特許第6612541号(P6612541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612541
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】燃料ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/46 20060101AFI20191118BHJP
【FI】
   F02M59/46 Q
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-136202(P2015-136202)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-20363(P2017-20363A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安東 宏哉
(72)【発明者】
【氏名】浅山 和博
(72)【発明者】
【氏名】岡村 誠士
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−154284(JP,A)
【文献】 実開昭64−041666(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のプランジャと、一端が内部に挿入されるとともに他端が外部に突出された状態で前記プランジャが往復摺動可能に配設されたシリンダを有したポンプボディと、前記プランジャにおける前記シリンダから突出した側の端部に同プランジャと一体となって往復動可能に設けられたプレートと、前記ポンプボディに設けられたシート面と、前記プランジャの往復動の方向が伸縮方向となるように前記シート面と前記プレートとの間に介設されたコイルバネと、を備える燃料ポンプにおいて、
前記コイルバネの中心軸の延伸方向において、前記シリンダから見た前記プランジャの突出方向をポンプ下方とし、前記プランジャの往復動に伴う前記コイルバネの圧縮量が最大となったときに同コイルバネが前記プレートに加える同コイルバネの径方向の力である横力の方向を最圧縮時横力方向としたとき、
前記シート面に対する前記コイルバネの座面が、同コイルバネの径方向内側に向かうほど前記ポンプ下方に向うように傾斜した面とされるとともに、
前記座面のコイルバネ径方向内側の縁からコイルバネ径方向外側の縁までの前記コイルバネの径方向における距離を同座面の幅としたとき、前記座面にあって、前記コイルバネの中心軸から見たときに前記最圧縮時横力方向に位置する部分では、同座面にあって、前記コイルバネの中心軸から見たときの前記最圧縮時横力方向の反対方向に位置する部分よりも、前記幅が大きくされている
ことを特徴とする燃料ポンプ。
【請求項2】
前記コイルバネにおける前記プレート側の巻端と、前記シート面側の巻端とは、前記コイルバネの中心軸を挟んで反対側に位置しており、
前記最圧縮時横力方向は、前記コイルバネの中心軸から見て同コイルバネにおける前記プレート側の巻端が位置する方向となっている
請求項1に記載の燃料ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
車載等の内燃機関に供される燃料を加圧する燃料ポンプとして、特許文献1に記載のものが知られている。同文献に記載の燃料ポンプは、円柱状のプランジャと、そのプランジャが、一端が内部に挿入されるとともに他端が外部に突出された状態で、同プランジャの中心軸の延伸方向に往復動可能に配設されたシリンダを有したポンプボディと、を備える。また、プランジャにおけるシリンダから突出した側の端部には、同プランジャと一体となって往復動可能にプレートが設けられている。