【0008】
以下、本明細書で開示する技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
特徴1:
図4,5,7に例示されているように、一方の球42が穴23の奥側の壁27に接触している。一方の球42が壁27によって奥側に移動できないので、他方の球46が治具10を先端側に押し出す。
特徴2:
図1〜7に例示されているように、一方の球42が螺子30の先端に対して回転可能である。
特徴3:
図1〜4、6〜7に例示されているように、一方の球42に対して他方の球46が回転可能である。
特徴4:
図1〜7に例示されているように、他方の球46に対して一方の球42が回転可能である。
特徴5:
図1〜3に例示されているように、穴23の奥側の壁27に接触する第3の球44が存在する。螺子穴24に螺子30をねじこむと、一方の球42が第3の球44と他方の球46の間に侵入し、他方の球46が治具10を先端側に押し出す。
特徴6:
図1〜3に例示されているように、一方の球42と他方の球46と第3の球44のいずれもが、他の球に対して回転可能である。
特徴7:
図5に例示されているように、治工具10の基部側端面が部分球面14に形成されており、その部分球が一方の球42に接触する。螺子30の前進力を治工具10の前進力に変換する関係では、部分球14が他方の球として機能する。
特徴8:穴23の奥側に収容しておく少なくとも2個の球42,46が穴23から抜け落ちることを防止する保持機構を備えている。例えば、
図3に例示されているストッパ螺子62、あるいは
図4に例示されているCリング64によって保持機構が形成されている。球46等を永久磁石で形成することによっても保持機構が得られる。
【実施例】
【0009】
(第1実施例)
図1と
図2は、治工具10がレースセンターであり、加工装置が研磨機である場合に本技術を適用した実施例を示す。レースセンター10は、先端が円錐形状をしており、その先端が図示しない円柱状ワークの端面のセンターに形成されている窪みに張り込む。図示はしないが、レースセンター10は左右一対にして用い、円柱状ワークの左右の端面を支持する。
【0010】
参照番号50は、加工装置に直接または他の部材を介して固定されているホルダ台である。ホルダ台50は、加工装置に対して移動可能であり、所定の位置に位置決めされた状態で加工装置に固定されている。ホルダ台50には、穴54が形成されており、穴54の側面はテーパ内面52となっている。テーパ内面52は、穴54の入口側が大径であり、奥側が小径である。
【0011】
穴54にホルダ20の基部側が挿入される。ホルダ20の基部側側面はテーパ外面28となっている。ホルダ台50のテーパ内面52とホルダ20のテーパ外面28は同一形状であり、密着する。ホルダ20の基部側をホルダ台50の穴54に挿入すると、ホルダ台50のテーパ内面52とホルダ20のテーパ外面28が密着する。テーパ内面52とテーパ外面28が密着すると、容易なことではホルダ台50からホルダ20が抜けなくなり、両者が固定される。
【0012】
ホルダ20の先端側から基部側に向かう穴23が形成されている。穴23の側面はテーパ内面22となっている。テーパ内面22は、穴23の入口側が大径であり、奥側が小径である。穴23は、ホルダ20の先端側端面において開口している。
【0013】
治工具(この場合レースセンター)10の基部側は、穴23に挿入される。治工具10の基部側側面はテーパ外面12となっている。ホルダ20のテーパ内面22と治工具10のテーパ外面12は同一形状であり、密着可能である。治工具10の基部側をホルダ20の穴23に挿入すると、治工具10のテーパ外面12とホルダ20のテーパ内面22が密着する。テーパ外面12とテーパ内面22が密着すると、容易なことでは治工具10がホルダ20からが取り外せなくなり、両者が固定される。
【0014】
ホルダ20から治工具10を容易に取り外せるように、穴23内に3個の球42,44,46が収容されている。球42,44,46は、穴23の奥側に収容されており、治工具10を穴23に挿入すると、球42,44,46は、治工具10の基部側端面と穴23の奥側の壁27の間に位置する。
【0015】
ホルダ20の側壁には、ホルダ20の外周面からテーパ内面22に達する穴24が開けられている。穴24の側壁には雌螺子26が形成されている。螺子穴24に螺子30がねじ込まれている。螺子30の外周面には、雌螺子26と噛み合う雄螺子36が形成されている。螺子穴24は、螺子30の先端面に球42が接触する位置に形成されている。
【0016】
