な界面は1つだけ存在していることが好ましい。つまり、ハードコートフィルムには、1つの界面を除いて、反射スペクトルの解析によって検出可能な光学的な界面が存在しないことが好ましい。換言すると、ハードコートフィルム中には、反射スペクトルの解析によって検出できる界面が2以上存在しないことが好ましい。
【0040】
反射スペクトルの解析によって検出可能であるとは、例えば、瞬間マルチ測光システム(大塚電子(株)製、製品名「MCPD3700」)を用いて検出可能であることである。具体的な方法は、後述する[界面の確認方法]に従って行うことできる。
【0041】
続いて、本願発明のハードコートフィルムのさらなる詳細について説明する。
【0042】
[2.ハードコートフィルム]
上記ハードコートフィルムの態様について、より具体的に説明する。
ハードコートフィルム1は、所定形状(例えば、平面視長方形状など)に形成されていてもよい。ハードコートフィルム1の厚みとしては、例えば、20μm〜1000μmであり、好ましくは20μm〜500μmである。
【0043】
[2−1.屈折率の連続的な変化]
上記混在領域における屈折率の連続的な変化は、透明フィルムを形成する成分がハードコート層3の表面3aに向かって減少していることによって実現され得る。本明細書において、ハードコート層の表面とは、透明フィルムに積層されたハードコート層の、ハードコート層と透明フィルムとの境界とは反対側の面を指す。
【0044】
透明フィルム2の固有の屈折率とハードコート層3の固有の屈折率は、異なっていてもよい。透明フィルム2の固有の屈折率は、ハードコート層3の固有の屈折率よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。
【0045】
本明細書において、透明フィルム2の固有の屈折率とは、透明フィルム単独(ハードコート層が設けられていない状態の透明フィルム)に対して測定された屈折率をいう。また、本明細書において、ハードコート層3の固有の屈折率とは、ハードコート層単独の屈折率(ハードコート層を形成する成分が本来有する屈折率)をいう。
以下、透明フィルムを形成する成分(透明フィルム内に含まれるハードコート層を形成する成分を除く)を、「フィルム成分」と、ハードコート層を形成する成分(ハードコート層内に含まれる透明フィルムを形成する成分を除く)を、「ハードコート成分」とそれぞれ略記する場合がある。
【0046】
干渉縞の発生を防止するためには、透明フィルム2とハードコート層3の屈折率の差はゼロであることが理論上望ましい。もっとも、透明フィルム2の屈折率とハードコート層3の屈折率が同じ値となる材料を選択することは現実的には困難である。本発明のハードコートフィルム1は、混在領域31において屈折率が厚み方向に連続的に変化し且つ混在領域31中に界面を有しない構造であることが好ましい。この場合、干渉縞の発生をより確実に抑制できる。屈折率の差がある程度大きい透明フィルム2とハードコート層3を用いることも可能である。具体的には、透明フィルム2とハードコート層3の固有の屈折率の差は、例えば、0〜0.42であり、好ましくは、0.03〜0.26である。両者の固有の屈折率の差は、フィルム成分とハードコート成分との屈折率の差である。
【0047】
本発明において、透明フィルム2とハードコート層3の屈折率の差は、混在領域によって低減されている。上述したように、上記式(1)に規定する屈折率変化傾斜a(μm
−1)が0.003≦a≦0.018を満たすことにより、干渉縞の発生が抑制される。
【0048】
例えば、透明フィルム2の固有の屈折率がハードコート層3の固有の屈折率よりも小さい場合には、上記混在領域における屈折率は、ハードコート層3の表面3a側に向かうに従って徐々に大きくなり得る。つまり、
図1〜4に示す態様の場合、界面5を基準にして、その界面5からハードコート層3の表面3a側に向かうに従って、ハードコート層3の固有の屈折率に徐々に近づくように、屈折率が連続的に変化し得る。一方、透明フィルム2の固有の屈折率がハードコート層3の固有の屈折率よりも大きい場合には、混在領域31における屈折率は、ハードコート層3の表面3a側に向かうに従って徐々に小さくなり得る。
【0049】
混在領域31では、代表的には上記の通り、フィルム成分とハードコート成分が混在している。混在領域31は、フィルム成分のハードコート層3への移行により形成され得る。混在領域31中のフィルム成分は、反射スペクトルの解析による界面を生じることなく、ハードコート層3の表面3aに向かうに従って減少し得る。この混在領域31の存在によって、透明フィルム2とハードコート層3は密着性に優れている。従って、ハードコートフィルム1を長期間使用しても、透明フィルム2とハードコート層3とは剥がれにくい。したがって、このハードコートフィルム1は、耐久性に優れている。また、混在領域31の存在によって、透明フィルム2とハードコート層3の屈折率の差は、低減されている。従って、ハードコートフィルム1は、透明フィルム2とハードコート層3との界面5に起因する干渉縞も抑制されている。
【0050】
混在領域31とハードコート層3の表面3aの間の領域(以下、ハードコート領域とも称する)32は、実質的にハードコート成分からなる。このハードコート層3の表面側にハードコート領域32を有することにより、高硬度のハードコート層3を構成できる。ただし、ハードコート領域32中には、上記フィルム成分が僅かに含まれていることもある。混在領域31とハードコート領域32との間にも上記界面を有しないことが好ましい。すなわち、ハードコート層3において、混在領域31とハードコート領域32とは、界面を生じることなく繋がっていることが好ましい。
【0051】
