(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凸部における前記旋回スクロールの公転中心軸を含む断面は、三角形状、四角形状、及び円形のいずれか一つの形状をなしている請求項1又は2に記載のスクロール圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された構成においては、ハウジングの一部にアルマイト処理を施すには、手間とコストが掛かる。
【0009】
ガスケットをハウジング同士の合わせ面に挟み込む構成においては、ハウジング同士の結合作業時にボルトを締め込んでいくと、ハウジングとの摩擦等によって、ガスケットが合わせ面からハウジングの内周側や外周側にずれてしまうことがある。スクロール圧縮機のハウジングは、内径が数十mmと大きく、かつ径方向における合わせ面の幅が狭いため、ガスケットがずれると、シール性が損なわれる。
【0010】
また、ガスケットをハウジング同士の合わせ面に挟み込む構成においては、ハウジング同士を結合作業時にボルトを締め込んでいくと、ハウジング同士の間でガスケットが潰れる。すると、一方のハウジングと他方のハウジングとの相対位置が、主軸の軸方向において変動する。その結果、一方のハウジングに設けられた旋回スクロールと、他方のハウジングに固定された固定スクロールとの、主軸の軸方向に沿ったクリアランス(以下、これをチップクリアランスと称する)が、ガスケットの潰れ具合によって変わる。
チップクリアランスが過度に大きくなると、圧縮性が低下し、スクロール圧縮機の性能の低下に繋がる。また、チップクリアランスが過度に小さくなると、旋回スクロールと固定スクロールとが干渉してしまう。このように、ガスケットの潰れ具合、つまりボルトの締め具合によってチップクリアランスが変動してしまうのは、スクロール圧縮機の性能に影響を及ぼすため、好ましくない。したがって、スクロール圧縮機において、ハウジング同士の間にガスケットを挟み込む構成は採用しにくいのが現状である。
【0011】
本発明は、組み立ての手間とコストを抑えつつ、ハウジングの腐食を抑え、性能を安定して発揮することのできるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明の第一の態様によれば、スクロール圧縮機は、互いに対向して結合される第一ハウジングおよび第二ハウジングを有するハウジング部と、前記ハウジング部内に収容され、前記第一ハウジングに固定された固定スクロール、および前記第二ハウジング内で前記固定スクロールに対して公転可能に設けられた旋回スクロールを備えた圧縮部と、前記第一ハウジングと前記第二ハウジングとの間に挟み込まれ、前記第一ハウジング及び前記第二ハウジングの少なくとも一方の側に突出する凸部、及び、前記凸部の外周側又は内周側に延びて前記第一ハウジングと前記第二ハウジングとの間に挟み込まれるとともに前記凸部と一体に形成された平板部を有したシール部材と、前記第一ハウジング及び前記第二ハウジングの前記少なくとも一方に形成され、前記凸部を収容する溝状部と、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとが互いに対向する方向において、前記第一ハウジングと前記第二ハウジングとが直接突き当たるハウジング接触部と、を備え
、前記凸部は、前記シール部材の内周側に形成されるとともに、前記第一ハウジングに、前記第二ハウジングの内側に挿入される筒状部が形成され、前記筒状部と前記第二ハウジングの内周部に形成された傾斜面部または段部との間に前記溝状部が形成され、前記凸部は、前記傾斜面部または前記段部に突き当たって前記溝状部に収容されている。
【0013】
このような構成によれば、第一ハウジングと第二ハウジングとの間に挟み込まれるシール部材に凸部が形成され、この凸部を、第一ハウジング及び第二ハウジングの少なくとも一方に形成された溝状部に収容することで、組み立ての際にシール部材がハウジング部の径方向にずれるのを抑えることができる。
また、第一ハウジングと第二ハウジングとがハウジング接触部において互いに直接突き当たるようにした。したがって、前記固定スクロールと旋回スクロールとが互いに対向する方向における、第一ハウジングと第二ハウジングとの相対位置が固定される。これにより、第一ハウジングと第二ハウジングとの間にシール部材を挟み込んでシール性を確保しつつ、固定スクロールと旋回スクロールとの間のチップクリアランスを精度良く設定することができる。
