(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
太陽電池は環境に優しい電気エネルギー源として、現在深刻さを増すエネルギー問題に対して有力なエネルギー源と注目されている。現在、太陽電池の光起電力素子の半導体素材としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、化合物半導体などの無機物が使用されている。しかし、無機半導体を用いて製造される太陽電池はコストが高いために、一般家庭に広く普及するには至っていない。コスト高の要因は主として、真空かつ高温下で半導体薄膜を製造するプロセスにある。そこで、製造プロセスの簡略化が期待される半導体素材として、共役系化合物や有機結晶などの有機半導体や有機色素を用いた有機太陽電池が検討されている。
【0003】
しかし、共役系化合物などを用いた有機太陽電池は、従来の無機半導体を用いた太陽電池と比べて光電変換効率が低いことが最大の課題であり、まだ実用化には至っていない。従来の共役系化合物を用いた有機太陽電池の光電変換効率が低い原因としては、有機半導体材料による太陽光の吸収効率が悪いことや、キャリア移動度が低いことによって、高い短絡電流値を取り出せないことが挙げられる
これまでの有機半導体による光電変換素子は、電子供与性有機材料(p型有機半導体)と仕事関数の小さい金属を接合させるショットキー型、電子受容性有機材料(n型有機半導体)と電子供与性有機材料(p型有機半導体)を接合させるヘテロ接合型に分類することができる。これらの素子においては接合部の有機層のみが光電流の生成に寄与するために短絡電流値が低く、その向上が課題となっている。
【0004】
光電変換素子の短絡電流値を向上させるための一つの方法として、電子受容性有機材料(n型有機半導体)と電子供与性有機材料(p型有機半導体)を混合することで、光電変換に寄与する接合面を増加させたバルクヘテロ接合型とする方法がある。なかでも、電子供与性有機材料(p型有機半導体)として共役系化合物を用い、電子受容性有機材料としてn型の半導体特性をもつ共役系化合物、C
60などのフラーレンやフラーレン誘導体等を用いたバルクへテロ接合型光電変換素子が報告されている。
【0005】
ところで、太陽光スペクトルの広い範囲にわたる放射エネルギーを効率よく吸収し、短絡電流値を向上させるためには、バンドギャップを狭めた電子供与性有機材料が有用である(例えば、非特許文献1および2参照)。このような狭バンドギャップ電子供与性有機材料を得るための構成骨格として、イミド基を有するチエノピロール−4,6−ジオン(Thienopyrrole−4,6−dion)骨格やチエノイソインドール−5,7−ジオン(Thienoisoindole−5,7−dione)骨格は効果的に共役系化合物のバンドギャップを狭めることができると知られており、これまでに多数の誘導体が合成されている(例えば、特許文献1〜4、非特許文献3〜12参照)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の共役系化合物は一般式(1)で表わされる構造を有する。
【0020】
上記一般式(1)中、R
1〜R
7はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、ハロゲンならびに置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選ばれる。共役系化合物の有機溶媒に対する溶解性を高めるため、R
1〜R
7はアルキル基であることが望ましい。
【0021】
ここでアルキル基とは例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基のような飽和脂肪族炭化水素基であり、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよく、無置換でも置換されていてもかまわない。置換される場合の置換基の例としては、下記アルコキシ基やアリール基、ヘテロアリール基、ハロゲンが挙げられる。アルキル基の炭素数は共役系化合物の溶解性向上の観点から4以上が好ましく、高いキャリア移動度を保つためには12以下が好ましい。
【0022】
また、アルコキシ基とは例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのエーテル結合を介した脂肪族炭化水素基を示し、脂肪族炭化水素基は無置換でも置換されていてもかまわない。アルコキシ基の好ましい炭素数は、上記アルキル基の場合と同様である。置換される場合の置換基の例としては、下記アリール基やヘテロアリール基、ハロゲンが挙げられる。
【0023】
