特許第6611512号(P6611512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6611512
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】ノイズキャンセルヘッドホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20191118BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   H04R1/10 101Z
   H04R1/10 103
   H04R1/10 101B
   G10K11/178 100
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-156533(P2015-156533)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-38109(P2017-38109A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 幸治
(72)【発明者】
【氏名】島崎 裕美
(72)【発明者】
【氏名】安藤 幸三
【審査官】 渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−535655(JP,A)
【文献】 特開2010−183221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
H04R 1/00− 1/08
H04R 1/10
H04R 1/12− 1/14
H04R 1/20− 1/40
H04R 1/42− 1/46
H04R 5/033
H04R 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに取り付けられるドライバユニットと、
前記ハウジングに形成された収納部に収納され外部音声を収音するマイクロホンと、
を有してなり、
前記ハウジングは、
前記ドライバユニットが取り付けられるバッフル板と、
前記バッフル板の背面側に配置される第1ハウジングと、
前記第1ハウジングの背面側に配置されるハウジングカバーと、
を備え、
前記収納部は、使用者に装着された時の前記ハウジングの上部に、前記第1ハウジングと前記ハウジングカバーとで形成され、
前記ハウジングカバーには、前記収納部と、前記ハウジングの外部と、を連通させる収音孔が形成され、
前記収音孔は、前記使用者に装着された時の前記ハウジングの上方に向いて開口する、
ことを特徴とするノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項2】
前記収音孔の形成方向は、前記マイクロホンの振動板の振動方向と同じ方向である、
請求項1記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項3】
一対のイヤピースと、
一対の前記イヤピースを連結する連結部材と、
を備え、
前記イヤピースは、
前記ハウジングと、
前記ドライバユニットと、
を有し、
前記収音孔は、前記使用者に装着された時の前記連結部材の下方に配置される、
請求項1または2記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項4】
前記連結部材は、前記収音孔に対して風が直接当たることを防止する、
請求項3記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項5】
前記収納部は、前記ドライバユニットよりも上方に形成される、
請求項1乃至4のいずれか記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項6】
前記収音孔は、前記ハウジングの外部に開放される、
請求項1乃至5のいずれか記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項7】
前記ハウジングは
記第1ハウジングの背面側に配置される第2ハウジング
備え、
前記ハウジングカバーは、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの間に配置される、
請求項1乃至6のいずれか記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項8】
前記マイクロホンは、前記ハウジングカバーの背面側に形成された挿入口から前記収納部に収納され、
前記挿入口は、前記第2ハウジングにより閉鎖される、
請求項7記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項9】
前記ハウジングには、前記第1ハウジングにより画定される空気室と、前記ハウジングの外部と、を連通させる通気孔が形成され、