そして、ポンプボディに設けられたシート面とプレートとの間には、プランジャの中心軸の延伸方向に伸縮するコイルバネが介設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−209838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした燃料ポンプに設置されるコイルバネには、バネ巻線の間隔が、巻端に近づくにつれて狭くなっているものがある。こうしたコイルバネでは、コイルバネが圧縮されたときに、圧縮時に巻端付近のバネ巻線の間隔が詰まってバネ巻線が重なり合う。そして、バネ巻線が重なり合った部分では、コイルバネの剛性が高くなり、圧縮時に発生するバネ荷重がより大きくなる。
【0005】
そのため、コイルバネが圧縮されたときに、コイルバネの座面に当接された相手部材に対してコイルバネが加えるバネ荷重の荷重中心の位置は、その座面が位置する平面におけるコイルバネの中心軸の位置からずれるようになる。具体的には、荷重中心の位置は、コイルバネの中心軸の位置から、巻線が重なり合う巻端の位置側にずれる。なお、荷重中心の位置とは、コイルバネの座面全体に作用する圧縮荷重が一点に集中して作用すると見做したときの、その一点の位置をいう。
【0006】
コイルバネが圧縮時に発生するバネ荷重の方向は、上下の座面のそれぞれの荷重中心の位置を通る直線に沿った方向となる。こうしたバネ荷重の方向が、コイルバネの伸縮方向(中心軸に沿った方向)に対して傾いていると、バネ荷重に水平成分(中心軸に垂直な方向の成分)が含まれるようになる。
【0007】
図11は、有効巻数が整数の、いわゆる整数巻きのコイルバネの圧縮時の状態を示す。整数巻きのコイルバネでは、中心軸Lから見て、その上下の巻端がほぼ同じ方向に位置している。そのため、整数巻きのコイルバネでは、その上下の座面の荷重中心の位置Pの、中心軸Lに対するずれの方向もほぼ同じとなる。そのため、整数巻きのコイルバネでは、圧縮時に発生するバネ荷重の方向は、同コイルバネの伸縮方向(中心軸Lに沿った方向)とほぼ同じとなる。
【0008】
図12は、有効巻数が「N+0.5(Nは任意の整数)」の、いわゆる半巻のコイルバネの圧縮時の状態を示す。こうした半巻のコイルバネでは、中心軸Lから見て、その上下の巻端が逆方向に位置している。そのため、半巻のコイルバネでは、上下の座面で、中心軸Lに対する荷重中心の位置Pのずれの方向も逆となる。したがって、圧縮時にコイルバネが発生するバネ荷重Fの方向が、中心軸Lに対して傾いた方向となる。そのため、こうした半巻のコイルバネでは、バネ荷重Fに水平成分Fx(中心軸Lに垂直な方向の成分)が含まれるようになる。なお、同図の「Fy」は、バネ荷重Fの垂直成分(中心軸Lに沿った方向の成分)を表している。
【0009】
このようにコイルバネでは、その巻き数によって、圧縮時に発生するバネ荷重に水平成分が含まれることがある。よって、そうしたコイルバネを燃料ポンプに採用すると、コイルバネの圧縮に応じて、そのコイルバネの径方向に作用する横力がプレートに、ひいてはそのプレートを介してプランジャに加わるようになる。そして、そうした横力がプランジャに加わると、シリンダに対して傾きを生じさせる方向のモーメントがプランジャに働いてそれらの摺動面間の摩擦が局所的に増大するようになる。そしてその結果、プランジャやシリンダに異常摩耗や異常発熱が生じる虞がある。
【0010】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、コイルバネの圧縮に応じてプランジャに加わる横力を低減することのできる燃料ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する燃料ポンプは、円柱状のプランジャと、そのプランジャが、一端が内部に挿入されるとともに他端が外部に突出された状態で、同プランジャの中心軸の延伸方向に往復動可能に配設されたシリンダを有したポンプボディと、前記プランジャにおける前記シリンダから突出した側の端部に同プランジャと一体となって往復動可能に設けられたプレートと、前記ポンプボディに設けられたシート面と、前記プランジャの往復動の方向が伸縮方向となるように前記シート面と前記プレートとの間に介設されたコイルバネと、を備える。
