(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら以下の順で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々の変更が可能である。
1.位相差フィルムの構成
2.位相差層(液晶層)について
3.位相差フィルムの製造方法
【0019】
≪1.位相差フィルム≫
図1は、本実施の形態に係る位相差フィルム1の一例を示す図である。この位相差フィルム1は、基材11と、配向パターンを有して基材11上に形成される配向層12と、重合性液晶組成物の硬化物を含む位相差層13とがこの順に積層されてなる。
【0020】
なお、この
図1に示す位相差フィルム1では、基材11上に形成する配向層12として、配向パターンを有するパターン配向膜を形成させた場合を例示するが、パターン状に形成されたものに限られず、基材11上にベタ状に形成したベタ膜からなるものでもよい。
【0021】
<基材>
基材11は、透明フィルム材であり、配向層12を支持する機能を有し、長尺に形成されている。基材11は、位相差が小さいことが好ましく、面内位相差(面内レターデーション値、以下「Re値」ともいう。)が、0nm〜10nmの範囲内であることが好ましく、0nm〜5nmの範囲内であることがより好ましく、0nm〜3nmの範囲内であることがさらに好ましい。Re値が10nmを超えると、例えばパターン配向膜を用いたフラットパネルディスプレイの表示品質が悪くなる可能性がある点で好ましくない。
【0022】
Re値とは、屈折率異方体の面内方向における複屈折性の程度を示す指標をいい、面内方向において屈折率が最も大きい遅相軸方向の屈折率をNx、遅相軸方向に直交する進相軸方向の屈折率をNy、屈折率異方体の面内方向に垂直な方向の厚さをdとしたとき、
Re[nm]=(Nx−Ny)×d[nm]
で表わされる値である。Re値は、例えば、位相差測定装置KOBRA−WR(王子計測機器社製)を用い、平行ニコル回転法により測定することができる。
【0023】
基材11の可視光領域における透過率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。透明フィルム基材の透過率は、例えばJIS K7361−1(プラスチック−透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0024】
基材11は、ロール状に巻き取ることができる可撓性を有するフレキシブル材であることが好ましい。このようなフレキシブル材としては、アクリル系ポリマー(アクリル樹脂)、セルロース誘導体、ノルボルネン系ポリマー、シクロオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィン、変性アクリル系ポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル類等を例示することができる。
【0025】
基材11の厚さとしては、配向膜を用いて製造される位相差フィルムの用途等に応じて、当該位相差フィルムに必要な自己支持性を付与できる範囲内であれば特に限定されないが、通常、25μm〜125μmの範囲内であることが好ましく、40μm〜100μmの範囲内であることがより好ましく、60μm〜80μmの範囲内であることがさらに好ましい。基材11の厚さが25μm未満であると、位相差フィルムに必要な自己支持性を付与できない場合がある。一方で、厚さが125μmを超えると、位相差フィルムが長尺状である場合に、長尺状の位相差フィルムを裁断加工して枚葉の位相差フィルムとする際に、加工屑が増加したり、裁断刃の磨耗が早くなってしまう場合がある。
【0026】
基材11は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また異なった組成を有する複数の層が積層されてもよい。
【0027】
<配向層>
配向層12は、基材11上に配向層用組成物(配向膜組成物)を塗布(塗工)して硬化させて得られた硬化物である配向膜からなる。この配向層12を構成する配向膜は、特に限定されないが、例えば、偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料を用い光照射によって配向させる光配向方式により形成することができる。
【0028】
なお、配向層12を構成する配向膜は、パターン状に形成したパターン配向膜であっても、基材11上にベタ状に形成したベタ膜であってもよい。パターン配向膜とする場合、その配向パターンは、例えば、凹凸形状を有するロールで圧延し、その凹凸形状を転写するラビング処理によって形成されてもよいし、上述のように偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料を用いて光照射によって配向させる光配向方式によって形成されてもよい。ラビング処理によってパターン配向膜を形成する場合、配向層(パターン配向層)12は、広く一般に用いられるエネルギー線硬化性樹脂(紫外線硬化樹脂等)を含有するものであればどのようなものであってもよい。
【0029】
[配向層用組成物(配向膜組成物)]
例えば光配向方式によって配向層12を形成する場合、配向層12は、以下に説明する配向膜組成物を含有する。この配向膜組成物は、偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料と、この光配向材料を溶かす溶媒とを含有する。
【0030】
(光配向材料)
光配向材料とは、偏光紫外線の照射により配向規制力を発現できる材料をいう。配向規制力とは、光配向材料を含む配向層を形成し、この配向層上に液晶化合物(位相差層形成用の重合性液晶組成物)からなる層を形成したとき、液晶化合物を所定の方向に配列させる機能をいう。
【0031】
