(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0014】
(第1の実施形態)
本実施形態によると、電極が提供される。この電極は、集電体と、集電体に担持された活物質含有層とを具備する。活物質含有層は、ニオブチタン複合酸化物及び一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物から選ばれる少なくとも一つを含んだ活物質粒子を含む。活物質粒子は、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲内にある一次粒子、及び、平均粒子径が1〜30μmの範囲内にある二次粒子を含む。水銀圧入法により得られる活物質含有層についての細孔径分布は、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有している。第2のピークの強度は、第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下である。上記式中、M1は、Sr、Ba、Ca、及びMgからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2は、Cs、K及びNaからなる群より選択される少なくとも1種であり、M3は、Al、Fe、Zr、Sn、V、Nb、Ta及びMoからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは2≦x≦6の範囲内にあり、yは0<y<1の範囲内にあり、zは0<z≦6の範囲内にあり、δは−0.5≦δ≦0.5の範囲内にある。
【0015】
ニオブチタン複合酸化物及び一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物は、充放電の際の例えばリチウムの吸蔵及び放出によって、体積が変化し得る。活物質含有層は、水銀圧入法により得られる細孔径分布が、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークを有している。加えて、活物質含有層は、水銀圧入法により得られる細孔径分布が、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークを有している。それ故、上記複合酸化物の体積変化を受け入れることができる空間的な余裕を有することができる。そのため、において、充放電による活物質含有層の割れを抑制することができる。
【0016】
更に、活物質含有層が、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲内にある一次粒子を含んだ活物質粒子を含み、且つ0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークを有していると、活物質粒子の一次粒子の分散性が高い。それ故、この活物質含有層は、非水電解質が含浸できる十分な空間を有している。即ち、このような細孔径分布を示す活物質含有層は、非水電解質の含浸性に優れる。
【0017】
また、活物質含有層は、平均粒子径が1〜30μmの範囲内にある二次粒子を含んだ活物質粒子を含み、水銀圧入法により得られる細孔径分布が、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークを有している。この第2ピークの存在は、活物質含有層が、二次粒子同士によって形成される複数の細孔を有していることを示している。二次粒子同士によって形成される複数の細孔は、一次粒子同士によって形成される複数の細孔と比較して、その細孔径は大きい。以下、本明細書において、一次粒子同士によって形成される複数の細孔を複数の第1の細孔とし、二次粒子同士によって形成される複数の細孔を複数の第2の細孔とする。
【0018】
活物質含有層の水銀圧入法により得られる細孔径分布が、上述した第2ピークを有しており、且つ第2のピークの強度は、第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下であると、活物質含有層は、非水電解質の含浸性に優れており、更に、充放電を繰り返すことによる細孔の閉塞を抑制することができる。この理由は定かではないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0019】
通常、細孔径が大きければ大きいほど、その細孔には非水電解質が含浸されやすい。従って、複数の第2の細孔には、複数の第1の細孔と比較して、非水電解質が含浸されやすい。
【0020】
複数の第2の細孔に含浸された非水電解質は、その少なくとも一部が、複数の第1の細孔に含浸される。即ち、複数の第2の細孔は、その近傍に存在している複数の第1の細孔への非水電解質の含浸を媒介する。このことについて、
図1を参照しながら説明する。
図1は、活物質含有層の一例を拡大して示す拡大断面図である。
図1中、4bは活物質含有層、P1は単独の一次粒子、P2は二次粒子、4cは第1の細孔、4dは第2の細孔を示している。
【0021】
第1の細孔4cは、複数の一次粒子P1により形成されている。第2の細孔4dは、複数の二次粒子P2により形成されている。活物質含有層4bに非水電解質が含浸する場合、例えば、第1の細孔4cに対して様々な方向から非水電解質が含浸する。
【0022】
そして、
図1に示しているように、第1の細孔4cの近傍に複数の第2の細孔4dが存在している場合は、複数の第2の細孔4dが存在していない場合と比較して、第1の細孔4cに対して非水電解質が含浸されやすい。これは、複数の第2の細孔4dに含浸された非水電解質が、それぞれ第1の細孔4cへも供給されるためであると考えられる。このように、活物質含有層を含む電極を、例えば負極に備えた電池は、非水電解質の含浸性に優れているため、大電流での入出力特性が優れている。
【0023】
更に、この場合、充放電の繰り返しによって第1の細孔4cの近傍に副生成物が生成したとしても、第1の細孔4cには、複数の第2の細孔4dから非水電解質が供給される。このため、負極における非水電解質の枯渇が抑制される。つまり、このような活物質含有層を含む電極を備えた電池は、サイクル寿命特性が優れている。
【0024】
このような理由で、活物質粒子が、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲内にある一次粒子、及び、平均粒子径が1〜30μmの範囲内にある二次粒子を含んでおり、水銀圧入法により得られる活物質含有層についての細孔径分布が、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有しており、且つ、第2のピークの強度が、第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下である場合、活物質含有層は、非水電解質の含浸性に優れており、更に、充放電を繰り返すことによる細孔の閉塞を抑制することができる。
【0025】
それ故、本実施形態に係る負極は、大電流での入出力特性及びサイクル寿命特性に優れた非水電解質電池を実現することができる。
【0026】
複数の第2の細孔の数が過度に多い場合、例えば、第2のピークの強度が第1のピークの強度の10分の1よりも大きい場合、複数の第2の細孔には多量の非水電解質が含浸する。このとき、複数の第1の細孔には十分な量の非水電解質を含浸させることが困難になる可能性がある。
【0027】
また、複数の第2の細孔の数が過度に少ない場合、例えば、第2のピークの強度が第1のピークの強度の5分の1よりも小さい場合、複数の第2の細孔から複数の第1の細孔へ供給される非水電解質の量が不足する可能性がある。
【0028】
次に、本実施形態に係る負極をより詳細に説明する。
【0029】
活物質含有層は、水銀圧入法により得られる細孔径分布が、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有している。第1のピークは、より好ましくは、0.09〜0.4μmの範囲内において最大となるピークである。第2のピークは、より好ましくは、6.1〜15μmの範囲内において最大となるピークである。また、第2のピークの強度は、第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下であり、この強度比は、好ましくは、8分の1以上5分の1以下である。
【0030】
集電体は、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔であることが好ましい。集電体は、平均結晶粒子径が50μm以下であることが好ましい。平均結晶粒子径が50μm以下であると、集電体の強度を飛躍的に増大させることができるため、電極を高いプレス圧で高密度化することが可能となり、電池容量を増大させることができる。また、平均結晶粒子径が50μm以下であると、高温環境下(40℃以上)における過放電サイクルでの集電体の溶解・腐食劣化を防ぐことができるため、インピーダンスの上昇を抑制することができる。更に、出力特性、急速充電、充放電サイクル特性も向上させることができる。平均結晶粒子径のより好ましい範囲は30μm以下であり、更に好ましい範囲は5μm以下である。
