特許第6610146号(P6610146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6610146
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】内燃機関及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/16 20060101AFI20191118BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   F02B39/16 G
   F02B37/12 302Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-199183(P2015-199183)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-72061(P2017-72061A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆幸
【審査官】 北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−180362(JP,A)
【文献】 特開昭62−240427(JP,A)
【文献】 特開平10−153125(JP,A)
【文献】 特開2014−109233(JP,A)
【文献】 特開2005−090349(JP,A)
【文献】 特開2015−129510(JP,A)
【文献】 特開2003−328841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/16
F02B 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒から排出された排気ガスによって駆動されるタービン、及び、このタービンに連結されて、前記気筒に吸入される吸入空気を圧縮するコンプレッサを有するターボチャージャと、そのコンプレッサ及び前記気筒の間に介在する吸気管に配置されて、前記コンプレッサから吐出される吸入空気の温度を検出する温度センサと、外気温度を検出する外気温度センサと、を備えた内燃機関において、
前記タービンの回転速度を、前記温度センサの検出値と前記外気温度とに基づいて前記検出値が予め設定された上限温度を超えない回転速度に調節する開ループ制御を行う制御装置を備え、
前記上限温度が、前記コンプレッサの耐熱温度から前記温度センサの信頼性評価値の絶対値とこの絶対値よりも小さい値に設定された耐熱余裕度との両方を減算した温度に設定されたことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記開ループ制御は、前記制御装置が前記検出値と前記外気温度とに基づいた開ループ制御用減速量を算出し、前記タービンの回転速度を吸入空気の目標過給圧に基づいた前記タービンの目標回転速度から算出したその開ループ制御用減速量を減算した値に調節する制御である請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記開ループ制御用減速量が、前記検出値が前記上限温度から前記絶対値を減算した下限温度未満の場合にゼロであり、前記下限温度以上の場合にゼロより大きい値である請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記制御装置が、前記検出値が前記上限温度以上の場合に、前記検出値と前記検出値および前記上限温度の温度差とに基づいた閉ループ制御用減速量を算出し、前記タービンの回転速度を吸入空気の目標過給圧に基づいた前記タービンの目標回転速度から算出したその閉ループ制御用減速量を減算した値に調節する閉ループ制御を行うように構成された請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記吸気管の一部がラバーホースで構成されており、
前記上限温度が、前記コンプレッサの耐熱温度に代えて、前記ラバーホースの耐熱温度と前記信頼性評価値とに基づいて設定された請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関。
