(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム粉、亜鉛粉、及び、アルミニウム及び亜鉛を含有する合金粉からなる群から選択される少なくとも1種の金属粉を更に含み、前記金属粉の含有量は、前記塗料の全固形分を基準として、80.0質量%以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗料。
アルミニウム粉、亜鉛粉、及び、アルミニウム及び亜鉛を含有する合金粉からなる群から選択される少なくとも1種の金属粉をさらに含み、前記金属粉の含有量は、前記塗膜の全量を基準として、80.0質量%以下である、請求項9〜15のいずれか1項に記載の塗膜。
前記(C)の層における前記金属硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硫酸銅、及び硫酸クロム(III)からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項17〜20のいずれか1項に記載の保護膜。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0025】
[塗料]
本実施形態に係る塗料は鋼材用反応性塗料であって、酸化バリウム及び/又は水酸化バリウム、並びに、金属硫酸塩を含む。
【0026】
鋼材が腐食環境に置かれると、腐食反応により表面にいわゆる錆と呼ばれる酸化物などの化合物層が生成する。この化合物層が安定でありかつ緻密で防食的であれば、鋼材の耐食性が確保されるが、通常はこの化合物層は相変化を生じる可能性が高いとともに、空隙などを含むためその緻密さが低く、外部の腐食環境に存在する水や酸素ならびに各種腐食性物質の下地金属表面への透過を十分抑制できない。
【0027】
本実施形態に係る塗料を塗布して塗膜を形成した鋼材(被覆鋼材)においては、被覆鋼材を腐食環境下に曝露した初期の段階に、環境中から塗膜を透過して供給された水、酸素及び各種腐食性物質により、鋼材から鉄などの金属イオンが、塗膜からバリウムイオン、硫酸イオン、金属イオン等が供給され、鋼材と塗膜との間又は塗膜の内部に、鉄及びバリウム等の金属の複合酸化物、及び、バリウム等の金属の硫酸塩を含む防食化合物層が形成される。
【0028】
本実施形態の塗料により得られる防食化合物層は緻密でありかつ高い安定性を有する。生成した防食化合物層は、外部の腐食環境に存在する水、酸素及び各種腐食性物質が鋼材に過度に透過することを抑制することができる(バリアー効果)。上記防食化合物層が形成された鋼材(耐食性鋼構造体)は、一般の腐食環境のみならず、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境において、優れた耐食性を有する。よって、本実施形態に係る塗料は防食化合物層形成用塗料であるということもできる。
【0029】
なお、本実施形態に係る塗料は、本実施形態に係る塗料とは別の一般的な塗料、例えば、エポキシ樹脂塗料等と混合して用いることもできる。本実施形態に係る塗料を用いることによる効果は、本実施形態に係る塗料と別の一般的な塗料とを混合した場合にも当然に発揮され、妨げられない。また、本実施形態に係る塗料中の成分が発揮する効力は、当該成分と別の一般的な塗料とを混合した場合にも妨げられない。
【0030】
以下に、本実施形態に係る塗料に含まれる各成分について説明するとともに、上記塗料を鋼材に塗布し、腐食環境下に曝露された際の塗膜中の各成分の挙動、及びこれに伴う効果について詳細に説明する。
【0031】
(酸化バリウム及び水酸化バリウム)
酸化バリウム及び水酸化バリウムは、腐食環境中の水と反応しバリウムイオンを供給する。このバリウムイオンは、鋼材の腐食反応で生成する鉄酸化物の生成過程で、鉄酸化物の結晶を構成する原子配列において、結晶構成イオンの一部となりバリウムを含む化合物(鉄及びバリウムを含む複合酸化物)を生成する。ここで、バリウムイオンのイオン半径が鉄イオンのイオン半径より十分に大きいことに起因して、生成する複合酸化物の結晶粒径は極めて微細になるためその凝集性が向上し、防食化合物層を緻密化することができる。
【0032】
さらにバリウムイオンを含む防食化合物層は、エネルギー的に高い安定性を有するため酸化還元に対する高い抵抗性を有するとともに、強いカチオン選択透過性を示し、腐食性アニオンの透過を抑制することができる。この際、バリウムイオンのイオン半径が鉄イオンのイオン半径より十分大きいため、イオン半径の差から酸化物結晶に大きな歪を与えることができ、結晶を構成する原子の再配列を阻害することができる。このため、バリウムイオンを含む防食化合物層は、当該酸化物の熱力学的安定性を著しく高める効果も有する。バリウムイオンによって奏される上記効果は、鉄イオンのイオン半径より十分に大きくない他のイオン、例えば、カルシウムイオンの場合と比べて極めて大きい。
【0033】
また、バリウムイオンは、後述する金属硫酸塩が解離して生じた硫酸イオンと反応し、水に著しく難溶な硫酸バリウムを生成する。この硫酸バリウムの生成によっても防食化合物層の防食性を向上させることができ、例えば、腐食環境中のSO
xなどの大気汚染物質の侵入を抑制することができる。同様の効果は、バリウムイオンと空気中の二酸化炭素との反応によって生成した炭酸バリウムからも得られる。また、バリウムイオンは、金属硫酸塩が解離して生じた金属イオンと複合酸化物を形成することにより、防食化合物層の熱力学的安定性を高めることができ、防食化合物層の酸化還元を進行しにくくすることができる。以上のように、上記塗料が酸化バリウム及び/又は水酸化バリウムを含むことにより、厳しい腐食環境において特に高い防食機能を有する防食化合物層を得ることができる。
【0034】
酸化バリウム及び水酸化バリウムの含有量の合計は、上記塗料の全固形分を基準として、例えば0.05〜50.0質量%であることができる。上記含有量が0.05質量%以上であることにより酸化バリウム及び水酸化バリウムによって奏される上述の効果が得られやすくなる。また、上記含有量が50.0質量%以下であることにより、塗膜の鋼材への密着性が得られやすくなる。同様の観点から、上記含有量の合計は、好ましくは0.1〜50.0質量%であり、より好ましくは1.0〜30.0質量%であり、さらに好ましくは10.0〜25.0質量%である。また、鋼材等に塗布する際の塗料の粘度を好適な範囲内とする観点からは、上記含有量は、好ましくは1.0〜10.0質量%である。
【0035】
(金属硫酸塩)
本実施形態に係る塗料に含まれる金属硫酸塩は水溶性であり、上記金属硫酸塩の水100gに対する溶解量は5℃において0.5g以上である。よって、通常の大気腐食環境においては、たとえ気温が低い冬季の時期であっても、降雨又は結露により水分が供給された際に金属硫酸塩の解離が起こりうる。すなわち、上記金属硫酸塩は、水が供給されると一定濃度で金属イオンと硫酸イオンに解離する。解離した硫酸イオンは、腐食環境下に曝露した初期の段階での鋼材中の鉄の溶解を促進し、防食化合物層の早期形成に寄与するとともに、生成した鉄酸化物の熱力学的安定性を高め、防食化合物層形成後にさらに腐食環境下に曝露された際に鉄酸化物が酸化剤として作用することを抑制することができる。また、硫酸イオンは、上述の酸化バリウム又は水酸化バリウムから解離したバリウムイオンと反応し、水に極めて難溶なバリウムの硫酸塩を生成する。生成した硫酸バリウムは防食化合物層の空隙部を埋めてこれを緻密化し、防食化合物層の防食性を向上させることができる。