さらに、シール部材に凸部を設けることで、シール部材の断面積を増大させることができ、シール部材の潰し代(しろ)を増大させてシール性を高めることもできる。これによって、アルマイト処理等のコストおよび手間が掛かる加工をすることなく、高いシール性を得ることができる。
また、シール部材では、外周側の平板部と内周側の凸部との間に、段差が形成されることとなる。これによって、シール部材と、溝状部が形成された第一ハウジングまたは第二ハウジングとの境界面が、ラビリンス効果を発揮し、ハウジング部の外周側からの水等の侵入を、より一層、抑制することができる。
また、シール部材の凸部が第二ハウジングの傾斜面部または段部に干渉することで、ハウジングの外周側へのシール部材の位置ずれの抑制効果を高めることができる。また、シール部材の凸部が筒状部に干渉することで、ハウジングの内周側へのシール部材の位置ずれの抑制効果を高めることができる。
【0014】
本発明の第二の態様では、上記第一の態様において、前記第一ハウジングと前記第二ハウジングとの間に挟み込まれた前記シール部材の外周部は、前記ハウジング部の外周側に露出するようにしてもよい。
【0015】
このような構成によれば、シール部材が、ハウジング部の外周側に露出した状態で第一ハウジングと第二ハウジングとの間に挟み込まれることで、第一ハウジングと第二ハウジングとの合わせ面にハウジング部の外周側から水等が侵入することを抑制することができる。これによって、シール部材を挟み込む第一ハウジングと第二ハウジングが合わせ面で腐食すること自体を抑えることができる。
【0016】
本発明の第三の態様では、上記第一又は第二の態様において、前記凸部における前記旋回スクロールの公転中心軸を含む断面は、三角形状、四角形状、及び円形のいずれか一つの形状をなしていてもよい。
【0017】
このように、断面三角形状、四角形状、円形の凸部を有するシール部材によっても、凸部が溝状部に収容されることで、シール性を確保することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るスクロール圧縮機によれば、組み立ての手間とコストを抑えつつ、ハウジングの腐食を抑え、性能を安定して発揮することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機を図面に基づき説明する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係るスクロール圧縮機の構成を示す断面図である。
図2は、上記スクロール圧縮機のシール構造を示す図であり、
図1の一部の拡大断面図である。
図1に示すように、この実施形態のスクロール圧縮機1Aは、装置の外形をなすハウジング部10と、ハウジング部10内に設けられた圧縮部30と、を備えている。このようなスクロール圧縮機1Aは、ハウジング部10に形成された吸入部(図示無し)からハウジング部10内に導入した作動流体を、圧縮部30で圧縮して高圧状態とし、ハウジング部10に形成された吐出部(図示無し)から外部に吐出する。このようにして圧縮された作動流体は、例えば空調機器等における冷媒として利用される。以下、各部の構成について詳細に説明する。
【0023】
ハウジング部10は、ハウジング本体(第二ハウジング)11と、蓋体(第一ハウジング)12と、を備える。
ハウジング本体11は、スクロール収容部11cと、駆動軸33を収容する軸収容部11sと、を有する。ハウジング本体11のスクロール収容部11c側の端部11aには、開口部13が形成されている。ハウジング本体11の軸収容部11s側の端部11bには、軸収容部11sに連通する軸挿通孔11hが形成されている。
【0024】
蓋体12は、ハウジング本体11の開口部13を塞ぐように設けられる。
図1、
図2に示すように、蓋体12のハウジング本体11に対向する内側面12aの外周部には、ハウジング本体11の開口部13の外周側の合わせ面11fに対向する、合わせ面12fが形成されている。
【0025】
蓋体12の合わせ面12fの内周側には、ハウジング本体11側に突出する筒状の筒状部14が形成されている。筒状部14の外周面14sには、周方向に連続する溝14mが形成され、この溝14m内に環状のシール部材14Kが設けられている。この筒状部14は、蓋体12をハウジング本体11の開口部13に被せたときにハウジング本体11の開口部13の内側に挿入される。この状態で、シール部材14Kが開口部13の内周面13fに突き当たることでシール性を確保し、作動流体が外部に漏出するのを防ぐ。