【請求項6】
気筒に吸入される吸入空気を圧縮するコンプレッサに連結されたタービンの回転速度を調節する内燃機関の制御方法であって、
前記内燃機関の要求出力に基づいて吸入空気の目標過給圧を算出するステップと、
算出したその目標過給圧に基づいて前記タービンの目標回転速度を算出するステップと、
前記コンプレッサ及び前記気筒との間に介在する温度センサで、前記コンプレッサで過給された吸入空気の温度を検出値として検出するステップと、
外気温度を検出するステップと、
前記目標回転速度を、検出した前記検出値および前記外気温度に基づいて前記検出値が前記コンプレッサの耐熱温度から前記温度センサの信頼性評価値の絶対値とこの絶対値よりも小さい値に設定された耐熱余裕度との両方を減算して設定された上限温度を超えないように開ループ制御により前記タービンの回転速度を調節するステップと、を含むことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及びその制御方法に関し、より詳細には、コンプレッサにより吸入空気を限界まで過給して内燃機関の出力を向上する内燃機関及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸入空気を過給するコンプレッサには、このコンプレッサが熱により変形、損傷しない限界の温度として耐熱温度が設定されている。そこで、コンプレッサで過給された吸入空気の温度がこの耐熱温度を超えないように、耐熱温度に対してある程度の余裕がある温度になるまで吸入空気が過給されていた。この余裕がある温度としては、耐熱温度から20℃程度低い温度を例示できる。
【0003】
これに関して、コンプレッサとインタークーラーとの間に、あるいはコンプレッサの出口近傍に温度センサを備えた装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、コンプレッサから吐出された吸入空気の温度をセンシング可能になるという利点がある。
【0004】
一方で、この装置は、温度センサの検出値がターボチャージャにコーキングが発生する温度よりも低い温度に設定された目標値を超えたときに、タービンの回転速度を下げてコンプレッサによる過給圧を下げてしまう。そのため、吸入空気の過給圧を限界まで上昇できないので、エンジンの出力が高くならないという問題があった。
【0005】
近年のエンジンにおいては、省燃費が課題となっており、省燃費を目的としたダウンサイジングに伴って低下するエンジンの出力を、ターボチャージャの過給圧を上昇させることにより補っている。
【0006】
そのターボチャージャによる過給圧を上昇させるには、過給された吸入空気の温度を正確に検出して、その温度がコンプレッサの耐熱温度を超えない限界近傍まで上昇させることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−180362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、外乱の影響が生じても吸入空気の温度がコンプレッサの耐熱温度を超えることを確実に回避しながら、コンプレッサにより吸入空気を限界まで過給して内燃機関の出力を向上できる内燃機関及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明の内燃機関は、気筒から排出された排気ガスによって駆動されるタービン、及び、このタービンに連結されて、前記気筒に吸入される吸入空気を圧縮するコンプレッサを有するターボチャージャと、そのコンプレッサ及び前記気筒の間に介在する吸気管に配置されて、前記コンプレッサから吐出される吸入空気の温度を検出する温度センサと、外気温度を検出する外気温度センサと、を備えた内燃機関において、前記タービンの回転速度を、前記温度センサの検出値と前記外気温度とに基づいて前記検出値が予め設定された上限温度を超えない回転速度に調節する開ループ制御を行う制御装置を備え、前記上限温度が、前記コンプレッサの耐熱温度から前記温度センサの信頼性評価値の絶対値とこの絶対値よりも小さい値に設定された耐熱余裕度との両方を減算した温度に設定されたことを特徴とするものである。
【0010】