また、アリール基とは例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ターフェニル基、ピレニル基、フルオレニル基、ペリレニル基などの芳香族炭化水素基を示し、これらは無置換でも置換されていてもかまわない。アリール基の炭素数は、加工性の観点から6以上が好ましく、15以下が好ましい。置換される場合の置換基の例としては、上記アルキル基や、下記ヘテロアリール基、ハロゲンが挙げられる。
【0024】
また、ヘテロアリール基とは例えば、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリニル基、イソキノリル基、キノキサリル基、アクリジニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾフラン基、ジベンゾフラン基、ベンゾチオフェン基、ジベンゾチオフェン基、ベンゾジチオフェン基、シロール基、ベンゾシロール基、ジベンゾシロール基などの炭素以外の原子を有する複素芳香環基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。ヘテロアリール基の炭素数は、上記アリール基の場合と同様である。置換される場合の置換基の例としては、上記アルキル基、アリール基や、下記ハロゲンが挙げられる。
【0025】
また、ハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかであり、安定性の観点から、フッ素が好ましく用いられる。
【0026】
本発明の一般式(1)で表される構造を含む共役系化合物は、狭いバンドギャップと高いキャリア移動度を高度に両立させることができるため、光電変換素子の電子供与性有機材料として好ましく用いられる。また、本発明の電子供与性有機材料は、一般式(1)で表される構造を含む共役系化合物のみを用いたものである必要はなく、その他の共役系化合物を含んでいてもよい。
【0027】
上記一般式(1)で表される構造を含む共役系化合物として、具体的には下記のような構造が挙げられる。
【0031】
なお、上記中nは重合度を示し、1以上1,000以下の整数を表す。重合度はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定され、ポリスチレンの標準試料に換算した重量平均分子量から求めることができる。
【0032】
前述のバルクへテロ接合型光起電力素子における電子供与性有機材料には、狭いバンドギャップと高いキャリア移動度が短絡電流の向上に必要な特性となる。一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物は、狭いバンドギャップと高いキャリア移動度を両立させることができ、バルクヘテロ接合型光起電力素子における電子供与性有機材料として好ましく用いることができる。
【0033】
なお、一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物は、例えば前記の非特許文献3に記載されている方法に類似した方法によって合成することができる。
【0034】
一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物はp型半導体特性を示す電子供与性有機材料であり、本発明の光起電力素子用材料とするためには、高い短絡電流を得るために電子受容性有機材料(n型有機半導体)と組み合わせることが好ましい。
【0035】
n型半導体特性を示す電子受容性有機材料としては、例えば、フラーレン化合物(C
60、C
70を始めとする無置換のものと、[6,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([PC
60BM)やフェニル C71 ブチリックアシッドメチルエステル(PC
70BM)を例とするフラーレン誘導体)、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体にシアノ基を導入した誘導体(CN−PPV)などが挙げられる。中でも、フラーレン化合物は電荷分離速度と電子移動速度が速いため、好ましく用いられる。フラーレン化合物の中でも、C
70誘導体(上記PC
70BMなど)は光吸収特性に優れ、高い短絡電流値が得られるために、より好ましい。
【0036】
本発明の一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物を用いた電子供与性有機材料と電子受容性有機材料を組み合わせた光起電力素子用材料において、電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の含有比率(重量分率)は特に限定されないが、電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の含有比率(ドナーアクセプター比)が、1:99〜99:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは10:90〜90:10の範囲であり、さらに好ましくは20:80〜60:40の範囲である。
