特許第6610347号(P6610347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6610347ヒートシールシートおよびプレススルー包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6610347
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】ヒートシールシートおよびプレススルー包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 23/02 20060101AFI20191118BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20191118BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20191118BHJP
   B65D 75/34 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   B32B23/02
   B32B27/10
   B65D65/40 D
   B65D75/34
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-46383(P2016-46383)
(22)【出願日】2016年3月10日
(65)【公開番号】特開2017-159559(P2017-159559A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】萬道 律雄
(72)【発明者】
【氏名】花村 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】三上 英一
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−202101(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/163281(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/182438(WO,A1)
【文献】 特開2011−202010(JP,A)
【文献】 特開2015−196693(JP,A)
【文献】 特開2014−196114(JP,A)
【文献】 特開2014−065837(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/118520(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/196357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 65/40
B65D 75/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状セルロースを含む基材と、該基材の一方の面に積層した熱接着層とを備えたヒートシールシートにおいて、
該ヒートシールシートのISO5−2に準じて測定される透明度が96%以上であり、且つISO2758に準じて測定される破裂強度が、40〜250kPaであり、
前記繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm以上100nm以下であり、
前記繊維状セルロースがリグノセルロース原料を化学的処理及び解繊処理することによって得られる微細繊維状セルロースであり、
前記基材全固形分中の前記繊維状セルロース含有量が50%以上であり、
前記基材の坪量が、5.0〜25.0g/m2であり、
熱接着層の坪量が0.1〜30g/mである
ことを特徴とするヒートシールシート。
【請求項2】
前記繊維状セルロースにリン酸基を導入されてなる請求項1に記載のヒートシールシート。
【請求項3】
前記繊維状セルロース中に導入されるリン酸基の割合は、前記ヒートシールシート1gに対して0.01mmol以上4.00mmol以下である請求項2に記載のヒートシールシート。
【請求項4】
前記繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm以上50nm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項5】
前記基材の坪量が、10.0〜20.0g/m2である請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項6】
前記基材が、前記基材の少なくとも前記熱接着層側の面に設けられたポリアクリルアミド樹脂を含む表面樹脂層を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項7】
前記ヒートシールシートが、プレススルー包装体用蓋材である請求項1〜6のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項8】
容器と蓋材とを備え、前記容器が、被収容物を収容する複数のポケット部と、該複数のポケット部の開口の周囲に設けられ、前記蓋材と貼り合わされるフランジ部とを備えるプレススルー包装体であって、前記蓋材が、請求項1〜7のいずれか一項に記載のヒートシールシートからなることを特徴とするプレススルー包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシールシートおよびプレススルー包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
カプセル剤、錠剤の薬剤、食品等の包装に、プレススルー包装体(以下「PTP」と略記する場合がある。)が用いられている。
従来、PTPとしては、樹脂シートを成形して被収容物を収容するポケット部を複数設けた容器と、アルミ箔の片面に熱接着層を設けた蓋材とから構成されるものが汎用されている。蓋材は、ヒートシールにより容器に貼り合わされ、ポケット部の開口を封止する。PTPのポケット部に収容された被収容物は、ポケット部の膨らみを手指で押し込み、該ポケット部に対応する位置の蓋材を破断させて取り出される。
【0003】
現在、本格的な高齢化社会を迎え、誤った種類の錠剤を服用するという医療過誤が少なからず発生している。その中で、医薬品メーカーでは錠剤自体に着色する、情報を印刷するなどさまざまな形で錠剤の視認性を高め、注意喚起の取り組みを行っている。
通常のPTP包装体では、容器フィルムはポリプロピレン樹脂やポリ塩化ビニル樹脂等の高い透明性を有するものが用いられているが、蓋材に関しては、錠剤を容易に押し出せるようアルミ箔が用いられる。
【0004】
アルミ箔は遮光性が高く、蓋材側からでは内封されている錠剤を見ることはできないため、蓋材に錠剤の名称や有効成分量等を印刷して表示している(例えば特許文献1)。しかしながら、異なる錠剤でも印刷のデザインは似通っており、視認性に乏しいものとなっている。
【0005】
また、錠剤を取り出す方法としては片方の手でPTPの容器膨らみ部分を押して、錠剤によって蓋材を破って押し出し、もう片方の手で受ける場合が多いが、押し出されて落下する錠剤が蓋材によって遮られて視認することができず、錠剤を落として紛失してしまう事故が発生している。
【0006】
上記問題を解決するため、蓋材にも前記の容器用フィルムと同様の材質の薄葉フィルムを使用して蓋材側からの視認性を高めることが考えられるが、一般に樹脂フィルムでは錠剤のプレススルー適性を付与することは困難である。更に樹脂フィルムは錠剤と共に誤飲した場合、身体への悪影響が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2008/146836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プレススルー包装体に使用したときに、プレススルー適性に優れ、内容物の視認性が優れ、且つ万一誤飲された場合でも身体へのダメージが小さいヒートシールシートおよびこれを蓋材に用いたプレススルー包装体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を採用した。

[1]繊維状セルロースを含む基材と、該基材の一方の面に積層した熱接着層とを備えたヒートシールシートにおいて、
該ヒートシールシートのISO5−2に準じて測定される透明度が96%以上であり、且つISO2758に準じて測定される破裂強度が、40〜250kPaであり、
前記繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm以上100nm以下であることを特徴とするヒートシールシート。
[2]前記基材の坪量が、5.0〜25.0g/mである[1]に記載のヒートシールシート。
[3]前記基材全固形分中の前記繊維状セルロース含有量が50%以上である[1]または[2]に記載のヒートシールシート。
[4]前記繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm以上50nm以下である[1]〜[3]のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
[5]前記繊維状セルロースが、リン酸基を含有する[1]〜[4]のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