【0026】
さらに、蓋体12の筒状部14の内周側には、周方向に連続する固定スクロール支持面18が形成されている。
図1に示すように、固定スクロール支持面18の内周側には、ハウジング本体11から離間する方向に凹む凹部19が形成されている。
【0027】
蓋体12には、後述する固定スクロール31を固定するための固定ボルト20が挿通されるボルト挿通孔12hが、内側面12aとその反対側の外側面12bとを連通して形成されている。
【0028】
ハウジング本体11および蓋体12には、開口部13の外周側において、外方に張り出すフランジ部15、16が、開口部13の周方向に間隔を空けて複数設けられている(
図1においては、1箇所のフランジ部15、16のみを示している。)。ハウジング本体11のフランジ部15には、雌ネジ孔15hが形成され、蓋体12のフランジ部16には、ボルト挿通孔16hが、それぞれ互いに連通する位置に形成されている。
ハウジング本体11と蓋体12とは、周方向複数箇所のそれぞれにおいて、フランジ部15、16の対向面(ハウジング接触部)15f、16f同士を突き合わせた状態で、結合ボルト21により結合される。結合ボルト21は、蓋体12側からフランジ部16のボルト挿通孔16hに挿通し、その先端部をハウジング本体11のフランジ部15の雌ネジ孔15hにねじ込んで締結される。
【0029】
圧縮部30は、固定スクロール31と、旋回スクロール32と、駆動軸33と、を備えている。
【0030】
固定スクロール31は、円盤状の端板34と、この端板34の一方側の表面34fから表面34fに直交する方向に立設された固定ラップ35と、を有している。
【0031】
端板34の中央部には、一方側の表面34fと、他方の側の表面34gとを貫通する貫通孔34hが形成されている。
端板34は、表面34gの外周部に、表面34gから直交する方向に突出するボス34bを有している。ボス34bには、雌ネジ孔34nが形成されている。
また、端板34の表面34gの外周部には、周方向に連続する溝34mが形成されている。この溝34mに、環状のシールリング36が収容されている。
【0032】
固定ラップ35は、端板34の表面34fに対向する側から見て渦巻状に形成された壁体である。一例として固定ラップ35は、端板34の中心位置を中心とするインボリュート曲線をなすように構成される。
【0033】
このような固定スクロール31は、端板34の表面34gの外周部を、蓋体12の固定スクロール支持面18に突き当てるとともに、ボス34bを凹部19内に収容して配置される。固定スクロール31は、蓋体12に形成されたボルト挿通孔12hに、固定ボルト20を挿通し、その先端部をボス34bに形成された雌ネジ孔34nにねじ込むことで、蓋体12に固定される。このとき、端板34の外周部の溝34mに収容されたシールリング36は、固定スクロール支持面18に突き当たる。
【0034】
このようにして設けられた固定スクロール31の表面34gと、蓋体12の凹部19との間には、吐出チャンバTが形成される。
【0035】
旋回スクロール32は、円盤状の端板41と、この端板41の固定スクロール31に対向する側の表面41fに設けられた渦巻状の旋回ラップ42と、を有している。
端板41では、旋回ラップ42が設けられた表面41fとは反対側の表面に、軸支孔41hが形成されている。
旋回ラップ42は、端板41の表面41fに対向する側から見て渦巻状に形成された壁体である。一例として旋回ラップ42は、端板41の中心部を中心とするインボリュート曲線をなすように構成される。
【0036】
これらの固定ラップ35および旋回ラップ42は、固定ラップ35と旋回ラップ42とを互いに噛み合わせた状態で、ハウジング本体11のスクロール収容部11cに収容されている。
固定スクロール31の端板34および固定ラップ35と、旋回スクロール32の端板41および旋回ラップ42との間には、作動流体を圧縮する圧縮室Aが形成される。
【0037】
駆動軸33は、ハウジング本体11の軸収容部11sに設けられた一対の軸受43、44により、その中心軸C(公転中心軸)周りに回動自在に支持されている。駆動軸33の一端33aは、ハウジング本体11に形成された軸挿通孔11hからハウジング部10の外部に突出している。この駆動軸33の一端33aに、外部のモータやエンジン等を連結することで、駆動軸33は中心軸C回りに回転駆動される。
