(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6611151
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】積層造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/153 20170101AFI20191118BHJP
B29C 64/371 20170101ALI20191118BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20191118BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20191118BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20191118BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20191118BHJP
【FI】
B29C64/153
B29C64/371
B29C64/393
B22F3/16
B22F3/105
B33Y30/00
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-120638(P2019-120638)
(22)【出願日】2019年6月28日
【審査請求日】2019年9月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】村中 勝隆
【審査官】
一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2019−090090(JP,A)
【文献】
特開2017−060917(JP,A)
【文献】
特開2017−048408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B22F 3/105
B22F 3/16
B33Y 10/00−99/00
B03C 3/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形領域を覆うチャンバと、
前記造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、
前記チャンバへ不活性ガスを供給する少なくとも1つの供給口と、
前記チャンバから前記不活性ガスを排出する少なくとも1つの排出口と、
前記供給口と接続され前記チャンバに前記不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、
前記排出口と接続され前記チャンバから排出された前記不活性ガスが供給される吸込口と、前記吸込口から送られた前記不活性ガスに含まれるヒュームをプラスまたはマイナスに荷電させる荷電極を有する荷電部と、荷電させた前記ヒュームを捕集する集塵部と、前記供給口と接続され前記ヒュームが除去された前記不活性ガスを前記チャンバに返送する返送口と、を含むヒュームコレクタと、
前記排出口と前記荷電部の間に接続され、前記排出口から排出される前記不活性ガスに含まれる酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する調整ガスを前記ヒュームコレクタに供給する酸素濃度調整装置と、を備える、積層造形装置。
【請求項2】
前記不活性ガスは、窒素である、請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記調整ガスは、前記不活性ガスと酸素を含む酸素含有気体との混合ガスである、請求項1または請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記酸素含有気体は、空気である、請求項3に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記酸素濃度調整装置は、
前記不活性ガス供給装置と接続された第1の流量制御弁と、
前記酸素含有気体を供給する酸素含有気体源と接続された第2の流量制御弁と、
前記第1の流量制御弁、前記第2の流量制御弁および前記ヒュームコレクタに接続され、前記不活性ガスおよび前記酸素含有気体を混合して生成した前記調整ガスを前記ヒュームコレクタに供給する継手と、を含む、請求項3または請求項4のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項6】
前記調整ガスの酸素濃度は、前記ヒュームが着火する限界酸素濃度よりも低い、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項7】
前記ヒュームコレクタと接続される酸素濃度計をさらに備える、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項8】
前記酸素濃度計は前記チャンバとも接続される、請求項7に記載の積層造形装置。
【請求項9】