光配向材料としては、偏光を照射することにより配向規制力を発現するものであれば特に限定されるものではない。このような光配向材料は、シス−トランス変化によって分子形状のみを変化させて配向規制力を可逆的に変化させる光異性化材料と、偏光を照射することにより分子そのものを変化させる光反応材料とに大別することができる。本実施の形態においては、光異性化材料及び光反応材料のいずれであっても好適に用いることができるが、光反応材料を用いることがより好ましい。光反応材料は、偏光が照射されることによって分子が反応して配向規制力を発現するものであるため、不可逆的に配向規制力を発現することが可能となり、配向規制力の経時安定性において優れる。
【0032】
また、光反応材料は、偏光照射によって生じる反応の種類によってさらに分けることができる。具体的には、光二量化反応が生じることによって配向規制力を発現する光二量化型材料、光分解反応が生じることによって配向規制力を発現する光分解型材料、光結合反応が生じることによって配向規制力を発現する光結合型材料、及び光分解反応と光結合反応とが生じることによって配向規制力を発現する光分解−結合型材料等に分けることができる。本実施の形態においては、上述した光反応材料のいずれであっても好適に用いることができるが、安定性及び反応性(感度)等の観点から光二量化型材料を用いることがより好ましい。
【0033】
光二量化型材料としては、光二量化反応が生じることにより配向規制力を発現できる材料であれば特に限定されないが、配向規制力が良好であるという点から、光二量化反応が生じる光の波長が280nm以上のものであることが好ましく、280nm〜400nmの範囲内のものであることがより好ましく、300nm〜380nmの範囲内のものであることがさらに好ましい。このような光二量化型材料として、シンナメート、クマリン、ベンジリデンフタルイミジン、ベンジリデンアセトフェノン、ジフェニルアセチレン、スチルバゾール、ウラシル、キノリノン、マレインイミド、又はシンナミリデン酢酸誘導体を有するポリマーが挙げられる。その中でも、配向規制力が良好である点で、シンナメート、クマリンの一方又は両方を有するポリマーが好ましく用いられる。このような光二量化型材料の具体例としては、例えば特開平9−118717号公報、特表平10−506420号公報、特表2003−505561号公報、及びWO2010/150748号公報に記載された化合物を挙げることができる。
【0034】
なお、本実施の形態において用いられる光配向材料は、1種類のみであってもよく、2種類以上を混合させて用いてもよい。
【0035】
(溶媒)
配向膜組成物に用いる溶媒としては、上述した光配向材料等を所望の濃度に溶解できるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、シクロヘキサン等のアノン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒を例示することができる。また、溶媒は、1種類であってもよいし、2種類以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0036】
また、溶媒の量としては、特に限定されないが、光配向材料100質量部に対して600質量部〜3900質量部程度であることが好ましい。溶媒の量が600質量部未満であると、光配向材料を均一に溶かすことができない可能性がある。一方で、溶媒の量が3900質量部を超えると、溶媒の一部が残存し、基材上に配向膜組成物を塗工したときに、その残存した溶媒が基材に浸透してしまい、その結果として、光配向性と、基材に対する密着性との両方が低下する可能性がある。
【0037】
(その他)
配向膜組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を含有するものであってもよい。例えば、添加剤として密着向上剤等を含有させることができる。密着向上剤は、基材11上に配向膜組成物を塗工したとき、基材11と化学反応を起こして基材11の表面を荒らし、基材11と配向膜組成物の硬化物からなる配向層12との密着性を高める機能を有する。
【0038】
密着向上剤の例としては、例えばペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)等の多官能アクリレートが挙げられる。PETA等を密着向上剤として用いる場合、その量は、例えば光配向材料100質量部に対し25質量部以下であることが好ましい。
【0039】
〔パターン配向層の形成〕
上述したように、配向層12をパターン状に形成(パターン配向層を形成)する場合、ラビング処理によって形成されてもよいし、光配向方式によって形成されてもよい。例えば、ラビング処理によって形成される場合、基材11にエネルギー線硬化性樹脂を塗布し、その後、周囲に凹凸形状が形成されたローラを用いて基材11に凹凸形状を転写し、エネルギー線照射装置によるエネルギー線の照射によりエネルギー線硬化性樹脂を硬化させる。これにより、ロール版に形成された凹凸形状を基材11に転写する。
【0040】
図2は、光配向方式によって配向パターンを形成する手法の一例を模式的に示した図である。先ず、基材11上に配向膜組成物(パターン配向膜組成物)を塗工し、この配向膜組成物を加熱乾燥させて薄膜状のパターン配向層形成用層12’を形成する。その後、
図2(A)に示すように、右目用の領域に対応する第1配向準備領域12’Aを遮光せず、左目用の領域に対応する第2配向準備領域12’Bだけを遮光したマスク21を介して、直線偏光による紫外線(偏光紫外線)をパターン配向層形成用層12’に向けて照射する。この操作により、遮光されていない第1配向準備領域12’Aを所望の方向に配向させた後、続いて
