(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る弾性波装置(以下、SAW装置という)について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0012】
第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態と同一または類似する構成については、既に説明された実施形態の構成に付された符号と同一の符号を用い、また、図示および説明を省略することがある。また、第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態の構成と対応(類似)する構成について、既に説明された実施形態の構成に付した符号とは異なる符号を付した場合において、特に断りがない事項については、既に説明された実施形態の構成と同様である。
【0013】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るSAW装置1の上面図である。
【0014】
SAW装置1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下の実施形態では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側(
図1の紙面から向かう側)を上方として、上面、下面等の語を用いることがあるものとする。なお、直交座標系xyzは、SAW装置1の形状に基づいて定義されているものであり、圧電基板の電気軸、機械軸および光学軸を指すものではない。
【0015】
SAW装置1は、例えば、比較的小型の概略直方体状の電子部品である。その寸法は適宜に設定されてよいが、例えば、厚さは0.1mm〜0.4mm、平面視における長辺お
よび短辺の長さは0.5mm〜3mmである。
【0016】
SAW装置1は、
図1〜5に示すように、圧電基板2、励振電極3、カバー9(枠部7および蓋部8)および導体パターン6を有している。
【0017】
SAW装置1は、それぞれの構成をウェハーレベルで形成することができる。SAW装置1は、移動体端末等において、アンテナと信号演算回路(例えば、ICなど)がやり取りする電気信号をフィルタリングする機能を有する。
【0018】
圧電基板2は、タンタル酸リチウム単結晶、二オブ酸リチウム単結晶、四ホウ酸リチウム単結晶など圧電性を有する結晶の基板によって構成されている。圧電基板2は、例えば、直方体状に形成されており、平面視形状が矩形状または正方形状となっている。圧電基板2は、例えば、平坦な上面2Aを有している。圧電基板2は、厚みが、例えば、0.1mm以上0.5mm以下に設定されている。圧電基板2は、一辺の長さが、例えば、0.6mm以上3mm以下に設定されている。
【0019】
圧電基板2の上面2Aには、
図3に示すように励振電極3,端子部4,配線5が設けられている。
図3(a)においてカバー9が配置される領域を点線で示している。
図3(b)は、
図3(a)において破線で囲う領域を拡大した図である。励振電極3は、
図3(b)に示すように、櫛歯状電極で構成されている。励振電極3は、少なくとも2本のバスバー電極3bが対向するように配置されている。電極指3cは、互いのバスバー電極3bの方向に延びるとともに、両者が交差するように配置されている。
【0020】
複数の励振電極3は、直接接続または並列接続などにより接続されたラダー型SAWフィルタを構成していてもよい。また、励振電極3は、複数の励振電極3が一方向に配列された2重モードSAW共振器フィルタであってもよい。さらに、励振電極3は、
図3に示すように、反射器3dを有していてもよい。
【0021】
端子部4は、
図3等に示すように、圧電基板2上に配置されている。端子部4の平面視形状は適宜設定すればよい。本実施形態では、端子部4は円形状の場合である。端子部4の数および配置位置は、複数の励振電極3によって構成されるフィルタの構成に応じて適宜設定すればよい。端子部4の幅は、例えば60μm以上100μm以下となるように設定することができる。
【0022】
SAW装置1は、端子部4を複数有しており、そのうちのいずれかの端子部4を介して信号の入力がなされる。入力された信号は、励振電極3等によってフィルタリングされる。そして、SAW装置1は、フィルタリングした信号を、複数の端子部4のうち入力信号が入った端子部4以外の端子部4を介して出力する。なお、信号の入出力に使用されない端子部4は、例えば浮き電極であってもよいし、基準電位に接続されていてもよい。
【0023】
端子部4は、
