(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜4では、被メッキ物を前処理してから電気銅メッキを施すと、油脂成分の除去に有効性はあるが、電着皮膜に白い曇りなどの色調ムラが点在することが少なくなく、前処理において被メッキ物に残留する油脂成分の充分な除去が容易でないことが判断できる。
また、この油脂成分の不充分な除去に起因して、ビア充填に際しても表面の平滑性に欠けたり、ボイドが発生する問題が残る。
【0009】
本発明は、電気銅メッキの前処理において、被メッキ物に残留する油脂成分を良好に除去して、電気メッキで得られる銅皮膜に優れた外観を付与するとともに、基板のビアホールなどを良好に銅充填することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、電気銅メッキ用の前処理液において、特定のジオール化合物を
所定含有量で含有させることで被メッキ物の油脂成分を効率良く除去でき、もって、前処理を施した電気銅メッキにより皮膜外観の向上と良好なビア充填を図れることを見い出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明1は、 電気銅メッキ用の前処理液であって、
次の一般式(1)で表されるアルカンジオールのアルキレンオキシド付加物(以下、ジオール付加物という)
H−(OA)m−O−R−O−(AO)n−H …(1)
(式(1)において、AはC2〜C4アルキレンである;m、nは夫々1〜20の整数である;Rは
C6〜C20のアルキレン鎖である。)
を含有するとともに、
前処理液に対する上記ジオール付加物の含有量が0.1〜2g/Lであることを特徴とする電気銅メッキ用前処理液である。
【0012】
本発明2は、上記本発明1において、さらに、ノニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤の少なくとも一種を含有することを特徴とする電気銅メッキ用前処理液である。
【0013】
本発明3は、上記本発明1又は2において、
上記アルカンジオールのアルキレンオキシド付加物が、
(a)
1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールから選ばれた直鎖アルカンジオールのC2〜C4のアルキレンオキシド付加物と、
(b)2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、
2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ペンチル−プロピレン−1,3−ジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジイソアミル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−オクチル−1,3−プロパンジオールから選ばれた分岐アルカンジオールのC2〜C4のアルキレンオキシド付加物との
少なくとも一種であることを特徴とする電気銅メッキ用前処理液である。
【0015】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかの前処理液に被メッキ物を接触させた後、前処理した被メッキ物に電気銅メッキ浴を用いて電着皮膜を形成することを特徴とする電気銅メッキ方法である。
【発明の効果】
【0016】
電気銅メッキに際して、被メッキ物の表面に油脂成分が残留していると、得られた銅皮膜の外観に白い曇りムラが発生したり、密着性に劣る問題があった。また、ビアホールへの銅充填では、上記油脂成分の残留により埋め込みが不充分になる弊害もあった。
本発明では、特定のアルカンジオールのアルキレンオキシド付加物(以下、ジオール付加物という)を
所定含有量で含む前処理液で被メッキ物を処理してから電気銅メッキを行うため、油脂成分を良好に除去して電着皮膜の曇りムラを解消し、高い密着性を確保できる。
また、高アスペクト比のビアホールにもボイドを発生させることなく平滑な銅充填を達成でき、特に、ビアホール・スルーホール混在基板への銅メッキに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、第一に、電気銅メッキに先立つ前処理用の液であって、特定のジオール付加物を含有する液であり、第二に、当該前処理液で被メッキ物を予め処理する工程と、前処理した被メッキ物に銅メッキ液で電着皮膜を形成する電気メッキ工程からなる電気銅メッキ方法である。
【0018】
本発明の 電気銅メッキ用前処理液 は、 次の一般式(1)で表されるアルカンジオールのアルキレンオキシド付加物(=ジオール付加物)を必須成分とする。
H−(OA)m−O−R−O−(AO)n−H …(1)
(式(1)において、AはC2〜C4アルキレンである;m、nは夫々1〜20の整数である;Rは
C6〜C20のアルキレン鎖である。)
上記一般式(1)の化合物において、アルキレンオキシドの付加モル数m、nは共に1以上であるため、m=n=0は排除され、従って、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシドなど)が付加しないアルカンジオールは上記化合物(1)から排除される。