【0031】
平均結晶粒子径は次のようにして求められる。集電体表面の組織を光学顕微鏡(100倍)で組織観察し、1mm×1mm内に存在する結晶粒の数nを求める。このnを用いてS=1×10
6/n(μm
2)から平均結晶粒子面積Sを求める。得られたSの値から下記(1)式により平均結晶粒子径d(μm)を算出する。
【0032】
d=2(S/π)
1/2 (1)
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の平均結晶粒子径は、材料組成、不純物、加工条件、熱処理履歴、並びに焼なましの加熱条件など多くの因子に複雑に影響されるため、製造工程の中で、前記諸因子を組み合わせて調整される。
【0033】
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
【0034】
活物質含有層は、集電体の片面上に形成されていても良いし、両面上に形成されていても良い。また、集電体は、表面に活物質含有層を担持していない部分を含むことができ、この部分は電極タブとして働くことができる。
【0035】
活物質含有層は、ニオブチタン複合酸化物及び一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物から選ばれる少なくとも一つを含んだ活物質粒子を含んでいる。上記式中、M1は、Sr、Ba、Ca、及びMgからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2は、Cs、K及びNaからなる群より選択される少なくとも1種であり、M3は、Al、Fe、Zr、Sn、V、Nb、Ta及びMoからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは2≦x≦6の範囲内にあり、yは0<y<1の範囲内にあり、zは0<z≦6の範囲内にあり、δは−0.5≦δ≦0.5の範囲内にある。
【0036】
ニオブチタン複合酸化物としては、Nb
2TiO
7、
Nb10Ti2O29、Nb
24TiO
62、Nb
14TiO
37、及びNb
2Ti
2O
9などが挙げられる。ニオブチタン複合酸化物は、Nb及び/又はTiの少なくとも一部が異種元素に置換された置換ニオブチタン複合酸化物であってもよい。この置換元素としては、例えば、V、Cr、Mo、Ta、Zr、Mn、Fe、Mg、B、Pb、Alを挙げることができる。活物質粒子は、1種類のニオブチタン複合酸化物を含んでいてもよく、複数種類のニオブチタン複合酸化物を含んでいてもよい。活物質粒子がニオブチタン複合酸化物を含んでいる場合、ニオブチタン複合酸化物は、単斜晶系構造を有するチタン複合酸化物Nb
2TiO
7を含んでいることが有望である。
【0037】
活物質粒子は、単独の一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子とを含んでいる。単独の一次粒子の平均粒子径は、例えば0.1〜10μmの範囲内にあり、好ましくは0.5〜5μmの範囲内にある。二次粒子の平均粒子径は、例えば1〜30μmの範囲内にあり、好ましくは3〜15μmの範囲内にある。一次粒子の平均粒子径が過度に小さいと、非水電解質の分布が負極側に偏り、正極での非水電解質の枯渇を招く恐れがある。一次粒子の平均粒子径が過度に大きいと、活物質粒子間の空隙の体積が増大し、電気抵抗が高くなる可能性がある。
【0038】
活物質粒子は、一次粒子及び/又は二次粒子の表面の少なくとも一部を被覆した炭素含有層を含むことが好ましい。炭素含有層は、例えば、炭素材料及び/又は黒鉛材料などから形成され得る。活物質粒子が炭素含有層を含んでいると、電子伝導性が向上し、大電流での入出力特性がより向上する。また、炭素含有層を含んだ活物質粒子を含んだ電極は、過電圧が生じることを抑制することができるため、より優れたサイクル寿命特性を示す非水電解質電池を実現することができる。
【0039】
活物質粒子は、ニオブチタン複合酸化物と異なり、且つ、一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物とも異なる他の活物質粒子を含んでいてもよい。他の活物質粒子の例としては、スピネル型チタン酸リチウムLi
4Ti
5O
12、アナターゼ型二酸化チタン、及び単斜晶β型二酸化チタンTiO
2(B)を挙げることができる。
【0040】
活物質粒子が、ニオブチタン複合酸化物と異なり、且つ、一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物とも異なる他の活物質粒子を含んでいる場合、他の活物質粒子の含有量は、活物質粒子の合計質量に対して、例えば50質量%未満である。
【0041】
活物質のN
2吸着によるBET法での比表面積は、例えば1〜30m
2/gの範囲内にあり、好ましくは5〜15m
2/gの範囲内にある。比表面積が1〜30m
2/gの範囲内にある活物質粒子は、電極反応に寄与する有効面積を十分に有することができ、優れた大電流放電特性を実現することができる。また、比表面積が1〜30m
2/gの範囲内にある活物質粒子は、電極と非水電解質との反応を適度に行うことができ、充放電効率の低下や貯蔵時のガス発生を抑制することができる。そして、比表面積が1〜30m
2/gの範囲内にある活物質粒子を含む活物質含有層は、この電極に非水電解質の分布が偏るのを抑制することができる。
【0042】
比表面積が1m
2/g未満であると、電極反応に寄与する有効面積が小さく、大電流放電特性が低下する恐れがある。一方、比表面積が30m
2/gを超えると、電極と非水電解質との反応量が増加するため、充放電効率の低下や、貯蔵時のガス発生を誘発する恐れがある。
【0043】
活物質含有層は、導電剤を更に含むことができる。導電剤は、活物質含有層の電子伝導性及び集電性能を高めることができ、さらに活物質含有層と集電体との接触抵抗を低減させることができる。導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、コークス、カーボンブラック、及び黒鉛などの炭素系材料を用いることができる。導電剤の平均粒子径は、ガスの発生を効果的に抑制するために、0.05μm以上であることが好ましく、良好な導電ネットワークを構築するために20μm以下であることが好ましい。導電剤の比表面積は、良好な導電ネットワークを構築するためには5m
2/g以上であることが好ましく、ガス発生を効果的に抑制するためには100m
2/g以下であることが好ましい。
【0044】
活物質含有層は、結着剤を更に含むことができる。結着剤は、活物質粒子間の間隙を埋め、活物質粒子と導電剤とを結着させることができる。結着剤としては、例えば、平均分子量が2×10
5以上20×10
5以下のポリフッ化ビニリデン(PVdF)、もしくはアクリル系ゴム、アクリル系樹脂、スチレン・ブタジエン系ゴム、セルロース系結着剤を用いることができる。より好ましい平均分子量は、5×10
5以上、10×10
5以下である。セルロース系結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。
【0045】
分子量がこの範囲にあるPVdFを用いることによって、集電体と活物質含有層との剥離強度を0.005N/mm以上にすることが可能となり、大電流特性が改善される。なお、平均分子量が20×10
5を超えると、十分な剥離強度は得られるが、塗液粘度が高くなりすぎて、塗工を適正に行うことが困難であるか又は不可能となる。
【0046】
ところで、活物質粒子のゼータ電位は、その活物質粒子が分散しているスラリーのpHに依存して変化する。スラリーのpHは、そのスラリーが含んでいる活物質粒子のゼータ電位が0Vとなる等電点から離れていることが好ましい。こうすると、個々の活物質粒子が、反発するゼータ電位を有しているため、活物質粒子が凝集しにくい。一方、スラリーのpHが上記等電点付近にあると、活物質粒子が凝集し易い。
【0047】
水中のゼータ電位の等電点は、例えば、単斜晶系ニオブチタン複合酸化物の場合、pH2.0〜4.5付近に存在しており、一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物の場合、pH10〜12付近に存在している。
【0048】
スラリーのpHは、例えば7.0〜9.0の範囲内にあることが好ましく、7.0〜8.0の範囲内にあることがより好ましい。pHが過度に低いと、活物質の分散性が悪くなり、更には、塗工装置のSUS部位を腐食するため好ましくない。pHが過度に高いと、集電体のアルミニウム箔が腐食する可能性がある。
【0049】
このスラリーのpHは、活物質含有層が含有している活物質粒子の組成によって変化する。或いは、電極のスラリーのpHは、導電剤及び結着剤などの種類及び量によって変化する。
【0050】
例えば、ニオブチタン複合酸化物は、水中で酸として振る舞う。それ故、ニオブチタン複合酸化物を主に含むスラリーは、弱酸性乃至中性程度のpHを有する傾向にある。これに対し、一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物は、典型的には、水中で塩基として振る舞う。それ故、一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物を主に含むスラリーは、中性程度乃至弱塩基性のpHを有する傾向にある。