図3に示すように、配線5を介して励振電極3と電気的に接続されている。配線5は、上面2Aの上に層状に形成され、励振電極3のバスバー電極3bと端子部4を電気的に接続している。また、複数の励振電極3のバスバー電極3b同士を接続させてもよい。なお、配線5は全てが上面2Aに形成されている必要はなく、例えば絶縁体を介して立体交差させている部分があってもよい。
【0024】
励振電極3、端子部4および配線5(上面2Aに形成された部分)は、同じ製造プロセスで形成することができる。そのため、励振電極3、端子部4および配線5は、例えば同じ導電材料によって構成されている。導電材料としては、例えばAl−Cu合金等を用いることができる。また、励振電極3、端子部4および配線5は、例えば、同じ膜厚に設定
される。これらの厚さとしては、例えば50nm以上500nm以下に設定することができる。
【0025】
このような励振電極3、端子部4および配線5は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の薄膜形成法により金属膜を圧電基板2の
主面に形成する。その後、その金属膜を微小投影露光機(ステッパー)またはRIE(Reactive Ion Etching)装置を用いたフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、励振電極3、端子部4および配線5を形成することができる。
【0026】
励振電極3、端子部4および配線5上には、保護膜を形成してもよい。保護膜は、絶縁性材料によって構成されており、例えば、酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(Si
3N
4)またはシリコン(Si)等を用いることができる。保護膜の厚みは、例えば、5nm以上50nm以下に設定することができる。このような保護膜を形成することにより、励振電極3および配線5を保護することができる。具体的には、励振電極3等を酸化されにくくすることができたり、後の工程中のダメージを防止したりすることができる。なお、保護膜は、端子部4の上面が露出するように設けられる。保護膜を形成する場合は、CVD法、スパッタリング法等の薄膜形成法により形成した膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることで形成することができる。
【0027】
端子部4上には、後述する外部接続端子10との密着性または電気特性を向上させるために、金属材料を積層させた接続電極(図示せず)を配置してもよい。接続電極の厚みは、例えば1μm以上2μm以下となるように設定することができる。このような接続電極は、リフトオフ法により形成することができる。接続電極の材料は、適宜を選択すればよい。
【0028】
端子部4としてアルミニウムと銅の合金を用いるとともに、外部接続端子10として銅を用いる場合には、接続電極として端子部4側からクロム、ニッケルおよび金やクロム、アルミニウムを積層したものを用いることができる。本実施形態のSAW装置1は、
図4に示すように、外部接続端子10として、圧電基板2側に配置された第1柱状電極10aと、蓋部5側に配置された第2柱状電極10bによって構成されている。
【0029】
カバー9は、枠部7および蓋部8によって概ね構成されている。蓋部8は枠部7上に配置されることにより、圧電基板2とカバー9との間に振動空間Spが形成される。枠部7は複数の励振電極3のそれぞれの周りを囲むような開口7aを有しており、枠部7の厚みによって振動空間Spの高さが概ね決定される。なお、カバー9は本実施形態に限定されるものではなく、枠部7と蓋部8が一体的に形成されていてもよい。
【0030】
SAW装置1は、
図1および
図2に示すように、励振電極3を複数有していて、それぞれの励振電極3の周りを囲むように枠部7を設けている場合である。各励振電極3を枠部7で囲むことにより、複数の振動空間Spを形成し、枠部7の面積を増やすことができる。その結果、枠部7および蓋部8の接触面積を増やすことができるので、SAW装置1に圧力または衝撃が加わったときにでもカバー9の変形を低減することができる。また、枠部7の面積を増やすことができるので、後述する導体パターン6を形成しやすくすることができる。なお、枠部7は各励振電極3を囲むことに限定されず、例えば全部ではない複数の励振電極3を囲んでもよいし、全部の励振電極3が内側に位置するように囲んでもよい。
【0031】
カバー9の枠部7または蓋部8は、それぞれの厚みが、例えば5μm以上60μm以下となるように設定することができる。カバー9の全体厚みは、例えば10μm以上300μm以下となるように設定することができる。カバー9の平面方向の幅は、例えば0.6