前記通気孔は、前記バッフル板に形成される、
請求項7または8記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項10】
前記マイクロホンが収音した外部音声からキャンセル信号を生成する回路基板、
を備え、
前記回路基板は、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの間に配置される、
請求項7乃至9のいずれか記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項11】
前記第1ハウジングと、前記第2ハウジングと、は音響的に分離される、
請求項7乃至10のいずれか記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項12】
前記収納部は、前記第1ハウジングの背面側に形成される、
請求項7乃至11のいずれか記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項13】
前記収納部は、前記第1ハウジングの背面側の空気室に形成される、
請求項12記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項14】
前記空気室は、前記第2ハウジングにより画定される、
請求項13記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズキャンセルヘッドホン、特に、フィードフォワード方式のノイズキャンセルヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
ノイズキャンセル機能を備えたヘッドホン(ノイズキャンセルヘッドホン)は、マイクロホンとノイズキャンセル回路(以下「NC回路」という。)を備える。マイクロホンは、ヘッドホンの周囲の外部音声(以下「騒音」という。)を収音する。NC回路は、マイクロホンが収音した騒音に応じたキャンセル信号を生成する。ヘッドホンは、NC回路が生成したキャンセル信号に応じた音波を、ヘッドホンに接続された音楽プレーヤなどの音源からの再生信号に応じた音波と重ねてドライバユニットから出力する。すなわち、ヘッドホンは、騒音をキャンセル(消音)しながら、音源からの再生信号による楽音(以下「再生音」という。)を出力する。
【0003】
キャンセル信号を生成する方式には、フィードバック方式(以下「FB方式」という。)と、フィードフォワード方式(以下「FF方式」という。)と、がある。
【0004】
FB方式のヘッドホンに内蔵されるマイクロホンは、ヘッドホンのハウジング(イヤピース)の内部であって、ヘッドホンの使用者の耳元に近い位置に配置される。NC回路は、マイクロホンが収音した騒音の信号をリアルタイムで解析して、使用者の鼓膜の位置での騒音が最小になるようなキャンセル信号を生成する。FB方式のヘッドホンは、使用者の耳元に近い位置で騒音を収音する。そのため、FB方式のヘッドホンは、後述するFF方式のヘッドホンと比べて、騒音のキャンセル効果が高い。また、FB方式のヘッドホンは、騒音成分の変化に対する追従性も良い。
【0005】
ただし、FB方式のヘッドホンでは、内蔵されるマイクロホンが騒音と共に再生音を収音してキャンセル信号を生成してしまうと、出力される再生音の音質が劣化してしまう。また、FB方式のヘッドホンは、騒音のキャンセル効果を高めるために、使用者の頭部に装着された状態においてイヤピース内を密閉しなければならない。しかし、密閉されたイヤピース内では、ヘッドホンが出力する再生音がこもりがちになり、音質が劣化してしまう。そこで、FB方式のヘッドホンは、一般的に、再生音の音質を補正するためのフィルタを備える。
【0006】
一方、FF方式のヘッドホンに内蔵されるマイクロホンは、ヘッドホンのハウジングの外部に配置される。NC回路は、マイクロホンが収音した騒音の信号を解析して、ヘッドホンの使用者の鼓膜に到達するまでの騒音の変化を予測する。NC回路は、この予測の結果に基づいてキャンセル信号を生成する。FF方式のヘッドホンは、スペースに制約のある使用者の耳元の近くへのマイクロホンの配置を不要とする。また、FF方式のヘッドホンに内蔵されるマイクロホンは、ドライバユニットから離れた位置に配置される。そのため、FF方式のヘッドホンは、FB方式のヘッドホンに比べて、ドライバユニットから出力される再生音を収音してキャンセル信号を生成しにくい。すなわち、FF方式のヘッドホンは、FB方式のヘッドホンに比べて、再生音の音質が再生音から生成されるキャンセル信号による影響を受にくい。
【0007】