【0037】
短絡電流をより向上させるためには、キャリアのトラップとなるような不純物は極力除去することが好ましい。本発明では、一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物を用いた電子供与性有機材料や、電子受容性有機材料の不純物を除去する方法は特に限定されないが、カラムクロマトグラフィー法、再結晶法、昇華法、再沈殿法、ソックスレー抽出法、GPCによる分子量分画法、濾過法、イオン交換法、キレート法等を用いることができる。一般的に低分子有機材料の精製にはカラムクロマトグラフィー法、再結晶法、昇華法が好ましく用いられる。他方、高分子量体の精製には、低分子量成分を除去する場合には再沈殿法やソクスレー抽出法、GPCによる分子量分画法が好ましく用いられ、金属成分を除去する場合には再沈殿法やキレート法、イオン交換法が好ましく用いられる。これらの方法のうち、複数を組み合わせてもよい。
【0038】
次に、本発明の光起電力素子について説明する。本発明の光起電力素子は、少なくとも正極と負極を有し、これらの間に本発明の光起電力素子用材料を含む。
図1は本発明の光起電力素子の一例を示す模式図である。
【0039】
有機半導体層3は本発明の光起電力素子用材料を含む層である。すなわち、有機半導体層3は、一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物を用いた電子供与性有機材料および電子受容性有機材料を含む。光起電力素子の有機発電層である有機半導体層3が電子供与性有機材料と電子受容性材料を含む場合、これらの材料は混合されていても積層されていても良いが、電子供与性有機材料と電子受容性有機材料を混合されていることにより、光電変換に寄与する電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の接合面を増加させることができるバルクヘテロ接合型光起電力素子はより好ましい。このバルクヘテロ接合型の有機発電層である有機半導体層3においては、一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物を用いた電子供与性有機材料と電子受容性有機材料がナノメートルのサイズで相分離していることが好ましい。この相分離構造のドメインサイズは特に限定されるものではないが、通常1nm以上50nm以下である。
【0040】
本発明の光起電力素子においては、正極2もしくは負極4のいずれかの電極に光透過性を有することが好ましい。電極の光透過性は、有機半導体層3に入射光が到達して起電力が発生する程度であれば、特に限定されるものではない。ここで、本発明における光透過性は、[透過光強度(W/m
2)/入射光強度(W/m
2)]×100(%)で求められる値である。電極の厚さは光透過性と導電性とを有する範囲であればよく、電極素材によって異なるが20nm〜300nmが好ましい。なお、もう一方の電極は導電性があれば必ずしも光透過性は必要ではなく、厚さも特に限定されない。
【0041】
電極素材としては、金、白金、銀、銅、鉄、亜鉛、錫、アルミニウム、インジウム、クロム、ニッケル、コバルト、スカンジウム、バナジウム、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム、などの金属のほか、インジウム、スズ、モリブデン、ニッケルなどの金属酸化物、複合金属酸化物(インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)など)、アルカリ金属やアルカリ土類金属、具体的にはリチウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、なども好ましく用いられる。さらに、上記の金属からなる合金や上記の金属の積層体からなる電極も好ましく用いられる。また、グラファイト、グラファイト層間化合物、カーボンナノチューブ、グラフェン、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体を含む電極も好ましく用いられる。このとき少なくとも正極、及び、負極の一方が透明又は半透明であることが好ましい。また、上記の電極材料は2種以上の材料から成る混合層や積層構造であってもよい。
【0042】