図2(B)に示すように、1回目の照射とは偏光方向が90度異なる直線偏光により紫外線をパターン配向層形成用層12’の全面に照射し、1回目の照射では未露光の第2配向準備領域12’Bを所望の方向に配向させる。これら2回の紫外線照射により、2種類の配向パターンを有する配向層(パターン配向層)12が形成される。
【0041】
なお、
図2に示した例では、第1配向準備領域12’Aに偏光紫外線を照射し、その後、第2配向準備領域12’Bに偏光紫外線を照射しているが、この順番に限るものではなく、第2配向準備領域12’Bに偏光紫外線を照射し、その後、第1配向準備領域12’Aに偏光紫外線を照射してもよい。また、
図2に示した例では、1回目の照射のときだけマスク21を用い、2回目の照射のときにはマスクを用いていないが、2回目の照射のときについても1回目の照射のときと同様、マスクを用いてもよい。この場合、1回目の照射のときに光を照射した領域だけを遮光することになる。
【0042】
配向層12の厚さとしては、後述する位相差層13における液晶化合物に対して所望の配向規制力を発現できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、100nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。厚さが100nm未満であると、液晶化合物に対して所望の配向規制力を発現できない可能性がある。一方で、厚さが1000nmを超えると、密着力が低減する可能性がある。
【0043】
<位相差層(液晶層)>
位相差層13は、重合性液晶組成物(以下、単に「液晶組成物」ともいう)を含有する。この重合性液晶組成物は、液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する液晶化合物(棒状化合物)を含有する。なお、配向層12をパターン配向膜により構成した場合、この位相差層13は、その配向パターンに沿って形成されるため、
図1に示すように、右目用の領域に対応する第1位相差領域13Aと、左目用の領域に対応する第2位相差領域13Bとを有するようになる。
【0044】
本実施の形態に係る位相差フィルム1においては、この位相差層13を構成する重合性液晶組成物が、少なくとも、重合性液晶化合物と、レベリング剤とを含有する。
【0045】
(液晶化合物)
重合性液晶化合物(以下、単に「液晶化合物」ともいう)は、屈折率異方性を有し、規則的に配列することにより所望の位相差性を付与する機能を有する。液晶化合物として、例えば、ネマチック相、スメクチック相等の液晶相を示す材料が挙げられるが、他の液晶相を示す液晶化合物と比較して規則的に配列させることが容易である点で、ネマチック相を示す液晶化合物を用いることがより好ましい。ネマチック相を示す液晶化合物としては、メソゲン両端にスペーサを有する材料を用いることが好ましい。メソゲン両端にスペーサを有する液晶化合物は、柔軟性に優れるため、このような液晶化合物を用いることによって位相差フィルム1を透明性に優れたものにすることができる。
【0046】
液晶化合物は、上述したように分子内に重合性官能基を有する重合性液晶化合物である。重合性官能基を有することにより、液晶化合物を重合して固定することが可能になるため、配列安定性に優れ、位相差性の経時変化が生じにくくなる。また、重合性液晶化合物は、分子内に三次元架橋可能な重合性官能基を有することがより好ましい。三次元架橋可能な重合性官能基を有することにより、配列安定性をより一層に高めることができる。なお、「三次元架橋」とは、液晶性分子を互いに三次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることをいう。
【0047】
重合性官能基としては、例えば、紫外線、電子線等の電離放射線によって重合するものを挙げることができる。これら重合性官能基としては、ラジカル重合性官能基が挙げられる。ラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも1つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例として、置換基を有する若しくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。
【0048】
さらにまた、重合性液晶化合物は、末端に重合性官能基を有するものが特に好ましい。このような液晶化合物を用いることにより、例えば、互いに三次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることができるため、列安定性を備え、かつ、光学特性の発現性に優れた位相差フィルム1を形成することができる。
【0049】
また、液晶化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。例えば、液晶化合物として、両末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶化合物と片末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶化合物とを混合して用いると、両者の配合比の調整により重合密度(架橋密度)及び光学特性を任意に調整できる。また、信頼性確保の観点からは両末端に重合性官能基を1つ以上有する重合性液晶化合物を用いることが好ましいが、液晶配向の観点からは両末端の重合性官能基が1つであるものを用いることが好ましい。
【0050】
液晶化合物の量としては、配向層12上に塗布する塗布方法に応じて、位相差層形成用塗工液(液晶組成物)の粘度を所望の値に調整できれば特に限定されないが、重合性液晶組成物中の量として5質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内であることがより好ましい。液晶化合物の量が5量部未満であると、含有量が少なすぎるために位相差層13への入射光を適切に配向できない可能性がる。一方で、30質量部を超えると、重合性液晶組成物の粘度が高くなりすぎるため作業性が悪くなる。