前記酸素濃度計で検出された酸素濃度が所定の閾値以上であるとき、前記荷電極への電圧印加を停止させる、請求項7または請求項8の積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の積層造形装置においては、所定の造形領域に金属材料からなる材料層を形成することと、当該材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成することを繰り返し、所定数の固化層を積層して所望の三次元造形物を形成する。
【0003】
このような積層造形装置においては、金属材料の変質を防止し適切な造形を行うため、造形領域は密閉されたチャンバで覆われ、チャンバ内に所定濃度の不活性ガスが充満された上で造形が行われる。
【0004】
一方、材料層にレーザ光または電子ビームを照射して、材料層を焼結または溶融させて固化層を形成する際、ヒュームとよばれる金属蒸気が発生する。以下、焼結および溶融を含んで固化という。ヒュームがチャンバ内に存在すると、ヒュームがレーザ光または電子ビームを遮蔽したり、チャンバの上面に設けられるウインドウ等の光学部品にヒュームが付着したりするなどして、造形品質の低下を引き起こす可能性がある。
【0005】
そのため、従来の積層造形装置においては、チャンバに不活性ガスを供給するとともに、チャンバ内のヒュームを含む不活性ガスを排出して、チャンバ内を清浄な不活性ガス雰囲気に維持している。また、排出した不活性ガスを再利用するため、チャンバから排出された不活性ガスはヒュームコレクタへと送られ、ヒュームが除去された上でチャンバに返送されることが望ましい。
【0006】
ヒュームコレクタとしては、例えば電気集塵機が用いられる。電気集塵機であるヒュームコレクタは、特許文献1に開示されるように、コロナ放電によってヒュームをプラスまたはマイナスに荷電させ、荷電したヒュームをクーロン力によって捕集する。このようなヒュームコレクタにより、不活性ガス内のヒュームが除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6095147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属材料の変質を防ぐという観点によれば、チャンバ内の酸素濃度は極力低い方がよい。そのため、従来の積層造形装置においてはチャンバの気密性を上げる等して、よりチャンバ内の酸素濃度が低くなるように構成されていた。しかしながら、酸素濃度が極端に低い雰囲気下では、電気集塵機であるヒュームコレクタにおいてコロナ放電の発生が不安定となり、正常にヒュームの除去が行えなかったり、エラー停止したりすることが分かった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、チャンバ内を造形に適する低酸素濃度の不活性ガス雰囲気に保つとともに、ヒュームコレクタ内をコロナ放電が適正に行える程度の酸素濃度に調整する積層造形装置を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、造形領域を覆うチャンバと、造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、チャンバへ不活性ガスを供給する少なくとも1つの供給口と、チャンバから不活性ガスを排出する少なくとも1つの排出口と、供給口と接続されチャンバに不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、排出口と接続されチャンバから排出された不活性ガスが供給される吸込口と、吸込口から送られた不活性ガスに含まれるヒュームをプラスまたはマイナスに荷電させる荷電極を有する荷電部と、荷電させたヒュームを捕集する集塵部と、供給口と接続されヒュームが除去された不活性ガスをチャンバに返送する返送口と、を含むヒュームコレクタと、排出口と荷電部の間に接続され、排出口から排出される不活性ガスに含まれる酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する調整ガスをヒュームコレクタに供給する酸素濃度調整装置と、を備える、積層造形装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る積層造形装置は、不活性ガス供給装置によってチャンバ内に不活性ガスを供給するとともに、電気集塵機であるヒュームコレクタの上流側から、チャンバから排出される不活性ガスに含まれる酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する調整ガスを供給するように構成される。このようにして、チャンバ内が低酸素濃度の不活性ガス雰囲気に保たれる一方で、ヒュームコレクタ内の酸素濃度が電気集塵に適した濃度に調整される。ひいては、高精度の三次元造形物の造形に適した環境に積層造形装置が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の積層造形装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の積層造形装置は、チャンバ11と、材料層形成装置3と、照射装置4と、汚染防止装置5と、不活性ガス給排機構と、を備える。
