特許第6612530号(P6612530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6612530CD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌の検出方法及びそれを用いた検出キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612530
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】CD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌の検出方法及びそれを用いた検出キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20191118BHJP
【FI】
   C12Q1/37
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-110768(P2015-110768)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-220624(P2016-220624A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】514188955
【氏名又は名称】社会医療法人同心会
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】荒武 八起
(72)【発明者】
【氏名】清山 和昭
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−041472(JP,A)
【文献】 国際公開第89/009395(WO,A1)
【文献】 米国特許第04288344(US,A)
【文献】 Am. J. Clin. Pathol.,1991年,Vol.96, No.3,pp.306-310
【文献】 日本臨床細胞学会雑誌,2013年,Vol.52, No.2,pp.107-115
【文献】 J. Food Compost. Anal.,2008年,Vol.21,pp.428-434
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD26/DPPIV(dipeptidyl peptidaseIV)の酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法
であって、検出対象の標本を固定液で固定する工程と、前記固定された標本を反応液で反応させて癌細胞を検出する工程と、を含み、前記標本を反応させる反応液は、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN(Glycyl-prolyl-4-methoxy-β-naphthylamide)基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB(Fast Blue B salt)色素液と、を混合した反応液であることを特徴とするCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法。
【請求項2】
請求項記載のCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法において、前記リン酸緩衝液と、前記GPMN基質液と、前記FBB色素液との夫々は、点眼式容器に充填しておき、癌細胞の検出を行う際にそれぞれ点眼式容器から必要量を供給することを特徴とするCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法。
【請求項3】
CD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出キットであって、検出対象の標本を反応させる反応液は、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB色素液と、を混合した反応液であり、前記緩衝液、前記基質液、前記色素液は、点眼式容器に充填されていることを特徴とするCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出キット。
【請求項4】
CD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法であって、検出対象の標本を反応させる反応液は、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB色素液と、を混合した反応液であり、前記色素液は、FBB色素が水によって溶液として点眼式容器に充填された後、乾燥されてtert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒で再溶解されて用いられることを特徴とするCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法。
【請求項5】