【0036】
加えて、解離した金属イオンは、共存するアニオンと錯イオンを形成しながら防食化合物層に吸着して、防食化合物層にイオン選択透過性を与え、腐食性アニオンの鋼材への透過を抑制する効果を奏するとともに、金属イオンの酸化物を生成し、防食化合物層の環境遮断効果を著しく高める効果を奏する。また、解離した硫酸イオンが酸化バリウムや水酸化バリウムから供給されたバリウムイオンと硫酸塩を形成し、防食効果を奏することは上述のとおりである。
【0037】
上記金属硫酸塩としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル、硫酸鉄、硫酸コバルト、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸スズ及び硫酸クロム等が挙げられる。上記金属硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル及び硫酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0038】
上記金属硫酸塩の含有量は、上記塗料の全固形分を基準として、例えば0.05〜30.0質量%であることができる。上記含有量が0.05質量%以上であることにより上記金属硫酸塩によって奏される上述の効果が得られやすくなる。上記含有量が30.0質量%以下であることにより、塗膜が脆弱となり、本発明の効果が得られる前に塗膜が剥離することを抑制することができる。ただし、このような塗膜剥離を回避できる塗膜設計が別途実現するのであれば、さらに含有量を増加させることも可能である。同様の観点から、上記含有量は、好ましくは1.5〜25.0質量%であり、より好ましくは6.0〜20.0質量%である。また、酸化バリウム及び水酸化バリウムの含有量の合計に対する金属硫酸塩の含有量の比(金属硫酸塩含有量/酸化バリウム等含有量)は、例えば0.1〜300.0であり、好ましくは0.3〜15.0であり、さらに好ましくは0.5〜5.0である。
【0039】
(酸化カルシウム及び水酸化カルシウム)
本実施形態に係る塗料はさらに酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含んでいてもよい。塗膜中の酸化カルシウム及び水酸化カルシウムは、腐食環境中の水と反応しカルシウムイオンを供給する。カルシウムイオンは、バリウムイオンが鉄及びバリウムを含む複合酸化物となって微細で緻密な防食化合物層を形成する際に、鉄酸化物に吸着し、結晶粒径を微細にするというバリウムイオンの効果を一層向上させることができる。また、カルシウムイオンは、バリウムイオンと同様に、硫酸イオンと反応し、水に難溶な硫酸カルシウムを生成する。この硫酸カルシウムは、防食化合物層の空隙部を埋めてこれを一層緻密化することができる。
【0040】
酸化カルシウム及び水酸化カルシウムの含有量の合計は、上記塗料の全固形分を基準として、例えば30.0質量%以下であることができる。上記含有量が30.0質量%以下であることにより、バリウムイオンが防食化合物層結晶の構成イオンになることを阻害しにくくなる。上記含有量は、好ましくは0.1〜30.0質量%であり、より好ましくは1.0〜25.0質量%であり、さらに好ましくは5.0〜20.0質量%である。
【0041】
(リン酸)
本実施形態に係る塗料はさらにリン酸を含んでいてもよい。リン酸は塗膜と鋼材との密着性を向上させる効果を有する。また、塗膜中のリン酸は、水分に触れると、水素イオンとリン酸イオンに解離する。酸化バリウム又は水酸化バリウムが鉄酸化物を微細化する過程で、鋼材から溶出する鉄イオンとリン酸との反応によりリン酸鉄を生成し、防食化合物層をさらに緻密化することができる。また、解離したリン酸イオンはバリウムイオンと反応し、水に難溶なリン酸バリウムを生成し、さらに上記塗料が酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを含む場合には、水に難溶なリン酸カルシウムを生成し、防食化合物層の環境遮断性を向上させることができる。
【0042】
リン酸の含有量は、上記塗料の全固形分を基準として、例えば10.0質量%以下であることができる。上記含有量が10.0質量%以下であることにより、酸化バリウム又は水酸化バリウムによる防食化合物層の緻密化がリン酸鉄の生成に対して優勢になり、腐食環境曝露初期における鋼材の腐食を必要以上に加速することを抑制することができる。上記含有量は、好ましくは0.3〜10.0質量%であり、より好ましくは0.6〜10.0質量%であり、さらに好ましくは1.0〜10.0質量%である。
【0043】
(金属粉)
本実施形態に係る塗料はさらにアルミニウム粉、亜鉛粉、並びに、アルミニウム及び亜鉛を含有する合金粉からなる群から選択される少なくとも1種の金属粉を含んでいてもよい。これらの金属粉の構成元素は、鋼材のめっきに用いるめっき金属の構成元素と同じであることができる。上記塗料が上記金属粉を含むことにより、腐食等によりすでにめっき金属が損耗しているめっき鋼材などにおいて、塗膜中の金属粉がめっき金属の犠牲防食作用を補助することができる。
【0044】
また、塗膜中の上記金属粉は、腐食反応によりイオン化し、金属イオンを供給する。そして、供給された金属イオンがバリウムイオン及び鉄イオンとともに酸化し、防食的な複合酸化物を形成することにより、防食化合物層の形成に寄与する。
【0045】
金属粉の含有量は、上記塗料の全固形分量を基準として、例えば80.0質量%以下であることができる。上記含有量が80.0質量%以下であることにより、防食化合物層の形成前の早期の段階で塗膜の鋼材からの剥離の発生を抑制することができる。なお、塗膜剥離を回避できる塗膜設計が別途実現できるのであれば、金属粉の含有量が80質量%を超えても構わない。
【0046】
(樹脂)
本実施形態に係る塗料はさらに樹脂を含むことができる。上記樹脂としては、特に制限されず、ビニルブチラール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂等)、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ニトロセルロース樹脂、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、及びポリビニルアルコール等)、フタル酸樹脂、メラミン樹脂、及びフッ素樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。上記樹脂が熱硬化性樹脂である場合、塗料は必要に応じて硬化剤をさらに含むことができ、通常、塗料は乾燥中及び乾燥後に硬化する。熱硬化性樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、200〜20000程度である。また、熱可塑性樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、10000〜5000000程度である。上記塗料が樹脂を含むことにより、上記塗料を鋼材表面に塗布した後、上記塗料中の各成分が鋼材表面付近に保持されやすくなる。したがって、塗布後、防食化合物層が形成される前に、降雨又は結露等によって上記塗料中の各成分が外部へ流出することが抑制され、本実施形態に係る塗料が奏する作用効果が一層得られやすくなる。
