(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されるような可動式のテンションローラーを使用する場合、テンションローラーが移動することにより記録媒体に所望の張力を付与する(所望の張力がかかった状態を維持する)ことが困難な場合がある。記録媒体に所望の張力が付与されないと、巻き取られた記録媒体にしわや巻きずれやたるみが生じたり、記録画像にバンディング(バンドムラ)等が発生したりする場合がある。このため、可動式のテンションローラーを使用することなく記録媒体に張力を付与して巻き取ることが望ましく、記録媒体に所望の張力を付与することにより記録媒体を巻き取る際の不具合を抑制することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、記録媒体を巻き取る際の不具合を抑制することにあり、以下の適用例または形態として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1] 本適用例に係る記録装置は、記録媒体を搬送する搬送部と、搬送される前記記録媒体を巻き取る巻取部と、前記搬送部および前記巻取部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記搬送部の搬送動作に同期して前記巻取部で前記記録媒体を巻き取る際、前記記録媒体が搬送される速度および前記巻取部のイナーシャに基づいて、前記巻取部のトルクリミットの閾値を切り換えることを特徴とする。
【0007】
本適用例によれば、制御部は、搬送部の搬送動作に同期して巻取部で記録媒体を巻き取る際、記録媒体が搬送される速度および巻取部のイナーシャ(慣性モーメント)に基づいて、巻取部のトルクリミットの閾値を切り換えて巻き取るよう制御する。その結果、搬送部の搬送動作に同期して巻取部のトルクがより適切な値になるように制御されるため、記録媒体に所望の張力をより安定して付与することができ、記録媒体を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0008】
[適用例2] 上記適用例に係る記録装置において、前記巻取部のイナーシャには、前記巻取部に巻き取られた前記記録媒体のイナーシャが含まれることを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、巻取部のイナーシャには、巻取部に巻き取られた記録媒体のイナーシャが含まれるため、巻き取りの開始から終了まで、巻取部のトルクがより適切な値になるように制御される。その結果、記録媒体に所望の張力をより安定して付与することができ、記録媒体を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0010】
[適用例3] 上記適用例に係る記録装置において、前記制御部は、前記搬送部が前記記録媒体を搬送する速度と、前記巻取部が前記記録媒体を巻き取る速度との差異に基づいて、前記巻取部のトルクリミットの前記閾値を補正することを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、制御部は、搬送部が記録媒体を搬送する速度と、巻取部が記録媒体を巻き取る速度との差異に基づいて、巻取部のトルクリミットの閾値を補正するため、搬送部の搬送動作と巻取部の巻取動作とをより精度高く同期させることができる。その結果、記録媒体に所望の張力をより安定して付与することができ、記録媒体を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0012】
[適用例4] 上記適用例に係る記録装置において、前記搬送部は、反復する搬送動作によって前記記録媒体を断続的に搬送し、前記制御部は、前記搬送部が前記記録媒体を一度の前記搬送動作によって搬送する搬送長と、前記搬送部の前記搬送動作に同期して前記巻取部が前記記録媒体を巻き取る巻取長との差異に基づいて、前記巻取部のトルクリミットの前記閾値を補正することを特徴とする。
【0013】
本適用例によれば、制御部は、搬送部が記録媒体を一度の搬送動作によって搬送する搬送長と、搬送部の搬送動作に同期して巻取部が記録媒体を巻き取る巻取長との差異に基づいて、巻取部のトルクリミットの閾値を補正するため、搬送部の搬送動作と巻取部の巻取動作とをより精度高く同期させることができる。その結果、記録媒体に所望の張力をより安定して付与することができ、記録媒体を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0014】