CD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞を検出する際に、検出対象の標本を反応させる反応液であって、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB色素液と、を混合したことを特徴とするCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出用の反応液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、CD26/DPPIV(dipeptidyl peptidaseIV)の酵素活性染色による甲状腺癌の検出方法及びそれを用いた検出キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
成人女性に極めて多い甲状腺結節は、超音波検査等で厳密に調べるとおよそ25%が検出されるが、その多くは良性の病変であり手術を必要としない。手術適応の選択は診療上に極めて重要なことであり、不必要な手術の回避は、特に女性の美容等を考慮すると重要な課題でもある。適切な治療や手術を必要とするか否かの術前診断に穿刺吸引細胞診は、必須の検査法であり診断精度も高い。しかし、中には細胞診のみでは診断困難な症例も多く、特に濾胞性腫瘍に対しては殆ど無力である。そこで、細胞診の検査精度を上げるための手法として腫瘍マーカーが必要である。
Lojdaがリンパ球の研究において、CD26/DPPIV酵素活性を可視化する手法を始めて報告(Histochemistry, 54, 1977) し、その後、甲状腺癌の診断にCD26/DPPが腫瘍マーカーとして有用であることが荒武等によって報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Aratake, Kotani., et al. Am J Clin Path, 1991
【非特許文献2】Kotani, Aratake, et.al. Cancer Letter, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した荒武等の甲状腺癌の診断にCD26/DPPIV酵素活性を可視化する手法を図1にフローとして示す。
まず、「検査材料採取と塗抹標本作成」工程において、甲状腺癌被疑者の検査対象は内分泌専門医によって甲状腺結節から穿刺吸引によって採取される。その吸引物をスライドグラス上に載せ、他のスライドグラスで挟んで左右に引くことにより2枚の塗抹標本を作製する。一枚はパパニコロ染色用に、他の一枚はCD26/DPPIV染色用に用いる。
【0005】
次に、「CD26/DPPIV活性染色」工程において、CD26/DPPIV用に作製された塗抹標本は、アセトン、0.2M pH6.6リン酸緩衝液、ホルマリンを60 : 30 :10 の割合に混合した固定液により1分間固定した後、水洗する。
その後、塗抹標本1枚に対して基質としてGPMN(Glycyl-prolyl-4-methoxy-β-naphthylamide)(以下、基質(GPMN))0.5mgと、色素としてFBB(Fast Blue B salt) (以下、色素(FBB))1mgを秤量し、夫々をN-Nジメチルホルムアミド 0.1 mlに溶かして、1mLの緩衝液(0.2M pH7.2リン酸緩衝液)に加え混和し反応液とする。この反応液を塗抹標本に載せて室温で30分間反応させた後、水洗する。
【0006】
更にその後、マイヤーのヘマトキシリン液を塗抹標本に載せ室温で2分間染色、流水で5分間洗浄した後、乾燥する。
最後に、「 観察・診断結果報告」として、光学顕微鏡による観察において、殆どの乳頭癌や濾胞癌細胞はCD26/DPP染色により橙色ないし赤色の陽性所見を呈する。それに対して、非癌細胞(濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫など)の多くは陰性である。これらを指標に良性・悪性の評価を行う。別に染色したパパニコロ染色標本とCD26/DPPIV染色の結果を総合して細胞学的に診断し、結果を臨床医に報告する。
【0007】
以上の従来の手法では、反応液の調整に粉末試薬である基質(GPMN) 、色素(FBB)の秤量等を含めて20分以上を要した。また、標本1枚単位の少量の粉末試薬の秤量は、極めて煩雑な為、例えば、標本10枚当たりとして、基質(GPMN) 5mg、色素(FBB) 10mgを秤量単位で作成すると、標本9枚分を破棄することになり試薬の無駄となっていた。
以上の様に、粉末である基質(GPMN)、色素(FBB)を使用の都度、秤量して反応液を調整するという煩雑な過程を簡易にする課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、出願人は、粉末である基質(GPMN)、色素(FBB)を使用の都度、秤量する必要のない手法を検討した。具体的には、予め基質(GPMN)と色素(FBB)とを溶液として長期間安定化させることを目指した。
そのため溶媒について検討した結果、基質(GPMN)の溶媒としては従来法と同じN-Nジメチルホルムアミドで問題なかったが、色素(FBB)の溶媒としては、大きな問題があった。つまり、N-Nジメチルホルムアミドの溶媒では、色素(FBB)としては1週間も保存(室温)できなかった(表1)。
【0009】
