(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612076
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置及びそのフラッシング方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20191118BHJP
【FI】
B41J2/165 209
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-145850(P2015-145850)
(22)【出願日】2015年7月23日
(65)【公開番号】特開2017-24287(P2017-24287A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(72)【発明者】
【氏名】高橋 晋
【審査官】
加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−297905(JP,A)
【文献】
特開2015−058556(JP,A)
【文献】
特開2016−215445(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0076813(US,A1)
【文献】
特開2012−192561(JP,A)
【文献】
特開2015−123665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出して印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置であって、
連続して搬送される印刷媒体の搬送速度を検出する搬送速度検出部と、
前記印刷媒体の幅方向に列設された複数個の吐出部を備え、前記印刷媒体に前記吐出部からインク滴を吐出して印刷を行うインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドからのインク滴の吐出を制御する機能を備え、前記複数個の吐出部からの吐出不良を防止するために、前記複数個の吐出部からのインク滴の吐出を離散的に行わせる離散的フラッシングを前記印刷媒体に対して行わせるにあたり、前記搬送速度検出部が印刷前に停止状態から印刷速度に達するまでの搬送速度の増加を検出している前記印刷媒体の加速領域では、離散的フラッシングにおける加速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量とし、前記搬送速度検出部が印刷中に搬送速度をほぼ一定であると検出している前記印刷媒体の一定速領域では、離散的フラッシングにおける一定速期間中のインク滴の吐出量を前記第1の吐出量より少ない第2の吐出量とするフラッシング制御部と、
を備えていることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記フラッシング制御部は、前記加速領域におけるインク滴の吐出頻度を高くすることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記フラッシング制御部は、前記加速領域におけるインク滴を大滴とすることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット印刷装置であって、
前記フラッシング制御部は、前記搬送速度検出部が搬送速度をほぼ一定であると検出している間のうち、前記印刷媒体の搬送速度の増加が終わった直後から印刷を行うまでの間の前記印刷媒体の印刷前領域では、離散的フラッシングにおける一定速期間中のインク滴の吐出量を前記第1の吐出量と第2の吐出量との間の第3の吐出量とすることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット印刷装置において、
前記印刷媒体は、既に印刷が行われた印刷媒体であることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項6】
インクジェット印刷装置のフラッシング方法において、
連続して搬送される印刷媒体の搬送速度を検出する過程と、
インクジェットヘッドが印刷用紙の幅方向に列設されている複数個の吐出部からのインク滴の吐出不良を防止するために、前記複数個の吐出部からのインク滴の吐出を離散的に行わせる離散的フラッシングを前記印刷媒体に対して行わせるにあたり、印刷前に停止状態から印刷速度に達するまでの搬送速度が増加している前記印刷媒体の加速領域では、加速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量で離散的フラッシングを行う過程と、
印刷中に搬送速度がほぼ一定である前記印刷媒体の一定速領域では、一定速期間中のインク滴の吐出量を前記第1の吐出量より少ない第2の吐出量で離散的フラッシングを行う過程と、
を実施することを特徴とするインクジェット印刷装置のフラッシング方法。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェット印刷装置のフラッシング方法において、