【0051】
また、例えば、導電剤及び結着剤の中には、水中で酸性を呈するものと、塩基性を呈するものとがある。
【0052】
従って、スラリーの組成によっては、スラリーのpHが活物質粒子の等電点に近い場合がある。このような場合には、pH調整剤を使用するか、又は導電剤及び結着剤の種類並びに量を適宜変更することにより、スラリーのpHを、上記等電点であるpHから離れる方向に調製することが好ましい。
【0053】
水中で塩基性を示すpH調整剤としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。これらの中でも、炭酸ナトリウムは、反応が早く、入手が容易であるため好ましい。水中で酸性を示すpH調整剤としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などを挙げることができる。
【0054】
なお、カルボキシメチルセルロース、スチレン・ブタジエンゴムなどの結着剤は、pH7.0付近が最も安定とされている。スラリーのpHが低過ぎたり、高過ぎたりすると、カルボキシメチルセルロースの粘度が下がったり、スチレン・ブタジエンゴムが分解されたりすることにより、結着性が低下するため好ましくない。
【0055】
活物質含有層における活物質粒子、導電剤、結着剤及びpH調整剤の配合比は、それぞれ活物質粒子65〜98質量%、導電剤1〜25質量%、結着剤1〜10質量%、pH調整剤0.1〜2質量%の範囲内にすることが好ましい。導電剤量を2質量%以上にすることによって、高い集電性能を得られるため、優れた大電流特性が得られる。一方、高容量化の観点からは、導電剤量は20質量%以下であることが好ましい。また、結着剤量を1質量%以上にすることによって、剥離強度を0.005N/mm以上にすることができる。結着剤量を6質量%以下にすることによって、適切な塗液粘度が得られ、良好な塗工が可能となる。
【0056】
先に説明したように、活物質含有層は、水銀圧入法により得られる細孔径分布が、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有している。第1のピークは、より好ましくは、0.09〜0.4μmの範囲内において最大となるピークである。第2のピークは、より好ましくは、6.1〜15μmの範囲内において最大となるピークである。また、第2のピークの強度は、第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下であり、この強度比は、好ましくは、8分の1以上5分の1以下である。
【0057】
かかる細孔径分布は、例えば、負極のスラリーのpH、アセチレンブラックの粒子径、カルボキシメチルセルロースの粘度、スチレン・ブタジエンゴムの粒子径などを調整することにより達成することができる。例えば、カルボキシメチルセルロース水溶液の粘度を高粘度にすることにより、細孔径分布のピーク強度が大きくなる傾向にある。
【0058】
活物質含有層の密度は、2.4g/cm
3以上2.9g/cm
3未満であることが好ましい。活物質含有層の密度が2.4g/cm
3以上である負極は、電子伝導パスへの十分な接点を有することができ、大電流での優れた入出力特性を実現することができる。また、活物質含有層の密度は、2.8/cm
3未満であることがより望ましい。
【0059】
電極の細孔径分布は、例えば、活物質含有層に含まれている粒子形状を有する物質の粒子径分布及び配合量、電極作製用スラリーの調製方法、及び塗膜のプレス圧力などに依存する。
【0060】
電極は、例えば、活物質粒子、結着剤、導電剤及びpH調整剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体の表面に塗布し、乾燥して活物質含有層を形成した後、プレスを施すことにより作製することができる。負極のスラリーのpHは、上述した方法で調整することができる。電極は、活物質粒子、結着剤及び導電剤をペレット状に形成して活物質含有層とし、これを集電体上に配置することにより作製しても良い。
【0061】
次に、水銀圧入法により得られる活物質含有層についての細孔径分布の測定方法と、活物質含有層に含まれる活物質粒子の粒子径の測定方法と、スラリーのpHの測定方法とについて説明する。
【0062】
電池に組み込まれている電極について測定する場合は、以下の手順で電池から電極を取り出す。
【0063】
まず、電池を残容量0%まで放電する。放電した電池を、不活性雰囲気のグローブボックス内に入れる。この中で、念のため正極、負極をショートさせないよう注意を払いながら、セルの外装を切りながら開いていく。その中から、例えば負極に使用されている場合には、負極側端子につながっている電極を切り出す。切り出した電極を、メチルエチルカーボネート(MEC)を溜めた容器内で軽く揺らしながら洗う。その後、電極を取り出し、取り出した電極を真空乾燥機に入れ、ここでメチルエチルカーボネートを飛ばしきる。次いで、電極をグローブボックスから取り出す。取り出した電極の一部を純水に浸漬させて軽く揺らして粉を沈降させる。バインダーが水系であれば、この操作によって、粉が電極より剥がれてくる。もし、ほとんど変化がない場合には、N−メチルピロリドン(NMP)に浸漬させ、同様に軽く揺らして粉を沈降させる。
【0064】
<水銀圧入法による細孔径分布の測定方法>
活物質含有層についての水銀圧入法による細孔径分布の測定は、例えば、以下の手順で行うことができる。
【0065】
まず、測定対象たる電極を、活物質含有層と集電体とに分ける。集電体から分けた活物質含有層から、約50×50mmサイズの試料を切り出す。これを折りたたんで測定セルに採り、初期圧5kPa(約0.7psia、細孔径約250μm相当)及び終止圧約6万psia(細孔径約0.003μm相当)の条件で測定を行う。
【0066】
細孔径分布の測定装置には、例えば、島津オートポア9520形を用いることができる。水銀圧入法による細孔径分布から、細孔体積と、空隙のモード径及びメディアン径とを求めることができる。
【0067】
なお、水銀圧入法の解析原理はWashburnの式(1)に基づく。
【0068】
D=−4γcosθ/P (1)式
ここで、Pは加える圧力、Dは細孔直径、γは水銀の表面張力(480dyne・cm
-1)、θは水銀と細孔壁面の接触角で140°である。γ、θは定数であるからWashburnの式より、加えた圧力Pと細孔径Dとの関係が求められ、そのときの水銀侵入容積を測定することにより、細孔径とその容積分布を導くことができる。
【0069】
<活物質粒子の粒子径の測定方法>
活物質粒子の粒子径は、粒度分布測定器により測定することができる。一方、取り出した電極群の一部を用いて、電極面及び断面のSEM(Scanning Electron Microscopy:走査電子顕微鏡)観察を行うこともできる。二次粒子が存在する場合は、粒子が集まって球状に近い形状となっている。このような状態のものがなければ、それらは一次粒子のみと見なせる。粒径サイズは、SEM像の目盛りにより決定するか、又はSEMの採寸機能を用いて決定する。
【0070】
<スラリーのpHの測定方法>
スラリーのpHの測定は、例えば以下のように行う。この測定には、例えば(株)堀場製作所製のF−74を使用する。まず、pH4.0、7.0及び9.0の標準液を用意する。次に、これら標準液を用いて、F−74の校正を行う。測定対象のスラリー100mLを容器に入れ、pHを測定する。pHの測定後に、F−74のセンサー部を洗浄する。別の測定対象のスラリーを測定する際は、上述した手順、即ち、校正、測定及び洗浄をその都度実施する。
【0071】
次に、本実施形態に係る電極の例を、
図2を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態に係る電極の一例を示す概略断面図である。
図2に示す電極4は、集電体4aと、その両面上に形成された活物質含有層4bとを具備する。
【0072】
集電体4aは、
図2では両端を省略しているが、帯状の金属又は合金箔であり得る。
【0073】
活物質含有層4bは、集電体4a上に担持されている。活物質含有層4bは、上述した活物質粒子を含んでいる。
【0074】
集電体4aは、両面に活物質含有層4bを担持していない部分(図示していない)を含んでいる。この部分は、電極タブとして働くことができる。
【0075】
第1の本実施形態に係る電極は、ニオブチタン複合酸化物及び一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物から選ばれる少なくとも一つを含んだ活物質粒子を含む。活物質粒子は、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲内にある一次粒子、及び、平均粒子径が1〜30μmの範囲内にある二次粒子を含む。水銀圧入法により得られる電極活物質含有層についての細孔径分布は、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有している。第2のピークの強度は、第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下である。この活物質含有層は、非水電解質の優れた含浸性と活物質粒子間の優れた電気的導通とを両立することができると共に、充放電の繰り返しによる細孔の閉塞及び活物質含有層の割れも防ぐことができる。その結果、本実施形態に係る電極は、大電流での入出力特性及びサイクル寿命特性に優れた非水電解質電池を実現することができる。