透明フィルム2中には、ハードコート成分が含まれていてもよいし、又は、ハードコート成分が含まれていなくてもよい。
図2に示す態様のように、透明フィルム2にハードコート成分が含まれている場合、ハードコート成分は、透明フィルム2とハードコート層3との境界から透明フィルム2の厚み方向中途部までの領域に含まれる。その結果、上述したように、混在領域は、第1領域31と第2領域21とを含む。第2領域21は、ハードコート成分の透明フィルム2への移行により形成され得る。
【0052】
図2に示すように、透明フィルム2にハードコート成分が含まれている場合、ハードコート層3とは反対側の第2領域21の端部に界面5が存在していてもよい。なお、透明フィルム2の厚み方向中途部は、透明フィルム2とハードコート層3との境界と透明フィルム2の裏面との間の厚み方向の中央部を意味するわけではないことに留意されたい。また、その他の点でも、ハードコート層3の中途部と同様に考えることができる。
【0053】
第2領域21中のフィルム成分は、反射スペクトルの解析による界面を生じることなく、ハードコート層3の表面3aに向かうに従って徐々に減少していることが好ましい。ただし、第2領域21の厚みは、第1領域31の厚みよりも小さくても良い。
【0054】
図3に示す実施形態においては、移行領域33は、透明フィルム2が膨潤または溶解することで形成され得る。この場合、移行領域33のハードコート層3側(実質的には、混在領域31側)の端部に界面5が認識される場合がある。
【0055】
[2−2.界面の確認方法]
ハードコートフィルムについて、界面の存在を確認する方法としては、例えば、下記測定方法に従って反射スペクトルを測定することが挙げられる。具体的には、各ハードコートフィルムの透明フィルムの裏面に、黒色アクリル板(三菱レイヨン(株)製。厚み2.0mm)を、厚み約20μmの透明なアクリル系粘着剤を介して貼り合わせる。このハードコートフィルムのハードコート層の表面の反射スペクトルを、下記の条件下で、瞬間マルチ測光システム(大塚電子(株)製、製品名「MCPD3700」)を用いて測定する。
【0056】
(測定条件)
リファレンス:AL
アルゴリズム:FFT法
計算波長:450nm〜950nm
(検出器条件)
露光時間:20ms
ランプゲイン:ノーマル
積算回数:1回
(FFT法)
検出膜厚値の範囲:0.5μm〜12.0μm
データ個数:212
膜厚分解能:24nm
ベル関数:有り
【0057】
反射スペクトルの測定結果において、強度のピークが出た部分に界面が存在していると考える。具体的には、ピークの強度の値が5以上である場合に、界面が存在しているものとする。また、ピークの強度の値は30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。上記範囲内であると、干渉縞の発生がより確実に抑制される。
【0058】
[3.ハードコート層]
ハードコート層は、鉛筆硬度試験でH以上の硬度を有する層であることが好ましい。硬度は、JIS K 5400の鉛筆硬度試験に準じて測定された値であることが好ましい。
【0059】
ハードコート層の厚みは、通常1μm〜30μmであり、好ましくは2μm〜20μmであり、より好ましくは3μm〜15μmである。また、硬度2H以上のハードコート層において、上記厚みを3μm〜15μmとすることが特に好ましい。この場合、本発明の構造を採用することによって、干渉縞の抑制効果が一層顕在化し得る。
【0060】
ハードコート層は、例えば、溶媒と硬化型化合物とを含むハードコート層形成材料を上記透明フィルム上に塗工し且つ硬化させることによって得られた薄い膜から形成される。好ましくは、上記溶媒は、透明フィルムに対する良溶媒を含み、上記硬化型化合物は、分子量800以下の化合物を含む。本明細書において、良溶媒とは、透明フィルムを溶解する機能を有する溶媒をいい、貧溶媒とは、透明フィルムを溶解する機能を有さない溶媒をいう。本明細書において、硬化型化合物のうちで分子量800以下の化合物を、「分子量800以下の低分子量成分」、又は、単に「低分子量成分」と記す。
【0061】
上記良溶媒としては、硬化型化合物及び透明フィルムを溶解することができる溶媒が好ましく用いられる。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタノン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を併用できる。
【0062】
例えば、透明フィルムがトリアセチルセルロースフィルムである場合、それに対する良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、酢酸エチル、酢酸メチルなどが挙げられる。透明フィルムがトリアセチルセルロースフィルムである場合、それに対する貧溶媒としては、イソプロピルアルコール、ブタノール、エタノールなどのアルコール類、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。例えば、透明フィルムがアクリル系フィルムである場合、それに対する良溶媒としては、シクロペンタノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、ジアセトンアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。透明フィルムがアクリル系フィルムである場合、それに対する貧溶媒としては、イソプロピルアルコール、ブタノール、エタノールなどのアルコール類、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。好ましくは、溶媒として、良溶媒単独、又は、良溶媒と貧溶媒を混合した混合溶媒が用いられる。良溶媒と貧溶媒は、透明フィルムの材質に応じて適宜選択できる。
