特許第6612531号(P6612531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612531
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】ポリブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 136/06 20060101AFI20191118BHJP
   C08F 4/52 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   C08F136/06
   C08F4/52
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-116930(P2015-116930)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-2168(P2017-2168A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年12月20日
【審判番号】不服2019-3745(P2019-3745/J1)
【審判請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖王
(72)【発明者】
【氏名】山縣 悠介
(72)【発明者】
【氏名】田邊 友絵
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 大熊 幸治
【審判官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157495(WO,A1)
【文献】 特開2013−82826(JP,A)
【文献】 特開2013−241549(JP,A)
【文献】 特開平5−93048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00 - 246/00
C08C 19/00 - 19/44
C07B 31/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ブタジエンと、前記1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001〜2.0質量部の含酸素化合物とを含有するブタジエン含有組成物を用いて、1,3−ブタジエンを重合させる重合工程を含み、
前記含酸素化合物は、含酸素中性化合物を構成成分として含み、前記含酸素化合物中の前記含酸素中性化合物の割合が85質量%以上であり、
前記含酸素中性化合物は、エーテル及びエステルの少なくともいずれかであり、
前記含酸素中性化合物がエーテルを含む場合、前記エーテルは、エトキシエチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン及び3−メチルフランの少なくともいずれかであることを特徴とする、ポリブタジエンの製造方法。
【請求項2】
前記1,3−ブタジエンが、バイオマス由来のエタノールを合成して得られた1,3−ブタジエンである、請求項1に記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項3】
前記重合工程において、前記ブタジエン含有組成物に希土類元素化合物と有機金属化合物とを配合し、ここで、前記有機金属化合物の配合量が、前記ブタジエン含有組成物100質量部に対して0.1〜6.0質量部であり、前記有機金属化合物が、式(S2):
YR ・・・(S2)
(式中、Yは、第1族、第2族、第12族、及び第13族からなる群から選択される金属元素であり;R及びRは、炭素数1〜10の炭化水素基又は水素原子であり、同一であっても異なっていてもよく;Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり;Rは上記R又はRと同一であっても異なっていてもよく;Yが第1族の金属元素である場合には、aは1であり且つb及びcは0であり、Yが第2族の金属元素及び第12族の金属元素である場合には、a及びbは1であり且つcは0であり、Yが第13族の金属元素である場合には、a、b及びcは1である)で表される、請求項1又は2に記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項4】
前記重合工程において、前記ブタジエン含有組成物にアニオン重合開始剤を配合し、ここで、前記アニオン重合開始剤の配合量が、前記1,3−ブタジエン100質量部に対して0.003〜3.0質量部である、請求項1又は2に記載のポリブタジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブタジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が重視され、二酸化炭素の排出に対する規制が強化されるようになっており、石油原料の使用量を抑制することが求められている。また、石油原料は、有限であり、供給量が年々減少しているため、将来的に石油原料の価格の高騰が予測される上、石油資源からなる原材料の使用に限界がみられている。
そこで、循環型社会の構築の一環として、化石燃料からの脱却を図り、化石燃料に代替されるバイオマスの利用が注目されている。そして、ゴム材料等の材料の分野においても同様に、バイオマスに由来する原料を用いた諸材料の製造が注目されており、これに関して種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バイオマス由来のブタノール、エタノール、エチレン、チグリン酸からそれぞれ合成された1,3−ブタジエンの混合物を用い、バイオマスポリブタジエンゴムを合成したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−024915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バイオマス由来の原料から合成した1,3−ブタジエンには、通常、多量の不純物が付随する。そのため、この1,3−ブタジエンからポリブタジエンを合成しようとしても、重合が十分に進まない、得られるポリブタジエンの分子量が十分に高くならない、などの虞があった。この問題への対処として、例えば、重合に先立って蒸留又は抽出蒸留などの高度な精製により上記の不純物をできる限り除去する方法が挙げられるが、この方法は、追加の設備が必要となり、コストの観点から不利である。
