(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6609178
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】2サイクル内燃エンジン
(51)【国際特許分類】
F02P 5/15 20060101AFI20191111BHJP
F02B 63/02 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
F02P5/15 L
F02P5/15 C
F02B63/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-251262(P2015-251262)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-115668(P2017-115668A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(73)【特許権者】
【識別番号】000215187
【氏名又は名称】追浜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123607
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】小倉 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】川原 直人
(72)【発明者】
【氏名】露木 雄一
【審査官】
丸山 裕樹
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−050077(JP,U)
【文献】
特開2010−151124(JP,A)
【文献】
特開平09−126105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
F02P 5/145 − 5/155
F02B 63/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2サイクル内燃エンジン(2)であって、
シリンダ(4)と、
クランクシャフト(6)と、
前記シリンダ(4)内に配置され且つ前記クランクシャフト(6)に連結されたピストン(8)と、
前記シリンダ(4)の上部に配置された点火プラグ(10)と、
前記点火プラグ(10)を作動させる点火制御装置(12)と、を有し、
前記点火制御装置(12)は、前記内燃エンジン(2)の回転速度が所定の過回転速度(36c)を越えて増加するとき、前記点火プラグ(10)の点火タイミングを、適正な燃焼が行われる第1のBTDC角度(34c)に進角させ、
前記点火制御装置(12)は、前記第1のBTDC角度(34c)における点火プラグ(10)の作動により適正な燃焼がおこなわれた後の前記クランクシャフト(6)の1回転又は複数の回転において、前記点火プラグ(10)の失火サイクルを行い、
前記点火制御装置(12)は、前記点火プラグ(10)の作動のために充電と放電を繰返すコンデンサ(24)を含み、前記点火プラグ(10)の前記失火サイクルにおいて、前記点火プラグ(10)の点火タイミングは、前記第1のBTDC角度(34c)と、前記第1のBTDC角度(34c)よりも大きい第2のBTDC角度(34d)であり、前記第2のBTDC角度(34d)は、点火によって燃焼が生じないように且つ前記第1のBTDC角度(34c)までに点火に十分な前記コンデンサ(24)の充電が行われないように定められることを特徴とする2サイクル内燃エンジン(2)。
【請求項2】
前記点火制御装置(12)は、前記内燃エンジン(2)の回転速度が前記所定の過回転速度(36c)を越えて増加するとき、前記点火プラグ(10)の点火タイミングを前記第1のBTDC角度(34c)に離散的に進角させることを特徴とする請求項1に記載の内燃エンジン(2)。
【請求項3】
前記点火制御装置(12)は、前記内燃エンジン(2)の回転速度が前記所定の過回転速度(36c)以上であるとき、前記点火プラグ(10)を前記第1のBTDC角度(34c)以上で作動させて適正な燃焼を行わせることと、それに続く前記クランクシャフト(6)の1回転又は複数の回転において前記点火プラグ(10)の前記失火サイクルを行うこととを繰返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の2サイクル内燃エンジン(2)。
【請求項4】
