【文献】
大前 佑斗,授業設計への適用を目指したARCSモデルに基づく学習意欲変容の検討,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.113 No.254,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2013年10月12日,第113巻,p.19-24
【文献】
矢野 雄大,少人数学級は有効か?,教育システム情報学会誌 Vol.32 No.4,日本,一般社団法人教育システム情報学会,2015年10月 1日,第32巻,p.236-245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記学習者エージェントごとに、前記学習行動を実行させた結果を、前記学習者エージェントのタイプごとまたは互いに異なる前記授業計画ごとに集計して出力する処理を更に実行させる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシミュレーションプログラム。
請求項8記載のシミュレーションプログラムであって、前記学習行動の実行は、前記学習者エージェントごとに、前記自信パラメータおよび前記満足度パラメータに基づき算出される学習確率パラメータに基づき、前記知識量を増加させることを特徴とするシミュレーションプログラム。
請求項8記載のシミュレーションプログラムであって、前記各イベントにおいて、前記学習者エージェントごとに、当該学習者エージェントが前記知識量を増加した場合に前記満足度パラメータを増加させる、
処理を実行させることを特徴とするシミュレーションプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、実施形態にかかるシミュレーションプログラム、シミュレーション方法およびシミュレーション装置を説明する。実施形態において同一の機能を有する構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、以下の実施形態で説明するシミュレーションプログラム、シミュレーション方法およびシミュレーション装置は、一例を示すに過ぎず、実施形態を限定するものではない。また、以下の実施形態は、矛盾しない範囲内で適宜組みあわせてもよい。
【0015】
実施形態にかかるシミュレーションプログラム、シミュレーション方法およびシミュレーション装置では、授業を受ける各学習者を仮想的な教室内の学習者エージェントとして模擬(シミュレーション)し、仮想的な教室に対応する仮想空間に学習者エージェントを配置する。そして、シミュレーションプログラム、シミュレーション方法およびシミュレーション装置では、予め設定した授業計画に含まれるイベントごとに、各学習者エージェントに学習行動を実行させ、授業計画での学習者の知識獲得をシミュレーションする。
【0016】
このシミュレーションにおいて、各イベントの学習者エージェントの学習行動は学習者エージェントごとの学習意欲に基づいて実施され、学習者エージェントごとの学習意欲は、A・R・C・S(注意(興味)・関連性・自信・満足感)の要素(パラメータ)に分類される。
【0017】
A(注意:Attention)のパラメータは、感覚的な刺激等により興味を引かれる(知覚的喚起)、矛盾を感じさせる等して探究心を掻き立てられる(探究心の喚起)、授業の順序に多様性がある(変化性)などの要因で値が上昇する。例えば、興味(A)のパラメータは、授業の内容(イベント)に依存して一意に増減する。一例として、講義は興味を減らし、ガイダンスは興味を増やす。
【0018】
R(関連性:Relevance)のパラメータは、将来必要になると感じる知識やスキルと関連があると感じる(目的指向性)、達成することに喜びを感じる(動機との一致)、身近な経験や出来事と関連性を感じる(親しみやすさ)などの要因で値が上昇する。例えば、関連性(R)のパラメータは、授業の内容(イベント)に依存して一意に増減する。一例として、講義は関連性を減らし、ガイダンスは関連性を増やす。
【0019】
C(自信:Confidence)のパラメータは、学習目標が理解・納得できる(学習要件)、自分の能力ならやれそうだと感じる(成功の機会)、自分の能力の結果、うまく行ったのだと感じる(個人的なコントロール)などの要因で値が上昇する。例えば、自信(C)のパラメータは、授業の内容(イベント)ごとの自身の知識量および自身の知識量と他人の知識量との比較において変化する。一例として、自身の知識量が基準を満たせば(小テストをクリアする)増加する。また、自身の知識量と他人の知識量との比較において、自らの知識量が他人より多ければ上がり、自らの知識量が他人より少なければ下がる。