【0063】
ハードコート層形成材料を透明フィルム上に塗工したときに、溶媒が透明フィルム内に浸透していく一方で、溶媒の浸透によってフィルム成分(例えば、トリアセチルセルロースなどの透明フィルムを形成するポリマーなど)が溶出し且つ拡散していく。これによって、フィルム成分とハードコート成分(硬化型化合物など)が混在した混在領域が生じる。ハードコート成分の硬化に伴い、混在領域において、フィルム成分が、透明フィルムから離れる方向に減少した領域を生じることが好ましい。また、界面が形成されていてもよい。界面は、反射スペクトルの解析によって検出可能であってもよい。混在領域はハードコート層表面と反対側の端部に界面を有していてもよい。混在領域は2以上の界面を有さないことが好ましい。なお、浸透と拡散は、溶媒の蒸発速度も関係すると思われる。
【0064】
特に、良溶媒を含む溶媒は、透明フィルムに浸透し、それを膨潤させてフィルム成分を生じさせ易い。また、低分子量成分を含む硬化型化合物は、その低分子量成分がフィルム成分中に混じり易いと共に、フィルム成分が拡散し易い。このため、良溶媒を含む溶媒と低分子量成分を含む硬化型化合物とを含むハードコート層形成材料を用いると、フィルム成分とハードコート成分とが界面を形成しつつ透明フィルムとハードコート層との屈折率差を低減し且つその界面以外の界面を生じさせないで、フィルム成分がハードコート層の表面に向かって減少していく。かかるハードコートフィルムは、干渉縞の発生を一層確実に抑制する。
【0065】
上記溶媒は、ハードコート層形成材料を透明フィルムに塗工したときに、溶媒が透明フィルム内に浸透していく浸透速度、及び、フィルム成分がハードコート層形成材料中に拡散していく拡散速度、並びに溶媒の乾燥条件を考慮して適宜選択し得る。例えば、浸透速度は、フィルム成分(例えば、トリアセチルセルロースなどの透明フィルムを形成するポリマーなど)に対する良溶媒(及び貧溶媒)の量などに影響を受ける。拡散速度は、ハードコート層形成材料中の硬化型化合物の分子量、透明フィルム中の成分の分子量及び透明フィルム中の可塑剤の量などに影響を受ける。
【0066】
上記硬化型化合物は、十分な強度及び透明性を有する膜を形成できるものであれば良い。硬化型化合物としては、例えば、熱により硬化する樹脂モノマー又はオリゴマー、電離放射線により硬化する樹脂モノマー又はオリゴマーなどが挙げられる。電離放射線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーを用いることができる。この場合、加工性の良さ及び透明フィルムに熱損傷を与え難いなどの有利な効果を奏する。
【0067】
熱により硬化する樹脂モノマー又はオリゴマーとしては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレンなどのモノマー、およびオリゴマーが挙げられる。熱により硬化する樹脂には、熱によって溶媒を揮発させることにより硬化する樹脂も含まれる。
【0068】
上記電離放射線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーとしては、通常、紫外線又は電子線で硬化する硬化型化合物が挙げられる。電離放射線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーとしては、分子中に(メタ)アクリレート基(「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又は/及びメタクリレートを意味する)、(メタ)アクリロイルオキシ基等の重合性不飽和結合基又はエポキシ基等を有するモノマー又はオリゴマーが挙げられる。なお、オリゴマーは、プレポリマーを含む。
【0069】
上記オリゴマーの具体例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のアクリレート、シロキサン等の珪素樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシなどが挙げられる。上記モノマーの具体例としては、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、分子中に2個以上のチオール基を有するポリオール化合物などが挙げられる。ハードコート層を形成する硬化型化合物の分子量としては、例えば、200〜10000の範囲内などが挙げられる。
【0070】
電離放射線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーには、通常、光重合開始剤が添加される。光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、N,N,N’,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、その他のチオキサント系化合物などが挙げられる。
【0071】
また、上記ハードコート層を形成するための組成物には、レベリング剤が含まれていてもよい。レベリング剤としては、例えば、フッ素系又はシリコーン系などのレベリング剤などが挙げられる。
【0072】
上記レベリング剤量は、例えば、上記ハードコート層形成材料の固形分100部に対して、0.05部以下であり、0.02部以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、上記表面自由エネルギーをより達成しやすくなる。
【0073】