[適用例5] 本適用例に係る巻取方法は、記録媒体を搬送する搬送部と、搬送される前記記録媒体を巻き取る巻取部と、を備える記録装置における前記記録媒体の巻取方法であって、前記搬送部の搬送動作に同期して前記巻取部で前記記録媒体を巻き取る際、前記巻取部のトルクリミットの閾値を、前記記録媒体が搬送される速度および前記巻取部のイナーシャに基づいて切り換えることを特徴とする。
【0015】
本適用例によれば、搬送部の搬送動作に同期して巻取部で記録媒体を巻き取る際、巻取部のトルクリミットの閾値を、記録媒体が搬送される速度および巻取部のイナーシャに基づいて切り換える。その結果、搬送部の搬送動作に同期して巻取部のトルクがより適切な値になるため、記録媒体に所望の張力をより安定して付与することができ、記録媒体を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0016】
[適用例6] 上記適用例に係る巻取方法において、前記搬送部が前記記録媒体を搬送する速度と、前記巻取部が前記記録媒体を巻き取る速度との差異に基づいて、前記巻取部のトルクリミットの前記閾値を補正することを特徴とする。
【0017】
本適用例によれば、搬送部が記録媒体を搬送する速度と、巻取部が記録媒体を巻き取る速度との差異に基づいて、巻取部のトルクリミットの閾値を補正するため、搬送部の搬送動作と巻取部の巻取動作とをより精度高く同期させることができる。その結果、記録媒体に所望の張力をより安定して付与することができ、記録媒体を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を具体化した実施形態について、図面を参照して説明する。以下は、本発明の一実施形態であって、本発明を限定するものではない。なお、以下の各図においては、説明を分かりやすくするため、実際とは異なる尺度で記載している場合がある。
【0020】
(実施形態1)
<記録装置(プリンター)>
図1は、実施形態1に係る「記録装置」としてのプリンター100の概略側面図である。また、
図2は、プリンター100のブロック図である。
プリンター100は、「記録媒体」としてのロール状に巻かれた状態で供給されるロール紙1に画像を記録(印刷)するインクジェット式プリンターである。
プリンター100は、記録部10、搬送部20、供給部30、巻取部40、搬送路50、制御部60などを備えている。
【0021】
ロール紙1は、供給部30から供給され、記録動作に伴い搬送路50によって記録部10を経由し、巻取部40に収納される。
ロール紙1としては、例えば、上質紙、キャスト紙、アート紙、コート紙、合成紙、また、PET(Polyethylene terephthalate)、PP(polypropylene)などから成るフィルムなどを使用することができる。
【0022】
記録部10は、記録ヘッド11、キャリッジ12、ガイド軸13などから構成されている。記録ヘッド11は、インクを吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドである。ガイド軸13は、ロール紙1が移動する搬送方向に対して交差する走査方向に延在している。キャリッジ12は記録ヘッド11を搭載し、制御部60によって駆動制御されるキャリッジモーター14(
図2参照)によりガイド軸13に沿って往復移動(走査移動)する。
【0023】
制御部60は、キャリッジ12を走査方向に移動させながら記録ヘッド11からインク滴を吐出する動作と、搬送部20によりロール紙1を搬送方向に移動させる搬送動作とを交互に繰り返すことにより、ロール紙1に所望の画像を形成(記録)する。つまり、搬送部20は、ロール紙1に記録を行う際に、反復する搬送動作によってロール紙1を断続的に搬送する。
【0024】
なお、記録部10は、上記のように走査方向に往復移動するシリアルヘッドによる構成となっているが、インクを吐出するノズルを搬送方向と交差する方向に、ロール紙1の幅方向に亘って並べたラインヘッドの構成であっても良い。更に、上記のような所謂インクジェット式の記録ヘッド以外の記録部を有する記録装置であってもよい。
【0025】