即ち、本発明のジオール付加物(上記化合物(1))は、アルカンジオールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドの少なくとも一種が所定モル数で付加した化合物に限定される。付加するアルキレンオキシドはエチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましく、より好ましくエチレンオキシドである。
また、本発明のジオール付加物では、アルキレンオキシドの付加対象はアルカンジオールであって、例えば、アセチレンジオールなどの他の化合物にアルキレンオキシドが付加した化合物は本発明のジオール付加物から排除される(後述の比較例4〜5参照)。
アルキレンオキシドの付加数m及びnの合計付加モル数は1〜30が好ましく、より好ましくは2〜20である。付加モル数が多くなり過ぎると水溶性が低下する問題がある。
【0019】
上式(1)中のAはC2〜C4アルキレンであるため、アルキレンオキシドAOは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドから選ばれた少なくとも一種であり、例えば、エチレンオキシドとプロピレンオキシドが混在しても良い。
また、上式(1)中のRは
C6〜C20のアルキレン鎖であり、当該アルキレン鎖Rは直鎖アルキレン鎖と分岐アルキレン鎖の両方を包含する。
アルキレン鎖Rが直鎖構造の場合には好ましい炭素数は
C6〜C12であり、アルキレン鎖Rが分岐構造の場合、アルキレンの主鎖に結合するC1〜C6アルキル置換基は1〜4個が好ましい。
【0020】
そこで、上記ジオール付加物の具体例を以下に示す。
ジオール付加物(a)〜(b)については、直鎖型付加物(a)と分岐型付加物(b)のいずれかを単用し、或いは、(a)と(b)の各群の中の化合物同士を併用しても良いし、(a)群と(b)群の化合物同士を併用しても良い。
(a)直鎖型のジオール付加物
1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールから選ばれた直鎖アルカンジオールのC2〜C4のアルキレンオキシド付加物。
上記直鎖型ジオール付加物(a)において、例えば、1,6−ヘキサンジオールのエチレンオキシド(EO)付加物(付加モル数20)は、H−(OE)m−O−(CH2)6−O−(EO)n−Hで表わされ、上式(1)において、Rはヘキシレン鎖、Aはエチレン、m+n=20
である。
【0021】
(b)分岐型のジオール付加物
2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、
2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ペンチル−プロピレン−1,3−ジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジイソアミル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−オクチル−1,3−プロパンジオールから選ばれた分岐アルカンジオールのC2〜C4のアルキレンオキシド付加物
【0022】
上記分岐型ジオール付加物(b)において、例えば、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールのエチレンオキシド付加物(付加モル数24)は、
H−(OE)m−O−CH2−CH(C2H5)−C(C3H7)−O−(EO)n−Hで表わされ、上式(1)において、Rは分岐ヘキシレン鎖であり、当該分岐ヘキシレン鎖は主鎖のプロピレン基の2位炭素にエチル基、3位炭素にプロピル基が結合した分岐構造であり、Aはエチレン、m+n=24である。
また、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキシド付加物(付加モル数30)は、
H−(OE)m−O−CH2−C(C2H5)(C4H9)−CH2−O−(EO)n−Hで表わされ、上式(1)において、Rは分岐ノニレン(=C9アルキレン)鎖であり、当該分岐ノニレン鎖は主鎖のプロピレン基の2位炭素にエチル基とn−ブチル基が結合した分岐構造であり、Aはエチレン、m+n=30である。
次いで、2−n−ブチル−1,3−プロパンジオールのエチレンオキシド付加物(付加モル数6)は、
H−(OE)m−O−CH2−CH(C4H9)−CH2−O−(EO)n−Hで表わされ、上式(1)において、Rは分岐ヘプチレン鎖であり、当該分岐ヘプチレン鎖は主鎖のプロピレン基の2位炭素にブチル基が結合した分岐構造であり、Aはエチレン、m+n=6である。
【0023】
前述したように、本発明のジオール付加物は単用又は併用でき、前処理液に対するジオール付加物の含有量は0.01〜10g/L
が可能であるが、具体的には0.1〜2g/Lが適している。
上記ジオール付加物の含有量が適正範囲より少ないと、油脂成分の除去作用が低下して皮膜外観などの向上効果が期待できず、適正範囲より多いと、皮膜外観に部分的な曇りが発生したり、ビア充填において平滑不足、或いはボイドが発生するなどの充填不良になるリスクがある。
【0024】
本発明の前処理液は上記ジオール付加物を必須成分とするが、さらに、界面活性剤、酸などの各種添加剤を含有することができる。
上記界面活性剤には、ノニオン性界面活性剤及び/又はカチオン性界面活性剤を選択でき、前処理工程を経た電気メッキ工程で形成される銅皮膜の外観向上、或いは、ビア充填の効果を一層向上できる。
