(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(D)重量平均分子量が90〜700であるアミン化合物を、前記(A)成分と前記(B)成分との合計質量100質量部に対して0.01〜50質量部配合してなる、請求項1または請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のように多官能チオール化合物及び特定のチオエーテル含有アルコキシシラン誘導体を、エポキシ樹脂組成物、及び、二重結合を複数個有する多官能ポリエンと混合した硬化性樹脂組成物は、無機基材に対する密着性に優れ、樹脂組成物の貯蔵安定性に優れるものの、寒冷地においては硬化膜が柔軟性に乏しいため、硬化膜の屈曲時にクラックが生じやすく、更に、密着性に乏しいといった課題があることが判明した。
【0006】
本発明は上記実状に鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、寒冷地においても基材に対する密着性が優れ、且つ、得られた硬化膜が柔軟性を有する材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)下記一般式1で表されるチオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体と、(B)重量平均分子量が200〜50000であ
り、(メタ)アクリレート当量は80〜6000g/molである多官能(メタ)アクリレートと、を含有し、前記(A)成分と前記(B)成分との質量比((A)/(B))が0.05〜30である。
【化1】
(式中のaは1〜3の整数であり、bは0または1であり、cは1〜3の整数であり、aとbとcの和は4である。R
1は、メチレン基、エチレン基またはイソプロピレン基である。R
2は、下記式2または下記式3で表される2価の官能基である。R
3は、メチル基またはエチル基である。R
4は、炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【化2】
(R
5は水素原子またはメチル基である。)
【化3】
(R
5は水素原子またはメチル基である。)
なお、本発明において、分子量とは別途記載が無い限り重量平均分子量のことである。
【0008】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記(A)〜(B)成分に加えて、さらに(C)光重合開始剤を含有させることができる。当該(C)成分は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計質量100質量部に対し、0.01〜10質量部配合する。
【0009】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記(A)〜(B)成分、または、(A)〜(C)成分に加えて、さらに(D)重量平均分子量が90〜700であるアミン化合物を含有させることができる。当該(D)成分は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計質量100質量部に対し、0.01〜50質量部配合する。
【0010】
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの双方を含む総称を意味する。同様に、「(メタ)アクリロキシ基」とは、アクリロキシ基とメタクリロキシ基の双方を含む総称を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの双方を含む総称を意味する。また、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、別途記載が無い限り、その下限値(「○○」)や上限値(「××」)を含む概念である。すなわち、正確には「○○以上××以下」を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化性樹脂組成物によれば、特定の(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体を密着性向上作用の有効成分としながら、特定の分子量の(B)多官能(メタ)アクリレートがバランス良く配合されている。それにより、従来のシランカップリング剤を使用する場合のようにその他の密着性助剤等を添加することなく、基材に対する優れた密着性を実現できる。特に、寒冷地においても、得られた硬化膜が基材に対する優れた密着性及び柔軟性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳しく説明する。本発明の硬化性樹脂組成物は、下記(A)及び(B)成分を必須成分とし、任意に(C)及び(D)成分の少なくとも一方をさらに含有する硬化性樹脂組成物である。
【0013】
<チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体((A)成分)>
(A)成分であるチオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体とは、下記式1で表される化合物である。
【化4】
(式中のaは1〜3の整数であり、bは0または1であり、cは1〜3の整数であり、aとbとcの和は4である。R
1は、メチレン基、エチレン基またはイソプロピレン基である。R
2は、下記式2または下記式3で表される2価の官能基である。R
3は、メチル基またはエチル基である。R
4は、炭素数が1〜12の炭化水素基である。)