【0051】
(レベリング剤)
本実施の形態においては、重合性液晶組成物中に、上述した重合性液晶化合物と共に、レベリング剤を含有する。このレベリング剤は、フッ素系の化合物からなるもの(以下、「フッ素系レベリング剤」ともいう)であり、例えばパーフルオロアルキル基を有する。このようにパーフルオロアルキル基を有するフッ素系レベリング剤を用いることで、配向層12をパターン配向膜により構成する場合に、より厳密な配向パターンを有する位相差フィルム1を提供することができる。
【0052】
ここで、詳しくは後述するが、本実施の形態に係る位相差フィルム1では、位相差層13において、液晶組成物中に添加したフッ素系レベリング剤が、位相差層13の表面から配向層12側の鉛直方向に向かって、所定分布で存在(位相差層13の表面から深さ方向に浸透)していることを特徴としている。このように、位相差層13において、その位相差層13の表面から深さ方向に向かって所定の量のフッ素系レベリング剤が浸透して存在していることにより、基材11への濡れ性が変わって表面自由エネルギーの変化をもたらすようになり、配向層12上に液晶組成物からなる塗工液を塗布したときのハジキの発生が抑制される。これにより、位相差フィルム1の歩留まりの低下を抑制するとともに、欠点等の外観不良の発生を防止することができる。
【0053】
例えば、フッ素系レベリング剤として、パーフルオロアルキル基を有するものとする場合、特に限定されないが、その炭素数が4〜8程度であるものが好ましい。炭素数が4以上であることにより耐ブロッキング性が良好となり、一方で炭素数が8以下であることにより、より効果的にレベリング性を発現させることができる点で好ましい。
【0054】
また、このフッ素系レベリング剤の重量平均分子量としては、特に限定されないが、1万未満であることが好ましく、8000未満であることがより好ましい。重合平均分子量が1万以上であると、レベリング性を低下させる可能性がある。なお、フッ素系レベリング剤の重量平均分子量の下限としては、特に限定されるものでないが、耐ブロッキング性を確保する点で4.0×10
2以上であることが好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算により求めた値を指すものとする。GPC移動相の溶剤には、テトラヒドロフランやクロロホルムを使用することができる。測定用カラムは、テトラヒドロフラン用又はクロロホルム用のカラムの市販品カラムを適宜組み合わせて使用するとよい。
【0055】
このようなフッ素系レベリング剤の市販品としては、例えば、LE−604(共栄社化学株式社製)、LE−605(共栄社化学株式社製)、F−444(DIC株式会社製)等が挙げられる。
【0056】
なお、重合性液晶組成物中におけるフッ素系レベリング剤の含有量については、重合性液晶組成物100重量部に対して0.001重量部〜3.0重量部の範囲で含有することが好ましく、0.05重量部〜1.0重量部の範囲で含有することがより好ましい。その中でも、フッ素系レベリング剤の含有量としては、重合性液晶組成物100重量部に対して0.1重量部〜0.6重量部の範囲で含有することが特に好ましい。この点については、後で詳述する。
【0057】
(溶媒)
上述した液晶化合物やレベリング剤は、通常溶媒に溶かされている。溶媒は、これら液晶化合物やレベリング剤を均一に分散できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン(以下「CHN」という。)等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、シクロヘキサン等のアノン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒を例示することができる。また、溶媒は、1種単独であってもよく、2種類以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0058】
また、溶媒の量としては、液晶化合物100質量部に対して66質量部〜900質量部であることが好ましい。溶媒の量が66質量部未満であると、液晶化合物を均一に溶かすことができない可能性がある。一方で、900質量部を超えると、溶媒の一部が残存し、信頼性が低下する可能性があり、また均一に塗工できない可能性がある。
【0059】
(他の化合物)
その他、重合性液晶組成物は、必要に応じて他の添加剤を含むものであってもよい。他の添加剤としては、上述した液晶化合物の配列秩序を害するものでなければ特に限定されず、例えば、重合開始剤、重合禁止剤、可塑剤、界面活性剤、及びシランカップリング剤等を挙げることができる。
【0060】
・重合開始剤
重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ社製N1717、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性色素とアスコルビン酸やトリエタノールアミンのような還元剤との組み合わせ等を例示できる。これらの重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
重合開始剤は、液晶化合物の配向を大きく損なわない範囲で添加することが必要であり、重合性液晶組成物100質量部に対して0.01質量部〜15質量部であることが好ましく、0.1質量部〜12質量部であることがより好ましく、0.1質量部〜10質量部であることがさらに好ましく、0.5質量部〜10質量部であることが特に好ましい。
【0062】