【0076】
(第2の実施形態)
本実施形態によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池は、第1の実施形態に係る電極を用いる負極と、正極と、非水電解質とを具備する。第1の実施形態において電極について説明したので、ここでの電極としての負極の説明は省略する。
【0077】
正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質含有層とを具備する。
【0078】
正極活物質含有層は、正極集電体の何れか一方の面に担持されていてもよく、正極集電体の両面に担持されていてもよい。正極集電体は、表面に正極活物質含有層を担持していない部分を含むことができ、この部分は正極タブとして働くことができる。
【0079】
正極活物質含有層は、正極活物質粒子と、任意に導電剤及び結着剤とを含むことができる。
【0080】
正極は、例えば、正極活物質、結着剤及び導電剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥して正極活物質含有層を形成した後、プレスを施すことにより作製することができる。正極のスラリーのpHは、上記負極のスラリーのpHと同様に調整してもよい。正極は、正極活物質、結着剤及び導電剤をペレット状に形成して正極活物質含有層とし、これを正極集電体上に配置することにより作製しても良い。
【0081】
正極及び負極は、例えば、正極活物質含有層と負極活物質含有層とが対向するように配置されて、電極群を構成している。この場合、正極活物質含有層と負極活物質含有層との間には、リチウムイオンは透過させるが電気を通さない部材、例えばセパレータを配置することができる。
【0082】
電極群は、様々な構造を有することができる。電極群は、スタック型構造を有していてもよく、捲回型構造を有していてもよい。スタック型構造は、例えば、複数の負極及び複数の正極を、負極と正極との間にセパレータを挟んで積層させた構造を有する。捲回型構造の電極群は、例えば、負極及び正極をこれらの間にセパレータを挟んで積層させたものを捲回した缶型構造体でもよく、この缶型構造体をプレスすることによって得られる扁平型構造体でもよい。
【0083】
正極タブは、正極端子に電気的に接続することができる。負極タブは、負極端子に電気的に接続することができる。正極端子及び負極端子は、電極群から延出することができる。
【0084】
電極群は、外装部材に収納され得る。外装部材は、正極端子及び負極端子をその外側に延出させることができるような構造を有していても良い。或いは、外装部材は、2つの外部端子を具備し、これらのそれぞれが正極端子及び負極端子のそれぞれに電気的に接続されるように構成されていても良い。
【0085】
本実施形態に係る非水電解質電池は、非水電解質を更に具備する。非水電解質は、電極群に含浸され得る。また、非水電解質は、外装部材に収納され得る。
【0086】
以下、本実施形態に係る非水電解質電池において用いることができる各部材の材料について説明する。
【0087】
(1)負極
負極としては、第1の実施形態の説明において述べたものを用いることができる。
【0088】
(2)正極
正極活物質粒子としては、種々の酸化物、硫化物、ポリマー等を使用することができる。例えば、リチウムを含有した二酸化マンガン(MnO
2)、酸化鉄、酸化銅、及び酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn
2O
4又はLi
xMnO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLi
xNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi
1-yCo
yO
2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMn
yCo
1-yO
2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(Li
xMn
2-yNi
yO
4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(Li
xFePO
4、Li
xFe
1-yMn
yPO
4、Li
xCoPO
4など)、硫酸鉄(Fe
2(SO
4)
3)、バナジウム酸化物(例えばV
2O
5)などが挙げられる。また、ポリアニリンやポリピロールなどの導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料、硫黄(S)、フッ化カーボンなどの有機材料及び無機材料も挙げられる。
【0089】
より好ましい二次電池用の正極活物質粒子として、高い電池電圧を得られるものを挙げることができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(Li
xMn
2O
4)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Li
xNi
1-yCo
yO
2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(Li
xMn
2-yNi
yO
4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(Li
xMn
yCo
1-yO
2)、リチウムリン酸鉄(Li
xFePO
4)などが挙げられる。なお、x及びyは0〜1の範囲であることが好ましい。
【0090】
また、正極活物質粒子には、組成がLi
aNi
bCo
cMn
dO
2(但し、モル比a、b、c及びdは以下の範囲内にある:0≦a≦1.1、0.1≦b≦0.5、0≦c≦0.9、0.1≦d≦0.5)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いることが可能である。
【0091】
常温溶融塩を含む非水電解質を用いる際には、リチウムリン酸鉄、Li
xVPO
4F、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物を用いることが、サイクル寿命の観点から好ましい。これは、上記正極活物質粒子と常温溶融塩との反応性が少なくなるためである。
【0092】
導電剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等を挙げることができる。
【0093】
結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、アクリル系ゴム、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0094】
正極活物質粒子と導電剤と結着剤との配合比は、正極活物質粒子80〜95質量%、導電剤3〜18質量%、結着剤2〜17質量%の範囲内にすることが好ましい。
【0095】
正極集電体は、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔であることが好ましい。正極集電体は、平均結晶粒子径が50μm以下であることが好ましい。平均結晶粒子径が50μm以下であると、正極集電体の強度を飛躍的に増大させることができるため、正極を高いプレス圧で高密度化することが可能となり、電池容量を増大させることができる。平均結晶粒子径のより好ましい範囲は30μm以下であり、更に好ましい範囲は5μm以下である。
【0096】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の平均結晶粒子径は、材料組成、不純物、加工条件、熱処理履歴、並びに焼なましの加熱条件など多くの因子に複雑に影響されるため、製造工程の中で、前記諸因子を組み合わせて調整される。
【0097】
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
【0098】
正極活物質含有層の密度は、3g/cm
3以上にすることが望ましい。これにより、正極とセパレータの界面の抵抗を低くすることができるため、大電流での入出力特性をより向上することができる。加えて、毛細管現象による非水電解質の拡散を促進することができるため、非水電解質の枯渇によるサイクル劣化を抑制することができる。
【0099】
(3)セパレータ
セパレータには、多孔質セパレータを用いることができる。多孔質セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、又はポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を挙げることができる。中でも、ポリエチレン若しくはポリプロピレン、又は両者からなる多孔質フィルムは、二次電池の安全性を向上できるため、好ましい。
