(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612427
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】緩衝ストッパ
(51)【国際特許分類】
F16F 7/00 20060101AFI20191118BHJP
F16F 1/377 20060101ALI20191118BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20191118BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
F16F7/00 F
F16F1/377
F16F15/08 B
B62D3/12 511
B62D3/12 503C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-505781(P2018-505781)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007608
(87)【国際公開番号】WO2017159332
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-49278(P2016-49278)
(32)【優先日】2016年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】水町 昭二
【審査官】
鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−012663(JP,A)
【文献】
特開2008−024076(JP,A)
【文献】
特開2014−100935(JP,A)
【文献】
特開2005−047341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00,
1/00− 6/00,
15/00− 15/36
B62D 3/00− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成された端面とこのハウジングに対して軸方向相対移動可能な軸に形成された端面との間に配置されたゴム弾性体からなる緩衝体と、
この緩衝体の外周面を包囲するように設けられ、前記緩衝体の径方向拡張変形によって前記ハウジングの内周面に接触可能な耐摩耗シートと、
を備え、前記耐摩耗シートは、伸縮性を有する布からなることを特徴とする緩衝ストッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の操舵装置におけるステアリングラックの端部に緩衝手段として取り付けられる緩衝ストッパに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両の操舵装置のステアリングラックとラックハウジングのように、軸とハウジングが軸方向へ互いに衝突し得る機器には、衝撃による騒音や破損を防止することを目的として、緩衝ストッパが設けられている。
【0003】
図5は、従来の技術による緩衝ストッパを装着状態で示すものである。この
図5において、参照符号200はハウジング、参照符号300はこのハウジング200に軸方向往復動自在に挿通された軸である。緩衝ストッパ100は、軸300の拡径部301の端面301aと、これに軸方向に対向するハウジング200のフランジ部201の端面201aとの間に配置されており、ハウジング200側の端面201aに当接される金属環101及び軸300側の端面301aに当接される金属環102と、これら金属環101,102の間に一体的に設けられゴム弾性体(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる緩衝体103を備える。
【0004】
すなわち、この種の緩衝ストッパ100は、ハウジング200に対して軸方向往復動する軸300がそのストロークエンドに達する過程で、緩衝体103が、ハウジング200側の端面201aに当接された金属環101と、軸300側の端面301aに当接された金属環102との間で軸方向へ圧縮変形されることにより衝撃を緩和するものである(例えば下記の特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−133102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、緩衝ストッパ100による緩衝は、軸300の質量と移動速度による運動エネルギーを、ゴム弾性体からなる緩衝体103の圧縮に対する反力と変位により吸収することにより行われるもので、縦軸に反力、横軸に変位量を取った
図6に示すように、吸収可能なエネルギー量の大きさは、緩衝体103の特性線と横軸との間のハッチングされた領域の面積として表すことができる。このため、吸収可能なエネルギー量を大きくするには、緩衝体103の最大圧縮変位量を大きくするか、反力(ばね定数)を大きくすることによって、
図6におけるハッチングされた領域の面積を大きくすることが一般的である。
【0007】
しかしながら、この種の緩衝ストッパ100は、操舵装置等の緩衝対象機器の構造上、許容スペースの制限が厳しい場合、吸収可能なエネルギー量を大きくする手段として単純に緩衝体103の体積を大きくすることができないため、緩衝体103にばね定数の高いゴム弾性体を採用するのが一般的である。しかしながら、ゴム弾性体のばね定数にも限度があるため、十分に高い反力を得ることが困難な場合があり、吸収可能なエネルギー量を十分に大きくすることができないといった問題がある。
【0008】
また、緩衝体103が軸方向への圧縮を受けたときに、その外周面がハウジング200の大径筒部202の内周面202aと接触されるようにし、すなわち緩衝体103の圧縮に伴う径方向拡張変形を制限することによって、圧縮反力の確保を図ったものもあるが、この場合、ハウジング200の大径筒部202の内周面202aと繰り返し摺動することによって緩衝体103の外周面が摩耗し、このため
図6に示す特性線における小変位側の線形的な領域と、大変位側の非線形な領域との遷移点Pが大変位側へ移動し、この所定変位量における反力が低下してしまい、あるいは所定の軸方向荷重入力時の変位量が増大してしまうといった特性変化を生じる懸念がある。
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、特性変化をきたすことなく、しかも吸収可能なエネルギー量を増大させることの可能な緩衝ストッパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明
の緩衝ストッパは、ハウジングに形成された端面とこのハウジングに対して軸方向相対移動可能な軸に形成された端面との間に配置されたゴム弾性体からなる緩衝体と、この緩衝体の外周面を包囲するように設けられ、前記緩衝体の径方向拡張変形によって前記ハウジングの内周面に接触可能な耐摩耗シートと、を備え