【0020】
S(満足感:Satisfaction)のパラメータは、新たに習得した知識やスキルの使用機会を感じる(内発的満足感)、成功を外部からも感じさせてもらい強化する(外発的な報酬)、練習問題と事後テストの難易度にズレがない(公平さ)などの要因で値が上昇する。例えば、満足度(S)のパラメータは、各イベントにおける学習者の学習行動により変化する。一例として、学習者が学習行動を行えば増加する。
【0021】
学習者エージェントは、A・R・C・Sのパラメータを有しており、各イベントにおいて、これらのパラメータに基づき算出される学習確率のパラメータ(pLearning)に基づいて学習行動を実施する。なお、各イベントにおいて、学習者エージェントの自信(C)のパラメータは、学習者エージェントの知識量およびイベントで相互作用する他の学習者エージェントの知識量に応じて変化させる。また、各イベントにおいて、学習者エージェントの満足度(S)のパラメータは、学習者エージェントが学習行動により知識量を増加した場合に増加させる。
【0022】
これにより、実施形態にかかるシミュレーションプログラム、シミュレーション方法およびシミュレーション装置では、シミュレーション結果である授業計画の効果を、A・R・C・Sのパラメータに基づき算出される学習確率(特にC、S)と、学習者の学習成果(知識獲得)の両視点から説明することができる。このため、実施形態にかかるシミュレーションプログラム、シミュレーション方法およびシミュレーション装置では、シミュレーション結果における学習者の知識獲得の再現性を向上することができる。
【0023】
図1は、実施形態にかかるシミュレーション装置1の構成を例示するブロック図である。
図1に示すシミュレーション装置1は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。シミュレーション装置1は、入力された情報に基づいて、仮想空間における学習者エージェントの行動をシミュレーションし、学習者の学習行動を模した授業シミュレーションを実施する。
図1に示すように、シミュレーション装置1は、入力部10、入力情報格納部20、シミュレーション管理部30、授業計画変更部40、学習者行動実行部50、シミュレーション結果出力部60および学習意欲・知識量情報格納部70を有する。
【0024】
入力部10は、例えばマウスやキーボードなどの入力装置より、授業計画11、学習者集団情報12および学習者情報13等のシミュレーションにかかる入力情報を受け付ける。
【0025】
入力情報格納部20は、入力部10より入力された授業計画11、学習者集団情報12および学習者情報13等の入力情報をRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置に格納する。
【0026】
授業計画11は、授業において実施を計画している所定数の講義内容を示す情報である。具体的には、授業計画11には、ガイダンス、文法講義、グループディスカッションなどの各講義において実施するイベントと、イベントの属性値が記述されている。ユーザは、予定のカリキュラムに沿った授業計画11を設計してシミュレーション装置1に入力する。
【0027】
図2は、授業計画11を説明する説明図である。
図2に示すように、授業計画11には、カリキュラム11aにおける週ごとの講義に含まれるガイダンス、文法講義などのイベントごとに、イベントの属性が記述されている。
【0028】
具体的には、授業計画11には、イベントの発生順を示すイベントIDとともに、各イベントの名称、知識増加量、興味、関連性、自信、満足度、グループ内相互作用などの属性値が記述されている。知識増加量は、イベントで学習行動を行った学習者(学習者エージェント)が獲得する知識量の目安となる値である。興味(A)、関連性(R)、自信(C)および満足度(S)は、学習者(学習者エージェント)の有するA・R・C・Sのパラメータ値がイベントで増減する増減量の目安となる値である。グループ内相互作用は、イベントで学習者(学習者エージェント)同士の相互作用があるか否かを示す値である。相互作用がある場合は「True」、相互作用がない場合は「False」とする。また、授業計画11では、学習者(学習者エージェント)の教室内での配置を変更する間隔を「n=6」として示している。これにより、授業計画11では、6回のイベントごとに学習者の配置が変更される。