[6]前記基材が、前記基材の少なくとも前記熱接着層側の面に設けられたポリアクリルアミド樹脂を含む表面樹脂層を含む[1]〜[5]のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
[7]前記ヒートシールシートが、プレススルー包装体用蓋材である[1]〜[6]のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
[8]容器と蓋材とを備え、前記容器が、被収容物を収容する複数のポケット部と、該複数のポケット部の開口の周囲に設けられ、前記蓋材と貼り合わされるフランジ部とを備えるプレススルー包装体であって、前記蓋材が、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のヒートシールシートからなることを特徴とするプレススルー包装体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材がセルロース繊維を主成分とするため安全性が高く、プレススルー包装体用蓋材に使用された場合、優れた内封物の押し出し適性と視認性を有するヒートシールシートおよびこれを蓋材に用いたプレススルー包装体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のヒートシールシートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のプレススルー包装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ヒートシールシート>
本発明のヒートシールシートは、セルロースを含む基材と、該基材の一方の面に積層した熱接着層とを備えたヒートシールシートにおいて、
該セルロースの平均繊維幅が2〜100nmの微細繊維状セルロースを含み、該ヒートシールシートのISO5−2に準じて測定される透明度が96%以上であり、且つISO2758に準じて測定される破裂強度が、40〜250kPaであることを特徴とする。
【0013】
以下、本発明のヒートシールシートについて、添付の図面を参照し、実施形態を示して説明する。
図1は、本発明のヒートシールシートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
本実施形態のヒートシールシート1は、基材3と、基材3の一方の面に積層した熱接着層5とを備える。
【0014】
(透明度)
本発明のヒートシールシートのISO5−2に準じて測定される透明度を96%以上とするものである。透明度を96%とすることにより、プレススルー包装体用蓋材に使用した場合、錠剤表面の印刷文字が判読できるだけでなく、彫刻された文字も判読できるため、良好な錠剤視認性が得られ、錠剤の誤飲や紛失を防ぐことができる。
ヒートシールシートの透明度は98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0015】
(セルロース繊維)
本発明で用いる基材を構成するセルロース繊維は、平均繊維幅が2〜100nmの微細繊維状セルロースを含むものである。本発明では基材がセルロース繊維を主成分としているため、誤飲した場合でもアルミニウム箔やプラスチックシートに比べて身体への悪影響が少ない。
微細繊維状セルロースとしては、特に限定するものではないが、例えばセルロース繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られたセルロース繊維の水系懸濁液を粉砕処理したもの、四級アンモニウム基を含有する化合物でカチオン変性されたカチオン性ミクロフィブリル化植物繊維、さらにはリグノセルロース原料を化学的処理及び解繊処理することにより得られるものが挙げられる。
【0016】
本発明の基材中に用いられる微細繊維状セルロースとは、通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに細いセルロース繊維あるいは棒状粒子である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は電子顕微鏡で観察して2nm〜100nmであり、より好ましくは2nm〜50nmであり、更に好ましくは2nm〜10nmである。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、前記基材の強度、剛性、寸法安定性を高めることができる。また、100nm以下とすることでより高い透明性を達成することができる。
【0017】
微細繊維状セルロースは結晶部分を含むセルロース分子の集合体であり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。また、微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。
【0018】
濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、該懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストして透過型電子顕微鏡(TEM)観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件1〜2を満たすように調整する。
【0019】
(条件1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(条件2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0020】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0021】
微細繊維状セルロースの平均繊維長は1μm〜1000μmが好ましく、5μm〜800μmがさらに好ましく、10μm〜600μmが特に好ましい。平均繊維長が1μm未満になると、微細繊維シートを形成し難くなる。一方、平均繊維長が1000μmを超えると微細繊維のスラリー粘度が非常に高くなり、扱いづらくなる。
繊維長は、前記平均繊維幅を測定する際に使用した電子顕微鏡観察画像を解析することにより求めることができる。すなわち、上記のような電子顕微鏡観察画像に対して、直線Xに交錯する繊維、直線Yに交錯する繊維の各々について少なくとも20本(すなわち、合計が少なくとも40本)の繊維長を読み取る。こうして上記のような電子顕微鏡画像を少なくとも3組以上観察し、少なくとも40本×3組(すなわち、少なくとも120本)の繊維長を読み取る。このように読み取った繊維長を平均して平均繊維長を求める。
【0022】
本発明においては、リグノセルロース原料を化学的処理及び解繊処理することによって得られる微細繊維状セルロースを使用することが好ましい。リグノセルロース原料としては、製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、パガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられる。これらの中でも、入手のしやすさという点で、製紙用パルプが好ましい。
【0023】
製紙用パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)など)、針葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)など)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これらの中でも、より入手しやすいことから、クラフトパルプ、脱墨パルプ、サルファイトパルプが好ましい。セルロース原料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0024】
(化学的処理)
微細繊維状セルロースを得るためのリグノセルロース原料の化学的処理の方法は、特に限定されないが、例えば、オゾン処理、酵素処理、又はセルロースと共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられる。
【0025】
オゾン処理の一例としては、特開2010−254726号公報に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、セルロース繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られたセルロース繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0026】
酵素処理の一例としては、国際公開公報WO/2013/176033に記載の方法を挙げることができる。具体的には、セルロース原料を、少なくとも酵素のEG活性とCBHI活性の比が0.06以上の条件下で酵素により処理する方法である。
【0027】
EG活性は下記のように測定し、定義される。
