(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量% でNi:10〜35% 、Sn:5〜12% 、P:0〜0.9 % 、C:4.1〜9%を含有し、残部Cuおよび不可避不純物からなる組成を有し、SnとCを含有した複数のCu−Ni合金粒の焼結体からなり、前記複数の合金粒の粒界に気孔が分散形成され、前記気孔内に遊離黒鉛が分布している組織を有し、前記合金粒が構成する金属マトリックス中のC量が質量%で0〜0.07%であることを特徴とする耐食性、耐熱性、耐摩耗性に優れた焼結摺動材。
前記焼結体外周部の少なくとも一部および前記焼結体の気孔の少なくとも一部にSn高濃度合金層が形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の焼結摺動材。
前記原料粉末に黒鉛粉末を混合し、前記原料粉末中に含まれるCと前記黒鉛粉末に含まれるCとの総和を4.1〜9%とすることを特徴とする請求項4に記載の耐食性、耐熱性、耐摩耗性に優れた焼結摺動材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料ポンプやEGRなどの回転あるいは揺動する軸を支える軸受製品は、組み付け精度を確保し、長時間にわたって性能を発揮させるために高い内径寸法精度が求められる。
焼結部品は、原料混合粉末を成形、焼結、サイジングの製造工程を経て製品として得られるが、高い寸法精度を得るためには、成形体の焼結による寸法変化率を一定範囲内に収める必要がある。もし、焼結体の寸法が設計範囲外になると、所定のサイジング代が得られず、寸法精度確保が難しくなり、製品歩留まりの悪化が懸念される。
しかし、特許文献1〜3に示された従来のCu−Ni−Sn系焼結摺動材は、摺動特性確保のため大量の黒鉛を添加した原料粉末を用いなければならないこともあり、焼結による寸法変化は一般軸受焼結材よりも大きく、また、ばらつきも大きいことから、寸法精度確保が難しく、製品歩留まりが低下する場合があるという課題があった。
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、焼結体のマトリックス中に含まれる不純物としてのC量を特別に制御し、製品としての寸法精度確保が容易であり製品歩留まりを向上できる耐食性、耐熱性、耐摩耗性に優れた焼結摺動材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の焼結摺動材は前記課題を解決するために、質量%でNi:10〜35%、Sn:5〜12%、P:0〜0.9%、C:4.1〜9%を含有し、残部Cuおよび不可避不純物からなる組成を有し、SnとCを含有した複数のCu−Ni合金粒の焼結体からなり、前記複数の合金粒の粒界に気孔が分散形成され、前記気孔内に遊離黒鉛が分布している組織を有し、前記合金粒が構成する金属マトリックス中のC量が質量%で0〜0.07%であることを特徴とする。
本発明者らの研究により、Cu−Ni合金粒からなる焼結体の金属マトリックス中に含有されているCが焼結体の寸法変化率に影響を及ぼすことを知見した。しかも金属マトリックス中に含まれているごく微量のCにより焼結体全体の寸法変化率に大きな影響を及ぼすことを知見した。この知見に基づき、NiとSnを規定範囲含み、必要に応じてPを添加したCu−Ni合金粒が構成する焼結体において、金属マトリックス中のC含有量を0〜0.07%とすることで焼結体の焼結前後の寸法変化率を低く抑えることができる。金属マトリックス中のC含有量を0〜0.07%に少なくした場合はいずれの含有量においても寸法変化率を抑制できる。
また、Ni量とSn量を規定の範囲とし、必要に応じてPを適量添加したCu−Ni合金粒の焼結体からなる焼結摺動材であるならば、優れた耐食性、耐熱性、耐摩耗性も兼ね備えることができる。
【0008】
(2)本発明において、前記焼結体の気孔率を8〜21%にできる。
前述の気孔率であるならば、例えば燃料ポンプの軸受として使用する場合に、液体燃料の高圧高速流通下で焼結摺動材が受ける強い摩擦および高い面圧を緩和することができ、摩耗を著しく抑制する作用を奏する。前記気孔率の焼結摺動材の粒界に遊離黒鉛を有することで焼結摺動材の耐摩耗性が向上する。