前記印刷媒体は、既に印刷が行われた印刷媒体であることを特徴とするインクジェット印刷装置のフラッシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴を吐出して印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置及びそのフラッシング方法に係り、特に、インクの乾燥に起因する吐出不良を防ぐためにインク滴を吐出させるフラッシングの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、インク滴を吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドからインク滴を吐出させるとともに、フラッシングを制御する制御部とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のように構成されたインクジェット印刷装置では、印刷を行うにあたり、インクジェットヘッドにおけるインク滴の乾燥を防止するために吐出部を覆っていたキャップをまず取り外し、印刷用紙の搬送を開始する。印刷用紙は、印刷条件に規定されている、印刷用紙の搬送速度に向かって加速される。そして、搬送速度が印刷速度に達してほぼ一定になった後、印刷用紙に対してジョブ領域においてインクジェットヘッドからインク滴を吐出させて印刷を行う。
【0004】
上記のように印刷が開始されるが、印刷の際に吐出不良に起因するノズル欠けが生じないように、制御部によって事前にラインフラッシングが実施される。その手法としては、例えば、以下の二つのものが代表的である。
【0005】
第1の手法としては、用紙の搬送速度が印刷速度に達した後、即座に印刷を開始せず、印刷前領域において、印刷媒体の搬送方向に直交する方向に配置されたインクジェットヘッドの複数個の吐出部のうち、列方向の複数個の吐出部からインク滴を吐出させるラインフラッシング(以下、事前ラインフラッシングと称する)を行わせる。そして、印刷開始後、インクジェットヘッドの各吐出部から離散的にインク滴を吐出させるスターフラッシング(離散的フラッシングとも呼ばれる)を行わせる。
【0006】
また、第2の手法としては、用紙の搬送速度が印刷速度に達した後、即座に印刷を開始せず、事前ラインフラッシングを行わせる。そして、印刷開始後、印刷物を構成するページを印刷する前、ページ外の領域に相当する部分で事前ラインフラッシングを行わせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−90533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の装置は、第1の手法及び第2の手法であっても、予め印刷用紙に印刷を行った後に印刷を行う「追い刷り」を行う場合、事前ラインフラッシングが、既に印刷が行なわれた部分に重複して吐出されることがある。すると、インクが過剰になって乾燥性が悪くなり、印刷用紙を搬送するローラを介した転写によって装置内が汚染される恐れがある。なお、事前フラッシングが重複しないように、追い刷り時に、後の事前ラインフラッシング用にフラッシングページを挿入することが行われる場合もあるが、余分に印刷用紙を消費するという問題がある。
【0009】
また、例えば、印刷後の裁断処理などを行う後加工機では、ページ部分の上流側に印刷されたページマークを目印にして裁断処理が行われるが、印刷前に行なわれた事前ラインフラッシングをページマークと誤検知することがある。これを防止するために、事前ラインフラッシングの領域をマスク処理するなどの余分な手間がかかるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、余分な印刷用紙の消費もなくフラッシングに起因する装置内の汚染を防止でき、余分な手間をかけることなく後工程の処理を行わせることができるインクジェット印刷装置及びそのフラッシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、インク滴を吐出して印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置であって、連続して搬送される印刷媒体の搬送速度を検出する搬送速度検出部と、前記印刷媒体の幅方向に列設された複数個の吐出部を備え、前記印刷媒体に前記吐出部からインク滴を吐出して印刷を行うインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドからのインク滴の吐出を制御する機能を備え、前記複数個の吐出部からの吐出不良を防止するために、前記複数個の吐出部からのインク滴の吐出を離散的に行わせる離散的フラッシングを
前記印刷媒体に対して行わせるにあたり、前記搬送速度検出部が印刷前に
停止状態から印刷速度に達するまでの搬送速度の増加を検出している前記印刷媒体の加速領域では、離散的フラッシングにおける
加速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量とし、前記搬送速度検出部が印刷中に搬送速度をほぼ一定であると検出している前記印刷媒体の一定速領域では、離散的フラッシングにおける