上記ノニオン系界面活性剤としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、(ポリ)C1〜C25アルキルフェノール、(ポリ)アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミン、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものや、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)などが挙げられる。
上記カチオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩、或いはピリジニウム塩などが挙げられ、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ジメチルジフェニルアンモニウム塩、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
上記界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が好ましく、前処理液に対する界面活性剤の含有量は0.3〜50g/L、好ましくは0.5〜10g/Lである。
【0025】
冒述したように、銅メッキ工程の前処理では、被メッキ物の 油脂成分や酸化皮膜を円滑に除去することが求められるので、 本発明の前処理液に酸を添加しても良い。
上記酸としては、硫酸、塩酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、ギ酸などの脂肪酸、或いは有機スルホン酸などが挙げられる。
【0026】
本発明の前処理液に被メッキ物を接触させた後、前処理した被メッキ物に電気銅メッキ液を用いて銅の電着皮膜を形成する。
前処理液への接触は前処理液への被メッキ物の浸漬が基本であるが、前処理液を被メッキ物に塗布、或いは噴霧することを排除しない。
前処理液への浸漬では、前処理液の液温は15〜60℃、好ましくは20〜55℃であり、浸漬時間は10秒〜5分、好ましくは30秒〜3分である。
上記被メッキ物には導電性基板、非導電性基板を初め、様々な電子部品を適用できる。
上記電子部品は、プリント基板、フレキシブルプリント基板、フィルムキャリア、半導体集積回路、抵抗、コンデンサ、フィルタ、インダクタ、サーミスタ、水晶振動子、スイッチ、リード線などである。
上記非導電性基板は、ガラス・エポキシ樹脂、ガラス・ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂基板、或いはガラス基板やセラミックス基板などである。
上述したように、本発明の前処理液で処理すると良好なビア充填を図れるため、被メッキ物にはビアホール、スルーホールを具備又は兼備した基板が好適である。
【0027】
次いで、上記前処理工程を終えた被メッキ物は電気銅メッキ工程に移行する。
当該電気メッキ工程で用いる銅メッキ液には特段の制約はなく、任意の電気銅メッキ液を使用できるが、一般に、可溶性銅塩、酸(又はその塩)、各種添加剤を基本組成とする。
上記可溶性塩は、水溶液中で第一又は第二銅イオンを発生させる可溶性の塩であれば任意のものが使用でき、特段の制限はなく、難溶性塩をも排除しない。具体的には、硫酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅、酢酸銅、ピロリン酸銅、シュウ酸銅などが挙げられ、硫酸銅、酸化銅が好ましい。
【0028】
上記酸又はその塩は、有機酸及び無機酸、或いはその塩から選択される。
上記無機酸には、硫酸、ピロリン酸、ホウフッ酸などが挙げられる。また、有機酸には、グリコール酸や酒石酸等のオキシカルボン酸、メタンスルホン酸や2―ヒドロキシエタンスルホン酸等の有機スルホン酸などが挙げられる。
【0029】
電気銅メッキ液に含有する各種添加剤は、ポリマー、ブライトナー、レベラー、塩化物などである。
上記ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンランダムコポリマー、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどが挙げられる。
上記ポリマーの分子量は一般に500〜100万、好ましくは1000〜10万の範囲内である。ポリマーのメッキ浴に対する添加量は一般に0.01〜1000ppm、好ましくは0.1〜100ppm、さらに好ましくは1〜50ppmである。
【0030】
上記ブライトナー(光沢剤)には、チオ尿素又はその誘導体、2−メルカプトベンゾイミダゾール、チオグリコール酸などのメルカプタン類、2,2′−チオジグリコール酸、ジエチルスルフィドなどのスルフィド類、3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸ナトリウム(MPS)などのメルカプトスルホン酸類、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−スル−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)などが挙げられる。
【0031】