【0029】
学習者集団情報12は、授業を受ける学習者(学習者エージェント)の教室内の配置など、仮想的な教室における学習者エージェント間のネットワーク(つながり)と、学習者エージェント数(ノード数)とを示す情報である。ユーザは、講義を行う教室において学習者が着席する席順などを考慮して学習者集団情報12を設定し、シミュレーション装置1に入力する。
【0030】
図3は、学習者集団情報12を説明する説明図である。
図3に示すように、学習者集団情報12は、ネットワーク構成を記述する一般的な記述方法を用いて、1〜30のノード番号における学習者エージェントのネットワーク構成を記述している。シミュレーション装置1は、学習者集団情報12を参照することで、互いに相互作用を及ぼす学習者エージェントのグループを特定することができる。例えば、ノード番号が1、2、6、7、8の学習者エージェントにおいては、互いに相互作用を及ぼすグループに属している。このように、学習者集団情報12において、グループごとの学習者同士のつながりを設定しておくことで、互いに相互作用を及ぼす学習者をグループ単位で限定しておくことができる。したがって、学習者集団情報12を条件とするシミュレーションでは、学習者同士で互いに相互作用を及ぼすグループディスカッションなどのイベントについてのシミュレーション精度をより向上することができる。
【0031】
学習者情報13は、学習者(学習者エージェント)ごとのパラメータの初期値を示す情報である。ユーザは、授業に参加予定の学習者に対して事前に実施したアンケート結果などを考慮して学習者情報13を設定し、シミュレーション装置1に入力する。
【0032】
図4は、学習者情報13を説明する説明図である。
図4に示すように、学習者情報13には、学習者を示す学習者IDとともに、知識獲得率、興味(A)、関連性(R)、自信(C)、満足度(S)のパラメータの初期値が記述されている。なお、学習者情報13に示されたパラメータについては、所定の幅を持たせてもよい。例えば、[0.7,1.0]の場合は、0.7〜1.0の間の任意の値としてもよい。
【0033】
シミュレーション管理部30は、入力情報格納部20に格納された入力情報(授業計画11、学習者集団情報12および学習者情報13)に基づいて学習者行動実行部50において行われる、仮想的な教室における学習者エージェントの学習行動をシミュレーションする処理を管理する。具体的には、シミュレーション管理部30は、入力情報格納部20に格納された入力情報と、学習意欲・知識量情報格納部70に格納された学習者エージェントの行動をイベントごとにシミュレーションをした結果(学習者エージェントが有するパラメータと知識量)とを読み出して学習者行動実行部50へ出力する。
【0034】
また、シミュレーション管理部30は、学習者エージェントごとのパラメータを増減する処理を行う。具体的には、シミュレーション管理部30は、各イベントにおいて、学習者エージェントごとに、学習者エージェントの知識量およびイベントで相互作用する他の学習者エージェントの知識量に応じて自信(C)のパラメータを変化させる。また、シミュレーション管理部30は、各イベントにおいて、学習者エージェントごとに、学習者エージェントが知識量を増加した場合に満足度(S)のパラメータを増加させる。また、シミュレーション管理部30は、各イベントにおいて設定された興味(A)および関連性(R)のパラメータの増減量を授業計画11より参照し、設定された増減量に従ってA、Rのパラメータを変化させる。これにより、学習者行動実行部50では、シミュレーション管理部30により増減された学習者エージェントごとのパラメータ(A、R、C、S)をもとに、学習者エージェントの学習行動をシミュレーションすることとなる。
【0035】
また、シミュレーション管理部30は、学習者行動実行部50が学習者エージェントの学習行動を逐次シミュレーションした結果(学習者エージェントの知識量)や、増減された学習者エージェントごとのパラメータ(A、R、C、S)をシミュレーション結果出力部60へ出力する。
【0036】
授業計画変更部40は、例えばマウスやキーボードなどの入力装置においてユーザより受け付けた操作指示をもとに、入力情報格納部20に格納された授業計画11、学習者集団情報12または学習者情報13の変更を行う。これにより、ユーザは、授業計画11、学習者集団情報12または学習者情報13を適宜変更することができる。
【0037】