また、上記の目的を達成する本発明の内燃機関の制御方法は、気筒に吸入される吸入空気を圧縮するコンプレッサに連結されたタービンの回転速度を調節する内燃機関の制御方法であって、前記内燃機関の要求出力に基づいて吸入空気の目標過給圧を算出するステップと、算出したその目標過給圧に基づいて前記タービンの目標回転速度を算出するステップと、前記コンプレッサ及び前記気筒との間に介在する温度センサで、前記コンプレッサで過給された吸入空気の温度を検出値として検出するステップと、外気温度を検出するステップと、前記目標回転速度を、検出した前記検出値および前記外気温度に基づいて前記検出値が前記コンプレッサの耐熱温度から前記温度センサの信頼性評価値の絶対値とこの絶対値よりも小さい値に設定された耐熱余裕度との両方を減算して設定された上限温度を超えないように開ループ制御により前記タービンの回転速度を調節するステップと、を含むことを特徴とする方法である。
【0011】
なお、ここでいう温度センサの信頼性評価値とは、温度センサごとの検出値のばらつき、すなわち、誤差、精度、及び不確かさのことである。この信頼性評価値が、例えば、5℃(誤差又は精度が±5℃、あるいは不確かさ5℃)に設定された温度センサの検出値が200℃の場合には、真値(実際の温度)は195℃から205℃の間にあることを示す。
【0012】
また、タービンの回転速度は、内燃機関の燃料噴射量の増減や、タービンが有する可変翼の開度の増減により調節可能である。従って、タービンの目標回転速度は燃料噴射量の目標噴射量や可変翼の目標開度に、タービンの回転速度は燃料噴射量や可変翼の開度に置き換えることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内燃機関及びその制御方法によれば、上限温度をコンプレッサの耐熱温度と温度センサの信頼性評価値とに基づいて設定したことで、温度センサの検出値が耐熱温度の近傍に設定されたその上限温度に達しても、吸入空気の実際の温度である温度センサの真値が、耐熱温度に到達することがない。
【0014】
これにより、外乱による影響が生じてもコンプレッサから吐出する吸入空気の温度が耐熱温度に達することを確実に回避できる。なお、ここでいう外乱とは、気温などのことである。
【0015】
また、温度センサの検出値が耐熱温度の近傍に設定されたその上限温度に達するまでは、コンプレッサにより吸入空気を過給することが可能となり、従来技術よりも高い過給圧の吸入空気を気筒に吸入させることができる。これにより、エンジンの出力を向上できる。
【0016】
特に、本発明は、省燃費を目的としてダウンサイジングされた内燃機関でも、内燃機関の要求出力が高くなったときに、吸入空気の過給圧を限界まで上昇させることで内燃機関の出力を上昇させることができるので、高出力を維持したまま省燃費を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の内燃機関の第一実施形態を例示する構成図である。
図2図1の内燃機関における時間経過と吸入空気の温度の変化との関係を例示した図である。
図3】本発明の内燃機関の制御方法を例示するフロー図である。
図4】温度差に基づいたタービンの回転速度の増減量が設定されたマップデータである。
図5】本発明の内燃機関の制御方法の別形態を例示するフロー図である。
図6図1の内燃機関における時間経過と吸入空気の温度の変化との関係を例示した図である。
図7】本発明の内燃機関の第二実施形態を例示する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の内燃機関及び内燃機関の制御方法について説明する。図1は、本発明のエンジン10の第一実施形態の構成を例示している。このエンジン10は、気筒13と、気筒13に吸入される吸入空気A1を圧縮するターボチャージャ17のコンプレッサ18との間に介在する温度センサ33の検出値Txに基づいて、コンプレッサ18に連結されたターボチャージャ17のタービン24の回転速度を調節するエンジンである。
【0019】
このエンジン10においては、運転中に吸気バルブ11からピストン12が往復する気筒13に吸入された吸入空気A1と、燃料噴射弁14から気筒13に噴射された燃料とが混合されて燃焼して、排気ガスG1となって排気バルブ15から排気されている。
【0020】