上記レベラー(平滑剤)には、オーラミン及びその誘導体、メチルバイオレット、ベーシックレッド2、トルイジンブルー、ダイレクトイエロー、ヤーナスグリーンB、3−アミノ−6−ジメチルアミノ−2−メチルフェナジン塩酸、クリスタルバイオレット、チオ尿素及びその誘導体、グリシン、システイン、グルタミン酸、アスパラギン酸、オルニチンなどが挙げられ、これらの成分を単用又は併用することができる。
【0032】
上記塩化物は上記ブライトナーやレベラーの光沢作用や平滑化作用を促進する働きがあり、塩素イオンを供給可能な化合物を意味する。塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩酸、塩化銅などの無機物、第4アルキルアンモニウムクロリド、クロリ酢酸などの塩素系有機化合物が挙げられる。
尚、電気銅メッキ液の各成分の含有量はバレルメッキ、ラックメッキ、高速連続メッキ、ラックレスメッキ、バンプメッキなどのメッキ方式に応じて任意に調整・選択することになる。
【0033】
電気銅メッキの条件は従来と同様であって特段の制約はない。浴温は一般に15〜40℃、好ましくは20〜30℃である。陰極電流密度は一般に1.0〜30A/dm2、好ましくは1.5〜5A/dm2である。
電気銅メッキ浴の撹拌方法は、空気撹拌、急速液流撹拌、撹拌羽根等による機械撹拌等を使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明のジオール付加物を合成する製造例、当該ジオール付加物を含有する電気銅メッキ用前処理液の実施例、当該前処理液で前処理した試料基板に電気銅メッキを施した電着皮膜についての外観及びビア充填の評価試験例を順次述べる。
尚、本発明は下記の製造例、実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0035】
《ジオール付加物の製造例》
(1)製造例1
1Lオートクレーブに1,6−ヘキサンジオール1モル、水酸化カリウム1モルを投入し、系内を窒素置換後に撹拌した。
次いで、内温60±5℃を保ちながらエチレンオキシド20モルを滴下して、ポリオキシエチレン−1,6−ヘキサンジオール(エチレンオキシド(EO)付加数20モル)を合成した。
【0036】
(2)製造例2
上記製造例1の製造条件を基本として、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール1モルとエチレンオキシド24モルを反応させ、それ以外の条件は製造例1と同じに設定して、ポリオキシエチレン2−エチル−1,3−ヘキサンジオール (EO付加数24モル)を合成した。
【0037】
(3)製造例3
上記製造例1の製造条件を基本として、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール1モルとエチレンオキシド30モルを反応させ、それ以外の条件は製造例1と同じに設定して、ポリオキシエチレン−2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(EO付加数30モル)を合成した。
【0038】
(4)製造例4
上記製造例1の製造条件を基本として、2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール1モルとエチレンオキシド6モルを反応させ、それ以外の条件は製造例1と同じに設定して、ポリオキシエチレン−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール(EO付加数6モル)を合成した。
【0039】
《電気銅メッキ用前処理液の実施例》
下記の実施例1〜15のうち、実施例1〜10と実施例14は前記製造例1のジオール付加物を用いた例、実施例11と実施例15は前記製造例2のジオール付加物を用いた例、実施例12は前記製造例3のジオール付加物を用いた例、実施例13は前記製造例4のジオール付加物を用いた例である。
実施例1〜5、8〜13はジオール付加物とノニオン性界面活性剤を併用した例であり、実施例8はジオール付加物の含有量が相対的に多い例、実施例9はジオール付加物の含有量が相対的に少ない例、実施例10はノニオン性界面活性剤の含有量が相対的に多い例である。
実施例6〜7はジオール付加物とカチオン性界面活性剤を併用した例である。実施例14〜15はジオール付加物を単用し、界面活性剤を含まない例である。
また、実施例1〜2、8〜10、14は前処理液に酸を含む例、他の実施例は酸を含まない例である。
【0040】
一方、比較例1〜5のうち、比較例1は上記実施例1を基本として、ジオール付加物を含有せず、ノニオン性界面活性剤のみを含有したブランク例である。比較例2は上記実施例1を基本として、ジオール付加物を含有せず、比較例1とは別種のノニオン性界面活性剤のみを含有したブランク例である。比較例3は本発明のジオール付加物に替えて、アルキレンオキシドを付加しないアルカンジオールを使用した例である。比較例4〜5は本発明のジオール付加物に替えて、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物を使用した例である。
尚、比較例1〜3ではいずれも酸を含有した。
【0041】
(1)実施例1
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 2g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0042】