ただし、FF方式のヘッドホンは、内蔵されるマイクロホンの配置場所により騒音のキャンセル効果に指向性が出やすい。また、FF方式のヘッドホンは、FB方式のヘッドホンと違い、内蔵されるマイクロホンがヘッドホンのハウジングの外部に配置される。そのため、FF方式のヘッドホンは、吹かれなどを要因とする風の風圧に起因する雑音を発生させるなど、ヘッドホンの周囲の風の影響も受けやすい。その結果、ノイズキャンセル機能が動作中の場合、FF方式のヘッドホンは、使用者にしばしば違和感や不快感を与える。
【0008】
これまでにも、FF方式のヘッドホンにおいて、前述の風の影響を抑制するために、ヘッドホンのハウジングの内部にマイクロホンを配置したものは提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
特許文献1に開示されているFF方式のヘッドホンは、ドライバユニットが取り付けられたバッフル板の背面側(すなわち、後部空気室内)に、マイクロホンを備える。バッフル板は、その厚さ方向の両端部にフランジを有している。両フランジの間には、バッフル板の外周に沿った溝が形成されている。バッフル板の背面側のフランジには、フランジの厚さ方向に貫かれた収音孔が形成されている。収音孔は、溝と連通している。外部からの騒音は、溝および収音孔を介してマイクロホンに収音される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−109799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されているFF方式のヘッドホンでは、ヘッドホンに到達した騒音が、溝の内部で向きを変えてマイクロホンで収音される。そのため、前述した騒音の変化の予測には、より高度な演算が要求され、十分なキャンセル効果を発揮できない場合があり得る。また、特許文献1に開示されているFF方式のヘッドホンでは、後部空気室内にマイクロホンが配置されているため、マイクロホンは、ドライバユニットから再生される音を収音し得る。マイクロホンが再生音を収音すると、NC回路は、再生音に応じたキャンセル信号を生成する。その結果、ドライバユニットから出力される再生音の音質は、再生音の影響を受けて劣化し得る。
【0012】
このように、ノイズキャンセルヘッドホン、特に、FF方式のヘッドホンにおいては、風の影響を抑制しつつ、ドライバユニットから出力される再生音の音質の劣化を抑制しなければならない。
【0013】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、風の影響を抑制しつつ、ドライバユニットから出力される再生音の音質の劣化を抑制させることができるノイズキャンセルヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ハウジングと、ハウジングに取り付けられるドライバユニットと、ハウジングに形成された収納部に収納され外部音声を収音するマイクロホンと、を有してなり、 収納部は、使用者に装着された時のハウジングの上部に形成され、ハウジングには、収納部と、ハウジングの外部と、を連通させる収音孔が形成され、収音孔は、使用者に装着された時のハウジングの上方に向いて開口する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、風の影響を抑制しつつ、ドライバユニットから出力される再生音の音質の劣化を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンの左側のイヤピースの正面図である。
図2図1のイヤピースの正面視断面図である。
図3図1のイヤピースを構成するバッフル板の斜視図である。
図4図1のイヤピースを構成する第1ハウジングの斜視図である。
図5図1のイヤピースを構成するハウジングカバーの斜視図である。
図6】イヤパッドが取り外された図1のイヤピースの正面図である。
図7図1のイヤピースを構成するハウジングの斜視図である。
図8】本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンの別の実施の形態におけるイヤピースの正面視断面図である。
図9】本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンの周波数特性を示すグラフである。
図10】本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンのノイズキャンセル効果の比較結果を示すグラフである。
図11】本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンのノイズキャンセル効果の比較結果を示す別のグラフである。
図12】本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンのノイズキャンセル効果の比較結果を示すさらに別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホン(以下「ヘッドホン」という。)の実施の形態について説明する。ヘッドホンは、左右一対のイヤピースを備える。左右一対のイヤピースは、連結部材で連結される。