【0038】
軸受43と軸受44との間には、ハウジング本体11の軸収容部11sの内周面と駆動軸33の外周面との間を塞ぐシール部材45が設けられている。
【0039】
駆動軸33の他端33bには、駆動軸33の中心軸Cから側方にオフセットした位置に偏心中心軸Chを有する偏心軸46が、旋回スクロール32側に突出して設けられている。偏心軸46は、旋回スクロール32の端板41に形成された軸支孔41h内に軸受47を介して回動自在に連結されている。
【0040】
駆動軸33を中心軸C回りに回転駆動させると、偏心軸46が、中心軸Cを中心とし、偏心中心軸Chの中心軸Cからのオフセット寸法を半径とした円周軌道に沿って旋回する。すると、旋回スクロール32が偏心軸46とともに、中心軸C回りに公転する。
【0041】
また、駆動軸33と旋回スクロール32の間には、駆動軸33の中心軸Cに対して偏心して旋回する旋回スクロール32によるアンバランスを解消するため、バランサ48が設けられている。
【0042】
このような圧縮部30においては、駆動軸33により旋回スクロール32を公転させると、ハウジング部10に形成された吸入部(図示無し)からハウジング部10内に作動流体が導入される。固定スクロール31および旋回スクロール32の外周側から作動流体が圧縮室Aに吸入され、圧縮室A内において内周側に移動するにしたがって圧縮される。圧縮された作動流体は、固定スクロール31の端板34の中央部に形成された貫通孔34hから吐出チャンバT内を経て、ハウジング部10に形成された吐出部(図示無し)から外部に吐出される。
【0043】
上記のようなスクロール圧縮機1Aにおいて、ハウジング本体11と蓋体12との間は、以下に示すようなシール構造によりシールされている。
即ち、
図2に示すように、スクロール圧縮機1Aは、ハウジング本体11の合わせ面11fと、蓋体12の合わせ面12fとの間に、開口部13の外周側に沿って連続する環状のシール部材50を備えている。
【0044】
シール部材50は、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、HNBR(水素化ニトリルゴム)等のゴム系材料により形成されている。このシール部材50の合わせ面12fに対向する側は、第一平面部50aとされている。シール部材50の合わせ面11fに対向する側は、環状のシール部材50の外周側に、第一平面部50aと平行な第二平面部50bが形成され、内周側に、第二平面部50b及び第一平面部50aから離間する方向に第二平面部50bから突出した凸部50cが形成されている。この実施形態において、凸部50cは、外周側の第二平面部50bから径方向内方に向かうにしたがって第二平面部50bから漸次離間する方向に傾斜した傾斜面50dを有した断面視三角形状に形成されている。
【0045】
合わせ面11fは、ハウジング本体11の外周面11gに近い外周側が、駆動軸33の中心軸Cに直交する平面部51とされ、開口部13に近い内周側が、平面部51から、内周側に向かって蓋体12から離間する方向に傾斜した傾斜面部52とされている。
【0046】
蓋体12の合わせ面12fは、駆動軸33の中心軸Cに直交する平面53により形成されている。この合わせ面12fは、フランジ部16においてハウジング本体11のフランジ部15に対向する対向面16f(
図1参照)に対し、所定寸法だけハウジング本体11から離間した位置に形成されている。つまり、合わせ面12fと、フランジ部16の対向面16fとは、段違いに形成されている。
【0047】
ハウジング本体11の合わせ面11fと、蓋体12の合わせ面12fとの間では、シール部材50は、第一平面部50aが蓋体12の合わせ面12fに突き当たり、第二平面部50bがハウジング本体11の合わせ面11fの平面部51に突き当たり、傾斜面50dが合わせ面11fの傾斜面部52に突き当たる。
これにより、シール部材50において、第一平面部50aの外周側と第二平面部50bとの間に形成された平板部50eは、ハウジング本体11の合わせ面11fの平面部51と、蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。また、シール部材50の凸部50cは、ハウジング本体11の合わせ面11fの傾斜面部52と、蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。さらに、シール部材50の内周面50fは、筒状部14の外周面14sに突き当たっている。