(3)本発明において、前記焼結体外周部の少なくとも一部および前記焼結体の気孔の少なくとも一部にSn高濃度合金層が形成されていることが好ましい。
【0009】
(4)本発明に係る製造方法は先に記載の焼結摺動材を製造する場合、
脱酸をリン、亜鉛、及びマンガンの何れかで行うか、炭素脱酸で行う場合は脱酸に用いるCの添加量を調整し、C含有量が0〜0.07質量%であるCu−Ni合金粉末を準備し、前記Cu−Ni合金粉末とSn粉末とCu−P合金粉末とを質量%でNi:10〜35%、Sn:5〜12% 、P:0〜0.9% 、C:0〜0.07% 、残部Cu及び不可避不純物の合計組成となるように混合して原料粉末を
得、この原料粉末に黒鉛粉末を混合した混合原料粉末をプレス成型し、焼結して焼結体を得、次いでこの焼結体にサイジングを行うことを特徴とする。
前述の組織と組成を有する焼結摺動材を製造する場合、原料粉末からプレス成形して焼結し、焼結体にサイジングを行う場合、焼結前後の寸法変化率を小さくできるので、サイジングに支障を来すことはなくなり、寸法のバラツキを抑制した寸法精度の高い製品を提供できる。
【0010】
(5)本発明の製造方法において、前記原料粉末に黒鉛粉末を混合し、前記原料粉末中に含まれるCと前記黒鉛粉末に含まれるCとの総和を4.1〜9%にできる。
原料粉末に混合した黒鉛粉末は焼結体の粒界に遊離黒鉛として存在するので焼結摺動材としての優れた耐摩耗性に寄与する。
【0011】
(6)本発明の製造方法において、前記焼結体の気孔率を8〜21%にできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の焼結摺動材は、Cu−Ni合金粒を焼結した焼結材であり、これら粒子が構成する金属マトリックス中のC量を0〜0.07%という低い量に抑制しているので、焼結前後の寸法変化率を小さくすることができ、焼結前後で異常膨張や収縮などの大きな寸法変化を生じ難い、良好な歩留まりで生産できる焼結摺動材を提供できる。また、金属マトリックス中に含有されるNi量、Sn量、P量を好適な範囲に制御することで耐摩耗性、潤滑性に優れ、高温の腐食環境下で使用される摺動材として耐食性に優れた焼結摺動材を提供できる。
また、本発明の焼結摺動材はモーター式燃料ポンプなどの常時ガソリンに浸漬されて使用される軸受部材などに好適であり、地域によってガソリンに軽油やアルコール、その他、有機酸などの腐食性液体を含んだ混合ガソリンに浸漬される場合であっても、高温環境下の耐食性に優れた焼結摺動材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示している場合がある。
【0015】
図1は本発明に係る焼結摺動材からなる筒状の軸受部材1を示し、この軸受部材1は一例として
図2に示す断面組織を有する焼結摺動材から構成され、例えば
図3に示すモーター式燃料ポンプ2に軸受部材として適用されている。
図3に示すモーター式燃料ポンプ2において、円筒状のケーシング3の内部にマグネット4に囲まれてモーター(アーマチュア)5が設けられ、モーター5の回転軸6の両端がケーシング3の内部にそれぞれ設けられた軸受部材1により回転自在に支持されている。
図3の構造では、回転軸6の一端側にインペラ7が取り付けられ、インペラ7の外周面、モーター5の外周面、軸受部材1、1と回転軸6との間の隙間に沿って狭いガソリン流路が形成されている。
【0016】
このモーター式燃料ポンプ2はモーター5の回転でインペラ7を回転させ、このインペラ7の回転力によりケーシング3の一端側に設けた吸入口8からガソリンをケーシング3の内部に取り込み、上述のガソリン流路に沿って流すことができる。そして、ケーシング3の他端側に設けた送出口9からガソリンを送り出すことができる。
前記モーター式の燃料ポンプ2は、一例として内燃機関の燃料タンクの内部にガソリンに浸漬するように設けられ、燃料ポンプ2の送出口9は図示略のフィルター装置およびインジェクターを介しエンジンの燃料噴射部に接続される。
図3に示すモーター式燃料ポンプ2は、常にガソリンに浸漬された状態で使用され、回転軸6を支持している軸受部材1も常時ガソリンに浸漬された状態で使用されるため、軸受部材1はガソリンに対する優れた耐食性が望まれる。