【0018】
図1は、本発明にかかるヘッドホンの左側のイヤピースの正面図である。イヤピース100は、イヤパッド1と、バッフル板2と、第1ハウジング3と、ハウジングカバー4と、第2ハウジング5と、を有してなる。以下、バッフル板2と第1ハウジング3とハウジングカバー4と第2ハウジング5の全部または一部を、ヘッドホンのハウジングという。
【0019】
イヤパッド1は、イヤピース100とヘッドホンの使用者の頭部との間の緩衝材である。
【0020】
バッフル板2は、ドライバユニットの前面側と背面側とを音響的に分離するとともに、ドライバユニットを保持する部材である。バッフル板2の前面側とは、バッフル板2に保持されたドライバユニットから音波が出力される面の側(紙面左側)である。バッフル板2の背面側とは、バッフル板2に保持されたドライバユニットから音波が出力される面の反対側(紙面右側)である。ドライバユニットは、音源からの音声信号を音波に変換して出力する。
【0021】
第1ハウジング3は、バッフル板2の背面側に配置されて、ドライバユニットの背面側の空気室を形成する部材である。
【0022】
ハウジングカバー4は第1ハウジング3の背面側に配置されて、ヘッドホンの周囲の外部音声(以下「騒音」という。)を収音するマイクロホンの収納部を形成する。騒音は、音源からの音声信号による楽音(以下「再生音」という。)以外の音である。マイクロホンの収納部については、後述する。
【0023】
第2ハウジング5はハウジングカバー4の背面側、すなわち、第1ハウジング3の背面側に配置されて、ノイズキャンセル回路(以下「NC回路」という。)が配置された回路基板を収納する。
【0024】
イヤピース100は、連結部材6を介して、右側のイヤピースに連結される。連結部材6は、アーム部材61と、スライダ62と、固定部材63と、ヘッドバンド64と、を有する。
【0025】
アーム部材61は、イヤピース100とスライダ62とを連結する。アーム部材61は、二股に分かれたアームを備える。二股の各アームの先端には、第2ハウジング5の正面(紙面手前側の面)と背面(紙面奥側の面)とに形成された軸受孔に対応する連結ピンが同軸的に設けられている。二股の各アームの先端の連結ピンが第2ハウジング5の軸受孔に挿入されると、イヤピース100は、連結ピン同士を結ぶ軸を回転中心として所定の角度の範囲内でアーム部材61に回動可能に支持される。
【0026】
スライダ62は、ヘッドバンド64に対するイヤピース100の位置を調整する調整機構である。スライダ62の一端は、アーム部材61に固定される。スライダ62の他端は、固定部材63の長手方向の端に形成された開口部分からヘッドバンド64の内部空間に進入して、ヘッドバンド64の長手方向に進退可能に保持される。すなわち、イヤピース100は、スライダ62により、ヘッドバンド64の長手方向にスライド移動が可能である。
【0027】
固定部材63は、スライダ62とヘッドバンド64を固定する。固定部材63は、スライダ62がヘッドバンド64から抜け落ちるのを防止する抜け落ち防止構造を備える。ヘッドバンド64の内部空間を進退可能に移動するスライダ62は、固定部材63の抜け落ち防止構造により、移動可能範囲の限界位置まで移動しても、ヘッドバンド64から抜け落ちない。
【0028】
ヘッドバンド64は、アーム部材61とスライダ62と固定部材63とを介して、左右一対のイヤピースを連結する。ヘッドバンド64は、使用者の頭頂部や後頭部などに沿う形状に湾曲している。
【0029】
ヘッドバンド64の内部には、板バネ状の弾性部材が配置されている。すなわち、ヘッドバンド64は、バネ性を有する。ヘッドバンド64の両端のイヤピース同士の距離は、ヘッドホンが使用者の頭部に装着されている時(装着時)と、ヘッドホンが使用者の頭部に装着されていない時(未装着時)とで異なる。すなわち、装着時のイヤピース同士の距離は、未装着時のイヤピース同士の距離より長い。装着時の各イヤピースには、バネ性を有するヘッドバンド64の復元力が働く。すなわち、装着時の各イヤピースは、互いに近づく方向に付勢される。各イヤピースは、ヘッドバンド64の復元力により、使用者の左右の耳に押し当てられて固定される。
【0030】
図2は、イヤピース100の正面視断面図である。イヤパッド1は、環状に形成されていて、ヘッドホンが使用者の頭部に装着されているとき、使用者の耳の周りを取り囲む。イヤパッド1は、被覆材の内部に弾性材が詰め込まれて弾力性を有する。被覆材の材質は、例えば、レザーや化繊などの肌触りの良い材質である。弾性材の材質は、例えば、発泡ウレタン、綿、化学繊維などの弾力性のある材質である。
【0031】
図3は、バッフル板2の斜視図である。バッフル板2は平面視において円形であり、その円板状の底面部20とフランジ部22とが側面部21で連結されたような形状である。側面部21には、音質調整用の通気孔23が形成される。底面部20の平面視(バッフル板2の表裏方向、紙面下側から上側に見た方向)中央には、開口24が形成される。