ここで、正極2に用いられる導電性素材は、有機半導体層3とオーミック接合するものであることが好ましい。さらに、後述する正孔輸送層を用いた場合においては、正極2に用いられる導電性素材は正孔輸送層とオーミック接合するものであることが好ましい。また、負極4に用いられる導電性素材は、有機半導体層3または電子輸送層とオーミック接合するものであることが好ましい。ここで、接合を改善する方法として、負極に電子取り出し層としてフッ化リチウム(LiF)やフッ化セシウムなどの金属フッ化物を導入する方法が挙げられる。電子取り出し層の導入によって取り出し電流を向上させることが可能である。
【0043】
基板1は、光電変換材料の種類や用途に応じて、電極材料や有機半導体層が積層できる基板、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス、アルミニウム、鉄、銅、およびステンレスなどの合金、等の無機材料、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレンポリメチルメタクリレート、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂等の有機材料から任意の方法によって作製されたフィルムや板が使用可能である。また基板側から光を入射して用いる場合は、上記に示した各基板に80%以上の光透過性を持たせておくことが好ましい。
【0044】
本発明では、正極2と有機半導体層3の間に正孔輸送層を設けてもよい。正孔輸送層を形成する材料としては、ポリチオフェン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体、ポリピロール重合体、ポリアニリン重合体、ポリフラン重合体、ポリピリジン重合体、ポリカルバゾール重合体などの導電性高分子や、フタロシアニン誘導体(H
2Pc、CuPc、ZnPcなど)、ポルフィリン誘導体、アセン系化合物(テトラセン、ペンタセンなど)などのp型半導体特性を示す低分子有機化合物、グラフェンや酸化グラフェンなどの炭素化合物、MoO
3などの酸化モリブデン(MoO
x)、WO
3などの酸化タングステン(WO
x)、NiOなどの酸化ニッケル(NiO
x)、V
2O
5などの酸化バナジウム(VO
x)、ZrO
2などの酸化ジルコニウム(ZrO
x)、Cu
2Oなどの酸化銅(CuO
x)、ヨウ化銅、RuO
4などの酸化ルテニウム(RuO
x)、Re
2O
7などの酸化レニウム(ReO
x)などの無機化合物が好ましく用いられる。特に、ポリチオフェン系重合体であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)やPEDOTにポリスチレンスルホネート(PSS)が添加されたもの、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステンが好ましく用いられる。また、上記正孔輸送層は単独の化合物から成る層であっても良いし、2種以上の化合物から成る混合層、及び、積層構造であってもよい。また、正孔輸送層は5nmから600nmの厚さが好ましく、より好ましくは10nmから200nmである。
【0045】
また、本発明の光起電力素子は、有機半導体層3と負極4の間に電子輸送層を設けてもよい。電子輸送層を形成する材料として、特に限定されるものではないが、酸化チタン、酸化亜鉛などのn型半導体特性を示す材料が好ましく用いられ、酸化亜鉛が特に好ましく用いられる。電子輸送層は5nmから100nmの厚さが好ましく、より好ましくは10nmから30nmである。
【0046】
次に、本発明の光起電力素子の製造方法について例を挙げて説明する。基板上にITOなどの透明電極(この場合正極に相当)をスパッタリング法などにより形成する。一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物を用いた電子供与性有機材料、および必要により電子受容性有機材料を含む光電変換素子用材料を溶媒に溶解させて溶液を作り、透明電極上に塗布し有機半導体層を形成する。
【0047】
このとき用いられる溶媒は、有機半導体が溶媒中に適当に溶解、または分散できるものであれば特に限定されないが、有機溶媒が好ましい。
【0048】
有機半導体層の形成には、スピンコート塗布、ブレードコート塗布、スリットダイコート塗布、スクリーン印刷塗布、バーコーター塗布、鋳型塗布、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、スプレー法、真空蒸着法など何れの方法を用いてもよく、膜厚制御や配向制御など、得ようとする有機半導体層特性に応じて形成方法を選択すればよい。
【0049】
次に、有機半導体層上にAlなどの金属電極(この場合負極に相当)を真空蒸着法やスパッタ法により形成する。金属電極は、電子輸送層に低分子有機材料を用いて真空蒸着した場合は、引き続き、真空を保持したまま続けて形成することが好ましい。
【0050】