また、重合開始剤のほか、重合開始助剤を併用してもよい。重合開始助剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の3級アミン類や、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミド安息香酸エチル等の安息香酸誘導体を例示することができるが、これらに限られない。
【0063】
・重合禁止剤
重合禁止剤は、重合性液晶組成物の保存安定性を高めるために用いられる。重合禁止剤として、例えば、ジフェニルピクリルヒドラジド、トリ−p−ニトロフェニルメチル、p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、ピクリン酸、塩化銅、メチルハイドロキノン、メトキノン、tert−ブチルハイドロキノン等を用いることができる。その中でも、保存安定性の点から、ハイドロキノン系の重合禁止剤が好ましく、特にメチルハイドロキノンを用いることが好ましい。
【0064】
重合性液晶組成物の量は、配向層12上に塗布する塗布方法に応じて、位相差層形成用塗工液の粘度を所望の値にできるものであれば特に限定されないが、その塗工液中に、5質量部〜40質量部の範囲内で含有することが好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内で含有することがより好ましい。重合成液晶組成物の量が5質量部未満であると、その液晶組成物が少なすぎるために、位相差層13への入射光を適切に配向できない可能性がある。一方で、重合性液晶組成物の量が30質量部を超えると、位相差層形成用塗工液の粘度が高くなりすぎるため、作業性が劣ってしまう。
【0065】
位相差層13の厚さとしては、所定の位相差性を達成できる範囲内であれば特に限定されないが、位相差層13の面内位相差がλ/4分に相当する厚みであることが好ましい。ここで、λは波長500nmである。これにより、例えば、位相差層13を通過する直線偏光を互いに直交関係にある円偏光にすることができるため、より精度良く3次元映像を表示できる。
【0066】
≪2.位相差層(液晶層)について≫
本実施の形態に係る位相差フィルム1では、位相差層13において、重合性液晶組成物中に添加したフッ素系レベリング剤が、位相差層13の表面から配向層12側に向かう鉛直方向(深さ方向)に亘って、所定の分布量で存在(位相差層13の表面から深さ方向に浸透)していることを特徴としている。
【0067】
ここで、
図4に、フッ素系レベリング剤の含有量が異なる重合性液晶組成物を用いて作製した6種類の位相差フィルム1について、その位相差層13内における、フッ素系レベリング剤に由来するフッ素(F)をXPS(X線光電子分光分析)により定量測定したときの、その分析結果に基づく位相差層13内の深さ方向におけるフッ素の存在量の推移を示す。この
図4のグラフにおいては、横軸が位相差層13の表面(0nm)から配向層12側に向かう鉛直方向の厚み(位相差層13の厚み)を示し、縦軸がその位相差層13の各厚みにおけるフッ素(F)の存在量を示す。なお、
図4の分析結果は、後述する実施例での結果と同じものであり、試験方法等は実施例の項目にて説明する。
【0068】
図4の分析結果に示されるように、重合性液晶組成物中に所定量添加したフッ素系レベリング剤は、位相差層13の表面(
図4のグラフ横軸の厚み0nm付近)にその大半が偏在しているものの、所定の割合で、その表面から配向層12側に向かって浸透している。具体的には、少なくともフッ素0.1atomic%の割合に相当する量のフッ素系レベリング剤が、その位相差層13の表面から配向層12側に向かう鉛直方向への厚み5nm以上に浸透している。また、重合性液晶組成物中におけるフッ素系レベリング剤の添加量が多くなればなるほど、位相差層13の配向層12側に向かう深さ方向における量(浸透量)が増加していることが分かる。
【0069】
このように、位相差層13において、その位相差層13の表面から深さ方向に向かって所定量のフッ素系レベリング剤が浸透して存在している位相差フィルム1によれば、その位相差層13におけるハジキの発生を効果的に抑制することができる。このことは、フッ素系レベリング剤が位相差層13の深さ方向に所定量存在することによって、基材11への濡れ性が変わって表面自由エネルギーの変化が生じるようになり、このことにより、ハジキの発生が抑制されるものと考えられる。
【0070】
特に、フッ素系レベリング剤の含有量が重合性液晶組成物100質量部に対して0.3質量部以上であると、位相差層13の深さ方向の厚み10nm〜15nmの範囲において、フッ素が0.1atomic%以上、より具体的には、フッ素が2atomic%以上の割合に相当するフッ素系レベリング剤が浸透して含まれるようになる。このように、位相差層13の深さ方向の厚み10nm〜15nmの範囲において、フッ素0.1atomic%以上の割合に相当するフッ素系レベリング剤が浸透して含まれている位相差フィルム1では、より効果的に位相差層13におけるハジキの発生を抑制することができる。
【0071】
このような本実施の形態に係る位相差フィルム1によれば、位相差層13におけるハジキの発生を効果的に抑制できることから、位相差フィルム1の歩留まりの低下を抑制するとともに、欠点等の外観不良の発生を効果的に防止することができる。
【0072】
なお、上述したように、重合性液晶組成物中におけるフッ素系レベリング剤の含有量が多くなればなるほど、多くのフッ素系レベリング剤が位相差層13の深さ方向に浸透して存在するようになり、より効果的にハジキの発生を抑制するものと考えられる。ただし、重合性液晶組成物中におけるフッ素系レベリング剤の含有量が多いほど、そのフッ素が異物となってしまい、液晶化合物の分子の配向性に影響を及ぼす可能性がある。一方で、液晶組成物中におけるフッ素系レベリング剤の含有量が少なすぎると、位相差層13の深さ方向におけるフッ素系レベリング剤の存在量が少なくなり、有効にハジキの発生を抑制することができない可能性がある。
【0073】