前記第1のBTDC角度(34c)は、前記所定の過回転速度(36c)未満の回転速度における最大のBTDC角度(34a)よりも大きいことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の2サイクル内燃エンジン。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の内燃エンジン(2)を搭載した手持ち式エンジン作業機(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクル内燃エンジンに関し、更に詳細には、刈払機、チェーンソー、エンジンカッター、ヘッジトリマー等の手持ち式エンジン作業機に搭載される2サイクル内燃エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
手持ち式エンジン作業機に搭載された2サイクル内燃エンジンは、シリンダ内に配置され且つクランクシャフトに連結されたピストンと、シリンダの上部に配置された点火プラグと、点火プラグを作動させる点火制御装置を有している。点火プラグの有効な作動により、シリンダ内の混合気を点火して燃焼させ、燃焼空気の膨張により、上死点位置から下死点位置に移動するピストンに力を付与する。点火制御装置は、ピストンの上死点位置に対する点火プラグの点火タイミングを設定することが可能である。
【0003】
2サイクル内燃エンジンでは、通常、クランクシャフトの1回転ごとに、点火プラグを作動させる。また、点火プラグの点火タイミングをピストンの上死点位置から進角させている。これは、シリンダ内の混合気を点火してから混合気の燃焼がピストンまで到達してピストンに力を付与するまでのタイムラグがあるからである。一般的には、回転速度が大きくなるほど、進角させる角度は大きくなる。
【0004】
しかしながら、高回転速度範囲において、点火プラグの点火タイミングを上死点位置から大きく進角させた状態のままにしておくと、ピストンに付与される力が内燃エンジンを加速させて、内燃エンジンの回転速度が上昇し続ける。このため、点火制御装置は、高回転速度範囲において、点火プラグの点火タイミングを、例えば上死点位置近傍まで、遅角させている。それにより、ピストンに付与される力を低減し、内燃エンジンの回転速度が上昇し続けることを抑制する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7249586号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
手持ち式エンジン作業機において、内燃エンジンが無負荷である状態が生じたり、気化器を誤ってリセットしたとき、気化器に想定外のゴミが詰まったとき及び環境(気温及び標高)が変化したとき等、燃料流量が極端に薄くなった状態が生じたりする。この場合、内燃エンジンのスロットルを全開にしたときの回転速度が通常の回転速度範囲よりも高くなることがある。更に、点火プラグの点火タイミングよりも前に自己着火が発生することがある。自己着火により混合気が燃焼すると、点火制御装置による点火タイミングにおいて、正常な燃焼状態にならず、点火タイミングの制御が不能になる。また、自己着火による燃焼は、上死点位置から進角させた点火タイミングによる燃焼に等しいので、ピストンに付与される力が内燃エンジンを加速させて、内燃エンジンの回転速度が上昇し続ける。その結果、エンジンの焼付きや、部品の破損などが生じるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、内燃エンジンの回転速度が上昇し続けることを防止することができ、且つ、自己着火による点火制御装置の制御不能を阻止することができる2サイクル内燃エンジン、及び、かかる2サイクル内燃エンジンを搭載した手持ち式エンジン作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による2サイクル内燃エンジンは、シリンダと、クランクシャフトと、シリンダ内に配置され且つクランクシャフトに連結されたピストンと、シリンダの上部に配置された点火プラグと、点火プラグを作動させる点火制御装置と、を有し、点火制御装置は、内燃エンジンの回転速度が所定の過回転速度を越えて増加するとき、点火プラグの点火タイミングを、正常な燃焼が行われる第1のBTDC角度に進角させ、点火制御装置は、第1のBTDC角度における点火プラグの作動により適正な燃焼が行われた後のクランクシャフトの1回転又は複数の回転において、点火プラグの失火サイクルを行うことを特徴としている。
【0009】
