(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6610051
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】変速機の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20191118BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20191118BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20191118BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20191118BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
F16H57/04 Q
F16C33/66 Z
F16C19/26
F16C17/04 Z
F16C33/10 Z
F16H57/04 J
F16H57/04 K
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-143714(P2015-143714)
(22)【出願日】2015年7月21日
(65)【公開番号】特開2017-25985(P2017-25985A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 卓弘
【審査官】
塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−110760(JP,U)
【文献】
特開平08−028667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16C 17/04
F16C 19/26
F16C 33/10
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に潤滑油を吐出可能な潤滑油路を有するシャフトに変速ギヤが設けられた変速機の潤滑構造であって、
前記シャフトの外周に回転不能に設けられた内輪、変速機ケースに回転不能に設けられた外輪及び、前記内輪と前記外輪との間に摺動可能に介設された転動体を有する軸受部と、
前記シャフトに挿通されると共に、前記軸受部と前記変速ギヤとの間に介設された環状のスラストワッシャと、を備え、
前記スラストワッシャの前記軸受部に臨む側面に、軸方向に沿って前記転動体に隣接する位置まで延設される環状突起部を設け、
前記スラストワッシャには、その内環部を軸方向に貫通する貫通油溝と、前記軸受部に臨む側面を前記貫通油溝の下流端から前記環状突起部に向かって径方向に延びる径方向油溝とが凹設される
変速機の潤滑構造。
【請求項2】
前記潤滑油路の吐出口が前記変速ギヤと対向する前記シャフトの外周面に設けられると共に、前記シャフトの外周面に前記吐出口から前記軸受部に向かって軸方向に延びるシャフト油溝が凹設される
請求項1に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項3】
前記スラストワッシャの前記変速ギヤに臨む側面には、当該側面を前記内環部に向かって斜めに切り欠いた環状油溝が設けられる
請求項1又は2に記載の変速機の潤滑構造。
【請求項4】
前記スラストワッシャの前記軸受部に臨む側面には、当該側面を外環部に向かって斜めに切り欠いた環状傾斜面部が設けられる
請求項1から3の何れか一項に記載の変速機の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の潤滑構造に関し、特に、変速ギヤとベアリングとの間に配置されるスラストワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速機においては、複数の変速ギヤ列や各ベアリング等に発生する摩擦を低減するために、変速機ケース内の各部位に潤滑油を供給している。この種の潤滑構造として、例えば、メインシャフトの内部に形成された潤滑油路から径方向に潤滑油を吐出させると共に、係る潤滑油をスラストワッシャの側面に形成された径方向油溝から隣接するベアリングに供給する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭60−110760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スラストワッシャはメインシャフトと一体に回転するため、メインシャフトの径方向油溝からベアリングに供給される潤滑油には遠心力が作用することになる。このため、潤滑油が遠心力の影響を受けてスラストワッシャの径方向油溝から外方に飛散すると、十分な量の潤滑油をベアリングに供給できなくなり、特にベアリングの内輪鍔部とコロとの接触面に油膜切れを生じさせて、これら部位の焼き付きを引き起こす課題がある。