学習者行動実行部50は、入力情報(授業計画11、学習者集団情報12および学習者情報13)と、シミュレーション管理部30により増減された学習者エージェントごとのパラメータ(A、R、C、S)を条件として、各イベントにおける学習者エージェントの学習行動をシミュレーションする。
【0038】
具体的には、学習者行動実行部50は、入力情報をもとにした仮想的な教室内の各イベントにおいて、学習者エージェントごとに、パラメータ(A、R、C、S)に基づいて学習確率のパラメータ(pLearning)を算出する。次いで、学習者行動実行部50は、算出した学習確率のパラメータ(pLearning)をもとに、各学習者エージェントの学習行動の有無を判定する。次いで、学習者行動実行部50は、学習行動ありの場合、各イベントにおいて設定された知識増加量と、学習者に設定された知識獲得率とをもとに、イベントの学習行動で学習者エージェントが獲得する知識獲得量を求める。これにより、各学習者エージェントの知識量は、学習行動で獲得する知識獲得量に応じて増量することとなる。
【0039】
シミュレーション結果出力部60は、学習者エージェントの学習行動をシミュレーションした結果(学習者エージェントの知識量および学習者エージェントが有するパラメータ(A、R、C、S))を学習意欲・知識量情報格納部70へ格納する。また、シミュレーション結果出力部60は、学習意欲・知識量情報格納部70に格納されたシミュレーション結果を表示装置への表示や印刷装置への印字により出力する。
【0040】
このシミュレーション結果の出力は、イベントごとに逐次シミュレーションした結果を逐次出力してもよい。また、シミュレーション結果の出力では、授業計画11の講義ごとに、講義に含まれるイベントのシミュレーション結果を集計し、講義ごとの集計結果を出力してもよい。また、シミュレーション結果の出力では、授業計画11の全ての講義に含まれるイベントのシミュレーション結果を集計し、授業計画11の集計結果を出力してもよい。
【0041】
学習意欲・知識量情報格納部70は、学習者エージェントの情報(知識量およびA、R、C、Sのパラメータ)等のシミュレーション結果をRAM、HDD等の記憶装置に格納する。
【0042】
次に、シミュレーション装置1の動作の詳細について説明する。
図5は、実施形態にかかるシミュレーション装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0043】
図5に示すように、処理が開始されると、入力部10は、授業計画11、学習者エージェントの学習者集団情報12および学習者情報13の入力を受け付けて入力情報格納部20へ格納する(S1)。次いで、シミュレーション管理部30は、入力された学習者集団情報12および学習者情報13をもとに、仮想的な教室内に学習者エージェントを配置する空間生成および各学習者エージェントの初期値を設定する学習者エージェントの生成を行う(S2)。
【0044】
次いで、シミュレーション管理部30は、授業計画11のイベント順に処理を進めるためのステップ番号(STEP)を、STEP=1として初期値に設定する(S3)。
【0045】
次いで、シミュレーション管理部30は、ステップ番号が学習者の配置を変更する間隔(n)の倍数であるか否かを判定する(S4)。nの倍数でない場合(S4:NO)、シミュレーション管理部30は、STEP番号のイベントにおいて学習者の配置を変更することがないことから、S5の処理をスキップする。
【0046】
nの倍数である場合(S4:YES)、シミュレーション管理部30は、STEP番号のイベントにおいて仮想的な教室内に配置された学習者エージェントの配置変更を行う(S5)。この配置変更は、例えば、シミュレーション管理部30が学習者集団情報12における学習者エージェントの配置を任意に組み替えて実施してもよい。また、入力部10より学習者エージェントの再配置にかかるユーザの入力を受け付けて配置変更を行ってもよい。
【0047】
図6は、学習者エージェントの配置変更を説明する説明図である。
図6に示すように、当初の学習者配置21aでは、ノード番号が1の学習者エージェントは、ノード番号が2、6、7、8の学習者エージェントと同じグループに属している。そして、配置変更後の学習者配置21bでは、ノード番号が1の学習者エージェントは、ノード番号が4、10、23、29の学習者エージェントと同じグループに所属が変更されている。このように、授業シミュレーションでは、授業計画11の途中で学習者エージェントの配置を変更してもよい。
【0048】