すなわち、シール部材50は、内周側の凸部50cが、傾斜面部52と筒状部14の外周面14sとによって形成される溝状部55に収容されている。また、シール部材50では平板部50eが凸部50cから外周側に延びて、ハウジング本体11の合わせ面11fと、蓋体12の合わせ面12fとの間から、周方向の一部(フランジ部15、16が形成された以外の部分)でハウジング部10の外周側に露出するよう設けられている。
【0048】
ここで、シール部材50は、合わせ面11f、12fの間に挟み込むことによってシール部材50が潰れる寸法をαとし、シール部材50がハウジング本体11と蓋体12とから外力が加えられない自然状態での中心軸Cの方向の寸法をβとすると、α/βで表される潰し代が、例えば0.3(30%)以上となるよう、シール部材50の凸部50cの厚さ、溝状部55の深さを設定するのが好ましい。
【0049】
図1に示すように、このようにしてシール部材50を挟み込んだハウジング本体11と蓋体12とは、ハウジング本体11のフランジ部15の対向面15fと、蓋体12のフランジ部16の対向面16fとが、シール部材50を介さずに直接突き当たっている。これにより、ハウジング本体11と蓋体12との駆動軸33の中心軸C方向における相対位置が固定されている。
【0050】
上述したような構成のスクロール圧縮機1Aによれば、蓋体12とハウジング本体11との間に挟み込まれるシール部材50に凸部50cが形成され、この凸部50cを、溝状部55に収容することで、組み立て時にシール部材50がずれるのを抑えることができる。
また、蓋体12とハウジング本体11との間にシール部材50を挟み込んでシール性を確保しつつ、蓋体12とハウジング本体11とがフランジ部15、16の対向面15f、16fにおいて互いに直接突き当たるようにした。したがって、固定スクロール31と旋回スクロール32とが互いに対向する方向における、蓋体12とハウジング本体11との相対位置が固定される。これにより、固定スクロール31の固定ラップ35の先端と旋回スクロール32の端板41との間のチップクリアランスを精度良く設定することができる。
さらに、シール部材50に凸部50cを設けることで、シール部材50の断面積を増大させることができ、シール部材50の潰し代(しろ)を増大させてシール性を高めることもできる。これによって、アルマイト処理等のコストが掛かる加工をすることなく、高いシール性を得ることができる。
従って、このようなスクロール圧縮機1Aによれば、手間とコストを抑えつつ、ハウジングの腐食を抑え、性能を安定して発揮することが可能となる。
【0051】
また、蓋体12とハウジング本体11との間に挟み込まれたシール部材50の外周部は、ハウジング部10の外周側に露出しているので、蓋体12とハウジング本体11との合わせ面に、ハウジング部10の外周側から水等が侵入することを防ぐことができる。これによって、シール部材50を挟み込むハウジング本体11、蓋体12の合わせ面11f、12fが腐食すること自体を抑えることができる。
【0052】
さらに、シール部材50は、凸部50cの外周側に、蓋体12とハウジング本体11との間に挟み込まれる平板部50eを一体に備えている。これにより、シール部材50の外周側の平板部50eと内周側の凸部50cとの間に、段差が形成されることとなる。これによって、シール部材50と、ハウジング本体11との境界面が屈曲してラビリンス効果を発揮し、ハウジング部10の外周側からの水等の侵入を、より一層確実に防ぐことができる。
【0053】
また、シール部材50の凸部50cを断面三角形状とし、この凸部50cを溝状部55に収容することで傾斜面50dが傾斜面部52に接触し、シール性を容易に確保することができる。
【0054】
加えて、蓋体12に、ハウジング本体11の内側に挿入される筒状部14が形成され、凸部50cは、シール部材50の内周側に形成され、溝状部55は、ハウジング本体11の内周部に形成された傾斜面部52と筒状部14との間に形成される。
このように構成することで、シール部材50の凸部50cは、ハウジング本体11の傾斜面部52に干渉することで、ハウジング部10の外周側への位置ずれを確実に防ぐことができる。また、シール部材50の凸部50cが筒状部14に干渉することで、ハウジング部10の内周側への位置ずれを確実に防ぐことができる。
【0055】
(第二実施形態)