【0015】
チャンバ11は、不活性ガスの給排経路を除いて実質的に密閉されるように構成され、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域Rを覆う。
【0016】
材料層形成装置3が、チャンバ11内に設けられる。材料層形成装置3は、造形領域Rを有するベース台31と、ベース台31上に配置され水平1軸方向に移動可能に構成されたリコータヘッド33と、を含む。リコータヘッド33の両側面にはそれぞれブレードが設けられる。リコータヘッド33は、不図示の材料供給装置から材料粉体が供給され、内部に収容した材料粉体を底面から排出しながら水平1軸方向に往復移動する。このとき、ブレードは排出された材料粉体を平坦化して材料層23を形成する。造形領域Rには、造形テーブル駆動装置37により鉛直方向に移動可能な造形テーブル35が設けられる。積層造形装置の使用時には、造形テーブル35上にベースプレート21が配置され、ベースプレート21上に材料層23が形成される。
【0017】
照射装置4が、チャンバ11の上方に設けられる。本実施形態の照射装置4は、造形領域R上に形成される材料層23の所定箇所にレーザ光Lを照射して、照射位置の材料粉体を焼結または溶融して固化層25を形成する。
図2に示すように、照射装置4は、光源41と、コリメータ43と、フォーカス制御ユニット45と、ガルバノスキャナと、を含む。ガルバノスキャナは、X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49と、X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49を回転させるアクチュエータと、を有する。
【0018】
光源41はレーザ光Lを生成する。ここで、レーザ光Lは、材料層23を可能なものであればその種類は限定されず、例えば、CO
2レーザ、ファイバレーザまたはYAGレーザである。コリメータ43は、光源41より出力されたレーザ光Lを平行光に変換する。フォーカス制御ユニット45は、光源41より出力されたレーザ光Lを集光し所望のスポット径に調整する。2軸のガルバノスキャナは、光源41より出力されたレーザ光Lを2次元走査する。具体的に、X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49は、不図示の制御装置から入力される回転角度制御信号の大きさに応じて回転角度が制御され、それぞれX軸方向およびY軸方向にレーザ光Lを走査させる。
【0019】
X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49を通過したレーザ光Lは、チャンバ11の上面に設けられたウインドウ12を透過して造形領域Rに形成された材料層23に照射される。ウインドウ12は、レーザ光Lを透過可能な材料で形成される。例えば、レーザ光LがファイバレーザまたはYAGレーザの場合、ウインドウ12は石英ガラスで構成可能である。
【0020】
なお、照射装置4は、例えば電子ビームを照射して材料層23を固化させて固化層25を形成するものであってもよい。例えば、照射装置4は、電子を放出するカソード電極と、電子を収束して加速するアノード電極と、磁場を形成して電子ビームの方向を一方向に収束するソレノイドと、被照射体である材料層23と電気的に接続されカソード電極との間に電圧を印加するコレクタ電極と、を含むよう構成されてもよい。
【0021】
以上に説明した材料層形成装置3および照射装置4により、所望の三次元造形物が造形される。まず、ベースプレート21を載置した状態で造形テーブル35の高さを適切な位置に調整する。次にリコータヘッド33を造形領域Rの
図1における左側から右側に移動させ、ベースプレート21上に1層目の材料層23を形成する。次に、1層目の材料層23の所定位置にレーザ光Lを照射し、1層目の固化層25を形成する。同様に、造形テーブル35の高さを材料層23の1層分下げ、リコータヘッド33を造形領域Rの
図1における右側から左側に移動させることによって、1層目の固化層25上に2層目の材料層23を形成する。次に、2層目の材料層23の所定位置にレーザ光Lを照射して2層目の固化層25を形成する。1層目の固化層25と2層目の固化層25は、互いに固着される。以上の工程を繰り返すことによって、3層目以降の固化層25が順次形成される。このようにして、材料層23と固化層25の形成が繰り返され、所望の三次元造形物が造形される。
【0022】
チャンバ11の上面には、ウインドウ12を覆うように汚染防止装置5が設けられる。