搬送部20は、記録部10において、ロール紙1を搬送方向に移動させる搬送機構であり、ニップローラーを伴う駆動ローラー21などから構成されている。駆動ローラー21とニップローラーとの間にロール紙1を挟んだ状態で駆動ローラー21を駆動することにより、駆動ローラー21の周速度に応じた速度でロール紙1が搬送される。つまり、ロール紙1の伸縮や、駆動ローラー21とロール紙1との間の滑りなどが無い場合に、駆動ローラー21の周速度は、ロール紙1の搬送速度と等しくなる。
駆動ローラー21は、制御部60によって駆動制御される搬送モーター22(
図2参照)により駆動する。また、駆動ローラー21には、ロータリーエンコーダーが設けられている。
なお、搬送部20は、これらのローラーによる構成に限定するものではなく、例えば、搬送ベルトなどによって構成しても良い。
【0026】
供給部30は、記録が行われる前のロール紙1を収容する収容部であり、搬送路50において記録部10の上流側に位置し、繰出リール31などを備えている。
繰出リール31は、制御部60によって駆動制御される繰出モーター32(
図2参照)により回転して、ロール紙1を供給部30の下流側に配置される記録部10に向けて繰り出す。
【0027】
巻取部40は、記録が行われた後のロール紙1を巻き取り、ロール状に巻かれた状態で収納する収納部であり、搬送路50において記録部10の下流側に位置し、巻取リール41などを備えている。
巻取リール41は、制御部60によって駆動制御される巻取モーター42(
図2参照)により回転する回転軸を有し、回転軸を軸心として記録部10を経て送られてきたロール紙1を巻き取る。回転軸には、ロータリーエンコーダーが設けられている。
【0028】
搬送路50は、ロール紙1を、供給部30から、記録部10を経由して巻取部40まで搬送する搬送経路であり、記録部10の記録領域においてロール紙1を支持するプラテンを含む媒体支持部51、および回転バー部材52などから構成されている。
回転バー部材52は、媒体支持部51が構成する搬送経路の下流側の端部と巻取部40との間に、ロール紙1の幅方向に亘って延在している。回転バー部材52の回転軸は、プリンター100の本体に固定支持され、回転バー部材52は、回転バー部材52に当接するロール紙1の移動に伴って回転し、ロール紙1の移動を支持する。
【0029】
制御部60は、
図2に示すように、入出力部61、CPU62、メモリー63、タイマー64、ヘッド駆動部65、モーター駆動部66、システムバス67などを備え、プリンター100全体の集中制御を行う。
入出力部61は、外部機器(例えばパーソナルコンピューターPC)とプリンター100との間でデータの送受信を行う。
CPU62は、プリンター100全体の制御を行うための演算処理装置であり、システムバス67を介して、入出力部61、メモリー63、タイマー64、ヘッド駆動部65、モーター駆動部66と接続されている。
メモリー63は、CPU62が動作するプログラムを格納したり、必要な情報を記録したりする領域であり、RAM、ROM、フラッシュメモリーなどの記憶素子で構成される。
CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムや外部機器から受信する記録ジョブ(印刷指示)に従って、ヘッド駆動部65、モーター駆動部66を制御する。
【0030】
制御部60は、搬送部20および巻取部40のそれぞれに設けられたロータリーエンコーダーの読み取り値から、搬送部20におけるロール紙1の移動量、搬送速度および巻取部40におけるロール紙1の移動量、巻き取り速度などを認識することができる。なお、これらの移動量や速度は、搬送部20および巻取部40にレーザードップラー速度計などを備えることにより計測する構成であっても良い。
【0031】
制御部60は、搬送部20の搬送動作に同期して巻取部40でロール紙1を巻き取る際、ロール紙1が搬送される速度および巻取部40のイナーシャ(慣性モーメント)に基づいて、巻取部40のトルクリミットの閾値を切り換える。
以下、具体的に、ロール紙1の巻取時の、搬送部20(駆動ローラー21)および巻取部40(巻取リール41)の駆動タイミング、トルクリミットの閾値および巻取部40のトルクなどについて説明する。
【0032】
なお、プリンター100は、ロール紙1を搬送方向とは逆方向に搬送可能である。その際、「ロール紙1の逆搬送時の、搬送部20および繰出リール31の駆動タイミング、トルクリミットの閾値および繰出リール31のトルクの関係」は、「ロール紙1の巻取時の、搬送部20および巻取リール41(巻取部40)の駆動タイミング、トルクリミットの閾値および巻取リール41のトルクの関係」と同様である。すなわち、下記の説明は、「ロール紙1の逆搬送時の、搬送部20および繰出リール31の駆動タイミング、トルクリミットの閾値および繰出リール31のトルクの関係」にも適用される。