次に、本発明にかかるスクロール圧縮機の第二実施形態について説明する。以下に説明する第二実施形態においては、第一実施形態のスクロール圧縮機1Aに対し、ハウジング本体11と蓋体12との間のシール構造の構成のみが異なるので、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複説明を省略する。
【0056】
図3は、本発明の第二実施形態に係るスクロール圧縮機の構成を示す断面図である。
図4は、上記スクロール圧縮機のシール構造を示す図であり、
図3の一部の拡大断面図である。
図3に示すように、この実施形態におけるスクロール圧縮機1Bにおいて、ハウジング本体11と蓋体12との間は、以下に示すようなシール構造によりシールされている。
図3、
図4に示すように、ハウジング本体11の合わせ面11fと、蓋体12の合わせ面12fとの間には、開口部13の外周側に沿って連続する環状のシール部材60が設けられている。
【0057】
シール部材60は、上記第一実施形態におけるシール部材50と同様、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、HNBR(水素化ニトリルゴム)等のゴム系材料により形成されている。
図4に示すように、このシール部材60の合わせ面12fに対向する側は、第一平面部60aとされている。シール部材60の合わせ面11fに対向する側は、環状のシール部材60の外周側に、第一平面部60aと平行な第二平面部60bが形成され、内周側に、第二平面部60bに対して第一平面部60aから離間する方向に突出した凸部60cが形成されている。
この実施形態において、凸部60cは、外周側の第二平面部60bに直交して第一平面部60a側から離間するように延びる壁部60dと、壁部60dの先端から壁部60dに直交して第二平面部60bに平行に延びる第三平面部60vとを備え、断面視四角形状に形成されている。
【0058】
合わせ面11fは、ハウジング本体11の外周面11gに近い外周側が、駆動軸33の中心軸Cに直交する平面部61とされ、開口部13に近い内周側が、平面部61に対し、蓋体12から離間する側に凹となる段部62とされている。
【0059】
蓋体12の合わせ面12fは、駆動軸33の中心軸Cに直交する平面53により形成されている。この合わせ面12fは、フランジ部16においてハウジング本体11のフランジ部15に対向する対向面16f(
図3参照)に対し、所定寸法だけハウジング本体11から離間した位置に形成されている。つまり、合わせ面12fと、フランジ部16の対向面16fとは、段違いに形成されている。
【0060】
ハウジング本体11の合わせ面11fと、蓋体12の合わせ面12fとの間では、シール部材60は、第一平面部60aが蓋体12の合わせ面12fに突き当たり、第二平面部60bがハウジング本体11の合わせ面11fの平面部61に突き当たり、凸部60cが合わせ面11fの内周側の段部62に収容される。
これにより、シール部材60において、第一平面部60aの外周側と第二平面部60bとの間に形成された平板部60eは、ハウジング本体11の合わせ面11fの平面部61と、蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。また、シール部材60の凸部60cは、ハウジング本体11の合わせ面11fの段部62の底面62aと、蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。さらに、シール部材60の内周面60fは、筒状部14の外周面14sに突き当たっている。すなわち、シール部材60は、内周側の凸部60cが、段部62と筒状部14の外周面14sとによって形成される溝状部65に収容されている。
【0061】
ここで、シール部材60は、上記第一実施形態と同様、凸部60cの部分におけるシール部材60の潰し代が、例えば0.3(30%)以上となるよう、シール部材60の厚さ、溝状部55の深さを設定するのが好ましい。
【0062】
このようにしてシール部材60を挟み込んだハウジング本体11と蓋体12とは、ハウジング本体11のフランジ部15の対向面15fと、蓋体12のフランジ部16の対向面16fとが、シール部材60を介さずに直接突き当たっている。これにより、ハウジング本体11と蓋体12との駆動軸33の中心軸C方向における相対位置が固定されている。
【0063】