【0047】
塗料中の樹脂の含有量の下限値は、塗料の全固形分を基準として、例えば、3.0質量%であってもよく、5.0質量%であってもよく、10.0質量%であってもよく、20質量%であってもよい。樹脂の含有量が3.0質量%以上であることにより、鋼材上に防食化合物層が形成されるまで塗料中の各成分が鋼材表面付近に保持されやすくなる傾向がある。塗料中の樹脂の含有量の上限値は、塗料の全固形分を基準として、例えば、95.0質量%であってもよく、90.0質量%であってもよく、70.0質量%であってもよく、50.0質量%であってもよい。樹脂の含有量が95.0質量%以下であることにより、鋼材上に防食化合物層が形成されやすくなる傾向がある。
【0048】
(その他の成分)
本実施形態に係る塗料は、必要に応じて、その他の一般的な着色顔料、体質顔料、防錆顔料、特殊機能顔料の他、チキソ剤、分散剤、及び酸化防止剤等の添加剤を含むことができる。上記塗料は腐食環境が厳しい場合に耐食性を制御するために防錆顔料を含むことがあるが、耐食性鋼構造体に過度の耐食性を与えないために、その含有量は、上記塗料の全固形分を基準として、30.0質量%以下であることができ、20.0質量%以下であってもよく、10.0質量%以下であってもよい。本実施形態において、塗料に含まれる粒子状の材料の平均粒子径は100μm以下であることができ、好ましくは30μm以下である。
【0049】
(溶剤)
本実施形態に係る塗料は、溶剤をさらに含むことができる。上記溶剤としては、キシレン及びトルエン等の芳香族系、イソプロピルアルコール及びノルマルブタノール等の炭素数3以上のアルコール系、並びに、酢酸エチル等のエステル系等の非水系溶剤;水、メチルアルコール及びエチルアルコール等の水系溶剤が挙げられる。また、上記樹脂は上記溶剤に溶解する樹脂であることができ、非水系溶剤に溶解する樹脂であってもよく、水系溶剤に溶解する樹脂であってもよい。
【0050】
本明細書において、上記塗料の粘度は20℃においてB型粘度計によって測定される。上記塗料の粘度は、塗布方法によって適宜選択されるが、例えば200〜1000cpsであることができる。塗料中の溶剤の含有量は、塗料の粘度が上記範囲となるように調整することができる。
【0051】
[被覆鋼材及び耐食性鋼構造体]
図1は本発明の一実施形態に係る塗料を用いて得られる被覆鋼材及び耐食性鋼構造体を示す断面図であり、(a)は、鋼材10を示し、(b)は、鋼材10及び鋼材10の表面に設けられた塗膜20を有する被覆鋼材100を示し、(c)は、鋼材10と塗膜20との間に防食化合物層30が形成された耐食性鋼構造体200を示す。
【0052】
図1の(a)で示される鋼材10の鋼種は特に限定されず、普通鋼材であってもよく、低合金鋼材であってもよく、ステンレス鋼等の高合金鋼材であってもよく、特殊鋼材であってもよい。鋼材は、表面に錆層又は有機層若しくは無機層を有さなくてもよく、錆層又は有機層若しくは無機層を有していてもよい。
【0053】
なお、塗布前に鋼材10表面をショットブラスト又は電動工具等で研磨してもよく、表面に錆層が形成されている場合にはワイヤーブラシ等で容易に除去できる錆を除去してもよい。また、鋼材が表面に錆層又は有機層若しくは無機層を有している場合、これらの層を剥離しなくともよく、これらの層を含めて鋼材の表面に塗膜を設けることができる。
【0054】
図1の(b)の、塗膜20を有する被覆鋼材100は、(a)で準備した鋼材10の表面に上記の塗料を塗布し、必要に応じて上記塗料を乾燥させることにより得ることができる。したがって、塗膜20の組成は、上記塗料中の固形分の組成と略同一であることができる。すなわち、塗膜20は、酸化バリウム及び/又は水酸化バリウム、並びに、金属硫酸塩を含んでいる。塗膜20において、上記金属硫酸塩の水100gに対する溶解量は5℃において0.5g以上である。
【0055】
上記塗料の塗布方法としては、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り及びローラー塗り等が挙げられる。また、上記塗料の乾燥は、例えば、常温(25℃)常圧(1atm)の空気中での自然乾燥等により行われる。乾燥時間は、乾燥形態により異なるものの、通常30分〜6時間程度であり、実用的な塗膜強度が得られる程度に選択される。上記塗布方法によれば、場所を選ばず塗料を塗布することができる。また、1回の塗布作業でも塗膜が得られるため、経済性にも優れている。さらには、被覆鋼材が設置される現場での塗布が可能であるため、現場での鋼材の切断及び溶接等の加工後にも対応できる。塗膜20は、塗料を1回塗布することにより形成することもできるが、複数回重ねて塗布することにより形成してもよい。塗膜20を塗料を複数回重ねて塗布することにより形成する場合、塗料の組成はそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0056】
上記塗膜20の厚さは1〜1000μmであることができる。塗膜20の厚さが1μm以上であることにより、塗料中の各成分が鋼材上に十分保持され、被覆鋼材が腐食環境下に曝露された際に、防食化合物層30の形成に対して鋼材の腐食のみが先行しすぎない傾向がある。したがって、防食化合物層30により鋼材に対して十分なバリアー効果が得られやすくなる。特に、海塩粒子飛来環境においても、塩素イオンの透過による過度の腐食を防止し、防食化合物層30を形成させることができる傾向がある。また、上記塗膜の厚さが1000μm以下であることにより、経済的に有利であるばかりでなく、下地の鋼材に何らかの影響で発生した応力により塗膜に曲げモーメントが発生した場合等の、塗膜20の割れ又は鋼材表面からの剥離を抑制することができる。塗膜20の厚さの下限値は、3μmであってもよく、5μmであってもよく、10μmであってもよい。塗膜20の厚さの上限値は、750μmであってもよく、500μmであってもよい。
【0057】
なお、塗膜20を形成後、該塗膜20の表面にさらに別の1層又は2層以上の上塗り塗膜を形成してもよい。上塗り塗膜は、下記(A)〜(C)の少なくとも一つの層を含むことが好ましく、下記(A)〜(C)のいずれか2つ以上の層を含むことがより好ましく、下記(B)の層及び下記(C)の層を含むことがさらに好ましく、下記(A)〜(C)の全ての層を含むことが特に好ましい。本明細書において、上塗り塗膜が2つ以上の層を含む場合、塗膜に近い方から順に、第1上塗り塗膜、第2上塗り塗膜、及び第3上塗り塗膜等と称することがある。上塗り塗膜中の下記(A)〜(C)の層の配置の順番は特に制限されないが、上塗り塗膜が下記(A)の層を含む2つ以上の層からなる場合、下記(A)の層は塗膜20から最も遠い層(上塗り塗膜の最表面を構成する層)であることが好ましい。この場合、塗膜20から近い層(例えば、第1上塗り塗膜)は下記(B)の層又は下記(C)の層であることができる。上塗り塗膜は、本実施形態で得られる効果を妨げない範囲において、下記(A)〜(C)以外の別の層をさらに含んでいてもよい。また、上塗り塗膜は、塗膜20と直接接触していてもよく、直接接触していなくてもよい。