濃度1%(W/V)のカルボキシルメチルセルロース(商品名:CMCNa High viscosity;CatNo.150561,MP Biomedicals,lnc.社製)の基質溶液(濃度100mM、pH5.0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液含有)を調製する。測定用酵素を予め緩衝液(前記同様)で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の吸光度が下記グルコース標準液から得られた検量線に入ればよい)する。90μlの前記基質溶液に前記希釈して得られた酵素溶液10μlを添加し、37℃、30分間反応させる。検量線を作成するために、イオン交換水(ブランク)、グルコース標準液(濃度0.5〜5.6mMからすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を選択し、それぞれ100μlを用意し、37℃、30分間保温する。
【0028】
前記反応後の酵素含有溶液、検量線用ブランクおよびグルコース標準液に、それぞれ300μlのDNS発色液(1.6質量%のNaOH、1質量%の3,5−ジニトロサリチル酸、30質量%の酒石酸カリウムナトリウム)を加えて、5分間煮沸し発色させる。発色後直ちに氷冷し、2mlのイオン交換水を加えてよく混合する。30分間静置した後、1時間以内に吸光度を測定する。吸光度の測定は96穴マイクロウェルプレート(商品型番:269620、NUNC社製)に200μlを分注し、マイクロプレートリーダー(infiniteM200、TECAN社製)を用い、540nmの吸光度を測定する。
【0029】
ブランクの吸光度を差し引いた各グルコース標準液の吸光度とグルコース濃度を用い検量線を作成する。酵素溶液中のグルコース相当生成量は酵素溶液の吸光度からブランクの吸光度を引いてから検量線を用いて算出する(酵素溶液の吸光度が検量線に入らない場合は前記緩衝液で酵素を希釈する際の希釈倍率を変えて再測定を行う)。1分間にlμmoleのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を1単位と定義し、下記式からEG活性を求める。EG活性=緩衝液で希釈して得られた酵素溶液1mlのグルコース相当生成量(μmole)/30分×希釈倍率[福井作蔵,“生物化学実験法(還元糖の定量法)第二版”、学会出版センター、p.23〜24(1990年)参照]
【0030】
CBHI活性は下記のように測定し、定義される。96穴マイクロウェルプレート(269620、NUNC社製)に1.25mMの4−Methyl−umberiferyl−cel1obioside(濃度125mM、pH5. 0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液に溶解した)32μlを分注し、100mMのGlucono−1,5−Lactone 4μlを添加し、さらに、前記同様の緩衝液で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の蛍光発光度が下記標準液から得られた検量線に入ればよい)した測定用酵素液4μlを加え、37℃、30分間反応させた後、500mMのglycine−NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加し、反応を停止させる。
【0031】
前記同様の96穴マイクロウエルプレートに検量線の標準液として4−Methyl−umberiferon標準溶液40μl(濃度0〜50μMのすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を分注し、37℃、30分間加温した後、500mMのglycine−NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加する。
【0032】
マイクロプレートリーダー(F1uoroskanAscentFL、ThermoーLabsystems社製)を用い、350nm(励起光460n皿)における蛍光発光度を測定する。標準液のデータから作成した検量線を用い、酵素溶液中の4−Methy1−umberiferon生成量を算出する(酵素溶液の蛍光発光度が検量線に入らない場合は希釈率を変えて再測定を行う)。1分間に1μmo1の4−Methyl−umberiferonを生成する酵素の量を1単位とし、下記式からCBHI活性を求める。
CBHI活性=希釈後酵素溶液1m1の4−Methyl−umberiferon生成量(μmo1e)/30分×希釈倍率
【0033】
セルロースと共有結合を形成し得る化合物による処理としては、特開2011−162608号公報に記載されている四級アンモニウム基を有する化合物による処理、特開2013−136859に記載されているカルボン酸系化合物を使用する方法、並びに特開2013−127141に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸又はそれらの塩から選ばれる少なくなくとも1種の化合物」を使用する方法などを挙げることができる。
【0034】
特開2011−162608号公報に記載されている四級アンモニウム基を有する化合物による処理は、セルロース繊維を含有する材料中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該セルロース繊維を含有する材料をカチオン変性する方法である。
【0035】
特開2013−136859に記載されているカルボン酸系化合物を使用する方法とは、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物、およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸系化合物により、セルロースを含む繊維原料を処理して、セルロースにカルボキシ基を導入するカルボキシ基導入工程と、前記カルボキシ基導入工程終了後に、カルボキシ基を導入したセルロースをアルカリ溶液で処理するアルカリ処理工程を含む方法である。
【0036】
カルボン酸系化合物は、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物、およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の中では、2つのカルボキシ基を有する化合物(ジカルボン酸化合物)が好ましい。
【0037】
2つ以上のカルボキシ基を有する化合物としては、プロパン二酸(マロン酸)、ブタン二酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、2−メチルプロパン二酸、2−メチルブタン二酸、2メチルペンタン二酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2−ブテン二酸(マレイン酸、フマル酸)、2−ペンテン二酸、2,4−ヘキサジエン二酸、2−メチル−2−ブテン二酸、2−メチル−2ペンテン二酸、2−メチリデンブタン二酸(イタコン酸)、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸(フタル酸)、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸(イソフタル酸)、ベンゼン−1,4−ジカルボン酸(テレフタル酸)、エタン二酸(シュウ酸)等のジカルボン酸化合物が挙げられる。
【0038】
また、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の誘導体としては、2−ヒドロキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸(クエン酸)、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリット酸)等の前記ジカルボン酸化合物の誘導体が挙げられる。2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸、無水ピロメリット酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物や複数のカルボキシ基を含む化合物の酸無水物が挙げられる。2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0039】
カルボン酸系化合物による処理温度は、セルロースの熱分解温度の点から、250℃以下であることが好ましい。さらに、処理の際に水が含まれている場合には、80〜200℃にすることが好ましく、100〜170℃にすることがより好ましい。また、カルボン酸系化合物をガス化する場合には、カルボン酸系化合物の沸点以上あるいは昇華点以上の温度にすることが好ましい。カルボン酸系化合物が無水マレイン酸または無水コハク酸である場合には、100℃以上であることが好ましい。
【0040】
アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、カルボキシ基導入セルロースを浸漬する方法が挙げられる。アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩が挙げられる。
【0041】
特開2013−127141に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸又はそれらの塩から選ばれる少なくなくとも1種の化合物」を使用する方法は、本発明の好ましい態様で使用する方法である。
【0042】