【0017】
このため本実施形態の軸受部材1は、断面において
図2の組織図に示すように複数の合金粒11の粒界部分に気孔12(内在気孔12a及び開気孔12b)が分散され、気孔12の内部に遊離黒鉛(C(Free))13が分散された組織構造の焼結摺動材10からなる。前記合金粒11は、Sn、P、Cを含むCu−Ni合金粒からなり、複数の合金粒11が焼結されることで金属マトリックスが構成され、更に合金粒11の周囲に分散した気孔12および遊離黒鉛13を有して焼結摺動材10の全体組織が構成されている。
Sn高濃度合金層14は、焼結摺動材10に内在する内在気孔12aの内面、焼結摺動材10の表面に開放されて形成されている開気孔12bの内面、及び開気孔12bの開口部近傍に形成されている。Sn高濃度合金層14は、30質量%以上のSnを含有し、焼結摺動材10の有機酸に対する耐食性を高める効果がある。
【0018】
なお、
図2に示すように、焼結摺動材10の外周部において開気孔12bどうしの生成間隔が広い部分ではSn高濃度合金層14が形成されず、合金粒11が露出する露出部15が形成されることがある。しかしながらこの露出部15は開気孔12bではないので、有機酸に対する耐食性にはほとんど影響しない。なお、
図2に示すように焼結摺動材10の外周部のほぼ全域にSn高濃度合金層14が形成されている方が好ましく、焼結摺動材10の外面の開気孔12bを閉じるようにSn高濃度合金層14が形成されていることが好ましい。
焼結摺動材10の製造方法は後に詳述するが、一例として、Cu−Ni合金粉末とSn粉末とCu−P粉末と黒鉛粉末を所定量均一混合して原料粉末を構成し、この原料粉末をプレス成形し、得られた成形体を860〜970℃で焼結することにより得られる。
【0019】
金属マトリックスを構成するCu−Ni合金粒からなる合金粒11により軸受部材1に優れた摺動特性と耐食性が確保される。軸受部材1の全体組織に分散分布された気孔12内に分布する潤滑性の高い遊離黒鉛の潤滑作用により高い潤滑性能が得られる。更に、軸受部材1の内部に存在する気孔12を介して軸受部材1の外周面から軸受部材1の内周面に供給される液体燃料によって形成される流体潤滑膜の作用で、耐摩耗性の一段の向上が図られる。
【0020】
焼結摺動材10の組成比は、質量%でNi:10〜35%、Sn:5〜12%、P:0〜0.9%、C:4.1〜9%であることが好ましい。また、Cu−Ni合金粒11が構成する金属マトリックスに含まれる不可避不純物としてのC量が、質量%で0〜0.07%の範囲であることが好ましい。なお、本明細書において元素含有量の範囲を示す場合、特に記載しない限りその上限と下限を含む範囲とする。このため、Ni:10〜35%は10%以上35%以下の範囲を意味する。
以下、各組成比の限定理由について説明する。
「Ni:10〜35%」
Niは優れた強度と耐摩耗性、耐熱性および耐食性を焼結摺動材10に付与する効果がある。Ni含有量が10%未満では焼結摺動材10として所望の耐摩耗性、耐熱性および耐食性が不十分となり、Ni含有量が35%を超えると、焼結摺動材の材料コストが高くなるために好ましくない。
【0021】
「Sn:5〜12%」
Snは合金粒11において、Cu、Ni及びPと固溶体を形成し、焼結摺動材10の強度ならびに耐摩耗性を向上させる効果がある。Snは、焼結摺動材10において内在気孔12a及び開気孔12bの内面、および、開気孔12bの開口部周縁にSn高濃度合金層14を形成させる。Sn高濃度合金層14は焼結材10の外周部にも形成される。Sn高濃度合金層14は焼結摺動材10の耐食性を向上させる効果がある。Sn含有量が5%未満では所望の耐食性、耐摩耗性が得られず、Sn量が12%以上では焼結時に多量の液相を発生させ、焼結材の寸法がばらつくため好ましくない。
「P:0〜0.9%」
Pは、本実施形態の焼結摺動材10に対し、焼結性を向上させ、マトリックスの強度を向上させる効果を有するが、P含有量が0.9%を超えると焼結体の変形が起こるようになり、製品歩留まりが低下し、好ましくない。
【0022】
「C:4.1〜9%」
