特許第6610030号(P6610030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6610030
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】映像処理装置および映像処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/91 20060101AFI20191118BHJP
   H04N 5/765 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   H04N5/91
   H04N5/765
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-129970(P2015-129970)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-17423(P2017-17423A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐
(72)【発明者】
【氏名】近藤 多伸
(72)【発明者】
【氏名】浦谷 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】山内 健一
【審査官】 松元 伸次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−267773(JP,A)
【文献】 特開2004−247937(JP,A)
【文献】 特開2015−046756(JP,A)
【文献】 特開平09−070009(JP,A)
【文献】 特開2003−078864(JP,A)
【文献】 特開2013−131871(JP,A)
【文献】 特開2004−134862(JP,A)
【文献】 特開2006−197223(JP,A)
【文献】 特開2013−080989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B27/00−27/06
H04N5/76−5/775
5/80−5/956
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響および動画を含む収録素材データを収録可能な複数の端末装置から、無線通信により、相互に並列に収録された複数の収録素材データをそれぞれ受信する無線通信部と、
前記収録素材データの音響を利用した同期処理により前記複数の収録素材データを相互に同期させる同期処理部と、
前記同期処理後の複数の収録素材データに対する編集処理で、前記複数の収録素材データのうち1個の収録素材データに対応する音響と、各収録素材データが表す動画の一部である選択区間を複数の収録素材データにわたり時間軸上で相互に連結した動画とを含むコンテンツを生成する編集処理部と、を具備し、
前記編集処理部は、
前記同期処理後の複数の収録素材データの間で前記選択区間が相互に重複しないように各収録素材データからランダムに抽出された当該選択区間の始点および終点を指定する初期的な制御データを生成し、
前記無線通信部は、
前記端末装置から調整要求を受信すると、前記複数の収録素材データと、前記初期的な制御データとを当該端末装置に送信し、
前記受信した複数の収録素材データをもとに当該端末装置において前記選択区間の始点および終点が前記初期的な制御データから更新された制御データを当該端末装置から受信し、
前記編集処理部は、前記更新された制御データを適用した前記編集処理を実行する
映像処理装置。
【請求項2】
前記無線通信部は、前記端末装置にて前記収録素材データに付加される共通の識別情報を前記収録素材データの収録前に前記複数の端末装置に無線通信で送信し、
前記編集処理部は、前記識別情報が付加された収録素材データを対象として前記編集処理を実行する
請求項1の映像処理装置。
【請求項3】
音響および動画を含む収録素材データを収録可能な複数の端末装置から、無線通信により、相互に並列に収録された複数の収録素材データをそれぞれ受信し、
前記収録素材データの音響を利用した同期処理により前記複数の収録素材データを相互に同期させ、
前記同期処理後の複数の収録素材データに対する編集処理で、前記複数の収録素材データのうち1個の収録素材データに対応する音響と、各収録素材データが表す動画の一部である選択区間を複数の収録素材データにわたり時間軸上で相互に連結した動画とを含むコンテンツを生成する方法であって、
前記同期処理後の複数の収録素材データの間で前記選択区間が相互に重複しないように各収録素材データからランダムに抽出された当該選択区間の始点および終点を指定する初期的な制御データを生成し、
前記端末装置から調整要求を受信すると、前記複数の収録素材データと、前記初期的な制御データとを当該端末装置に送信し、
前記受信した複数の収録素材データをもとに当該端末装置において前記選択区間の始点および終点が前記初期的な制御データから更新された制御データを当該端末装置から受信し、
