特許第6612078号(P6612078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6612078ベンゾオキサジン化合物、その製造方法及びベンゾオキサジン樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612078
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】ベンゾオキサジン化合物、その製造方法及びベンゾオキサジン樹脂
(51)【国際特許分類】
   C07D 498/10 20060101AFI20191118BHJP
   C07D 498/22 20060101ALI20191118BHJP
   C08G 14/073 20060101ALI20191118BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   C07D498/10 SCSP
   C07D498/22
   C08G14/073
   C08G73/00
【請求項の数】7
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2015-149956(P2015-149956)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-31071(P2017-31071A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】疇地 基央
(72)【発明者】
【氏名】ナラカス コラナヂイル シニ
(72)【発明者】
【氏名】南 昌樹
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−187242(JP,A)
【文献】 特開2011−075987(JP,A)
【文献】 VIJAYAKUMAR, C. T. et al.,Structurally diverse benzoxazines: synthesis, polymerization, and thermal stability,Designed Monomers and Polymers,2014年,17(1),PP.47-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C08G 14/073
C08G 73/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるベンゾオキサジン化合物。
【化1】
[式(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、エステル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、水酸基を含む炭素数7〜15のアルキル基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、シアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアリール基、エステル基を含む炭素数7〜15のアリール基、水酸基を含む炭素数7〜15のアリール基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアリール基、又はシアノ基を含む炭素数7〜15のアリール基を表す。ただし、R1がフェニル基であることを除く。2及びR3はメチル基を表す。]
【請求項2】
下記式(2)で示されるベンゾオキサジン化合物。
【化2】
[式(2)中、R4は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、エステル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、水酸基を含む炭素数7〜15のアルキル基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、シアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアリール基、エステル基を含む炭素数7〜15のアリール基、水酸基を含む炭素数7〜15のアリール基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアリール基、又はシアノ基を含む炭素数7〜15のアリール基を表す。R5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R5及びR6は同じであっても異なっていてもよい。ただしR5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。]
【請求項3】
ビスフェノールAと超強酸とを加熱反応させて、下記式(3)の化合物を得る工程1と、
該式(3)の化合物、1級アミン、及びパラホルムアルデヒドを有機溶媒中で加熱反応させる工程2と、を有する、
下記式(1)で示されるベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【化3】
[式(3)中、R2及びR3はメチル基を表す。]
【化4】
[式(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、エステル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、水酸基を含む炭素数7〜15のアルキル基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、シアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアリール基、エステル基を含む炭素数7〜15のアリール基、水酸基を含む炭素数7〜15のアリール基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアリール基、又はシアノ基を含む炭素数7〜15のアリール基を表す。ただし、R1がフェニル基であることを除く。2及びR3はメチル基を表す。]
【請求項4】
前記工程2において、1級アミンとパラホルムアルデヒドとを反応させて反応物を得た後、該反応物と式(3)の化合物を反応させる、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
レゾルシノール及びα、β-不飽和ケトン化合物を、有機溶媒中で加熱反応させて、下記式(4)の化合物を得る工程1と、
該式(4)の化合物、1級アミン、及びパラホルムアルデヒドを有機溶媒中で加熱反応させる工程2と、を有する、
下記式(2)で示されるベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【化5】
[式(4)中、R5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R5及びR6は同じであっても異なっていてもよい。ただしR5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。]