【0012】
ここで、前記コイルバネの中心軸の延伸方向において前記シリンダから見たときの前記プランジャの突出方向をポンプ下方とし、その反対方向をポンプ上方とする。また、燃料ポンプに設置された状態でコイルバネが最も圧縮されたときに同コイルバネがプレートに加える同コイルバネの径方向の力である横力の方向を最圧縮時横力方向とする。
【0013】
上記燃料ポンプでは、前記シート面に対する前記コイルバネの座面が、同コイルバネの径方向内側に向かうほど前記ポンプ下方に向うように傾斜した面とされている。ここで、前記座面の径方向内側の縁から径方向外側の縁までの前記コイルバネの径方向における距離を同座面の幅とする。このとき、上記燃料ポンプでは、前記座面にあって、前記コイルバネの中心軸から見たときに前記最圧縮時横力方向に位置する部分では、同座面にあって、前記コイルバネの中心軸から見たときの前記再圧縮時横力方向の反対方向に位置する部分よりも、前記幅が大きくされている。
【0014】
上述のように、コイルバネが圧縮時に発生するバネ荷重の方向が、コイルバネの中心軸に対して傾いていると、バネ荷重に水平成分が含まれて、コイルバネの圧縮時にプレートに横力が加えられるようになる。こうした横力は、コイルバネの中心軸に対するバネ荷重の方向の傾きが小さくなれば、すなわち上下座面の荷重中心の位置のコイルバネ径方向における距離が小さくなれば、低減されるようになる。
【0015】
一方、上記燃料ポンプでは、シート面に対するコイルバネの座面のコイルバネ径方向における幅が、コイルバネの中心軸から見て最圧縮時横力方向に位置する部分では広く、その反対側に位置する部分では狭くされている。そのため、コイルバネが圧縮時にシート面に加えるバネ荷重の荷重中心の位置が最圧縮時横力方向に寄ることに、ひいては上下座面の荷重中心の位置のコイルバネ径方向における距離がより小さくなる。したがって、上記燃料ポンプによれば、コイルバネの圧縮に応じてプランジャに加わる横力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の燃料ポンプの断面図。
図2】同燃料ポンプに設けられたバネ受け部材の断面図。
図3】同燃料ポンプに設けられたコイルバネのポンプ上方の部分の断面図。
図4】(a)は、燃料ポンプの比較例におけるコイルバネのポンプ上方の座面形状を示す平面図であり、(b)は、上記実施形態の燃料ポンプにおけるコイルバネのポンプ上方の座面形状を示す平面図である。
図5】(a)は、燃料ポンプの比較例におけるコイルバネの最圧縮時の状態を示す断面図であり、(b)は、上記実施形態の燃料ポンプにおけるコイルバネの最圧縮時の状態を示す断面図である。
図6】第1実施形態の燃料ポンプにおける圧縮時にコイルバネの座面に作用するバネ荷重の状態を示す図。
図7】燃料ポンプの比較例におけるコイルバネの圧縮量と横力との関係を示すグラフ。
図8】第1実施形態の燃料ポンプにおけるコイルバネの圧縮量と横力との関係を示すグラフ。
図9】第2実施形態の燃料ポンプの断面図。
図10】同燃料ポンプに設けられたシート部材の断面図。
図11】整数巻のコイルバネの圧縮時の状態を示す断面図。
図12】半巻のコイルバネの圧縮時の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、燃料ポンプの第1実施形態を、図1図8を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態の燃料ポンプは、車載等の筒内噴射式内燃機関にあって、フィードポンプが燃料タンクから組み上げた燃料を加圧してデリバリパイプに向けて吐出する高圧燃料ポンプとして使用されるものとなっている。
【0018】