なお、非バイオマス由来、例えば石油由来の原料から合成した1,3−ブタジエンにも、いくらかの不純物が付随し得る。そのため、かかる石油由来の原料から合成した1,3−ブタジエンを用いてポリブタジエンを合成する際にも、通常は抽出蒸留などによってあらかじめ1,3−ブタジエンを精製しているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来の問題を解決し、低コストでポリブタジエンを製造することが可能な、ポリブタジエンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリブタジエンの重合の材料として用いる1,3−ブタジエンに所定量の含酸素化合物が付随していた場合であっても、ポリブタジエンを製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明のポリブタジエンの製造方法は、1,3−ブタジエンと、前記1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001〜3.0質量部の含酸素化合物とを含有するブタジエン含有組成物を用いて、1,3−ブタジエンを重合させる重合工程を含むことを特徴とする。かかる製造方法によれば、低コストでポリブタジエンを製造することができる。
なお、本発明において「含酸素化合物」とは、分子中に少なくとも1つの酸素原子を有する化合物を指す。
【0009】
本発明のポリブタジエンの製造方法においては、二酸化炭素の排出量を十分に抑制する観点、及び石油資源に依存せずにブタジエン含有組成物を得てポリブタジエンを製造する観点から、前記1,3−ブタジエンが、バイオマス由来のエタノールを合成して得られた1,3−ブタジエンであることが好ましい。
【0010】
本発明のポリブタジエンの製造方法においては、前記含酸素化合物が、含酸素中性化合物(中性の含酸素化合物)を構成成分として含み、前記含酸素化合物中の前記含酸素中性化合物の割合が85質量%以上であることが好ましい。これにより、高度な精製操作に伴うコストの増加を回避しつつ、より確実にポリブタジエンを得ることができる。
【0011】
本発明のポリブタジエンの製造方法では、前記重合工程において、前記ブタジエン含有組成物に希土類元素化合物と有機金属化合物とを配合し、ここで、前記有機金属化合物の配合量が、前記ブタジエン含有組成物100質量部に対して0.1〜6.0質量部であることが好ましい。これにより、モノマーからポリマーに変換する際の転換率を上げることができるとともに、得られるポリマーの分子量を高めることができる。
【0012】
また、本発明のポリブタジエンの製造方法では、前記重合工程において、前記ブタジエン含有組成物にアニオン重合開始剤を配合し、ここで、前記アニオン重合開始剤の配合量が、前記1,3−ブタジエン100質量部に対して0.003〜3.0質量部であることが好ましい。これにより、モノマーからポリマーに変換する際の転換率を上げることができるとともに、得られるポリマーの分子量を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記従来技術の問題を解決し、低コストでポリブタジエンを製造することが可能な、ポリブタジエンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ポリブタジエンの製造方法)
以下、本発明のポリブタジエンの製造方法の実施形態について詳細に例示説明する。
本発明の一例のポリブタジエンの製造方法(以下、「一例の製造方法」と称することがある。)は、1,3−ブタジエンと、前記1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001〜2.0質量部の含酸素化合物とを含有するブタジエン含有組成物を用いて、1,3−ブタジエンを重合させる重合工程を含むものである。
【0015】
<ブタジエン含有組成物>
本発明の一例の製造方法において用いられるブタジエン含有組成物(以下、「本発明の一例のブタジエン含有組成物」と称することがある。)は、1,3−ブタジエンと、含酸素化合物と、任意に、その他の成分とを含有する。
【0016】
−1,3−ブタジエン−
本発明の一例のブタジエン含有組成物に含有される1,3−ブタジエンとしては、特に制限はされず、目的に応じて適宜選択され、例えば、エタノールを金属触媒下で高温に加熱する工程を経て得られる1,3−ブタジエンが挙げられる。上記工程は、具体的には、金属触媒を充填した反応器にNガスを流し、このガス流にエタノールを添加し、これを反応器内で加熱して行うことができる。
なお、上記工程では、通常、1,3−ブタジエン以外に、1−ブテンや2−ブテンなどのアルケン、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、エーテル、エステル、ケトン等の副生成物も生成され得る。
【0017】
ここで、前記エタノールは、二酸化炭素の排出量を十分に抑制する観点、及び石油資源に依存しない観点から、バイオマス由来のエタノールであることが好ましい。言い換えれば、ブタジエン含有組成物に含有される1,3−ブタジエンは、バイオマス由来のエタノールを原料として用い、これを合成して得られた1,3−ブタジエンであることが好ましい。
なお、前記バイオマス由来のエタノールから合成した1.3−ブタジエンには、通常、不純物として一定量の含酸素化合物が含まれるため、容易に本発明の一例のブタジエン含有組成物を得てポリブタジエンを製造する観点からも、バイオマス由来のエタノールを合成して得られた1,3−ブタジエンを用いることが好ましい。