【化6】
[式(2)中、R4は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、エステル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、水酸基を含む炭素数7〜15のアルキル基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、シアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアリール基、エステル基を含む炭素数7〜15のアリール基、水酸基を含む炭素数7〜15のアリール基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアリール基、又はシアノ基を含む炭素数7〜15のアリール基を表す。R5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R5及びR6は同じであっても異なっていてもよい。ただしR5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。]
【請求項6】
前記工程2において、1級アミンとパラホルムアルデヒドとを反応させて反応物を得た後、該反応物と式(4)の化合物を反応させる、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のベンゾオキサジン化合物を下記式(11)に示す開環重合により硬化させた樹脂、及び請求項2に記載のベンゾオキサジン化合物を下記式(12)に示す開環重合により硬化させた樹脂から選択される1種以上の樹脂である
ベンゾオキサジン樹脂。
【化7】
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なベンゾオキサジン化合物、その製造方法、及び該ベンゾオキサジン化合物の硬化物であるベンゾオキサジン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物とは、ベンゼン骨格とオキサジン骨格とを有するベンゾオキサジン環を含む化合物を指し、その硬化物(重合物)であるベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性、機械的強度等の物性に優れ、多方面の分野において各種用途用の高性能材料として使用されている。
特許文献1は、特定構造の新規なベンゾオキサジン化合物及びその製造方法を開示し、該ベンゾオキサジン化合物は高い熱伝導率を有すること、並びに該ベンゾオキサジン化合物により高い熱伝導率を有するベンゾオキサジン樹脂硬化物を製造することが可能であることを記載している。
特許文献2は、特定のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有するポリベンゾオキサジン樹脂の反応性末端の一部又は全部を封止した熱硬化性樹脂を開示し、該熱硬化性樹脂は溶媒に溶解した際の保存安定性に優れることを記載している。
【0003】
非特許文献1は、新規なベンゾオキサジン化合物として、インダンビスフェノールベンゾオキサジン及びスピロビインダンビスフェノールベンゾオキサジンを開示し、これらの重合体のガラス転移点等の物性測定結果を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−60407号公報
【特許文献2】特開2012−36318号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.T. Vijayakumar et al. "Structurally diverse benzoxazines: synthesis, polymerization, and thermal stability" Designed Monomers and Polymers, Taylor & Francis 2014 Vol.17, No.1, p.47-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、硬化後に、耐熱性が良好で、熱分解し難く、ガラス転移温度の高い硬化物を得ることができる、新規なベンゾオキサジン化合物及びその製造方法を提供することにある。さらに、その硬化物であるベンゾオキサジン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、耐熱性及び耐熱分解性等に優れる、特定の環構造及び置換基を有するベンゾオキサジン化合物を開発し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、下記式(1)で示されるベンゾオキサジン化合物が提供される。
【化1】
[式(1)中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、エステル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、水酸基を含む炭素数7〜15のアルキル基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、シアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアリール基、エステル基を含む炭素数7〜15のアリール基、水酸基を含む炭素数7〜15のアリール基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアリール基、又はシアノ基を含む炭素数7〜15のアリール基を表す。ただし、R1がフェニル基であることを除く。2及びR3はメチル基を表す。]
【0009】
さらに、本発明によれば、下記式(2)で示されるベンゾオキサジン化合物が提供される。
【化2】
[式(2)中、R4は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、エステル基を含む炭素数7〜15のアルキル基、水酸基を含む炭素数7〜15のアルキル基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、シアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基、カルボキシル基を含む炭素数7〜15のアリール基、エステル基を含む炭素数7〜15のアリール基、水酸基を含む炭素数7〜15のアリール基、アルコキシ基を含む炭素数7〜15のアリール基、又はシアノ基を含む炭素数7〜15のアリール基を表す。R5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R5及びR6は同じであっても異なっていてもよい。ただしR5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。]