上述したような構成によれば、蓋体12とハウジング本体11との間に挟み込まれるシール部材60に凸部60cが形成され、この凸部60cを、蓋体12またはハウジング本体11に形成された溝状部65に収容することで、シール部材60がずれるのを抑えることができる。
また、蓋体12とハウジング本体11との間にシール部材60を挟み込んでシール性を確保しつつ、蓋体12とハウジング本体11とがフランジ部15、16の対向面15f、16fにおいて互いに直接突き当たるようにした。したがって、固定スクロール31と旋回スクロール32とが互いに対向する方向における、蓋体12とハウジング本体11との相対位置が固定される。これにより、固定スクロール31と旋回スクロール32との間のチップクリアランスを精度良く設定することができる。
さらに、シール部材60に凸部60cを設けることで、シール部材60の断面積を増大させることができ、シール部材60の潰し代(しろ)を高めてシール性を高めることもできる。これによって、アルマイト処理等のコストが掛かる加工することなく、高いシール性を得ることができる。
従って、このようなスクロール圧縮機1Bによれば、手間とコストを抑えつつ、ハウジングの腐食を抑え、性能を安定して発揮することが可能となる。
【0064】
蓋体12とハウジング本体11との間に挟み込まれたシール部材60の外周部は、ハウジング部10の外周側に露出することで、蓋体12とハウジング本体11との合わせ面に、ハウジング部10の外周側から水等が侵入することを防ぐことができる。これによって、シール部材60を挟み込むハウジング本体11、蓋体12の合わせ面11f、12fが腐食すること自体を抑えることができる。
【0065】
シール部材60は、凸部60cの外周側に、蓋体12とハウジング本体11との間に挟み込まれる平板部60eを一体に備えるので、平板部60eと内周側の凸部60cとの間に、段差が形成されることとなる。これによって、シール部材60と、溝状部65が形成されたハウジング本体11との境界面が屈曲してラビリンス効果を発揮し、ハウジング部10の外周側からの水等の侵入を、より一層確実に防ぐことができる。
【0066】
また、シール部材60は、断面四角形状の凸部60cを溝状部65に収容することで、シール性を確保することができる。
【0067】
凸部60cは、シール部材60の内周側に形成され、蓋体12に、ハウジング本体11の内側に挿入される筒状部14が形成されている。さらに、溝状部65は、ハウジング本体11の内周部に形成された段部62と筒状部14との間に形成されるようにした。これにより、シール部材60がハウジング本体11の段部62に干渉することで、ハウジング部10の外周側へのシール部材60の位置ずれを確実に防ぐことができる。また、シール部材60が筒状部14に干渉することで、ハウジング部10の内周側へのシール部材60の位置ずれを確実に防ぐことができる。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。即ち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0069】
例えば、上述した実施形態においては、シール部材60が、ハウジング本体11の外周側と内周側に露出するようにしたが、これに限らず、
図5、
図6に示すような変形例のような構成とすることもできる。
図5は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のシール構造の第一変形例を示す拡大断面図である。
図5に示すように、シール部材60’は、第二実施形態のシール部材60と同様の形状をなしている。ここで、シール部材60’は、第一実施形態のシール部材50と同様の形状をなしていてもよい。シール部材60’では、外周側に、第一平面部60aと第二平面部60bとの間に平板部60e’が形成され、内周側に、第二平面部60b及び第一平面部60aから離間する方向に突出した凸部60c’が形成されている。
【0070】
ハウジング本体11の合わせ面11fは、ハウジング本体11の外周面11gに近い外周側が、駆動軸33の中心軸Cに直交する平面部61とされ、開口部13に近い内周側が、平面部61に対し、蓋体12から離間する側に凹となる溝状部75となっている。
【0071】