(2)実施例2
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
ノイゲンLF−80X(第一工業製薬社製) 2g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0043】
(3)実施例3
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
アデカプルロニックTR−704(ADEKA社製) 2g/L
【0044】
(4)実施例4
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
アデカプルロニックL−44(ADEKA社製) 2g/L
【0045】
(5)実施例5
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
ノイゲンLF−80X(第一工業製薬社製) 2g/L
アデカプルロニックPC−10(ADEKA社製) 2g/L
【0046】
(6)実施例6
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
カチオーゲンTML(第一工業製薬社製) 2g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0047】
(7)実施例7
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
アデカミンSF−201(ADEKA社製) 2g/L
【0048】
(8)実施例8
製造例1のジオール付加物 2g/L
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 2g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0049】
(9)実施例9
製造例1のジオール付加物 0.1g/L
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 2g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0050】
(10)実施例10
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 4g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0051】
(11)実施例11
製造例2のジオール付加物 0.5g/L
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 2g/L
【0052】
(12)実施例12
製造例3のジオール付加物 0.5g/L
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 2g/L
【0053】
(13)実施例13
製造例4のジオール付加物 0.5g/L
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 2g/L
【0054】
(14)実施例14
製造例1のジオール付加物 0.5g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0055】
(15)実施例15
製造例2のジオール付加物 0.5g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0056】
(16)比較例1
ノイゲンXL−80(第一工業製薬社製) 0.5g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0057】
(17)比較例2
アデカプルロニックTR−704(ADEKA社製) 0.5g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0058】
(18)比較例3
1,3−プロパンジオール 0.5g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0059】
(19)比較例4
オルフィンPD−005(日信化学工業社製) 0.5g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0060】
(20)比較例5
サーフィノール465(エアープロダクツジャパン社製)0.5g/L
硫酸(98%) 10重量%(100g/L)
【0061】
そこで、上記実施例1〜15及び比較例1〜5の各前処理液にビアホールを凹設した試料基板を浸漬した後、酸活性処理、電気銅メッキ処理を行って、得られた銅メッキ皮膜について皮膜外観及びビア充填性を試験評価した。
《前処理、酸活性及び電気銅メッキの各工程の処理例》
(1)前処理工程
先ず、ビアホール(開口径:100μm、深さ:80μm)を有するPCB基板((株)ケイツー製;BVH/TH兼備の基板)を試料基板とした。
この試料基板を実施例1〜15及び比較例1〜5の各前処理液に45±3℃、1分の条件で浸漬した。
次いで、45±3℃、30秒の条件で温水洗浄した後、室温(20〜25℃)、30秒の条件で水洗した。
(2)酸活性工程