mm以上3mm以下となるように設定することができる。
【0032】
カバー9は、例えば光硬化性樹脂などを用いることができる。光硬化性樹脂としては、例えば、ネガ型またはポジ型のフォトレジストを用いることができる。光硬化性樹脂は、例えば、アクリル基またはメタクリル基などのラジカル重合する樹脂を用いることができる。より具体的には、光硬化性樹脂として、エポキシ系、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系またはポリイミド系の樹脂を用いることができる。光硬化性樹脂としては、ネガ型であってもよいし、ポジ型であってもよい。
【0033】
カバー9を光硬化性樹脂で形成する場合、液状の樹脂またはフィルム状の樹脂を用いることができる。具体的には、フィルム状の樹脂を用いてカバー9を形成する場合、圧電基板2上にフィルム状の樹脂を貼り付けた後、特定波長の光によるパターニング、加熱等の方法を用いたフォトリソグラフィ法により枠部7を形成する。そして、枠部7上に、蓋部5となるフィルム状の樹脂を配置した後、フォトリソグラフィ法によりパターニングを行なうことで蓋部8を形成する。これにより、枠部7および蓋部8構成されたカバー9を圧電基板2上に形成することができる。なお、液状の樹脂を用いる場合はスピンコート法により圧電基板2上に形成することができる。また、枠部7を液状の樹脂を用いて形成し、蓋部8をフィルム状の樹脂を用いて形成してもよい。
【0034】
また、カバー9は、樹脂だけでなく、板部材を用いることもできる。板部材としては、例えば圧電性を有する基板、セラミックからなる基板、シリコンからなる基板、または有機基板などを用いることができる。このように、樹脂よりもヤング率が高い材料をカバー9に用いることで、耐衝撃性または耐トランスファーモールドによる耐圧力性などを向上させることができる。カバー9全体に板部材を用いてもよいし、カバー9の一部に板部材を用いてもよい。カバー9の一部に板部材を用いる場合は、例えば、枠部7に樹脂を用いるとともに蓋部8に板部材を用いる。
【0035】
ここで、圧電基板2の上面2Aには枠部7と重なる領域に導体パターン6を備える。導体パターン6は、励振電極3、端子部4および配線5と同様の材料、同様の工程にて同様の厚みに形成すればよい。
図3に示すように、枠部7が配置される領域のうち、配線5が形成されていない領域に配線5と間隔をあけて配置されている。このような導体パターン6を設けることで、枠部7の下面が接する領域の段差を改善し、その結果、カバー9と圧電基板2との接合強度を高めることができる。
【0036】
ここで、通常、配線5は意図せぬインダクタンスを発生させてフィルタ特性に影響することがないように形状を太くするとともに迂回することなく端子部4に接続するようパターニングされる。また、必要以上に大きなパターンを形成すると意図せぬ容量を形成する可能性があるため、端子部4を超えるような範囲では形成しない。そのため、枠部7が配置される領域において、配線5が形成された領域と形成されない領域とで段差が生じ、枠体7の密着性が悪化し接着強度が低下する虞があった。これに対して本実施形態のSAW装置1によれば、段差を改善し、カバー9と圧電基板2との接合強度を高め、信頼性の高いものとすることができる。
【0037】
さらに、配線5が形成された領域と形成されない領域とで段差が生じ、その面積が大きいときには、段差に起因して枠部7の上面にも1μm程度の段差が発生し、
図5(a)に示すように、蓋部8との間に隙間が生じてしまう。これにより、カバー9の内部に気泡が残り、圧力差や温度差が加わると蓋部8と枠部7との接合強度が低下する虞がある。これに対して、本実施形態によれば、
図5(b)に示すように、導体パターン6を形成することにより、蓋部8が広範囲にわたって下側に撓むことを抑制することができるので、蓋部8と枠部7との間に隙間が生じることを抑制することができる。このようにカバー9内に
隙間が生じることを抑制することは、導体パターン6が端子部4よりも外側(圧電基板2の外縁側)に配置されるときに特に有効となる。
【0038】
発明者らが、再現実験を繰り返し確認したところ、配線5が形成されない領域であって枠部7と重なる領域の一辺が500μmを超える領域において蓋部8と枠部7との間に隙間が発生することが多くなり、特に1辺が1000μmを超える場合には隙間の発生頻度が上昇することが分かった。このため、端子部7の外側にこのような領域がある場合には導体パターン6を設けると信頼性を高めることができる。
【0039】