前記コンテンツの生成においては、前記更新された制御データを適用した前記編集処理を実行する
コンピュータにより実現される映像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響および動画を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
音響と動画とを含む素材を収録および編集する各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、相異なる位置に設置された複数のカメラで撮影された映像を適宜に切替えて再生可能なマルチアングルビデオを生成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−135706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、複数のカメラやマイクをケーブルで映像記録装置に接続した大規模な収録システムが必要であり、運搬や配置等の取扱いが煩雑であるという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、相異なる位置で収録された複数の素材を利用したコンテンツを簡便に生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の映像処理装置は、音響および動画を含む収録素材データを収録可能な複数の端末装置から無線通信により収録素材データを受信する無線通信部と、無線通信部が受信した複数の収録素材データに対する編集処理でコンテンツを生成する編集処理部と、無線通信部および編集処理部を収容する可搬型の筐体とを具備する。以上の態様では、無線通信部と編集処理部とが可搬型の筐体に収容され、複数の端末装置から無線通信で受信した複数の収録素材データに対する編集処理でコンテンツが生成される。すなわち、可搬型の映像処理装置を運搬および配置することで、複数の収録素材データの取得と複数の収録素材データに対する編集処理とが実現される。したがって、特許文献1の技術で必要となる大規模な収録システムを必要とせずに、相異なる位置で収録された音響や動画を含むコンテンツを簡便に生成できるという利点がある。
【0006】
本発明の好適な態様において、無線通信部は、端末装置にて収録素材データに付加される共通の識別情報を収録素材データの収録前に複数の端末装置に無線通信で送信し、編集処理部は、識別情報が付加された収録素材データを対象として編集処理を実行する。以上の態様では、各端末装置による収録素材データの収録前に複数の端末装置に共通の識別情報が送信され、当該識別情報が付加された収録素材データを対象として編集処理が実行される。したがって、例えば端末装置で過去に収録された無関係な音響や動画が編集処理の対象とされる可能性を低減できる。
【0007】
本発明の好適な態様において、無線通信部は、端末装置に対する利用者からの指示に応じた制御データを端末装置から受信し、編集処理部は、制御データを適用した編集処理を実行する。以上の態様では、端末装置に対する利用者からの指示に応じた制御データが編集処理に適用されるから、端末装置の利用者の意図を反映したコンテンツを生成できるという利点がある。
【0008】
本発明の好適な態様に係る映像処理装置は、収録素材データの音響を利用して複数の収録素材データを相互に同期させる同期処理部を具備し、編集処理部は、同期処理部による処理後の複数の収録素材データに対する編集処理でコンテンツを生成する。以上の態様では、編集処理の実行前に複数の収録素材データを相互に同期させるから、時間的に相互に整合した複数の収録素材データを統合した適切なコンテンツを生成できるという利点がある。
【0009】
本発明は、以上に例示した各形態に係る映像処理装置の動作方法(映像処理方法)としても特定され得る。本発明の好適な態様に係る映像処理方法は、無線通信部と編集処理部とを収容する可搬型の筐体を具備する映像処理装置により、無線通信部が、音響および動画を含む収録素材データを収録可能な複数の端末装置から無線通信により前記収録素材データを受信し、編集処理部が、前記無線通信部が受信した複数の収録素材データに対する編集処理でコンテンツを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る映像処理システムの構成図である。
図2】端末装置の構成図である。
図3】複数の収録素材データの説明図である。
図4】映像処理装置の構成図である。
図5】複数の収録素材データを相互に同期させる処理の説明図である。
図6】制御データの模式図である。
図7】映像処理システムの動作の説明図である。
図8】調整画面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の好適な態様に係る映像処理システム100の構成図である。映像処理システム100は、例えば演奏会や講演会等の種々のイベントの収録に利用されるコンピュータシステムであり、図1に例示される通り、映像処理装置12と複数の端末装置14とを具備する。複数の端末装置14の各々は、例えば携帯電話機やスマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ等の可搬型の通信端末である。概略的には、複数の端末装置14の各々が収録した音響および動画のデータ(以下「収録素材データ」という)を映像処理装置12が収集および編集することで1個のコンテンツが生成される。