このように構成された内燃エンジンでは、内燃エンジンの回転速度が所定の過回転速度を越えて増加するとき、点火プラグの点火タイミングを、第1のBTDC角度に進角させて正常な燃焼を行わせる。正常な燃焼は、圧縮ストロークにおいて混合気が圧縮された状態において、点火制御装置によって作動された点火プラグの点火によって生じる燃焼であり、自己着火による燃焼を含まない。かくして、仮に自己着火を生じさせる条件を満たしていてもかかる自己着火を生じさせるであろうBTDC角度よりも前に点火プラグが作動され、それにより、自己着火による点火制御装置の制御不能を阻止することができる。しかしながら、この場合、点火タイミングの進角により、内燃エンジンの回転速度が上昇し続ける。そこで、第1のBTDC角度における点火プラグの作動により適正な燃焼がおこなわれた後のクランクシャフトの1回転又は複数の回転において、点火プラグの失火サイクルを行うことにより、ピストンに付与される力を低減し、内燃エンジンの回転速度が上昇し続けることを抑制する。
【0010】
上記内燃エンジンの実施形態において、好ましくは、点火制御装置は、内燃エンジンの回転速度が上記所定の過回転速度を越えて増加するとき、点火プラグの点火タイミングを第1のBTDC角度に離散的に進角させる。
【0011】
このように構成された内燃エンジンでは、内燃エンジンの回転速度が上記所定の過回転速度以上であるときに確実に点火制御装置の制御不能を阻止することができる。
【0012】
また、上記内燃エンジンの実施形態において、好ましくは、点火制御装置は、内燃エンジンの回転速度が上記所定の過回転速度以上であるとき、点火プラグを第1のBTDC角度以上で作動させて適正な燃焼を行わせることと、それに続くクランクシャフトの1回転又は複数の回転において点火プラグの失火サイクルを行うこととを繰返す。
【0013】
このように構成された内燃エンジンでは、内燃エンジンの回転速度が上記所定の過回転速度以上であるとき、確実に点火制御装置の制御不能を阻止することができ、且つ、内燃エンジンの回転速度が上昇し続けることを確実に抑制することができる。
【0014】
上記内燃エンジンの実施形態において、好ましくは、点火制御装置は、点火プラグの作動のために充電と放電を繰返すコンデンサを含み、点火プラグの失火サイクルにおいて、点火プラグの点火タイミングは、第1のBTDC角度と、第1のBTDC角度よりも大きい第2のBTDC角度であり、第2のBTDC角度は、点火によって燃焼が生じないように定められ且つ第1のBTDC角度までに点火に十分なコンデンサの充電が行われないように定められる。
【0015】
上記内燃エンジンの実施形態において、好ましくは、第1のBTDC角度は、所定の過回転速度未満の回転速度における最大のBTDC角度よりも大きい。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明による手持ち式エンジン作業機は、上述した内燃エンジンを搭載することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による2サイクル内燃エンジン、及び、かかる2サイクル内燃エンジンを搭載した手持ち式エンジン作業機により、内燃エンジンの回転速度が上昇し続けることを防止することができ、且つ、自己着火による点火制御装置の制御不能を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】本発明による内燃エンジンの点火制御装置の概略図である。
【
図4】本発明による内燃エンジンの点火制御装置の回路図である。
【
図5】内燃エンジンの回転速度と点火タイミングの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明による刈払機の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明による手持ち式エンジン作業機の一例である刈込機の斜視図である。刈込機1は、それを駆動する2サイクル内燃エンジン2を有している。
【0021】
図2は、本発明による2サイクル内燃エンジンの概略図である。内燃エンジン2は、シリンダ4と、クランクシャフト6と、シリンダ4内に配置され且つクランクシャフト6に連結されたピストン8と、シリンダ4の上部に配置された点火プラグ10を有している。内燃エンジン2の圧縮ストロークにおいて、ピストン8は、上死点位置8aまで上昇する。一般的にはピストン8が上死点位置8aに到達するよりも前のタイミングで、点火プラグ10を有効に作動させてシリンダ4内の混合気を燃焼させることにより、ピストン4に下向きの推進力を与える。
【0022】
図3は、本発明による内燃エンジンの点火制御装置の概略図である。内燃エンジン2は、点火プラグ10を作動させる点火制御装置12を有する。
【0023】
点火制御装置12は、クランクシャフト6に取付けられたフライホイール14aの外周に設けられた1対の磁石14bと、フライホイール14aの外周に隣接して配置されたU字形の鉄心14cと、鉄心14cの周りに巻かれた入力用コイル14dを有している。また、点火制御装置12は、入力用コイル14dに接続された制御回路部16と、制御回路部16に接続された1次側コイル18aと、点火プラグ10に接続された2次側コイル18bを有している。
