(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6609110
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】繊維材質支持体を用いたウイルス培養法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20191111BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20191111BHJP
A61K 39/29 20060101ALI20191111BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20191111BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
C12N7/00
C12N5/071
A61K39/29
A61K35/76
A61P31/14
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-92068(P2015-92068)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-202147(P2016-202147A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年10月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第18回日本ワクチン学会学術集会抄録集(平成26年11月13日発行)第195頁に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第18回日本ワクチン学会学術集会(平成26年12月7日開催)講演番号2−4−07で発表
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 優二
【審査官】
戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−279843(JP,A)
【文献】
Biologicals,2007年,vol.35, no.4,pp.221-226
【文献】
FIBRASTAGETM DISPOSABLE, HIGH-YIELD CELL CULTURE SYSTEM,2007年,pp.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00−7/08
C12N 5/00−5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染させた接着性細胞を繊維材質の支持体に接着させ、該支持体を培養容器内に充填して細胞培養を行うことを含み、その際、培地の排出と添加を制御しながら培養開始後20日目における該接着性細胞の接着率を90%以上に維持することを特徴とするウイルスの培養方法であって、ウイルス感染させた接着性細胞を繊維材質の支持体に接着させることが下記工程(a)〜(b)を含み、培地の排出と添加を制御することが下記工程(c)を含む方法;
(a)繊維材質の支持体を充填した培養容器に、ウイルス感染細胞を含む培地を投入した後、培養容器容量の1割分の培地を出し入れすることで当該細胞を支持体に接着させる工程;
(b)培地のほぼ全量を複数回出し入れすることにより接着を確実なものとする工程;
(c)古い培地の排出と新しい培地の投入を繰り返すことにより、培地を新鮮なものと交換しながら培養を行う工程。
【請求項2】
該繊維材質がポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該支持体がシングルユース品である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該ウイルスがピコルナウイルス科のウイルスである請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
該ピコルナウイルス科のウイルスがA型肝炎ウイルスである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該接着性細胞が、アフリカミドリザル腎臓由来細胞である請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該アフリカミドリザル腎臓由来細胞が、GL37細胞である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の方法によってウイルスを培養し、得られたウイルスを用いることを特徴とする免疫原性組成物の作製方法。
【請求項9】