したがって、液晶化合物の配向を阻害せずに良好な配向性を発揮させながら、位相差層13におけるハジキの発生を効果的に抑制するという観点から、位相差層13の深さ方向の厚み10nm〜15nmの範囲において、フッ素が0.1atomic%以上の割合であって、0.5atomic%以下の割合に相当する量のフッ素系レベリング剤が、位相差層13内に含まれていることが好ましい。
【0074】
なお、このような位相差層13内におけるフッ素系レベリング剤の量は、重合性液晶組成物中におけるフッ素系レベリング剤の含有量に換算して、0.1重量部〜0.6重量部の範囲で含有していることに相当する。
【0075】
≪3.位相差フィルムの製造方法≫
次に、位相差フィルム1の製造方法について説明する。なお、以下では、配向層12をパターン配向膜からなるものとし、光配向方式によって形成する場合を例にして位相差フィルム1の製造方法について説明するが、これに限られない。
【0076】
図3は、光配向方式による位相差フィルム1の製造方法を示す。先ず、(A)ロール31に巻き取った長尺フィルムから基材11を提供し、この基材11上に配向膜組成物32を塗工する組成物塗工処理を行う。続いて、(B)この配向膜組成物を乾燥機33で熱硬化させて薄膜状のパターン配向層形成用層12’を形成するパターン配向層形成用層形成処理を行う。続いて、(C)パターン配向層形成用層12’に対して紫外線照射装置34,35から紫外線を照射する紫外線照射処理を行う。これら(A)〜(C)の処理によって配向層(パターン配向層)12が形成される。
【0077】
続いて、(D)位相差層形成用の重合性液晶組成物を含有する位相差層形成用塗工液の供給装置36から位相差層形成用塗工液13’を塗工し、位相差層形成用層を形成する位相差層形成用塗工液塗工処理を行う。その後、(E)レベリング装置37を用いて、位相差層形成用層の層厚を均一にするレベリング処理を行う。その後、(F)乾燥機38を用いて位相差層形成用塗工液の塗膜に含まれる液晶化合物を液晶相形成温度以上に加温することで、配向層12が有する、右目用の領域に対応する第1配向領域12Aと、左目用の領域に対応する第2配向領域12Bとの異なる配向方向に沿って、液晶化合物を配列させる配向処理を行う。この配向処理によって位相差層形成用層は、位相差層13となる。
【0078】
その後、(G)冷却機39を用いて、基材11/配向層12/位相差層13からなる積層体を冷却する冷却処理を行い、(H)紫外線照射装置40を用いて、液晶化合物に紫外線を照射する。そして、(I)フィルムを巻き取りリール41に巻き取った後、所望の大きさに切り出す切断処理を行う。このような工程を経て位相差フィルム1が作製される。
【0079】
[(A)組成物塗工処理]
先ず、ロール31に巻き取った長尺フィルムから基材11を提供し、この基材11上に配向膜組成物32を塗工する組成物塗工処理を行う。基材11の提供にあたっては、長尺フィルムを連続的に搬送できれば特に限定されず、一般的な搬送手段を用いる方法により基材11を提供することができる。また、ロール31の形状としては、安定的に長尺フィルムを搬送することができれば特に限定されないが、長尺フィルムに紫外線が照射される部位に配置される場合には、長尺フィルムの表面と、紫外線照射装置との距離を一定に保つことができることが好ましく、通常、真円形状であることが好ましい。
【0080】
配向膜組成物32を塗工するにあたり、例えばグラビアコート法を適用して配向膜組成物32を塗工することができるが、これに限るものではない。例えば、グラビアコート法のほか、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法、E型塗布方法等を用いることができる。
【0081】
パターン配向層形成用層12’の厚さとしては、所望の平面性を達成できる範囲内であれば特に限定されないが、例えば0.5μm〜10μm程度の範囲内であることが好ましく、1μm〜5μm程度の範囲内であることがより好ましい。
【0082】
[(B)パターン配向層形成用層形成処理]
パターン配向層形成用層形成処理では、乾燥機33を用いて配向膜組成物を熱硬化させる。この処理では、積層体を乾燥機33に導き、ここで配向膜組成物を熱硬化させた後、半乾きの状態で次の工程に送出する。
【0083】
配向膜組成物の硬化温度としては、80℃〜130℃程度であることが好ましい。硬化温度が80℃未満であると組成物を均一に熱硬化できず、薄膜が不均一になる可能性がある。一方で、硬化温度が130℃を超えると、基材11や薄膜が収縮する可能性がある。また、配向膜組成物の硬化時間としては、1以上10分未満であることが好ましい。硬化時間が1分未満であると、熱硬化できず、薄膜が不均一になる可能性がある。一方で、硬化時間が10分を超えると、ハジキや欠点が発生する可能性や、基材11や薄膜が収縮する可能性がある。
【0084】
[(C)紫外線照射処理]
続いて、パターン配向層形成用層12’に対して紫外線を照射する。偏光紫外線の照射量としては、所望の配向規制力を有する配向領域を形成できるようにする必要があり、波長310nmである場合、5mJ/cm
2〜500mJ/cm
2の範囲内であることが好ましく、5mJ/cm
2〜300mJ/cm
2の範囲内であることがより好ましく、5mJ/cm
2〜100mJ/cm
2の範囲内であることがさらに好ましい。
【0085】
薄膜に対して偏光紫外線を照射する際、薄膜の温度が一定となるように温度調節することが好ましく、これにより、配向領域を精度良く形成することができる。薄膜の温度としては、15℃〜90℃であることが好ましく、15℃〜60℃であることがより好ましい。温度調節の方法としては、一般的な加熱・冷却装置等の温度調節装置を用いる方法を挙げることができる。
【0086】
[(D)位相差層形成用塗工液塗工処理]