【0032】
開口24には、図2に示されるように、ドライバユニット7が取り付けられる。バッフル板2の周縁は、図2に示されるように、底面部20と側面部21とフランジ部22とで囲まれた、断面がU字状の溝部が形成される。イヤパッド1の被覆材の一部がバッフル板2の周縁に形成された溝部に覆い被されて、イヤパッド1がバッフル板2に係止される。
【0033】
図4は、第1ハウジング3の斜視図である。第1ハウジング3は、平面視において円形であり、図2に示されるように、正面視断面においてハット状である。第1ハウジング3は、底面部30と側面部31と受部32とフランジ部33とを備える。底面部30と側面部31の一部には、マイクロホン収納穴34が形成される。マイクロホン収納穴34については、後述する。
【0034】
第1ハウジング3は、図2に示されるように、バッフル板2とドライバユニット7と共に、ドライバユニット7の背面側の空気室S1を形成する。空気室S1は、バッフル板2に形成された通気孔23を介して、バッフル板2や第1ハウジング3の外部、つまり、イヤピース100を構成するハウジングの外部と連通する。空気室S1の空気圧は、通気孔23の大きさなどにより調整される。つまり、ドライバユニットから出力される音の音質は、通気孔23の大きさなどにより調整される。
【0035】
図5は、ハウジングカバー4の斜視図である。ハウジングカバー4は、平面視において円形であり、図2に示されるように、正面視断面においてハット状である。ハウジングカバー4は、底面部40と側面部41とフランジ部42とを備える。底面部40には、マイクロホン挿入孔43が形成される。側面部41には、収音孔44が形成される。
【0036】
収音孔44は、図2に示されるように、イヤピース100を構成するハウジングの上部の周面、つまり、ヘッドホンが使用者の頭部に装着されている時の使用者の頭頂部側の周面に形成(配置)される。この収音孔44は、ハウジングの上方、つまり、ヘッドホンが使用者の頭部に装着されている時の使用者の頭頂部側の方向に向いて開口する。そのため、ヘッドホンは、ハウジングが受けた風が収音孔44に直接入ることを抑制することができる。その結果、ヘッドホンは、ハウジングが受けた風の風圧による雑音の発生を抑制することができる。また、収音孔44を通過する(横切る)方向に風が通過した場合、風の進行方向と、振動板の振動方向と、は一致しない。そのため、風の風圧に起因する雑音は小さくなる。
【0037】
なお、収音孔44の形成方向に進行する風の場合、その風は、収音孔44に直接入ることも考えられる。しかし、収音孔44は、連結部材6の下方に距離をおいて配置される。その結果、収音孔44の形成方向に進行する風は、連結部材6に当たるため、収音孔44に直接入ることはない。つまり、連結部材6は、収音孔44に対して風が直接当たることを防止する。
【0038】
ハウジングカバー4と第1ハウジング3とは、ハウジングカバー4のフランジ部42が第1ハウジング3の受部32に当接することで、位置決めされる。第1ハウジング3の背面側に配置されたハウジングカバー4のマイクロホン挿入孔43は、図2に示されるように、第1ハウジング3のマイクロホン収納穴34と連通する。
【0039】
ハウジングカバー4に形成された収音孔44は、第1ハウジング3のマイクロホン収納穴34と連通する。マイクロホン収納穴34には、マイクロホン8が配置される。マイクロホン8は、例えば、無指向性のマイクロホンである。
【0040】
マイクロホン8は、例えば、その収音面が収音孔44に対向する向き、つまり、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時、収音面が上方を向くようにマイクロホン収納穴34内に配置される。このようなマイクロホン8と収音孔44との配置は、ヘッドホンのハウジングが受けた風からの風圧に起因する雑音の発生を低減する。また、収音孔44の形成方向(図2の紙面上下方向)と、マイクロホン8の振動板の振動方向とは同じである。よって、ヘッドホンに到達した騒音は、収音孔44を介して、向きを変えることなく直接的にマイクロホン8に収音される。その結果、本発明にかかるヘッドホンは、ヘッドホンに到達した騒音が向きを変えてマイクロホンに収音される従来のヘッドホンと比較して、より確実に騒音の変化を予測でき、騒音に対する高いキャンセル効果を備える。
【0041】
収音孔44は、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時、連結部材6の下方に位置する。連結部材6は、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時、収音孔44を塞がない。すなわち、収音孔44は、ハウジングの外部に開放される。つまり、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時、マイクロホン8は常にハウジングの外部(の空気層)に接して、騒音を収音可能である。その結果、ヘッドホンは、常に騒音のキャンセル効果を発揮する。