また、気泡の発生頻度は製造方法にも依存することを確認した。すなわち、フィルム状の蓋部8をラミネートしてカバー9を製造する場合には、フィルムの貼り合わせ方向(
図15の矢印方向)に沿って1000μmを超える配線5が形成されない領域がある場合には、気泡の発生頻度が高まることを確認している。このため、このような製造方法を用い、かつ、1000μmを超える配線5が形成されない領域がある場合には導体パターン6を設けるとよい。なお、発明者らの再現実験によると、配線5が形成されない領域が、フィルムの貼り合わせ方向が短辺を構成する長方形状のときに正方形状に比べ気泡発生頻度が向上することも確認している。
【0040】
また、このような導体パターン6と配線5との間が20μm以内となるように近接配置することで、気泡が発生しなくなることを確認した。
【0041】
また、カバー9の形成工程にフォトリソグラフィによるパターニングを含む場合には、配線5が形成された領域と形成されない領域とで光の反射率に大きな差が生じてしまいパターニング精度が低下する可能性があった。これは、配線5を構成する材料の反射率と圧電基板2の反射率とに大きな差があることに起因する。この差は、特に段差部において顕著となる。これに対して、本実施形態によれば、配線5が形成されない領域において導体パターン6を配置することで光の反射率の分布を緩和することができる。これにより、配線5が形成されない領域においてもフォトリソグラフィによる寸法精度を確保するとともに、十分に硬化反応を進めることができるものとなる。
【0042】
上述のように、導体パターン6は配線5が形成された領域との高さ合わせ以外にも上方から照射される光に対する反射率を合わせる機能を有する。このような導体パターン6により、樹脂が下側からも露光され光硬化が促進する。その結果、段差部に膜減り量が小さくなり、枠部7上面の段差が改善される。このため、配線5と導体パターン6との間にも隙間は存在するがそれに起因する段差の発生を低減することができるため、枠部7と蓋部8との間における隙間発生を抑制し、両者の接合強度を高め、高い信頼性のSAW装置1を提供できるものとなる。なお、配線5と導体パターン6との厚み方向における断面形状を圧電基板1に近づくにつれて広がるテーパー状としてもよい。これにより、光の反射角を広げ、より段差部近傍における下面側からの露光を進めることができる。また、配線5よりも導体パターン6の反射率が高くなるような材料および表面状態としてもよい。その場合には、密着強度を高める必要のあるカバーの外縁に近い部分で露光を確実に進行させることができるからである。
【0043】
本実施形態によれば、導体パターン6は浮電極となっている。これにより、SAW装置1のフィルタ特性への影響を抑制することができる。また、端子部4のうち基準電位に接続される端子部4に導体パターン6を接続する場合には、外部からのノイズのIDT電極3への混入を抑制するものとなる。
【0044】
<第2の実施形態>
図6に第2の実施形態に係るSAW装置1Aの構成を示す平面図を示す。
図6は、カバ
ー9を取り除いた状態を示す。
【0045】
SAW装置1Aは、導体パターン6Aを有する点でのみSAW装置1と異なる。
【0046】
導体パターン6Aは、端子部4に電気的に接続されており、例えば渦巻き状に形成されていたり、矩形状に形成されていたり、ミアンダ状に形成されていたりする。このような構成とすることで導体パターン6Aはインダクタ成分となる。この例では、配線5よりも細い線状となっており、2つの端子部4の間を電気的に接続するように設けられている。
【0047】
このようなインダクタ成分を形成することで、SAW装置1Aのフィルタ特性を調整することができる。そして、導体パターン6Aが圧電基板1の上面1Aに形成されていることから、励振電極3と対向することがない。このため、励振電極3との間で浮遊容量等の発生を低減することができる。その結果、SAW素子1Aは、安定した電気特性を得ることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば導体パターン6Aが端子部4よりも外側に位置していることから、外部からの水分等の浸入を抑制することができる。
【0049】
さらに、カバー9において振動空間Sp側から外側に向かう方向にみたときに、
図7に示すように導体パターン6Aが繰り返し横切るような構成となっている。この場合には、導体パターン6Aにより生じる枠部7の上面の段差形状が繰り返し形成されることとなり、蓋部8と枠部7との接合強度を高めることができる。このような形状は、導体パターン6Aを例えばミアンダ形状や渦巻き形状としたときに顕著である。
【0050】
なお、この例では、導体パターン6Aは端子部4に接続された例を説明したが、配線5に接続してもよい。