図1に示すように、この燃料ポンプは、ポンプボディ10を備える。ポンプボディ10には、図中下方に開口し、図中上下方向に延びるシリンダ11が設けられている。こうしたポンプボディ10は、筒内噴射式内燃機関のシリンダヘッドカバーに取り付けられる。
【0019】
シリンダ11の内部には、一端がシリンダ11の内部に挿入されるとともに他端がシリンダ11の外部に突出された状態で、略円柱形状のプランジャ12が往復摺動可能に配設されている。そして、シリンダ11の内部には、同シリンダ11の最奥部と、同シリンダ11に挿入された側のプランジャ12の端面との間に、燃料を加圧するための加圧室13が区画形成されている。
【0020】
ポンプボディ10の内部には、燃料室14が設けられている。この燃料室14には、筒内噴射式内燃機関への設置に際して、フィードポンプへと繋がる低圧燃料配管が接続されている。そして、燃料室14には、フィードポンプが燃料タンクから汲み上げた燃料が導入されるようになっている。
【0021】
また、ポンプボディ10には、電磁吸入弁15が取り付けられている。そして、燃料室14は、電磁吸入弁15を介して加圧室13に接続されている。電磁吸入弁15は、通電に応じて閉弁して燃料室14と加圧室13との間の燃料の流通を遮断するとともに、通電の停止に応じて開弁して燃料室14と加圧室13との間の燃料の流通を許容する。
【0022】
さらにポンプボディ10には、チェック弁16が取り付けられている。ポンプボディ10の内部において、加圧室13は、チェック弁16にも接続されている。チェック弁16は、常閉式の差圧弁であり、加圧室13内の燃料の圧力が規定の開弁圧以上となったときに開弁する。筒内噴射式内燃機関への設置に際して、チェック弁16には、デリバリパイプへと繋がる高圧燃料配管が接続され、チェック弁16の開弁に応じて加圧室13内の燃料がデリバリパイプに向けて吐出されるようになっている。
【0023】
また、プランジャ12のポンプ下方の端部には、穴あき円板状のプレート18が、プランジャ12と一体となって往復動可能に取り付けられている。そして、プレート18と上記ポンプボディ10との間には、コイルバネ19が圧縮状態で介設されており、プレート18はそのコイルバネ19により図中下方に向けて押圧されている。
【0024】
ポンプボディ10の図中下側の部分には、コイルバネ19を受けるバネ受け部材17が一体に設けられている。バネ受け部材17は、プランジャ12が内周部分に挿通された略円管形状に形成されている。また、バネ受け部材17の図中下側の端面からは、環状の溝22が形成されており、その溝22の最奥部は、コイルバネ19を受けるシート面23となっている。
【0025】
なお、以下では、コイルバネ19の中心軸Lの延伸方向においてシリンダ11から見たときのプランジャ12の突出方向(図中下方)をポンプ下方と記載する。また、中心軸Lの延伸方向におけるポンプ下方の反対方向(図中上方)をポンプ上方と記載する。
【0026】
燃料ポンプにおけるプランジャ12のポンプ下方の端部の周りの部分には、図中上方が開口した有底円筒形状をなしたリフタ20が、プレート18が取り付けられたプランジャ12の端部を囲むように設置されている。リフタ20の内底面20aは、プランジャ12のポンプ下方の端面に当接されている。また、リフタ20のポンプ下方の部分には、ローラー21が回転可能に軸支されている。筒内噴射式内燃機関に設置された際に、リフタ20のローラー21は、圧縮された状態のコイルバネ19が発生するバネ荷重により、同内燃機関のカムシャフト上に設けられたポンプ駆動用のカムに押し当てられる。
【0027】
以上のように構成された燃料ポンプでは、筒内噴射式内燃機関の運転が開始されてカムシャフトが回転すると、そのカムシャフトに設けられたポンプ駆動用のカムのプロフィール形状に倣ってリフタ20が上下動するようになる。そして、それにより、コイルバネ19によってリフタ20の内底面にそのポンプ下方の端面が押し付けられたプランジャ12がシリンダ11の内部を往復摺動するようになる。