構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸又はそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下化合物Aと称す)によりリグノセルロース原料を処理する方法としては、リグノセルロース原料に化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、リグノセルロース原料のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。
【0043】
化合物Aはリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形を取っても構わない。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。
【0044】
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0045】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7が好ましい。
【0046】
繊維状セルロース中に導入されるリン酸基の割合は、前記ヒートシールシート1gに対して0.01mmol以上4.00mmol以下の範囲で調整することが好ましい。繊維状セルロース中に導入されるリン酸基の割合を上記範囲とすることで、後述する微細セルロース繊維含有分散液の分散性が高まり、均一性の高いヒートシールシート用基材が得られる。均一性の高い基材を用いることで、内包物の視認性が高いヒートシールシートやプレススルー包装体を得ることができる。
【0047】
リグノセルロース原料に対する化合物Aの質量割合は、特に限定するものではないが、リグノセルロース原料100質量部に対して、化合物Aがリン元素量として0.2〜500質量部が好ましく、1〜400質量部がより好ましく、2〜200質量部が最も好ましい。化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えても、収率向上の効果は頭打ちとなり、無駄に化合物Aを使用するだけである。
【0048】
上記した化合物Aによる処理工程においては加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理温度は、セルロースの熱分解温度の点から、250℃以下であることが好ましい。また、セルロースの加水分解を抑える観点から、100〜170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100〜170℃で加熱処理することが好ましい。
【0049】
前記加熱処理を行う加熱装置はスラリーが保持する水分およびリン酸基などの付加で生じる水分を逐一系外に排出できる、送風方式のオーブン等が好ましい。これはリン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制するためである。
【0050】
本発明では、発明の効果を損なわない範囲において前記微細繊維状セルロースと微細繊維状セルロース以外の繊維を混合して用いることもできる。微細繊維状セルロース以外の繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、炭素繊維、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ピニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0051】
前記微細繊維状セルロースと微細繊維状セルロース以外の繊維を混合して用いる場合、微細繊維状セルロース以外の繊維は、必要に応じて化学的処理、解繊処理等の処理を施すことができる。微細繊維状セルロース以外の繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施す場合、微細繊維状セルロース以外の繊維は、微細繊維状セルロースと混合してから化学的処理、解繊処理等の処理を施すこともできるし、微細繊維状セルロース以外の繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施してから微細繊維状セルロースと混合することもできる。微細繊維状セルロース以外の繊維を混合する場合、微細繊維状セルロースと微細繊維状セルロース以外の繊維の合計量における微細繊維状セルロース以外の繊維の添加量は特に限定されないが、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。特に好ましくは20質量%以下である。
【0052】
(解繊処理)
前記化学的処理で得られたリグノセルロース原料を解繊処理して、微細繊維状セルロース懸濁液を得る。解繊処理を行う解繊処理装置としては、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができるが、特にこれらに限定されない。
【0053】
解繊処理の際には、化学的処理で得られたリグノセルロース原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましい。希釈後の固形分濃度は0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。希釈後の固形分濃度が前記下限値以上であれば、解繊処理の効率が向上し、前記上限値以下であれば、解繊処理装置内での閉塞を防止できる。
【0054】
以下に本発明に用いられる微細セルロース繊維を含有する基材の製造方法を例示するが、本発明に用いられる基材は、この製造方法により得られるものに限定するものではない
(基材の製造方法)
基材の製造方法は、微細セルロース繊維含有分散液を工程シート上に塗工する塗工工程と、工程シート上の微細セルロース繊維含有分散液を乾燥させてシート状の微細セルロース繊維含有基材を形成するシート状基材形成工程とを有する。
【0055】
(塗工工程)
工程シートに塗工する微細セルロース繊維含有分散液は、微細セルロース繊維と分散媒と必要に応じてエマルション樹脂とを含有する液である。分散媒としては、水、有機溶剤を使用することができるが、取り扱い性やコストの点から、水のみが好ましい。有機溶剤を使用する場合でも水と併用することが好ましい。水と併用する有機溶剤としては、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、アセテート系溶剤(酢酸エチル等)等の極性溶剤が好ましい。
【0056】
微細セルロース繊維含有分散液におけるセルロース繊維濃度は特に限定するものではないが、例えば0.1〜2.0質量%、好ましくは0.2〜1.5質量%である。ここで、セルロース繊維濃度とは、微細セルロース繊維とそれ以外のセルロース繊維の総量の濃度のことである。セルロース繊維濃度が前記下限値未満であると、微細セルロース繊維含有基材を形成できないことがある。微細セルロース繊維含有基材を形成できた場合でも、厚みが不均一となり、また、厚みのある微細セルロース繊維含有基材を得ることは困難である。一方、セルロース繊維濃度が前記上限値を超えると、坪量が大きくなりすぎてプレススルー適性に支障を来たすおそれがある。
【0057】
微細セルロース繊維含有分散液の粘度は特に限定するものではないが、たとえば30〜30000mPa・s程度に調整される。なお、本発明における粘度は、JIS K7117−1に従い、B型粘度計を用いて23℃で測定した値である。微細セルロース繊維含有分散液の粘度が前記下限値未満であると、微細セルロース繊維含有基材を形成できないことがある。微細セルロース繊維含有基材を形成できた場合でも、厚みが不均一となり、また、厚みのある微細セルロース繊維含有基材を得ることは困難である。一方、微細セルロース繊維の粘度が前記上限値を超えると、粘度が高くなりすぎて塗工が困難になる。
【0058】
粘度は、セルロース繊維濃度、微細セルロース繊維の平均繊維幅、微細セルロース繊維の平均繊維長、微細セルロース繊維のアニオン基量またはカチオン基量、分散媒の種類等によって調整できる。例えば、セルロース繊維濃度を高くする程、微細セルロース繊維の平均繊維幅を小さくする程、微細セルロース繊維の平均繊維長が長くなる程、微細セルロース繊維のアニオン基量またはカチオン基量が多くなるほど、粘度は高くなる。このように、粘度は複数の要因によって決まるため、セルロース繊維濃度を前記範囲にするだけでは、前記粘度の範囲になるとは限らない。粘度調整剤を添加することももちろん可能である。
【0059】
微細セルロース繊維含有分散液には、界面活性剤が含まれてもよい。微細セルロース繊維含有分散液に界面活性剤が含まれると、表面張力が低下して、工程シートに対する濡れ性を高めることができ、微細セルロース繊維含有基材をより容易に形成できる。具体的に、微細セルロース繊維含有分散液の表面張力は25〜45mN/mであることが好ましく、27〜40mN/mであることがより好ましく、30〜38mN/mであることが最も好ましい。
【0060】
微細セルロース繊維含有分散液の表面張力が前記下限値以上であれば、水を保持しやすい界面活性剤による微細セルロース繊維含有分散液の乾燥性の低下を防ぐことができ、前記上限値以下であれば、工程シートに対する微細セルロース繊維含有分散液の濡れ性を充分に向上させることができる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することができるが、セルロースがアニオン性である場合、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が好ましく、セルロースがカチオン性である場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤が好ましい。