種々の溶媒について検討した結果、水と親和性のある溶媒の中で経時的な安定性からみてtert-ブチルアルコールが最も適しており、次いでアセトン、アセトアニリド、ジオキサン、メチルアルコール、テトラハイドロフラン、エチレングリコール、ジメソキシエタン、メソキシエタノールが適していた(長期間安定化溶媒)。
【0010】
【表1】
【0011】
表1に各種溶媒における色素の安定性を示している。具体的には、色素(FBB)を各種溶媒の70%濃度で溶解し、溶解後、室温に保存し経時的に染色性をCD26/DPPIV陽性甲状腺癌培養細胞を用いて評価した。評価結果は、図4の評価基準により陰性から強陽性の4段階で判断した。
最も適しているtert-ブチルアルコールは、常温でも固形化する性質が強く(融点25.7℃)、冷蔵庫やフリーザー保存に不向きである。そこで、比較的、安定性の良いメチルアルコールと混合することにより、その問題点を解決できた。各種濃度のメチルアルコールとtert-ブチルアルコールを溶媒とした場合について色素(FBB)の安定性をみると、比較的低濃度領域においても安定性が確認できた(表2,3)。表2は、メチルアルコールの濃度と色素の安定性を、表4は、tert-ブチルアルコールの濃度と色素の安定性を示している。
【0012】
また、色素(FBB)の溶媒としてはメチルアルコールとtert-ブチルアルコールとを、それぞれ濃度30%の混合液が最適であると判断した(表4)。表4は、濃度30%メチルアルコールと濃度30% tert-ブチルアルコールの混合液の色素の安定性を示している。表2、表3、表4の何れも溶解後の色素(FBB)を、室温に保存し経時的に染色性をCD26/DPPIV陽性甲状腺癌培養細胞を用いて評価した。
なお、データは示さないが、この条件で溶解した色素(FBB)は、冷蔵庫保存(4℃)で2-3か月、フリーザー(-30℃)で半年間は安定性を確認している。
表2からメチルアルコールは、濃度が30%又は10%単独でも十分長期間安定性が得られる。
【0013】
【表2】
【0014】
【表3】
【0015】
【表4】
【0016】
更に、基質(GPMN)、色素(FBB)の長期的に安定な溶媒(長期間安定化溶媒)を見出した結果、その溶液(長期間安定化溶液)を用いて、初めてキット化することが可能となった。ここで、キットとは、少なくとも、基質(GPMN)、色素(FBB)の溶液を長期間使用しやすい点眼式容器に充填したもので、甲状腺癌の検出方法としてセットとして用いられる。
【0017】
また、キットの有効期限を更に延長する方策として、最初に水で溶解した色素(FBB)液の規定量を点眼式容器に入れ、乾燥した状態でキット内に納め、使用に際して再溶解して用いる方法が有効である。この方法による色素(FBB)液の安定は、表5に示す再溶解した時点からの期限内で担保でき、結果としてキットの使用期限を大幅に延長させることが可能である。つまり、色素(FBB)を乾燥した状態で点眼式容器としてキット内に収め冷蔵保存すれば、長期間保存可能であり、尚且つ使用に際して本願発明の溶媒(メチルアルコールまたはtert-ブチルアルコール)で再溶解すれば、その時点から、更に2-3か月は冷蔵保存が可能である。表5に溶解後乾燥した色素(FBB)の再溶解後の安定性を示す。具体的には、200mgの色素(FBB)を水2mlで溶解し、0.1mlずつ分注し、乾燥後にメチルアルコールとtert-ブチルアルコールの混合溶液で再溶解後、室温保存し、経時的に染色性をCD26/DPPIV陽性甲状腺癌培養細胞を用いて評価した。
【0018】
この様に点眼式容器に色素(FBB)液として入れ、乾燥させる理由は、キットを製品化する上で粉末である色素(FBB)を多数の点眼式容器に規定量入れることは困難であるが、溶液にした色素(FBB)液の一定量を入れることは容易なためである。
【0019】
【表5】
【0020】
以上の知見により本願発明を見出した。つまり、請求項1に係るCD26/DPPIV(dipeptidylpeptidaseIV)の酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法であって、検出対象の標本を固定液で固定する工程と、前記固定された標本を反応液で反応させて癌細胞を検出する工程と、を含み、前記標本を反応させる反応液は、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN(Glycyl-prolyl-4-methoxy-β-naphthylamide)基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB(Fast Blue B salt)色素液と、を混合した反応液であることを特徴とする。
【0021】
また、請求項に係るCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法は、前記リン酸緩衝液と、前記GPMN基質液と、前記FBB色素液との夫々は、点眼式容器に充填しておき、癌細胞の検出を行う際にそれぞれ点眼式容器から必要量を供給することを 特徴とする。
【0022】
また、請求項に係るCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出キットは、検出対象の標本を反応させる反応液は、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB色素液と、を混合した反応液であり、前記緩衝液、前記基質液、前記色素液は、点眼式容器に充填されていることを特徴とする。