Cは主として、焼結摺動材10のマトリックスに分散分布する気孔内に遊離黒鉛として存在し、焼結摺動材10に優れた潤滑性を付与し、耐摩耗性を向上させる。C含有量が4.1%未満であると十分な潤滑効果が得られず、軸受材としての機能を発揮できない。C含有量が9%以上であると、焼結時の寸法の不安定化が生じ、好ましくない。
【0023】
「Cu−Ni合金粉中のC含有量:0〜0.07%」
Cu−Ni合金粉中の不純物炭素の量として0.07%を超えて含有していると、焼結の際、寸法変化率が大きくなり、寸法が安定せず好ましくない。Cu−Ni合金粉中のC含有量は0.001〜0.07%の範囲が好ましい。不純物炭素量0.001%は、炭素脱酸などにより不可避不純物として入ってしまう量である。Cu−Ni合金粉中の不純物炭素の量は、焼結後に得られるCu−Ni合金粒からなる金属マトリックス中のC含有量に相当する。
なお、脱酸は炭素に限らず、リンや亜鉛、マンガン等でも可能であるが、アトマイズ法で粉を製造する場合に用いる黒鉛るつぼから不純物として混入する可能性もあり、不可避不純物として混入する元素である。ただし、黒鉛るつぼはアルミナるつぼ等に変更して炭素の混入を防止することもできる。このため、Cu−Ni合金粉中のC量は0%でも差し支えない。
【0024】
「気孔率:8〜21%」
焼結材の素地に分散分布する気孔には、例えば本実施形態の焼結摺動材10による軸受を燃料ポンプに使用する場合、液体燃料の高圧高速流通下で軸受が受ける強い摩擦および高い面圧を緩和し、持って軸受の摩耗を著しく抑制する作用がある。ところが、焼結摺動材15の気孔率が8%未満では、素地中に分布する気孔の割合が少なく、前記作用の効果が十分得られず、一方焼結摺動材10の気孔率が21%を超えると耐摩耗性が低下するため好ましくない。
【0025】
「焼結摺動材の製造方法」
本実施形態の焼結摺動材10を製造するには、出発材料として10〜100μm程度の範囲内の所定の平均粒径を有するCu−Ni合金粉末とSn粉末とCu−P粉末と黒鉛粉末を用意する。
これらの各粉末を最終目的の組成比となるように混合した後、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を0.1〜1.0%、例えば0.5%程度添加し、V型混合機で数10分程度均一混合し、混合原料粉末を得る。次いで、プレス装置の型に混合原料粉末を投入し、プレス成形して目的の形状、例えば、リング状の圧粉体を得る。
この圧粉体に対し、例えば、天然ガスと空気を混合し、加熱した触媒に通すことで分解変性させたエンドサーミックガス(endothermic gas)雰囲気中において、860〜970℃の範囲内の所定の温度で焼結することで目的のリング状の焼結摺動材を得ることができる。
焼結時、低融点原料であるSn(約232℃)やCu−P(約714℃)は焼結過程で溶融し、SnおよびPはCu−Ni合金粉末からなる粒子に拡散し、合金化する。このため、焼結後は、SnやPを固溶したCu−Ni合金粒と粒界の気孔部分に遊離炭黒鉛13が存在する
図2に示す組織の焼結摺動材10が得られる。
【0026】
なお、Cu−Ni合金粉末を製造する場合、合金溶湯から急冷して粉末化するアトマイズ法を用いるが、前記合金粉末中に含まれるCは、脱酸用に用いるCの添加量、るつぼの材質および合金を溶融させている時間や合金の溶融温度制御などによって低減する事ができる。
【0027】
以上説明のように製造された焼結摺動材10は、Cu−Ni合金粒を焼結した焼結材であり、Cu−Ni合金粒の粒界の気孔に遊離炭素が分散された焼結摺動材として得られるので、耐摩耗性、潤滑性に優れ、高温の腐食環境下で使用される摺動材として高温環境下の耐食性に優れた焼結摺動材を提供できる。
また、Cu−Ni合金の粒子に含まれる、不純物としてのC量を0.001〜0.07%の範囲内の含有量とすることで、焼結前後で異常膨張や収縮などの大きな寸法変化を生じ難い、良好な歩留まりで生産できる焼結摺動材10を提供できる。
また、本実施形態の焼結摺動材10は、モーター式燃料ポンプなどの常時ガソリンに浸漬されて使用される軸受部材、EGR用ブッシュなどに好適であり、地域によってガソリンに軽油やアルコール、その他、有機酸などの腐食性液体を含んだ混合ガソリンに浸漬される場合であっても、耐食性および耐摩耗性に優れた焼結摺動材を提供できる。