【0012】
図2は、任意の1個の端末装置14を例示する構成図である。図2に例示される通り、端末装置14は、制御装置20と記憶装置22と通信装置24と収録装置26と操作装置28と再生装置30とを具備する。制御装置20は、端末装置14の各要素を統括的に制御する演算処理装置(例えばCPU)である。記憶装置22は、磁気記録媒体や半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成され、制御装置20が実行するプログラムや制御装置20が使用する各種のデータを記憶する。
【0013】
再生装置30は、制御装置20から指示された画像を表示する表示装置32と、制御装置20から指示された音響を放音する放音装置34とを包含する。操作装置28は、端末装置14の利用者からの指示を受付ける入力機器である。利用者が操作可能な複数の操作子や表示装置32の表示面に対する接触を検知するタッチパネルが操作装置28として利用される。
【0014】
収録装置26は、収録素材データDを生成する映像機器である。本実施形態の収録装置26は、音響を収音する収音装置と動画を撮像する撮像装置とを具備し、収音装置が収音した音響と撮像装置が撮像した動画とを表す収録素材データDを生成する。各端末装置14の利用者は、当該端末装置14の収録装置26を利用して、例えば相異なる位置で共通の収録対象(例えば演奏会等のイベント)の音響および動画を並列に収録する。すなわち、各端末装置14の収録装置26は、音響ホール等の共通の音響空間の相異なる地点に配置され、各々が別個の角度から例えば舞台や観客の様子を収録して収録素材データDを生成する。
【0015】
図3には、各端末装置14の収録装置26が生成する複数の収録素材データD(D1,D2,D3)が例示されている。図3に例示される通り、任意の1個の収録素材データDは、相互に並列に収録された音響および動画を包含する。音響や動画の収録の開始点は複数の収録素材データDの間で相違し得る。また、複数の収録素材データDは、相互に共通の音響(ただし音量等の音響特性は相違し得る)を含有する。
【0016】
図2の通信装置24は、映像処理装置12と通信する通信機器である。本実施形態の通信装置24は、例えばWi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の公知の近距離無線通信により映像処理装置12と通信する。具体的には、通信装置24は、収録装置26が生成した収録素材データDを近距離無線通信により映像処理装置12に送信する。なお、端末装置14と映像処理装置12との間の通信方式は任意である。
【0017】
図4は、映像処理装置12を例示する構成図である。本実施形態の映像処理装置12は、各端末装置14が生成した複数の収録素材データDを処理するコンピュータシステムであり、図4に例示される通り、制御装置40と記憶装置42と通信装置44と操作装置46とを具備する。制御装置40と記憶装置42と通信装置44とは図1の可搬型の筐体120に収容され、操作装置46は筐体120に設置される(図1では図示略)。本実施形態の映像処理装置12は、例えば管理者(例えば収録対象のイベントの運営者)が人力で運搬可能な一体の可搬型装置である。具体的には、図1に例示される通り、管理者が把持可能な把持部122(取っ手)が筐体120の頂面に設置され、管理者は把持部122を把持した状態で映像処理装置12を任意の位置に運搬および配置することが可能である。具体的には、演奏会や講演会等の種々のイベントが開催される場所に映像処理装置12が運搬および配置される。
【0018】
図4の操作装置46は、映像処理装置12に対する指示を映像処理装置12の管理者から受付ける入力機器である。なお、管理者が端末装置14を利用して映像処理装置12に各種の指示を遠隔で付与することも可能である。したがって、映像処理装置12から操作装置46は省略され得る。通信装置(無線通信部の例示)44は、複数の端末装置14の各々と通信する。具体的には、通信装置44は、複数の端末装置14から近距離無線通信により収録素材データDを受信する。以上の説明から理解される通り、本実施形態では、映像処理装置12と各端末装置14との間の無線通信の方式として、移動体通信網やインターネット等の通信網が装置間に介在しない近距離無線通信を例示する。
【0019】
記憶装置42は、例えば磁気記録媒体や半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成され、制御装置40が実行するプログラムや制御装置40が使用する各種のデータを記憶する。なお、映像処理装置12が通信可能なサーバに記憶装置42(すなわちクラウドストレージ)を設置することも可能である。すなわち、映像処理装置12から記憶装置42は省略され得る。記憶装置42は、通信装置44が複数の端末装置14から受信した複数の収録素材データDを記憶する。