【0023】
また、請求項に係るCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法は、検出対象の標本を反応させる反応液は、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB色素液と、を混合した反応液であり、前記色素液は、FBB色素が水によって溶液として点眼式容器に充填された後、乾燥されてtert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒で再溶解されて用いられることを特徴とする。
【0024】
また、請求項に係るCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出用の反応液は、CD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞を検出する際に、検出対象の標本を反応させる反応液であって、リン酸緩衝液と、N-Nジメチルホルムアミド溶媒のGPMN基質液と、tert-ブチルアルコールとメチルアルコールとの混合溶媒のFBB色素液と、を混合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本願発明に係るCD26/DPPIVの酵素活性の可視化において、反応液の色素液として、少なくともtert-ブチルアルコール、アセトン、アセトアニリド、ジオキサン、メチルアルコール、テトラハイドロフラン、エチレングリコール、ジメソキシエタン、メソキシエタノールの中の溶媒の色素(FBB)液を用いることによって、長期間安定した色素(FBB)液が得られ、更に反応液を点眼式容器で用いることによって、処置時間の大幅な短縮が可能となり、作業効率が大きく向上するという効果を奏した。その結果、甲状腺癌の細胞診断が普及することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】従来のCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌の検出方法のフローを示す図。
図2】本願発明キットによるCD26/DPPIV酵素活性染色効果を示す甲状腺組織凍結切片の図。
図3】本願発明キットによるCD26/DPPIV酵素活性染色効果を示す甲状腺穿刺吸引細胞の図。
図4】表1-5における染色性の評価基準を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明のCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌の検出方法の具体的な最適方法で、従来のフロー図と異なる点は、色素(FBB)の溶媒としてメチルアルコール・tert-ブチルアルコール混合溶媒を用い、そして、濃度はメチルアルコール30%と、tert-ブチルアルコール30%との混合液が最適であり、更に、基質(GPMN)液、色素(FBB)液、緩衝液、夫々を点眼式容器に充填してキットとして用いる点である。
その結果、従来は反応液の調整に20分要していたが、僅か30秒で可能となった。以下に具体的な実施例を示す。
【0028】
(実施例)
本願発明であるCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌の検出キットを用いた例として、凍結切片材料の場合と、甲状腺穿刺吸引細胞診材料の場合とを挙げる。
凍結切片材料の場合、甲状腺組織は癌組織と非癌組織が明瞭に染め分けられる(図2)。この様に明白に診断できた。
【0029】
甲状腺穿刺吸引細胞診材料の場合を以下に示す。まず、乳頭癌における染色像として、乳頭癌においては、腫瘍細胞は、細胞表面を縁どる様に染色される症例(図3, A-1)と細胞全体が瀰漫性に染色される症例(図3, A-2)の他、細胞内に滴状に染色される場合など種々の陽性像を示す。
次に、濾胞癌における染色像として、濾胞癌においては、腫瘍細胞は濾胞腔を満たすように染色される場合(図3, B-1)や腫瘍組織内に水滴状ないし塊状として染色される場合(図3, B-2)など様々な陽性所見を示す。
【0030】
また、良性病変における染色像として、細胞形態学的のみならず病理組織学的にも診断が困難とされる濾胞腺腫や腺腫様甲状腺腫において、CD26/DPPIVは血管内皮細胞やマクロファージなどの非上皮細胞は一部で陽性となるが上皮細胞は陰性である(図3, C, D)。
以上の様に、本願発明の検出キットによるCD26/DPPIV酵素活性染色の陽性率は乳頭癌97.8%、濾胞癌においては80.0%であるのに対し、癌との鑑別が困難な濾胞腺腫や腺腫様甲状腺腫では、それぞれ15.8%, 16.7%と低率である (表6)。
【0031】
【表6】
【0032】
この結果から、本願発明によるCD26/DPPIVの酵素活性染色による甲状腺癌細胞の検出方法(検出キット)は、甲状腺腫瘍の良性、悪性を鑑別する上で診断的マーカーとして極めて有用といえる。尚、これらの結果は、従来法と良好な相関性を示すものである(表6)。ちなみに、従来法によるCD26/DPPIV酵素活性染色と免疫組織化学的染色、メッセンジャーRNA(mRNA)解析結果との相関性は既報(荒武、他. J. Jpn. Soc. Clin. Cytol., 2013 52-2)に示されている。
図1
図2
図3
図4