【0010】
また、別の観点の本発明によれば、ビスフェノールと超強酸(例えばトリフルオロメタンスルホン酸)とを加熱反応させて、下記式(3)の化合物(2,2',3,3'-tetrahydro-1,1'-spirobi[indene]-6,6'-diol構造を有する化合物)を得る工程と、該下記式(3)の化合物と、1級アミン類(p-トルイジン等)と、パラホルムアルデヒドとを、有機溶媒中で加熱反応させる工程と、を有する、式(1)で示されるベンゾオキサジン化合物の製造方法が提供される。
【化3】
[式(3)中、R2及びR3メチル基を表す。]
【0011】
さらに、別の観点の本発明によれば、レゾルシノールと、α、β−不飽和ケトン化合物とを、酸触媒存在下にて有機溶媒中で加熱反応させて、下記式(4)の化合物(2,2'-spirobi[chroman]-7,7'-diol構造を有する化合物)を得る工程と、該下記式(4)の化合物と、1級アミン類(アニリン等)と、パラホルムアルデヒドとを、有機溶媒中で加熱反応させる工程と、を有する、式(2)で示されるベンゾオキサジン化合物の製造方法が提供される。
【化4】
[式(4)中、R5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R5及びR6は同じであっても異なっていてもよい。ただしR5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。]
【0012】
またさらに、別の観点の本発明によれば、式(1)及び式(2)のベンゾオキサジン化合物から選択される1種以上のベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性樹脂原料化合物を開環重合させた、ベンゾオキサジン樹脂が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の式(1)及び(2)に係るベンゾオキサジン化合物は、スピロビスインダン骨格又はスピロビスクロマン骨格を有し、かつ特定の置換基を有しているので、硬化後の耐熱性が良好で、熱分解し難く、ガラス転移温度が高いという特徴を有している。従って、本発明のベンゾオキサジン化合物を原料として使用して熱硬化させたベンゾオキサジン樹脂は、高耐熱性であり、高温機械強度が非常に高いという優れた特徴を備える。従って、接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の分野の高強度、高耐熱材料として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1に示すBPSPI-PhMe-Bzの1HNMRスペクトル図である。
図2】実施例1に示すBPSPI-PhMe-Bzの13CNMRスペクトル図である。
図3】実施例2に示すBPSPI-PhEtOH-Bzの1HNMRスペクトル図である。
図4】実施例2に示すBPSPI-PhEtOH-Bzの13CNMRスペクトル図である。
図5】実施例3に示すSPBC-Ph-Bzの1HNMRスペクトル図である。
図6】実施例3に示すSPBC-Ph-Bzの13CNMRスペクトル図である。
図7】実施例4に示すSPBC-PhMe-Bzの1HNMRスペクトル図である。
図8】実施例4に示すSPBC-PhMe-Bzの13CNMRスペクトル図である。
図9】実施例5に示すSPBC-PhEtOH-Bzの1HNMRスペクトル図である。
図10】実施例5に示すSPBC-PhEtOH-Bzの13CNMRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の式(1)及び(2)の化合物は、いずれもスピロ原子を有するベンゾオキサジン化合物である点で共通する。
【0016】
まず、式(1)のベンゾオキサジン化合物[以後、単に、式(1)の化合物と称する場合もある]について説明する。
式(1)の化合物は、スピロビスインダン骨格を有し、置換基R1が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、又はカルボキシル基、エステル基、水酸基、アルコキシ基若しくはシアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基若しくはアリール基を表し、R2が、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し、R3が、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3は同じであっても異なっていてもよい(ただし、R2及びR3が共にメチル基の場合、R1がフェニル基であることを除く。)という特徴を有する。
【化5】
【0017】
具体的化合物としては、例えば、以下に示す式(1a)〜(1e)で示される各化合物を例示することができる。
各式中において、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基、及びBuはブチル基を表す。以後、その他の式中においても同じ。
【化6】
【0018】
【化7】
【0019】
【化8】
【0020】
【化9】
【0021】
【化10】
【0022】
次に、式(1)の化合物の製造方法について説明する。
式(1)の化合物は、下記式(3)の化合物と、1級アミン類(p−トルイジン等)及びパラホルムアルデヒドとの、有機溶媒中での加熱反応によって得られる。
【化11】
[式(3)中、R2は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。R3は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R2及びR3は同じであっても異なっていてもよい。]
【0023】
式(3)の化合物の具体例として、下記式(3a)の化合物群を挙げることができる。
【化12】
【0024】
式(3)の化合物は、例えば、R2及びR3が共にメチル基の場合、ビスフェノールAと超強酸類(例えばトリフルオロメタンスルホン酸)とを、下記式(5)のように加熱反応させることによって得られる。
なお、理論的には、ビスフェノール類3モルから、式(3)の化合物1モルが得られる。
【化13】
【0025】
式(5)の反応において、ビスフェノール類と超強酸(例えばトリフルオロメタンスルホン酸)との反応比は、ビスフェノール類1モルに対して、トリフルオロメタンスルホン酸を0.0005〜0.5モルが好ましい。触媒として働くからである。より好ましくは0.001〜0.1モルである。
また、反応温度は100〜200℃が好ましく、130〜160℃がさらに好ましい。反応率が良好だからである。また、反応時間は1〜10時間程度でよい。
【0026】
さらに、式(3)の化合物は、例えば、R2及びR3のいずれかがメチル基以外の場合、式(6)のような2段階の反応にて得ることができる。すなわち、酸性白土(モンモリロナイト等)を触媒として、スピロビスインダンを得た後、フェノール部位の脱保護を行うことで式(3)の化合物を得ることができる。