【0005】
開示の技術は、潤滑油の飛散を効果的に抑制してベアリングの焼き付きを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術は、径方向に潤滑油を吐出可能な潤滑油路を有するシャフトに変速ギヤが設けられた変速機の潤滑構造であって、前記シャフトの外周に回転不能に設けられた内輪、変速機ケースに回転不能に設けられた外輪及び、前記内輪と前記外輪との間に摺動可能に介設されたコロを有する軸受部と、前記シャフトに挿通されると共に、前記軸受部と前記変速ギヤとの間に介設された環状のスラストワッシャと、を備え、前記スラストワッシャの側面に前記コロに向かって軸方向に突出する環状突起部を設けたものである。
【0007】
前記環状突起部が前記内輪と前記外輪との間まで延設されると共に、その突出端を前記コロの側面に隣接させてもよい。
【0008】
前記潤滑油路の吐出口が前記変速ギヤと対向する前記シャフトの外周面に設けられると共に、前記シャフトの外周面に前記吐出口から前記軸受部に向かって軸方向に延びるシャフト油溝が凹設され、前記スラストワッシャには、その内環部を軸方向に貫通する貫通油溝と、前記軸受部に臨む側面を前記貫通油溝の下流端から前記棚部に向かって径方向に延びる径方向油溝とが凹設されてもよい。
【0009】
前記スラストワッシャの前記変速ギヤに臨む側面には、当該側面を前記内環部に向かって斜めに切り欠いた環状油溝が設けられてもよい。
【0010】
前記スラストワッシャの前記軸受部に臨む側面には、当該側面を外環部に向かって斜めに切り欠いた環状傾斜面部が設けられてもよい。
【発明の効果】
【0011】
開示の技術によれば、潤滑油の飛散を効果的に抑制してベアリングの焼き付きを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る変速機の一部を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る変速機のメインシャフトの一部を示す模式的な斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るスラストワッシャを円筒コロ軸受側から視た模式的な正面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る変速機の潤滑構造における潤滑油の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る変速機の潤滑構造について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
図1に示すように、変速機1のメインシャフト10は、円筒コロ軸受30を介して変速機ケース2に回転自在に軸支されている。このメインシャフト10には、ニードルベアリング3,4を介して複数の変速ギヤ15,16が回転可能に軸支されている。
【0015】
メインシャフト10の内部には、軸方向に延び、潤滑油を流すための軸方向油路11と、軸方向油路11からメインシャフト10の外周面に向かって径方向に延び、潤滑油を外周面の開口部12A(
図2参照)から吐出するための径方向油路12,13が形成されている。これら径方向油路12,13は、例えば、各変速ギヤ15,16のそれぞれの内周面(ニードルベアリング3,4)に対向する位置に設けられている。
【0016】
メインシャフト10の外周面には、開口部12A(
図2参照)から詳細を後述するスラストワッシャ40に向かって軸方向に延びるシャフト外周油溝14(
図1,2参照)が形成されている。
【0017】
シンクロメッシュ機構20は、その内周歯がメインシャフト10のスプライン歯10A(
図2参照)とスプライン嵌合するシンクロハブ21と、シンクロハブ21の外周歯と常時噛合すると共にシフトフォーク(不図示)によってシフト移動されて変速ギヤ15のドグギヤ15Aと選択的に噛合可能なシンクロスリーブ22と、シンクロハブ21とドグギヤ15Aとの間に設けられて同期荷重を作用させるシンクロナイザリング23とを備えている。
【0018】
円筒コロ軸受30は、外輪部31と、内輪部32と、これら外輪部31と内輪部32との間に摺動可能に挟持された円筒コロ33とを備えている。
【0019】
外輪部31は、その内周面の軸方向両端に径方向内方に向けて突出する一対の鍔部31A,Bが設けられている。この外輪部31は、変速機ケース2の取り付け穴に圧入固定されている。内輪部32は、円環状の第1鍔部32Aと、断面略L字状の円環状の第2鍔部32Bとの二部品によって構成されている。内輪部32は、その内周をメインシャフト10の外周部10B(