【0061】
微細セルロース繊維含有分散液を塗工する工程シートとしては、シート、板または円筒体を使用することができる。工程シートの材質としては、樹脂または金属が使用され、より容易に微細セルロース繊維含有基材を製造できる点では、樹脂が好ましい。また、工程シートの表面は疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル樹脂等が挙げられる。金属としては、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、鉄、真鍮等が挙げられる。
【0062】
微細セルロース繊維含有分散液を塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができ、厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましく、ダイコーターがより好ましい。塗工温度は、20〜45℃であることが好ましく、25〜40℃であることがより好ましく、27〜35℃であることがさらに好ましい。塗工温度が前記下限値以上であれば、微細セルロース繊維含有分散液を容易に塗工でき、前記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0063】
塗工工程の前には、塗工開始の10分前から塗工開始までの間、微細セルロース繊維含有分散液を攪拌する攪拌工程を有することが好ましい。微細セルロース繊維含有分散液は静置しておくと不均一になる傾向にあるが、該攪拌工程を有すれば、塗工直前の微細セルロース繊維含有分散液を均一化できる。そのため、均一な微細セルロース繊維含有基材がより得られやすくなる。攪拌工程の具体例としては、微細セルロース繊維含有分散液塗工直前の微細セルロース繊維含有分散液を貯めておくタンクの内部を攪拌する方法が挙げられる。
【0064】
(シート状基材形成工程)
シート状基材形成工程における微細セルロース繊維含有分散液の乾燥方法としては、熱風または赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができ、加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよい。通常は、加熱乾燥法が適用される。加熱乾燥法における加熱温度は40〜120℃とすることが好ましく、60〜105℃とすることがより好ましい。加熱温度を前記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、前記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及びセルロースの熱による変色を抑制できる。通常は、乾燥後に、得られた微細セルロース繊維含有基材を工程シートから剥離するが、工程シートがシートの場合には、微細セルロース繊維含有基材と工程シートとを積層したまま巻き取って、微細セルロース繊維含有基材の使用直前に微細セルロース繊維含有基材を工程シートから剥離してもよい。例えば、後工程において表面樹脂層や熱接着層を塗工した後、工程シートを剥離してもよい。
【0065】
上記製造方法では、工程シートに塗工する微細セルロース繊維含有分散液の濃度及び粘度の両方を高めにしているため、工程シート上での微細セルロース繊維含有分散液のはじきを抑制でき、さらに、乾燥の際の収縮を抑制できる。そのため、微細セルロース繊維含有分散液の塗工によって微細セルロース繊維含有基材を容易に製造でき、しかも微細セルロース繊維含有基材を容易に厚くできる。また、微細セルロース繊維含有基材の表面に凹凸が形成されにくいため、厚みを容易に均一化できる。また、微細セルロース繊維含有分散液を工程シート上に塗工し、工程シート上の微細セルロース繊維含有分散液を乾燥させて微細セルロース繊維含有基材を形成する方法では、微細セルロース繊維含有分散液に含まれるほぼ全ての微細セルロース繊維を微細セルロース繊維含有基材の形成に利用できるため、歩留まりが高い。
尚、本発明で用いられる基材には、必要に応じて、一般的な紙と同様に、サイズ剤、紙力増強剤、填料などが含まれても構わない。
【0066】
本発明では、前記基材の少なくとも前記熱接着層側の面にポリアクリルアミド樹脂を含む表面樹脂層を設けることにより、ヒートシールシートにイージーピール特性を付与することもできる。
ポリアクリルアミド樹脂は、(メタ)アクリルアミド単位を有する重合体である。「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミドおよびメタクリルアミドの総称である。ポリアクリルアミド樹脂は、アクリルアミド単位およびメタクリルアミド単位のいずれか一方を有してもよく、両方を有してもよい。ポリアクリルアミド樹脂は、(メタ)アクリルアミド単位以外の他の単位を有していてもよい。
【0067】
ポリアクリルアミド樹脂としては、アニオン性ポリアクリルアミド樹脂、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂、両性ポリアクリルアミド樹脂、ノニオン性ポリアクリルアミド樹脂等が挙げられる。これらはそれぞれ、製紙分野における紙力剤等として公知のものを使用でき、たとえば特開2002−317393号公報、特開2004−231901号公報、特開2014−205938号公報等に記載のものが挙げられる。
【0068】
ポリアクリルアミド樹脂は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。入手容易性の点では、アニオン性ポリアクリルアミド樹脂が好ましい。
アニオン性ポリアクリルアミド樹脂は、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、それらの塩等のアニオン性官能基を含有し、たとえば(メタ)アクリルアミドとアニオン性官能基含有モノマー(アクリル酸等)との共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミドの部分加水分解物等が挙げられる。
【0069】
ポリアクリルアミド樹脂としては、質量平均分子量(Mw)が5万〜50万であるものが好ましく、5万〜30万であるものがより好ましい。
ポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量が前記の範囲内であれば、原紙のISO2758に準じて測定される破裂強度を上昇させることなく基材表面の毛羽立ちを抑える効果がより優れる。質量平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、熱接着層5が剥離する際の基材3の表面の毛羽立ちを抑える効果が得られやすい。
【0070】
質量平均分子量が前記範囲の上限値以下であれば、下塗り剤が塗布するのに充分に粘度が低く、下塗り剤の調製および塗布が容易である。また、下塗り剤中のポリアクリルアミド樹脂の濃度を高くでき、目的の塗布量が得られやすい。質量平均分子量が50万を超えるものについては、内添の紙力剤としては用いられるが、溶液の粘度が高くなり、下塗り剤の調製および塗布が難しく、また満足な塗布量が得られにくい。
ポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリエチレンオキシド換算値である。
【0071】
表面樹脂層用塗料は、通常、液体媒体を含む。液体媒体としては、ポリアクリルアミド樹脂を溶解するものが好ましく、たとえば水が挙げられる。
【0072】
表面樹脂層は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアクリルアミド樹脂以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、特に限定するものではないが、たとえばデンプン、変性デンプン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、アラビアガム、ジイソブチレン・無水マレイン酸共重合体塩、スチレン・無水マレイン酸共重合体塩等の水溶性高分子化合物、スチレン−ブタジエン共重合体エマルション、アクリル酸エステル共重合体エマルション、ウレタン樹脂、尿素樹脂、スチレン−アクリル樹脂エマルション、エチレン−アクリル樹脂エマルション等の水性高分子化合物、離型剤、消泡剤、分散剤、濡れ剤、有色染料、有色顔料、白色顔料等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
表面樹脂層中のポリアクリルアミド樹脂の含有量(濃度)は、下塗り剤中の総固形分(100質量%)に対し、50〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましい。ポリアクリルアミド樹脂の含有量が前記範囲の下限値以上であればイージーピール適性が良好である。総固形分は、表面樹脂層塗料から液体媒体を除いた全量であり、ポリアクリルアミド樹脂と他の成分との合計である。
【0074】
基材への表面樹脂層用塗料の塗布量は、ポリアクリルアミド樹脂の量に応じて設定される。
熱接着層5側の面における表面樹脂層の塗布量は、ポリアクリルアミド樹脂の量に換算して、0.1〜10.0g/mであり、0.2〜3.0g/mがより好ましい。熱接着層5側の面におけるポリアクリルアミド樹脂の塗布量が前記範囲の下限値以上であれば、イージーピール時に紙基材3と熱接着層5とが良好に剥離し、基材3の表面の毛羽立ちや基材破壊が生じにくい。該塗布量が前記範囲の上限値以下であれば、ヒートシールシート1の破裂強度が低く抑えられ、プレススルー適性が優れる。