(A) 乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m
2・24h)以下の透湿度を有する層
(B) 酸化バリウム、水酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び水酸化ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有し、且つ、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含有しない、又は、上記化合物の全質量に対する上記金属硫酸塩の全質量の比が5.0質量%以下であるように上記金属硫酸塩を含有する、層
(C) 水100gに対する溶解量は5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含有し、且つ、酸化バリウム、水酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び水酸化ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有しない、又は、上記金属硫酸塩の全質量に対する上記化合物の全質量の比が5.0質量%以下であるように上記化合物を含有する、層
【0058】
以下、上記(A)〜(C)の層について順に説明する。(A)の層は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m
2・24h)以下の透湿度を有する層である。上記(A)の層は、乾燥膜厚100μmにおいて、200g/(m
2・24h)以下の透湿度を有することが好ましい。透湿度とは一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気の量を示し、膜状物質を境界線として一方の空気を相対湿度90%、他方の空気を脱湿剤によって乾燥状態に保ち、24時間にこの境界線を通過する水蒸気の量をその膜状物質1m
2当たりに換算した値である。上記(A)の層のような上塗り塗膜が形成されることにより、鋼材等に意匠性を付与することができるとともに、防食化合物層による防食効果を補助することができ、鋼材の耐食性をさらに向上することが可能となる。また、上記(A)の層の透湿度は、乾燥膜厚100μmにおいて、20g/(m
2・24h)以上であってもよい。上記(A)の層の透湿度が20g/(m
2・24h)以上であることにより、防食化合物層の形成に必要な水分を鋼材10と塗膜20との間に早期に供給しやすくなり、耐食性付与の効果が発揮されやすくなる。このように、上塗り塗膜が上記(A)の層を含むことにより、外部環境によらず、塗膜20に供給される水の量を制御することができる。ただし、上記(A)の層の透湿度は、乾燥膜厚100μmにおいて、20g/(m
2・24h)未満であっても差し支えない。上記(A)の層の透湿度が小さいと、鋼材10と塗膜20との間への水分の供給が少なくなり、防食化合物層が早期に形成されにくくなる。しかし、同時に透湿による鋼材10の早期の腐食、溶出及び板厚減少も防止することができる。上記(A)の層によって、鋼材10の腐食が十分防止されている場合には、防食化合物層の形成が必ずしも早期になされる必要はないからである。
【0059】
上記(A)の層を形成するための樹脂塗料は、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はこれらの混合物等であることができる。上記(A)の層の透湿度は、上記樹脂塗料に用いる樹脂を選択又は混合することにより、所望の範囲内に制御することができる。例えば、ポリエチレン樹脂の乾燥膜厚100μmにおける透湿度は約5〜20g/(m
2・24h)であり、エポキシ樹脂の透湿度は約20〜40g/(m
2・24h)であり、ポリビニルブチラール樹脂の透湿度は約100〜200g/(m
2・24h)であり、ポリビニルアルコール樹脂の透湿度は約200〜400g/(m
2・24h)である。
【0060】
上記(A)の層の厚さは、例えば、10〜100μmであり、10〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。また、上記(A)の層が奏する効果を得るためには、上記(A)の層の厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは15μm以上であり、特に好ましくは20μm以上である。上記(A)の層の厚さは、経済的な観点から、例えば、1mm以下、500μm以下、300μm以下、又は100μm以下等であることができるが、上記(A)の層が奏する効果を得る観点からは特に制限されない。
【0061】
次に、上記(B)の層について説明する。(B)の層は、酸化バリウム、水酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び水酸化ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも一種の化合物(酸化物又は水酸化物)を含有する層である。(B)の層はまた、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含有しない、又は、上記化合物の全質量に対する上記金属硫酸塩の全質量の比が5.0質量%以下であるように上記金属硫酸塩を含有する、層である。上記(B)の層が上記金属硫酸塩を含有する場合、上記化合物の全質量に対する上記金属硫酸塩の全質量の比は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。上記塗膜20上に、上記(B)の層のような上塗り塗膜が形成されることにより、外部の腐食環境等に存在する腐食性物質である酸又は塩化物イオンと、上記(B)の層に含まれる酸化バリウム等の化合物とが反応し、腐食性物質を上記(B)の層に捕捉することができる。上記(B)の層における酸化バリウム等の化合物の含有量は上記金属硫酸塩の含有量と比べて十分大きいことから、上記(B)の層において、上記酸化バリウム等の化合物が上記金属硫酸塩より生じる硫酸イオンと反応せず、外部からの腐食性物質を捕捉する機能を十分発揮することができる。このため、上塗り塗膜を透過して、塗膜20に到達する上記腐食性物質の量を減少させ、鋼材10と塗膜20との間に防食化合物層30を形成するまでに、鋼材の過剰な腐食反応が進行することを防止することができる。上記(B)の層は、酸化バリウム及び水酸化バリウムの少なくとも一方、酸化カルシウム及び水酸化カルシウムの少なくとも一方、並びに、酸化ストロンチウム及び水酸化ストロンチウムの少なくとも一方のうちの、2つ以上を含有することが好ましい。
【0062】