一定速期間中のインク滴の吐出量を前記第1の吐出量より少ない第2の吐出量とするフラッシング制御部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、フラッシング制御部は、離散的フラッシングを行わせるにあたり、加速領域では、離散的フラッシングにおける
加速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量とする。通常、印刷開始前にインクジェットヘッドの複数個の吐出部を覆っているキャップが取り外されてから、一定速領域に入るまでに複数個の吐出部におけるインクの乾燥が進行するが、
停止状態から印刷速度に達するまでの加速領域においても離散的フラッシングを
印刷媒体に対して行うことにより吐出不良が防止できる。また、フラッシング制御部は、一定速領域では、離散的フラッシングにおける
一定速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量より少ない第2の吐出量とするので、印刷物における印刷品質の低下を抑制できつつも、吐出不良が防止できる。したがって、余分な印刷用紙の消費もなくフラッシングに起因する装置内の汚染を防止でき、余分な手間をかけることなく後工程の処理を行わせることができる。
【0013】
また、本発明において、前記フラッシング制御部は、前記加速領域におけるインク滴の吐出頻度を高くすることが好ましい(請求項2)。
【0014】
フラッシング制御部は、印刷媒体の搬送速度を加速している間は、インク滴の吐出頻度を高くするので、事前ラインフラッシングを実施した際の吐出量に近づけることができる。したがって、離散的フラッシングであっても吐出不良を十分に防止できる。
【0015】
また、本発明において、前記フラッシング制御部は、前記加速領域におけるインク滴を大滴とすることが好ましい(請求項3)。
【0016】
フラッシング制御部は、印刷媒体の搬送速度を加速している間、インク滴を大滴とするので、事前ラインフラッシングを実施した際の吐出量に近づけることができる。したがって、離散的フラッシングであっても吐出不良を十分に防止できる。
【0017】
また、本発明において、前記フラッシング制御部は、前記搬送速度検出部が搬送速度をほぼ一定であると検出している間のうち、前記印刷媒体の搬送速度の増加が終わった直後から印刷を行うまでの間の前記印刷媒体の印刷前領域では、離散的フラッシングにおける
一定速期間中のインク滴の吐出量を前記第1の吐出量と第2の吐出量との間の第3の吐出量とすることが好ましい(請求項4)。
【0018】
フラッシング制御部は、印刷前領域において、離散的フラッシングにおける
一定速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量と第2の吐出量との間の第3の吐出量とする。これにより、印刷媒体の搬送速度の加速終了後、実際の印刷を行なうまでの間にも比較的大量のインク滴を吐出させることができるので、印刷開始の直前に吐出不良を解消できる。したがって、印刷を品質高く行うことができる。
【0019】
また、請求項
6に記載の発明は、インクジェット印刷装置のフラッシング方法において、連続して搬送される印刷媒体の搬送速度を検出する過程と、インクジェットヘッドが印刷用紙の幅方向に列設されている複数個の吐出部からのインク滴の吐出不良を防止するために、前記複数個の吐出部からのインク滴の吐出を離散的に行わせる離散的フラッシングを
前記印刷媒体に対して行わせるにあたり、印刷前に
停止状態から印刷速度に達するまでの搬送速度が増加している前記印刷媒体の加速領域では、
加速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量で離散的フラッシングを行う過程と
、印刷中に搬送速度がほぼ一定である前記印刷媒体の一定速領域では、
一定速期間中のインク滴の吐出量を前記第1の吐出量より少ない第2の吐出量で離散的フラッシングを行う過程と、を実施することを特徴とする
【0020】
[作用・効果]請求項
6に記載の発明によれば、離散的フラッシングを行わせるにあたり、加速領域では、離散的フラッシングにおける
加速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量とする。通常、印刷開始前にインクジェットヘッドの複数個の吐出部を覆っているキャップが取り外されてから、一定速領域に入るまでに複数個の吐出部におけるインクの乾燥が進行するが、
停止状態から印刷速度に達するまでの加速領域においても離散的フラッシングを
印刷媒体に対して行うことにより吐出不良が防止できる。一定速領域では、離散的フラッシングにおける
一定速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量より少ない第2の吐出量とするので、印刷物における印刷品質の低下を抑制できつつも、吐出不良が防止できる。したがって、フラッシングページではないので、余分な印刷用紙の消費もなくフラッシングに起因する装置内の汚染を防止でき、余分な手間をかけることなく後工程の処理を行わせることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るインクジェット印刷装置によれば、フラッシング制御部は、離散的フラッシングを行わせるにあたり、加速領域では、離散的フラッシングにおける