【化5】
(R
5は水素原子またはメチル基である。)
【化6】
(R
5は水素原子またはメチル基である。)
上記式1中のR
4である炭素数が1〜12の炭化水素基としては、直鎖のアルキル基、側鎖を持つアルキル基、環状のアルキル基が挙げられる。上記式1中のR
1は、メチレン基、エチレン基、イソプロピレン基であり、密着性向上効果が高くなることから、エチレン基、イソプロピレン基が特に好ましい。
【0014】
<多官能(メタ)アクリレート((B)成分)>
(B)成分である多官能(メタ)アクリレートは末端に(メタ)アクリロキシ基を有しており、その好ましい例として下記一般式4で表される化合物が挙げられる。なお、(B)成分である多官能(メタ)アクリレートは、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合使用することもできる。
【化7】
(式中のdは2〜30の整数であり、R
6は炭素数2〜200の炭化水素基、炭素数2〜300のエーテル酸素(−O−)と炭化水素基のみからなる基、またはイソシアヌレート環若しくはイソシアヌレート環と炭化水素基のみからなる基であり、R
7は水素原子またはメチル基である。)
【0015】
また、(B)多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリマータイプのものも好適に用いることができる。ポリマータイプの多官能(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリレート単独あるいは共重合体に、(メタ)アクリル酸のようにエポキシ基と反応する基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるポリマー、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート単独あるいは共重合体に、2−メチルプロペン酸2−イソシアナートエチルのように水酸基と反応する基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるポリマー、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート単独あるいは共重合体に、グリシジル(メタ)アクリレートのようにカルボキシル基と反応する基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるポリマー等が挙げられる。
【0016】
(B)多官能(メタ)アクリレートの重量平均分子量は200〜50000である。(B)多官能(メタ)アクリレートの重量平均分子量が200より小さくても密着性に関しては問題ないが、揮発性が高くなり臭気が強くなる傾向があるため好ましくない。一方、重量平均分子量が50000より大きいと、密着性に関しては問題ないが、他の成分に対する溶解性が低くなる可能性があるため好ましくない。
【0017】
また、(B)多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリレート当量は80〜6000g/molである。(メタ)アクリレート当量が80g/molより小さいと、単位体積あたりの(メタ)アクリロキシ基が過剰になって(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体のチオール基と未反応の(メタ)アクリロキシ基が多量に残存することで、硬化性樹脂組成物からなる硬化膜の靭性が低下し、密着性が低下するおそれがある。一方、(メタ)アクリレート当量が6000g/molより大きくなると、(メタ)アクリロキシ基濃度が著しく低いことから(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体のチオール基との反応効率が低下することで、硬化性樹脂組成物からなる硬化膜の靭性が低下し、密着性が低下するおそれがある。
【0018】
<光重合開始剤((C)成分)>
(C)成分である光重合開始剤は、チオール基と(メタ)アクリロキシ基との反応を促進するために添加され、硬化性樹脂組成物の硬化に必要な光照射を少なくすることができる。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、光アニオン重合開始剤等があげられる。光ラジカル重合開始剤は、反応時間を短縮する際に用いることが好ましく、光カチオン重合開始剤は、硬化収縮を小さくする際に用いることが好ましく、光アニオン重合開始剤は、電子回路等の分野での接着性を付与する際に用いることが好ましい。
【0019】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0020】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、シクロプロピルジフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセナート、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、トリフェニルスルホニウムブロミド、トリ−p−トリルスルホニウムヘキサフルオロホスファート、トリ−p−トリルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート等が挙げられる。
【0021】