次に、位相差層形成用塗工液塗工処理について説明する。本実施の形態においては、位相差層形成用塗工液の供給装置36から位相差層形成用塗工液を塗工している。具体的な塗工の方法としては、配向層12上に位相差層形成用塗工液からなる塗膜を安定的に形成できる方法であれば特に限定されず、グラビアコート法やダイコート法等の(A)組成物塗工処理で説明したものと同様の方法を例示することができる。
【0087】
位相差層13は重合成液晶化合物が含有されることにより、位相差性を発現するものになっているところ、その位相差性の程度は重合成液晶化合物の種類及び位相差層13の厚さに依存して決定されるものである。したがって、位相差層形成用層の厚さは、所定の位相差性を達成できる範囲内とするものであれば特に限定されず、位相差フィルム1の用途等に応じて適宜決定することができる。
【0088】
[(E)レベリング処理]
続いて、レベリング装置37を用いて、位相差層形成用層の層厚を均一にするレベリング処理を行う。位相差層形成用塗工液からなる位相差層形成用層の厚さは、その後に形成される位相差層13の面内位相差がλ/4分に相当するような範囲内となるように塗布することが好ましい。位相差層13の厚さを位相差層13の面内位相差がλ/4分に相当するような範囲内の距離にする場合、具体的にどの程度の距離にするかは、液晶化合物の種類により適宜決定することができる。なお、一般的な液晶化合物を用いる場合、その距離は0.5μm〜2μmの範囲内となるが、これに限られるものではない。
【0089】
[(F)配向処理]
続いて、位相差層形成用塗工液の塗膜に含まれる液晶化合物を、配向層12に含まれる第1配向領域12A及び第2配向領域12Bの異なる配向方向に沿って、液晶化合物を配列させる。液晶化合物を配列させる方法としては、所望の方向に配列させることができる方法であれば特に限定されず、例えば、乾燥機38を用いて液晶化合物を液晶相形成温度以上に加温する方法が挙げられる。
【0090】
このような処理によって形成される位相差層13のパターンは、配向層12のパターンと同一となり、右目用の領域に対応する第1配向領域12A上には、右目用の領域に対応する第1位相差領域13Aが形成され、左目用の領域に対応する第2配向領域12B上には、左目用の領域に対応する第2位相差領域13Bが形成される。なお、例えば、偏光板クロスニコルの中にサンプルを入れて、サンプルを回転させた場合に明線と暗線が反転することを確認することにより、その配向性を評価することができる。
【0091】
乾燥機38を用いて液晶化合物を液晶相形成温度以上に加温する際、液晶化合物が所望の方向に配列されるだけでなく、位相差層形成用塗工液の塗膜が乾燥される。塗膜の乾燥は、残留する溶媒量に応じて適宜調整すればよいが、塗膜に当てる乾燥風の風速としては、3m/秒以下であることが好ましく、0.5m/秒以下であることがより好ましい。
【0092】
また、温度条件としては、用いた液晶の液晶→等方相転移温度にもよるが、40℃〜150℃程度の範囲内であることが好ましく、50℃〜120℃程度の範囲内であることがより好ましく、55℃〜110℃程度の範囲内であることがさらに好ましい。また、乾燥時間としては、0.2分〜30分程度の範囲内であることが好ましく、0.5分〜20分程度の範囲内であることがより好ましく、1分〜10分程度の範囲内であることがさらに好ましい。この条件であることにより、安定的に溶媒を除去することができる。
【0093】
[(G)冷却処理]
その後、冷却機39を用いて、基材11/配向層12/位相差層13からなる積層体を冷却する冷却処理を行う。冷却処理は、積層体が室温になる程度まで行えばよい。
【0094】
[(H)硬化処理]
続いて、液晶化合物を重合して硬化させる硬化処理を行う。液晶化合物を重合させる方法としては、液晶化合物が有する重合性官能基の種類に応じて任意に決定すればよいが、適量の重合開始剤を加えて、活性放射線の照射により硬化させる方法が好ましい。活性放射線としては、液晶化合物を重合することが可能な放射線であれば特に限定されず、通常は装置の容易性等の観点から紫外光又は可視光を使用することが好ましく、配向層12を形成する際に用いた紫外線と同様のものとすることができる。このような硬化処理を経ることで、互いに重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることができる、列安定性を備え、かつ、光学特性の発現性に優れた位相差層13を形成することができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
≪位相差フィルムの作製≫
[重合性液晶組成物の調製]
市販の重合成液晶組成物(製品名:licrivue(登録商標) RMS03−013C,メルク社製)100重量部に、パーフルオロアルキル基を有し、重量平均分子量が1万未満であるレベリング剤(製品名:LE−604,共栄社化学株式会社製)を、それぞれ下記表1及び表2に示すような含有量(0.05質量部〜1.0質量部の計6段階)となるように加え、実施例に係る重合性液晶組成物を得た。すなわち、レベリング剤の含有量の異なる6種類の重合性液晶組成物を用意した。また、それとは別に、比較として、レベリング剤を含有しない重合性液晶組成物も用意した。
【0097】
[位相差フィルムの製造]
図3で説明した製造工程を経て実施例に係る位相差フィルムを得た。その際、基材は、表面に防眩処理が施されたTAC基材(商品名:TD60UL−P,厚さ:60μm,富士フィルム社製)を用い、搬送速度は12m/minとした。
【0098】
先ず、光二量化部位と熱架橋部位との両方を有する光配向材料(商品名:ROP−103,ロリック社製)100質量部をメチルエチルケトン(MEK)900質量部に溶解させて、配向膜組成物を得た。その後、TAC基材の裏面に、得られた配向膜組成物を、硬化後の膜厚が200nmとなるようにダイコート法にて塗布した。そして、100℃に調整した乾燥機内に2分間流し、組成物中の溶媒を蒸発させるとともに組成物を熱硬化させた。これによって、厚さ200nmの薄膜を形成した。