【0100】
セパレータの水銀圧入法による空隙率は50%以上であることが好ましい。非水電解質の保持性を向上させ、入出力密度を向上させるという観点から、50%以上であることが好ましい。また、電池の安全性を保持するという観点から空隙率は70%以下であることが好ましい。空隙率のより好ましい範囲は、50〜65%である。
【0101】
セパレータの水銀圧入法による細孔径分布からメディアン径及びモード径を求めることができる。ここで、モード径とは、横軸に細孔径を設け、縦軸に頻度を設けた細孔径分布曲線のピークトップを指す。また、メディアン径は、累積体積頻度が50%での細孔径である。
【0102】
セパレータの空隙の水銀圧入法によるメディアン径をモード径よりも大きくすると、大きな径の空隙が多く存在するため、セパレータの抵抗を小さくすることができる。
【0103】
セパレータは高温環境下に晒されるほど、又は高電位(酸化雰囲気)環境に晒されるほど、抵抗が増加する。即ち、セパレータ自体の変質と電極表面で生じる副反応とに伴う反応生成物の堆積(セパレータの目詰まり)により、セパレータの抵抗が増加し、電池性能が低下する。このとき、負極電位が低いと、正極と非水電解質との界面で生じる分解生成物の一部が、負極表面に堆積し易くなる。
【0104】
Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li
+)以上の負極活物質を含む負極は、電位が高いため、分解生成物が負極側に析出し難い。それ故、セパレータの負極と接する空隙が閉塞されるのを抑えることができると共に、セパレータ自身の変質による空隙の閉塞も抑制することができる。このため、充電状態で高温環境に長時間晒されても、大電流性能の低下を格段に抑制することが可能となる。
【0105】
セパレータは、空隙の水銀圧入法によるモード径が0.05μm以上0.4μm以下であることが好ましい。より好ましい範囲は0.10μm以上0.35μm以下である。
【0106】
セパレータは、空隙の水銀圧入法によるメディアン径が0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。より好ましい範囲は0.12μm以上0.40μm以下である。
【0107】
(4)非水電解質
この非水電解質には、液状非水電解質を使用することができる。
【0108】
液状非水電解質は、例えば、電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される。
【0109】
前記電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF
3SO
2)
2)などのリチウム塩が挙げられる。
【0110】
電解質は、有機溶媒に対して、0.5〜2.5mol/Lの範囲内で溶解させることが好ましい。
【0111】
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)などの環状エーテル、ジメトキシエタン(DME)などの鎖状エーテル、γ−ブチロラクトン(BL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独又は2種以上の混合物の形態で用いることができる。
【0112】
また、液状非水電解質として、リチウムイオンを含有した常温溶融塩を用いることができる。
【0113】
常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲をいう。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は−40℃程度、場合によっては−20℃程度である。
【0114】
リチウム塩としては、非水電解質電池に一般的に利用されているような、広い電位窓を有するリチウム塩が用いられる。例えば、LiBF
4、LiPF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2),LiN(CF
3SC(C
2F
5SO
2)
3などが挙げられるが、これらに限定されない。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0115】
リチウム塩の含有量は、0.1〜3.0mol/Lであること、特に、1.0〜2.0mol/Lであることが好ましい。リチウム塩の含有量を0.1mol/L以上にすることによって、電解質の抵抗を小さくすることができるため、大電流・低温放電特性を向上することができる。リチウム塩の含有量を3.0mol/L以下にすることによって、電解質の融点を低く抑えて常温で液状を保つことが可能となる。
【0116】
常温溶融塩は、例えば、4級アンモニウム有機物カチオンを有するもの、又は、イミダゾリウムカチオンを有するものである。
【0117】
4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウムなどのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムカチオンが好ましい。
【0118】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
また、アルキルピリジウムイオンとしては、N−メチルピリジニウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチル−2メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、2種以上混合して用いても良い。
【0121】
イミダゾリウムカチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
ジアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0123】
トリアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0125】
(5)外装部材
外装部材としては、板厚0.5mm以下の金属製容器や、板厚0.2mm以下のラミネートフィルム製容器を用いることができる。金属製容器としてアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレスなどからなる金属缶で角形、円筒形の形状のものが使用できる。金属製容器の板厚は0.2mm以下にすることがより望ましい。
【0126】
ラミネートフィルムには、金属箔が樹脂フィルムで被覆された多層フィルムを使用することができる。樹脂として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子を用いることができる。
【0127】
金属製容器を構成するアルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0128】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属缶は、平均結晶粒子径が50μm以下であることが好ましい。より好ましくは30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。前記平均結晶粒子径を50μm以下とすることによって、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属缶の強度を飛躍的に増大させることができ、より缶の肉薄化が可能になる。その結果、軽量かつ高出力で長期信頼性に優れた車載に適切な電池を実現することができる。
【0129】
(6)負極端子
負極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が0.4V以上3V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料が好ましい。
【0130】
(7)正極端子
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3V以上5V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料が好ましい。
【0131】
次に、図面を参照しながら、本実施形態に係る非水電解質電池の幾つかの例を具体的に説明する。
【0132】
まず、本実施形態に係る第1の例の非水電解質電池を説明する。
【0133】
図3は、本実施形態に係る第1の非水電解質電池の概略断面図である。
図4は、
図3のA部の拡大断面図である。
図5は、
図3の非水電解質電池における正極、セパレータ及び負極の境界付近を示す概略図である。
【0134】
第1の例の非水電解質電池10は、
図3に示すように、外装部材1と、電極群2とを具備している。また、非水電解質電池10は、図示しない非水電解質を更に具備している。
【0135】
図3に示すように、例えばラミネートフィルム製の外装部材1内には、電極群2が収納されている。電極群2は、