光アニオン重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン o−ベンゾイルオキシム、ニフェジピン、2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4,4,0]デカ−5−エン、2−ニトロフェニルメチル4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−カルボキシラート、1,2−ジイソプロピル−3−〔ビス(ジメチルアミノ)メチレン〕グアニジウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート、1,2−ジシクロヘキシル−4,4,5,5−テトラメチルビグアニジウム n-ブチルトリフェニルボラート等が挙げられる。
【0022】
<アミン化合物((D)成分)>
(D)成分であるアミン化合物は、チオール基と(メタ)アクリロキシ基との反応を促進(触媒)するために添加される。具体的には、(D)成分を含有することによって、チオール基と(メタ)アクリロキシ基とを低温で反応させることができるため、(A)成分と(B)成分とを含む硬化性樹脂組成物を低温硬化することが可能となる。(D)成分であるアミン化合物としては、重量平均分子量が90〜700の単官能アミンや複数個のアミノ基とを有するポリアミンが挙げられる。アミン化合物の重量平均分子量が90未満では、アミンの揮発性が高くなり、臭気やボイドの原因となるだけではなく、加熱硬化時のアミン濃度が低くなるため架橋反応が進行し難くなり密着性が低下し易くなる。アミン化合物の重量平均分子量が700を超えると、耐水性が低くなり密着性が低下し易くなる。
【0023】
単官能アミンとしては、1級アミン、2級アミン、又は3級アミンが挙げられる。ポリアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミン、複合アミンが挙げられる。複合アミンとは、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のうち2種以上を有するアミンのことである。このような複合アミンとしては、イミダゾリン化合物、イミダゾール化合物、N置換ピペラジン化合物、N,N−ジメチル尿素誘導体等が挙げられる。なお、アミン化合物は、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混合使用することもできる。
【0024】
また、アミン化合物は、触媒活性を調整するために予め有機酸との塩を形成していても良い。アミン化合物と予め反応させる有機酸としては、炭素数1〜20でカルボキシル基を分子中に1〜5個有する脂肪族カルボン酸、炭素数7〜20でカルボキシル基を分子中に1〜10個有する芳香族カルボン酸、又はイソシアヌル酸が挙げられる。
【0025】
アミン化合物の中でも、塩基性が高いイミダゾール化合物が最も低温における硬化に適している。また、フェノール樹脂等でコーティングしたイミダゾール化合物も用いることができる。
【0026】
当該イミダゾール化合物は、下記式5で表される化合物である。
【化8】
(R
9はシアノ基、炭素数1〜10の炭化水素基、2,3−ジアミノトリアジンで置換された炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は水素原子であり、R
8、R
10、R
11は炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は水素原子であり、R
8〜R
11が結合して環を形成している場合には炭素数2〜8の炭化水素基である。)
具体的には、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−ウンデシルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。
【0027】
<組成比(配合バランス)>
本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体と(B)多官能(メタ)アクリレートとの質量比((A)/(B))が0.05〜30となるように配合する。ここで、「(A)/(B)」とは、(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体の質量を(B)多官能(メタ)アクリレートの質量で除した値である。(A)/(B)が0.05未満又は30を超える場合は、密着性が低下する傾向がある。最適な(A)/(B)の値は、硬化性樹脂組成物に求められる特性や、(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体や(B)多官能(メタ)アクリレートの種類によって異なる。硬化性樹脂組成物を硬化した後の特性は、厳密には硬化性樹脂組成物単位重量中の(チオール基数)/((メタ)アクリロキシ基数)(以下、チオール/エン比と称す)の値に影響を受ける。例えば、チオール/エン比が0.5〜1.5の範囲にあれば、密な架橋を形成し易く、且つ強靭な硬化物になり易い。一方、チオール/エン比が0.1以上0.5未満、あるいは1.5を超え2.0以下であれば、柔軟で粘着質な硬化物を得ることができる。チオール/エン比が0.1未満、あるいは2.0を超えるとゲル化し難くなり、密着性が低下する傾向がある。
【0028】
また、本発明の硬化性樹脂組成物に対して(C)光重合開始剤を配合する場合は、(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体と(B)多官能(メタ)アクリレートとの合計質量((A)+(B))100質量部に対し、(C)光重合開始剤が0.01〜10質量部となるように配合する。((A)+(B))100質量部に対して(C)成分の配合量が0.01質量部未満では、チオール基と(メタ)アクリロキシ基の反応が進行するのに多くの積算光量が必要となり、10質量部を超えると架橋密度が低くなり密着性が低下する場合がある。