【0051】
<第3の実施形態>
図8に第3の実施形態に係るSAW装置1Bの構成を示す平面図を示す。
図8は、カバー9を取り除いた状態の圧電基板2の上面2Aにおける要部拡大図である。破線で囲んだ領域が開口部7aとなる。
【0052】
SAW装置1Bは、導体パターン6Bを有する点でのみSAW装置1と異なる。導体パターン6Bは容量成分となっている。容量成分を形成するには、対向電極を用いることもできるが、本実施形態のように励振電極3と同様の構成とすれば小型でかつ高容量の容量成分を形成することができる。このように、導体パターン6Bを圧電基板2の上面2Aに形成することで、容量成分をIDT電極3と対向することなく形成することができるので、励振電極3との間で浮遊容量等の発生を低減することができる。その結果、SAW装置1Bは、安定した電気特性を得ることができる。
【0053】
導体パターン6Bは、配線5に接続され、励振電極3と並列に接続されている。このような構成とすることにより、フィルタとして機能するSAW装置6Bのフィルタ特性の急峻度を向上させたり、通過帯域幅を調整したりすることができる。なお、この例では励振電極3と並列に接続した例を用いて説明したが、直列に接続してもよいし、端子部4に接続してもよい。
【0054】
ここで、導体パターン6Bは励振電極3と同様の構成であり、かつ、配置方向も同じである。言い換えると、励振電極3の電極指3cの繰り返し配列方向と同じ方向に導体パターン6Bを構成する電極指も繰り返し配列されている。この場合には導体パターン6Bにより共振して圧電基板2に電圧が印加される。しかしながら、圧電基板2の変形がカバー
9によって抑制され、ひいては、弾性波(例えばSAW)の発生が抑制される。その結果、導体パターン6Bの弾性波を介した共振が抑制され、SAW装置1Bの特性が導体パターン6Bの弾性波を介した共振によって低下することが抑制される。具体的には、例えば、導体パターン6Bによるスプリアスが低減され、その結果、例えば、挿入損失が低減される。
【0055】
<第4の実施形態>
図9に第4の実施形態に係るSAW装置1Cの構成を示す平面図を示す。
図9は、蓋部8を取り除いた状態の上面図である。
【0056】
SAW装置1Cは、第2導体パターン11を有する点でのみSAW装置1と異なる。第2導体パターン11は、カバー体に配置されている。この例では、枠部7上に配置されているが、蓋部8上もしくは、蓋部8の内部に配置されていてもよい。
【0057】
このような第2導体パターン11が蓋部8上に配置されている場合には、振動空間Spを横切るように配置することができる。この場合には蓋部8を補強することができ、安定して振動空間Spを維持することができる。枠部7上に配置されている場合は、第2導体パターン11を保護するように蓋部8が形成される。SAW装置1Cは、
図9に示す通り、第2導体パターン11が枠部7上に配置されている場合である。
【0058】
第2導体パターン11は、端子部4と外部接続端子10を介して電気的に接続されている。第2導体パターン11は、一部が、例えば渦巻き状に形成されていたり、矩形状に形成されていたりする。これにより、第2導体パターン11は、例えばインダクタ成分を有するようになる。なお、この例では第2導体パターン11がインダクタ成分として機能する場合について説明したが、矩形状の電極を対向配置させて容量成分を形成してもよい。第2導体パターン11は、導体であればよく、例えば、銅などを用いることができる。そして、第2導体パターン11は、厚みが例えば1μm以上20μm以下となるように設定することができる。
【0059】
また、第2導体パターン11として外部接続端子10と同じ材料を用いることにより、工程が増えることを低減することができる。すなわち、外部接続端子10を形成する際に、外部接続端子10と第2導体パターン11を電気メッキにより形成してもよい。第2導体パターン11は、メッキ下地層をパターニングしておくことにより任意の形状を形成することができる。なお、第2導体パターン11および外部接続端子10は、例えば銀ペーストまたは導電性樹脂等を印刷またはディスペンスで形成してもよい。
【0060】
第2導体パターン11は、この例では励振電極3と重ならない領域に配置される。より具体的には、第2導体パターン11は、励振電極3を横切らないように配置されている。
【0061】
第2導体パターン11は、
図9に示す通り、平面透視において、その一部が端子部4よりも圧電基板2の外周側に配置されていてもよい。このように第2導体パターン11が端子部4よりも圧電基板2の外周側に配置されていることにより、カバー9の外周付近における耐衝撃性を向上させることができる。