【化14】
【0027】
式(5)又は(6)の反応により得られた式(3)の化合物を含有する反応生成物は、そのまま、次の式(1)の化合物を得るための反応に用いてもよいが、有機溶媒(トルエン等)を使用して再結晶を行い、高純度の式(3)の化合物とした後に、当該式(3)の化合物を用いて次の反応を行うことが好ましい。式(1)の化合物を高収率で得ることができるからである。
【0028】
以上のようにして得た式(3)の化合物と、1級アミン類[R1-NH2:p−トルイジン、2−(4−アミノフェニル)エタノール等]と、パラホルムアルデヒドとを、下記式(7)に示すように、有機溶媒中で加熱反応させることによって、本発明の式(1)の化合物を得ることができる。また式(1)の化合物の収率を向上するために、生成する水を反応系内から除くことも可能である。
【化15】
【0029】
式(7)の反応において、式(3)の化合物と、1級アミン類及びパラホルムアルデヒドとの反応比は、式(3)の化合物1モルに対して、1級アミン類を2.0〜4.0モル、パラホルムアルデヒドを4.0〜8.0モルとすることが好ましく、1級アミン類を2.0〜3.0モル、パラホルムアルデヒドを4.0〜6.0モルとすることがより好ましい。理論的には式(3)の化合物1モルに対して、1級アミン類、パラムホルムアルデヒドはそれぞれ、2モル、4モル反応して式(1)の化合物が得られるからである。
【0030】
式(7)の反応における、反応溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、含ハロゲン溶媒、含酸素溶媒等を使用することができる。沸点及び生成する水の除去の点で、芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、特に、トルエン、キシレン等が好ましい。
また、反応温度は50℃〜還流温度が好ましく、70℃〜還流温度がさらに好ましい。反応率が良好だからである。また、反応時間は2〜100時間程度でよい。
【0031】
上記説明した製造方法により、例えば、式(3)におけるR2、R3がメチル基である3,3,3',3'-tetramethyl-2,2',3,3'-tetrahydro-1,1'-spirobi[indene]-6,6'-diol(以後、BPSPI-OHと略称することもある。)と、1級アミンとしてp−トルイジンとを用いて式(7)の反応を行うことによって、本発明の式(1)の化合物の一つである6,6,6',6'-tetramethyl-3,3'-di-p-tolyl-3,3',4,4',6,6',7,7'-octahydro-2H,2'H-8,8'-spirobi[indeno[5,6-e][1,3]oxazine(以後、BPSPI-PhMe-Bzと略称することもある。)を含む反応生成物が得られる。
該反応生成物について、有機溶媒(酢酸エチル等)を使用して再結晶を行うことによって、高純度のBPSPI-PhMe-Bzを得ることができる。
再結晶の条件としては、溶媒に、芳香族炭化水素、含ハロゲン溶媒、エステル溶媒、含酸素環状化合物等用いることができる。式(1)の精製前の化合物を、溶媒に5〜30%の割合で加熱下、溶解し、冷却し生成する結晶を濾過等によって回収することで得ることができる。
【0032】
式(1)の化合物において、R1がp−(ヒドロキシエチル)フェニル基であり、R2、R3がメチル基である化合物、6,6,6',6'-tetramethyl-3,3'-di-p-(2-hydroxyethyl)phenyl-3,3',4,4',6,6',7,7'-octahydro-2H,2'H-8,8'-spirobi[indeno[5,6-e][1,3]oxazine(以後、BPSPI-PhEtOH-Bzと略称することもある。)は、式(5)においてp−トルイジンの代わりに、2−(4−アミノフェニル)エタノールを使用することによって製造することができる。
このとき、BPSPI-OHと他原料との反応比、反応溶媒、反応時間、及び反応温度は、上記のBPSPI-PhMe-Bzの製造方法に準拠すればよい。
また、再結晶等の精製もBPSPI-PhMe-Bzの製造方法に準拠すればよい。
【0033】
BPSPI-PhMe-Bz及びBPSPI-PhEtOH-Bz以外の式(1)の化合物も、上記説明した通り、この両化合物と同様にして製造することができ、また、再結晶等の精製もBPSPI-PhMe-Bzで例示した方法に準拠すればよい。
【0034】
以上の様にして得られる、BPSPI-PhMe-Bz及びBPSPI-PhEtOH-Bz等で例示される式(1)の化合物の構造を同定する方法について説明する。
式(1)の化合物は、スピロビスインダン骨格を有し、置換基R1が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、又はカルボキシル基、エステル基、水酸基、アルコキシ基若しくはシアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基若しくはアリール基を表し、R2が、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し、R3が、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す(ただしR2及びR3が共にメチル基の場合、R1がフェニル基であることを除く。)、新規なベンゾオキサジン化合物である。
式(1)の化合物の構造の同定は、元素分析、赤外分光法(IR)、プロトンNMR(1HNMR)、及び13CNMRで行った。元素分析により、各元素の測定値と計算値がほぼ一致すること、IR測定により、特定の特徴的吸収ピークを有するスペクトルを示すこと、並びに両NMR測定によるNMRピークの化学シフト、カップリング及び面積比から、各水素原子、炭素原子が合理的に帰属できること、によって同定し、式(1)の構造であることを確認する。具体的同定方法については、後述の実施例の例示化合物によって説明する。
【0035】
元素分析は、例えば、Yanaco CHN Corder MT-5(Yanaco Group Co., Ltd.製)を使用し、炭素、窒素、及び水素の含有率を分析することができる。
【0036】
IRは、例えば、Thermo Scientific NICOLET iS10 FTIR(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を使用して測定できる。
【0037】
1HNMR、13CNMRは、例えば、JNM ECS400(JEOL RESONANCE Inc.製)を使用して測定できる。
【0038】
つづいて、式(2)のベンゾオキサジン化合物[以後、単に、式(2)の化合物と称する場合もある]について説明する。