【0029】
また、本発明の硬化性樹脂組成物に対して(D)アミン化合物も配合する場合は、(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体と(B)多官能(メタ)アクリレートとの合計質量((A)+(B))100質量部に対し、(D)アミン化合物が0.01〜50質量部となるように配合する。((A)+(B))に対して(D)成分の配合量が0.01未満では、触媒としての機能が不十分となり、加熱による硬化促進には至らず、50質量部を超えると、硬化性樹脂組成物の保存安定性が低下する。
【0030】
<硬化膜の形成>
本発明の硬化性樹脂組成物は、基材上に塗工し、硬化させることで、硬化膜を形成することができる。本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体のチオエーテル基に起因して基材に対して密着性を発揮する。したがって、チオエーテル基と化学的な結合を形成する(化学的な親和力の高い)基材、例えば、遷移金属あるいはその合金や珪素化合物、リン化合物、硫黄化合物、又はホウ素化合物等の無機基材、不飽和結合(芳香環を含む)を有する有機物、水酸基やカルボキシル基を有する有機物、又はプラズマやUVオゾン処理された有機物等の有機基材への密着性向上効果に優れる。具体的には、無機基材としては、ガラス、シリコン、各種金属などが挙げられる。有機基材として、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、トリアセテートセルロース(TAC)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ABS樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、ポリアセタールなどが挙げられる。また、本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体が特定の炭化水素基を有することで、硬化膜が柔軟性に優れる。そのため、寒冷条件下でも硬化膜が基材に追従しやすく、基材に対する密着性に優れる。したがって、特に、寒冷条件下で使用され得るフレキシブルな基材のコーティングに特に好適に使用することができる。
【0031】
硬化性樹脂組成物は、光を照射することにより硬化させることができる。照射する光としては、UV(紫外線)やEB(電子線)などの活性エネルギー線等が挙げられる。また、硬化性樹脂組成物が(C)成分を含む場合は、通常2500mJ/cm
2程度必要となる光照射量を100mJ/cm
2程度まで少なくすることが可能となる。また、硬化性樹脂組成物が(D)成分を含む場合には、80℃程度の低温で硬化が可能となり、光の照射による硬化工程と、加熱による硬化工程との二段階の工程を経て硬化させることもできる。
【0032】
本発明の硬化性樹脂組成物は、反応系を均一にし、塗工を容易にするために有機溶媒で希釈して使用してもよい。そのような有機溶媒としては、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、エーテルエステル系溶剤、ケトン系溶剤、及びリン酸エステル系溶剤が挙げられる。これらの有機溶媒は硬化性樹脂組成物100質量部に対して、10000質量部未満の配合量に抑えることが好ましいが、基本的に溶剤は硬化膜になる時点では揮発しているため、硬化膜の物性に大きな影響は与えない。
【0033】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、粘度を調整する目的でシリカ粉末等の粘度調整剤を配合しても良い。これらの粘度調整剤は、硬化性樹脂組成物100質量部に対して、300質量部未満の配合量に抑えることが好ましい。粘度調整剤の配合量が300質量部を超えると、密着性が低下する可能性がある。
【0034】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、通常の塗料や接着剤に用いられるような各種添加剤を添加しても良い。このような添加剤としては、塗工面を平滑にするための界面活性剤、可使用時間を長くするためのアルミニウム塩等が挙げられる。これらの添加剤は、硬化性樹脂組成物100質量部に対して、80質量部未満の配合量に抑えることが好ましい。これらの添加剤の配合量が80質量部を超えると、密着性が低下する可能性がある。
【実施例】
【0035】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。本実施例及び比較例で用いた各成分は、次のとおりである。なお、Mwは重量平均分子量を示す。
【0036】
<(A)成分>
(A−1:チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体)
【化9】
(A−2:チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体)
【化10】
(A−3:チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体)
【化11】
(A−4:チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体)
【化12】
(A’−5:多価チオール化合物)