吸入空気A1は、外部から吸気管16へ吸入されて、ターボチャージャ17のコンプレッサ18により圧縮されて高温になり、インタークーラー19で冷却されている。その後に、この吸入空気A1は、吸気スロットル20により流量が調節されて、吸気多岐管21を経て吸気バルブ11から気筒13に吸入されている。
【0021】
排気ガスG1は、気筒13から排気バルブ15を経由して排気多岐管22から排気管23へ排気されて、ターボチャージャ17のタービン24を駆動させている。その後に、この排気ガスG1は、タービン24の下流から順に配置された酸化触媒25、捕集装置26、尿素水噴射弁27、及びSCR触媒28で浄化されて大気へと放出されている。また、排気ガスG1の一部は、EGR通路29に設けられたEGRクーラー30で冷却された後に、EGRバルブ31によりEGRガスG2として吸気管16に供給されて吸入空気A1に混合されている。
【0022】
また、このエンジン10は、温度センサ33とこの温度センサ33に接続された制御装置34とを備えて構成される。
【0023】
温度センサ33は、コンプレッサ18とインタークーラー19との間に介在し、コンプレッサ18で過給された後の吸入空気A1の温度を検出するセンサである。この温度センサ33は、コンプレッサ18の出口、あるいは出口の近傍の吸気管16に配置されることが好ましい。このように、可能な限り温度センサ33の配置される位置をコンプレッサ18の出口に近づけることで、コンプレッサ18から吐出された吸入空気A1の温度を精度良く検出することができる。
【0024】
制御装置34は、各種処理を行うCPU、その各種処理を行うために用いられるプログラムが一時的に格納されるROM、処理結果を読み書き可能なRAM、及び各種インターフェースなどから構成される。また、制御装置34は、信号線を介して温度センサ33、及び外気温度センサ35などのセンサと接続される。
【0025】
この制御装置34は、複数の実行プログラムがRAMに記憶されており、これらの実行プログラムがCPUによりRAMからROMに読み出されることで、それぞれ予め指定された処理を行う。この実行プログラムとしては、燃料噴射弁14の噴射制御、吸気スロットル20の吸入空気量制御、尿素水噴射弁27の噴射制御、及びEGRバルブ31の還流量制御を行うプログラムを例示できる。
【0026】
また、この制御装置34は、実行プログラムとして、タービン24の回転速度Ntを調節して、吸入空気A1の過給圧Pxを、エンジン10の要求出力に応じた目標過給圧Paにする、あるいは近づける制御である回転速度制御を有して構成される。この回転速度制御としては、燃料噴射弁14の噴射量の増減により気筒13から排出される排気ガスの流量を調節する制御や、タービン24の可変翼24aの開度を調節する制御のいずれか、あるいは両方を例示できる。
【0027】
このようなエンジン10において、制御装置34が、回転速度制御におけるタービン24の回転速度Ntを、温度センサ33の検出値Txが予め設定された上限温度Taを超えない回転速度に調節する制御を行うように構成される。そして、その上限温度Taは、コンプレッサ18の耐熱温度Tcomと温度センサ33の信頼性評価値ΔTaとに基づいて設定される。
【0028】
図2は、エンジン10における時間経過に伴う吸入空気A1の温度の変化を例示している。図中では、温度センサ33の検出値Txを実線、真値Tyを点線、従来技術の耐熱温度Tcomに対して20℃程度の許容範囲を設けた場合の検出値Tzを一点鎖線で示す。
【0029】
耐熱温度Tcomは、コンプレッサ18を構成する部材に基づいており、コンプレッサ18が熱により変形、損傷しない限界の温度である。この耐熱温度Tcomとしては、210℃以下の値が例示できる。
【0030】
上限温度Taは、耐熱温度Tcom及び温度センサ33の信頼性評価値ΔTaに基づいた温度に設定される。より詳しくは、この上限温度Taは、耐熱温度Tcomから温度センサ33の信頼性評価値ΔTaの絶対値を減算した温度未満、かつ、耐熱温度Tcomから信頼性評価値ΔTaの絶対値の倍の値を減算した温度超に設定される。
【0031】
温度センサ33の検出値Txは真値Tyに対してずれが生じる場合があり、信頼性評価値ΔTaは、温度センサ33ごとの検出値Txのばらつき、すなわち、誤差、精度(許容差)、及び不確かさのいずれかを示している。