【0075】
熱接着層5側とは反対側の面に表面樹脂層が設けられる場合、その含有量は特に限定されないが、ポリアクリルアミド樹脂の量に換算して、10g/m以下が好ましく、0.1〜5g/mがより好ましく、0.2〜3.0g/mがさらに好ましい。該含有量が前記範囲の上限値以下であれば、ヒートシールシート1の破裂強度が低く抑えられ、プレススルー適性が優れる。
【0076】
表面樹脂層用塗料の塗布方法としては、特に限定されず、各種公知の湿式塗布法を利用して行うことができる。例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、シムサイザー、ゲートロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、ツーロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター等を用いて塗布することができる。
【0077】
塗布された表面樹脂層用塗料は、通常、少なくとも一部が基材中に浸み込み、塗布後の基材中にはポリアクリルアミド樹脂が含まれている。表面樹脂層用塗料の一部が基材に浸み込んだ場合、浸み込まなかった表面樹脂層用塗料が塗布面上で乾燥することにより、基材の塗布面上にポリアクリルアミド樹脂を含む表面樹脂層が形成される。
【0078】
基材3は、基材の塗布面上に表面樹脂層を有していてもよく有していなくてもよい。表面樹脂層を有しない場合でも、基材の表面およびその近傍にポリアクリルアミド樹脂が含浸しているため、優れたイージーピール適性が得られる。表面樹脂層の有無は、表面と中層部分をかみそり等で削いで、熱分解GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析)等で確認が可能である。
基材中のポリアクリルアミド樹脂の濃度(基材の厚さ方向における濃度)は均一でもよく、基材の表面から内側に向かって濃度が低下していくような濃度勾配を有していてもよい。
【0079】
基材3の坪量は特に限定するものではなく、例えば5.0〜25.0g/mが好ましく、10.0〜20g/mがより好ましい。基材3の坪量が前記下限値以上であれば、ヒートシール時、またはヒートシール後も十分な強度を示す。
また、基材3の坪量の上限以下であれば、ヒートシールシート1をプレススルー包装体用蓋材として用いる場合でもヒートシールシート1の破裂強度を低く抑えることができ、プレススルー包装体のポケット部から被収容物を押し出すのに必要な力が少なく、プレススルー適性に優れる。
基材3の坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定される。
【0080】
基材3の密度は特に限定するものではないが、0.95〜1.50g/cm程度に調整される。
基材3の密度は、JIS P 8118:1998に準拠して厚さを測定して、厚さと坪量の測定値から計算で求められる。
【0081】
(熱接着層)
熱接着層5を構成する材料は、特に限定されず、各種熱接着性を発現する材料が使用でき、熱接着層5が熱接着される被着体(たとえばヒートシールシートがPTPの蓋材である場合はPTPの容器)の材質や熱接着条件に応じて適宜選択される。
熱接着性を発現する材料としては、たとえば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アクリル酸エステル重合体、ポリエチレン、ポリエチレン−ポリブテン混合体等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
熱接着層5は、たとえば、上記の材料と液体媒体とを含むヒートシール剤を、基材3の一方の面に塗布し乾燥することにより形成できる。
ヒートシール剤は、上記の材料が水に溶解または分散した水系ヒートシール剤でもよく、上記の材料が溶剤に溶解した溶剤系ヒートシール剤でもよい。
水系ヒートシール剤としては、たとえば、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体エマルション、アクリル酸エステル重合体エマルション、ポリエチレンエマルション、ポリエチレン−ポリブテン混合体エマルション、特殊ポリプロピレンエマルション等が挙げられる。これらのなかでも、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション、アクリル酸エステルエマルション、ポリエチレンエマルション、特殊ポリプロピレンエマルションが、安定した剥離力を発現し、且つISO2758に準じて測定した破裂強度を上昇させることなく基材表面のケバ立ちを抑える効果が高いため、好ましい。
【0083】
ヒートシール剤の塗布方法としては、特に限定されず、各種公知の湿式塗布法を利用して行うことができる。たとえば下塗り剤の塗布方法と同様の方法が挙げられる。
乾燥設備については、シリンダードライヤーによる塗布面直接接触方式では、ドライヤーやカンバスが汚染する虞があるため、塗布面と接触しないエアードラーヤーや赤外線ヒーター等の乾燥設備による乾燥が好ましい。
【0084】
熱接着層5の坪量(ヒートシール剤の乾燥塗布量)は、特に限定されず、熱接着層5が接着される被着体の材質やヒートシール条件に応じて適宜選択される。好ましくは0.1〜30g/mであり、より好ましくは0.5〜20g/mである。熱接着層5の坪量が0.1g/m以上であれば、満足な熱接着力が得られやすい。たとえばPTPの蓋材として容器に熱接着された場合、ポケット部を押し込んで被収容物を押し出す際に、蓋材が剥がれにくい。熱接着層5の坪量が30g/m以下であれば、イージーピール時に基材3の破壊が発生しにくい。また、熱接着層5が曳糸性を発現しにくく、被収容物の汚染が生じにくい。
【0085】
(破裂強度)
ヒートシールシート1のISO2758に準じて測定される破裂強度は、40〜250kPaとするものである。50〜150kPaがより好ましく、60〜130kPaがさらに好ましい。
破裂強度が250kPa以下であると、ヒートシールシート1をプレススルー包装体用蓋材として用いた場合に、被収容物を取り出すためにポケット部を押し込んで蓋材を押し破るのに要する力が大きくならず、非力な人でも負担が小さい。また、力の掛け具合の調節が容易であり、力を掛けたときに被収容物を飛び出させることなく蓋材を押し破ることができる。また、取り出された被収容物への蓋材の付着、このような被収容物を服用することによる蓋材の誤飲等が生じにくい。また、蓋材を押し破るために必要な力が小さいため、蓋材を押し破る際に被収容物の変形や割れが生じにくい。特に顆粒状の薬剤を内包したカプセル剤の場合、カプセル剤の変形は押し出しに支障を来たす虞がある。
【0086】
破裂強度が40kPa以上であると、イージーピールさせる場合においても充分な強度を有し、剥離時に基材3の破壊が生じにくい。また、ヒートシールシート1をPTP用蓋材として用いた場合に、小さな衝撃で被収容物が押し出されにくく、プレススルー包装体の取り扱いが容易になる。
ヒートシールシート1の破裂強度は、基材3の坪量、微細セルロース繊維の配合量、必要に応じて塗布される表面樹脂層の塗布量等により調整される。
【0087】
(ヒートシールシートの製造方法)
ヒートシールシート1は、たとえば、以下の工程(α1)〜(α4)を有する製造方法により製造できる。
(α1)微細繊維状セルロースを含むセルローススラリーをシート化して基材3を得る工程。
(α2)必要に応じて、基材の少なくとも一方の面に表面樹脂層用塗料を塗布し乾燥する工程。
(α3)基材3の一方の面(表面樹脂層を有する場合はその面)にヒートシール剤を塗布し乾燥することで熱接着層5を形成し、ヒートシールシート1を得る工程。
工程(α1)〜(α3)はそれぞれ前述の手順で実施できる。
【0088】
(作用効果)
ヒートシール1にあっては、特定の透明度と、特定の破裂強度を有するため、プレススルー包装体用蓋材に使用される場合、プレススルー適性と内容物の視認性に優れる。
また、微細繊維状セルロースを含有する基材は、強固な繊維間結合が得られるため、プレススルー時の破材端面からの毛羽立ちや紙片の剥離が抑制されているため、毛羽立った部分から脱落した繊維や剥離した基材片が被着体や被収容物に付着することを防止できる。また、被収容物を服用する場合に、付着した繊維や基材片を誤飲することを防止できる。
また、ヒートシール1にあっては、基材がセルロースを主体とするため、基材にアルミニウム箔を用いたものに比べて、ヒートシールの破片を誤飲したときの人体への負荷が少ない。
【0089】
本発明のヒートシール1の用途はプレススルー包装体用蓋材に限定されず、プレススルー包装体以外の用途、たとえばヒートシールシートを袋状に加工した包装体、ブリスターパック用蓋材、ストローを突き刺して飲用する液体容器用蓋材等の用途にも適用できる。
【0090】
以上、本発明のヒートシールシートについて、実施形態を示して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
たとえば、ヒートシールシート1の基材3と熱接着層5との間に他の層を有してもよい。他の層としては、たとえば水蒸気バリア層、酸素バリア層、印刷層、印刷適性向上層、オーバープリント層、遮光層等が挙げられる。基材3と熱接着層5との間に設けられる他の層は1層でもよく2層以上でもよい。