シール部材60’の平板部60e’は、ハウジング本体11の合わせ面11fの平面部61と、蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。また、シール部材60’の凸部60c’は、ハウジング本体11の合わせ面11fの溝状部75の底面75aと、蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。さらに、溝状部75よりも内周側では、蓋体12と、ハウジング本体11とが直接接触している部分が形成されている。即ち、合わせ面12fの内周側部分12fa(ハウジング接触部)と、これに対向するハウジング本体11の対向面11t(ハウジング接触部)とが直接突き当たっている。
【0072】
図6は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のシール構造の第二の変形例を示す拡大断面図である。
図6に示すように、シール部材60”は、第二実施形態のシール部材60と同様の形状をなしている。ここで、シール部材60”は、第一実施形態のシール部材50と同様の形状をなしていてもよい。シール部材60”では、外周側に、第一平面部60aと第二平面部60bとの間に平板部60e”が形成され、内周側に、第二平面部60b及び第一平面部60aから離間する方向に突出した凸部60c”が形成されている。
【0073】
ハウジング本体11の合わせ面11fには、ハウジング本体11の外周面11gと内周面13fとの間の中途位置でシール部材60”を収容する溝状部85が形成されている。溝状部85として、ハウジング本体11の外周面11gに近い外周側に、シール部材60”を収容する浅溝部86が形成され、開口部13に近い内周側で、浅溝部86に対し、蓋体12から離間する側に凹となる浅溝部86とつながった深溝部87が形成されている。
【0074】
シール部材60”の平板部60e”は、ハウジング本体11の浅溝部86の底面86aと蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。また、シール部材60”の凸部60c”は、ハウジング本体11の合わせ面11fの深溝部87の底面87aと、蓋体12の合わせ面12fとの間に挟み込まれている。このようにして、溝状部85よりも外周側及び内周側では、蓋体12と、ハウジング本体11とが直接接触している部分が形成されている。即ち、合わせ面12fの内周側部分12fa(ハウジング接触部)と、これに対向するハウジング本体11の対向面11t(ハウジング接触部)とが直接突き当たっている。また、合わせ面12fの外周側部分12fb(ハウジング接触部)と、これに対向するハウジング本体11の対向面11t(ハウジング接触部)とが直接突き当たっている。
【0075】
また、例えば、上記各実施形態では、断面三角形状の凸部50cを有するシール部材50、断面四角形状の凸部60c(60c’、60c”)を有するシール部材60(60’、60”)を例示したが、これに限らない。
図7は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機のシール部材の第三変形例を示す図であり、シール部材の断面形状を示す図である。
例えば、この
図7に示すように、内周側に、断面円形の凸部90cを有し、外周側に平板部90eを有するシール部材90であっても、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
また、例えば、上述した各実施形態においては、溝状部55(65、75、85)をハウジング本体11に形成したが、これに限らず、溝状部55を蓋体12に形成してもよい。
また、シール部材の凸部をハウジング本体11側、及び蓋体12側の両側に設け、ハウジング本体11側、及び蓋体12側の両側に凸部を収容する溝状部を形成してもよい。
また、平板部50e(60e、60e’、60e”、90e)は凸部50c(60c、60c’、60c”、90c)から内周側に延びて形成されていてもよい。
【0077】
また、スクロール圧縮機1A(1B)が組み立てられた状態で、シール部材50(60、60’、60”、90)が溝状部55(65、75、85)に隙間なく収容されるように、シール部材50及び溝状部55の寸法及び形状を選択するとよい。
【0078】
また、上述した実施形態で示したスクロール圧縮機1A、10Bの構成は一例に過ぎず、適宜構成を変更することが可能である。さらに、駆動軸33を外部から駆動する構成に限らず、ハウジング内にモータを内蔵した電動一体型スクロール圧縮機においても、上記と同様の構成を適用することが可能である。
【0079】
また、上述した実施形態、及び各変形例の構成は、適宜組み合わせてよい。