また、上記ハードコート層を形成するための組成物には、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、微粒子、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤などが挙げられる。
【0074】
[4.透明フィルム]
透明フィルムは、少なくとも可視光の光線透過率に優れ、透明性に優れるものであれば良い。透明フィルムの可視光に於ける光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。ただし、光線透過率は、フィルム厚100μmで、分光光度計(日立製作所製、製品名「U−4100型」)で測定されたスペクトルデータを基に視感度補正を行ったY値をいう。透明フィルムのヘイズ値は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。ただし、ヘイズ値は、JIS−K7105に準じて測定された値をいう。
【0075】
上記透明フィルムとしては、透明ポリマーを製膜したプラスチックフィルムなどが挙げられる。透明ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のエステル系ポリマー;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー;カーボネート系ポリマー;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、芳香族環を有するアクリル樹脂、ラクトン変性アクリル樹脂などのアクリル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状構造又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル系ポリマー;芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー;イミド系ポリマー;スルホン系ポリマー;ポリエーテルスルホン系ポリマー;ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー;ポリフェニレンスルフィド系ポリマー;ビニルアルコール系ポリマー;塩化ビニリデン系ポリマー;ビニルブチラール系ポリマー;アリレート系ポリマー;ポリオキシメチレン系ポリマー;エポキシ系ポリマー;これらを混合したブレンドポリマー;などが挙げられる。好ましくは、透明フィルムとして、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマーを含む形成材料を製膜したフィルム、又は、アクリル系樹脂フィルムが用いられ、より好ましくは、セルロース系ポリマーフィルムが用いられる。
【0076】
透明フィルムの厚みは、適宜に設定される。透明フィルムの厚みは、通常、10μm〜500μm程度であり、好ましくは20μm〜300μmであり、より好ましくは25μm〜200μmである。この範囲内であると、強度、取り扱い性などの作業性、薄層性などの点で有利である。透明フィルムの固有の屈折率は、通常、1.33〜1.66、好ましくは1.47〜1.55である。透明フィルムは、その用途に応じて適宜な位相差値を有するフィルムが用いられ得る。
【0077】
本発明のハードコートフィルムは、後述するように、偏光板などの光学フィルムに積層接着することにより、ハードコート積層体の態様で使用してもよい。上記透明フィルムとして、例えば、偏光子を用いることにより、偏光子に直接ハードコート層が設けられたハードコート偏光板(偏光機能を有するハードコートフィルム)を構成できる。同様に、上記透明フィルムとして、例えば、位相差板を用いることにより、位相差板に直接ハードコート層が設けられたハードコート位相差板(光学補償機能を有するハードコートフィルム)を構成できる。また、上記透明フィルムとして、例えば、保護フィルムを用いることにより、保護フィルムに直接ハードコート層が設けられたハードコート保護フィルム(保護フィルムを兼用するハードコートフィルム)を構成できる。かかるハードコート保護フィルムは、偏光子の片面又は両面に積層することにより、ハードコート偏光板を構成することができる。この場合、ハードコート保護フィルムに使用する透明フィルムとしては、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、環状構造又はノルボルネン構造を有するオレフィン系ポリマーなどを主成分とするフィルムを用いることが好ましい。
【0078】
[5.層間充填剤]
層間充填剤としては、公知のものが適宜用いられる。層間充填剤は、活性エネルギー線硬化性樹脂であることが好ましい。上記活性エネルギー線硬化性樹脂は、例えば、紫外線、電子線等により硬化可能な樹脂であり、具体的には、例えば、アクリル系樹脂(アクリレート、ウレタンアクリレート)、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、キシレン系樹脂等があげられる。キシレン系樹脂は、例えば、アルキルフェノール変性タイプ、レゾール、ポリオール等の親水性のもの、または疎水性のもの等が挙げられる。なお、上記層間充填剤は、活性エネルギー線硬化性樹脂に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂でもよい。
【0079】
[6.前面板]
上記前面板としては、従来公知のものが使用できる。前面板の材質、厚み等は、例えば、画像表示装置等の用途等に応じて適宜選択できる。
【0080】
[7.ハードコートフィルムの製造方法]