【化13】
(A’−6:多価チオール化合物)
【化14】
(A’−7:チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体)
【化15】
(A’−8:チオエーテル含有アルコキシシラン誘導体)
【化16】
(A’−9:チオエーテル含有(メタ)アクリレート誘導体)
【化17】
【0037】
<(B)成分:多官能(メタ)アクリレート>
【化18】
(B−1、Mw:5000)
(nは平均13)
(B−2、Mw:246)
【化19】
(B−3、Mw:352)
【化20】
(B−4、Mw:22000)
グリシジルメタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートの共重合体に下記D−3を触媒としメタクリル酸を当モル付加したポリマー(50wt%メチルイソブチルケトン溶液をヘキサンで再沈した白色固体)。
(B−5、Mw:45000)
グリシジルメタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートの共重合体に下記D−3を触媒としメタクリル酸を当モル付加したポリマー(50wt%メチルイソブチルケトン溶液をヘキサンで再沈した白色固体)。
【0038】
<(C)成分:光重合開始剤>
(C−1、Mw:204)
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(C−2、Mw:348)
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド
(C−3、Mw:407)
2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン
【0039】
<(D)成分:アミン化合物>
(D−1、Mw:110)
【化21】
(D−2、Mw:102)
N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン
(D−3、Mw:680)
【化22】
(n1、n2、n3は1〜5の整数であり、平均が3.5である混合物)
【0040】
表1〜表4に示す配合比で(A)〜(D)成分をそれぞれ混合し、スパチュラで均一になるまで撹拌し、実施例及び比較例の硬化性樹脂組成物のサンプルを得た。得られた実施例及び比較例の各硬化性樹脂組成物のサンプルに対して以下の密着性1(室温密着性)、密着性2(寒冷地密着性)、柔軟性及び保存安定性の評価を行った。その結果を表1〜表4に示す。
【0041】
[評価用試験片の作製]
密着性1、密着性2、及び柔軟性の評価用試験片は、次のように得た。硬化性樹脂組成物の各サンプルを、25mm幅のPETフィルム上にダイコーターで100ミクロンの厚みに塗布し、その上に別のPETフィルムを重ねた後、表1〜表4に示す硬化条件で硬化させ評価用試験片を得た。なお、PETフィルムとしては、東レ(株)製、ルミラーU46−100を用いた。光照射には、ヘレウス・ノーブルライト・フュージョン・ユーブイ株式会社製UVランプシステム「ライトハンマー6」を用い、ランプバルブは、Hバルブを使用した。
【0042】
[密着性1(室温密着性)]
上記評価用試験片を、25℃で24時間静置した後、JIS K6854−3に準じたT型はく離法で測定し、以下の通り評価した。
◎:引っ張り強度が5N/25mm以上(PETフィルムが破断)
○:引っ張り強度が5N/25mm以上(PETフィルムは破断せず)
×:5N/25mm未満
【0043】
[密着性2(寒冷地密着性)]
上記評価用試験片を、−10℃で24時間静置した後、JIS K6854−3に準じたT型はく離法で測定し、以下の通り評価した。
◎:引っ張り強度が5N/25mm以上(PETフィルムが破断)
○:引っ張り強度が5N/25mm以上(PETフィルムは破断せず)
×:5N/25mm未満
【0044】
[柔軟性]
上記評価用試験片を、−10℃で24時間静置した後、直径8mmの棒に1分間巻きつけ、目視にて観察し、以下の通り評価した。
○:クラック無し
×:クラック有り
【0045】
[保存安定性]
各実施例及び比較例の硬化性樹脂組成物のサンプルについて、混合した直後に25℃における粘度(混合直後の粘度)を測定するとともに、40℃で12時間加熱した後再度粘度(加熱後の粘度)を測定し、加熱後の粘度を混合直後の粘度で除して増粘率を算出し、以下の通り評価した。なお、粘度は、東機産業株式会社製のR型粘度計を用い、下記条件にて測定した。
使用ロータ:1°34′×R24
測定範囲:0.5183〜103.7 Pa・s
◎:増粘率1.0〜1.8
○:増粘率1.8〜10
×:増粘率上記範囲外
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
実施例1−1〜1−12の硬化性樹脂組成物は、室温及び寒冷条件下における高い密着性、良好な柔軟性、及び優れた保存安定性が確認された。実施例2−1〜2−5の硬化性樹脂組成物は、少ない光照射で硬化し、室温及び寒冷条件下における高い密着性、良好な柔軟性、及び優れた保存安定性が確認された。実施例3−1〜3−6の硬化性樹脂組成物は、少ない光照射と低温加熱により硬化し、室温及び寒冷条件下における高い密着性、良好な柔軟性、及び優れた保存安定性が確認された。一方、(B)成分に対して(A)成分が少なすぎる比較例1−1、及び(B)成分に対して(A)成分が多すぎる比較例1−2では、寒冷条件下のみならず常温でも密着性が劣っていた。上記式1の構造を有しない化合物を(A)成分として用いた比較例1−3〜1−7では、寒冷条件下における密着性が劣っていた。