加速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量とする。通常、印刷開始前にインクジェットヘッドの複数個の吐出部を覆っているキャップが取り外されてから、一定速領域に入るまでに複数個の吐出部におけるインクの乾燥が進行するが、
停止状態から印刷速度に達するまでの加速領域においても離散的フラッシングを
印刷媒体に対して行うことにより吐出不良が防止できる。また、フラッシング制御部は、一定速領域では、離散的フラッシングにおける
一定速期間中のインク滴の吐出量を第1の吐出量より少ない第2の吐出量とするので、印刷物における印刷品質の低下を抑制できつつも、吐出不良が防止できる。したがって、余分な印刷用紙の消費もなくフラッシングに起因する装置内の汚染を防止でき、余分な手間をかけることなく後工程の処理を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図である。
【
図2】インクジェットヘッドを含む周辺の平面図である。
【
図3】搬送速度と離散的フラッシングの吐出量のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図であり、
図2は、インクジェットヘッドを含む周辺の平面図である。
【0024】
本実施例に係るインクジェット印刷システムは、給紙部1と、インクジェット印刷装置3と、排紙部5とを備えている。
【0025】
給紙部1は、ロール状の連続紙WPを水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置3に対して連続紙WPを巻き出して供給する。インクジェット印刷装置3は、連続紙WPに対して印刷を行う。排紙部5は、インクジェット印刷装置3で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部1はインクジェット印刷装置3の上流側に配置され、排紙部5はインクジェット印刷装置3の下流側に配置されている。
【0026】
インクジェット印刷装置3は、給紙部1からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ7を上流側に備えている。駆動ローラ7によって給紙部1から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ9に沿って下流側の排紙部5に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ9と排紙部5との間には、駆動ローラ11が配置されている。この駆動ローラ11は、搬送ローラ9上を搬送されている連続紙WPを排紙部5に向かって送り出す。
【0027】
なお、上述した連続紙WPが本発明における「印刷媒体」に相当する。
【0028】
インクジェット印刷装置3は、駆動ローラ7と駆動ローラ11との間に、インクジェットヘッド13と、乾燥部15と、検査部17とを上流側からその順に備えている。乾燥部15は、インクジェットヘッド13によって印刷された連続紙WPの部分を乾燥させる処理を行う。検査部17は、連続紙WPの印刷された領域に汚れや抜け等がないかの検査処理を行う。
【0029】
インクジェットヘッド13は、インク滴を吐出する複数個の吐出部19を備えている。複数個の吐出部19は、連続紙WPの幅方向に列設されている。インクジェットヘッド13は、連続紙の搬送方向に沿って複数個配置されているのが一般的である。例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)について個別に4個のインクジェットヘッド13を備えている。但し、本実施例における以下の説明では、発明の理解を容易にするために、1個のインクジェットヘッド13だけを備えている構成を例にとって説明する。
【0030】
インクジェットヘッド13は、
図2に示すように、連続紙WPが搬送されている搬送路21に直交する方向に長軸が向けられた姿勢で配置されている。また、インクジェットヘッド13は、複数個の吐出部19が連続紙WPの上面から上方へ離間して配置されている。インクジェットヘッド13は、搬送路21の幅程度の長さを有する。図示省略しているが、インクジェットヘッド13は、複数個の吐出部19を閉塞する状態と周囲に開放する状態とに変位可能なキャップを備えている。
【0031】
上述した複数個の搬送ローラ9のうち、インクジェットヘッド13の上流側に配置された搬送ローラ9は、回転軸にロータリエンコーダ23が取り付けられている。このロータリエンコーダ23は、連続紙WPが移動することに伴って搬送ローラ9が回転されるので、それに応じたパルス信号を出力する。つまり、ロータリエンコーダ23は、連続紙WPの搬送速度に応じたパルス信号を出力する。
【0032】