本発明のハードコートフィルムは、例えば、溶媒と硬化型化合物とを含むハードコート層形成材料を、透明フィルム上に塗工し、ハードコート層形成材料を硬化させることによって得られたものであって良い。以下、ハードコートフィルムの製造方法の好ましい態様について述べる。
【0081】
(塗膜形成工程)
透明フィルムは、上記に例示したものを適宜用いることができる。好ましくは、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー製の透明フィルムが用いられる。ハードコート層形成材料は、上記に例示した溶媒及び硬化型化合物を、適宜混合することにより調製できる。
【0082】
溶媒は、透明フィルムに対する良溶媒を含んでいてもよく、透明フィルムに対する良溶媒と貧溶媒の双方を含み得る。溶媒が良溶媒と貧溶媒を含む場合、その混合比としては、好ましくは、良溶媒:貧溶媒の含有比(質量比)が、1:9〜99:1である。硬化型化合物は、分子量800以下の低分子量成分を含み得る。硬化型化合物が分子量800以下の低分子量成分以外の成分を含む場合には、その成分は、通常、分子量800を超える化合物(高分子量成分)である。例えば、シクロペンタノンを含む溶媒と、アクリレート基及びメタクリレート基の少なくとも何れか一方の基を有する低分子量成分を含む硬化型化合物と、を含むハードコート層形成材料が用いられる。
【0083】
上記ハードコート層形成材料に含まれる低分子量成分及び良溶媒は、塗膜の厚みを加味して、下記式(3)及び式(4)の関係を満たすことが好ましい。
式(3);Y≧−4.274ln(X)+11.311
式(4);Y≦−4.949ln(X)+15.474
【0084】
Yは、b×tを表し、Xは、a×tを表す。aは、上記硬化型化合物の全量(質量換算)を1とした場合の上記低分子量成分の含有比を表す。つまり、a=ハードコート層形成材料中の低分子量成分の質量/ハードコート層形成材料中の硬化型化合物の質量、である。bは、上記ハードコート層形成材料の全量(質量換算)を1とした場合の上記良溶媒の含有比を表す。つまり、b=ハードコート層形成材料中の良溶媒の質量/ハードコート層形成材料の質量、である。tは、上記塗膜の厚み(単位μm)を表す。式(3)及び式(4)の「ln」は、自然対数を表す。
【0085】
式(3)及び(4)を両方満たすハードコート層形成材料を用いてハードコート層を形成することにより、ハードコート層と透明フィルムとの境界又はその近傍からハードコート層の厚み方向中途部にわたって、屈折率が厚み方向に連続的に変化するハードコートフィルムを得ることができる。これは、良溶媒を含む溶媒と低分子量成分を含む硬化型化合物の、透明フィルムに対する浸透作用及び拡散作用に起因すると推定される。良溶媒の量及び低分子量成分の量がハードコートフィルムの干渉縞の発生に大きな影響を与える可能性があるという推察の下、式(3)及び式(4)の関係を満たすハードコート層形成材料を用いることが見出された。かかるハードコート層形成材料を用いて、透明フィルムとハードコート層との境界又はその近傍の界面に起因する干渉縞の発生だけでなく、ハードコート層内に内在するフィルム成分に起因する干渉縞の発生までも抑制されたハードコートフィルムを得ることができる。
【0086】
a(低分子量成分の含有比)は、0.3を超え1以下であることが好ましく、0.4以上1未満であることがより好ましい。b(良溶媒の含有比)は、0.05以上0.5以下であることが好ましく、0.05以上0.4以下がより好ましい。
【0087】
上記ハードコート層形成材料中の固形分(硬化型化合物及び添加剤)の割合は、好ましくは20質量%〜70質量%であり、より好ましくは30質量%〜60質量%であり、特に好ましくは35質量%〜55質量%である。溶媒の含有量が余りに少ないと、透明フィルムの溶解が不十分となり、一方、溶媒の含有量が余りに多いと、透明フィルムに溶媒が浸透し過ぎて透明フィルムが曇ったり、或いは、2つ以上の界面を生じたりするおそれがある。
【0088】
上記ハードコート層形成材料の粘度(25℃)は、好ましくは1〜700MPa・sであり、より好ましくは2〜500MPa・sである。ハードコート層形成材料は、コンマコーター、ダイコーター等のコーターを用いて透明フィルム上に塗工できる。また、ハードコート層形成材料は、キャスティングやスピンコートなどの方式によって透明フィルム上に塗工することもできる。透明フィルムが長尺状である場合には、コーターを用いてハードコート層形成材料を塗工し得る。ロールに巻かれた長尺状の透明フィルムを引き出し、それを製造ラインの長手方向に送りながら、その途中でハードコート層形成材料を透明フィルムに塗工してハードコート層を形成してもよい。ハードコート層が形成された透明フィルムは、再度ロールに巻き取られる。このようなロールからロールに巻き取る方式であれば、ハードコート層を透明フィルムに連続的に形成でき、生産性に優れている。
【0089】
ハードコート層形成材料を透明フィルム上に塗工することによって、透明フィルム上に塗膜を形成できる。塗膜の厚みは、形成されるハードコート層の厚みを考慮して適宜設定される。塗膜の厚みは、形成されるハードコート層の厚みよりも大きくても良く、例えば、1μm〜100μmであり、好ましくは4μm〜40μmである。例えば、長尺状の透明フィルムにコーターを用いてハードコート層形成材料を塗工する場合、上記塗膜の厚みは、ハードコート層形成材料の吐出量及び上記透明フィルムの送り速度により調整される。
【0090】
(硬化工程)
ハードコート層形成材料を塗工した後、塗膜を硬化させる前に(低分子量成分を含む硬化型化合物を重合させる前に)、塗膜を乾燥する(すなわち、溶媒を揮発させる)ことが好ましい。この場合、塗膜を乾燥している間に、溶媒を透明フィルム中に浸透させることができる。乾燥温度としては、例えば、30℃〜100℃が挙げられる。乾燥時間は、透明フィルム及び溶媒の種類、塗膜の厚みなどに応じて適宜設定される。乾燥時間は、通常、30秒〜5分である。