【0033】
<ロール紙の巻取方法>
図3(a)〜(c)は、ロール紙1の巻取時におけるタイムチャートである。
図3(a)は搬送部20の搬送速度、
図3(b)は巻取部40の巻き取り速度、
図3(c)は巻取リール41のトルクリミットの閾値のそれぞれ時間変化を示している。
搬送部20は、前述したように、ロール紙1に記録を行う際に、反復する搬送動作によってロール紙1を断続的に搬送する。
図3(a)〜(c)は、この反復する搬送動作の1回分の搬送動作におけるタイムチャートである。
【0034】
本実施形態の巻取方法は、巻取モーター42および搬送モーター22に対する制御により行う方法である。
ロール紙1の伸縮や、巻取リール41の回転軸とロール紙1との間に滑りなどが無い場合に、ロール紙1の周速度は、ロール紙1の巻き取り速度と等しくなる。また、ロール紙1に伸縮が無い場合、ロール紙1の巻き取り速度は、搬送部20におけるロール紙1の搬送速度と等しくなる。
【0035】
まず、制御部60は、反復する搬送動作において、搬送および巻き取りを開始(あるいは再開)する際、搬送部20の加速駆動P1と巻取部40の加速駆動R1が同期するように、駆動ローラー21と巻取リール41とを駆動する。この時の巻取リール41のトルクリミットの閾値は、制御部60によってtr1に設定される。
【0036】
巻取リール41の駆動は、制御部60によって、所定の上限トルク(トルクリミットの閾値で設定されるトルクリミット)および所定の上限速度で制御される。このため、巻取リール41のトルクが上限トルクに達している場合は、上限トルクの状態で駆動されるが、巻取リール41のトルクが上限トルクに達していない場合は、上限速度を上限として加速される。
【0037】
また、制御部60は、ロール紙1に搬送方向に沿う方向の張力が加わった状態でロール紙1の搬送および巻き取りが行われるように駆動している。具体的には、駆動ローラー21によるロール紙1の搬送速度よりも巻取リール41によるロール紙1の巻き取り速度が速くなるように、搬送部20(搬送モーター22)および巻取部40(巻取モーター42)を制御している。
【0038】
次に、制御部60は、搬送速度が所定の速度に達すると、搬送部20の駆動モードを加速駆動P1から定速駆動P2にし、巻取部40の駆動モードを加速駆動R1から定速駆動R2にする。また、同時に、巻取リール41のトルクリミットの閾値をtr1からtr2に切り替える。
【0039】
次に、制御部60は、所定の搬送を完了するために、搬送部20の駆動モードを定速駆動P2から減速駆動P3にし、巻取部40の駆動モードを定速駆動R2から減速駆動R3にする。また、同時に、巻取リール41のトルクリミットの閾値をtr2からtr3に切り替える。
【0040】
次に、制御部60は、搬送部20および巻取部40の駆動を停止すると同時に、巻取リール41のトルクリミットの閾値を一旦tr3からtr4に上げ、次にtr5に下げる。トルクリミットの閾値を一旦tr4に上げることにより、巻取部40のロール紙1に巻き取りのゆるみが有った場合には、締めることができる。また、トルクリミットの閾値をtr5に維持することで、ロール紙1のゆるみを防止することができる。つまり、停止時にも、巻取モーター42にトルクを与え続けている。
【0041】
<トルクリミットの閾値の算出>
ここで、トルクリミットの閾値trは、トルクリミットを機能させる張力F(つまり上限トルクにおける張力F)に対して、以下の方法によって求められている。
まず、初期状態において巻取リール41の回転負荷(具体的には、巻取リール41の回転に要する電流値)を低速と高速の2種類の回転速度で測定し、巻取リール41に設けられたエンコーダー周期に対する回転速度と回転負荷との関係を求める。
ここで測定された低速の回転速度をx1、高速の回転速度をx2とする。
次に、PID制御(Proportional-Integral-Derivative Controller)での平均回転負荷についても、巻取リール41の低速および高速の2種類の回転速度に対応して計算する。ここで測定された低速平均回転負荷をy3、高速平均回転負荷をy4とする。また、巻き取られたロール紙1のロール外径をDとし、巻取リール41の回転速度をXとすると、トルクリミットの閾値trは、以下の式1により求められる。ここで、Kは、張力Fに対応するトルクをトルクリミットに換算するための係数である。
なお、巻取リール41の駆動制御を電圧制御で行う場合においては、回転負荷は、電圧値であっても良い。
【0043】
更に、本実施形態では、巻取部40のイナーシャを考慮してトルクリミットの閾値trを求めている。つまり、巻取部40のイナーシャを考慮して、トルクリミットを機能させる張力Fを求め、その張力Fに対してトルクリミットの閾値trを求めている。
巻取部40のイナーシャとしては、巻取モーター42を含めた巻取リール41などの駆動系のイナーシャに加え、巻取部40に巻き取られたロール紙1のイナーシャを考慮している。また、ロール紙1のイナーシャは、巻取部40に巻き取られた量(ロール外径D)に応じた変化を考慮している。
巻取部40のイナーシャを考慮した張力Fは、以下の式2で求めることができる。
【0045】
式2において、Ka〜Kdは、算出に必要な係数である。式2の第1項は、巻取部40の駆動系イナーシャの寄与分であり、第2項以降が、巻取部40に巻き取られたロール紙1のイナーシャの寄与分である。第2項以降の係数Kb〜Kdは、ロール紙1の仕様(質量、密度、厚さ、幅など)によって決定される。
【0046】
図4は、巻取部40に巻き取られたロール紙1のロール外径Dと、巻取部40でロール紙1にかける張力Fとの関係を示すグラフである。
ロール外径Dがある程度以上(グラフ横軸の中央値以上)になると、つまり巻取部40に巻き取られたロール紙1の量がある程度以上になると、ロール紙1のイナーシャの増加により、必要な張力Fが大きくなるのが分かる。
【0047】
トルクリミットの閾値trは、上述した式2および式1から、例えば1μ秒〜1m秒の短い周期で、随時、算出する。トルクリミットの閾値trは、制御部60が、トルクリミットの閾値を切り換えると判断した時に、直前に計算された値が用いられる。すなわち、制御部60は、
図3に示されたP1、P2、P3の各駆動状態に移行するように、搬送部20の速度が、加速から一定速、一定速から減速、減速から停止、また、加速や減速の度合いが変化するなど、速度を変化させるタイミングに最も近い時に計算されたトルクリミットの閾値trを用いて、トルクリミットの閾値を切り換える制御を行う。
【0048】
<トルクリミットの閾値の補正>
次に、トルクリミットの閾値の補正について説明する。
上述のように、巻取部40のイナーシャを考慮してトルクリミットの閾値を算出して適用した場合であっても、補正が必要となる場合がある。例えば、巻取部40の駆動系イナーシャは、グリス粘性の変動があったり、巻取部40に巻き取られたロール紙1のイナーシャは、ロール紙1の仕様の違いや、ロール紙1の偏心があったりするためである。
ロール紙1の仕様については、プリンター100は、予め、ロール紙1の所定の仕様に基づき、トルクリミットの閾値を算出するための係数KおよびKa〜Kdを決定しておき、それらに基づいて算出を行うが、実際にユーザーが記録(印刷)に用いるロール紙の仕様が、予め想定した所定の仕様と異なる場合がある。
このように、想定したイナーシャとの違いにより、所定の挙動との差異が発生するため、プリンター100は、反復する搬送動作の中で、動的にトルクリミットの閾値の補正を行う。
補正には、いくつかの方法があるが、ここでは2つの方法について説明する。
【0049】
<補正方法その1>
1つ目の方法は、搬送部20と巻取部40との速度差に基づく補正である。
制御部60は、搬送部20がロール紙1を搬送する速度と、巻取部40がロール紙1を巻き取る速度との差異に基づいて、巻取部40のトルクリミットの閾値を補正する。
【0050】
図5は、搬送部20の加速駆動P1と巻取部40の加速駆動R1におけるそれぞれの速度の違いを示すグラフである。
図5は、ロール紙1のイナーシャが想定したイナーシャに対して大きく、巻取部40の巻き取りに遅れが発生する場合の例を示している。この場合には、ロール紙1がたるむ傾向を示すため、トルクリミットの閾値が大きくなる方向の補正を行う。
【0051】
具体的には、制御部60は、それぞれの部位に設けられたエンコーダーから得られる速度の差が小さくなるように、速度の差異の大きさに基づいたトルクの過不足分を適用するトルクリミットの閾値に付加する(あるいは差し引く)。補正のために付加する(あるいは差し引く)トルクは、予め、速度および速度の差異の大きさに応じた関数あるいは対応テーブルとして準備しておく。