S5に次いで、シミュレーション管理部30は、STEP番号のイベントを授業計画11より読み出し、読み出したイベントを学習者行動実行部50に出力(教授)する(S6)。例えば、最初のSTEP番号(STEP=1)では、イベントIDが1である「ガイダンス」の属性値が読み出されて、学習者行動実行部50に出力される。そして、次のステップ番号(STEP=2)では、イベントIDが2である「文法講義」の属性値が読み出されて、学習者行動実行部50に出力される。
【0049】
次いで、シミュレーション管理部30は、学習者エージェントごとに、学習者エージェントの学習意欲にかかるパラメータ(A、R、C、S)を変化する処理を行う(S7)。具体的には、シミュレーション管理部30は、最初のSTEP番号(STEP=1)では、学習者情報13における学習者エージェントの初期値(
図4参照)を読み出し、学習意欲にかかるパラメータ(A、R、C、S)を変化する処理を行う。また、最初のSTEP番号以外(STEP≠1)では、学習意欲・知識量情報格納部70に格納された学習者エージェントの学習意欲にかかるパラメータ(A、R、C、S)および知識量を読み出し、パラメータ(A、R、C、S)を変化する処理を行う。シミュレーション管理部30は、処理後の学習者エージェントのパラメータ(A、R、C、S)を学習者行動実行部50に出力する。
【0050】
このパラメータ(A、R、C、S)を変化する処理において、シミュレーション管理部30は、興味(A)および関連性(R)のパラメータについては、授業計画11のSTEP番号のイベントにおいて設定された増減量をもとに、A、Rのパラメータを変化させる。例えば、STEP番号のイベントにおける興味(A)の増減量をevent2Attention
eventとする場合は、A=A+event2Attention
eventとしてAを求める。同様に、STEP番号のイベントにおける関連性(R)の増減量をevent2Relation
eventとする場合は、R=R+event2Relation
eventとしてRを求める。
【0051】
また、シミュレーション管理部30は、自信(C)のパラメータについては、学習者エージェントの知識量およびイベントで相互作用する他の学習者エージェントの知識量に応じて自信(C)のパラメータを変化させる。
【0052】
具体的には、相互作用のないイベント(相互作用=「False」のイベント)では、シミュレーション管理部30は、学習者エージェントの知識量と、授業ごとに予め設定されている基準レベルとを比較する。そして、学習者エージェントの知識量が基準レベルを上回る場合は、STEP番号のイベントに設定された自信(C)の増加量(
図2参照)をCのパラメータに加える。逆に、学習者エージェントの知識量が基準レベルを上回らない場合は、STEP番号のイベントに設定された自信(C)の減少量(
図2参照)をCのパラメータより差し引く。
【0053】
また、相互作用のあるイベント(相互作用=「True」のイベント)では、シミュレーション管理部30は、学習者エージェントの知識量と、学習者集団情報12で示された相互作用のある学習者エージェントの平均の知識量とを比較する。そして、学習者エージェントの知識量が平均の知識量を上回る場合は、STEP番号のイベントに設定された自信(C)の増加量(
図2参照)をCのパラメータに加える。逆に、学習者エージェントの知識量が平均の知識量を上回らない場合は、STEP番号のイベントに設定された自信(C)の減少量(
図2参照)をCのパラメータより差し引く。
【0054】
例えば、STEP番号のイベントにおける自信(C)の増加量をKnowledge2C
eventとする。シミュレーション管理部30は、学習者エージェントの知識量が基準レベルまたは平均の知識量を上回る場合は、C=C+Knowledge2C
eventとしてCを求める。また、シミュレーション管理部30は、学習者エージェントの知識量が基準レベルまたは平均の知識量を上回らない場合は、C=C−Knowledge2C
eventとしてCを求める。
【0055】
図7は、学習意欲パラメータの変化を説明する説明図である。
図7の斜線部分は、STEP番号のイベント時(例えば、処理の対象となる授業の単元)における学習者エージェントの知識量31を示している。基準レベル32aは、単元において設定された知識量の基準レベルである。平均値32bは、学習者集団情報12で示された相互作用のある学習者エージェントの知識量の平均値である。例えば、
図3に例示したノード番号が1の学習者エージェントにおいては、ノード番号が2、6、7、8の学習者エージェントの知識量をもとに、平均値32bが算出される。