駆動ローラ7,11、インクジェットヘッド13、乾燥部15,検査部17は、制御部25によって統括的に制御される。制御部25は、図示しないCPUやメモリなどで構成されており、連続紙WPを印刷するための印刷データをインクジェットヘッド13に送るとともに、印刷速度やインクジェットヘッド13におけるインク滴の吐出速度等に応じて駆動ローラ7,11の駆動速度を操作する。制御部25は、上述したロータリエンコーダ23のパルス信号を常時入力されており、パルス信号に応じて連続紙WPの搬送速度及び搬送距離を常時算出する。そして、その搬送速度や搬送距離に応じてインクジェットヘッド13からのインク滴の吐出タイミングを調整することにより、連続紙WPの意図した位置へインク滴を吐出させる。
【0033】
なお、上述したロータリエンコーダ23が本発明における「搬送速度検出部」に相当する。
【0034】
制御部25は、設定部27が接続されている。この設定部27は、オペレータによって操作され、解像度や搬送速度などの印刷条件を設定したり、離散的フラッシング条件を設定したりするために用いられる。ここでいう離散的フラッシング条件とは、印刷条件に応じた、連続紙WPの領域ごとにおける離散的フラッシングにおけるインク滴の大きさや、単位面積当たりの吐出量などである。この離散的フラッシング条件を予め印刷条件を考慮して設定しておいて、複数種類の離散的フラッシング条件を記憶させておき、それらの中から任意の離散的フラッシング条件を設定部27で指定できるようになっている。詳細は後述するが、制御部25に備えられたフラッシング制御部26は、指定された離散的フラッシング条件と搬送速度とに応じて離散的フラッシングを制御する。
【0035】
ここで、
図3を参照して、離散的フラッシングの詳細について説明する。なお、
図3は、搬送速度と離散的フラッシングの吐出量のタイムチャートである。
【0036】
図3中における横軸は、連続紙WPの搬送距離であり、上のタイムチャートの縦軸は搬送速度であり、下のタイムチャートの縦軸はインク滴の吐出量である。また、連続紙WP上の符号ACAは連続紙WPの搬送速度が増加している際の連続紙WPの搬送分である加速領域を表し、符号BPAは連続紙WPの搬送速度が増加終了した後から印刷開始までの連続紙WPの搬送分であるジョブ前領域を表し、符号PAは実際に印刷が行われる連続紙WPの搬送分であるジョブ領域を表す。
【0037】
加速領域ACAは、制御部25が、搬送速度=0である搬送距離L0(距離=0)の時点で連続紙WPの搬送を開始した後、搬送距離L0から安定距離だけ搬送された搬送距離L1から、搬送速度が印刷条件に規定された印刷速度VPに達する搬送距離L2までの間の領域である。ジョブ前領域BPAは、搬送速度が印刷速度VPに達した搬送距離L2から搬送距離L3までである。このジョブ前領域BPAにより、搬送速度の安定化が図られる。ジョブ領域PAは、連続紙WPに対して印刷を行なう領域であり、ジョブ前領域BPAの下流側に複数領域にわたって設定されている。具体的には、搬送距離L3〜L4、L4〜L5,L5〜L6、……のそれぞれがジョブ領域PAとなっている。上記の安定距離は、搬送距離L0から搬送距離L1までであって、搬送時の連続紙WPのブレなどの不安定さがなくなるまでに要する搬送距離のことである。
【0038】
なお、上記のジョブ前領域BPAが本発明における「印刷前領域」に相当し、ジョブ前領域BPA及びジョブ領域PAが本発明における「一定速領域」に相当する。
【0039】
上述した離散的フラッシング条件は、例えば、次のように領域ごとに設定されていることが好ましい。
【0040】
加速領域ACAは、インク滴の単位面積当たりの吐出量を第1の吐出量A1に設定され、各ジョブ領域PAは、インク滴の単位面積当たりの吐出量を第2の吐出量A2に設定されている。また、ジョブ前領域BPAは、インク滴の単位面積当たりの吐出量を第3の吐出量A3に設定されている。各領域における単位面積当たりの吐出量の関係は、第1の吐出量A1>第3の吐出量A3>第2の吐出量A2となっている。
【0041】
インク滴の大きさと吐出頻度は、上記の単位面積当たりの吐出量の関係を満たした上で、例えば、次のように設定することが好ましい。
【0042】
加速領域ACAでは、印刷品質に影響がないので、インク滴の吐出頻度が高く設定されるか、インク滴の大きさが大滴とされる。これにより、従来例のように事前ラインフラッシングを実施した際の吐出量に近づけることができるので、離散的フラッシングであっても吐出不良を十分に防止できる。
【0043】
また、一定速領域のうちのジョブ領域PAは、インク滴の大きさが最も小さく、吐出頻度も最も低く設定されている。但し、インク滴の大きさや吐出頻度は、ジョブ領域PAにおける印刷品質に悪影響を与えない範囲で決定することが好ましい。もう一つの一定速領域であるジョブ前領域BPAは、インク滴の大きさが加速領域ACAのものより小さく、ジョブ領域PAのものより大きく、あるいは吐出頻度が加速領域ACAのものより低く、ジョブ領域PAのものよりも高い。
【0044】
次に、
図4を参照して、上述したインクジェット印刷システムにおける動作について説明する。
図4は、動作を示すフローチャートである。なお、オペレータは、これからジョブ領域PAに印刷する製品の印刷条件を設定部27から設定するとともに、設定部27を操作して印刷条件に応じて適切な離散フラッシング条件を選択しているものとする。
【0045】
ステップS1