酸化バリウム、水酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び水酸化ストロンチウムの含有量の合計は、上記(B)の層の全質量を基準として、例えば1.0〜70.0質量%であることができる。上記含有量が1.0質量%以上であることにより上記(B)の層によって奏される上述の効果が得られやすくなる。また、上記含有量が70.0質量%以下であることにより、塗膜の鋼材への密着性が得られやすくなる。同様の観点から、上記含有量の合計は、好ましくは2.0〜60.0質量%であり、より好ましくは3.0〜50.0質量%である。また、上記(B)の層における酸化バリウム、水酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び水酸化ストロンチウムの含有量の合計は、塗膜における酸化バリウム、水酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び水酸化ストロンチウムの含有量の合計より大きいことが好ましい。
【0063】
上記(B)の層における上記金属硫酸塩としては、具体的には、上記塗料に含まれる金属硫酸塩と同様のものが挙げられる。
【0064】
上記(B)の層は、この他、上記塗料と同様に、上記(B)の層によって奏される作用効果を阻害しない範囲内において、樹脂、リン酸、金属粉及びその他の成分等を含有することができる。それぞれの材料の含有量は、上記塗料の固形分(塗膜)中の含有量と同様であることができる。なお、上記(B)の層の透湿度は特に制限されない。したがって、上記(B)の層は、上記(A)の層における透湿度の要件を満たしてもよい。この場合、上記(B)の層は上記(A)の層の機能を兼ねることになる。しかし、上記(B)の層は上記(A)の要件を満たさなくてもよい。すなわち、上記(B)は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m
2・24h)を超える透湿度を有する層であってもよい。
【0065】
上記(B)の層の厚さは、例えば、10〜200μmであり、10〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。また、上記(B)の層の厚さは、15〜30μmであってもよい。
【0066】
次に、上記(C)の層について説明する。(C)の層は、水100gに対する溶解量は5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含有する層である。(C)の層はまた、酸化バリウム、水酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、及び水酸化ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物(酸化物又は水酸化物)を含有しない、又は、上記金属硫酸塩の全質量に対する上記化合物の全質量の比が5.0質量%以下であるように含有する、層である。上記(C)の層が上記化合物を含有する場合、上記金属硫酸塩の全質量に対する上記化合物の全質量の比は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。塗膜20上に、上記(C)の層のような上塗り塗膜が形成されることにより、金属硫酸塩が上記(C)の層に浸入してきた水に溶解して、塗膜20側に硫酸を供給する。これは、上記(C)の層における上記金属硫酸塩の含有量が上記酸化バリウム等の化合物の含有量と比べて十分大きく、上記(C)の層において、金属硫酸塩の溶解によって生じた硫酸イオンがバリウム、カルシウム及びストロンチウム等のカチオンと反応せず、これらに捕捉されないからである。供給された硫酸は、上記(C)の層より塗膜20側にある酸化バリウム及び/又は水酸化バリウム等と反応し、さらには鋼材の溶解を促進して、防食化合物層をより強固にすることができる。上記(C)の層は、被覆鋼材が腐食性の弱い環境下に置かれる場合においても、防食化合物層の形成に必要な硫酸イオンを供給することができる。また、被覆鋼材が厳しい腐食環境下に置かれる場合においても、上記(A)の層又は上記(B)の層と併用し、硫酸イオンの過剰な供給を抑制することにより、防食化合物層を強固にする効果を発揮しつつ、防食化合物層形成前の過度の腐食を防止することができる。上記(C)の層において、上記金属硫酸塩は、温度5℃及び濃度1mol/Lの水溶液としたときに、5.5以下のpHを示すことが好ましい。また、上記金属硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硫酸銅、及び硫酸クロム(III)からなる群より選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。金属硫酸塩として上記化合物を用いることにより、強固な防食化合物層が一層得られやすくなる。
【0067】
上記金属硫酸塩の含有量の合計は、上記(C)の層の全質量を基準として、例えば1.0〜70.0質量%であることができる。上記含有量が1.0質量%以上であることにより上記(C)の層によって奏される上述の効果が得られやすくなる。また、上記含有量が70.0質量%以下であることにより、塗膜の鋼材への密着性が得られやすくなる。同様の観点から、上記含有量の合計は、好ましくは2.0〜60.0質量%であり、より好ましくは3.0〜50.0質量%である。また、上記(C)の層における上記金属硫酸塩の含有量の合計は、塗膜における上記金属硫酸塩の含有量の合計より大きいことが好ましい。
【0068】
上記(C)の層は、この他、上記塗料と同様に、上記(C)の層によって奏される作用効果を阻害しない範囲内において、樹脂、リン酸、金属粉及びその他の成分等を含有することができる。それぞれの材料の含有量は、上記塗料の固形分(塗膜)中の含有量と同様であることができる。なお、上記(C)の層の透湿度は特に制限されない。したがって、上記(C)の層は、上記(A)の層における透湿度の要件を満たしてもよい。この場合、上記(C)の層は上記(A)の層の機能を兼ねることになる。しかし、上記(C)の層は上記(A)の要件を満たさなくてもよい。すなわち、上記(C)は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m
2・24h)を超える透湿度を有する層であってもよい。
【0069】
上記(C)の層の厚さは、例えば、10〜200μmであり、10〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。また、上記(A)の層の厚さは、15〜30μmであってもよい。
【0070】
上塗り塗膜の形成方法としては、上塗り塗膜形成用の樹脂塗料を塗膜20の形成の際の塗料の塗布方法と同様の方法が挙げられる。
【0071】