、前記耐摩耗シートは、伸縮性を有する布からなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る緩衝ストッパによれば、緩衝体は、軸方向圧縮に伴う外径方向への拡張変形が耐摩耗シートにより抑制されるので、圧縮反力が大きくなって、吸収可能なエネルギー量を増大させることができると共に、ハウジングの内周面との接触による緩衝体の外周面の摩耗が耐摩耗シートによって防止されるので、特性の悪化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る緩衝ストッパの第一の実施の形態を示す無負荷状態の断面図である。
【
図2】本発明に係る緩衝ストッパの第一の実施の形態を示す緩衝体の圧縮状態の断面図である。
【
図3】本発明に係る緩衝ストッパの特性を従来の技術に係る緩衝ストッパの特性と比較して示す特性線図である。
【
図4】本発明に係る緩衝ストッパの第二の実施の形態を示す無負荷状態の断面図である。
【
図5】従来の技術に係る緩衝ストッパの一例を示す断面図である。
【
図6】従来の技術に係る緩衝ストッパの特性を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る緩衝ストッパの好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。まず
図1は、本発明に係る緩衝ストッパの第一の実施の形態を示すものである。
【0015】
図1において、参照符号1は緩衝ストッパ、2はハウジングで、例えば車両の操舵装置におけるラックハウジングであり、3はこのハウジング2に軸方向往復動自在に挿通された軸で、例えば車両の操舵装置におけるステアリングラックである。軸3の端部には拡径部31が形成されている。拡径部31の端面31aと軸方向に対向するフランジ部21と、その外径部から軸3の端部側へ向けて延び、内径が軸3の拡径部31よりも大径の大径筒部22が形成されている。
【0016】
緩衝ストッパ1は、軸3に外挿されると共に、ハウジング2のフランジ部21における軸3の拡径部31側を向いた端面21aと、軸3の拡径部31の端面31aとの間に配置されている。そしてこの緩衝ストッパ1は、ハウジング2のフランジ部21の端面21aに当接される金属環11及び軸3の拡径部31の端面31aに当接される金属環12と、これら金属環11,12の間に一体的に設けられた緩衝体13と、この緩衝体13の外周面に設けられた耐摩耗シート14と、を備える。
【0017】
緩衝ストッパ1における金属環11,12は、金属板を打ち抜いて製作されたものであって、平ワッシャ状に形成されている。
【0018】
緩衝ストッパ1における緩衝体13はゴム弾性体(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で環状に成形されたものであって、金属環11,12の間に一体的に加硫接着されている。
【0019】
緩衝ストッパ1における耐摩耗シート14は、耐摩耗性に優れた合成繊維等の織布からなるものであって、メリヤス織や2重織のように伸縮性を有するように織られたものが好適に採用され、緩衝体13の外周面全面を包囲するように、周方向無端状に設けられている。そして、ハウジング2の大径筒部22の内周面22aと緩衝体13の外周面との径方向距離は、緩衝ストッパ1が外挿された軸3の外周面と緩衝体13の内周面との径方向距離よりも小さく、このため耐摩耗シート14は、緩衝体13が軸方向圧縮を受けたときの径方向拡張変形によって、ハウジング2の大径筒部22の内周面22aと接触可能となっている。
【0020】
以上のように構成された緩衝ストッパ1において、ハウジング2に対して軸3が緩衝体13を圧縮する方向へ軸方向相対移動すると、緩衝体13は、ハウジング2のフランジ部21の端面21aに当接された金属環11と、軸3の拡径部31の端面31aに当接された金属環12との間で軸方向へ圧縮変形されると共に径方向へ拡張変形する。そして、緩衝体13の外周面に設けられた耐摩耗シート14は伸縮性を有する織物からなるため、緩衝体13の外径方向への拡張変形を許容する。したがって緩衝体13の軸方向圧縮による応力が径方向拡張変形によって緩和され、すなわち
図3に示すように、変位量の小さい圧縮初期はばね定数が低く(特性線の傾きが小さく)抑えられるので、ハウジング2と軸3との間の衝撃を有効に吸収することができる。
【0021】
次に、緩衝体13の外周面に設けられた耐摩耗シート14が、緩衝体13の径方向拡張変形によって、
図2に示すように、やがてハウジング2の大径筒部22の内周面22aに当接すると、これによって緩衝体13の径方向拡張変形が抑制されるので、軸方向圧縮による応力が高まり、このため、
図3に示すように、圧縮変位量がある程度大きくなった時点でばね定数が非線形的に上昇し(特性線の傾きが大きくなり)、ハウジング2と軸3の軸方向相対変位を有効に規制することができる。
【0022】
ここで、耐摩耗シート14は上述のように伸縮性を有するものではあるが、緩衝体13の外周面全周を包囲するように設けられることによって、緩衝体13の径方向拡張変形をある程度抑える作用を有する。このため圧縮初期のばね定数が、
図3に破線で示す従来の緩衝ストッパに比較してやや高い(特性線の傾きがやや大きい)ものとなり、その分、特性線と横軸との間のハッチングされた領域の面積が大きくなる。したがって、緩衝ストッパ1によって吸収可能なエネルギー量を増大させる作用を有する。
【0023】
しかも、耐摩耗シート14は、緩衝体13の外周面がハウジング2の大径筒部22の内周面22aと摺動を伴いながら圧接することによって摩耗するのを防止することができ、このため、
図3に示す特性線における小変位側の線形的な領域と、大変位側の非線形な領域との遷移点Pが、緩衝体13の摩耗によって大変位側へ移動してしまうことがなく、したがって、所定変位量における反力の低下や、あるいは所定の軸方向荷重入力時の変位量の増大といった特性の悪化を生じない。
【0024】
なお、上述の構成では、耐摩耗シート14は、緩衝体13の外周面全面を包囲するものとしたが、例えば
図4に本発明に係る緩衝ストッパの第二の実施の形態を示すように、軸方向中間部のみに設けても良い。
【0025】
すなわち、このようにすることによって、緩衝体13の外周面に対する耐摩耗シート14の拘束力が小さくなるので、吸収可能なエネルギー量の増大は抑えられるが、その反面、圧縮初期のばね定数の上昇を小さくし、すなわち圧縮初期の緩衝性を良好にすることができる。また、緩衝体13がある程度の軸方向幅を有するものであれば、緩衝体13の軸方向中間部のみに設けても、緩衝体13の摩耗を十分に防止することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 緩衝ストッパ
11,12 金属環
13 緩衝体
14 耐摩耗シート
2 ハウジング
21a 端面
22a 内周面
3 軸
31a 端面