【0091】
乾燥後、塗膜を硬化させる。硬化型化合物が電離放射線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーの場合には、その種類に応じたエネルギー線を塗膜に照射することにより、塗膜が硬化する。エネルギー線を照射する装置としては、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、窒素レーザー、電子線加速装置、放射性元素の線源などが挙げられる。エネルギー線の照射量は、硬化型化合物及び光重合開始剤の種類などに応じて適宜設定される。例えば、紫外線波長365nmでの積算光量で、50〜5,000mJ/cm
2程度が挙げられる。
【0092】
上述のように、ハードコート層形成材料を透明フィルム上に塗工すると、良溶媒が透明フィルムを膨潤させることにより、低分子量成分を透明フィルム中に浸透させ且つフィルム成分を塗膜中に拡散させることができる。これにより、低分子量成分とフィルム成分が混在する混在領域を透明フィルムとハードコート層との境界近傍に生じさせ、その混在領域の厚み方向中途部に界面を生じることなく、フィルム成分を塗膜の表面に向かって減少させることができる。この塗膜を硬化させると、ハードコート層内に界面をもたないハードコートフィルムが得られる。
【0093】
(層間充填剤形成工程)
層間充填剤形成工程は、ハードコート層の表面に、層間充填剤を形成する工程である。層間充填剤の形成材料としては、上記例示したものを用いることができる。層間充填剤の形成材料をハードコート層の表面に塗工し、その材料を乾燥又は硬化させることにより、透明フィルムとハードコート層と層間充填剤とがこの順で積層されたハードコートフィルムが得られ得る。
【0094】
(前面板貼合工程)
前面板貼合工程は、層間充填剤の表面に、前面板を貼合する工程である。前面板の形成材料としては、上記例示したものを用いることができる。例えば、層間充填剤形成工程において、層間充填剤の形成材料をハードコート層の表面に塗工した後に、前面板の形成材料を層間充填剤の形成材料の表面に貼りつけ、その層間充填剤の形成材料を乾燥又は硬化させることにより、透明フィルムとハードコート層と層間充填剤と前面板とがこの順で積層されたハードコートフィルムが得られ得る。
【0095】
[8.ハードコートフィルムの用途]
ハードコートフィルムは、擦傷を防止したい部分に設けるための部材として使用できる。代表的には、ハードコートフィルムは、液晶表示装置などの画像表示装置の画面の保護部材、タッチパネルの表面保護部材、計器類のカバー部材、光学レンズ等として使用できる。ハードコートフィルムを画像表示装置に使用する場合、ハードコートフィルムは、それ単独で画像表示装置の画面に貼付されるか、或いは、画面に組み込まれた光学フィルムに貼付される。また、ハードコートフィルムは、各種光学フィルムに積層することにより、ハードコート積層体の態様で画像表示装置に組み込まれる。本発明のハードコートフィルムは、特に液晶表示装置などのディスプレイの前面に用いられるクリアハードコートフィルムとして有用である。
【0096】
ハードコートフィルムを積層する光学フィルムとしては、偏光子、位相差板、輝度向上フィルム及びこれらの積層体;偏光子に保護フィルムが積層された偏光板;偏光子に保護フィルム及び位相差板が積層された楕円偏光板などが挙げられる。偏光板の偏光子としては、例えば、二色性色素で染色された親水性ポリマーフィルムが挙げられる。上記ハードコートフィルムと光学フィルムは、通常、公知の粘着剤又は接着剤を介して接着される。上記粘着剤又は接着剤としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、エステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、ゴム系ポリマーなどをベースポリマーとする粘着剤又は接着剤が挙げられる。
【0097】
本発明のハードコートフィルムを組み込んだ画像表示装置としては、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELディスプレイ(ELD)、ブラウン管テレビなどが挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、「重量部」及び「重量%」を意味する。
【0099】
[実施例1]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーが酢酸ブチルに溶解された樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17−806」。固形分濃度80%)に、その溶液中の固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.01部添加した。上記溶液中の固形分濃度が36%となるように、上記配合液にシクロペンタノン(以下、「CPN」と記す)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、「PGM」と記す)を45:55の比率で加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが7.8μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0100】