上記塗膜20を鋼材等の表面に設けることにより、鋼材等に対して一般的な腐食環境のみならず、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境においても、高い耐食性を付与することができる。また、上塗り塗膜は、上記塗膜と併せて、鋼材等を保護するための保護膜であるということもできる。すなわち、上記保護膜は上記塗膜と、上記塗膜の上に設けられた上塗り塗膜とを備える。保護膜が上塗り塗膜を備えることにより、鋼材等に意匠性を付与することができるとともに、防食化合物層による防食効果を補助することができ、鋼材の耐食性をさらに向上することが可能となる。なお、上記塗膜20と鋼材との間に、装飾及び防食等のための別の層が設けられていても差し支えない。また、鋼材が錆を有する場合、塗料の塗布前に、鋼材表面をショットブラスト又は電動工具等で研磨してもよく、ワイヤーブラシ等で錆を除去してもよい。反対に、鋼材の錆を除去しないままに塗料を塗布することも可能である。したがって、例えば、不動産である橋梁を構成する鋼材において、その使用による錆が生じた場合に、錆を含んだまま鋼材上に塗料を塗布し、塗膜を形成することにより、当該鋼材に対して耐食性を付与することが可能であり、現場での柔軟な対応を可能とすることができる。
【0072】
図1の(c)に示すように、耐食性鋼構造体200は、鋼材10と、塗膜20と、鋼材10と塗膜との間に形成された防食化合物層30とを備える。
図1の(b)に示される被覆鋼材100を、水を含む腐食環境下に曝露させることにより、塗膜20中の各成分と、鋼材10中の鉄などの金属成分と、が上述した作用を伴って防食化合物層30を形成し、耐食性鋼構造体200が得られる。
【0073】
防食化合物層30の形成のために、好適な被覆鋼材100の曝露環境は被覆鋼材100に水分を提供可能な含水環境であることができ、上記曝露は例えば屋外環境若しくは屋内環境下、硫酸等の酸性環境下、海塩粒子飛来環境下、又はSO
x若しくはNO
x等の大気汚染物質飛来環境下等で行われてもよい。また、好適な被覆鋼材100の曝露条件としては、例えば、屋外に1〜30日程度曝すことが挙げられる。
【0074】
耐食性鋼構造体200は、防食化合物層30を備えることから、外部の腐食環境に存在する水、酸素及び各種腐食性物質が鋼材に過度に透過することを抑制することができ(バリアー効果)、一般的な腐食環境のみならず、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境においても優れた耐食性を有する。防食化合物層30の形成後に、塗膜20を剥離してもよい。
【0075】
防食化合物層30の厚さは、0.5〜50μm程度であってよい。防食化合物層30の厚さが0.5μm以上であると、鋼材の耐食効果が得られやすくなる。
【0076】
この防食化合物層は、一般腐食環境のみならず、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境においてもその効果を発揮するものである。なお、ここでいう酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境とは、低いpH環境(例えば、pH4.0以下)、又は、塩化物が常時各種鋼材表面に自然大気腐食環境(一般的な腐食環境)を上回る濃度で存在する(例えば海の近くの地上)など、鋼材の腐食を著しく加速することが想定される環境などが例示される。
【0077】
また、
図2の(a)〜(c)に示すように、鋼材10に代えて、めっき鋼材14を用いてもよい。
図2の(a)に示すように、めっき鋼材14は、鋼材10の表面に、防食作用を有する金属、例えば、アルミニウム、亜鉛及びこれらの合金等の金属によるめっき層12を有するものである。鋼材10に代えてめっき鋼材14を用いた場合、
図2の(b)に示すように、被覆鋼材100はめっき鋼材14と、該めっき鋼材14の表面上に形成された塗膜20とを備える。めっき鋼材14としては、例えば、溶融亜鉛めっき鋼材が挙げられる。
【0078】
また、鋼材10に代えてめっき鋼材14を用いた場合、
図2の(c)に示すように、耐食性鋼構造体200は、めっき鋼材14と、めっき鋼材14と塗膜20との間又は塗膜20の内部に形成された防食化合物層30とを備える。なお、
図1のように鋼材10上に上記塗料を塗布したときには、鋼材10中の一部の鉄等の腐食による鉄イオンや鉄酸化物の生成が防食化合物層30の形成に寄与するが、
図2のようにめっき鋼材14上に上記塗料を塗布したときには、めっき層12中の一部の亜鉛等の腐食による亜鉛イオンや亜鉛酸化物の生成が防食化合物層30の形成に寄与する。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0080】
(実施例1)
<塗料の調製>
水酸化バリウム0.05質量部、硫酸アルミニウム5質量部、硫酸ニッケル5質量部、硫酸マグネシウム5質量部、体質・着色顔料10質量部、及びポリビニルブチラール樹脂(表4に示す樹脂X)74.95質量部を、塗料の粘度が20℃において200〜1000cpsとなるように適当量のキシレン、トルエン及びイソプロピルアルコールとともに混合し、塗料を得た。なお、上記体質・着色顔料は、体質顔料としての、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム、並びに、着色顔料としての、ベンガラ、カーボン(無機顔料)及びフタロシアニンブルー(有機顔料)からなり、それぞれを等質量部含むものである。塗料の固形分の組成を表5に示す。
【0081】
<耐酸試験用被覆鋼材の作製>
30×25×5mmの寸法を有する、下記表1に示す試験片(I)を準備した。表1は、耐酸試験に用いる鋼材の化学成分及び亜鉛めっきの有無を示すものである。表1中の数値の単位はいずれも質量%であり、表1中に記載される以外の化学成分は鉄(Fe)である。試験片(I)の表面に対して下記表2に示す前処理αを行い、得られた清浄表面を有する試験片を試験片(Iα)とした。表5における試験材Aとは耐酸試験に対しては試験片(Iα)を意味する。
【0082】
前処理後の試験片(Iα)の表面に、エアスプレー法により、得られた塗料を塗布した。そして、塗布後の試験材を常温(25℃)で、通常の塗膜試験法に従い、7日間空気中で乾燥させることにより、被覆鋼材を得た。塗料から形成された塗膜の厚さは15μmであった。
【表1】
【表2】
【0083】
<耐塩化物試験用被覆鋼材の作製>
30×25×5mmの寸法を有する、下記表3に示す試験片(III)を準備した。表3は、耐塩化物試験に用いる鋼材の化学成分及び亜鉛めっきの有無を示すものである。表3中の数値の単位はいずれも質量%であり、表3中に記載される以外の化学成分は鉄(Fe)である。
【0084】
試験片(III)の表面に対して上記表2に示す前処理αを行い、得られた清浄表面を有する試験片を試験片(IIIα)とした。表5における試験材Aとは耐塩化物試験に対しては試験片(IIIα)を意味する。
【0085】
前処理後の試験片(IIIα)の表面に、エアスプレー法により、得られた塗料を塗布した。そして、塗布後の試験材を常温(25℃)で、通常の塗膜試験法に従い、7日間空気中で乾燥させることにより、被覆鋼材を得た。塗料から形成された塗膜の厚さは15μmであった。
【表3】
【0086】
(実施例及び比較例2〜728)
塗料の組成を表5〜77に記載されるように変更した以外は実施例1と同様にして実施例及び比較例2〜728の塗料を得た。また、比較例641〜645の塗料には、JIS K 5553に規定される市販の有機ジンクリッチ塗料を用いた。なお、塗料中の溶剤の量は、B型粘度計を用いた20℃における塗料の粘度が200〜1000cpsとなるように、適宜調整した。この他、実施例及び比較例2〜728では、鋼材の試験片、前処理方法、及び塗膜の厚さを表5〜77に記載されるように変更した以外は、実施例1と同様にして耐酸試験用及び耐塩化物試験用の被覆鋼材を得た。