【0018】
−含酸素化合物−
本発明の一例のブタジエン含有組成物は、少なくとも、含酸素化合物を含有する。ここで、1,3−ブタジエンを触媒の存在下でエタノールから合成する場合には、多かれ少なかれ、含酸素化合物であるアルコール、アルデヒド、エーテル、エステル、ケトン等も生成され得る。そのため、本発明によれば、高度な精製によりこれらを除去する必要なしに本発明の一例のブタジエン含有組成物を調製して、低コストでポリブタジエンを製造することが可能となる。
【0019】
ここで、含酸素化合物は、中性の含酸素化合物(以下、「含酸素中性化合物」と称することがある。)と、中性でない含酸素化合物(以下、「含酸素非中性化合物」と称することがある。)とに分類することができる。
【0020】
含酸素中性化合物としては、エーテル、エステル、ケトン等が挙げられる。
エーテルとしては、具体的には、エトキシエチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、3−メチルフラン等が挙げられる。エステルとしては、具体的には、酢酸エチル、酢酸メチル等が挙げられる。ケトンとしては、具体的には、メチルビニルケトン、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、ジアセチル(2,3−ブタンジオン)、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。これら含酸素中性化合物は、1種単独で含有されていてもよく、2種以上が組み合わさって含有されていてもよい。
【0021】
含酸素非中性化合物としては、アルコール、アルデヒド、カルボン酸等が挙げられる。
アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノ−ル、クロチルアルコール等が挙げられる。アルデヒドとしては、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、メタクロレイン、クロチルアルデヒド等が挙げられる。カルボン酸としては、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0022】
本発明の一例のブタジエン含有組成物における含酸素化合物の含有量(含酸素中性化合物及び含酸素非中性化合物の総含有量)は、1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001〜2.0質量部の範囲内である限り、特に制限はされない。含酸素化合物の含有量が1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001質量部未満であると、1,3−ブタジエンの合成後に高度な精製が必要となって製造コストが増大するおそれがある。また、含酸素化合物の含有量が1,3−ブタジエン100質量部に対して3.0質量部超であると、1,3−ブタジエンの重合(ポリブタジエンの製造)自体ができないおそれがある。
同様の観点から、本発明の一例のブタジエン含有組成物における含酸素化合物の含有量は、1,3−ブタジエン100質量部に対して、0.01〜2.0質量部が好ましく、0.03〜2.0質量部がより好ましい。
【0023】
更に、本発明の一例のブタジエン含有組成物における含酸素化合物中の含酸素中性化合物の割合としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択されるが、85質量%以上が好ましく、89質量%以上がより好ましい。前記割合が85質量%以上であることにより、高度な精製操作に伴うコストの増加を回避しつつ、より確実にポリブタジエンを得ることができる。
なお、ブタジエン含有組成物における1,3−ブタジエンの含有量、含酸素中性化合物の含有量、及び含酸素非中性化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0024】
−その他の成分−
本発明の一例のブタジエン含有組成物は、上述した1,3−ブタジエン、含酸素化合物以外のその他の成分を、本発明の目的を損なわない範囲において含有することができる。
その他の成分としては、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1,2−ブタジエン、メチルブテン、1−ペンテン等が挙げられる。これらその他の成分は、1種単独で含有されていてもよく、2種以上が組み合わさって含有されていてもよい。
なお、本発明の一例のブタジエン含有組成物は、1,3−ブタジエンを重合させる前に、あらかじめヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の溶媒中に溶解させておいてもよい。ここで、この場合における溶媒は、ブタジエン含有組成物に含まれないものとする。
【0025】
<ブタジエン含有組成物の調製>
ブタジエン含有組成物は、例えば、上述のようにしてエタノールを金属触媒下で高温に加熱して得られる1,3−ブタジエンを含有する反応物から調製することができる。通常、上記反応物には、1,3−ブタジエン以外に、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、エーテル、エステル、ケトン等の含酸素化合物も副生成物として含まれる。そのため、例えば、これらの含酸素化合物の含有量が1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001〜2.0質量部の範囲内となるよう、上記反応物を簡易的な方法で精製することで、ブタジエン含有組成物を低コストで調製することができる。
【0026】