【0056】
図7に示すように、学習者エージェントの知識量31は、基準レベル32aを下回っている。したがって、STEP番号のイベントが相互作用のないイベント(例えば文法講義など)である場合、シミュレーション管理部30は、C=C−Knowledge2C
eventとして自信(C)の値を求める。
【0057】
また、学習者エージェントの知識量31は、平均値32bを上回っている。したがって、STEP番号のイベントが相互作用のあるイベント(例えばグループディスカッションなど)である場合、シミュレーション管理部30は、C=C+Knowledge2C
eventとして自信(C)の値を求める。
【0058】
S7に次いで、学習者行動実行部50は、STEP番号のイベントについて、学習者エージェントごとに、シミュレーション管理部30からのパラメータ(A、R、C、S)に基づいて学習確率のパラメータ(pLearning)を算出し、学習者エージェントごとの学習行動を決定する。次いで、学習者行動実行部50は、決定した学習行動に従って学習者エージェントの知識パラメータ(知識量)を変化させる(S8)。
【0059】
学習確率のパラメータ(pLearning)は、学習意欲と学習成果との関係を示したYerkes & Dodsonの法則における次の式(1)をもとに算出する。なお、添字のiは、ステップ番号のイベントに対応する数値である。
【0061】
式(1)に示すように、学習者行動実行部50は、興味(A)、関連性(R)、自信(C)、満足度(S)の値から学習確率(pLearning)を計算する。
【0062】
図8は、A、R、C、Sの値に対する学習意欲を説明する説明図である。
図8に示すように、Yerkes & Dodsonの法則においては、学習意欲の要素が極端に高くなる場合や、逆に、極端に低くなる場合に学習意欲(TM)のグラフ33が最適(極大値)となるものではない。
【0063】
学習者行動実行部50は、学習確率(pLearning)で、ベルヌイ試行により学習行動(1または0)を決定する。なお、学習行動を1とする場合は、イベントにおいて学習者エージェントが学習を行ったものとする。また、学習行動を0とする場合は、イベントにおいて学習者エージェントが学習を行わなかったものとする。
【0064】
学習者行動実行部50は、学習行動を行うものと決定した場合、ステップ番号のイベント時の学習者エージェントの知識量を、授業計画11に設定されたイベントの知識増加量と、学習者情報13に設定された学習者エージェントの知識獲得率とをもとに増加させる。具体的には、学習者行動実行部50は、Knowledge[chapter]
i=Knowledge[chapter]
i+progress
event×知識獲得率
iとして学習者エージェントの知識量Knowledge[chapter]
iを変化させる。なお、progress
eventはイベントにおける知識増加量である。
【0065】
学習者行動実行部50は、学習者エージェントの知識パラメータ(知識量)を変化させた結果を、学習行動の結果としてシミュレーション管理部30へ出力する。シミュレーション管理部30では、学習者エージェントの学習行動の結果をもとに、学習者エージェントの満足度(S)のパラメータを増加させる。具体的には、シミュレーション管理部30は、ステップ番号のイベントにおいて学習者エージェントが学習行動を行った場合(ベルヌイ試行における学習行動が1の場合)、満足度(S)のパラメータを増加させる。例えば、イベント時の満足度をS
iとすると、S
i=S
i+event2Satisfaction
eventとして学習者エージェントの満足度を増加させる。なお、event2Satisfaction
eventは、授業計画11においてイベントごとに設定された満足度の増加量である。
【0066】
次いで、シミュレーション管理部30は、ステップ番号のイベントにおいて算出した学習者エージェントごとの学習行動の有無、知識量および学習意欲パラメータ値(A、R、C、S)を学習意欲・知識量情報格納部70に格納する。シミュレーション結果出力部60では、学習意欲・知識量情報格納部70に格納された学習者エージェントごとの学習行動の有無、知識量および学習意欲パラメータ値(A、R、C、S)を読み出し、表示装置などに表示して出力する(S9)。
【0067】
図9は、学習者エージェントの学習行動およびパラメータ値の表示例を説明する説明図である。