【0062】
第2導体パターン11は、例えば、カバー9内に設けられた外部接続端子10を介して、端子部4と電気的に接続されている。外部接続端子10は、カバー9の貫通孔内に配置されて、いわゆる貫通導体として機能する。
【0063】
本実施形態のSAW装置1Cによれば、第2導体パターン11がカバー9の枠部6に配置されていることから、SAW装置1Cに衝撃または圧力がかかった際にカバー9が変形
することを低減することができる。また、第2導体パターン11が励振電極3と重ならない領域に配置されている。そのため、第2導体パターン11は、励振電極3との間で浮遊容量等の発生を低減することができる。その結果、SAW装置1Cは、安定した電気特性を得ることができる。
【0064】
また第2導体パターン11が枠部7に配置されることにより、外部から水分等が侵入しようとした場合でも、水分等が枠部7に配置された第2導体パターン11に遮られるため、SAW装置1Cの耐湿性を向上させることができる。
【0065】
なお、第2導体パターン11により所望のインダクタンス成分等を形成するために必要な面積が大きくなるときがある。この面積が、励振電極3や端子部4,配線5を配置するに要する面積よりも大きくなる場合には、特に枠部4と重なり、かつ、配線5が形成されない領域の面積が大きくなるので、導体パターン6を設けることが有効である。
【0066】
<第5の実施形態>
図10(a),(b)に第5の実施形態に係るSAW装置1D,1D’の構成を示す断面図を示す。
図10は、
図3のV−V線に相当する部位における断面図である。
【0067】
SAW装置1D,1D’は、導体パターン6Dと第2導体パターン11Dとを有する点でSAW装置1と異なる。
【0068】
導体パターン6Dと第2導体パターン11Dとは枠部7を挟んで対向している。このように構成することで、励振電極3と対向しない領域において、SAW装置1Dのフィルタ特性を調整することができる。導体パターン6Dと第2導体パターン11Dとは
図10(a)に示すような幅広の対向電極として容量を形成してもよいし、
図10(b)に示すようにインダクタ成分を形成してもよい。
図10(b)に示す場合には、圧電基板2側とカバー9側とに分けてインダクタ成分を形成することで、所望のインダクタ成分を小さい面積で形成することができ、SAW装置1Dを小型化することができる。なお、導体パターン6Dと第2導体パターン11Dとは電気的に接続されていてもよいし、分離していてもよい。
【0069】
さらに、
図10に示す例では、導体パターン6Dと第2導体パターン11Dとは、平面視で励振電極3と重なる領域には形成されていないが、第2導体パターン11Dの一部が重なる領域に形成されていてもよい。前者の場合には、励振電極3と電気的に干渉することなく所望の容量成分やインダクタ成分を実現することで所望の特性を発現する回路素子を提供することができる。後者の場合には、励振電極3と導体パターン6Dより離れた位置にある第2導体パターン11Dが振動空間Spと重なることで、励振電極3との電気的な干渉・結合を抑制しつつ蓋部8を補強し、安定して振動空間Spを維持することができるものとなる。
【0070】
なお、
図10に示す例では、第2導体パターン11Dは、蓋部8の上面に形成された例について説明したが、
図9に示すように枠部7と蓋部8との間に形成してもよい。その場合には、導体パターン6Dと第2導体パターン11とをカバー9により保護することで両者の変質を抑制し、高い信頼性のSAW装置1Dを提供できるものとなる。また、蓋部8の形成時において、第2導体パターン11Dが光を反射し下側からも露光することができるものとなる。
【0071】
上述した実施形態は、適宜に組み合わされてよい。
【0072】
弾性波装置は、SAW装置に限定されない。例えば、弾性波装置は、圧電薄膜共振器で
あってもよいし、弾性境界波装置(ただし、広義のSAW装置に含まれる)であってもよい。なお、弾性境界波装置においては、励振電極上に空隙(振動空間)は不要である。
【0073】
また、弾性波装置において、保護層は必須の要件ではなく、省略されてもよい。逆に、弾性波装置は、蓋部の上に設けられた金属からなる補強層、補強層を覆う絶縁層、枠部と蓋部との間に位置する導電層、カバーの上面および側面を覆う絶縁膜など、適宜な層が追加されてもよい。
【0074】