【0028】
このときの加圧室13の容積は、ポンプ上方へのプランジャ12の移動(以下、この移動をプランジャ12の上昇と記載する)に応じて縮小し、ポンプ下方へのプランジャ12の移動(以下、この移動をプランジャ12の下降と記載する)に応じて拡大する。電磁吸入弁15が開弁した状態でプランジャ12が下降すると、加圧室13の容積の拡大に応じて、燃料室14内の燃料が加圧室13に導入される。また、電磁吸入弁15が開弁した状態でプランジャ12が上昇すると、加圧室13の容積の縮小に応じて、加圧室13内に導入された燃料が燃料室14に戻される。こうしたプランジャ12の上昇中に電磁吸入弁15を閉弁すると、加圧室13は密閉された状態となり、その容積の縮小に応じて、内部に導入された燃料が加圧される。そして、加圧室13内の燃料の圧力が上記チェック弁16の開弁圧に達すると、チェック弁16が開弁して、加圧された燃料が吐出される。この燃料ポンプは、こうした燃料の吸引、吐出の繰り返しにより、加圧した燃料をデリバリパイプに送り出している。そして、プランジャ12の上昇中における電磁吸入弁15の閉弁期間を、すなわち同電磁吸入弁15の通電期間を変更することで、デリバリパイプへの燃料の圧送量が調整されるようになっている。
【0029】
こうした燃料ポンプでは、プランジャ12の上昇に応じてコイルバネ19が圧縮時に発生するバネ荷重には、水平成分(中心軸Lに垂直な方向の成分)が含まれる。そして、そうしたバネ荷重の水平成分により、コイルバネ19の径方向の力、すなわち横力がプレート18に、ひいてはそのプレート18を介してプランジャ12に加えられる。
【0030】
上記のような横力がプランジャ12に加わると、シリンダ11に対して傾きを生じさせるモーメントがプランジャ12に働き、プランジャ12とシリンダ11との摺動面間の摩擦が局所的に増大するようになる。そして、その結果、プランジャ12やシリンダ11の異常摩耗や異常発熱を招く虞がある。本実施形態の燃料ポンプでは、コイルバネ19とシート面23との接触面を後述の形状とすることで、プランジャ12に加わる横力の低減を図るようにしている。なお、以下の説明では、プランジャ12がその往復動範囲のポンプ上方の端に位置し、プランジャ12の往復動に伴うコイルバネ19の圧縮量が最大となったときに、コイルバネ19がプレート18に加える横力の方向を「最圧縮時横力方向Ft」と記載する。
【0031】
図2に、本実施形態の燃料ポンプにおけるバネ受け部材17の断面構造を示す。同図に示すように、バネ受け部材17にあってコイルバネ19を受けるシート面23は、径方向内側に向うほどポンプ下方に向うように傾斜した面とされている。
【0032】
図3は、コイルバネ19のポンプ上方部分の断面構造を示している。同図に示すように、コイルバネ19のポンプ上方の端部における径方向内側の部分(S)は、同コイルバネ19の径方向内側に向うほどポンプ下方に向う傾斜した面となるように面取り加工されている。コイルバネ19は、こうした面取り加工された部分がバネ受け部材17のシート面23に当接するように燃料ポンプに設置される。よって、この燃料ポンプでは、こうした傾斜面がシート面23に対するコイルバネ19の座面Sとなっている。
【0033】
ここで、こうした座面Sにおける、径方向内側の縁から径方向外側の縁までのコイルバネ19の径方向における距離を同座面Sの幅Wとする。また、コイルバネ19の中心軸Lに垂直な面に対する座面Sの傾きの角度を同座面Sの傾斜角θとする。
【0034】
本実施形態の燃料ポンプでは、座面Sは、その部位により、幅W及び傾斜角θが異なるように形成されている。具体的には、座面Sにおける図中右側の部分の幅W2は、同座面Sにおける図中左側の部分の幅W1よりも大きくされている(W1<W2)。また、座面Sにおける図中右側の部分の傾斜角θ2は、同座面Sにおける図中左側の部分の傾斜角θ1よりも大きくされている。なお、図3では、図中右方が上述の最圧縮時横力方向Ftとされている。よって、座面Sにあって、コイルバネ19の中心軸Lから見たときに最圧縮時横力方向Ftに位置する部分では、同座面Sにあって、コイルバネ19の中心軸Lから見たときに最圧縮時横力方向Ftの反対方向に位置する部分よりも、幅W及び傾斜角θが大きくされている。