図9に示すように、シミュレーション結果出力部60は、ステップ番号のイベントにおいて算出した学習者エージェントごとの学習行動の有無を学習意欲・知識量情報格納部70より読み出し、学習行動表示61として表示画面Gに表示する。この時、シミュレーション結果出力部60は、学習者集団情報12をもとに、仮想的な教室に学習者エージェントを配置した俯瞰図において、学習者エージェントごとの学習行動の有無を表示してもよい。これにより、ユーザは、教室を俯瞰した状態で教室内における学習者エージェントの学習行動の有無を確認することができる。
【0068】
また、シミュレーション結果出力部60は、所定の学習者エージェントのパラメータ(知識量および学習意欲)を学習意欲・知識量情報格納部70より読み出し、パラメータ表示62として表示画面Gに表示してもよい。これにより、ユーザは、学習者エージェントのパラメータの詳細を確認することができる。
【0069】
S9に次いで、シミュレーション管理部30は、終了のステップ数(授業計画11における最終のイベントIDの数)に達したか否かを判定する(S10)。終了のステップ数に達していない場合(S10:NO)、シミュレーション管理部30は、次のイベントの処理を行うべくステップ数をインクリメントし(S11)、S4へ処理を戻す。
【0070】
終了のステップ数に達した場合(S10:YES)、授業計画11に設定された全てのイベントのシミュレーションが実施されたことから、シミュレーション結果出力部60は、全てのイベントにわたり学習意欲・知識量情報格納部70に格納された情報を集計し、授業計画11のシミュレーション結果を出力する(S12)。
【0071】
例えば、集計には、学習者エージェント全体の知識量および学習意欲パラメータ(A、R、C、S)の推移、終了時の平均の知識量および学習意欲パラメータ(A、R、C、S)などがある。また、学習者エージェントごとの知識量および学習意欲パラメータ(A、R、C、S)の推移、終了時の知識量および学習意欲パラメータ(A、R、C、S)がある。また、知識獲得率の高いグループおよび知識獲得率の低いグループなど、所定の条件でグループ分けを行ったグループ単位で学習者エージェントの知識量および学習意欲パラメータ(A、R、C、S)を集計してもよい。また、複数の授業計画11についてシミュレーションを実施した場合には、授業計画11ごとの集計結果を出力してもよい。
【0072】
図10−1、10−2は、シミュレーション結果の表示例を説明する説明図である。
図10−1に示すように、シミュレーション結果出力部60は、計画A、計画B、計画Cなどの授業計画11ごとの集計結果、所定の条件でグループ分けを行った学習者エージェントのタイプごとの集計結果を棒グラフで表示画面Gに出力してもよい。また、
図10−2に示すように、シミュレーション結果出力部60は、学習者エージェントごとの知識量および学習意欲パラメータ(A、R、C、S)の推移を折れ線グラフで表示画面Gに出力してもよい。これにより、ユーザは、実際に授業を行う場合を想定した授業計画11をもとに、授業計画11に含まれる全てのイベントをシミュレーションした結果を容易に把握することができる。
【0073】
また、ユーザは、学習者集団情報12における学習者エージェントのグループ(互いに相互作用を及ぼす学習者エージェントの組み合わせ)分けを代えてシミュレーションを実施してもよい。
【0074】
図11は、学習者のペアリングを説明する説明図である。
図11に示すように、ユーザは、学習者エージェントのグループ分けについて、ケースC1、C2のシナリオを設定する。ケースC1は、学習意欲(モチベーション)のパラメータ(A、R、C、S)の高低により、モチベーションの高いグループ、並のグループ、低いグループとし、同タイプのモチベーションでグループ分けを行う。ケースC2は、モチベーションの異なる学習者を組み合わせたグループ分けを行う。
【0075】
図12は、分析結果を説明する説明図である。具体的には、
図12は、同タイプのケースC1を想定した学習者集団情報12と、異なるタイプのケースC2を想定した学習者集団情報12とを設定し、モチベーション高を多めとする場合、モチベーション並を多めとする場合、モチベーション低を多めとする場合のシミュレーション結果を並べたものである。
【0076】
図12に示すように、モチベーション高を多めとする場合、モチベーション並を多めとする場合およびモチベーション低を多めとする場合のいずれの状況においても、同タイプでグルーピングした方がモチベーションの平均が高いことがわかる。したがって、ユーザは、モチベーションが同タイプとなる学習者の組み合わせでグループ分けをすることが、学習者のモチベーションを高めるのに効果的であることを把握することができる。