【0087】
(実施例731〜750)
塗料の組成を表78及び表79に記載されるように変更した以外は実施例1と同様にして実施例731〜750の塗料を得た。塗料中の溶剤の量は、B型粘度計を用いた20℃における塗料の粘度が200〜1000cpsとなるように、適宜調整した。さらに、実施例731〜750については、鋼材の試験片、前処理方法、及び塗膜の厚さを表78及び表79に記載されるように変更して塗膜を形成するとともに、この塗膜上にさらに上塗り塗料を塗布して設けた上塗り塗膜((A)の層に相当する)を表78及び表79に記載される厚さ及び透湿度となるように形成したこと以外は実施例1と同様にして耐酸試験用及び耐塩化物試験用の被覆鋼材を得た。なお、上塗り塗膜の透湿度は、上塗り塗料として、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂を単独又は混合して用いることにより、調整した。上塗り塗膜の透湿度は、各実施例及び比較例と同じ上塗り塗料を用いて透湿度測定用に厚さ100μmの上塗り塗膜を作製し、JIS Z 0208(カップ法)の条件B(温度40℃、相対湿度90%)に準じて測定した。
【0088】
(実施例751〜760)
実施例204と同様にして、表80に記載されるとおり、実施例751〜760の塗料を得て、試験片の表面上に塗膜を形成した。塗料中の溶剤の量は、B型粘度計を用いた20℃における塗料の粘度が200〜1000cpsとなるように、適宜調整した。さらに、実施例751〜760では、上記塗膜上に表81に記載される組成を有する上塗り塗料を各々表80に記載されるとおりの厚さ及び樹脂系で塗布して設けた上塗り塗膜(実施例751、753、755、757及び759においては(B)の層に相当し、実施例752、754、756、758及び760においては(C)の層に相当する)を形成したこと以外は実施例204と同様にして耐酸試験用及び耐塩化物試験用の被覆鋼材を得た。
【0089】
(実施例761〜770)
実施例254と同様にして、表82に記載されるとおり、実施例761〜770の塗料を得て、試験片の表面上に塗膜を形成した。塗料中の溶剤の量は、B型粘度計を用いた20℃における塗料の粘度が200〜1000cpsとなるように、適宜調整した。さらに、実施例761〜770では、上記塗膜上に表81に記載される組成を有する第1上塗り塗料を各々表82に記載されるとおりの厚さ及び樹脂系で塗布して設けた第1上塗り塗膜(実施例761、763、765、767及び769においては(B)の層に相当し、実施例762、764、766、768及び770においては(C)の層に相当する)、及び上記第1上塗り塗膜上に表81に記載される組成を有する第2上塗り塗料を表82に記載されるとおりの厚さ及び樹脂系で塗布して設けた第2上塗り塗膜(実施例761、763、765、767及び769においては(C)の層に相当し、実施例762、764、766、768及び770においては(B)の層に相当する)を形成したこと以外は実施例254と同様にして耐酸試験用及び耐塩化物試験用の被覆鋼材を得た。
【0090】
(実施例771〜774)
実施例204と同様にして、表83に記載されるとおり、実施例771〜774の塗料を得て、試験片の表面上に塗膜を形成した。次に、実施例771〜774では、上記塗膜上にさらに表81に記載される組成を有する第1上塗り塗料を各々表83に記載されるとおりの厚さ及び樹脂系で塗布して設けた第1上塗り塗膜(実施例771及び773においては(B)の層に相当し、実施例772及び774においては(C)の層に相当する)を形成した。そして、上記第1上塗り塗膜上にさらに表81に記載される組成を有する第2上塗り塗料を各々表83に記載されるとおりの厚さ及び樹脂系で塗布して設けた第2上塗り塗膜(実施例771及び773においては(C)の層に相当し、実施例772及び774においては(B)の層に相当する)を形成した。さらに、実施例773〜774では、上記第2上塗り塗膜上にさらに第3上塗り塗料を塗布して設けた第3上塗り塗膜((A)の層に相当する)を表83に記載される厚さ及び透湿度となるように形成した。以上のようにして、実施例771〜774の耐酸試験用及び耐塩化物試験用の被覆鋼材を得た。なお、第3上塗り塗膜の透湿度は、上塗り塗料として、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂を単独又は混合して用いることにより、調整した。
【0091】
(実施例781〜784)
実施例254と同様にして、表84に記載されるとおり、実施例781〜784の塗料を得て、試験片の表面上に塗膜を形成した。次に、実施例781〜784では、上記塗膜上にさらに表81に記載される組成を有する第1上塗り塗料を各々表84に記載されるとおりの厚さ及び樹脂系で塗布して設けた第1上塗り塗膜(実施例781及び783においては(B)の層に相当し、実施例782及び784においては(C)の層に相当する)を形成した。そして、実施例783〜784では、上記第1上塗り塗膜上にさらに第2上塗り塗料を塗布して設けた第2上塗り塗膜((A)の層に相当する)を表84に記載される厚さ及び透湿度となるように形成した。以上のようにして、実施例781〜784の耐酸試験用及び耐塩化物試験用の被覆鋼材を得た。なお、第2上塗り塗膜の透湿度は、上塗り塗料として、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂を単独又は混合して用いることにより、調整した。
【0092】
なお、実施例及び比較例2〜784の耐酸試験及び耐塩化物試験では、試験材として、上記試験材Aとともに試験材B〜Dを用いている。実施例及び比較例2〜784における試験材A〜Dについて以下のとおり説明する。
【0093】
上記表1に示す試験片(I)及び試験片(II)を準備した。試験片(II)の表面に対して上記表2に示す前処理αを行い、得られた試験片を試験片(IIα)とした。さらに、試験片(I)及び(II)の表面に対して上記表2に示す前処理βを行い、得られた試験片をそれぞれ試験片(Iβ)及び(IIβ)とした。
【0094】
また、上記表3に示す試験片(III)及び(IV)を準備した。試験片(IV)の表面に対して上記表2に示す前処理αを行い、得られた試験片を試験片(IVα)とした。さらに、試験片(III)及び(IV)の表面に対して上記表2に示す前処理βを行い、得られた試験片をそれぞれ試験片(IIIβ)及び(IVβ)とした。
【0095】
表5〜80及び82〜84の試験材の欄に記載されている試験材Aとは、上述のとおり、耐酸試験用被覆鋼材の試験材として試験片(Iα)を、耐塩化物試験用被覆鋼材の試験材として試験片(IIIα)を用いたことを意味する。試験材Bとは、耐酸試験用被覆鋼材の試験材として試験片(Iβ)を、耐塩化物試験用被覆鋼材の試験材として試験片(IIIβ)を用いたことを意味する。試験材Cとは、耐酸試験用被覆鋼材の試験材として試験片(IIα)を、耐塩化物試験用被覆鋼材の試験材として試験片(IVα)を用いたことを意味する。試験材Dとは、耐酸試験用被覆鋼材の試験材として試験片(IIβ)を、耐塩化物試験用被覆鋼材の試験材として試験片(IVβ)を用いたことを意味する。