【0020】
制御装置40は、映像処理装置12の各要素を統括的に制御する演算処理装置(例えばCPU)である。本実施形態の制御装置40は、記憶装置42に記憶されたプログラムを実行することで、通信装置44が端末装置14から受信した複数の収録素材データDを処理するための複数の機能(同期処理部52,編集処理部54)を実現する。前述の説明から理解される通り、同期処理部52および編集処理部54は筐体120に収容される。なお、制御装置40の一部の機能を音響処理または画像処理の専用の電子回路で実現した構成や、制御装置40の機能を複数の装置に分散した構成も採用され得る。
【0021】
図4の同期処理部52は、複数の端末装置14から受信した複数の収録素材データDを相互に同期させる。複数の収録素材データDの同期とは、各収録素材データDの音響および動画の時間軸が複数の収録素材データDにわたり相互に合致する状態を意味する。すなわち、同期処理部52は、図5に例示される通り、各収録素材データDにおける特定の時刻が複数の収録素材データDにわたり時間軸上の共通の時点となるように各収録素材データDの時間軸上の位置を調整する。複数の収録素材データDの同期には公知の技術が任意に採用され得るが、例えば図5の例示からも理解される通り、各収録素材データDの音響を解析することで複数の収録素材データDを相互に同期させる構成が好適である。すなわち、各収録素材データDの音響の時間変動が複数の収録素材データDにわたり時間軸上で整合するように各収録素材データDの時間軸上の位置が調整される。
【0022】
図4の編集処理部54は、同期処理部52による同期処理後の複数の収録素材データDに対する処理(以下「編集処理」という)でコンテンツを生成する。編集処理は、収録素材データDの音響を調整する音響処理と、収録素材データDの動画を編集する動画処理とを包含する。音響処理は、複数の収録素材データDの音響に対するミキシングやマスタリング等の処理を包含する。動画処理は、複数の収録素材データDの各々の動画の一部(以下「選択区間」という)を時間軸上で相互に連結する処理である。編集処理部54が生成するコンテンツは、以上に例示した音響処理後の音響と動画処理後の動画(すなわち、複数の収録素材データDの何れかに順次に切替わる動画)とを包含する。なお、複数の収録素材データDの何れかの音響を音響処理により調整してコンテンツに利用することも可能である。
【0023】
図4に例示される通り、本実施形態の編集処理部54は、第1処理部541と第2処理部542とを包含する。第1処理部541は、複数の収録素材データDの編集処理に適用される制御データCを生成する。図6は、制御データCの模式図である。図6に例示される通り、制御データCは、音響制御データC1と動画制御データC2とを包含する。音響制御データC1は、前述の音響処理(ミキシングやマスタリング)に適用される各変数の数値を指定する。第1処理部541は、例えば、音響処理の各変数が初期値に設定された初期的な音響制御データC1を生成する。
【0024】
他方、動画制御データC2は、各収録素材データDの各選択区間(すなわちコンテンツを構成する部分)を指定する。具体的には、動画制御データC2は、図6に例示される通り、相異なる選択区間に対応する複数の単位データUの時系列で構成される。任意の1個の選択区間に対応する単位データUは、当該選択区間を含む1個の収録素材データDの識別情報と、当該選択区間の始点および終点とを指定する。第1処理部541は、同期処理後の複数の収録素材データDの間で選択区間が相互に重複しないように各収録素材データDからランダムに抽出された選択区間を指定する初期的な動画制御データC2を生成する。
【0025】
第1処理部541が生成した初期的な制御データC(音響制御データC1,動画制御データC2)は、端末装置14に対する利用者からの指示に応じて更新される。図4の第2処理部542は、更新後の制御データCを適用した複数の収録素材データDに対する編集処理でコンテンツ(例えば動画ファイル)を生成する。編集処理部54(第2処理部542)が生成したコンテンツが例えば通信装置44から端末装置14に近距離無線通信により送信されて当該端末装置14の再生装置30で再生される。
【0026】
図7は、映像処理システム100の動作の説明図である。各端末装置14の記憶装置22に記憶されたプログラム(アプリケーションプログラム)が利用者からの指示に応じて起動された状態で、映像処理装置12の操作装置46に対する管理者からの所定の操作(動作開始の指示)を契機として図7の処理が開始される。
【0027】
まず、映像処理装置12の通信装置44は、当該映像処理装置12の周囲に位置する複数の端末装置14に対して近距離無線通信で識別情報Xを送信する(S1)。識別情報Xは、今回の映像処理装置12の一連の動作を識別するための符号である。以上の説明から理解される通り、各端末装置14の収録装置26による収録動作の実行前に、映像処理装置12の周囲の複数の端末装置14に対して共通の識別情報Xが送信される。識別情報Xは、各端末装置14の通信装置24により受信されたうえで記憶装置22に格納される(S2)。