請求項5から7のいずれかに記載の方法によってA型肝炎ウイルスを培養し、得られたA型肝炎ウイルスを用いることを特徴とするA型肝炎ワクチンの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染させた接着性細胞を、支持体から剥離することなく長期間にわたって培養維持することにより当該細胞内のウイルスを増殖する方法、すなわち接着性細胞感受性のウイルス培養方法、特にA型肝炎ウイルスの培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
A型肝炎ウイルスは、直径27nmの正20面体のピコルナウイルス科のRNAウイルスである。遺伝子型は7種類あり、世界の各地域に流行型に差が存在するが、血清型は1種類であるため、遺伝子型による免疫抗原性に違いは見られない。
【0003】
A型肝炎ウイルスは、培養細胞において増殖性があるが、その速度は遅く、2〜3週間かけてゆっくり増殖する。一般的に細胞変性効果(Cytopathic effect)を示さず、細胞内に貯留する。
【0004】
A型肝炎ウイルスが人に感染した場合は、2〜6週間の潜伏期間を経て、発熱、倦怠感などに続いて血清トランスアミラーゼが上昇する。また、食欲不振、嘔吐などの症状の他、黄疸、肝腫大、濃色尿、灰白色便などの症例が見られる。一般的には慢性化することはなく、1〜2ヶ月経過後に回復するが、まれに劇症肝炎を発症する場合もある。
【0005】
近年、海外渡航者の増加により、A型肝炎ウイルスへの感染リスクが増加しており、A型肝炎ワクチンの需要が増している。一方で需要増に十分に応え得る供給が難しくなっているため、生産方法の見直しによる量産化への取り組みが求められている。
【0006】
現行のA型肝炎ワクチンの生産方法は次の通りである。(特許文献1)
[1] ワクチン製造用のA型肝炎ウイルスを、アフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞であるGL37細胞に接種して感染させる;
[2] 3週間のローラーボトル培養を行うことによって、感染したA型肝炎ウイルスをGL37細胞内で増殖させる;
[3] 培養終了後、細胞を界面活性剤により溶解してA型肝炎ウイルスを回収し、細胞溶解液を得る;
[4] 細胞溶解液をろ過にて清澄化し、塩析及び遠心で濃縮後、クロロホルム、酵素及び有機溶媒で処理し、精製ウイルス液とする;
[5] 精製ウイルス液をホルマリンで不活化し、ワクチン原液とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平1―279843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現行のA型肝炎ワクチン生産方法におけるローラーボトル培養は生産性が低く、大量生産には適していないことから、ビーズなどのマイクロキャリアーを支持体として利用した浮遊培養による生産方法が検討されてきた。しかしながら、マイクロキャリアーにGL37細胞を接着させて浮遊培養を行うと、3週間の培養期間に細胞が耐えきれず、マイクロキャリアーから剥離してしまうため、生産性向上の課題が解決できないでいた。
【0009】
したがって、本発明はウイルス感染させた接着性細胞を、支持体から剥離することなく20日間以上の長期間にわたって培養維持することにより当該細胞内のウイルスを増殖する方法、すなわち接着性細胞感受性のウイルス培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の目的を達成するために検討を重ねた結果、ウイルス感染させた接着性細胞を繊維材質の支持体に接着させ、該支持体を培養容器内に充填して行う細胞培養において、培地の排出と添加を制御することで、当該細胞の接着率を90%以上に維持したまま培養できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
したがって、本発明は接着性細胞に感染させたウイルス培養法を提供するものであり、具体的には以下の発明が含まれる。
[1] ウイルス感染させた接着性細胞を繊維材質の支持体に接着させ、該支持体を培養容器内に充填して細胞培養を行うことを含み、その際、培地の排出と添加を制御しながら該接着性細胞の接着率を90%以上に維持することを特徴とする、ウイルスの培養方法;
[2] 培養開始後20日目における該接着性細胞の接着率が90%以上である上記[1]に記載の方法;
[3] 該繊維材質がポリエチレンテレフタレートである上記[1]または[2]に記載の方法;
[4] 該支持体がシングルユース品である上記[1]から[3]のいずれかに記載の方法;
[5] 該ウイルスがピコルナウイルス科のウイルスである上記[1]から[4]のいずれかに記載の方法;
[6] 該ピコルナウイルス科のウイルスがA型肝炎ウイルスである上記[5]に記載の方法;
[7] 該接着性細胞が、アフリカミドリザル腎臓由来細胞である上記[1]から[6]のいずれかに記載の方法;
[8] 該アフリカミドリザル腎臓由来細胞が、GL37細胞である上記[7]に記載の方法;
[9] 上記[1]から[8]のいずれかに記載の方法によって培養したウイルスを用いて作製した免疫原性組成物;
[10] 上記[6]から[8]のいずれかに記載の方法によって培養したA型肝炎ウイルスを用いて作製したA型肝炎ワクチン。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法は、ローラーボトル培養の10倍以上の細胞密度で三次元的に培養を行う高密度培養法であり、接着性細胞に感染させたウイルス培養のために必要な長期間の細胞培養維持が可能となる。これにより、ウイルス培養の生産性が向上し、当該ウイルスを用いたワクチン生産の量産化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】ウイルス感染細胞を繊維材質支持体に確実に接着させるための工程、すなわち、培養容器の培地の出し入れ(培養容器容量の1割分の培地の出し入れ)を示した図である。
【
図1B】ウイルス感染細胞を繊維材質支持体に確実に接着させるための工程、すなわち、培養容器の培地の出し入れ(培地のほぼ全量を出し入れ)を示した図である。
【
図2】500mLスケールでA型肝炎ウイルスを35日間培養した際の細胞数を示した図である。2種類の培地(MEM及びVP−SFM)を用いた結果を示している。
【
図3】2LスケールでA型肝炎ウイルスを大量培養した際の細胞数と抗原量を示した図である。VP−SFM培地を用いた結果を示している。
【
図4】繊維材質支持体を用いた培養とマイクロキャリアーを支持体として用いた浮遊培養の細胞数を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、接着性細胞に感染するウイルスについて用いられる。具体的にはA型肝炎ウイルス感受性細胞にA型肝炎ウイルスを接種し、当該細胞を培養する工程からなるA型肝炎ウイルスの培養方法によって特徴付けられる。
【0015】
細胞培養にあたっては、繊維材質の支持体を充填した培養容器に、ウイルス感染細胞を含む培地を投入した後、培養容器容量の1割分の培地を出し入れすることで当該細胞を支持体に接着させる(
図1A)。この培養容器容量の1割分の培地を出し入れする培養は、一昼夜ほど行えば良い。さらに培地のほぼ全量を複数回出し入れすることにより接着を確実なものとする(
図1B)。培養期間中は、培地を新鮮なものと交換しながら培養を行うことで、当該細胞が気相と液相の両環境下に置かれ、ガス交換と育成成分の取得が効率的に行われるよう制御する。これにより、当該細胞が長期間にわたって培養維持され、ウイルスを培養することができる。
【0016】
上記、培地を新鮮なものと交換するための方法は、古い培地の排出と新しい培地の投入を繰り返すことにより行う。培養期間中は、温度調節可能な装置内に培養容器を入れ、一定温度下にて培養を行う。
【0017】
本発明に用いる接着性細胞としては、アフリカミドリザル腎細胞由来の株化細胞であるVero細胞やGL37細胞などが挙げられる。
【0018】
培地は、通常細胞培養に用いられる培地、例えば、MEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、特注品)、イーグルMEM(日水製薬)、ダルベッコ変法MEM(日水製薬)、VP−SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)等が挙げられるが、いずれを使用しても良い。ウイルス培養時には、ウシ胎児血清を添加した培地を用いることもできる。
【0019】
支持体は繊維材質であれば特に限定されないが、好適な材質はポリプロピレンであり、より好適な材質はポリエチレンテレフタレートである。支持体の形状は、特に限定されないが、円形のものや矩形のもの、さらには機能性を高めるために独特の幾何学的形状としたものも用いられる。通常、一片10mm程度の小さくて軽いものであるが、繊維材質であることから大きな表面積を持つことに特徴がある。
【0020】
このような繊維材質の支持体を用いることによって、細胞は支持体の表面だけでなく、その内部にも付着するため、三次元的な高密度培養が可能となる。また、培地の出し入れによるシェアストレスがなくなるため、長期間にわたって細胞を培養することができる。さらには、細胞が三次元的な構造をとることで、in vivoに似た形態をとることができ、ウイルスの増殖性が向上する。
【0021】
支持体は市場で提供されているものが利用できる。例えば、CESCO社から「BioNOCII