【0042】
第2ハウジング5は、平面視において円形であり、図2に示されるように、正面視断面においてカップ状である。第2ハウジング5は、底面部50と側面部51とを備える。第2ハウジング5は、ハウジングカバー4の背面側に配置される。第2ハウジング5は、ハウジングカバー4と共に、ハウジングカバー4の背面側に空気室S2を形成する。空気室S2には、マイクロホン8が収音した騒音に応じたキャンセル信号を生成するNC回路が配置される。
【0043】
ヘッドホンのハウジングを構成する第1ハウジング3と第2ハウジング5とは、図2に示されるように、音響的に分離される。すなわち、第1ハウジング3で画定される音響部としての空気室S1と、第2ハウジング5で画定される回路部としての空気室S2とは、音響的に分離される。よって、空気室S2内に配置されたマイクロホン8は、ドライバユニット7から出力されて空気室S1内に放出された音を収音してキャンセル信号を生成することはない。つまり、ドライバユニット7が出力する音の音質は、空気室S1に放出されたドライバユニット7が出力する音で劣化しない。
【0044】
図6は、イヤパッド1が取り外されたイヤピース100の正面図である。バッフル板2の側面部21に形成された通気孔23は、イヤピース100の正面側(紙面手前側)に位置する。
【0045】
図7は、イヤパッド1と第2ハウジング5とが取り外された状態のイヤピース100、つまり、一体化されたバッフル板2と第1ハウジング3とハウジングカバー4との斜視図である。ハウジングカバー4に囲まれた第1ハウジング3のマイクロホン収納穴34は、ハウジングカバー4と共にマイクロホン8の収納部を構成する。マイクロホン8の収納部は、ハウジングの上部、つまり、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時の使用者の頭頂部側に形成される。マイクロホン8の収納部は、マイクロホン8の収納前において、ハウジングカバー4のマイクロホン挿入孔43と収音孔44のそれぞれと連通する。マイクロホン8は、挿入口としてのマイクロホン挿入孔43からマイクロホン収納穴34内に収納される。マイクロホン8の収納部の大きさや形状は、例えば、マイクロホン8と同程度の大きさや形状である。マイクロホン8が収納された状態のマイクロホン8の収納部の隙間は、例えば、マイクロホン8を固定する接着剤で埋められる。マイクロホン挿入孔43は、マイクロホン8の収納後において、マイクロホン8の出力ケーブルが引き出された状態で、封鎖される。つまり、マイクロホン8の収納部と空気室S2とは、分離される。その結果、マイクロホン8の収納部は、収音孔44のみを介して、ハウジングの外部と連通する。換言すれば、マイクロホン8は、収音孔44を通過してマイクロホン8の収納部に進入した音波のみを収音する。
【0046】
ハウジングカバー4に形成された収音孔44は、前述のとおり、イヤピース100を構成するハウジングの上部の周面に形成される。バッフル板2に形成された通気孔23は、イヤピース100を構成するハウジングの前方、つまり、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時の使用者の顔面側に形成される。
【0047】
収音孔44と通気孔23は、図7に示されるように、ハウジングの少なくとも90°周方向に離間して形成される。このような収音孔44と通気孔23とが離間して形成される構成は、通気孔23から漏れ出た楽音(以下「放音音声」という。)が収音孔44を通過してマイクロホン8に収音されることを抑制する。
【0048】
なお、収音孔と通気孔とのハウジング上の形成位置は、放音音声が収音孔を通過してマイクロホン8に収音されるのが抑制される位置であればよい。すなわち、例えば、通気孔は、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時に、使用者の後頭部側、つまり、ハウジングの後方に配置されてもよい。
【0049】
また、収音孔と通気孔とのハウジング上の形成位置の別の例として、収音孔と通気孔とがハウジングの周方向に対向する位置に形成されてもよい。すなわち、例えば、図8に示されるように、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時、収音孔44は使用者の頭頂部側で、通気孔23aは使用者の足元側に形成されてもよい。
【0050】