また、基材3の熱接着層5側とは反対側の面に印刷層を有してもよい。印刷層上にさらにオーバープリント層を有してもよい。
【0091】
<プレススルー包装体>
本発明のプレススルー包装体は、容器と蓋材とを備え、前記容器が、被収容物を収容する複数のポケット部と、該複数のポケット部の開口の周囲に設けられ、前記蓋材と貼り合わされるフランジ部とを備えるものであって、 前記蓋材が、本発明のヒートシールシートからなることを特徴とする。
【0092】
以下、本発明のプレススルー包装体について、添付の図面を参照し、実施形態を示して説明する。なお、以下において、前出の実施形態に対応する構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
図2は、本発明のプレススルー包装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
本実施形態のプレススルー包装体10は、蓋材11と、容器13とを備える。
蓋材11は、図1に示したヒートシールシート1からなり、熱接着層5側を容器13側に向けて配置されている。
【0093】
容器13は、被収容物19を収容する複数のポケット部15と、該複数のポケット部15の開口の周囲に設けられ、蓋材11と貼り合わされるフランジ部17とを備える。
フランジ部17の蓋材11側の表面は平面状であり、蓋材11と密着する。
複数のポケット部15はそれぞれ、フランジ部17の蓋材11側とは反対側の表面から突出して形成されており、突出した部分の内側に、被収容物19を収容する凹部を有する。凹部は、フランジ部17の蓋材11側の表面に開口し、該開口が蓋材11で封止されることにより、被収容物19を収容する空間が形成されている。
【0094】
(蓋材)
蓋材11を構成するヒートシールシート1としては、前述のとおり、セルロースの平均繊維幅が2〜100nmの微細繊維状セルロースを含み、該ヒートシールシートのISO5−2に準じて測定される透明度が96%以上であり、且つISO2758に準じて測定される破裂強度が、40〜200kPaであるものが使用されるため、優れた錠剤視認性とプレススルー適性とを両立できる。
【0095】
蓋材11を構成するヒートシールシート1は、基材3の坪量が5.0〜25.0g/mであることが好ましい。基材3の坪量の上限、下限それぞれの好ましい値は前記と同様である。基材3の坪量が前記範囲の下限値以上であれば、蓋材として使用した場合に十分な強度が得られやすく、剥離時の基材破壊が起こりにくい。基材3の坪量が前記範囲の上限値以下であれば、ヒートシールシート1の破裂強度を低く抑えることができ、プレススルー包装体10のポケット部15から被収容物19を押し出すのに必要な力が少なく、プレススルー適性、且つ透明性に優れる。
【0096】
(容器)
容器13の材質は、特に限定されず、公知の各種の素材が使用できる。例えばポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル−ポリ塩化ビニリデン複合樹脂等が挙げられる。
【0097】
容器13は、たとえば、前述の素材のシートに複数のポケット部15を成形することにより製造できる。ポケット部15の成形方法については、特に限定するものではないが、たとえばプラグアシスト成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、熱プレス法等が挙げられる。
【0098】
蓋材をイージーピールさせる場合、11と容器13との剥離強度は、特に限定しないが、たとえば下記の剥離強度が、0.060〜0.700kN/mであることが好ましく、0.130〜0.450kN/mであることがより好ましい。剥離強度が前記範囲の下限値以上であれば、ポケット部15を押し込んで被収容物19を取り出す際に蓋材11が剥離しにくい。剥離強度が前記範囲の上限値以下であれば、イージーピール方式での剥離時に基材破壊を来たさずに剥離できる。
剥離強度:引張試験機(例えば、テンシロンRTC−1250A、オリエンテック社製)を用いて、JIS P 8113:2006に準じて、幅15mmに断裁したPTP10の蓋材11、容器13それぞれの端部をチャッキングして180°ピール法で剥離速度300mm/分にて測定した剥離強度。
【0099】
(プレススルー包装体の製造方法)
プレススルー包装体10は、たとえば、容器13のポケット部15に被収容物19を収容し、該容器13に、蓋材11を、ポケット部15の開口を封止するように重ねて熱接着することにより製造できる。熱圧着条件としては、特に限定されない。
被収容物19としては、特に限定されず、たとえば錠剤、坐剤、カプセル剤等の薬剤、菓子(飴、チョコレート等)等の食品、化粧品等が挙げられる。
【0100】
(作用効果)
従来、蓋材の基材がアルミ箔を主体とする場合、優れたプレススルー適性と内封物視認性を両立することは難しかった。
プレススルー包装体10にあっては、蓋材11がヒートシール1からなるため、優れたプレススルー適性と内封物視認性とを両立できる。たとえば充分に少ない力でポケット部15を押し込んで蓋材11を破断させ、被収容物19を取り出すことができる。
また、蓋材がセルロースを主体とするため、従来のアルミ箔を用いたものに比べて、蓋材を誤飲したときの人体への負荷が少ない。また、ヒートシール剤により密封されることにより埃等の異物混入を防ぐことができる。
したがって、プレススルー包装体10は、実用上極めて有用なものである。
【0101】
以上、本発明のプレススルー包装体について、実施形態を示して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
たとえば、蓋材11を構成するヒートシールシートは、本発明のヒートシールシートであればよく、ヒートシールシート1に限定されない。
また、容器13の少なくとも片面に印刷層を有してもよい。印刷層上にさらにオーバープリント層を有してもよい。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0103】
<実施例1>
[微細繊維状セルロース懸濁液Aの調製]
【0104】
リン酸二水素ナトリウム二水和物265g、及びリン酸水素二ナトリウム197gを538gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。
【0105】
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分50質量%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を含水率80質量%になるようイオン交換水で希釈し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリー500gに前記リン酸化試薬210gを加え、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)で時折混練しながら質量が恒量となるまで乾燥させた。ついで150℃の送風乾燥機で時折混練しながら1時間加熱処理して、セルロースにリン酸基を導入した。
【0106】
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12〜13になるまで少しずつ添加して、パルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0107】
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、1.0質量%のパルプスラリーにした。このパルプスラリーを、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社「Panda Plus 2000」)に、操作圧力1200barで10回パスさせ、微細繊維状セルロース懸濁液Aを得た。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、4.2nmであった。
[微細繊維状セルロース含有基材の製造]
上記で得られた微細セルロース懸濁液Aの固形分濃度が0.4質量%となるように水で希釈したのち、ダイヘッドより工程シート上に押出し、80℃で熱風乾燥した。工程シートとして、ポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いた。乾燥後、得られた微細繊維状セルロース含有基材を工程シートから剥離し、坪量を測定したところ、12.2g/mであった。
【0108】
[ヒートシールシートの製造]
上記で得られた基材の片面に、バーコーターを用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤(商品名:EA−H700、東洋インキ社製)を、乾燥後の塗布量が3.0g/mとなるように塗布および乾燥して熱接着層を形成し、坪量15.2g/mのヒートシールシートを得た。
【0109】
[PTPの製造]
以下の容器を用意し、上記で得られたヒートシールシートを蓋材として用いて以下の手順でPTPを製造した。
容器:直径10mm、深さ4mmのポケット部が12個(6個×2列)設けられた、厚さ250μmのポリ塩化ビニル樹脂フィルム製のPTP用容器。
上記容器のポケット部に薬剤(高血圧治療剤、商品名:ミカルディス錠40mg、日本ベーリンガーインゲルハイム社製、錠剤の直径約8.0mm、厚さ約2.8mm)を充填し、蓋材を、熱接着層側の面が容器と接するように重ね、上記ポケット部に対応する孔を有する金型を装着させた熱プレス試験機を用いて、150℃、3.0kgf/cm、1.1秒間の熱圧着条件で熱圧着して、上記薬剤が封緘されたPTPを製造した。