図3に示すように、汚染防止装置5は、円筒状の筺体51と、筺体51内に配置された円筒状の拡散部材52を備える。筺体51と拡散部材52の間に不活性ガス供給空間53が設けられる。また、筺体51の底面には、拡散部材52の内側に開口部54が設けられる。拡散部材52には多数の細孔55が設けられており、不活性ガス供給空間53に供給された清浄な不活性ガスは細孔55を通じて清浄室56に充満される。そして、清浄室56に充満された清浄な不活性ガスは、開口部54を通じて汚染防止装置5の下方に向かって噴出される。汚染防止装置5は、ウインドウ12が固化層25の形成時に発生するヒュームによって汚染されることを防止するとともに、レーザ光Lの照射経路を横断しようとするヒュームを照射経路から排除することを助ける。
【0023】
ここで、本実施形態の不活性ガス給排機構が説明される。不活性ガス給排機構は、チャンバ11内に所定濃度の不活性ガスを充満させるとともに、チャンバ11からヒュームを含んだ不活性ガスを排出し、排出された不活性ガスからヒュームの大部分を除去した上でチャンバ11内に返送する。不活性ガス給排機構は、不活性ガス供給装置6と、ヒュームコレクタ7と、酸素濃度調整装置8と、排気装置9と、を備える。
【0024】
チャンバ11には、不活性ガス供給装置6から供給される不活性ガスおよびヒュームコレクタ7から返送される不活性ガスの供給口が、1つ以上設けられる。本実施形態では、供給口として、第1の供給口14および第2の供給口15が設けられる。第1の供給口14は、チャンバ11の壁面に設けられ、不活性ガス供給装置6およびヒュームコレクタ7と接続される。第1の供給口14を介して、不活性ガス供給装置6から所定濃度の不活性ガスがチャンバ11に供給される。また、第1の供給口14を介して、ヒュームコレクタ7によってヒュームの大部分が除去された不活性ガスがチャンバ11に返送される。第2の供給口15は、チャンバ11の上面に設けられ、不活性ガス供給装置6と接続される。第2の供給口15を介して、汚染防止装置5の不活性ガス供給空間53へと、不活性ガスが供給される。ウインドウ12にヒュームが付着するのを防止するため、第2の供給口15には、不活性ガス供給装置6のみ接続されることが望ましい。
【0025】
また、チャンバ11には、チャンバ11からヒュームを含んだ不活性ガスをヒュームコレクタ7へと排出する排出口が、1つ以上設けられる。本実施形態では、排出口として、排出口16が設けられる。排出口16を介して、ヒュームを含む不活性ガスがヒュームコレクタ7へと排出される。
【0026】
供給口および排出口の個数や位置は、上述の実施形態に限定されない。供給口および排出口は、例えば、チャンバ11の壁面や上面、またはリコータヘッド33等のチャンバ11内の構成部材の任意の位置に任意の個数設けられてよい。また、不活性ガス供給装置6と接続される供給口と、ヒュームコレクタ7と接続される供給口は、別個に設けられてもよい。
【0027】
不活性ガス供給装置6は、所定濃度の不活性ガスをチャンバ11に供給する。不活性ガス供給装置6は、具体的に、周囲の空気から不活性ガスを取り出す不活性ガス発生装置、または不活性ガスが貯留されたガスボンベである。不活性ガス供給装置6から供給される不活性ガスは、極力高純度のものであることが望ましく、換言すれば、不活性ガス供給装置6から供給される不活性ガス中の酸素濃度は、好ましくは約0%である。本実施形態では、不活性ガス供給装置6として、約99.99%の濃度の窒素ガスを生成可能に構成された、PSA式の窒素発生装置が使用される。なお、不活性ガスとは、金属材料でなる材料層23、金属材料が固化してなる固化層25、および酸素を含む他の気体と実質的に反応しないガスをいい、例えば窒素である。
【0028】
ヒュームコレクタ7は、電気集塵機であり、チャンバ11から排出された不活性ガスからヒュームの大部分を除去した上で、チャンバ11に返送する。
図4に示すように、ヒュームコレクタ7は、吸込口71と、荷電部73と、集塵部75と、返送口77と、を含む。吸込口71は、排出口16と接続され、チャンバ11から排出された不活性ガスを荷電部73に供給する。荷電部73は、吸込口71から送られた不活性ガスに含まれるヒュームをプラスまたはマイナスに荷電させる。集塵部75は、荷電させたヒュームを捕集する。返送口77は、第1の供給口14と接続され、ヒュームの大部分が除去された不活性ガスをチャンバ11に返送する。本実施形態のヒュームコレクタ7は、荷電部73と集塵部75とが一体に形成された一段式の電気集塵機である。すなわち、荷電部73および集塵部75は、所定の間隔毎に設けられた複数の荷電板731と、荷電板731に取り付けられた針形状の荷電極733と、荷電板731の間に設けられた集塵板751と、を有する。荷電板731および荷電極733は不図示の電圧供給手段により高圧電圧が印加され、コロナ放電によりヒュームをプラスまたはマイナスに荷電させる。集塵板751はアース接続され、荷電されたヒュームはクーロン力によって集塵板751に捕集される。なお、本実施形態のヒュームコレクタ7は、前述のように一段式の電気集塵機であるが、荷電部73と集塵部75とが別体として構成された二段式の電気集塵機であってもよい。
【0029】