【0024】
図4は、本発明による内燃エンジンの点火制御装置の回路図である。
図4に示すように、制御回路部16は、プロセッサ20と、ダイオード22と、コンデンサ24と、スイッチ用サイリスタ26を有する。プロセッサ20のピンaとピンeは、入力用コイル14dに接続され、入力用コイル14dに誘導された電圧は、プロセッサ20に電力を供給する。プロセッサ20のピンb及びピンcも、入力用コイル14dに接続され、プロセッサ20は、入力用コイル14dに誘導された電気信号を受信する。ダイオード22、コンデンサ24及び1次側コイル18aが、入力用コイル14dに直列に接続される。スイッチ用サイリスタ26は、コンデンサ24及び1次側コイル18aと並列に接続される。また、プロセッサ20のピンdは、スイッチ用サイリスタ26のゲートに接続される。ピンdがLOWのとき、サイリスタ26は非通電状態になり、ピンdがHIGHのとき、サイリスタ26は通電状態になる。
【0025】
次に、本発明による内燃エンジンの作動を説明する。
【0026】
内燃エンジン2の作動により、クランクシャフト6が回転すると、フライホイール14aに取付けられた1対の磁石14bが、U字形鉄心14cの近くを通過する。それにより、入力用コイル14dに電圧が誘導され、入力用コイル14dに電流が流れる。プロセッサ20は、入力用コイル14dからピンa、eを介して供給される電圧によって駆動されるとともに、電流による電気信号をピンb,cを介して受信する。プロセッサ20は、かかる電気信号により、内燃エンジン2の回転速度及び角度位置を検出し又は計算する。
【0027】
プロセッサ20がピンdをLOWにして、サイリスタ26を非通電状態にすると、入力用コイル14dに誘導された電圧により、コンデンサ24を充電する。点火プラグ10の点火タイミングになったら、プロセッサ20は、ピンdをHIGHにして、サイリスタ26を通電状態にする。それにより、コンデンサ24を放電させて、1次側コイル18aに電流を流す。1次側コイル18aに流れる電流は、2次側コイル18bに高電圧パルスを発生させて、かくして、点火プラグ10を作動させる。
【0028】
図5に例示するように、点火制御装置12のプロセッサ20は、内燃エンジン2の回転速度に応じて、点火プラグ10の点火タイミングを設定する。本明細書において、点火タイミングを、BTDC角度(上死点位置8a前のクランクシャフト6の角度)で表す。
【0029】
内燃エンジン2は、通常の作動で許容される通常の回転速度範囲30を有している。回転速度範囲30の低速側30aにおいて、概略的には、内燃エンジン2の回転速度の上昇に応じて点火タイミングを進角させ、すなわち、点火タイミングのBTDC角度を増大させる。また、内燃エンジン2の通常の回転速度範囲30の高速側30bにおいて、概略的には、内燃エンジン2の回転速度の上昇に応じて点火タイミングを遅角させ、すなわち、点火タイミングのBTDC角度を減少させる。
図5では、低速側30aと高速側30bの境界の回転速度36aにおける点火タイミングが、通常の回転速度範囲30における最大のBTDC角度34aになる。また、所定の高速回転速度36bまで回転速度が上昇したときの点火タイミングが、通常の回転速度範囲30の高速側30bにおける最小のBTDC角度34bになる。最小のBTDC角度34bは、例えば、ピストン8の上死点位置8a近傍である。所定の高速回転速度36b以上の回転速度範囲30cにおける点火タイミングは、最小のBTDC角度34bに維持されることが好ましい。
【0030】
境界の回転速度36aは、例えば、8000〜9500rpmの範囲内にあり、
図5では、8500rpmである。最大のBTDC角度34aは、例えば、20〜35度の範囲内にあり、
図5では、24度である。所定の高速回転速度36bは、例えば、11000〜12000rpmの範囲内にあり、
図5では、11500rpmである。最小のBTDC角度34bは、例えば、0〜20度の範囲内にあり、
図5では、2度である。
【0031】
通常の回転速度範囲30よりも高い回転速度範囲を過回転速度範囲32と称する。通常の回転速度範囲30と過回転速度範囲32の間の境界は、例えば、11500〜12600rpmの範囲内にある。過回転速度範囲32において、所定の過回転速度36cよりも低速側32aの点火タイミングは、最小のBTDC角度34bである。所定の過回転速度36cよりも高速側32bの点火タイミングは、最小のBTDC角度34bから進角させた自己着火防止BTDC角度34cである。自己着火防止BTDC角度34cは、仮に自己着火を生じさせる条件を満たしていてもかかる自己着火を生じさせるであろうBTDC角度よりも前のBTDC角度になるように定められる。自己着火防止BTDC角度34cは、例えば、35〜45度の範囲内にあり、