【0110】
<実施例2>
実施例1の微細繊維状セルロース含有基材の製造において、微細セルロース懸濁液Aの固形分濃度が0.65質量%とした以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロース含有基材、ヒートシールシートおよびPTPを順次製造した。なお、得られた微細繊維状セルロース含有基材の坪量は、15.0g/m、ヒートシールシートの坪量は18.0g/mであった。
【0111】
<実施例3>
実施例1の微細繊維状セルロース含有基材の製造において、微細セルロース懸濁液Aの固形分濃度が1.0質量%とした以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロース含有基材、ヒートシールシートおよびPTPを順次製造した。なお、得られた微細繊維状セルロース含有基材の坪量は、20.4g/m、ヒートシールシートの坪量は23.4g/mであった。
【0112】
<実施例4>
実施例2のヒートシールシートの製造において、実施例2の微細繊維状セルロース含有基材の製造と同様にして得られた坪量15.0g/mの基材の片面にバーコーターにて、下記の下塗り剤(A)を、乾燥後の塗布量が1.1g/mとなるように塗布および乾燥した。
下塗り剤(A):アニオン性ポリアクリルアミド樹脂(質量平均分子量20万)の水溶液(荒川化学工業社製のポリマセット(登録商標)512を水で希釈してアニオン性ポリアクリルアミド樹脂濃度10質量%に調整したもの)。
【0113】
次に、上記で得られた基材の下塗り剤塗布面に、バーコーターを用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤(商品名:EA−H700、東洋インキ社製)を、乾燥後の塗布量が1.4g/mとなるように塗布および乾燥して熱接着層を形成し、坪量17.5g/mのヒートシールシートを得た。次に実施例2と同様にしてPTPを製造した。
【0114】
<比較例1>
[紙基材の製造]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)をDDRにて、変則フリーネス(パルプ採取量0.3g/L)が460mLになるように叩解し、パルプスラリーを得た。該パルプスラリーに内添薬品として、パルプ質量に対し、絶乾で硫酸バンド1%、濾水性向上剤(商品名:ソフトール(登録商標)3503、油化産業社製)0.07%を添加し、抄紙原料を得た。該抄紙原料を長網抄紙機で抄紙して原紙を得た。
【0115】
次いで、原紙をオフマシンスーパーカレンダー処理し、密度1.05g/cmの紙基材を得た。
[ヒートシールシートの製造]
上記で得られた紙基材の片面に、バーコーターを用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤(商品名:EA−H700、東洋インキ社製)を、乾燥後の塗布量が3.0g/mとなるように塗布および乾燥して熱接着層を形成し、坪量30.0g/mのヒートシールシートを得た。次に実施例1と同様にしてPTPを製造した。
【0116】
<比較例2>
[微細繊維状セルロース懸濁液Bの調製]
リン酸二水素ナトリウム二水和物265g、及びリン酸水素二ナトリウム197gを538gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分50質量%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を含水率80質量%になるようイオン交換水で希釈し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリー500gに前記リン酸化試薬210gを加え、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)で時折混練しながら質量が恒量となるまで乾燥させた。ついで150℃の送風乾燥機で時折混練しながら1時間加熱処理して、セルロースにリン酸基を導入した。
【0117】
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12〜13になるまで少しずつ添加して、パルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0118】
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、2.1質量%のパルプスラリーにした。このパルプスラリーを、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社「Panda Plus 2000」)に、操作圧力1200barで10回パスさせ、微細繊維状セルロース懸濁液Aを得た。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、5.5nmであった。
【0119】
[微細繊維状セルロース含有基材の製造]
上記で得られた微細セルロース懸濁液B(固形分濃度2.1質量%)を、ダイヘッドより工程シート上に押出し、80℃で熱風乾燥した。工程シートとして、ポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いた。乾燥後、得られた微細繊維状セルロース含有基材を工程シートから剥離し、坪量を測定したところ、32.5g/mであった。
【0120】
[ヒートシールシートの製造]
上記で得られた基材の片面に、バーコーターを用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルション系ヒートシール剤(商品名:EA−H700、東洋インキ社製)を、乾燥後の塗布量が3.0g/mとなるように塗布および乾燥して熱接着層を形成し、坪量35.5g/mのヒートシールシートを得た。次に実施例1と同様にしてPTPを製造した。
【0121】
<評価>
実施例1〜4、比較例1、2それぞれで得たヒートシールシート(蓋材)およびPTPについて以下の評価を行い、結果を表1に示した。
[透明度の測定]
各例のヒートシールシートの透明度をISO5−2に準じて、拡散光透過率計DOT−5(村上色彩技術研究所社製)で測定を行った。
【0122】
[破裂強度の測定]
各例のヒートシールシートの破裂強度(kPa)を、破裂試験機(型式:MD200、熊谷理機工業社製)を用いて、ISO2758に準じて測定した。
【0123】
[薬剤押し出し力の測定]
各例のヒートシールシートと、あらかじめ直径10mmの孔を開けた容器用ポリ塩化ビニル樹脂フィルム(ポケットは未成形)とを、ヒートシールシートの熱接着層側の面がポリ塩化ビニル樹脂フィルムと接するように重ねて、熱プレス試験機を用いて、150℃、3.0kgf/cm、1.1秒間の熱圧着条件で熱圧着物を作成した。
【0124】
次にテクスチャーアナライザー(型式:TA−XT plus、英弘精機社製)を用いて、直径20mmの孔が開けられたポリカーボネート製の樹脂板(10cm×10cm、厚さ30mm)を、孔の中心が円柱状プローブの中心と重なるようにセットした。
次に、上記樹脂板の上に、樹脂板の孔の中心に上記熱圧着物のポリ塩化ビニル樹脂フィルムに開けられた孔の中心が来るように、またポリ塩化ビニル樹脂フィルムが上になるようにセットした。
【0125】
次に、テクスチャーアナライザーの円柱状プローブの先端に薬剤(高血圧治療剤、商品名:ミカルディス錠40mg、日本ベーリンガーインゲルハイム社製、錠剤の直径約8.0mm、厚さ約2.8mm)を貼り付け、プローブの下降速度300mm/分で下降させて、薬剤の押し出しに掛かった力に掛かった力(薬剤押し出し力)(N)を測定した。薬剤押し出し力は、プローブ先端の薬剤が熱圧着物のヒートシールシートを押し破って熱圧着物の下側に押し出されるのに要した力であり、薬剤押し出し力が小さいほど、プレススルー適性が優れる。なお、無理なく押し出せる力としては概ね18N以下程度と考えられる。
【0126】
[プレススルー適性の官能評価]
得られたPTPについて実際に、以下の基準でプレススルー性を官能評価した。
(プレススルー適性)
○:問題なく薬剤が押し出せた。
△:薬剤を押し出すのにやや大きな力を要した。
×:蓋材が強すぎて薬剤が押し出せなかった。または、薬剤を押し出す前に蓋材が剥がれてしまった。
【0127】
[錠剤視認性の官能評価]
薬剤(高血圧治療剤、商品名:ミカルディス錠40mg、日本ベーリンガーインゲルハイム社製、錠剤の直径約8.0mm、厚さ約2.8mm)の上に得られたヒートシールシートを重ねて、錠剤の形状、表面の彫刻印字の視認性を確認した。
(錠剤視認性)
○:彫刻印字が問題なく判読できた。
×:彫刻印字が判読できなかった。
【0128】
【表1】
【0129】
上記結果に示すとおり、実施例1〜4のヒートシールシートは、高い透明度と低い破裂強度を示しており、プレススルー適性と錠剤視認性が優れていた。これに対して、比較例1,2はプレススルー適性と錠剤視認性の両立が認められなかった。これらの結果から、実施例は錠剤視認性を兼ね備えたプレススルー包装体用蓋材に適した優れたヒートシールシートであることが確認できた。
【符号の説明】
【0130】
1 ヒートシールシート
3 基材
5 熱接着層
10 PTP(プレススルー包装体)
11 蓋材
13 容器
15 ポケット部
17 フランジ部
19 被収容物
図1
図2