【0032】
この信頼性評価値ΔTaは、ゼロにすることができない値であり、種類が異なる温度センサ33であれば異なる値となる。また、この信頼性評価値ΔTaは、温度センサ33の分解能以下の値となる。例えば、この信頼性評価値ΔTaが5℃(誤差又は精度が±5℃、あるいは不確かさ5℃)に設定された温度センサ33の検出値Txが200℃の場合には、真値Tyは195℃から205℃の間にあることを示す。
【0033】
このエンジン10においては、この温度センサ33の信頼性評価値ΔTaの絶対値は、ゼロ℃超、10℃未満が好ましく、ゼロ℃超、5℃以下がより好ましい。信頼性評価値ΔTaがよりゼロ℃に近い温度センサ33を用いることで、上限温度Taをより耐熱温度Tcomに近づけることができるので、コンプレッサ18による吸入空気A1の過給圧の上昇に有利になる。
【0034】
前述した通り、信頼性評価値ΔTaは、真値Tyに対してのばらつきである。従って、上限温度Taが耐熱温度Tcomから信頼性評価値ΔTaの絶対値を減算した温度以上に設定されると、温度センサ33によっては検出値Txが上限温度Taを示したときに、真値Tyが耐熱温度Tcomに達してしまうおそれがある。一方で、上限温度Taが耐熱温度Tcomから信頼性評価値ΔTaの絶対値の倍の値を減算した温度以下に設定されると、吸入空気A1の過給圧を限界まで上昇できない。
【0035】
そこで、上限温度Taにおいては、耐熱温度Tcomから温度センサ33の信頼性評価値ΔTaの絶対値を減算した温度未満、かつ、耐熱温度Tcomから信頼性評価値ΔTaの絶対値の倍の値を減算した温度超に設定されることが好ましい。さらに、上限温度Taは、耐熱温度Tcomから温度センサ33の信頼性評価値ΔTaの絶対値を減算した温度から、予め設定された耐熱余裕度ΔT2を減算した温度に設定されることがより好ましい。
【0036】
このように、上限温度Taが耐熱温度Tcomから信頼性評価値ΔTaの絶対値を減算した温度から、さらに、耐熱余裕度ΔT2を減算した温度に設定すると、真値Tyが耐熱温度Tcomに達することを確実に回避できるので、耐久性の向上に有利になる。
【0037】
なお、耐熱余裕度ΔT2は、信頼性評価値ΔTaの絶対値よりも小さい値に設定されており、ゼロ℃超、5℃未満が好ましく、ゼロ℃超、3℃以下がより好ましい。この耐熱余裕度ΔT2が、信頼性評価値ΔTa以上の値に設定されると、吸入空気を限界まで過給することができなくなり、エンジン10の出力の向上に不利になる。
【0038】
従来技術の検出値Tzは、耐熱温度Tcomに対して20℃程度の許容範囲を有している。この検出値Tzと検出値Txとを比較すると、検出値Txの方がより高い温度になる。つまり、従来技術に対して、このエンジン10は、より過給圧が上昇していることが分かる。
【0039】
以下、このエンジン10の制御方法を、図3のフロー図を参照しながら制御装置34の機能として以下に説明する。この制御方法は、運転者により図示しないアクセルペダルが操作され、そのアクセルペダルの開度が変更された、あるいは制御装置34によりエンジン10の運転状態が変更されたときに行われる方法である。
【0040】
まず、ステップS10では、制御装置34が、エンジン10の要求出力に基づいて吸入空気の目標過給圧Paを算出する。このステップS10としては、予めRAMに記憶されたエンジン回転数及び要求出力に基づいた目標過給圧Paが設定されたマップデータを参照して、要求出力に基づいた目標過給圧Paを算出するステップを例示できる。
【0041】
次いで、ステップS20では、制御装置34が、その目標過給圧Paに基づいてタービン24の目標回転速度Naを算出する。このステップS20としては、予めRAMに記憶された目標過給圧Paに基づいた目標回転速度Naが設定されたマップデータを参照して、目標回転速度Naを算出するステップを例示できる。
【0042】
次いで、ステップS30では、温度センサ33がコンプレッサ18で過給された吸入空気A1の温度を検出値Txとして検出する。なお、この検出された検出値Txは、制御装置34のRAMに記憶される。
【0043】