図4に示しているように、正極3と負極4とがセパレータ5を介して積層された積層体が偏平形状に捲回された構造を有する。
図4に示すように、正極3は、正極集電体3aと、正極集電体3aの少なくとも片面に形成された正極活物質含有層3bとを含む。また、負極4は、負極集電体4aと、負極集電体4aの少なくとも片面に形成された負極活物質含有層4bとを含む。セパレータ5は、
図4に示すように正極活物質含有層3bと負極活物質含有層4bとの間に挟まれている。
【0136】
図5に示すように、正極活物質含有層3b、負極活物質含有層4b及びセパレータ5は、いずれも多孔質である。非水電解質は、正極活物質含有層3b中の正極活物質粒子P1間に位置する空隙3cと、負極活物質含有層4b中の負極活物質粒子P2間に位置する空隙4cと、セパレータ5の空隙5aとに保持される。空隙5aに非水電解質を保持したセパレータ5は電解質板として機能する。これら空隙3c、4c及び5aには、非水電解質と併せて接着性を有する高分子が保持されていても良い。
【0137】
図3に示すように、電極群2の最外周の近くに位置する正極集電体3aに、正極端子6が接続されている。正極端子6は、帯状であり、先端が外装部材1の外部に引き出されている。また、電極群1の最外周に位置する負極集電体4aに、負極端子7が接続されている。負極端子7は、帯状であり、先端が外装部材1の外部に引き出されている。正極端子6と負極端子7とは、外装部材1の同じ辺から引き出されており、正極端子6の引き出し方向と負極端子7の引き出し方向とが同一になっている。
【0138】
電極群2の最外層に負極集電体4aを位置させ、この最外層の表面の少なくとも一部を接着部で被覆しても良い。これにより、電極群2を外装部材1に接着することができる。
【0139】
本実施形態に係る非水電解質電池は、前述した
図3〜
図5に示す構成のものに限らず、例えば、以下に説明する、
図6及び
図7に示す構成を含むこともできる。
【0140】
以下に、本実施形態に係る第2の例の非水電解質電池を、
図6及び
図7を参照しながら説明する。
図6は、本実施形態に係る他の例の非水電解質電池の部分切欠斜視図である。
図7は、
図6のB部の拡大断面図である。
【0141】
第2の例の非水電解質電池10は、
図6及び
図7に示すように、ラミネートフィルム製の外装部材1と、積層型電極群2とを具備している。更に、第2の例の非水電解質電池は、非水電解質(図示していない)を更に具備している。
【0142】
図6に示すように、積層型電極群2は、ラミネートフィルム製の外装部材1内に収納されている。積層型電極群2は、
図7に示すように、正極3と負極4とをその間にセパレータ5を介在させながら交互に積層した構造を有する。正極3は複数枚存在し、それぞれが正極集電体3aと、正極集電体3aの両面に担持された正極活物質含有層3bとを備える。負極4は複数枚存在し、それぞれが負極集電体4aと、負極集電体4aの両面に担持された負極活物質含有層4bとを備える。それぞれの負極4の負極集電体4aは、一部4dが正極3から突出している。この部分4dは、表面に負極活物質含有層4bを担持しておらず、負極タブとして働くことができる。複数の負極タブ4dは、
図7に示すように、帯状の負極端子7に電気的に接続されている。そして、帯状の負極端子7の先端は、
図6に示すように、外装部材1から外部に引き出されている。また、ここでは図示しないが、正極3の正極集電体3aは、負極集電体4aの負極タブ4dと反対側に位置する辺が負極4から突出している。正極集電体3aのうち負極4から突出した部分は、表面に正極活物質含有層3bを担持しておらず、正極タブとして働くことができる。複数の正極タブは、帯状の正極端子6に電気的に接続されている。そして、帯状の正極端子6の先端は、
図6に示すように、外装部材1の辺から外部に引き出されている。正極端子6が外装部材1から引き出されている方向は、負極端子7が外装部材1から引き出されている方向と反対である。
【0143】
以上では、電極群の構造として、
図3及び
図4に示すような捲回構造、並びに
図6及び
図7に示す積層構造を挙げた。優れた入出力特性に加え、高い安全性と信頼性を兼ね備えるには、電極群の構造を積層構造とすることが好ましい。更に、長期間使用した際にも高い大電流性能を実現させるためには、正極と負極とを含む電極群が積層構造であって、セパレータを九十九に折って使用することが好ましい。
【0144】
以下に、
図8を参照しながら、積層構造を含み、且つセパレータを九十九折状にした電極群の例を説明する。
【0145】
図8は、本実施形態に係る非水電解質電池が具備することができる電極群の一例を示す概略斜視図である。
【0146】
図8に示す変形例の電極群2は、九十九に折り重ねられている帯状のセパレータ5を備える。九十九折状のセパレータ5は、最上層に短冊状の負極4が積層されている。セパレータ5が向き合って形成された空間には、短冊状の正極3及び負極4が交互に挿入されている。正極集電体3aの正極タブ3dと負極集電体4aの負極タブ4dとは、電極群2から同じ方向に突出している。
図8に示す電極群2では、その積層方向において、正極タブ3d同士又は負極タブ4d同士は重なり合っており、正極タブ3dと負極タブ4dとは重なり合っていない。
【0147】
図8に示す電極群2における複数の正極3の正極タブ3dは、互いに接合することができる。同様に、電極群2における負極4の負極タブ4dは、互いに接合することができる。また、互いに接合された複数の正極タブ3dは、
図6及び
図7に示した電池と同様に、正極端子(図示せず)に電気的に接続することができる。同様に、互いに接合された複数の負極タブ4dは、
図6及び
図7に示した電池と同様に、負極端子(図示せず)に電気的に接続することができる。
【0148】
なお、
図8は、それぞれ2枚の正極3及び負極4を備える電極群2を図示している。しかしながら、正極3及び負極4の枚数は目的及び用途などに応じて自由に変更できる。また、電極群2からの正極タブ3d及び負極タブ4dの突出方向は、
図8に示すように同じである必要はなく、例えば、互いに約90°又は約180°を成す方向であってもよい。
【0149】
第2の実施形態に係る非水電解質電池は、第1の実施形態に係る負極を具備する。そのため、本実施形態に係る非水電解質電池は、大電流での優れた入出力特性及び優れたサイクル寿命特性を示すことができる。
【0150】
(第3の実施形態)
本実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第2の実施形態に係る非水電解質電池を具備する。
【0151】
本実施形態に係る電池パックは、第2実施形態に係る非水電解質電池(単電池)を1個又は複数個具備することができる。電池パックに含まれ得る複数の非水電解質電池は、互いに電気的に直列又は並列に接続されて、組電池を構成することもできる。電池パックは、複数の組電池を含んでいてもよい。
【0152】
次に、本実施形態に係る電池パックの一例を、図面を参照しながら説明する。
図9は、電池パックの分解斜視図である。
図10は、
図9の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【0153】
図9及び
図10に示す電池パック20は、複数の単電池21を具備する。複数の単電池21は、
図3〜
図5を参照しながら説明した扁平型非水電解質電池10である。
【0154】
複数の単電池21は、外部に延出した正極端子6及び負極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、
図10に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0155】
プリント配線基板24は、正極端子6及び負極端子7が延出する組電池23の側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、
図10に示すようにサーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、プリント配線基板24が組電池23と対向する面には、組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0156】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29及び31は、プリント配線基板24に形成された配線32及び33を通して、保護回路26に接続されている。
【0157】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出し、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34a及びマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25による検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件の他の例は、単電池21の過充電、過放電及び過電流等が検出された場合である。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは組電池23全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。