[実施例2]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーが酢酸ブチルに溶解された樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17−806」。固形分濃度80%)に、その溶液中の固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.02部添加した。上記溶液中の固形分濃度が36%となるように、上記配合液にCPNとPGMを45:55の比率で加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが7.5μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0101】
[実施例3]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーが酢酸ブチルに溶解された樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17−806」。固形分濃度80%)に、その溶液中の固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.01部添加した。上記溶液中の固形分濃度が36%となるように、上記配合液にCPNとPGMを45:55の比率で加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが5.2μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0102】
[比較例1]
ペンタエリスリトールとアクリル酸の反応生成物である大阪有機化学工業(株)製、商品名「ビスコート#300」に、固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.01部添加した。上記溶液中の固形分濃度が50%となるように、上記配合液に酢酸エチルセロソルブを加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが7.2μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0103】
[比較例2]
ペンタエリスリトールとアクリル酸の反応生成物(大阪有機化学工業(株)製、商品名「ビスコート#300」)に、固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.01部添加した。上記溶液中の固形分濃度が50%となるように、上記配合液にシクロヘキサンを加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが6.2μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0104】
[比較例3]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーが酢酸ブチルに溶解された樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17−806」。固形分濃度80%)に、その溶液中の固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.05部添加した。上記溶液中の固形分濃度が50%となるように、上記溶液に酢酸ブチル:CPN:PGM=12:80:8の比率で加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、富士フイルム(株)製、商品名「フジタックTD60UL」、厚さ:60μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが6.5μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0105】
[比較例4]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーが酢酸ブチルに溶解された樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17−806」。固形分濃度80%)に、その溶液中の固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.03部添加した。上記溶液中の固形分濃度が50%となるように、上記溶液に酢酸ブチル:CPN:PGM=12:80:8の比率で加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、富士フイルム(株)製、商品名「フジタックTD60UL」、厚さ:60μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが6.5μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0106】
[比較例5]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーが酢酸ブチルに溶解された樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17−806」。固形分濃度80%)に、その溶液中の固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.03部添加した。上記溶液中の固形分濃度が50%となるように、上記溶液に酢酸ブチル:CPN:PGM=12:80:8の比率で加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、富士フイルム(株)製、商品名「フジタックTD60UL」、厚さ:60μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが5.7μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0107】