【0028】
各端末装置14の収録装置26は、操作装置28に対する利用者からの操作を契機として音響および動画の収録動作を実行して収録素材データDを生成する(S3)。例えば、収録対象のイベントの開始を契機として複数の端末装置14により並列に収録が開始される。収録装置26が生成した収録素材データDは、映像処理装置12から受信した識別情報Xが付加された状態で記憶装置22に格納される。すなわち、複数の端末装置14により収録される複数の収録素材データDに共通の識別情報Xが付加される。
【0029】
収録装置26による収録動作が終了すると、通信装置24は、記憶装置22に記憶された収録素材データDを識別情報Xとともに近距離無線通信で映像処理装置12に送信する(S4)。例えば、操作装置28に対する利用者からの操作(収録動作の終了の指示)を契機として、収録素材データDと識別情報Xとが通信装置24から映像処理装置12に送信される。ただし、収録動作の終了および収録素材データDの送信の契機は、利用者からの指示に限定されない。例えば、識別情報Xの受信から所定の有効期間が経過した時点や所定の時刻(例えばイベントの終了時刻)が到来した時点で、各端末装置14が収録動作を終了して収録素材データDを映像処理装置12に送信することも可能である。また、映像処理装置12から送信された終了指示の受信を契機として収録素材データDの送信を開始することも可能である。複数の端末装置14から並列に送信された複数の収録素材データDは、映像処理装置12の通信装置44により受信されたうえで記憶装置42に格納される(S5)。
【0030】
映像処理装置12の同期処理部52は、端末装置14から受信した複数の収録素材データDの音響を相互に照合することで各収録素材データDを相互に同期させる(S6)。また、編集処理部54の第1処理部541は、同期処理部52による同期処理後の各収録素材データDについて初期的な制御データC(音響制御データC1,動画制御データC2)を生成する(S7)。
【0031】
他方、制御データCの調整(コンテンツの編集)を所望する利用者(管理者を含む)は、端末装置14の操作装置28に対する操作で調整開始を指示する。調整開始が指示されると、端末装置14の通信装置24は、調整要求を映像処理装置12に送信する(S8)。端末装置14から調整要求を受信すると、映像処理装置12の通信装置44は、記憶装置42に記憶された複数の収録素材データDと第1処理部541が生成した初期的な制御データCとを要求元の端末装置14に送信する(S9)。映像処理装置12から送信された複数の収録素材データDと制御データCとは、端末装置14の通信装置24により受信されて記憶装置22に格納される(S10)。なお、複数の収録素材データDに対してデータ量の削減のための処理を実行したうえで端末装置14に送信することも可能である。
【0032】
端末装置14の制御装置20は、操作装置28に対する利用者からの指示に応じて制御データCを調整する(S11)。図8は、利用者による制御データCの調整のために端末装置14の表示装置32に表示される画面(以下「調整画面」という)322の模式図である。調整画面322の表示には、例えば汎用のウェブブラウザが利用される。
【0033】
図8に例示される通り、調整画面322は、相異なる収録素材データDの動画を表象する複数の単位画像324を包含する。具体的には、収録素材データDの動画に包含される複数の画像(キャプチャ画像)の時系列が、当該収録素材データDの単位画像324として表示される。任意の1個の収録素材データDの単位画像324には、制御データCの動画制御データC2が当該収録素材データDに指定する選択区間の始点TSと終点TEとが表示される。利用者は、調整画面322を視認することで、各収録素材データDの動画の概略と当該収録素材データDのうちコンテンツに使用される選択区間とを確認することが可能である。
【0034】
利用者は、操作装置28を適宜に操作することで、所望の収録素材データDの始点TSまたは終点TEを時間軸上で適宜に移動させることが可能である。任意の収録素材データDの1個の選択区間の始点TSの移動に連動して他の収録素材データDの直前の選択区間の終点TEが移動し、任意の収録素材データDの1個の選択区間の終点TEの移動に連動して他の収録素材データDの直後の選択区間の始点TSが移動する。また、利用者は、各収録素材データDに対応する複数の単位画像324の表示の順序(上下)を、操作装置28に対する操作で任意に変更することが可能である。なお、利用者による編集中の収録素材データDに対応する単位画像324を他の単位画像324とは別個の態様(例えば階調や色彩)で表示する構成も採用される。
【0035】
また、利用者は、操作装置28を適宜に操作することで、音響制御データC1が指定する音響処理の各変数の数値を任意に調整することが可能である。具体的には、各収録素材データDの音響のレベル(ミキシングレベル)や当該音響に付与される音響効果等が指定される。また、音響処理の各変数について事前に用意された設定値(プリセット)を利用者が選択することも可能である。利用者は、操作装置28を適宜に操作することで、当該時点での調整内容を反映した音響および動画を再生装置30に再生(プレビュー)させることが可能である。