上記精製の方法としては、例えば、ヘキサン等の溶媒に溶解させた上記反応物を吸着剤などに接触させ、反応物中の含酸素化合物を部分的に除去する方法が挙げられる。具体的には、溶媒に溶解させた反応物に吸着剤を加えて所定時間静置する方法、溶媒に溶解させた反応物を充填剤を具えるカラムクロマトグラフィーにより所定時間処理する方法、及びこれらを組み合わせた方法等が挙げられる。前記吸着剤としては、活性アルミナ、モレキュラーシーブス、シリカゲル等が挙げられる。また、前記充填剤としては、活性アルミナ、モレキュラーシーブス、シリカゲル等が挙げられる。これら吸着剤及び充填剤は、それぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、含酸素化合物の除去割合は、吸着剤や充填剤の種類の変更、或いは、反応物と吸着剤や充填剤との接触時間又は質量比の変更などにより、適宜調整することができる。
【0027】
ここで、上述した溶媒に溶解させた反応物に吸着剤を加えて静置する方法を用いる場合、その静置時間としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択されるが、所望のブタジエン含有組成物を得る観点から、12時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましく、また、生産性及び低コスト性の悪化を抑制する観点から、120時間以下が好ましく、100時間以下がより好ましい。
【0028】
また、上述したカラムクロマトグラフィーにより処理する方法を用いる場合、その処理時間としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択されるが、所望のブタジエン含有組成物を得る観点から、1時間以上が好ましく、また、生産性及び低コスト性の悪化を抑制する観点から、3時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。
なお、上述したカラムクロマトグラフィーによる処理の時間が6時間以上であると、ブタジエン含有組成物の生産性、ひいてはポリブタジエンの生産性が低下し、単位量のポリブタジエン当たりの製造コストが増加するため、好ましくない。
【0029】
そして、ブタジエン含有組成物の調製においては、上記反応物を蒸留又は抽出蒸留により精製する工程を含まないことが好ましい。蒸留又は抽出蒸留などの高度な精製は、追加の設備が必要となって製造コストを増大させる虞がある。
【0030】
<1,3−ブタジエンの重合(ポリブタジエンの製造)>
本発明の一例の製造方法においては、ブタジエン含有組成物を用いて1,3−ブタジエンを重合させる重合工程を含むことを要する。上記重合工程では、1,3−ブタジエンの重合が、ブタジエン含有組成物中で行われる。1,3−ブタジエンの重合方法としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択され、例えば、配位重合、アニオン重合等が挙げられる。また、いずれの重合方法を実施する場合においても、重合工程において、ブタジエン含有組成物に任意の成分を配合することができ、それによって重合を開始することができる。
【0031】
−配位重合−
本発明の一例の製造方法においては、ブタジエン含有組成物を用い、配位重合により1,3−ブタジエンを重合することができる。具体的には、ヘキサン等の溶媒に溶解させたブタジエン含有組成物に対し、配位重合を触媒する成分を配合することにより、1,3−ブタジエンを重合することができる。ここで、本発明において好適な配位重合を触媒する成分としては、希土類元素化合物(以下、「(A)成分」ともいう。)及び有機金属化合物(以下、「(B)成分」ともいう。)が挙げられ、更に、アルミノキサン化合物(以下、「(C)成分」ともいう)、ハロゲン化合物(以下、「(D)成分」ともいう)、イオン性化合物(以下、「(E)成分」ともいう)、アニオン性配位子となり得る化合物(以下、「(F)成分」)等を配合することもできる。
なお、ブタジエン含有組成物への配合に際しては、上述した(A)成分及び(B)成分、並びに任意の(C)成分〜(F)成分から選択される成分を予め混合して触媒組成物を調製し、この触媒組成物をブタジエン含有組成物に配合してもよく、上記の成分をそれぞれ単独でブタジエン含有組成物に配合してもよい。
【0032】
−−希土類元素化合物((A)成分)−−
(A)成分は、金属−窒素結合(M−N結合)を有する、希土類元素含有化合物又は該希土類元素含有化合物とルイス塩基との反応物とすることができる。希土類元素含有化合物としては、例えば、スカンジウム、イットリウム、又は原子番号57〜71の元素から構成されるランタノイド元素を含有する化合物等が挙げられる。ランタノイド元素とは、具体的には、ランタニウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミニウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムである。
また、ルイス塩基としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアニリン、トリメチルホスフィン、塩化リチウム、中性のオレフィン類、中性のジオレフィン類等が挙げられる。
上記(A)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
ここで、希土類元素含有化合物又は該希土類元素含有化合物とルイス塩基との反応物は、希土類元素と炭素との結合を有しないことが好ましい。希土類元素含有化合物とルイス塩基との反応物が希土類元素−炭素結合を有しない場合、反応物が安定であり、取り扱いが容易となるからである。
【0034】
−−有機金属化合物((B)成分)−−
(B)成分は、式(S2)
YR ・・・(S2)
(式中、Yは、第1族、第2族、第12族、及び第13族からなる群から選択される金属元素であり;R及びRは、炭素数1〜10の炭化水素基又は水素原子であり、同一であっても異なっていてもよく;Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり;Rは上記R又はRと同一であっても異なっていてもよく;Yが第1族の金属元素である場合には、aは1であり且つb及びcは0であり、Yが第2族の金属元素及び第12族の金属元素である場合には、a及びbは1であり且つcは0であり、Yが第13族の金属元素である場合には、a、b及びcは1である)で表される化合物とすることができる。