R」の商品名で提供されている支持体が利用可能である。シングルユース品であってもよく、滅菌済みのものや表面処理を施したものであっても構わない。
【0022】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(1)A型肝炎ウイルスの培養(500mLスケール)
VP−SFM培地で接着培養したGL37細胞を、初期細胞数7.6×10
7cellsとなるようにウシ胎児血清加MEM培地500mLに懸濁し、これにA型肝炎ウイルス(m.o.i. 0.1)を接種した。
繊維材質支持体(商品名:BioNOCII
R、CESCO社)を充填した高密度培養容器(商品名:BelloCell500A
R、CESCO社)に、当該MEM培地を投入し、一昼夜、当該培養容器の1割分の容量の培地を出し入れすることで細胞を支持体に接着させた。その後、培地のほぼ全量を出し入れすることで接着を確実なものとした。37℃、5%CO
2の環境下で3週間の培養を行い、培養期間中、容器全容量の古い培地の排出と新しい培地の投入を2〜3日毎に繰り返し、培養を維持した。
【0024】
(2)細胞接着率
培養開始15日目と22日目に、培養上清よりサンプリングを行い、血球計算版を用いたトリパンブルー法による脱落細胞数計測を実施したところ、両日ともに計測細胞数は0であった。
培養上清量が500mLであるため、細胞数の検出感度としては計測細胞数が1でもあれば1×10
7cellsの細胞数を検出できる。15日目及び22日目の接着細胞数が2.8×10
9cellsと2.9×10
9cellsであったことから、99%の細胞は接着していることが確認された。
【0025】
(3)ウイルス抗原量測定
ウイルス抗原量はA型肝炎ウイルスに対する抗体を用いたELISA法により測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【実施例2】
【0027】
(1)A型肝炎ウイルスの長期培養(500mLスケール)
A型肝炎ウイルスの培養を35日間実施した。初期細胞数を7.7×10
7cellsとしたこと以外は、実施例1と同様に行った。そのウイルス抗原量測定結果を表2に示す。また、細胞数の計測結果を
図2に示す。なお、
図2には、VP−SFM培地を用いて同様に培養を行った結果もプロットした。
図2の結果から、MEM培地のみならず、VP−SFM培地による培養も可能であることがわかった。
【0028】
【表2】
【実施例3】
【0029】
(1)A型肝炎ウイルスの培養(2Lスケール)
VP−SFM培地で接着培養したGL37細胞を、初期細胞数1.2×10
9cellsとなるようにウシ胎児血清加MEM培地1600mLに懸濁し、2L容量高密度培養容器を用いて培養を行った。3週間の培養期間中、古い培地の排出と新しい培地の投入を、2L容量の培養担体に対して5L/dayの割合で繰り返した以外は、実施例1と同様に行った。そのウイルス抗原量測定結果を表3及び
図3に示す。細胞数の計測結果は
図3に示すとおりである。
【0030】
【表3】
【実施例4】
【0031】
(1)A型肝炎ウイルスの培養(マイクロキャリアーとの比較)
繊維材質支持体を用いた培養とマイクロキャリアーを支持体として用いた浮遊培養を比較するための実験を行った。繊維材質支持体を用いた培養は、初期細胞数を3.6×10
7cellsとしたこと以外は、実施例1と同様に行った。マイクロキャリアー(商品名:Cytodex1、GEヘルスケア社)を用いた浮遊培養は、GL37細胞の初期細胞数を5.2×10
7cellsとし、ウシ胎児血清加MEM培地140mLを使用して行った。培養開始2日目までは、マイクロキャリアーにGL37細胞を付着させるための培養を行い、培養開始3日目にA型肝炎ウイルス(m.o.i. 0.1)を接種して、引き続き浮遊培養を行った。培養期間中、7日毎に70%の培地を交換し、培養を維持した。
【0032】
(2)細胞数計測及びウイルス総抗原量測定
培養期間中の細胞数計測結果を
図4に示す。また、培養21日目におけるウイルス総抗原量測定結果を表4に示す。
図4及び表4から明らかなように、マイクロキャリアーを支持体として用いた浮遊培養では、3週間の培養期間に細胞が耐えきれず、マイクロキャリアーから剥離してしまうため、繊維材質支持体を用いた培養と比べて細胞数が伸びず、総抗原量も大幅に低下することがわかった。
【0033】
【表4】
【0034】
上記実施例1〜4により、繊維材質支持体を用い、培地の排出と添加を制御することにより、接着性細胞が剥離することなく、A型肝炎ウイルスの長期培養・維持が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、接着性細胞感受性ウイルスを用いたワクチン、特にA型肝炎ワクチンの生産方法として利用可能である。