【0096】
また、上記前処理βにおける大気中への曝露は、福井県小浜市の小浜湾を西に望む海岸から20mの位置(北緯35度31分49.39秒、東経135度45分4.69秒)において、曝露姿勢を水平として行った。当該曝露地の年平均飛来塩分量は、約0.8mgNaCl/100cm
2/日と、海塩の飛来の影響を強く受ける腐食環境である。
【0097】
表5〜80及び82〜84の樹脂系の欄の記号の意味は下記表4に示すとおりである。例えば、樹脂系の欄にYと記載された実施例は、実施例1のポリビニルブチラール樹脂(樹脂X)に代えて、同じ質量の、エポキシ樹脂とポリアミノアミド樹脂との混合物が用いられたことを示している。また、表5〜80及び82〜84中の亜鉛粉末の平均粒径は4μmであり、アルミニウム粉末の平均粒径は6μmである。
【表4】
【0098】
<耐酸試験前後での鋼材の厚さの減少量評価>
実施例及び比較例で得られた被覆鋼材をセラミック製の台の上に水平に置き、温度70℃相対湿度80%の環境中に2880時間曝露し、その間pH3の酸性水溶液(H
2SO
4 + 10000mg/L NaCl)を12時間おきに、240回噴霧した。噴霧は試験材表面全面が十分液膜で覆われる程度まで実施した。なお、試験材の裏面には酸性水溶液が直接噴霧されないが、酸性水溶液は試験材とセラミック製の台との間を通って回り込む形で裏面に到達するから、裏面も同様に酸性水溶液に曝されることになる。試験材として上記試験片(Iα)を用いた場合は、塗膜剥離剤を用いて曝露試験後の被覆鋼材から塗膜を除去し、その後、得られた鋼材をクエン酸二アンモニウム及び微量の腐食抑制液の混合水溶液中に浸漬して除錆した。除錆後の鋼材の質量と、曝露試験前の試験片の質量とを比較することにより、曝露試験前後での試験片の厚さの減少量を求めた。なお、上記厚さの減少量は、鋼材の厚さが、鋼材の全表面で均一に減少していると仮定して求めたものである。
【0099】
試験材として上記試験片(Iβ)を用いた場合は、前処理βを行った別の試験片を上記と同様に除錆し、除錆後の試験片の質量を曝露試験前の試験片の質量とみなした以外は、試験片(Iα)と同様にして鋼材の厚さの減少量を求めた。
【0100】
試験材として上記表1に示す試験片(IIα)又は試験片(IIβ)を用いた場合は、曝露試験前後において、試験片断面観察から亜鉛めっき層の厚さを測定し、両者を比較することにより、曝露試験前後での鋼材の厚さ(板厚)の減少量(亜鉛めっきと下地となる普通鋼材を併せた厚さの減少量)を求めた。評価結果を表5〜80及び82〜84に示す。
【0101】
<耐塩化物試験前後での鋼材の厚さの減少量評価>
実施例及び比較例で得られた被覆鋼材をセラミック製の台の上に水平に置き、JIS K5600−7−9:2006の附属書1(規定)サイクルDに準じ、下記(1)〜(4)の工程を1サイクルとしたサイクル腐食試験を2年間行った。
(1) 温度30℃で市販の人工海水に塩酸を添加しpH4に調整した水溶液を0.5h噴霧
(2) 温度30℃,相対湿度98%で1.5h保持
(3) 温度50℃,相対湿度25%で2h保持
(4) 温度30℃,相対湿度25%で2h保持
【0102】
試験材として上記試験片(IIIα)を用いた場合は、塗膜剥離剤を用いて曝露試験後の被覆鋼材から塗膜を除去し、その後、得られた鋼材をクエン酸二アンモニウム及び微量の腐食抑制液の混合水溶液中に浸漬して除錆した。除錆後の鋼材の質量と、曝露試験前の試験片の質量とを比較することにより、曝露試験前後での試験片の厚さの減少量を求めた。なお、上記厚さの減少量は、鋼材の厚さが、鋼材の全表面で均一に減少していると仮定して求めたものである。
【0103】
試験材として上記試験片(IIIβ)を用いた場合は、前処理βを行った別の試験片を上記と同様に除錆し、除錆後の試験片の質量を曝露試験前の試験片の質量とみなした以外は、試験片(IIIα)と同様にして鋼材の厚さの減少量を求めた。
【0104】
試験片として上記表3に示す試験片(IVα)又は試験片(IVβ)を用いた場合は、曝露試験前後において、試験片断面観察から亜鉛めっき層の厚さを測定し、両者を比較することにより、曝露試験前後での鋼材の厚さ(板厚)の減少量(亜鉛めっきと下地となる普通鋼材を併せた厚さの減少量)を求めた。評価結果を表5〜80及び82〜84に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
【表9】
【0110】
【表10】
【0111】
【表11】
【0112】
【表12】
【0113】
【表13】
【0114】
【表14】
【0115】
【表15】
【0116】
【表16】
【0117】
【表17】
【0118】
【表18】
【0119】
【表19】
【0120】
【表20】
【0121】
【表21】
【0122】
【表22】
【0123】
【表23】
【0124】
【表24】
【0125】
【表25】
【0126】
【表26】
【0127】
【表27】
【0128】
【表28】
【0129】
【表29】
【0130】
【表30】
【0131】
【表31】
【0132】
【表32】
【0133】
【表33】
【0134】
【表34】
【0135】
【表35】
【0136】
【表36】
【0137】
【表37】
【0138】
【表38】
【0139】
【表39】
【0140】
【表40】
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【0184】
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【0185】
試験結果から以下のことが明らかとなった。すなわち、実施例ではいずれの場合も比較例に比べて板厚減少量又は亜鉛めっき厚減少量が極めて小さく、例えば全く塗装を施さない比較例643〜645では板厚減少量が大変大きくなっており、ジンクリッチ塗料を塗布した比較例641〜642では、全く塗装を施さないよりは腐食を抑えているがそれでも大きな板厚減少量を示している。また、比較例645では亜鉛めっきが消失し下地鋼材の腐食による赤錆の発生に至った。これらのことから、本発明に係る塗料は、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境においても、鋼材に高い耐食性を付与することができると結論づけられる。
【0186】
また、実施例731〜784の被覆鋼材では、塗膜上にさらに上塗り塗膜が設けられており、塗膜のみが設けられている被覆鋼材と比べても板厚減少量がさらに小さくなっている。したがって、被覆鋼材が塗膜に加えて当該塗膜上に上塗り塗膜を備えることにより、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境においても、一層高い耐食性を有していることが確認できる。
【0187】
なお、上述の耐酸試験及び耐塩化物試験の腐食環境は、海岸付近で鋼材を降雨や日照に直接さらす自然腐食環境(一般的な腐食環境)に比べてかなり厳しい条件である。その理由は、例えば海岸付近のような自然腐食環境においては多量の海塩粒子が鋼材に飛来するため腐食が進行しやすいものの、一方で降雨により飛来付着した海塩粒子が洗い流されるためである。