さらに、再循環排ガス流量調整弁に使用される軸受部材にも好適であり、高温の排ガスに晒される過酷な環境下においても耐摩耗性と耐食性に優れた焼結摺動材を提供できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「実施例1」
原料粉末として、Cu−Ni粉末と、粒径−250メッシュのSnアトマイズ粉末と、粒径−200メッシュのCu−8%Pアトマイズ粉末および黒鉛粉末を用意した。アトマイズ粉末は、高周波溶解炉内のるつぼにおいて目的の組成の合金溶湯を形成し、この合金溶湯をるつぼ底部の噴射ノズルから水の内部に噴出させて急冷することで粉末化する方法により得た粉末である。ここで用いるアトマイズ法には、噴射ノズルの熔融金属吹出部の内側に設けた噴射流路から逆円錐ジェット水流を噴射し、その逆円錐ジェット水流に向けて溶融金属を噴霧して粉末化する方式のアトマイズ装置を用いた。
【0029】
これらの原料粉末を以下の表に示した最終成分組成となるように配合し、ステアリン酸亜鉛を0.5%加えてV型混合機で20分間混合した後、プレス成形して圧粉体を製作した。次に、この圧粉体を天然ガスと空気を混合し、加熱した触媒に通すことで分解変成させたエンドサーミックガス(endothermic gas)雰囲気中において、860〜970℃範囲内の所定の温度で焼結し、次いで200〜700MPaの範囲内の所定の圧力でサイジングを行って焼結摺動材を得た。
いずれの焼結摺動材も外径:10mm×内径:5mm×高さ:5mmの寸法を有し、以下の表に示される組成成分のCu−Ni−Sn系焼結合金からなるリング状焼結摺動材(軸受部材)であり、試料No.1〜15の実施例と、比較例として、試料No.1〜7の同一形状のリング状試験片を製作し、以下の試験を行った。
【0030】
原料粉末において、Cu−Ni粉末に含まれている不純物元素としてのC量は、Cu−Ni粉末を製造するアトマイズ処理前の原料中に含まれている不純物量の調整により制御した。
具体的には、表1に示す不純物量(C量)とした原料を用いて表1、表2に示す組成となるように配合して実施例No.1〜15の試料を作製した。また、表1に示す不純物C量の試料を原料として用い、表1、表2に示す組成となるように配合して比較例No.1〜7の試料を作製した。
これら実施例No.1〜15の試料と比較例No.1〜7の試料を用いて気孔率、圧環強さ、寸法変化率、製品歩留まり、耐食性、耐摩耗性について試験を行い、それらの試験結果を表2に併せて示す。
【0031】
なお、表2の成分組成において、C(Free)の列は、遊離黒鉛として粒界に介在するCの質量%を表す。また、C(Combined)の列は、合金粒の内部に合金化して含まれるCの質量%を表す。さらに、C(Total:総量)とは、C(Free)及びC(Combined)として試料に含まれるCの質量%の総量を表す。
【0032】
表2に示す寸法変化率の測定法、製品歩留の判断基準、耐食性を評価した耐食試験、耐摩耗性を評価した耐摩耗試験の内容は以下の通りである。
・寸法変化率(DC):成形体の外径寸法を焼結前にあらかじめ測定し、焼結を実施する。焼結後の焼結体(焼結摺動材)の外径寸法を測定し、焼結前後での寸法変化率を計算にて求めた。
歩留:サイジング後の内径寸法が設定した公差範囲(0.006mm)内となった時の割合を、歩留とした。判定は、試料50個の測定結果から、96%以上合格であった場合を◎、90%以上96%未満を○、90%未満を×とした。
・耐食試験:ガソリンに、RCOOH(Rは水素原子又は炭化水素基)で表されるカルボン酸を添加し、疑似粗悪ガソリンを想定した有機酸試験液を製作した。
この有機酸試験液に試料用の複数の軸受部材1を温浴(60℃)中で200時間浸漬した。
耐食性試験後、軸受部材1の表面に付着した生成物を薬品で取り除き、有機酸試験液に浸漬する前の質量と、浸漬後に付着物を取り除いた後の軸受部材1の質量変化率を測定した。各表の耐食性の欄に、0≧(質量変化率)≧−0.50%の試料を○、−0.50%>(質量変化率)の試料を×で示す。
【0033】
・燃料ポンプ用軸受の耐摩耗試験:ガソリンが狭い空間を高速で流通し、これを生起せしめるモーターの高速回転によって軸受が高圧を受け、かつ速い流速のガソリンに曝される条件で耐摩耗試験を行った。外側寸法が長さ:110mm×40mmの燃料ポンプに組み込み、この燃料ポンプをガソリンタンク内に設置した。