正極と有機半導体層の間に正孔輸送層を設ける場合には、所望のp型有機半導体材料(PEDOTなど)を正極上にスピンコート法、バーコーティング法、ブレードによるキャスト法等で塗布した後、真空恒温槽やホットプレートなどを用いて溶媒を除去し、正孔輸送層を形成する。フタロシアニン誘導体やポルフィリン誘導体などの低分子有機材料を使用する場合には、真空蒸着機を用いた真空蒸着法を適用することも可能である。
【0051】
有機半導体層と負極の間に電子輸送層を設ける場合には、所望のn型有機半導体材料(フラーレン誘導体など)n型無機半導体材料(酸化チタンゲルなど)を有機半導体層上にスピンコート法、バーコーティング法、ブレードによるキャスト法、スプレー法等で塗布した後、真空恒温槽やホットプレートなどを用いて溶媒を除去し、電子輸送層を形成する。フェナントロリン誘導体やC
60などの低分子有機材料を使用する場合には、真空蒸着機を用いた真空蒸着法を適用することも可能である。
【0052】
なお、以上は初めに基板上に正極を形成し、正極側から順に層を形成して光起電力素子を作製する方法について示したが、基板上に負極をスパッタリング法などによって形成し、当該電極上に電子輸送層、光電変換層、正孔輸送層、正極の順に形成する光起電力素子の製造方法も挙げられる。この場合、
図2に示すように、光起電力素子の積層構造が逆となり、光電変換層は電子輸送層上に形成されることになる。
【0053】
本発明の共役系化合物は、高いキャリア移動度をいかした有機トランジスタへの応用が可能である。また、光電変換機能、光整流機能などを利用した種々の光電変換デバイスへの応用が可能であり、例えば光電池(太陽電池など)、電子素子(イメージセンサー、光センサー、光スイッチ)、光記録材(光メモリなど)、撮像素子などに有用である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0055】
下記の測定において、
1H−NMR測定はFT−NMR装置((株)日本電子製JEOL JNM−EX270)を用いた。
【0056】
また、光吸収端波長は、ガラス上に約60nmの厚さに形成した薄膜について、日立製作所(株)製のU−4100型分光光度計を用いて測定した薄膜の紫外可視吸収スペクトル(測定波長範囲:300〜1600nm)から得た。
【0057】
バンドギャップ(Eg)は下式により、光吸収端波長から算出した。なお、薄膜はクロロホルムを溶媒に用いてスピンコート法により形成した。
Eg(eV)=1240/薄膜の光吸収端波長(nm)
実施例1
化合物(A−1)を式1に示す方法で合成した。なお、化合物(1−a)はマクロモレキュルズ(Macromolecules)、2007年、40巻、1981頁に記載されている方法を参考に、化合物(1−d)はアドバンスドファンクショナルマテリアルズ(Advanced Functional Materials)、2008年、18巻、3444頁に記載されている方法を参考に、化合物(1−e)はマクロモレキュルズ(Macromolecules)、2012年、45巻、4069頁に記載されている方法を参考にして合成した。
【0058】
【化6】
【0059】
化合物(1−a)1.7g(9.5mmol)のジメチルスルホキシド溶液60mlにtert−ブトキシカリウム(和光純薬工業(株)製)2.14g(19.1mmol)を数回に分けて室温で加え、5分間撹拌した。二硫化炭素(東京化成工業(株)製)800mg(10.5mmol)を加え、室温で15分間撹拌した後、ヨウ化メチル(東京化成工業(株)製)3.0g(21mmol)を加え、室温で6時間撹拌した。反応混合物に水をゆっくり加えた後、アンモニア水溶液6mlを加え、1時間撹拌した。ジエチルエーテルで3回抽出した後、有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた赤色オイル1.8gはそのまま次の反応に用いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液、ヘキサン)で精製することにより化合物(1−b)を赤色オイル(1.8g、収率67%)として得た。
【0060】
上記化合物(1−b)1.5g(5.3mmol)のテトラヒドロフラン溶液(35ml)にテトラクロロ銅ジリチウム溶液(0.1M、アルドリッチ社製)2.5ml(0.25mmol)を−10℃で加え、次いでオクチルマグネシウムブロミド(2.0M、アルドリッチ社製)16ml(32mmol)を加え、0℃で2時間、室温で6時間撹拌した。1M水酸化ナトリウム水溶液をゆっくり加えた後、ジエチルエーテルを加え、反応混合物をセライト(ナカライテスク(株)製)を用いてろ過した。ジエチルエーテルで抽出した後、有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液、ヘキサン)で精製することにより化合物(1−c)を橙色オイル(1.6g、収率41%)として得た。化合物(1−c)の