【0035】
(B)成分は、式(S3)
AlR ・・・(S3)
(式中、R及びRは、炭素数1〜10の炭化水素基又は水素原子であり、同一であっても異なっていてもよく;Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり;Rは上記R又はRと同一であっても異なっていてもよい)で表される有機アルミニウム化合物であることが好ましい。
上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−t−ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム;水素化ジエチルアルミニウム、水素化ジ−n−プロピルアルミニウム、水素化ジ−n−ブチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジヘキシルアルミニウム、水素化ジイソヘキシルアルミニウム、水素化ジオクチルアルミニウム、水素化ジイソオクチルアルミニウム;エチルアルミニウムジハイドライド、n−プロピルアルミニウムジハイドライド、イソブチルアルミニウムジハイドライド等が挙げられ、特に、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、水素化ジエチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウムが好ましい。
上記有機アルミニウム化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
−−アルミノキサン化合物((C)成分)−−
(C)成分は、有機アルミニウム化合物と縮合剤とを接触させることによって得られる化合物である。(C)成分を用いることによって、重合反応系における触媒活性を更に向上させることができる。そのため、そのため、反応時間を更に短くし、反応温度を更に高くすることができる。
ここで、有機アルミニウム化合物としては、(B)成分として上述したもの、及びその混合物等が挙げられ、特に、トリメチルアルミニウム、トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとの混合物が好ましい。
縮合剤としては、当技術分野において通常使用されるものが挙げられる。
【0037】
(C)成分としては、例えば、式(S4)
−(Al(R10)O)− ・・・(S4)
(式中、R10は、炭素数1〜10の炭化水素基であり、ここで、炭化水素基の一部はハロゲン及び/又はアルコキシ基で置換されてもよく;R10は、繰り返し単位間で同一であっても異なっていてもよく;nは5以上である)で表されるアルミノキサンを挙げることができる。
【0038】
上記アルミノキサンの分子構造は、直鎖状であっても環状であってもよい。また、nは10以上であることが好ましい。更に、R10の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基等が挙げられ、特に、メチル基が好ましい。上記炭化水素基は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。R10の炭化水素基としては、メチル基とイソブチル基との組み合わせが好ましい。
【0039】
(C)成分としては、TMAO、例えば、東ソー・ファインケム社製の製品名:TMAO−341が挙げられる。
また、(C)成分としては、MMAO、例えば、東ソー・ファインケム社製の製品名:MMAO−3Aが挙げられる。
更に、(C)成分としては、PMAO、例えば、東ソー・ファインケム社製の製品名:TMAO−211も挙げられる。これらのうち、触媒活性を向上させる効果を高める観点から、TMAO、MMAOが好ましく、触媒活性を向上させる効果を更に高める観点から、TMAOが、更に好ましい。
【0040】
−−ハロゲン化合物((D)成分)−−
(D)成分は、ルイス酸であるハロゲン含有化合物(以下、「(D−1)成分」ともいう)、金属ハロゲン化物とルイス塩基との錯化合物(以下、「(D−2)成分」ともいう)、及び活性ハロゲンを含む有機化合物(以下、「(D−3)成分」ともいう)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0041】
これらの化合物は、(A)成分、すなわち、M−N結合を有する、希土類元素含有化合物又は該希土類元素含有化合物とルイス塩基との反応物と反応して、カチオン性遷移金属化合物、ハロゲン化遷移金属化合物、及び/又は遷移金属中心において電子が不足した状態の遷移金属化合物を生成する。
(D)成分を用いることによって、ポリブタジエンのシス−1,4結合量を向上させることができる。
【0042】
(D−1)成分としては、例えば、第3族、第4族、第5族、第6族、第8族、第13族、第14族又は第15族の元素を含むハロゲン含有化合物等が挙げられ、特に、アルミニウムのハロゲン化物又は有機金属のハロゲン化物が好ましい。
ルイス酸であるハロゲン含有化合物としては、例えば、四塩化チタン、六塩化タングステン、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、メチルアルミニウムジブロマイド、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジブロマイド、エチルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジブロマイド、ブチルアルミニウムジクロライド、ジメチルアルミニウムブロマイド、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムブロマイド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジブチルアルミニウムブロマイド、ジブチルアルミニウムクロライド、メチルアルミニウムセスキブロマイド、メチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキブロマイド、エチルアルミニウムセスキクロライド、アルミニウムトリブロマイド、トリ(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、ジブチル錫ジクロライド、四塩化錫、三塩化リン、五塩化リン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン等が挙げられ、特に、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジブロマイド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムブロマイド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキブロマイドが好ましい。
ハロゲンとしては、塩素又は臭素が好ましい。
上記ルイス酸であるハロゲン含有化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(D−2)成分を得るのに用いられる金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化ベリリウム、臭化ベリリウム、ヨウ化ベリリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化カドミウム、臭化カドミウム、ヨウ化カドミウム、塩化水銀、臭化水銀、ヨウ化水銀、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン、塩化レニウム、臭化レニウム、ヨウ化レニウム、塩化銅、ヨウ化銅、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、塩化金、ヨウ化金、臭化金等が挙げられ、特に、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化亜鉛、塩化マンガン、塩化銅が好ましく、更に特に、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化マンガン、塩化銅が好ましい。
(D−2)成分を得るのに用いられるルイス塩基としては、リン化合物、カルボニル化合物、窒素化合物、エーテル化合物、アルコールが好ましく、例えば、リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジエチルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノエタン、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、プロピオニトリルアセトン、バレリルアセトン、エチルアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸フェニル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジフェニル、酢酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、安息香酸、ナフテン酸、バーサチック酸(シェル化学社製の商品名、C10モノカルボン酸の異性体の混合物から構成される合成酸)、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、2−エチルヘキシルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール、1−デカノール、ラウリルアルコール等が挙げられ、特に、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリクレジル、アセチルアセトン、2−エチルヘキサン酸、バーサチック酸、2−エチルヘキシルアルコール、1−デカノール、ラウリルアルコールが好ましい。
上記ルイス塩基のモル数は、上記金属ハロゲン化物1モル当たり、0.01〜30モル、好ましくは0.5〜10モルの割合で反応させる。このルイス塩基との反応物を使用すると、ポリマー中に残存する金属を低減することができる。
【0044】
(D−3)成分としては、例えば、ベンジルクロライド等が挙げられる。
【0045】
−−イオン性化合物((E)成分)−−
(E)成分は、非配位性アニオンとカチオンとからなるものである。上記非配位性アニオンとしては、4価のホウ素アニオン、例えば、テトラフェニルボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル、ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル)、フェニル]ボレート、トリデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート等が挙げられる。
上記非配位性アニオンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記カチオンとしては、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。ここで、カルボニウムカチオンとしては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ(置換フェニル)カルボニウムカチオン等の三置換カルボニウムカチオン等が挙げられる。また、トリ(置換フェニル)カルボニルカチオンとしては、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボニウムカチオン等が挙げられる。
アンモニウムカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N−ジメチルアニリニウムカチオン、N,N−ジエチルアニリニウムカチオン、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N−ジアルキルアニリニウムカチオン;ジイソプロピルアンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
ホスホニウムカチオンとしては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオン等が挙げられる。
上記カチオンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記の非配位性アニオン及びカチオンからそれぞれ選択し組み合わせた化合物としては、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート([PhC][B(C])、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン[B(C]等が挙げられる。
【0047】
−−アニオン性配位子となり得る化合物((F)成分)−−
(F)成分としては、例えば、式(S5):
【化1】
(式中、Rは、アルキル基又はアリール基、Yは、水素、アルキル基、ハロゲン、シリル基からなる群から選択される少なくとも1つを示す。)に示されるアニオン性三座配位子前駆体が挙げられる(Organometallics,23,p 47784787 (2004)参照)。具体的には、ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)アミン等のPNP配位子が挙げられる。
【0048】
(B)成分(有機金属化合物)の(A)成分に対する割合((B)成分/(A)成分)は、反応系における触媒活性を向上させる観点から、モル比で1〜50であることが好ましい。
【0049】
(C)成分(アルミノキサン化合物)中のアルミニウムの、(A)成分中の希土類元素に対する割合は、反応系における触媒活性を向上させる観点から、モル比で10〜1000であることが好ましい。
【0050】
(D)成分(ハロゲン化合物)の(A)成分に対する割合((D)成分/(A)成分)は、反応系における触媒活性を向上させる観点から、モル比で0.1〜50であることが好ましい。
【0051】
(E)成分(イオン性化合物)の(A)成分に対する割合((E)成分/(A)成分)は、反応系における触媒活性を向上させる観点から、モル比で0.1〜10であることが好ましい。
【0052】
ここで、本発明の一例のポリブタジエンの製造方法では、重合反応を十分に活性化する観点から、(A)成分(希土類元素化合物)の配合量が、ブタジエン含有組成物100質量部に対して0.018質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることが更に好ましい。また、逆に重合反応を不活性化する虞を低減する観点から、ブタジエン含有組成物100質量部に対して0.032質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以下であることが更に好ましい。
【0053】
ここで、本発明の一例のポリブタジエンの製造方法では、重合反応を十分に活性化し、モノマーからポリマーに変換する際の転換率を上げる観点から、有機金属化合物の配合量が、ブタジエン含有組成物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、2.0質量部以上であることが更に好ましい。
また、逆に重合反応を不活性化する虞を低減する観点、及び得られるポリマーの分子量を高める観点から、有機金属化合物の配合量がブタジエン含有組成物100質量部に対して6.0質量部以下であることが好ましく、5.0部以下であることがより好ましい。
【0054】
−アニオン重合−
本発明の一例の製造方法においては、ブタジエン含有組成物を用い、アニオン重合により1,3−ブタジエンを重合することもできる。具体的には、ヘキサン等の溶媒に溶解又は分散させたブタジエン含有組成物に対し、アニオン重合開始剤を配合することにより、1,3−ブタジエンを重合することができる。ここで、本発明において好適なアニオン重合開始剤としては、ヒドロカルビルリチウムが挙げられる。ヒドロカルビルリチウムとしては、具体的には、例えば、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、tert−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、フェニルリチウム、2−ナフチルリチウム、2−ブチル−フェニルリチウム、4−フェニル−ブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、シクロペンチルリチウム、ジイソプロペニルベンジエンとブチルリチウムとの反応生成物などが挙げられる。
【0055】
ブタジエン含有組成物へのアニオン重合開始剤の配合量としては、特に制限はされず、目的に応じて適宜選択されるが、1,3−ブタジエン100質量部に対して0.003〜3.0質量部であることが好ましい。アニオン重合開始剤の配合量が1,3−ブタジエン100質量部に対して0.003質量部以上であることにより、系中の不純物の存在に起因した重合反応の進行の停止を十分に抑制し、モノマーからポリマーに変換する際の転換率を上げることができる。また、アニオン重合開始剤の配合量が1,3−ブタジエン100質量部に対して3.0質量部以下であることにより、得られるポリマーの分子量を高めることができ、適切な分子量の重合体を得ることができる。同様の観点から、アニオン重合開始剤の配合量は、1,3−ブタジエン100質量部に対して0.003〜1.0質量部であることがより好ましい。
【0056】