[比較例6]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマー又はオリゴマーが酢酸ブチルに溶解された樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17−806」。固形分濃度80%)に、その溶液中の固形分100部当たり、光重合開始剤(BASF(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.01部添加した。上記溶液中の固形分濃度が36%となるように、上記配合液にCPNとPGMを45:55の比率で加えた。このようにしてハードコート層形成材料を作製した。上記ハードコート層形成材料を、透明プラスチックフィルム基材(セルローストリアセテートフィルム、コニカミノルタアドバンストレイヤー(株)製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm、屈折率:1.48)上に塗工することにより、硬化後のハードコートの厚みが4.0μmになるように塗膜を形成した。次いで、90℃で1分間乾燥し、その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm
2の紫外線を照射し、上記塗膜を硬化処理した。
【0108】
以上の実施例、比較例で作製したサンプルフィルムそれぞれについて、以下の試験を行った。
【0109】
[ハードコート層の表面自由エネルギーの評価]
ハードコート層の表面自由エネルギーは、液滴法により測定した。
【0110】
[層間充填剤はじき性による層間充填剤対応の評価]
作製したサンプルフィルムの支持体側に粘着剤を転写形成し、5×5cmのアクリル板上に貼り付けたものを作製した。フィルム上に、下記に示す各無溶剤樹脂を滴下し、スピンコーター(1500rpm、15sec)を用いて全面均一に塗布した。30分間静置後、サンプルの4辺の任意の場所からのハジキ量(各辺部から各樹脂が最もはじかれている部分までの距離)をノギスで各辺部ごとに測定し、その4点の平均ハジキ幅を各樹脂の測定値とした。各樹脂の測定値のうち、最も平均ハジキ幅が高かった測定値を、層間充填剤はじき性の評価値とした。なお、下記の無溶剤樹脂の表面自由エネルギーは、ペンダントドロップ法により測定した。
紫外線硬化型接着剤A
(表面自由エネルギー40.7mN/m)
紫外線硬化型接着剤B
(表面自由エネルギー45.2mN/m)
紫外線硬化型接着剤C
(表面自由エネルギー42.3mN/m)
【0111】
上記層間充填剤はじき性の評価値に応じて、作製したサンプルフィルムの層間充填剤対応の可否を以下の基準により評価した。
○:測定値が10mm未満であった。
△:測定値が10mm以上20mm未満であった。
×:測定値が20mm以上であった。
【0112】
[屈折率変化傾斜aの評価]
作製したサンプルフィルムそれぞれについて、透明フィルムとハードコート層との界面から、上記ハードコート層の厚み方向全域において、プリズムカプラ(商品名「プリズムカプラSPA−4000」、Sairon Technology社製)を用いて測定することで上記ハードコート層の屈折率を測定し、屈折率変化傾斜aを評価した。
【0113】
プリズムカプラによる測定条件は以下の通りである。
光源:532.0nm
モード:TE
Angle:−5.00〜2.00
解析モード:Index Profile
【0114】
プリズムカプラによる測定データを
図5に示す。
【0115】
[干渉ムラの有無の評価]
作製したサンプルフィルムそれぞれの透明フィルムの裏面に、黒色アクリル板(三菱レイヨン(株)製。厚み2.0mm)を、厚み約20μmの透明なアクリル系粘着剤を介して貼り合わせた。暗室中において、三波長光源を用いて、このハードコートフィルムの表面の干渉縞を目視により観察した。干渉縞の観察の結果は、下記の基準に従って区別した。
○:干渉縞が視認されなかった。
△:僅かに干渉縞が視認された。
×:明確に干渉縞が視認された。
【0116】
[屈折率変化傾斜aの測定]
[屈折率変化傾斜aの評価]の場合と同様に上記ハードコート層の屈折率を厚み方向に連続的に測定し、上記ハードコート層表面における屈折率n
A、上記透明フィルムの上記界面に接する部分の屈折率n
Bを測定し、屈折率変化傾斜aを算出した。
【0117】
[白モヤの有無の評価]
各実施例及び各比較例のハードコートフィルムの透明フィルムの裏面に、黒色アクリル板(三菱レイヨン(株)製。厚み2.0mm)を、厚み約20μmの透明なアクリル系粘着剤を介して貼り合わせた。暗室中において、三波長光源を用いて、このハードコートフィルムの表面外観を目視により観察した。白モヤの観察結果は、下記の基準に従って区別した。
○:白モヤが視認されない。
×:白モヤが視認される。
【0118】
[耐擦傷性の評価]
ハードコート層の耐擦傷性は、以下の試験内容にて評価した。
(1)ハードコートフィルムの表面から150mm×50mmのサンプルを切り出し、ハードコート層が形成されていない面を下にして、ガラス板に載せた。
(2)直径11mmの円柱の平滑な断面に、スチールウール#0000を均一に取り付け、荷重1.5kgにて上記サンプル表面を、毎秒約100mmの速度で10往復した後に、サンプル表面に入った傷の本数を目視により数え、以下の指標により判定した。
○:傷の本数が、4本以下
×:傷の本数が、5本以上
【0119】
【表1】