【0036】
制御データCの調整が完了すると、利用者は、調整後の制御データCを適用した編集処理を操作装置28に対する操作で指示する。端末装置14の制御装置20は、当該指示の時点での調整内容を表す制御データCを生成する。具体的には、利用者による調整後の各変数の数値を指定する音響制御データC1と、利用者による調整後の各収録素材データDの選択区間を指定する動画制御データC2とが生成される。通信装置24は、制御装置20が生成した制御データCを映像処理装置12に送信する(S12)。端末装置14から送信された制御データCは、映像処理装置12の通信装置44により受信されて記憶装置42に格納される(S13)。以上の説明から理解される通り、第1処理部541が生成した初期的な制御データCを端末装置14の利用者からの指示に応じて更新した制御データCが映像処理装置12の記憶装置42に格納される。
【0037】
映像処理装置12における編集処理部54の第2処理部542は、利用者による調整後の制御データCを適用した編集処理を同期処理後の複数の収録素材データDに対して実行することでコンテンツを生成する(S14)。具体的には、第2処理部542は、音響制御データC1で規定される音響処理を収録素材データDの音響に対して実行することでコンテンツの音響を生成する。また、第2処理部542は、動画制御データC2で規定される各収録素材データDの動画の選択区間を時間軸上で相互に連結することでコンテンツの動画を生成する。
【0038】
編集処理部54(第2処理部542)が生成したコンテンツは、例えば通信装置44から近距離無線通信で端末装置14に送信されて当該端末装置14の再生装置30で再生される。また、編集処理部54が生成したコンテンツを例えば動画投稿サイトにアップロードし、任意の情報端末を利用して再生することも可能である。
【0039】
以上に説明した通り、本実施形態では、映像処理装置12の各要素(制御装置40,記憶装置42,通信装置44)が可搬型の筐体120に収容され、複数の端末装置14から通信装置44が無線通信で受信した複数の収録素材データDに対する編集処理でコンテンツが生成される。すなわち、映像処理装置12を適切な位置に運搬および配置することで、複数の収録素材データDの取得と複数の収録素材データDに対する編集処理とが実現される。したがって、特許文献1の技術で必要となる大規模な収録システムを必要とせずに、相異なる位置で収録された複数の音響や動画を含むコンテンツを簡便に生成できるという利点がある。
【0040】
各端末装置14による収録素材データDの収録前に複数の端末装置14に共通の識別情報Xが送信され、当該識別情報Xが付加された収録素材データDを対象として編集処理が実行される。したがって、例えば端末装置14で過去に収録された無関係な音響や動画が編集処理の対象とされてコンテンツに含められる可能性を低減できるという利点がある。
【0041】
端末装置14に対する利用者からの指示に応じた制御データCを映像処理装置12の通信装置44が受信し、当該制御データCを適用した編集処理でコンテンツが生成される。したがって、端末装置14の利用者の意図を反映したコンテンツを生成できるという利点がある。例えば、個々の利用者が特に注目する特定の被写体(例えば自分の子供やペット)を含むコンテンツを生成することが可能である。また、編集処理の実行前に複数の収録素材データDを相互に同期させるから、時間的に相互に整合した複数の収録素材データDを統合した適切なコンテンツを生成できるという利点がある。
【0042】
本実施形態の映像処理システム100は、例えば以下の場面で好適に利用される。
(1)音楽ライブ
映像処理装置12がライブ会場に運搬および配置される。各演奏者は端末装置14を利用して自身の演奏の様子を収録し、各観客は自身の端末装置14を利用して自分の観客席からライブの様子を収録する。端末装置14が生成した複数の収録素材データDを映像処理装置12にて受信および編集することで、各演奏者に注目した動画と観客席から撮影された動画とが順次に切替わるコンテンツが生成される。当該コンテンツは、例えば動画投稿サイトにアップロードされて任意の情報端末で再生することが可能である。
【0043】
(2)実演会(例えば学芸会,演奏会,講演会)
映像処理装置12が実演会の会場に運搬および配置される。管理者は端末装置14を利用して舞台の全体的な様子を収録し、各観覧者は特定の出演者(例えば学芸会ならば自分の子供)を重点的に収録する。端末装置14が生成した複数の収録素材データDを映像処理装置12にて受信および編集することで、特定の出演者に注目した動画と舞台の全体を撮影した動画とが順次に切替わるコンテンツが生成される。当該コンテンツは有料または無料で希望者に提供される。例えば政治家による街頭演説(いわゆる辻立ち)を収録したコンテンツを生成することも可能である。以上の手順で生成されたコンテンツは、例えば動画投稿サイトにアップロードされて任意の情報端末で再生され得る。
【0044】