また、上述の実施形態では、単体の圧電基板を用いたが、圧電基板を薄層化しその裏面に支持基板を備えた複合基板を用いてもよい。その場合には、圧電基板の厚さは、例えば、一定であり、その大きさは、SAW装置1が適用される技術分野やSAW装置1に要求される仕様等に応じて適宜に設定されてよい。一例として、圧電基板の厚さは、1〜30μmである。支持基板は、例えば、圧電基板の材料よりも熱膨張係数が小さい材料によって形成されている。従って、温度変化が生じると圧電基板に熱応力が生じ、この際、弾性定数の温度依存性と応力依存性とが打ち消し合い、ひいては、SAW装置1の電気特性の温度変化が補償される。このような材料としては、例えば、サファイア等の単結晶、シリコン等の半導体および酸化アルミニウム質焼結体等のセラミックを挙げることができる。なお、支持基板は、互いに異なる材料からなる複数の層が積層されて構成されていてもよい。支持基板の厚さは、例えば、一定であり、その大きさは、圧電基板の厚さと同様に適宜に設定されてよい。ただし、支持基板の厚さは、温度補償が好適に行われるように、圧電基板の厚さを考慮して設定される。一例として、圧電基板の厚さ1〜30μmに対して、支持基板の厚さは100〜300μmである。圧電基板および支持基板は、例えば、接着層を介して互いに貼り合わされたり、接着面をプラズマなどで活性化処理した後に接着層無しに貼り合わせる、いわゆる直接接合によって貼り合わされていたりしても良い。
【0075】
さらに、上述の例では、端子部4はカバー9の外縁よりも内側に位置していたが、
図11に示すように、端子電極4をカバー9の外縁よりも外側に引き出し、枠部7,蓋部8の外側を伝うように外部接続電極10を設けてもよい。その場合には、カバー9を覆う絶縁層12を備えていてもよい。
【0076】
また、上述の例では、導体パターン6をインダクタ成分と容量成分として機能させた玲について説明したが、抵抗(レジスタンス成分)を形成してもよい。
【0077】
<分波器>
SAW装置1は、
図12に示すように、アンテナ端子13、送信フィルタ14および受信フィルタ15を有する分波器100に適用してもよい。アンテナ端子13は、移動体端末等の通信装置において、アンテナに接続される端子である。送信フィルタ14は送信端子14aから入力された送信信号TSをフィルタリングしてアンテナ端子13に出力するフィルタである。受信フィルタ15はアンテナ端子13から入力された受信信号RSをフィルタリングするフィルタである。フィルタリングされた受信信号RSは出力端子15aから出力される。送信フィルタ14および受信フィルタ15はアンテナ端子13に電気的に接続されている。なお、
図12において、Gはグランドを示しており、Lはインダクタを示すものである。また、受信フィルタ15は、ダブルモードSAWフィルタDを示すものである。
【0078】
送信フィルタ14は、アンテナ端子13および送信端子14aに直列的に接続した直列共振子S1〜S3と、アンテナ端子13および送信端子14aに並列的に接続した並列共振子P1〜P3とを有するラダー型フィルタで構成されている。本実施形態の分波器100では、3段のラダー型フィルタの例を用いているがこれに限定されず、何段のラダー型フィルタであってもよい。
【0079】
上述のSAW装置1の構造を分波器100に適用したときに、導体パターン6,第2導体パターン11を、減衰極調整用のインダクタとして用いる場合には、
図12に示す、インダクタLに相当する部分に用いることができる。
【0080】
(通信装置)
図13に示すように、アンテナ16と、アンテナ16に電気的に接続された分波器100と、分波器100に電気的に接続されたRF−IC17とを備える通信装置200であってもよい。通信装置200によれば、
図14に示すように、SAW装置1(または分波器100)を回路基板14に実装した場合でも、カバー体6と圧電基板2との接合強度が確保された信頼性の高いものとすることができる。
【0081】
図14は、SAW装置1(または分波器100)を回路基板20に実装した状態を示している。回路基板20には、回路電極20aが形成されている。SAW装置1は、例えば半田等からなるバンプ18を介して回路基板20に実装される。SAW素子1の外部接続端子10は、バンプ18を介して回路電極20aに電気的に接続される。
【0082】
本変形例のSAW装置1は、枠部7、蓋部8および第2蓋部8aを貫通する貫通孔において、第1柱状電極10aが枠部7の貫通孔に、第2柱状電極10bが蓋部8の貫通孔にそれぞれ配置されている。本変形例において、第2蓋部8aの貫通孔には、外部接続端子10は設けられていないが、第3柱状電極を設けてもよい。本変形例のように第2蓋部8aの貫通孔に外部接続端子10を設けずに、バンプ18の一部を入りこませることにすることで、SAW装置1が回路基板20へ実装する際に位置ずれすることを低減することができる。また、バンプ18が第2蓋部8aと接触することで密着強度を向上させることができる。