酸素濃度調整装置8は、排出口16から排出される不活性ガスに含まれる酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する調整ガスをヒュームコレクタ7に供給する。すなわち、調整ガスの酸素濃度は、不活性ガス供給装置6が供給する不活性ガス中の酸素濃度よりも高い。酸素濃度調整装置8は、ヒュームコレクタ7の上流側、すなわち、排出口16と荷電部73との間に接続されればよく、具体的に、排出口16と吸込口71とを接続する配管に接続されてもよいし、ヒュームコレクタ7の荷電部73より上流側に接続されてもよい。前述の通り、ヒュームコレクタ7内の酸素濃度が所定の値を下回ると、荷電部73のコロナ放電の発生が不安定となる。例えば、本実施形態のヒュームコレクタ7では、酸素濃度が約0.6vol%未満のとき、コロナ放電の発生が不安定となる。そこで、コロナ放電の発生が不安定となる酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する調整ガスをヒュームコレクタ7の上流側から供給することで、コロナ放電の発生を安定させることができる。また、酸素濃度調整装置8を設けない場合と比べてチャンバ11内の酸素濃度はわずかに上昇するが、ヒュームコレクタ7に直接調整ガスを供給するので、チャンバ11内の酸素濃度の上昇は造形に支障が出ない範囲に抑えられる。例えば、本実施形態においては、酸素濃度が約7.0vol%の調整ガスをヒュームコレクタ7の上流側から供給し、ヒュームコレクタ7内の酸素濃度を約0.6vol%以上に調整する。このとき、チャンバ11内の酸素濃度は、例えば、約0.7vol%以下となり、好ましくは約0.6vol%以下となる。
【0030】
調整ガスは、不活性ガス供給装置6から供給される不活性ガスと同種の不活性ガスと、酸素含有気体との混合ガスであることが望ましい。また、酸素含有気体は、酸素を含む気体であればよいが、空気が好適である。本実施形態では、不活性ガス供給装置6から供給される不活性ガスと空気を混合して、調整ガスを生成している。
【0031】
本実施形態の酸素濃度調整装置8が、
図5に示される。酸素濃度調整装置8は、第1の流量制御弁81と、第2の流量制御弁82と、継手83と、を含む。第1の流量制御弁81および第2の流量制御弁82は、例えばスピードコントローラまたは調整弁である。第1の流量制御弁81は、不活性ガス供給装置6と接続され、不活性ガスの流量を調整する。第2の流量制御弁82は、酸素含有気体を供給する酸素含有気体源18と接続され、酸素含有気体の流量を調整する。本実施形態において、酸素含有気体源18は、エアコンプレッサである。例えば、積層造形装置が空圧駆動の駆動装置を備えているとき、当該駆動装置にエアコンプレッサが接続される。このような場合、当該エアコンプレッサを酸素含有気体源18として用いることができる。継手83は、第1の流量制御弁81、第2の流量制御弁82およびヒュームコレクタ7にそれぞれ接続される。第1の流量制御弁81および第2の流量制御弁82を介して送られた不活性ガスおよび酸素含有気体は、継手83で混合され、ヒュームコレクタ7へと送られる。
【0032】
なお、調整ガスの酸素濃度は、ヒュームが着火する限界酸素濃度よりも低く調整されることが望ましい。例えば、金属材料がマルエージング鋼等の鉄系材料であるとき、ヒュームが着火する限界酸素濃度は約8.0vol%である。そのため、金属材料がマルエージング鋼等の鉄系材料であるとき、調整ガスの酸素濃度は約8.0%vol未満に調整される。このようにすれば、少なくともヒュームコレクタ7内の酸素濃度はヒュームが着火する限界酸素濃度未満に保たれるため、より安全に積層造形装置を構成できる。
【0033】
なお、積層造形装置には酸素濃度を検出する酸素濃度計13が設けられる。酸素濃度計13は、チャンバ11に設けられたポート17と、ヒュームコレクタ7に設けられたポート79とに接続される。酸素濃度計13にヒュームが付着するのを防止するため、ポート79はヒュームコレクタ7の下流側に設けられることが望ましい。なお、チャンバ11とヒュームコレクタ7内の酸素濃度をそれぞれ別個に検出したい場合は、酸素濃度計13を2つ設けてポート17とポート79にそれぞれ接続すればよい。酸素濃度計13は不図示の制御装置と接続される。制御装置は、酸素濃度計13で検出された酸素濃度が所定の閾値以上であるとき、ヒュームコレクタ7を制御して、荷電極733への電圧印加を停止させる。また、制御装置は、酸素濃度計13で検出された酸素濃度が所定の閾値以上であるとき、レーザ光Lの照射を中断させる。本実施形態においては、酸素濃度計13の検出値が3.0vol%以上のとき、荷電極733への電圧印加を停止させるとともに、レーザ光Lの照射を中断させる。このように構成することで、より安全に、高品質の積層造形が行うことができる。
【0034】
排気装置9は、ヒュームコレクタ7によってヒュームの大部分が除去された不活性ガスを積層造形装置外に排気することで、チャンバ11内の気圧と積層造形装置外の気圧を略均一にして、チャンバ11からヒュームを含んだ不活性ガスが漏出することを抑制する。
図6に示すように、排気装置9は、フィルタ91と、調整弁93と、開閉弁95と、ファンモータ97と、を含む。
【0035】