ここで、本発明の一例の製造方法においてアニオン重合を採用する場合には、ブタジエン含有組成物における含酸素中性化合物の含有量が1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001〜2.0質量部であり、且つ、ブタジエン含有組成物における含酸素化合物中の含酸素非中性化合物の割合が8質量%以上であることが特に好ましい。含酸素中性化合物の含有量及び含酸素非中性化合物の割合が上記範囲内であることにより、分子量が比較的大きい(例えば、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が100,000以上の)ポリブタジエンを得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0058】
<ブタジエン合成用の固体触媒の調製>
100mLの水に、Cu(OCOCH・HO(Cu塩)0.22g、Zn(NO・6HO(Zn塩)1.37g、及びZrO(NO・2HO(Zr塩)0.98gを溶解させ、水溶液を得た。この水溶液を、シグマアルドリッチ社製のシリカ(Grade646、35−60mesh、pore 150オングストローム)11gに含浸した後、80℃で8時間乾燥し、500℃で2時間焼成して、Cu、Zn及びZrがシリカに担持されてなる固体触媒を調製した。
【0059】
<ブタジエン含有組成物の調製>
調製した固体触媒10gを固定床流通式反応器に充填した後、Nガスを190mL/分の流量で流し、このNガス流に、バイオマス由来のエタノールを300mL/分の割合で添加して、反応温度500℃、大気圧下で流通させた。そして、反応により生成したガスを、−30℃に冷却したヘキサン中にバブリングして、ブタジエン(1,3−ブタジエン)を反応物として含有する組成物をヘキサン中に溶解させてなる溶液を得た。得られた溶液1300gに、関東化学株式会社製の活性アルミナ(酸化アルミナ(活性)、粒状)100g、及び関東化学株式会社製のモレキュラーシーブス(モレキュラーシーブス4A)100gを加え、室温中で24時間静置した。その後、上澄みを取り出し、室温において単蒸留による濃縮操作を行い、ブタジエン含有組成物Aを得た。
また、上記と同様にして得たブタジエン含有組成物を、さらにカラムクロマトグラフィーにより10分間処理し、ブタジエン含有組成物Bを調製した。ここで、カラムクロマトグラフィーのカラムの充填剤(固相)としては、関東化学株式会社製の活性アルミナ(酸化アルミナ(活性)、粒状)500g、及び関東化学株式会社製のモレキュラーシーブス(モレキュラーシーブス4A)500gを使用した。
更に、処理時間を、10分間から30分間、1時間、2時間、6時間に変えた以外は、ブタジエン含有組成物Bの調製と同様にして、ブタジエン含有組成物C、D、E、Fをそれぞれ調製した。
そして、これらブタジエン含有組成物A〜Fの組成を、アジレント社製のガスクロマトグラフを用いて分析した。
【0060】
<ポリブタジエンの製造1>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、希土類元素化合物としてのビス(2−フェニルインデニル)ガドリニウムビス(ジメチルシリルアミド)を448μmol、イオン性化合物としてのトリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートを448μmol、及び有機金属化合物としてのトリイソブチルアルミニウムを所定量だけ仕込み、トルエン10mLを加えて触媒溶液とした。次いで、上記グローブボックスから触媒溶液を取り出し、超音波装置を用いて、触媒溶液を15分間撹拌した。
その後、十分に乾燥し、窒素置換した100mLの耐圧ステンレス反応器に、上述のブタジエン含有組成物A〜Fから選択されたブタジエン含有組成物を50g(ブタジエンの濃度は20%)、及び上述の撹拌済みの触媒溶液を所定量だけ配合し、50℃で3時間、重合反応(配位重合)を試みた。また、参考までに、石油由来の原料から合成した後に抽出蒸留に供された1,3−ブタジエンを用い、上記と同様の方法で、重合反応(配位重合)を試みた。
選択したブタジエン含有組成物の種類及び組成、有機金属化合物の配合量などを、表1に示す。
【0061】
<ポリブタジエンの製造2>
十分に乾燥し、窒素置換した100mLの耐圧ガラス容器に、ヘキサンに溶解した上述のブタジエン含有組成物A〜Fから選択されたブタジエン含有組成物と、アニオン重合開始剤としてのn−ブチルリチウムを所定量、ランダマイザーとしての2−2’−ジ(テトラヒドロフリル)プロパンを0.003mmol配合し、50℃で3時間、重合反応(アニオン重合)を試みた。また、参考までに、石油由来の原料から合成した後に抽出蒸留に供された1,3−ブタジエンを用い、上記と同様の方法で、重合反応(アニオン重合)を試みた。
選択したブタジエン含有組成物の種類及び組成、アニオン重合開始剤の配合量などを、表1に示す。
【0062】
上記の配位重合又はアニオン重合により製造することができたポリブタジエンに対し、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
<ポリブタジエンの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の分析>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(GPC装置:東ソー社製、HLC−8220GPC;カラム:東ソー社製、TSKgel GMHXL−2本;検出器:示差屈折率計(RI))により、単分散ポリスチレンを基準として、ポリブタジエンのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出した。なお、測定温度は40℃とし、溶出溶媒をTHFとした。
【0064】
【表1】
【0065】
表1から、1,3−ブタジエンと、前記1,3−ブタジエン100質量部に対して0.001〜2.0質量部の含酸素化合物とを含有するブタジエン含有組成物を用いて、1,3−ブタジエンを重合させることにより、低コストで、ポリブタジエンを製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、低コストでポリブタジエンを製造することが可能な、ポリブタジエンの製造方法を提供することができる。