制御部25は、図示しないキャップをインクジェットヘッド13から取り外し、設定されている印刷条件に応じて駆動ローラ7,11を作動させ、連続紙WPの搬送を開始する。
【0046】
ステップS2
安定距離の搬送が終わったのに応じて処理を分岐する。なお、上記のステップS1と本ステップS2とが、
図3における搬送距離L0と搬送距離L1との間における処理に相当する。
【0047】
ステップS3、S4
フラッシング制御部26は、ロータリエンコーダ23のパルス信号に基づいて、搬送速度が増加しているか否かに基づいて処理を分岐する。搬送速度が増加している場合には、ステップS4において、第1の吐出量で離散的フラッシングを行う。なお、これらのステップS3,S4が
図3における搬送距離L1と搬送距離L2との間における処理に相当する。
【0048】
ステップS5,S6
フラッシング制御部26は、ロータリエンコーダ23のパルス信号に基づいて、搬送速度の増加が終了した場合に、搬送距離からジョブ領域PAの前のジョブ前領域BPAであるか否かに基づいて処理を分岐する。ジョブ前領域BPAである場合には、ステップS6において、第3の吐出量で離散的フラッシングを行う。なお、これらのステップS5,S6が
図3における搬送距離L2と搬送距離L3との間における処理に相当する。
【0049】
ステップS7
フラッシング制御部26は、ロータリエンコーダ23のパルス信号に基づいて、搬送速度の増加が終了し、搬送距離からジョブ領域PAである場合には、第2の吐出量で離散的フラッシングを行う。なお、このステップS8が
図3における搬送距離L3と搬送距離L4、搬送距離L4と搬送距離L5、搬送距離L5と搬送距離L6と、……のそれぞれの間における処理に相当する。
【0050】
ステップS8
制御部25は、ロータリエンコーダ23のパルス信号に基づいて、搬送距離から全てのジョブ領域PAに対する処理を終えたと判断すると、駆動ローラ9,11を操作して連続紙WPの搬送を停止させる。
【0051】
本実施例によると、フラッシング制御部26が、離散的フラッシングを行わせるにあたり、加速領域ACAでは、離散的フラッシングにおける単位面積当たりのインク滴の吐出量を第1の吐出量A1とする。通常、印刷開始前にインクジェットヘッド13の複数個の吐出部19を覆っているキャップが取り外されてから、一定速領域であるジョブ前領域BPAやジョブ領域PAに入るまでに複数個の吐出部19におけるインクの乾燥が進行するが、加速領域ACAにおいても離散的フラッシングを行うことにより吐出不良が防止できる。また、フラッシング制御部26は、一定速領域であるジョブ前領域BPAとジョブ領域PAのうちのジョブ領域PAでは、離散的フラッシングにおける単位面積当たりのインク滴の吐出量を第1の吐出量A1より少ない第2の吐出量A2とするので、印刷物における印刷品質の低下を抑制できつつも、吐出不良が防止できる。したがって、フラッシングページではないので、余分な連続紙WPの消費もなくフラッシングに起因する装置内の汚染を防止でき、余分な手間をかけることなく後工程の処理を行わせることができる。
【0052】
また、フラッシング制御部26は、ジョブ前領域BPAにおいて、離散的フラッシングにおける単位面積当たりのインク滴の吐出量を第1の吐出量A1と第2の吐出量A2との間の第3の吐出量A3とする。これにより、ジョブ前領域BPAの後に設定される、印刷のためのジョブ領域PAの直前に比較的大量のインク滴を吐出させることができるので、印刷開始の直前に吐出不良を解消できる。したがって、ジョブ領域PAにおける印刷を品質高く行うことができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0054】
(1)上述した実施例では、搬送速度検出部としてロータリエンコーダ23を例示したが、本発明は連続紙WPの搬送速度が検出できれば、このような構成に限定されない。
【0055】
(2)上述した実施例では、ジョブ前領域BPAの離散的フラッシングを第3の吐出量A3としているが、印刷条件やインクの特性によっては加速領域ACAにおける第1の吐出量A1と同等に設定してもよい。また、印刷条件やインクの特性によっては、ジョブ領域PAにおける第2の吐出量A2でジョブ前領域BPAの離散的フラッシングを設定してもよい。
【0056】
(3)上述した実施例では、片面印刷を行う装置を例にとって説明したが、本発明は両面印刷を行う装置であっても適用できる。このような装置では、ジョブ領域PAの間にフラッシング用のページを設ける場合に、一方面にラインフラッシングを行い、他方面を上述したような離散的フラッシングを行うようにしてもよい。これにより、両面にラインフラッシングを行うことにより生じる連続紙WPの膨潤や汚損などの不都合を回避するために、一方面を白紙にすることにより生じる吐出不良を防止できる。
【符号の説明】
【0057】
WP … 連続紙
1 … 給紙部
3 … インクジェット印刷装置
5 … 排紙部
7,11 … 駆動ローラ
9 … 搬送ローラ
13 … インクジェットヘッド
23 … ロータリエンコーダ
25 … 制御部
26 … フラッシング制御部
27 … 設定部
ACA … 加速領域
BPA … ジョブ前領域
PA … ジョブ領域
VP … 印刷速度
A1 … 第1の吐出量
A2 … 第2の吐出量
A3 … 第3の吐出量