【0077】
以上のように、シミュレーション装置1では、授業計画11で設定された各イベントにおいて、自信パラメータ(C)および満足度パラメータ(S)をそれぞれ有する複数の学習者の学習者エージェントを学習者集団情報12をもとに配置する。また、シミュレーション装置1は、各イベントにおいて、学習者エージェントごとに、自信のパラメータ(C)および満足度パラメータ(S)に基づき算出される学習確率パラメータ(pLearning)に基づき、知識量を増加させる学習行動を実行させる。また、シミュレーション装置1は、各イベントにおいて、学習者エージェントごとに、学習者エージェントの知識量およびイベントで相互作用する他の学習者エージェントの知識量に応じて自信パラメータ(C)を変化させる。また、シミュレーション装置1は、各イベントにおいて、学習者エージェントごとに、学習者エージェントが知識量を増加した場合に満足度パラメータ(S)を増加させる。これにより、シミュレーション装置1では、シミュレーション結果における学習者の知識獲得の再現性を向上することができる。
【0078】
シミュレーション装置1で行われる各種処理機能は、CPU(またはMPU、MCU(Micro Controller Unit)等のマイクロ・コンピュータ)上で、その全部または任意の一部を実行するようにしてもよい。また、各種処理機能は、CPU(またはMPU、MCU等のマイクロ・コンピュータ)で解析実行されるプログラム上、またはワイヤードロジックによるハードウエア上で、その全部または任意の一部を実行するようにしてもよいことは言うまでもない。
【0079】
ところで、上記の実施形態で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをコンピュータで実行することで実現できる。そこで、以下では、上記の実施形態と同様の機能を有するプログラムを実行するコンピュータ(ハードウエア)の一例を説明する。
図13は、実施形態にかかるシミュレーション装置1のハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【0080】
図13に示すように、シミュレーション装置1は、各種演算処理を実行するCPU101と、データ入力を受け付ける入力装置102と、モニタ103と、スピーカ104とを有する。また、シミュレーション装置1は、記憶媒体からプログラム等を読み取る媒体読取装置105と、各種装置と接続するためのインタフェース装置106と、有線または無線により外部機器と通信接続するための通信装置107とを有する。また、シミュレーション装置1は、各種情報を一時記憶するRAM108と、ハードディスク装置109とを有する。また、シミュレーション装置1内の各部(101〜109)は、バス110に接続される。
【0081】
ハードディスク装置109には、上記の実施形態で説明した各種の処理を実行するためのプログラム111が記憶される。また、ハードディスク装置109には、プログラム111が参照する各種データ112が記憶される。入力装置102は、例えば、シミュレーション装置1の操作者から操作情報の入力を受け付ける。モニタ103は、例えば、操作者が操作する各種画面を表示する。インタフェース装置106は、例えば印刷装置等が接続される。通信装置107は、LAN(Local Area Network)等の通信ネットワークと接続され、通信ネットワークを介した外部機器との間で各種情報をやりとりする。
【0082】
CPU101は、ハードディスク装置109に記憶されたプログラム111を読み出して、RAM108に展開して実行することで、各種の処理を行う。なお、プログラム111は、ハードディスク装置109に記憶されていなくてもよい。例えば、シミュレーション装置1が読み取り可能な記憶媒体に記憶されたプログラム111を、シミュレーション装置1が読み出して実行するようにしてもよい。シミュレーション装置1が読み取り可能な記憶媒体は、例えば、CD−ROMやDVDディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬型記録媒体、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、ハードディスクドライブ等が対応する。また、公衆回線、インターネット、LAN等に接続された装置にこのプログラム111を記憶させておき、シミュレーション装置1がこれらからプログラム111を読み出して実行するようにしてもよい。