式(2)の化合物は、スピロビスクロマン骨格を有し、置換基R4が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、又はカルボキシル基、エステル基、水酸基、アルコキシ基若しくはシアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基若しくはアリール基を表し、R5が、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し、R6が、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R5及びR6は同じであっても異なっていてもよい(ただし、R5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。)という特徴を有する。
【化16】
【0039】
具体的化合物としては、例えば、以下に示す式(2a)〜(2c)で示される各化合物を例示することができる。
【化17】
【0040】
【化18】
【0041】
【化19】
【0042】
次に、式(2)の化合物の製造方法について説明する。
式(2)の化合物は、下記式(4)の化合物と、1級アミン類(アニリン、p−トルイジン等)及びパラホルムアルデヒドとの、有機溶媒中での加熱反応によって得られる。
【化20】
[式(4)中、R5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R5及びR6は同じであっても異なっていてもよい。ただしR5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。]
【0043】
式(4)の化合物の具体例として、下記式(4a)の化合物群を挙げることができる。
【化21】
【0044】
式(4)の化合物は、例えば、レゾルシノール(1,3−ベンゼンジオール)とα、β−不飽和ケトンとを、下記式(8)又は(9)のように、有機溶媒中、酸触媒(例えばプロトン酸、ルイス酸)を使用して反応させることによって得られる。
【化22】
【化23】
【0045】
式(8)の反応において、レゾルシノールとα、β−不飽和ケトンとの反応比は、レゾルシノール1モルに対して、α、β−不飽和ケトンを0.1〜1.5モルが好ましい。ただし副生成物を抑制するため、より好ましくは0.2〜1.0モルである。理論的にはレゾルシノール2モルと不飽和ケトン1モルが反応して1モルの式(4)の化合物が得られるからである。
【0046】
式(9)の反応において、レゾルシノールとα、β−不飽和ケトンとの反応比は、レゾルシノール1モルに対して、α、β−不飽和ケトンを0.1〜1.5モルが好ましい。ただし副生成物を抑制するため、より好ましくは0.2〜1.0モルである。理論的にはレゾルシノール2モルと不飽和ケトン1.5モルが反応して1モルの式(4)の化合物が得られるからである。
式(8)及び(9)の反応は、いずれも触媒として、ルイス酸を使用することができ、好ましくは金属ハロゲン化物を用いる。より好ましくは、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、塩化銅(I)である。
【0047】
式(8)及び(9)の反応における、反応溶媒は有機溶媒を使用することができる。沸点及び反応物の溶解性の点で、芳香族系溶媒が好ましく、特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等が好ましい。
また、反応温度は室温〜還流温度が好ましく、50℃〜還流温度がさらに好ましい。反応率が良好だからである。また、反応時間は2〜24時間程度でよい。
【0048】
式(8)及び(9)の反応により得られた式(4)の化合物を含有する反応生成物は、そのまま、次の式(2)の化合物を得るための反応に用いてもよいが、有機溶媒(クロロホルム等)を使用して再結晶を行い、高純度の式(4)の化合物とした後に、次の反応を行うことが好ましい。式(2)の化合物を高収率で得ることができるからである。
【0049】
以上のようにして得た式(4)の化合物と、1級アミン類(アニリン、p−トルイジン等)と、パラホルムアルデヒドとを、下記式(10)に示すように、有機溶媒中で加熱反応させることによって、本発明の式(2)の化合物を得ることができる。
【化24】
【0050】
式(10)の反応において、式(4)の化合物と、1級アミン類と、パラホルムアルデヒドとの反応比は、式(4)の化合物1モルに対して、1級アミン類を2.0〜4.0モル、パラホルムアルデヒドを4.0〜8.0モルとすることが好ましく、1級アミン類を2.0〜3.0モル、パラホルムアルデヒドを4.0〜6.0モルとすることがより好ましい。理論的には式(4)の化合物に1モルに対して、1級アミン類、パラムホルムアルデヒドはそれぞれ、2モル、4モル反応して式(2)の化合物が得られるからである。
【0051】
式(10)の反応における、反応溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、含ハロゲン溶媒、含酸素溶媒等を使用することができる。沸点及び生成する水の除去の点で、芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、特に、トルエン、キシレン等が好ましい。
また、反応温度は50℃〜還流温度が好ましく、70℃〜還流温度がさらに好ましい。反応率が良好だからである。また、反応時間は2〜100時間程度でよい。
【0052】
以上、説明した製造方法により、本発明の式(2)の化合物を含む反応生成物が得られる。該反応生成物について、有機溶媒(ヘキサン等)を使用して再結晶を行うことによって、高純度の(2)の化合物を得ることができる。
また、再結晶に先立ち、カラムクロマトグラフィーによってプレ精製を行ってもよい。このとき、カラムクロマトグラフィーは定法により行うことができ、例えば、充填剤としてシリカゲルを使用することができる。シリカゲルとしては、Silica Gel 60(粒径;60−200μm、Merck社製)を例示することができ、例えば、サンプル量1gに対して、20g〜100gのシリカゲルを用いことが好ましい。
また、展開溶媒としては、酢酸エチル、ヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム等を使用することができる。
【0053】
以上の様にして得られる、式(2)の化合物の構造を同定する方法について説明する。
式(2)の化合物は、スピロビスクロマン骨格を有し、置換基R4が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基若しくはアルキニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、又はカルボキシル基、エステル基、水酸基、アルコキシ基若しくはシアノ基を含む炭素数7〜15のアルキル基若しくはアリール基を表し、R5が、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表し、R6が、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す(ただし、R5がアリール基の場合、R6は水素原子を表す。)、新規なベンゾオキサジン化合物である。