図5では、37度である。自己着火防止BTDC角度34cは、通常の回転速度範囲30の最大のBTDC角度34aよりも大きいことが好ましい。
【0032】
高速の回転速度範囲30c、32aにおいて、点火タイミングは最小のBTDC角度34bである。更に高速の速度範囲32bにおいて、仮に点火タイミングが最小のBTDC角度34bであると特に、自己着火が最小のBTDC角度34bよりも前に生じるおそれがある。自己着火が生じると、点火制御装置12による点火タイミングよりも前に点火され、内燃エンジン2の回転速度が上昇し始める。
【0033】
内燃エンジン2の回転速度が、所定の過回転速度36cを越えて増加するとき、点火プラグ10の点火タイミングを、最小のBTDC角度34bから自己着火防止BTDC角度34cに進角させる。詳しくは、所定の過回転速度36cにおいて、必ずしも自己着火が生じるわけではない。しかしながら、点火プラグ10は、仮に自己着火を生じさせる条件を満たしていればかかる自己着火を生じさせるであろうBTDC角度よりも前の自己着火防止BTDC角度で作動され、正常な燃焼が確実に行われる。また、過回転速度範囲32の範囲では、自己着火が生じて点火制御装置の制御不能を引起しやすいので、所定の過回転速度36cよりも低速側32aにおいて安定的に運転可能な領域が非常に狭くなる。このため、最小のBTDC角度34bから自己着火防止BTDC角度34cへの点火タイミングの変化は、離散的であることが好ましい。このようにすると、最小のBTDC角度34bから自己着火防止BTDC角度34cへの点火タイミングの変化がゆるやかな場合よりも、迅速かつ的確に制御不能を防止することができる。かくして、点火タイミングの制御が不能になることを阻止することができる。
【0034】
しかしながら、点火タイミングを上死点位置8aよりも進角させることにより、内燃エンジン2の回転速度が上昇し続けることになる。このため、点火制御装置12は、点火プラグ10を自己着火防止BTDC角度34cで作動させて適正な燃焼を行った後のクランクシャフト6の1回又は複数の回転において、失火サイクルを行うことが好ましい。失火サイクルを行うことにより、出力が低下し、内燃エンジンの回転速度が上昇し続けることを防止することができる。
【0035】
失火サイクルを行う第1の仕方は、点火プラグ10を点火させないことである。失火サイクルの第2の仕方は、点火プラグ10の点火タイミングを、自己着火防止BTDC角度34cと、それよりも前の(大きい)非燃焼BTDC角度34dにすることである。この場合、非燃焼BTDC角度34dは、点火によって燃焼が生じないように且つ自己着火防止BTDC角度34cまでに点火に十分なコンデンサ24の充電が行われないように定められる。好ましくは、非燃焼BTDC角度34dは、圧縮ストロークから外れた角度である。その結果、自己着火防止BTDC角度34cにおける点火プラグ10の作動において点火が行えず、燃焼は行われない。非燃焼BTDC角度34dは、例えば、130〜200度である。なお、非燃焼BTDC角度34dが180〜200度であることは、上死点位置8a後のクランクシャフト6の角度が160〜180度であることと等しい。
【0036】
内燃エンジン2の回転速度が、所定の過回転速度36c以上の回転速度範囲32bにあるとき、点火プラグ10の点火タイミングは、自己着火防止BTDC角度34cで一定である。点火制御装置12は、点火プラグ10を自己着火防止BTDC角度34cで作動させて適正な燃焼を行わせることと、それに続くクランクシャフト6の1回転又は複数の回転において点火プラグ10の失火サイクルを行うこととを繰返すことが好ましい。
【0037】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0038】
上記実施形態において、所定の過回転速度36c以上の回転速度において、点火プラグ10の点火タイミングは、自己着火防止BTDC角度34cで一定であったが、自己着火を防止することができれば、自己着火防止BTDC角度34c以上で変化させてもよいし、自己着火防止BTDC角度34c以下になってもよい。また、自己着火防止BTDC角度34cの設定は、手持ち式エンジン作業機1の想定される使用条件等に応じて補正されてもよい。
【0039】
上記実施形態では、手持ち式エンジン作業機が刈払機である場合を説明したけれども、手持ち式エンジン作業機は、チェーンソー、エンジンカッター、ヘッジトリマー等であってもよい。
【0040】
1 刈払機(手持ち式エンジン作業機)
2 2サイクル内燃エンジン
4 シリンダ
6 クランクシャフト
8 ピストン
8a上死点位置
10 点火プラグ
12 点火制御装置
24 コンデンサ
34a 最大のBTDC角度
34b 最小のBTDC角度
34c 自己着火防止BTDC角度(第1のBTDC角度)
34d 非燃焼BTDC角度(第2のBTDC角度)
36c 所定の過回転速度