【0035】
次に、ポンプ上側の端面に面取り加工された部分が設けられていないコイルバネ19’を採用し、バネ受け部材17’のシート面23’に対するコイルバネの座面S’がコイルバネ19’の中心軸L’に垂直な平面となった燃料ポンプを比較例として、これとの比較を通じて本実施形態の燃料ポンプの作用を説明する。
【0036】
図4(a)は、上記燃料ポンプの比較例におけるポンプ上方から見たコイルバネ19’の平面構造を、図4(b)は、本実施形態の燃料ポンプにおけるポンプ上方から見たコイルバネ19の平面構造を、それぞれ示している。なお、これらの図では、シート面に対するコイルバネの座面が、それぞれハッチングで示されている。
【0037】
コイルバネのバネ巻線の巻端付近の部分では、コイルバネの圧縮時にバネ巻線が重なり合ってその剛性が高くなる。そのため、そうした巻端付近の部分では、コイルバネが圧縮時に発生するバネ荷重が局所的に大きくなり、その結果、シート面に加わるバネ荷重の荷重中心の位置は、コイルバネの中心軸からずれた位置となる。コイルバネが圧縮時に発生するバネ荷重の方向は、上下の座面のバネ荷重の荷重中心の位置を通る直線に沿った方向となる。よって、上下の座面のバネ荷重の荷重中心の位置が、コイルバネの径方向において離間していれば、コイルバネが圧縮時に発生するバネ荷重に水平成分が含まれるようになる。そして、その結果、コイルバネは圧縮時に、プレートを介してプランジャに横力を加えるようになる。
【0038】
比較例の場合、コイルバネ19’の最圧縮時における座面S’でのバネ荷重の荷重中心の位置P’は、コイルバネ19’の中心軸L’に対して図中左側にずれた位置に位置している。本実施形態の燃料ポンプでも、コイルバネ19の最圧縮時における座面Sでのバネ荷重の荷重中心の位置Pは、コイルバネ19の中心軸Lに対して図中左側にずれた位置に位置している。ただし、本実施形態の燃料ポンプでは、シート面23に対するコイルバネ19の座面Sの幅Wが、同コイルバネ19の中心軸Lから見て最圧縮時横力方向Ftに位置する部分では広く、その反対側に位置する部分では狭くされている。そのため、バネ荷重の荷重中心の位置Pは、比較例の同位置P’よりも最圧縮時横力方向Ftに寄った位置となる。
【0039】
図5(a)に、上記燃料ポンプの比較例におけるコイルバネの最圧縮時の状態を、図5(b)に、本実施形態の燃料ポンプにおけるコイルバネ19の最圧縮時の状態を、それぞれ示す。なお、両図における矢印「F」は、上下の座面においてコイルバネ19,19’が加えるバネ荷重を、矢印「Fx」は、そうしたバネ荷重Fの水平成分(中心軸L,L’に垂直な方向の成分)を、矢印「Fy」は、そうしたバネ荷重Fの垂直成分(中心軸L,L’に沿った方向の成分)を、それぞれ示している。
【0040】
これらの図に示されるように、プレート18と当接するポンプ下側の座面S,S’における、コイルバネ19,19’の最圧縮時のバネ荷重の荷重中心の位置P”は、比較例、本実施形態のいずれにおいても、中心軸L,L’よりも図中右側にずれた位置に位置している。そのため、コイルバネ19が最圧縮時にプレート18に加える横力の方向、すなわち最圧縮時横力方向Ftは、図中右方向となる。
【0041】
一方、両図の比較から明らかなように、ポンプ上方の座面Sにおける荷重中心の位置Pがより最圧縮時横力方向Ftに位置する本実施形態の燃料ポンプでは、比較例に比して、中心軸Lに対するバネ荷重の方向の傾きが小さくなる。したがって、本実施形態の燃料ポンプでは、比較例の場合よりも、圧縮時にコイルバネ19が圧縮時に発生するバネ荷重に含まれる水平成分が小さくなり、プレート18を介してプランジャ12に加える横力も小さくなる。