図9及び
図10に示す電池パック20の場合、単電池21のそれぞれに電圧検出のための配線35を接続し、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0158】
正極端子6及び負極端子7が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0159】
組電池23は、各保護シート36及びプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。即ち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0160】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0161】
図9及び
図10では、複数の単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続してもよい。或いは、直列接続と並列接続とを組合せてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列又は並列に接続することもできる。
【0162】
また、本実施形態に係る電池パックの態様は、用途により適宜変更される。電池パックは、大電流を取り出したときにサイクル特性が優れていることが要求される用途に好適に用いられる。具体的には、例えば、デジタルカメラの電源として、又は、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、及び、アシスト自転車の車載用電池として用いられる。特に、車載用電池として好適に用いられる。
【0163】
なお、非水電解質としてプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)及びγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群のうち、少なくとも2種以上を混合した混合溶媒、或いはγ−ブチロラクトン(GBL)を含んだ場合、高温特性が望まれる用途が好ましい。具体的には、上述の車載用が挙げられる。
【0164】
第3の実施形態に係る電池パックは、第2の実施形態に係る非水電解質電池を具備する。それ故、本実施形態に係る電池パックは、大電流での優れた入出力特性及び優れたサイクル寿命特性を示すことができる。
【0165】
(第4の実施形態)
本実施形態に係る自動車は、第3の実施形態に係る電池パックを備える。ここでは、自動車として、内燃機関と電池駆動の電動機とを組み合わせて走行動力源とした二輪〜四輪のハイブリッド電気自動車、電池駆動の電動機のみを走行動力源とした二輪〜四輪の電気自動車、又は、人の力と組み合わせたアシスト自転車などを挙げることができる。
【0166】
自動車の駆動には、その走行条件に応じ、広範囲な回転数及びトルクの動力源が必要となる。一般的に、内燃機関は理想的なエネルギー効率を示すトルク・回転数が限られているため、それ以外の運転条件ではエネルギー効率が低下する。ハイブリッドタイプの自動車は、内燃機関を最適条件で稼動させて発電すると共に、車輪を高効率な電動機にて駆動することによって、或いは内燃機関と電動機の動力を合わせて駆動したりすることによって、自動車全体のエネルギー効率を向上できるという特徴を有する。また、減速時に車両のもつ運動エネルギーを電力として回生することによって、通常の内燃機関単独走行の自動車に比較して、単位燃料当りの走行距離を飛躍的に増大させることができる。
【0167】
電気自動車(EV)は、自動車外部から電力を供給して充電された電池パックに蓄えられたエネルギーで走行する。よって、電気自動車は、他の発電設備などを用いて高効率に発電された電気エネルギーを利用することが可能である。また、減速時には自動車の運動エネルギーを電力として回生できるため、走行時のエネルギー効率を高くすることができる。電気自動車は二酸化炭素、及びその他の排気ガスを全く排出しないため、クリーンな自動車である。その反面、走行時の動力はすべて電動機であるため、高出力の電動機が必要である。一般には、一回の走行に必要なすべてのエネルギーを一度の充電で電池パックに蓄えて走行する必要があるため、非常に大きな容量の電池が必要である。電池パックの定格容量は、100〜500Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は200〜400Ahである。
【0168】
また、1回の走行に相当する大きな電力量を短時間のうちに充電するためには、大容量の充電器と充電ケーブルが必要である。このため、電気自動車は、それらを接続する充電コネクタを備えることが望ましい。充電コネクタには、電気接点による通常のコネクタを用いることができるが、電磁結合による非接触式の充電コネクタを用いても良い。
【0169】
本実施形態に係る自動車の一例を
図11に示す。
図11に示すように、本実施形態の自動車41は、エンジンルームに第3の実施形態に係る電池パック42が搭載されている。高温環境下となる自動車のエンジンルームに電池パックを設置することにより、電池パックからモータ、インバータ等の電動駆動系装置までの距離が短くなり、出入力のロスが低減し、燃費効率が向上する。
【0170】
第4の実施形態によると、第3の実施形態に係る電池パックを具備するので、大電流での入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる電気化学装置を搭載した自動車を提供することができる。
【0171】
[実施例]
以下に例を挙げ、実施形態をさらに詳しく説明するが、発明の主旨を超えない限り実施形態は以下に掲載される実施例に限定されるものではない。
【0172】
なお、活物質粒子及び導電剤粒子の平均粒子径の測定は、装置としてレーザー回折式粒度分布測定器(日機装マイクロトラックMT3000)を使用し、第1の実施形態にて説明した粒子径の測定方法により行った。
【0173】
(実施例1)
<正極の作製>
まず、正極活物質粒子としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)粉末90質量%、アセチレンブラック3質量%、グラファイト3質量%及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量%をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーとした。このスラリーを、厚さ15μmで、平均結晶粒子径が30μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布した後、乾燥し、プレスすることにより、電極密度が3.0g/cm
3の正極を作製した。
【0174】
<負極の作製>
負極活物質粒子として、一次粒子の平均粒子径が1μmであり、二次粒子の平均粒子径10μmであり、リチウム吸蔵放出電位が金属リチウムの電位に対して1.0Vよりも貴となるNb
2TiO
7を用意した。この負極活物質粒子と、導電材としてのアセチレンブラック、結着剤としてのカルボキシメチルセルロース、及び結着剤としてのスチレン・ブタジエンゴムと、pH調整剤としての炭酸ナトリウムとを、それぞれ質量比93:4:1:1:1になるように純水を加えて混合し、スラリーを調製した。なお、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液としては、3000mPa・sの粘度のものを使用した。得られたスラリーを、厚さが15μmで、平均結晶粒子径が30μmのアルミニウム箔に塗布し、乾燥した。乾燥後の負極は、電極密度2.85g/cm
3であった。また、この負極中の活物質粒子の平均粒子径を測定したところ、一次粒子の平均粒子径は1μmであり、二次粒子の平均粒子径は10μmであった。
【0175】
<電池セルの作製>
以下に説明する方法で3極式セルを作製し、放電容量維持率(出力特性)及び放電容量維持率(サイクル寿命特性)を測定した。
【0176】
負極を2×2cmの大きさに切り出し、作用極とした。正極を2×2cmの大きさに切り出し、対極とした。作用極及び対極を、ガラスフィルター(セパレータ)を介して対向させた。更に、作用極と対極とに触れぬように、ガラスフィルターに、リチウム金属を参照極として挿入した。これら電極を3極式ガラスセルに入れ、作用極、対極、参照極の夫々をガラスセルの端子に接続した。
【0177】
一方で、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:2の体積比で混合した溶媒に、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させて、電解液を調製した。
【0178】
調製した電解液25mLをガラスセルに注ぎ、セパレータと各電極とを充分に電解液が含浸された状態にした。この状態でガラスセルを密閉し、電池セルを作製した。
【0179】
(実施例2〜9及び比較例1〜5)