補正のタイミングは、制御部60が速度の差異を認識して対応するトルク付加量を算出し巻取部40に適用する一連のサイクルを随時繰り返し行う方法や、あるいは、反復する搬送動作毎に、速度差を積算し、積算された速度差の量に応じたトルクの過不足分を、次の搬送動作におけるトルクリミットの閾値に付加する(あるいは差し引く)方法により行う。
【0052】
<補正方法その2>
2つ目の方法は、搬送部20の搬送長と巻取部40の巻き取り長との差異に基づく補正である。
制御部60は、搬送部20がロール紙1を一度の搬送動作によって搬送する搬送長と、搬送部20の搬送動作に同期して巻取部40がロール紙1を巻き取る巻取長との差異に基づいて、巻取部40のトルクリミットの閾値を補正する。
【0053】
図6は、
図5と同様の、搬送部20の加速駆動P1と巻取部40の加速駆動R1におけるそれぞれの速度の違いを示すグラフである。
搬送部20の搬送長と巻取部40の巻き取り長との差異は、制御部60において、それぞれの部位に設けられたエンコーダーから得られるロール紙1の移動量の差異として得られる他、
図6の斜線部に示すように、速度差を積分した面積として得ることもできる。
【0054】
制御部60は、搬送部20の搬送長と巻取部40の巻き取り長との差異が小さくなるように、差異の大きさに基づいたトルクの過不足分を適用するトルクリミットの閾値に付加する(あるいは差し引く)。補正のために付加する(あるいは差し引く)トルクは、予め、速度および搬送部20の搬送長と巻取部40の巻き取り長との差異の大きさに応じた関数あるいは対応テーブルとして準備しておく。
補正のタイミングは、反復する搬送動作毎に差異を求め、差異の量に応じたトルクの過不足分を、次の搬送動作におけるトルクリミットの閾値に付加する方法により行う。
【0055】
なお、補正は、巻取部40の巻き取り速度が搬送部20の搬送速度より早くなってしまう場合にも、ロール紙1の伸縮や搬送経路の機械的な遊びにより発生し検出される搬送速度と巻き取り速度との差異に基づいて同様に行うことができる。
また、上述の例は、加速駆動における場合で説明しているが、減速駆動における場合も同様に補正を行うことができる。
【0056】
本実施形態における記録媒体(ロール紙1)の巻取方法とは、すなわち、トルクリミットの閾値の算出方法およびその適用方法、またトルクリミットの閾値の補正方法であり、上述した内容により説明される。
【0057】
以上述べたように、本実施形態による記録装置および巻取方法によれば、以下の効果を得ることができる。
制御部60は、搬送部20の搬送動作に同期して巻取部40でロール紙1を巻き取る際、ロール紙1が搬送される速度および巻取部40のイナーシャ(慣性モーメント)に基づいて、巻取部40のトルクリミットの閾値を切り換えて巻き取るよう制御する。その結果、搬送部20の搬送動作に同期して巻取部40のトルクがより適切な値になるように制御されるため、ロール紙1に所望の張力をより安定して付与することができ、ロール紙1を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0058】
また、巻取部40のイナーシャには、巻取部40に巻き取られたロール紙1のイナーシャが含まれるため、巻き取りの開始から終了まで、巻取部40のトルクがより適切な値になるように制御される。その結果、ロール紙1に所望の張力をより安定して付与することができ、ロール紙1を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0059】
また、補正方法その1によると、制御部60は、搬送部20がロール紙1を搬送する速度と、巻取部40がロール紙1を巻き取る速度との差異に基づいて、巻取部40のトルクリミットの閾値を補正するため、搬送部20の搬送動作と巻取部40の巻取動作とをより精度高く同期させることができる。その結果、ロール紙1に所望の張力をより安定して付与することができ、ロール紙1を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。
【0060】
また、補正方法その2によると、制御部60は、搬送部20がロール紙1を一度の搬送動作によって搬送する搬送長と、搬送部20の搬送動作に同期して巻取部40がロール紙1を巻き取る巻取長との差異に基づいて、巻取部40のトルクリミットの閾値を補正するため、搬送部20の搬送動作と巻取部40の巻取動作とをより精度高く同期させることができる。その結果、ロール紙1に所望の張力をより安定して付与することができ、ロール紙1を巻き取る際の巻むらやよれなどの不具合を抑制することができる。