インペラの回転数:5,000〜15,000rpm、ガソリンの流量:50〜250リットル/時、軸受が高速回転より受ける圧力:最大500kPa、試験時間:500時間の条件にて実機試験を行った。試験後の軸受面における最大摩耗深さにおいて、0≦(最大摩耗深さ)≦10μmの試料を○、10μm<(最大摩耗深さ)の試料を×で示す。この結果は耐摩耗性(1)の欄に記載した。
【0034】
・再循環排ガス流量調整弁用軸受の耐摩耗試験:EGR型ガソリンエンジンの再循環排ガス再循環排ガス流量調整弁に直径φ5×長さ60mmの寸法を持ったステンレス(JIS・SUS303)製シャフトと共に組込み、エンジン回転数:3,000rpm、ステンレスシャフト往復距離:10mm、ステンレスシャフト往復回数:150回/分、試験時間:500時間の条件で摩耗試験を行い、摩耗試験後の軸受の最大摩耗深さを測定した。なお、試験中の軸受の温度は420〜435℃の範囲内であった。
試験後の軸受面における最大摩耗深さにおいて、0≦(最大摩耗深さ)≦70μmの試料を○、70μm<(最大摩耗深さ)の試料を×で示す。この結果は耐摩耗性(2)の欄に記載した。
・気孔率は日本粉末冶金工業会の燒結金属材料の開放気孔率試験方法JPMA M 02−1992に準じて測定した。
【0035】
<原料粉末および焼結体中の炭素分析>
Cu−Ni粉末中の不純物炭素量は、赤外線吸収法により測定した。
また、焼結体の各試料に含まれるCの総量のうち、遊離黒鉛として粒界に介在するC(Free)と、合金粒の内部に合金化して含まれるC(Combined)と、の比率は、以下の方法で求めた。
まず、試料の焼結軸受に含まれるCの総量を赤外線吸収法(ガス分析)により測定した。次いで、遊離炭素として含まれるC(Free)の含有量の分析をJIS G1211−1995の方法に準じて行った。合金粒の内部に合金化して含まれるC(Combined)は、Cの総量から遊離黒鉛の含有量を差し引いて求めた。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1に実施例試料作製時の配合組成、Cu−Ni合金粉末中のCombinedC量、焼結材中のFreeC量、焼結温度を示す。
実施例No.1〜15の試料は、Cu−Ni合金粉末中のCombinedCが、質量%で0.001〜0.07%であった。
実施例No.1〜15の試料は、寸法変化率が小さいので製品歩留まりが良好であり、圧環強さが高く、耐食性、耐摩耗性に優れた焼結摺動材であることがわかる。
また、表1の結果に示す焼結摺動材は、質量%でNi:10.1〜34.4%、Sn:5.1〜11.7%、P:0〜0.8%、C:4.1〜8.8%を含有し、残部Cuおよび不可避不純物からなる組成を有し、Cu−Ni合金粒の焼結体であり、複数の合金粒の粒界に気孔が分散形成された組織を有し、前記合金粒が構成する金属マトリックスに質量%で0.003〜0.068%のCを含む焼結摺動材であった。
【0039】
比較例No.1の試料はNi含有量が少ない試料であるが耐食性に劣る試料であった。
比較例No.2の試料はSn含有量が少ない試料であるが耐食性と耐摩耗性の両方に劣る試料であった。
比較例No.3の試料はSn含有量が多過ぎた試料であるが寸法変化率が大きく製品歩留まりの悪い試料であった。
比較例No.4の試料はP含有量が多過ぎた試料であるが寸法変化率が大きく製品歩留まりの悪い試料であった。
比較例No.5の試料はC含有量が多過ぎた試料であるが寸法変化率が大きいため歩留まりが悪く、圧環強さも低い試料であった。
比較例No.6の試料はNi含有量が多く、C含有量も低くし過ぎた試料であるがC含有量が低いため、耐摩耗性に劣る試料であった。Ni含有量については高価なNiを多く含有するとコストの高い材料となる。
比較例No.7の試料は焼結材の粒子中のC量が多く、C含有量が多すぎた試料であるが寸法変化率が大きく、歩留まりが悪い試料であった。
以上の結果から、上述の条件を満たした実施例の試料であるならば、寸法変化率が小さいので歩留まりが良好であり、圧環強さが高く、耐食性と耐摩耗性に優れた焼結摺動材を提供できることがわかる。