次いで、ステップS40では、制御装置34が、検出値Txが上限温度Ta未満か否かを判定する。このステップS40で検出値Txが上限温度Ta未満と判定した場合は、ステップS60へ進む。一方、検出値Txが上限温度Ta以上と判定した場合は、ステップS50へ進む。
【0044】
次いで、ステップS50では、制御装置34が、目標回転速度Naを補正する。このステップS50では、目標回転速度Naを、検出値Txが上限温度Ta未満になるような値に補正する。このステップS40としては、検出値Txと上限温度Taとの温度差ΔTxに基づいた回転速度の減速量ΔNxが設定されたマップデータを参照して、目標回転速度Naを補正するステップを例示できる。
【0045】
次いで、ステップS60では、制御装置34が、タービン24の回転速度Ntを目標回転速度Naになるように調節してスタートへ戻る。
【0046】
なお、以上の制御方法では、エンジン10の燃料噴射量を増減して、タービン24の回転速度Ntを調節する場合には、目標回転速度Naは燃料噴射弁14の噴射量の目標噴射量に、減速量ΔNxは燃料噴射弁14の絞り量に置き換えられる。また、タービン24の可変翼24aの開度を増減して、タービン24の回転速度Ntを調節する場合には、目標回転速度Naは可変翼24aの目標開度に、減速量ΔNxは開き量に置き換えられる。さらに、エンジン10の燃料噴射量と可変翼24aの開度の両方を増減する場合には、燃料噴射量及び可変翼24aの開度との関係に基づいたタービン24の回転速度が設定されたマップデータを用いてもよい。このようなマップデータを用いると、例えば、燃料噴射量を変えずに、過給圧を増加する場合には可変翼24aの開度を小さくすることが可能となる。
【0047】
上限温度Taがコンプレッサ18の耐熱温度Tcomと温度センサ33の信頼性評価値ΔTaとに基づいて設定され、かつ、上記のような制御を行うようにしたことで、温度センサ33の検出値Txが耐熱温度Tcomの近傍に設定された上限温度Taに達しても、吸入空気A1の実際の温度である温度センサ33の真値Tyが、耐熱温度Tcomに到達することがない。
【0048】
これにより、コンプレッサ18により吸入空気A1を限界まで過給した場合に、外乱による影響が生じても温度センサ33の真値Tyが耐熱温度Tcomに達することを確実に回避できる。なお、外乱としては外気温度を例示できる。つまり、気候の異なる地域で使用してもコンプレッサ18から吐出する吸入空気A1の温度が耐熱温度Tcomに達することを確実に回避できる。
【0049】
また、温度センサ33の検出値Txが耐熱温度Tcomの近傍に設定された上限温度Taに達するまでは、コンプレッサ18により吸入空気A1を過給することが可能となり、従来技術よりも高い過給圧の吸入空気A1を気筒13に吸入させることができる。これにより、エンジン10の出力を向上できる。
【0050】
特に、ダウンサイジングされたエンジン10でも、エンジン10の出力が必要なときには、吸入空気A1の過給圧を限界まで上昇させることでその出力を上昇させることができるので、省燃費に有利になる。
【0051】
なお、この実施形態では、検出値Txに基づいた閉ループ制御(フィードバック制御)でタービン24の回転速度Ntを調節する方法を例に説明した。一方で、上記のステップS40、S50に代えて、開ループ制御で回転速度Ntを調節するようにすることが望ましい。
【0052】
そこで、このエンジン10において、制御装置34が、タービン24の回転速度Ntを調節する制御を行うときに、吸入空気A1の目標過給圧Paに基づいたタービン24の目標回転速度Naを、温度センサ33の検出値Txと外気温度センサ3の検出値である外気温度Toutとに基づいて補正する制御を行うように構成される。
【0053】
図4は、検出値Tx及び外気温度Toutと減速量ΔNxとの関係を例示するマップデータM1である。このマップデータM1においては、検出値Txと減速量ΔNxとが比例の関係にあり、かつ、外気温度Toutと減速量ΔNxとが比例の関係にある。従って、マップデータM1の左下の減速量ΔN34(検出値Tmax、外気温度60℃)が最も大きな値となる。
【0054】
この減速量ΔNxはゼロの値も含み、排気ガス規制値をミートさせなければいけない外気温度では減速量ΔNxをゼロにすることが好ましい。この外気温度としては、35℃未満の値を例示できる。
【0055】