【0042】
さらに、本実施形態では、座面Sにあって、コイルバネ19の中心軸Lから見たときに最圧縮時横力方向Ftに位置する部分では、コイルバネ19の中心軸Lから見たときに最圧縮時横力方向Ftの反対方向に位置する部分よりも、傾斜角θが大きくされてもいる。そして、こうした傾斜角θの違いによっても、横力が低減されている。
【0043】
図6に示すように、コイルバネ19は、そのポンプ上方の座面Sでは、上記傾斜角θの違いにより、バネ受け部材17の中心軸L1に対して、ひいては同コイルバネ19の伸縮方向に対して、中心軸Lが若干傾いた状態で燃料ポンプに組み付けられる。そのため、圧縮時にコイルバネ19が座面Sを通じてシート面23に加える荷重について、その座面S全体での合力FAを考えると、その合力FAの方向は、同コイルバネ19の伸縮方向に対して最圧縮時横力方向Ftに若干傾いた方向となる。よって、コイルバネ19が圧縮時に座面Sを通じてシート面23に加えるバネ荷重は、最圧縮時横力方向の水平成分を含むようになり、それにより荷重中心の位置が最圧縮時横力方向にずれるようになる。したがって、上記傾斜角θの違いによっても、コイルバネ19の最圧縮時のバネ荷重の荷重中心の位置Pは、最圧縮時横力方向Ftに移動することになる。
【0044】
図7は、上記比較例の燃料ポンプにおけるコイルバネ19’の圧縮量と、同コイルバネ19’の圧縮に応じてプランジャ12に加わる横力との関係を示している。なお、図7及び後述の図8に示されるグラフの縦軸は、最圧縮時横力方向Ftをプラス(+)側として、横力の大きさを表すものとなっている。なお、同図に示される「使用範囲」は、燃料ポンプの運転中におけるプランジャ12の往復動に応じたコイルバネ19,19’の圧縮量の変化の範囲を示している。
【0045】
ここで、ポンプ上方の座面Sにおけるバネ荷重の荷重中心の位置が最圧縮時横力方向Ftに移動すると、同コイルバネの上下の座面におけるバネ荷重の荷重中心間の、コイルバネ径方向における距離が小さくなる。そしてその結果、圧縮時にコイルバネが発生するバネ荷重の方向の、コイルバネ中心軸に対する傾きが小さくなり、同バネ荷重の水平成分も小さくなる。ここで、コイルバネの最圧縮時における上記座面Sのバネ荷重の中心位置を最圧縮時横力方向Ftに移動させれば、図中での圧縮量に対する横力の変化曲線が全体的にマイナス(−)側にオフセットされるようになる。
【0046】
図8は、本実施形態の燃料ポンプにおけるコイルバネ19の圧縮量と横力との関係を示している。なお、使用範囲内での横力の最大値と最小値の差が一定であれば、使用範囲内での横力の絶対値の最大値は、同使用範囲内の横力の中央値を「0」としたときに最小となる。そこで、同図に示すように、本実施形態の燃料ポンプでは、使用範囲内での横力の中央値が「0」となるように、座面Sの幅W及び傾斜角θが調整されている。
【0047】
以上説明した本実施形態の燃料ポンプによれば、以下の効果を奏することができる。
(1)コイルバネ19の圧縮に応じてプランジャ12に加わる横力を低減することができる。
【0048】
(2)上記横力の低減により、プランジャ12及びシリンダ11の摺接面間の局所的な摩擦の増大が抑制される。
(3)上記摺動面間の摩擦の局所的な増大の抑制により、プランジャ12やシリンダ11の異常摩耗や異常発熱を抑制できる。そしてその結果、燃料ポンプの耐久性を高められるようになる。
【0049】
(4)シリンダ11が設けられたポンプボディ10やプランジャ12の材料として、耐摩擦性や耐熱性の高い材料を用いずとも耐久性を確保できるため、耐摩耗性や耐熱性がより低いものの、より安価な材料を採用できるようになる。そのため、燃料ポンプの製造コストの低減が可能となる。
【0050】
(5)使用範囲における横力の中央値が「0」となるように、コイルバネ19の上端におけるバネ荷重の荷重中心の位置を調整しているため、燃料ポンプの運転中にプランジャ12に加わる横力を効果的に低減することができる。