図2参照)に嵌合されている。
【0020】
スラストワッシャ40は、正面視で略円環状に形成されており、メインシャフト10に摺動可能に挿通されて変速ギヤ15と円筒コロ軸受30との間に介設されている。なお、変速ギヤ16と円筒コロ軸受30との間のスラストワッシャ50もスラストワッシャ40と同様に構成されるため、以下、スラストワッシャ50の詳細な説明は省略する。
【0021】
図3,4に示すように、スラストワッシャ40には、その円筒コロ軸受30側の第1側面部40Aから軸方向に所定の高さで突出する円環状の棚部(環状突起部)44が凸設されている。この棚部44は、円筒コロ軸受30の外輪部31と内輪部32との間まで延びると共に、その突出端と円筒コロ33の側面との間には干渉を避けるための微少なクリアランスが確保されている。
【0022】
スラストワッシャ40の第1側面部40Aには、内環部41から棚部44に向かって径方向に延びる複数本(図示例では4本)の径方向油溝45が凹設されている。また、第1側面部40Aには、外環部42を第1側面部40Aに向けて斜めに切り欠いて形成した環状傾斜面部48が設けられている。
【0023】
スラストワッシャ40の内環部41には、径方向外方に所定の深さで窪むと共に、スラストワッシャ40を軸方向に貫通して径方向油溝45に連通する複数本(図示例では4本)の貫通油溝46が凹設されている。また、スラストワッシャ40の変速ギヤ15側の第2側面部40Bには、この第2側面部40Bを内環部41に向けて斜めに切り欠いて形成した環状油溝47(
図4参照)が設けられている。
【0024】
次に、
図5に基づいて、本実施形態の変速機の潤滑構造の作用効果について説明する。
【0025】
図5中に破線矢印X1で示すように、潤滑油はメインシャフト10の軸方向油路11、径方向油路12を流れて開口部12A(
図2参照)から吐出され、さらに、シャフト外周油溝14内をスラストワッシャ40に向けて流される。
【0026】
シャフト外周溝14の下流端に達した潤滑油は、環状油溝47内を回流しながら、破線矢印X2で示すように、貫通油路46内を通って径方向油溝45に到達する。径方向油溝45に達した潤滑油は、遠心力によって径方向外方へ流れて棚部44に突き当たり、さらに棚部44の内周面に沿って案内されながら、円筒コロ軸受30の外輪部31と内輪部32との間に導かれるようになっている。
【0027】
すなわち、径方向油溝45から供給される潤滑油を径方向外方に飛散させることなく、棚部44によって確実に受け止めて案内するとで、潤滑油が円筒コロ軸受30に向かって効果的に導入されるように構成されている。したがって、本実施形態の潤滑構造によれば、円筒コロ軸受30への潤滑油の供給量を効果的に確保することが可能となり、特に焼き付
きが生じやすい第1鍔部32Aと円筒コロ33との間の油膜切れを確実に防止することができる。
【0028】
また、
図5中に破線矢印X3で示すように、変速ギヤ15等によって変速機ケース2内に掻き上げられた潤滑油の一部は、スラストワッシャ40に落下し、環状傾斜面部48によって棚部44の外周面に効果的に集められる。さらに、潤滑油は棚部44の外周面に沿って流されて、円筒コロ軸受30の外輪部31と内輪部32との間に効果的に導入されるようになっている。したがって、本実施形態の潤滑構造によれば、円筒コロ軸受30への潤滑油の供給量を効果的に増加させることが可能となり、円筒コロ軸受30の焼き付
きを確実に防止することができる。
【0029】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0030】
例えば、シャフトはメインシャフト10に限定されず、カウンタシャフト等、潤滑油路が形成される他のシャフトにも広く適用することが可能である。また、ベアリングは円筒コロ軸受30に限定されず、ボールベアリング等、他のベアリングにも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 変速機
2 変速機ケース
3,4 ニードルベアリング
10 メインシャフト
11 軸方向油路
12,13 径方向油路
14 シャフト外周溝
15,16 変速ギヤ
20 シンクロメッシュ機構
21 シンクロハブ
22 シンクロスリーブ
23 シンクロナイザリング
30 円筒コロ軸受
31 外輪部
31A,B 鍔部
32 内輪部
32A 第1鍔部
32B 第2鍔部
33 円筒コロ
40 スラストワッシャ
41 内環部
42 外環部
44 棚部(環状突起部)
45 径方向油溝
46 貫通油溝
47 環状油溝
48 環状傾斜面部