また、下限温度Tdは、上限温度Taから信頼性評価値ΔTaの絶対値を減算した温度である。このように下限温度Tdを設定し、検出値Txが下限温度Td以上の場合に、減速量ΔNxを所定の値にし、下限温度Td未満の場合に減速量ΔNxをゼロとすると、検出値Txが上限温度Taを超えることをより確実に回避することができる。
【0056】
図5は、図3とは別形態の制御方法を例示するフロー図である。この図5のフロー図に示すように、この制御方法では、ステップS30まで行った後に、ステップS40及びステップS50に代えて、ステップS70及びステップS80を行う。
【0057】
ステップS70では、外気温度センサ35が外気温度Toutを検出する。次いで、ステップS80では、制御装置34が、検出値Tx及び外気温度Toutに基づいてマップデータM1を参照して、減速量ΔNxを算出する。
【0058】
そして、ステップS60で、制御装置34が、タービン24の回転速度Ntを目標回転速度Naから減速量ΔNxを減算した値にするように調節する。
【0059】
図6は、時間経過に伴う吸入空気A1の温度の変化を例示している。なお、図中のαは、検出値Txが下限温度Td以上、上限温度Ta以下の場合における、検出値Txの単位時間当たりに上昇する変化量、すなわち傾きを示している。また、βは、検出値Txが下限温度Td未満の場合における、検出値Txの傾きを示している。
【0060】
時間t1で検出値Txが下限温度Tdに達すると、制御装置34が、タービン24の回転速度Ntを減速するように調節するので、この下限温度Td以上における検出値Txの単位時間当たりの上昇変化量αが、下限温度Td未満における検出値Txの単位時間当たりの上昇変化量βよりも緩やかになる。
【0061】
従って、下限温度Td以上においては、検出値Txが急に上昇するような外乱が生じても、下限温度Td以上における検出値Txの単位時間当たりの上昇変化量αが緩やかになる。これにより、検出値Txが上限温度Taを超えることを確実に回避して、真値Tyが耐熱温度Tcomを超えてしまうことを防止できる。
【0062】
このように、検出値Tx及び外気温度Toutに基づいて開ループ制御で回転速度Ntを調節するようにしたことで、外乱の影響が生じても吸入空気A1の温度がコンプレッサ18の耐熱温度Tcomを超えることを確実に回避しながら、コンプレッサ18により吸入空気A1を限界まで過給してエンジン10の出力を向上できる。
【0063】
図7は、本発明のエンジン10の第二実施形態の構成を例示している。この第二実施形態は、第一実施形態の構成に加えて、吸気管16にラバーホース32が介在して構成される。
【0064】
ラバーホース32は、天然ゴムや合成ゴムで構成されており、インタークーラー19と吸気多岐管21との間に介在する。このラバーホース32は、気筒13から吸気管16へ伝達される振動を吸収して、その振動が吸気管に伝達されることを抑制している。
【0065】
このように、吸気管16にラバーホース32が介在する場合には、上限温度Taが、コンプレッサ18の耐熱温度Tcomに代えて、ラバーホース32の耐熱温度Thosと信頼性評価値ΔTaとに基づいて設定されることが望ましい。このラバーホース32の耐熱温度Thosは、コンプレッサ18の耐熱温度Tcomよりも低い温度に設定される。
【0066】
この構成によれば、吸気管16にラバーホース32が介在する場合に、ラバーホース32の耐熱温度Thosに基づいて上限温度Taを設定するようにしたことで、ラバーホース32が過給された吸入空気A1の温度で劣化することを回避できる。
【0067】
なお、上記の実施形態では、閉ループ制御と、開ループ制御とを別々の形態として説明したが、開ループ制御を行った後に、閉ループ制御を行うようにしてもよい。このように閉ループ制御と開ループ制御とを組み合わせることで、より高精度に過給することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 エンジン
13 気筒
16 吸気管
17 ターボチャージャ
18 コンプレッサ
24 タービン
33 温度センサ
34 制御装置
A1 吸入空気
Nt 回転速度
Ta 上限温度
Tcom 耐熱温度
Tx 検出値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7