また、例えばダンス(社交ダンスやストリートダンス,日本舞踊,バレエ等の任意の舞踊を含む)の収録にも映像処理システム100が好適に利用され得る。例えば、模範的な実演者が舞踊する舞台の全体的な様子と実演者の身体の特定の部位(例えば手足等)の動作とを複数の端末装置14で多面的に収録し、収録後の複数の収録素材データDを映像処理装置12にて受信および編集することで、実演者の身体の特定の部位に順次に着目したコンテンツを生成することが可能である。したがって、実演者の全身を撮影した動画のみを参照する場合と比較して練習者がダンスを効果的に習得できる。
【0045】
(3)結婚式(冠婚葬祭)
映像処理装置12が結婚式や披露宴の会場に運搬および配置される。撮影業者等の管理者は端末装置14を利用して結婚式や披露宴の様子を収録し、各出席者は所望の場面を自身の端末装置14で収録する。端末装置14が生成した複数の収録素材データDを映像処理装置12にて受信および編集することで、結婚式や披露宴の様子を多様な角度および範囲で収録した動画が順次に切替わるコンテンツが生成され、例えば披露宴の歓談時や退席時に随時に再生される。
【0046】
<変形例>
以上に例示した形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2個以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0047】
(1)前述の形態では、音響および動画の双方を含む収録素材データDを例示したが、音響および動画の一方のみを含む収録素材データDを、音響および動画の双方を含む収録素材データDとともに利用してコンテンツを生成することも可能である。音響のみを含む収録素材データDに対する音響処理でコンテンツの音響が生成され、動画のみを含む収録素材データDに対する動画処理でコンテンツの動画が生成される。映像処理装置12に接続または装着された収音装置(例えばICレコーダ)を利用して、音響のみを含む収録素材データDを生成することも可能である。
【0048】
(2)識別情報Xを各端末装置14に提供するための構成は、前述の形態での例示に限定されない。例えば、映像処理装置12に近接(タッチ)した端末装置14と通信する短距離無線通信(NFC:Near Field Communication)を利用して端末装置14に識別情報Xを送信する構成や、例えば各利用者に対する頒布物に印刷されたQRコード(登録商標)の読取により端末装置14が識別情報Xを取得する構成も採用され得る。
【0049】
なお、識別情報Xを前述の例示の同様に無線通信(例えば短距離無線通信を含む近距離無線通信)で端末装置14に送信する一方、収録素材データDや制御データCについては、識別情報Xの授受とは別方式の通信により映像処理装置12と端末装置14との間で授受する(S4,S9,S12)ことも可能である。以上の構成でも、映像処理装置12の周囲に位置する端末装置14に限定して識別情報Xを提供する(ひいては複数の収録素材データDの編集で所望の映像を作成するサービスに参加する)ことが可能である。なお、映像処理装置12と端末装置14との間における収録素材データDや制御データCの授受には、移動体通信網やインターネット等の通信網を介した通信が採用され得る。
【0050】
(3)前述の形態では、利用者が動画を調整する作業として選択区間(始点TS,終点TE)の移動を例示したが、利用者からの指示に応じた動画の調整は以上の例示に限定されない。例えば、端末装置14に保持された音響(例えば音楽)や動画を、収録素材データDの音響や動画とともにコンテンツに挿入することも可能である。
【0051】
(4)前述の形態では、通信装置44を筐体120に収容したが、通信装置44を筐体120の外部に配置することも可能である。通信装置44は、端末装置14から無線で受信した収録素材データDを、有線または無線により筐体120内の制御装置40に送信する。以上の構成によれば、映像処理装置12が収録素材データDを収集可能な端末装置14の範囲を拡大することが可能である。
【0052】
(5)以上に例示した映像処理装置12は、前述の通り制御装置40とプログラムとの協働で実現される。プログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体を包含し得る。また、以上に例示したプログラムは、通信網を介した配信の形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。また、前述の形態に係る映像処理装置12の動作方法(映像処理方法)としても本発明は特定される。
【符号の説明】
【0053】
100……映像処理システム、12……映像処理装置、120……筐体、122……把持部、14……端末装置、20……制御装置、22……記憶装置、24……通信装置(無線通信部)、26……収録装置、28……操作装置、30……再生装置、32……表示装置、34……放音装置、40……制御装置、42……記憶装置、44……通信装置、46……操作装置、52……同期処理部、54……編集処理部、541……第1処理部、542……第2処理部。

図1
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図8