1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(270MHz,CDCl
3):7.18(d,J=4.8Hz,2H),7.10(d,J=4.8Hz,2H),2.65(t,J=7.8Hz,4H),1.7−1.3(m,24H),0.89(t,J=7.0Hz,6H)ppm。
【0061】
上記化合物(1−c)1.5g(3.6mmol)の脱水テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)溶液30mlに、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(1.6M、和光純薬工業(株)製)9.0ml(14.5mmol)を−78℃でシリンジを用いて加え、−78℃で30分間、0℃で20分間撹拌した。反応混合物を−78℃まで冷却した後、トリメチルスズクロリド(和光純薬工業(株)製)3.6g(18mmol)を加え、室温で4時間撹拌した。撹拌終了後、ジエチルエーテル40mlおよび水20mlを加え5分間室温で撹拌した後、有機層を水で2回、次いで飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで溶媒を乾燥後、溶媒を減圧留去した。生成物をエタノールでデカンテーションすることで化合物(1−d)を橙色オイル(1.7g、収率63%)として得た。化合物(1−d)の
1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(270MHz,CDCl
3):7.19(s,2H),2.66(t,J=7.8Hz,4H),1.7−1.3(m,24H),0.88(t,J=7.0Hz,6H),0.38(s,18H)ppm。
【0062】
上記化合物(1−d)111mg(0.15mmol)および化合物(1−e)71mg(0.15mmol)をトルエン(和光純薬工業(株)製)8mlに溶解させたところに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(東京化成工業(株)製)4mg、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン(東京化成工業(株)製)を8mg加え、窒素雰囲気下、110℃で8時間撹拌した。次いで、ブロモベンゼン(東京化成工業(株)製)10mgを加え、110℃にて1時間撹拌した。次いで、2−(tributylstannyl)thiophene(アルドリッチ社製)40mgを加え、110℃にてさらに1時間撹拌した。撹拌終了後、反応混合物を室温まで冷却し、メタノール100mlに注いだ。析出した固体をろ取し、メタノール、水、アセトンの順に洗浄した。得られた固体をアセトン80ml中で1時間還流し、濾過することでアセトン可溶物を除去した。次に、粗生成物をクロロホルム80mlに溶解させ、セライト(ナカライテスク(株)製)を通して濾過した後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を再びクロロホルムに溶解させ、シリカゲルカラム(溶離液:クロロホルム)を通した後に濃縮し、メタノールに再沈殿し、化合物(A−1)を得た。重量平均分子量は12,800、数平均分子量は8,900、重合度nは18であった。また、光吸収端波長は1135nm、バンドギャップ(Eg)は1.09eV、最高被占分子軌道(HOMO)準位は−4.85eVであった。
【0063】
上記化合物(A−1)1.2mg、PC
70BM(Solenne社製)1.8mgを1,8−ジヨードオクタン(和光純薬工業(株)製)が3%の体積濃度の割合で含まれたクロロホルム溶液0.20mlに加え、溶液がはいった容器を超音波洗浄機((株)井内盛栄堂製US−2(商品名)、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液A(ドナーアクセプター重量比=1:1.5)を得た。
【0064】
スパッタリング法により正極となるITO透明導電層を125nm堆積させたガラス基板を38mm×46mmに切断した後、ITOをフォトリソグラフィー法により38mm×13mmの長方形状にパターニングした。得られた基板をアルカリ洗浄液(フルウチ化学(株)製、“セミコクリーン”EL56(商品名))で10分間超音波洗浄した後、超純水で洗浄した。
【0065】
この基板を30分間UV/オゾン処理した後に、基板上に正孔輸送層となるPEDOT:PSS水溶液(PEDOT0.8重量%、PSS0.5重量%)をスピンコート法により60nmの厚さに成膜した。ホットプレートにより200℃で5分間加熱乾燥した後、上記の溶液