式(2)の化合物の構造の同定は、式(1)の化合物と同様に、元素分析、赤外分光法(IR)、プロトンNMR(1HNMR)、及び13CNMRで行い、式(2)の構造であることを確認する。具体的同定方法については、後述の実施例の例示化合物によって説明する。
【0054】
本発明のベンゾオキサジン化合物は、熱硬化(開環重合)させることによって耐熱性に優れる新規なベンゾオキサジン樹脂を製造することができる。熱硬化は、式(1)の化合物単独、式(2)の化合物単独、及び式(1)と(2)の化合物の混合物、いずれでも良い。
また、式(1)及び(2)の化合物以外の、公知のベンゾオキサジン化合物との混合物を熱硬化させてもよい。さらには、ベンゾオキサジン化合物以外の、熱硬化性樹脂用原料化合物も含めて熱硬化させてもよい。
【0055】
式(1)及び式(2)の化合物の熱硬化による硬化物(硬化樹脂)は、次のように製造することができる。式(1)、(2)の化合物共に通常のベンゾオキサジンと同様の硬化条件にて、開環重合を行い硬化することができる。例えば、式(1)、(2)の化合物を単独で、180〜300℃にて、30分間〜10時間加熱することで、硬化物を得ることができる。また、開始剤として、フェノール化合物、ルイス酸、スルホン酸類、カチオン発生剤等を用いることができ、150〜300℃にて、30分間〜10時間の加熱することで硬化物を得ることができる。また、それぞれ他のベンゾオキサジン化合物と混合して硬化反応を行うことで、硬化物を得ることができる。さらに、他の熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂等)の原料と共硬化を行い、硬化物を得ることができる。
【0056】
硬化反応例として、式(1)の化合物単独での硬化反応を式(11)に、式(2)の化合物単独での硬化反応を式(12)に示す。
【化25】
【0057】
【化26】
【0058】
式(1)及び(2)の化合物から得られる硬化物はいずれも、DSC(示差走査熱量測定)でのガラス転移点が290℃以上、また、TGA(熱重量分析)での10%重量減量温度(Td10)が、360℃以上と高く、耐熱性に優れている。
ここで、DSCは、例えば、DSC-6200(Seiko Instrument Inc.製)、を使用し、N2流量;20mL/分、昇温速度:10℃/分の条件で測定することができる。また、TGAは、例えば、TG-DTA 6200(Seiko Instrument Inc.製)、を使用し、N2流量;50mL/分、昇温速度;10℃/分の条件で測定することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、製造方法は一例であり、本発明に係るベンゾオキサジン化合物は、下記製造方法により限定されるものではない。
各実施例の化合物の同定には次の装置を使用した。
・元素分析;Yanaco CHN Corder MT-5(Yanaco Group Co., Ltd.製)
・IR;Thermo Scientific NICOLET iS10 FTIR(Thermo Fisher Scientific Inc.製)
1HNMR、13CNMR;JNM ECS400(JEOL RESONANCE Inc.製)
・DSC;DSC-6200(Seiko Instrument Inc.製)
・TGA;TG-DTA 6200(Seiko Instrument Inc.製)
【0060】
実施例1
<式(1)の化合物[R1;p−(メチル)フェニル基、R2、R3;メチル基)[1];6,6,6',6'-tetramethyl-3,3'-di-p-tolyl-3,3',4,4',6,6',7,7'-octahydro-2H,2'H-8,8'-spirobi[indeno[5,6-e][1,3]oxazine(BPSPI-PhMe-Bz)>
1.合成
1−1.3,3,3',3'-tetramethyl-2,2',3,3'-tetrahydro-1,1'-spirobi[indene]-6,6'-diol(BPSPI-OH)の合成
BPSPI-PhMe-Bzの中間原料であるBPSPI-OHを次のようにして合成した。
ビスフェノールA 50g(219mmol)とトリフルオロメタンスルホン酸 0.05g(0.562mmol)をフラスコに入れ、145℃で4時間反応させた。反応後、室温まで冷却し、蒸留水1Lをフラスコに加えて反応物を析出させた。析出物を再度蒸留水中で12時間撹拌し、ろ過後、ろ過物を80℃で12時間減圧乾燥させた。トルエンで再結晶を二度行い、80℃で12時間減圧乾燥させることで白色の結晶を得た(収率:57%)。
【0061】
上記中間原料BPSPI-OHの合成法を下記式(5a)に示す。
【化27】
BPSPI-OHであることは、得られた白色結晶の1HNMR及び13CNMRを測定し、各元素の帰属により確認した。帰属結果を式(13)及び表1に示す。なお、NMRはいずれも重クロロホルムに溶解して測定した。
【化28】
【0062】
【表1】
【0063】
1−2.BPSPI-PhMe-Bzの合成
1−1.で合成したBPSPI-OH 5g(16mmol)、p−トルイジン 3.47g(32mmol)、パラホルムアルデヒド 1.94g(64mmol)、及びトルエン 50mLをフラスコに入れて混合し、48時間還流した。つづいて、室温まで冷却した後、析出した黄色の結晶をろ過により回収し、酢酸エチルで二度再結晶を行い、60℃で12時間減圧乾燥後、白色の結晶を得た(収率;49%)。
【0064】
BPSPI-PhMe-Bzの合成法を下記式(7a)に示す。
【化29】
【0065】
2.BPSPI-PhMe-Bzの同定:各種分析、測定
以上の様にして合成した化合物が、BPSPI-PhMe-Bzであることは、得られた白色結晶の元素分析、IR測定、並びに1HNMR及び13CNMR測定によって確認した。これらの分析及び測定は、上記の各装置を使用し、常法により測定した。さらに、上記DSC装置を用い、N2流量;20mL/分、昇温速度;10℃/分の条件で融点を測定した。分析及び測定結果を以下、及び表2に示す。
【0066】
元素分析(C39H42N2O2として)
・測定値:C;82.17、H;7.45、N;4.96
・計算値:C;82.07、H;7.42、N;4.91
IR測定
・2947,2855cm-1;(C−H:脂肪族)
・1212,1066cm-1;(C−O−C)
・1188cm-1;(C−N−C)
・948,912cm-1;(C−H:オキサジン環に結合しているベンゼン環)
融点:209℃
【0067】
1HNMR及び13CNMR測定
NMR測定による帰属結果を式(1−1)、表2及び図1,2に示す。なお、NMRはいずれも重クロロホルムに溶解して測定した。
【化30】
【0068】
【表2】
【0069】
3.ベンゾオキサジン樹脂A(BPSPI-PhMe-Bzの硬化物)の合成
窒素気流中、260℃で1時間15分間加熱して開環重合(ROP)させ、ベンゾオキサジン樹脂Aを得た。硬化反応を下記式(11a)に示す。
【化31】
【0070】
4.ベンゾオキサジン樹脂Aの物性