【0099】
この薄膜に対して、ワイヤーグリッドを通した偏光紫外線(偏光軸がフィルムの搬送方向に対して45°の方向)を原反の搬送方向と平行な方向に幅500μmのストライプパターンをクロムで合成石英上に形成したマスクを介して照射した。続いて、マスクを通さないでワイヤーグリッドを通した偏光紫外線(偏光軸がフィルムの搬送方向に対して−45°の方向)を照射した。このとき、紫外線照射装置は、「Hバルブ」(フュージョン社製)を用いた。また、偏光紫外線の波長は313nmとし、積算光量は40mJ/cm
2とした。積算光量の測定は、紫外線光量計「UV−351」(オーク製作所社製)を用いて測定した。
【0100】
続いて、パターン配向膜からなる配向層上に、調製した重合性液晶組成物をダイコート法にて塗布し、最終的な層厚が1μmとなるようにレベリングした。そして、60℃に調整した第1の乾燥機内に1分間、95℃に調整した第2の乾燥機内に0.5分間、105℃に調整した第3の乾燥機内に0.5分間流し、室温近傍まで冷却した後、上述した紫外線照射装置と同型の紫外線照射装置を用いて波長260nmの紫外線を積算光量が300mJ/cm
2となるまで照射した。
【0101】
以上のような工程を経て、位相差フィルムを作製した。すなわち、フッ素系レベリング剤の含有量が異なる重合性液晶組成物を用いて、計6種類の位相差フィルムを作製した。また、比較として、レベリング剤を含有しない重合性液晶組成物を用いて作製した位相差フィルムも用意した。
【0102】
≪位相差層内に深さ方向におけるフッ素系レベリング剤の存在量評価≫
フッ素系レベリング剤の含有量が異なる重合性液晶組成物を用いて作製した6種類の位相差フィルムについて、その位相差層内における、フッ素系レベリング剤に由来するフッ素(F)についてXPS(X線光電子分光分析)により定量測定した。このXPS分析では、位相差層内での、その位相差層の表面から配向層側へ鉛直方向に向かう所定の厚みにおけるフッ素の存在量を測定した。
【0103】
(XPS測定条件)
なお、XPSの測定条件としては、以下の通りとした。
使用装置:ESCALAB 220i−XL
(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
入射X線:Monochromated Al Kα
(単色化X線、hν=1486.6eV)
X線出力:10kV・16mA(160W)
レンズ :Large Area XL(磁場レンズ)
アパーチャ開度:F.O.V.=open、A.A.=open
測定領域:700μmφ
光電子取込角度:90度(試料法線上にインプットレンズを配置)
帯電中和:電子中和銃 +4(V)・0.08(mA)、中和補助マスク使用
【0104】
下記表1に、位相差層における深さ方向の所定の厚みでのフッ素存在量(XPS分析結果)を示す。また、
図4に、そのXPS分析結果に基づき、位相差層内の深さ方向におけるフッ素の存在量の推移を示す。
【0105】
【表1】
【0106】
表1及び
図4に示す結果から分かるように、この位相差層においては、少なくとも、フッ素0.1atomic%の割合に相当するフッ素系レベリング剤が、位相差層の表面から配向膜側に向かう鉛直方向への厚み5nm以上に浸透している。そして、特に、レベリング剤の含有量を液晶組成物100質量部に対して0.30質量部以上とした場合では、位相差層の深さ方向への厚み10nm〜15nmの範囲においても、フッ素2atomic%以上の割合に相当するフッ素系レベリング剤が含まれていることが分かる。
【0107】
<位相差層におけるハジキの発生についての評価>
次に、このような位相差フィルムについて、配向性の評価及び位相差層におけるハジキの発生の評価を行った。なお、比較として、レベリング剤を含有していない重合性液晶組成物を用いて作製した位相差フィルムについても同様に評価した。
【0108】
(配向性の評価)
配向性の評価は、光軸測定器Imaging Mueller Matrix Polarimeter(Axometrics社製)を用い、3.4mm×2.7mm毎に、配向パターンを形成する際に設定した配向軸と、位相差層の配向軸との角度差の絶対値で定義される配向ズレ角度を測定し、この配向ズレ角度の標準偏差を算出した。そして、標準偏差が1度以内であるか否かを確認し、1度以内であるものを『○』とし、1度を超えるものを『×』として評価した。下記表2に評価結果を示す。
【0109】
(位相差層におけるハジキの発生の評価)
それぞれの位相差フィルムについて、位相差層(液晶層)におけるハジキの発生個数を、光学顕微鏡を用いて観察した。下記表2に評価結果を示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示す結果から分かるように、重合性液晶組成物中におけるフッ素系レベリング剤の含有量が多くなるほど、位相差層におけるハジキの発生個数が減少した。このことは、
図4で示した位相差層における表面から深さ方向への存在量分布にも示されるように、フッ素系レベリング剤の含有量が多いほど、位相差層表面だけではなく配向層側に向かった深さ方向における存在(分布)量が増加し、このように配向層側への浸透量が多くなるほど、ハジキの発生をより効果的に抑制できるということが分かる。
【0112】
ただし、配向性についての評価結果に示されるように、フッ素系レベリング剤の含有量が多いほど、液晶化合物の配向に影響を与えて配向ズレを生じさせてしまう可能性がある。このことから、表1に示す存在量の具体的数値データにも基づき、フッ素系レベリング剤が、位相差層の表面から配向膜側に向かう鉛直方向の厚み10nm〜15nmの範囲において、フッ素存在量で0.1atomic%〜0.5atomic%の割合に相当する量が存在するように、液晶組成物中に含有させることが好ましい。