フィルタ91は、例えば、不織布フィルタとHEPAフィルタから構成され、装置外に排気される不活性ガスからヒュームを除去する。排気装置9はヒュームコレクタ7の下流側、すなわち集塵部75と第1の供給口14との間に接続されるので、排気装置9に送られる不活性ガスは既にヒュームの大部分が除去されている。そのため、フィルタ91を設けることは必須ではないが、フィルタ91により排気される不活性ガスをより清浄にすることができる。
【0036】
調整弁93は、例えばボールバルブであり、不活性ガスの排気量を調整する。ファンモータ97は、排気方向の気流を形成する。調整弁93およびファンモータ97により、排気装置9からの時間あたりの排気量と漏出量の総和が、不活性ガス供給装置6からの時間あたりの供給量以上になるよう調整される。
【0037】
開閉弁95は、例えば電磁弁であり、排気のON/OFFを切り替える。不図示の制御装置は、不図示の気圧計によって測定されるチャンバ11内の気圧と、酸素濃度計13によって測定される酸素濃度によって開閉弁95およびファンモータ97を制御する。すなわち、チャンバ11内の気圧が所定の閾値以上であり、酸素濃度が所定の閾値未満であるときのみ、開閉弁95が開かれ、ファンモータ97が稼働される。このようにして、造形に影響が出ない範囲で、チャンバ11からの不活性ガスの漏出が防止される。
【0038】
以上の通り、本発明の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態で示した各技術的特徴は、技術的に矛盾が生じない範囲で互いに組み合わせ可能である。これら実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0039】
例えば、積層造形装置は、切削装置をさらに備え、造形途中または造形後に固化層25に対し切削加工を行ってもよい。例えば、切削装置は、エンドミル等の切削工具を回転させるスピンドルヘッドと、スピンドルヘッドが設けられ所望の位置に移動可能な加工ヘッドを有する。このような切削装置によれば、所定数の固化層25を形成する度に、固化層25の端面に対して切削加工を行うことができる。または、切削装置は、バイト等の切削工具を保持する旋回機構と、旋回機構が設けられた加工ヘッドを有する。このような切削装置によれば、造形後の積層造形物のテーブルに平行な面とテーブルに垂直で互いに垂直な2つの面に対して形削りを行い、2次加工を行う上での基準面を形成することができる。
【0040】
また、本実施形態の酸素濃度調整装置8は、造形中は常時調整ガスの供給を行っているが、電磁弁等の開閉弁を設けて酸素濃度に応じて供給のON/OFFを切り替えてもよい。例えば、不図示の制御装置は、ヒュームコレクタ7内の酸素濃度が所定の閾値未満であるときのみ調整ガスの供給を行い、ヒュームコレクタ7内の酸素濃度が所定の閾値以上であるときは調整ガスの供給を停止するよう、開閉弁を制御してもよい。このとき、酸素濃度計13は2つ設けられ、チャンバ11とヒュームコレクタ7とにそれぞれ接続されることが望ましい。
【0041】
また、本実施形態の酸素濃度調整装置8は、不活性ガス供給装置6から供給される不活性ガスと酸素含有気体源18から供給される酸素含有気体を混合して調整ガスを生成していたが、不活性ガス供給装置6が供給する不活性ガスよりも高い酸素濃度を有する調整ガスをヒュームコレクタ7に供給できる装置であればよい。例えば、酸素濃度調整装置8は、不活性ガス供給装置6よりも低純度の不活性ガスを生成する不活性ガス発生装置、または不活性ガス供給装置6よりも低純度の不活性ガスが貯留されたガスボンベであってもよい。
【符号の説明】
【0042】
4 照射装置
6 不活性ガス供給装置
7 ヒュームコレクタ
8 酸素濃度調整装置
11 チャンバ
13 酸素濃度計
14 第1の供給口
15 第2の供給口
16 排出口
18 酸素含有気体源
23 材料層
25 固化層
71 吸込口
73 荷電部
75 集塵部
77 返送口
81 第1の流量制御弁
82 第2の流量制御弁
83 継手
733 荷電極
L レーザ光
R 造形領域
【要約】 (修正有)
【課題】電気集塵機であるヒュームコレクタ内の酸素濃度を適正に調整する積層造形装置の提供。
【解決手段】チャンバ11と、照射装置4と、チャンバへ不活性ガスを供給する供給口14,15と、チャンバから不活性ガスを排出する排出口16と、供給口と接続されチャンバに不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置6と、排出口と接続されチャンバから排出された不活性ガスが供給される吸込口と、吸込口から送られた不活性ガスに含まれるヒュームをプラスまたはマイナスに荷電させる荷電極を有する荷電部と、荷電させたヒュームを捕集する集塵部と、供給口と接続されヒュームが除去された不活性ガスをチャンバに返送する返送口と、を含むヒュームコレクタ7と、排出口と荷電部の間に接続され、排出口から排出される不活性ガスに含まれる酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する調整ガスをヒュームコレクタに供給する酸素濃度調整装置と、を備える、積層造形装置。
【選択図】
図1