ベンゾオキサジン樹脂AのDSCでの、ガラス転移点は295℃、また、TGAでの10%重量減量温度(Td10)は397℃であった。DSC及びTGAは上記した装置を用い、次の測定条件で測定した。
・DSC;N2流量;20mL/分、昇温速度:10℃/分
・TGA;N2流量;50mL/分、昇温速度;10℃/分
【0071】
実施例2
<式(1)の化合物[R1;p−(ヒドロキシエチル)フェニル基、R2、R3;メチル基][2];
2,2'-((6,6,6',6'-tetramethyl-6,6',7,7'-tetrahydro-2H,2'H-8,8'-spirobi[indeno[5,6-e][1,3]oxazin]-3,3'(4H,4'H)-diyl)bis(4,1-phenylene))diethanol(BPSPI-PhEtOH-Bz)>
1.合成;BPSPI-PhEtOH-Bzの合成
BPSPI-OH 5g(16mmol)、2−(4−アミノフェニル)エタノール 4.45g(32mmol)、パラホルムアルデヒド 1.94g(64mmol)、及びトルエン 50mLをフラスコに入れて混合し、10時間還流した。つづいて、室温まで冷却した後、析出物をろ過により回収し、エタノールで洗浄した。その後、再結晶を2度行い(1回目;THF、2回目;THF/ヘキサン=7/3)、得られた結晶を加熱したメタノールで3回洗浄し、乾燥させて白色の結晶を得た。[収量;3.2g(5.07mmol)、収率;31%]
【0072】
BPSPI-PhEtOH-Bzの合成法を下記式(7b)に示す。
【化32】
【0073】
2.BPSPI-PhEtOH-Bzの同定:各種分析、測定
以上の様にして合成した化合物が、BPSPI-PhEtOH-Bzであることは、得られた白色結晶の元素分析、IR測定、並びに1HNMR及び13CNMR測定によって確認した。これらの分析及び測定は、上記の各装置を使用し、常法により測定した。さらに、実施例1と同様にその融点を測定した。分析及び測定結果を以下、及び表3に示す。
【0074】
元素分析(C41H46N2O4として)
・測定値:C;77.75、H;7.38、N;4.39
・計算値:C;78.06、H;7.35、N;4.44
IR測定
・3558,3468cm-1;(O−H)
・2954,2929,2854cm-1;(C−H:脂肪族)
・1211,1068cm-1;(C−O−C)
・1190cm-1;(C−N−C)
・949cm-1;(C−H:オキサジン環に結合しているベンゼン環)
融点:249℃
【0075】
NMR測定による帰属結果を式(1−2)、表3及び図3,4に示す。なお、NMRはいずれもDMSO−d6に溶解して測定した。
【化33】
【0076】
【表3】
【0077】
3.ベンゾオキサジン樹脂B(BPSPI-PhEtOH-Bzの硬化物)の合成
BPSPI-PhEtOH-Bzを窒素気流中、250℃で1時間加熱して開環重合させ、ベンゾオキサジン樹脂Bを得た。硬化反応を下記式(11b)に示す。
【0078】
【化34】
【0079】
4.ベンゾオキサジン樹脂Bの物性
ベンゾオキサジン樹脂BのDSCでの、ガラス転移点は299℃、また、TGAでの10%重量減量温度(Td10)は376℃であった。DSC及びTGAは上記した装置を用い、実施例1と同じ測定条件で測定した。
【0080】
実施例3
<式(2)の化合物(R4;フェニル基、R5、R6;メチル基)[1];6,6,6',6'-tetramethyl-3,3'-diphenyl-3,3',4,4',6,6',7,7'-octahydro-2H,2'H-8,8'-spirobi[chromeno[6,7-e][1,3]oxazine](SPBC-Ph-Bz)>
1.合成
1−1.4,4,4',4'-tetramethyl-2,2'-spirobi[chroman]-7,7'-diol(SPBC-OH)の合成
SPBC-Ph-Bzの中間原料であるSPBC-OHを次のようにして合成した。
500mLの二口フラスコにレゾルシノール 27.5g(249mmol)、FeCl3 2.7g(16mmol)、トルエン 100mLを加えて撹拌した。ここへ、メシチルオキシド 6.4g(65mmol)を滴下し、80℃で12時間反応させた。所定時間経過後、冷却せずに溶液のみをデカンテーションにより回収し、室温まで冷却した。冷却した溶液を蒸留水で3回洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ過後、溶液を濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=3/7)による精製、及び再結晶(溶媒:クロロホルム)を行うことで白色の結晶を得た。[収量;6.2g(18.2mmol)、収率;14.6%]
【0081】
上記中間原料SPBC-OHの合成法を下記式(9a)に示す。
【化35】
SPBC-OHであることは、得られた白色結晶の1HNMR及び13CNMRを測定し、各元素の帰属により確認した。帰属結果を式(14)及び表4に示す。なお、NMRはいずれも重クロロホルムに溶解して測定した。
【化36】
【0082】
【表4】
【0083】
1−2.SPBC-Ph-Bzの合成
100mLフラスコへ、1−1.で合成したSPBC-OH 2g(5.87mmol)、アニリン1.09g(11.75mmol)、パラホルムアルデヒド 0.70g(23.5mmol)、p−キシレン 30mLを加えて混合した。該混合溶液を130℃で15時間反応させた。その後、溶媒を除去し、残渣をカラムクロマトグラフィー1(展開溶媒:ジクロロメタン/ヘキサン=7/3)で精製し、つづいて、カラムクロマトグラフィー2(展開溶媒:クロロホルム/ヘキサン=7/3)でさらに精製を行い、最後に、再結晶(溶媒:ヘキサン)を行うことで白色の結晶を得た。[収量;1.26g(2.19mmol)、収率;37%]
【0084】
SPBC-Ph-Bzの合成法を下記式(10a)に示す。
【化37】
【0085】
2.SPBC-Ph-Bzの同定:各種分析、測定
以上の様にして合成した化合物が、SPBC-Ph-Bzであることは、得られた白色結晶の元素分析、IR測定、並びに1HNMR及び13CNMR測定によって確認した。これらの分析及び測定は、上記の各装置を使用し、常法により測定した。さらに、実施例1と同様にその融点を測定した。分析及び測定結果を以下、及び表5に示す。
【0086】
元素分析(C37H38N2O4として)
・測定値:C;77.35、H;6.59、N;4.88
・計算値:C;77.33、H;6.66、N;4.87
IR測定
・2954,2928,2859cm-1;(C−H:脂肪族)
・1252,1037cm-1;(C−O−C)
・1165cm-1;(C−N−C)
・968,943,915cm-1;(C−H:オキサジン環に結合しているベンゼン環)
融点:186℃
【0087】
1HNMR及び13CNMR測定
NMR測定による帰属結果を式(2−1)、表5及び図5,6に示す。なお、NMRはいずれも重クロロホルムに溶解して測定した。
【化38】
【0088】
【表5】