【0051】
(第2実施形態)
次に、燃料ポンプの第2実施形態を、図9及び図10を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0052】
第1実施形態の燃料ポンプでは、コイルバネ19のポンプ上方の座面Sを受けるシート面23がバネ受け部材17に一体に形成されている。これに対して本実施形態の燃料ポンプでは、バネ受け部材17とは別の部材にシート面を設けるようにしている。
【0053】
図9に示すように、本実施形態の燃料ポンプに設けられたバネ受け部材117では、その溝22の最奥部は、コイルバネ19の中心軸Lに垂直な平端面とされている。一方、バネ受け部材117には、その溝22の奥部に、略円環板形状のシム100が取り付けられている。そして、そのシム100のポンプ下方の面が、コイルバネ19を受けるシート面123とされている。
【0054】
図10に示すように、シム100のポンプ下方の面100aにおける径方向外側の部分は、その中心軸L3に垂直な平端面とされている。一方、同面100aにおける径方向内側の部分は、径方向内側に向かうほどポンプ下方に向うように傾斜した面(123)とされている。そして、この傾斜した面が、コイルバネ19のポンプ上方の座面Sを受けるシート面123とされている。
【0055】
次に、以上のように構成された本実施形態の燃料ポンプの作用を説明する。
従来における一般的な燃料ポンプでは、コイルバネ19の上下の座面は、同コイルバネ19の伸縮方向に垂直な平面とされており、そうしたコイルバネの座面を受けるシート面も同様にコイルバネ19の伸縮方向に垂直な平面とされている。一方、上述のような横力低減のために傾斜面とされた座面Sを有したコイルバネ19を採用する場合、その座面Sを受けるシート面も同様の傾斜面とする必要がある。シート面がバネ受け部材に一体に形成されている場合、既存の燃料ポンプの部品を流用して、横力を低減可能な上記コイルバネの接触形状を有した燃料ポンプを製造するには、コイルバネ19に加え、バネ受け部材17も、新規に設計し直す必要がある。
【0056】
その点、本実施形態では、バネ受け部材117とは別体のシム100にシート面123が形成されているため、バネ受け部材117については、既存の燃料ポンプのものを流用可能となる。一方、シム100は比較的簡単な形状であり、その体格も比較的小さい部品であるため、部品追加に伴う設計、製造コストの増大は、バネ受け部材を新規に設計、製造する場合に比して比較的小さいものに留められる。
【0057】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態では、使用範囲における横力の中央値が「0」となるように、コイルバネ19の座面Sの幅W及び傾斜角θを調整していた。横力の中央値が「0」となっていなくても、コイルバネ19の最圧縮時にプランジャ12に加わる横力が低減されていれば、異常摩耗や異常発熱を抑えることは可能である。
【0058】
・上記実施形態では、バネ受け部材17,117に形成された溝22の最奥部にシート面23,123を設けていたが、コイルバネ19の脱落を防止可能であれば、溝22を割愛して、ポンプボディ10の外部に露出した部分にシート面23,123を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
L…コイルバネの中心軸、S…シート面に対するコイルバネの座面、10…ポンプボディ、11…シリンダ、12…プランジャ、13…加圧室、14…燃料室、15…電磁吸入弁、16…チェック弁、17,117…バネ受け部材、18…プレート、19…コイルバネ、20…リフタ、20a…内底面、21…ローラー、22…溝、23,123…シート面、100…シム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12