AをPEDOT:PSS層上に滴下し、スピンコート法により膜厚130nmの有機半導体層を形成した。その後、有機半導体層が形成された基板と陰極用マスクを真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が1×10
−3Pa以下になるまで再び排気し、抵抗加熱法によって、フッ化リチウム層を0.1nmの厚さに蒸着した。その後、負極となるアルミニウム層を80nmの厚さに蒸着した。以上のように、ストライプ状のITO層とアルミニウム層が交差する部分の面積が2mm×2mmである光起電力素子を作製した。
【0066】
このようにして作製された光起電力素子の正極と負極をケースレー社製2400シリーズソースメータに接続して、大気中でITO層側から擬似太陽光(分光計器株式会社製 OTENTO−SUNIII、スペクトル形状:AM1.5、強度:100mW/cm
2)を照射し、印加電圧を−1Vから+2Vまで変化させたときの電流値を測定した。この時の短絡電流密度(印加電圧が0Vのときの電流密度の値)は8.73mA/cm
2であった。
【0067】
実施例2
化合物(A−2)を式2に示す方法で合成した。なお、化合物(1−f)はマクロモレキュルズ(Macromolecules)、2012年、45巻、4069頁に記載されている方法を参考にして合成した。
【0068】
【化7】
【0069】
化合物(1−d)111mg(0.15mmol)および化合物(1−f)71mg(0.15mmol)をトルエン(和光純薬工業(株)製)8mlに溶解させたところに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(東京化成工業(株)製)4mg、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン(東京化成工業(株)製)を8mg加え、窒素雰囲気下、110℃で8時間撹拌した。次いで、ブロモベンゼン(東京化成工業(株)製)10mgを加え、110℃にて1時間撹拌した。次いで、2−(tributylstannyl)thiophene(アルドリッチ社製)40mgを加え、110℃にてさらに1時間撹拌した。撹拌終了後、反応混合物を室温まで冷却し、メタノール100mlに注いだ。析出した固体をろ取し、メタノール、水、アセトンの順に洗浄した。得られた固体をアセトン80ml中で1時間還流し、濾過することでアセトン可溶物を除去した。次に、粗生成物をクロロホルム80mlに溶解させ、セライト(ナカライテスク(株)製)を通して濾過した後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を再びクロロホルムに溶解させ、シリカゲルカラム(溶離液:クロロホルム)を通した後に濃縮し、メタノールに再沈殿し、化合物(A−2)を得た。重量平均分子量は15,200、数平均分子量は9,900、重合度nは21であった。また、光吸収端波長は1132nm、バンドギャップ(Eg)は1.09eV、最高被占分子軌道(HOMO)準位は−4.85eVであった。
【0070】
A−1の代わりに上記A−2を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定したところ、短絡電流密度は8.56mA/cm
2であった。
【0071】
比較例1
化合物(B−1)を式3に示す方法で合成した。なお、化合物(1−g)はマクロモレキュルズ(Macromolecules)、2007年、40巻、1981頁に記載されている方法を参考にして合成した。
【0072】
【化8】
【0073】
化合物(1−e)71mg(0.15mmol)および化合物(1−g)109mg(0.15mmol)をトルエン(和光純薬工業(株)製)8mlに溶解させたところに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(東京化成工業(株)製)4mg、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン(東京化成工業(株)製)を8mg加え、窒素雰囲気下、110℃で8時間撹拌した。次いで、ブロモベンゼン(東京化成工業(株)製)10mgを加え、110℃にて1時間撹拌した。次いで、2−(tributylstannyl)thiophene(アルドリッチ社製)40mgを加え、110℃にてさらに1時間撹拌した。撹拌終了後、反応混合物を室温まで冷却し、メタノール100mlに注いだ。析出した固体をろ取し、メタノール、水、アセトンの順に洗浄した。得られた固体をアセトン80ml中で1時間還流し、濾過することでアセトン可溶物を除去した。次に、粗生成物をクロロホルム80mlに溶解させ、セライト(ナカライテスク(株)製)を通して濾過した後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を再びクロロホルムに溶解させ、シリカゲルカラム(溶離液:クロロホルム)を通した後に濃縮し、メタノールに再沈殿し、化合物(B−1)を得た。重量平均分子量は23,000、数平均分子量は15,900、重合度nは32であった。また、光吸収端波長は919nm、バンドギャップ(Eg)は1.35eV、最高被占分子軌道(HOMO)準位は−5.11eVであった。