【0089】
3.ベンゾオキサジン樹脂C(SPBC-Ph-Bzの硬化物)の合成
窒素気流中、270℃で1時間加熱して開環重合(ROP)させ、ベンゾオキサジン樹脂Cを得た。硬化反応を下記式(12a)に示す。
【化39】
【0090】
4.ベンゾオキサジン樹脂Cの物性
ベンゾオキサジン樹脂CのDSCでの、ガラス転移点は323℃、また、TGAでの10%重量減量温度(Td10)は377℃であった。DSC及びTGAは上記した装置を用い、実施例1と同じ測定条件で測定した。
【0091】
実施例4
<式(2)の化合物[R4;p−(メチル)フェニル基、R5、R6;メチル基)[2];6,6,6',6'-tetramethyl-3,3'-di-p-tolyl-3,3',4,4',6,6',7,7'-octahydro-2H,2'H-8,8'-spirobi[chromeno[6,7-e][1,3]oxazine](SPBC-PhMe-Bz)>
1.合成;SPBC-PhMe-Bzの合成
SPBC-OH 2g(5.87mmol)、p−トルイジン 1.26g(11.75mmol)、パラホルムアルデヒド 0.70g(23.5mmol)、p−キシレン 30mLをフラスコに入れて混合し、130℃で15時間反応させる。溶媒を除去後、残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:1回目ジクロロメタン/ヘキサン=4/6、2回目クロロホルム/ヘキサン=7/3)で2度精製し、次に、再結晶(溶媒:ヘキサン)を行うことで白色の結晶を得た。[収量;1.46g(2.42mmol)、収率;41%]
【0092】
SPBC-PhMe-Bzの合成法を下記式(10b)に示す。
【化40】
【0093】
2.SPBC-PhMe-Bzの同定:各種分析、測定
以上の様にして合成した化合物が、SPBC-PhMe-Bzであることは、得られた白色結晶の元素分析、IR測定、並びに1HNMR及び13CNMR測定によって確認した。これらの分析及び測定は、上記の各装置を使用し、常法により測定した。さらに、実施例1と同様にその融点を測定した。分析及び測定結果を以下、及び表6に示す。
【0094】
元素分析(C39H42N2O4として)
・測定値:C;77.91、H;7.14、N;4.68
・計算値:C;77.71、H;7.02、N;4.65
IR測定
・2955,2921,2891,2867cm-1;(C−H:脂肪族)
・1241,1035cm-1;(C−O−C)
・1165cm-1;(C−N−C)
・934,923,912cm-1;(C−H:オキサジン環に結合しているベンゼン環)
融点:166℃、186℃(異性体または結晶構造の相違によるものと考えられる。)
【0095】
NMR測定による帰属結果を式(2−2)、表6及び図7,8に示す。なお、NMRはいずれも重クロロホルムに溶解して測定した。
【化41】
【0096】
【表6】
【0097】
3.ベンゾオキサジン樹脂D(SPBC-PhMe-Bzの硬化物)の合成
窒素気流中、270℃で1時間加熱して開環重合(ROP)させ、ベンゾオキサジン樹脂Dを得た。硬化反応を下記式(12b)に示す。
【化42】
【0098】
4.ベンゾオキサジン樹脂Dの物性
ベンゾオキサジン樹脂DのDSCでの、ガラス転移点は332℃、また、TGAでの10%重量減量温度(Td10)は372℃であった。DSC及びTGAは上記した装置を用い、実施例1と同じ測定条件で測定した。
【0099】
実施例5
<式(2)の化合物[R4;p−(ヒドロキシエチル)フェニル基、R5、R6;メチル基)[3];2,2'-((6,6,6',6'-tetramethyl-6,6',7,7'-tetrahydro-2H,2'H-8,8'-spirobi[chromeno[6,7-e][1,3]oxazin]-3,3'(4H,4'H)-diyl)bis(4,1-phenylene))diethanol(SPBC-PhEtOH-Bz)>
1.合成;SPBC-PhEtOH-Bzの合成
SPBC-OH 2g(5.87mmol)、2−(4−アミノフェニル)エタノール 1.61g(11.75mmol)、パラホルムアルデヒド 0.70g(23.5mmol)、トリエチルアミン 0.594g(5.87mmol)、1,4−ジオキサン 20mLをフラスコに入れて混合し、90℃で8時間反応させた。次に、室温まで冷却し、溶媒を除去した後、残渣をクロロホルムに溶解させて炭酸ナトリウム水溶液と水で洗浄した。クロロホルムを濃縮後、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=3/2)で精製し、さらに、メタノールで再結晶を2度行うことで白色結晶を得た。[収量;0.42g(0.634mmol)、収率;10%)]
【0100】
SPBC-PhEtOH-Bzの合成法を下記式(10c)に示す。
【化43】
【0101】
2.SPBC-PhEtOH-Bzの同定:各種分析、測定
以上の様にして合成した化合物が、SPBC-PhEtOH-Bzであることは、得られた白色結晶の元素分析、IR測定、並びに1HNMR及び13CNMR測定によって確認した。これらの分析及び測定は、上記の各装置を使用し、常法により測定した。さらに、実施例1と同様にその融点を測定した。分析及び測定結果を以下、及び表2に示す。
【0102】
元素分析(C41H46N2O6として)
・測定値:C;74.14、H;7.01、N;4.22
・計算値:C;74.30、H;7.00、N;4.23
IR測定
・3562cm-1;(O−H)
・2989,2964,2935,2864cm-1;(C−H:脂肪族)
・1248,1032cm-1;(C−O−C)
・1166cm-1;(C−N−C)
・944,924,912cm-1;(C−H:オキサジン環に結合しているベンゼン環)
融点:205℃
【0103】
NMR測定による帰属結果を式(2−3)、表7及び図9,10に示す。なお、NMRはいずれも重クロロホルムに溶解して測定した。
【化44】
【0104】
【表7】
【0105】
3.ベンゾオキサジン樹脂E(SPBC-PhEtOH-Bzの硬化物)の合成
SPBC-PhEtOH-Bzを窒素気流中、270℃で1時間加熱して開環重合させ、ベンゾオキサジン樹脂Eを得た。硬化反応を下記式(12c)に示す。
【化45】
【0106】
4.ベンゾオキサジン樹脂Eの物性
ベンゾオキサジン樹脂EのDSCでの、ガラス転移点は305℃、また、TGAでの10%重量減量温度(Td10)は365℃であった。DSC及びTGAは上記した装置を用い、実施例1と同じ測定条件で測定した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のベンゾオキサジン化合物は、熱硬化性樹脂として使用可能である。特に、密着性・硬化時の低収縮性・高耐熱性等の物性が要求される分野で使用可能である。例えば、複合材料向けのマトリックス樹脂、電子分野における封止材、積層板等、塗料、接着剤等に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10