図1は、治工具10をホルダ20に固定した状態を示している。この場合、球42の一部が螺子穴24内に入り込み、球46と球44が密着する。球42、44,46がその位置関係にあると、治工具10のテーパ外面12とホルダ20のテーパ内面22が密着するまで治工具10を穴23内に深く押し込むことができる。球42,44,46は、治工具10をホルダ20に固定することを邪魔しない。
【0017】
図2は、治工具10をホルダ20から取り外すために、螺子30を螺子穴24に深くねじ込んだ状態を示している。螺子30の先端面は、穴23の中心に向かって前進する。その結果、一方の球42が下方に押しやられる。一方の球42は第3の球44に接触する。第3の球44は穴23の奥側の壁27に接触し、それ以上には奥側に移動できない。その状態で螺子30がさらにねじ込まれると、他方の球46が先端側に前進する。球46が先端側に前進すると、球46が治工具10の基部側端面に接触する。螺子30をさらにねじこむと、球46がさらに前進し、治工具10を穴23から先端側に押し出す。
【0018】
幾多の実験によって球42,44,46を利用して螺子30の先端面の前進力を球46の前進力に変換すると、螺子30や螺子穴24が損傷しない範囲の力で、治工具10をホルダ20から押し出すことができることが確認された。
これに対して、例えば螺子30の先端を円錐形にしておき、その円錐形の斜面で治工具10の基部側端面を先端側に押し出すなどの幾多の構造を実験してみたが、いずれによって螺子30の雄螺子36がつぶれるほどの力を加えても治工具10をホルダ20から押し出すことができなかった。
球を利用することで良好な結果が得られる理由は解明しきれていないが、球同志の間で回転可能なこと、あるいは球と球の接触面積が狭いことなどによって、摩擦による悪影響が受けにくくなっているものと推定される。
【0019】
第1実施例では、一方の球42、他方の球46、第3の球44を用いている。ここで、球42,44,46の直径は、順に大きくなる関係に設定されている。直径が上記の関係にあると、一方の球42と他方の球46の接触点48と球46の中心を結ぶ線分と、穴23の中心線がなす角θが45°以下となり、螺子30の前進力を他方の球46の前進力に変換する効率が高い。螺子30や螺子穴24が損傷しない範囲内の力で、治工具10をホルダ20から押し出すことができる。
【0020】
(第2実施例)
図3に例示するように、他の球46と第3の球44の直径を等しくしてもよい。なお、
図3に示すように、治工具10の基部側端面よりも後方の位置で穴23に達する貫通孔66を設けておくとよい。貫通孔66がエアー抜き通路となり、治工具10の基部側端面よりも後方側における穴23内の圧力が変化することによる悪影響を防止できる。また他方の球46の先端側に接するストッパ螺子62を利用してもよい。これによって、球42,44,46等が穴23から抜け落ちることを防止できる。
【0021】
(第3実施例)
第3の球44はなくてもよい。
図4は、一方の球42が穴23の奥側の壁27に接触することによって、一方の球42の奥側への移動を阻止し、他方の球46の前進力に変換する実施例を示す。この実施例によっても、螺子30や螺子穴24が損傷しない範囲内の力で、治工具10をホルダ20から押し出すことができる。
【0022】
(第4実施例)
図5に示すように、他方の球46に代えて、治工具10の基部側端面を部分球面14にしてもよい。これによっても
図4と同様の力方向の変換作用が得られる。
【0023】
(第5実施例)
図6に示すように、一方の球42を螺子30aの先端に支持してもよい。螺子の先端に球が回転可能に支持されている螺子が市販されており、それを利用することができる。これによると、螺子30aによって一方の球42が穴23の奥側に移動することが防止される。本実施例では、C-リング64によって球46が穴23から抜け落ちることを防止する。
【0024】
(第6実施例)
図7に示すように、一方の球42と他方の球46の間に、一対の楔72,74を配置してもよい。これによっても、螺子30の前進力を球46の前進力に効率的に変換することができる。
また、球46を穴23の中心線上に維持するスリーブ68を付加してもよいし、スリーブ68に球46の抜け落ちを防止するストッパを形成してもよい。スリーブ68は穴52に圧入して固定する。
穴23内に収容する部材を永久磁石で形成しておくと、これらの部材が穴23から抜け落ちることを防止できる。
【0025】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。