図9は、本発明にかかるヘッドホンの周波数特性を示すグラフである。図中、実線は、ノイズキャンセル機能がオン、つまり、マイクロホン8が収音した騒音に応じたキャンセル信号をNC回路が生成可能な状態のときのヘッドホンの周波数特性である。一方、点線は、ノイズキャンセル機能がオフ、つまり、マイクロホン8が収音した騒音に応じたキャンセル信号をNC回路が生成不可能な状態のときのヘッドホンの周波数特性である。同図に示されるように、本発明にかかるヘッドホンの周波数特性の違いは、ノイズキャンセル機能がオンのときとオフのときとで小さい。すなわち、同図は、本発明にかかるヘッドホンにおいて、マイクロホン8による通気孔23から漏れ出た音の収音が抑制されていることを示す。
【0051】
マイクロホン8の収納部であるマイクロホン収納穴34は、ヘッドホンが使用者の頭部に装着された時に、ヘッドホンのハウジングの上部、例えば、図2に示されるように、ドライバユニット7よりも上方に形成される。マイクロホン8の収納部がハウジングの上部に形成される、つまり、収音孔44がハウジングの上部に形成されることで、マイクロホン8はハウジングの前後左右いずれの方向からの騒音も遅滞なく収音(平均的に収音)することができる。その結果、本発明にかかるヘッドホンは、従来のヘッドホンに比べて、騒音のキャンセル効果の指向性に伴い発生する使用者への違和感や不快感を軽減することができる。
【0052】
図10図11図12は、ヘッドホンに対する騒音の発生方向の違いによる、ヘッドホンの騒音のキャンセル効果の比較結果を示すグラフである。図10は、収音孔がヘッドホンの上方(図1の紙面上側)に配置された場合である。図11は、収音孔がヘッドホンの正面(図1の紙面手前側)に配置された場合である。図12は、収音孔がヘッドホンの側面(図1の紙面左側)に配置された場合である。各図は、ヘッドホンに対する騒音の発生方向が90度、180度、270度、360度のときの騒音のキャンセル効果を示す。
【0053】
図11は、300Hz−2kHz付近で方向ごとのばらつきが大きく、騒音の発生方向によりキャンセル効果に差があることを示している。このように、マイクロホンが正面に配置されたヘッドホンは、キャンセル効果の高い方向と低い方向とが存在して、使用者に違和感を与えてしまうことがある。
【0054】
図12は、図11に比べて方向ごとのばらつきは小さいが、1kHz付近でのキャンセル効果には大きな差があり、また、90度のときのキャンセル効果が大きいことを示している。このように、マイクロホンが側面に配置されたヘッドホンでは一方向(90度方向)のキャンセル効果が他の方向に比べて高い。そのため、マイクロホンが側面に配置されたヘッドホンは使用者にしばしば違和感を与える。
【0055】
一方、図10は、図11図12に比べて、方向ごとのキャンセル効果の差が小さい。したがって、例えば、使用者がヘッドホンを装着したまま移動していて、使用者の移動方向が変わりヘッドホンに対する騒音の発生方向が変化したとしても、キャンセル効果の方向による違いは小さい。このように、マイクロホンが上方に配置されたヘッドホンは、騒音の発生方向の違いによって使用者に与える違和感の発生を軽減する。
【0056】
以上説明した実施の形態によれば、収音孔44は、ハウジングの上方、すなわち、ヘッドホンが使用者の頭部に装着されている時の使用者の頭頂部側の方向に向いて開口し、収音孔44の形成方向とマイクロホン8の振動板の振動方向とは同じである。よって、ハウジングに到達した騒音は、向きを変えずにマイクロホン8に収音される。したがって、本発明にかかるヘッドホンは、ヘッドホンに到達した騒音が向きを変えてマイクロホンに収音される従来のヘッドホンと比較して、より確実に騒音の変化を予測することができ、風の影響を抑制しつつ、騒音のキャンセル効果を高めることができる。
【0057】
また、以上説明した実施の形態によれば、第1ハウジング3で画定される音響部としての空気室S1と、第2ハウジング5で画定される回路部としての空気室S2とは、音響的に分離される。よって、空気室S2内に配置されたマイクロホン8は、ドライバユニット7から出力されて空気室S1内に放出された音を収音してキャンセル信号を生成しない。したがって、本発明にかかるヘッドホンは、風の影響を抑制し、ドライバユニット7から出力される再生音の音質の劣化も抑制することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 イヤパッド
2 バッフル板
20 底面部
21 側面部
22 フランジ部
23 通気孔
24 開口
3 第1ハウジング
30 底面部
31 側面部
32 受部
33 フランジ部
34 マイクロホン収納穴
4 ハウジングカバー
40 底面部
41 側面部
42 フランジ部
43 マイクロホン挿入孔
44 収音孔
5 第2ハウジング
50 底面部
51 側面部
6 連結部材
61 アーム部材
62 スライダ
63 固定部材
64 ヘッドバンド
7 ドライバユニット
8 マイクロホン
100 イヤピース

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12