前処理した試料基板を10重量%の硫酸溶液(98%)に室温(20〜25℃)、1分の条件で浸漬して、酸活性処理を施した。
(3)電気銅メッキ工程
下記の組成で電気銅メッキ液を建浴した。
[電気銅メッキ液]
硫酸銅五水和物(Cu2+として) 200g/L
硫酸 50g/L
塩化物イオン 50mg/L
UTB V20−B1 2mL/L
UTB V20−L1 2mL/L
UTB V20−P1 2mL/L
但し、上記UTB V20−B1、UTB V20−L1、UTB V20−P1は石原ケミカル社製の銅メッキ液用添加剤である。
[電気銅メッキ処理]
酸活性処理を施した試料基板に上記電気銅メッキ液を用いて、電流密度1.5A/dm2、液温25℃、メッキ時間51分の条件(目標膜厚は17μm)で電気銅メッキを行い、試料基板に銅の電着皮膜を析出させた。
次いで、室温(20〜25℃)、30秒の条件で水洗し、乾燥して、皮膜析出した試料基板を下記の皮膜外観並びにビア充填性の評価試験に供した。
【0062】
《皮膜外観の評価試験例》
試料基板に析出した銅皮膜について、特に、白い曇りムラの有無を中心にして皮膜外観を目視観察し、下記の基準でその優劣を評価した。但し、皮膜の密着性は評価の対象外とした。
○:全体として美麗な光沢外観を呈した。
△:皮膜の一部に白い曇りが認められた。
×:全体に白い曇りが認められた。
【0063】
《ビア充填性の評価試験例》
試料基板のビアホールの部位を縦方向に切断し、その縦断面を3Dレーザー顕微鏡で微視観察し、
図1に示す通り、ビアホール上部に形成された析出銅の窪み(Dimple)の状態を中心に、下記の基準でビア充填性(平滑性)の優劣を評価した。
◎:ビアホールの窪みは5μm未満であり、ほぼ平滑面であった。
○:同じく窪みは10μm未満であった。
×:同じく窪みは10μm以上であった。
【0064】
《試験結果》
下表はその試験結果を示す。
皮膜外観 ビア充填性 皮膜外観 ビア充填性
実施例1 ○ ◎ 実施例11 ○ ◎
実施例2 ○ ◎ 実施例12 ○ ◎
実施例3 ○ ◎ 実施例13 ○ ◎
実施例4 ○ ◎ 実施例14 ○ ○
実施例5 ○ ◎ 実施例15 ○ ○
実施例6 ○ ◎ 比較例1 × ×
実施例7 ○ ◎ 比較例2 △ ×
実施例8 ○ ◎ 比較例3 △ ×
実施例9 ○ ◎ 比較例4 × ×
実施例10 ○ ◎ 比較例5 × ×
【0065】
《試験評価》
上表を見ると、本発明のジオール付加物を含まないブランク例である比較例1では、皮膜外観に白い曇りが認められ、ビア充填部での窪みも大きく平滑性に劣るのに対して、本発明のジオール付加物を含む実施例1では、皮膜の光沢性に優れ、良好なビア充填性(平滑性)を示すことが分かる。
比較例1からノニオン性界面活性剤の種類を替えた比較例2(ブランク例)についても、皮膜外観が比較例1より少し改善された程度であり、また、ビアの充填不足は比較例1と同じである。本発明のジオール付加物はエチレンオキシドの付加構造を有する点で比較例1〜2と共通するが、実施例1を比較例1〜2に対比すると、銅皮膜の外観とビア充填性の点で、前処理液に本発明のジオール付加物を含む場合の優位性は明らかである。
尚、前処理自体を行わずに電気銅メッキを行った場合には、比較例1と同じ結果であった。
【0066】
一方、比較例3はアルキレンオキシドの付加構造を有しないアルカンジオールを用いた例であるが、皮膜外観の評価は△、ビア充填性は×であることから、皮膜外観とビア充填性を共に良好に改善するには、同じジオール類に属しても、アルカンジオールにアルキレンオキシドが付加した本発明のジオール付加物を用いることの重要性が判断できる。
また、比較例4〜5はアセチレンジオールのエチレンオキシド付加物の例であるが、皮膜外観及びビア充填性ともに×であることから、皮膜外観とビア充填性を良好に改善するには、同じジオール付加物に属しても、特定の構造式を有する本発明のジオール付加物でなければ、有効性を担保できないことが判断できる。
【0067】
そこで、実施例1〜15を詳細に検討する。
実施例14〜15は本発明のジオール付加物を単用した例であるが、本発明のジオール付加物にノニオン性界面活性剤を併用すると、ビア充填性が○から◎にさらに改善されることが分かる。この場合、ノニオン性界面活性剤の種類を変えても、試験評価(皮膜外観及びビア充填性)は同じであった。次いで、実施例10のように、ノニオン性界面活性剤の含有量を実施例1より増量した(2g/L→4g/L)が、試験評価に変化はなかったのでノニオン性界面活性剤の含有量は特に多くする必要はないことが判断できる。
また、実施例1と実施例8〜9を対比すると、本発明のジオール付加物の含有量が増減しても試験評価に差異はないことから、本発明のジオール付加物は少量(実施例9では0.1g/L)でも有効性を担保できることが判断できる。
実施例6〜7はカチオン性界面活性剤を本発明のジオール付加物に併用した例であり、実施例14〜15(本発明のジオール付加物の単用例)に対してビア充填性の試験評価は◎に改善されることから、皮膜外観及びビア充填性をともに良好に向上するには、上記ノニオン性界面活性剤に替えてカチオン性界面活性剤を併用しても良いことが分かる。
一方、実施例1〜10は直鎖型のジオール付加物の例、実施例11〜13は分岐型のジオール付加物の例であるが、これらの試験評価に差異はないため、本発明のジオール付加物においては、アルキレンオキシドの付加前のアルカンジオールは直鎖型、分岐型を問わず、有効性を担保できることが分かる。