【0074】
A−1の代わりに上記B−1を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定したところ、短絡電流密度は6.71mA/cm
2であった。
【0075】
比較例2
化合物(B−2)を式4に示す方法で合成した。なお、化合物(1−h)はジャーナルオブザアメリカンケミカルソサエティ(Journal of the American Chemical Society)、2008年、130巻、16144頁に記載されている方法を参考にして合成した。
【0076】
【化9】
【0077】
化合物(1−e)71mg(0.15mmol)および化合物(1−h)117mg(0.15mmol)をトルエン(和光純薬工業(株)製)8mlに溶解させたところに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(東京化成工業(株)製)4mg、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン(東京化成工業(株)製)を8mg加え、窒素雰囲気下、110℃で8時間撹拌した。次いで、ブロモベンゼン(東京化成工業(株)製)10mgを加え、110℃にて1時間撹拌した。次いで、2−(tributylstannyl)thiophene(アルドリッチ社製)40mgを加え、110℃にてさらに1時間撹拌した。撹拌終了後、反応混合物を室温まで冷却し、メタノール100mlに注いだ。析出した固体をろ取し、メタノール、水、アセトンの順に洗浄した。得られた固体をアセトン80ml中で1時間還流し、濾過することでアセトン可溶物を除去した。次に、粗生成物をクロロホルム80mlに溶解させ、セライト(ナカライテスク(株)製)を通して濾過した後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を再びクロロホルムに溶解させ、シリカゲルカラム(溶離液:クロロホルム)を通した後に濃縮し、メタノールに再沈殿し、化合物(B−2)を得た。重量平均分子量は19,000、数平均分子量は12,500、重合度nは26であった。また、光吸収端波長は920nm、バンドギャップ(Eg)は1.35eV、最高被占分子軌道(HOMO)準位は−5.10eVであった。
【0078】
A−1の代わりに上記B−2を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定したところ、短絡電流密度は6.25mA/cm
2であった。
【0079】
実施例3
実施例1と同様に洗浄した基板を30分間UV/オゾン処理した後、酢酸亜鉛2水和物(和光純薬工業(株)製)20mgのエタノール・水混合(100:1)溶液1mlを1500rpmで基板上にスピンコートし、200度で1時間、ホットプレート上で加熱し、酸化亜鉛電子輸送層を形成した。形成した酸化亜鉛電子輸送層上に、上記の溶液Aを滴下し、スピンコート法により膜厚150nmの有機半導体層を形成した。続いて、有機半導体層が形成された基板と正極用マスクを真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1x10
−3Pa以下になるまで排気し、抵抗加熱法によって酸化タングステン層を10nmの厚さに蒸着した。その後、正極となる銀電極層を100nmの厚さに蒸着した。以上のように、負極となるストライプ状のITO層と正極となる銀電極層が交差した部分の面積が2mmX2mmである光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定したところ、短絡電流密度は9.05mA/cm
2であった。
【0080】
比較例3
A−1の代わりに上記B−1を用いた他は実施例3と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定したところ、短絡電流密度は6.11mA/cm
2であった。
【0081】
比較例4
A−1の代わりに上記B−2を用いた他は実施例3と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定したところ、短絡電流密度は5.54mA/cm
2であった。
【0082】
上記のように一般式(1)で表される構造を有する共役系化合物を電子供与性有機材料として用いた光起電力素子(実施例1〜3)は同様の条件で作製した光起電力素子(比較例1〜4)に比べて高い短絡電流値を示した。