下記表1に示すように、負極の製造条件を変更したことを除いて、実施例1と同様に電池セルを作製した。また、表1では、負極中の、活物質粒子の一次粒子の平均粒子径及び二次粒子の平均粒子径を記載している。なお、表1中、「pH」は、第1の実施形態において説明した方法で測定した値を記載しており、「CMC1%粘度(mPa・s)」は、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液粘度を示している。
【0181】
<評価>
実施例2〜9及び比較例1〜5で作製したガラスセルを、それぞれ25℃の恒温槽内に配置し、出力特性評価に供した。ここでは、充電側は1.0Cで一定とし、放電側は0.2、1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0Cの電流密度に変えて充放電試験を行った。
【0182】
また、それぞれの評価用セルを、25℃の恒温槽内に配置し、サイクル特性評価に供した。サイクル試験は、1.0Cでの充電及び1.0Cでの放電を1サイクルとし、各放電で放電容量を測定した。また、各充電及び各放電後には、10分間、評価用セルを静置した。
【0183】
<水銀圧入法による細孔径分布の測定方法>
更に、評価後の各電池セルから負極を取り出した。取り出した負極は、先に説明したように洗浄し、乾燥させた。乾燥させた負極から、50×50mmのサイズの試料片を切り出し、それぞれの例に係る負極の試料質量を1gに合わせた。
【0184】
以上のようにしてサンプリングした試料片を、水銀圧入法による細孔径分布測定に供した。細孔径分布の測定装置は、島津オートポア9520形を用いた。かくして、各電極の負極活物質含有層についての細孔径分布曲線を得た。
【0185】
図12は、実施例5に係る水銀圧入法により得られた負極活物質含有層についての細孔径分布曲線(log微分分布曲線)を示している。
【0186】
図12に示している細孔径分布曲線から明らかなように、実施例5に係る負極活物質含有層は、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークPE1と、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークPE2とを有していた。また、第2のピークPE2の強度は、第1のピークPE1の強度の10分の1以上5分の1以下であった。
【0187】
また、
図13は、比較例5に係る水銀圧入法により得られた負極活物質含有層についての細孔径分布曲線を示している。
【0188】
図13に示している細孔径分布曲線から明らかなように、比較例5に係る負極活物質含有層は、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークPE3と、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークPE4とを有していた。但し、第2のピークPE4の強度は、第1のピークPE3の強度の5分の1よりも大きかった。
【0189】
<結果>
実施例1〜9、及び比較例1〜5に係る負極の密度、水銀圧入法による細孔径分布測定によって得られた負極活物質含有層の第1のピーク、第2のピーク、及び第2のピーク強度の第1のピーク強度に対する比率(強度比)を下記表2に示す。表2における第1のピーク及び第2のピークは、log微分分布のピークトップでの細孔径を表している。
【0190】
なお、ピークの位置は、log微分分布曲線において、log微分細孔体積(mL/g)が最も大きい数値を示す点における細孔径(μm)の値をピーク位置とした。また、ピーク強度は、水銀の圧入量から算出した。
【0191】
また、表2には、実施例1〜9、及び比較例1〜5に係るセルの放電容量維持率(出力特性)及び放電容量維持率(サイクル寿命特性)を示している。具体的には、放電容量維持率(出力特性)の列には、0.2Cでの放電容量を100%とした各レートでの放電容量の相対値を示している。また、放電容量維持率(サイクル寿命特性)の列には、1サイクル目での放電容量を100%とした45サイクル目及び90サイクル目での放電容量の相対値を示している。
【0193】
表2に示す結果から、活物質粒子がニオブチタン複合酸化物を含み、水銀圧入法により得られる負極活物質含有層についての細孔径分布が、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有しており、且つ、前記第2のピークの強度が、前記第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下である場合に、優れた出力特性及びサイクル寿命特性を達成できたことがわかる。特に、第2のピーク強度が第1のピーク強度の8分の1以上5分の1以下である場合に、優れた出力特性及びサイクル寿命特性を両立できていることがわかる。
【0194】
これに対し、第2のピークが6μm以下である比較例1、第2のピークが20μm超である比較例2、第2のピークを有していない比較例3、第2のピークの強度が第1のピークの強度の10分の1未満である比較例4、及び第2のピークの強度が第1のピークの強度の5分の1超である比較例5に係るセルは、いずれも、実施例1〜9に係るセルと比較して、出力特性及びサイクル寿命特性共に劣ることがわかる。
【0195】
(実施例10〜18及び比較例6〜10)
下記表3に示すように、負極で使用する活物質粒子の種類及び負極の製造条件を変更したことを除いて、実施例1と同様に電池セルを作製した。また、表3では、負極中の、活物質粒子の一次粒子の平均粒子径及び二次粒子の平均粒子径を記載している。なお、表1中、「pH」は、第1の実施形態において説明した方法で測定した値を記載しており、「CMC1%粘度(mPa・s)」は、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液粘度を示している。
【0197】
<評価用セルの作製>
出力特性及びサイクル寿命特性を評価するために、実施例10〜18及び比較例6〜10をそれぞれ負極として用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、実施例10〜18及び比較例6〜10の評価用三極式セルをそれぞれ作製した。
【0198】
<評価>
実施例10〜18及び比較例6〜10の評価用セルについて、実施例1と同様の手順により、出力特性及びサイクル寿命特性の評価を行った。
【0199】
また、評価後、実施例1と同様にして、実施例10〜18及び比較例6〜10の電極の負極活物質含有層を水銀圧入法による細孔径分布測定に供した。
【0200】
<結果>
実施例10〜18及び比較例6〜10に係る負極の密度、水銀圧入法による細孔径分布測定によって得られた負極活物質含有層の第1のピーク、第2のピーク、及び第2のピーク強度の第1のピーク強度に対する比率(強度比)を下記表4に示す。表4における第1のピーク及び第2のピークは、log微分分布のピークトップでの細孔径を表している。
【0202】
表4に示す結果から、活物質粒子がLi
2(Sr
0.5Na
0.5)Ti
5.5Nb
0.5O
14を含み、水銀圧入法により得られる負極活物質含有層についての細孔径分布が、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有しており、且つ、前記第2のピークの強度が、前記第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下である場合に、優れた出力特性及びサイクル寿命特性を達成できたことがわかる。特に、実施例18に係るセルは、優れた出力特性及びサイクル寿命特性を両立できていることがわかる。
【0203】
これに対し、第2のピークが6μm以下である比較例6、第2のピークが21μm超である比較例7、第2のピークを有していない比較例8、第2のピークの強度が第1のピークの強度の10分の1未満である比較例9、及び第2のピークの強度が第1のピークの強度の5分の1超である比較例10に係るセルは、いずれも、実施例10〜18に係るセルと比較して、出力特性及びサイクル寿命特性共に劣ることがわかる。
【0204】
以上に説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、負極が提供される。この負極は、ニオブチタン複合酸化物及び一般式Li
xM1
1-yM2
yTi
6-zM3
zO
14+δで表される複合酸化物から選ばれる少なくとも一つを含んだ活物質粒子を含む。活物質粒子は、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲内にある一次粒子、及び、平均粒子径が1〜30μmの範囲内にある二次粒子を含む。水銀圧入法により得られる負極活物質含有層についての細孔径分布は、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有している。第2のピークの強度は、第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下である。
【0205】
この負極活物質含有層は、非水電解質の優れた含浸性と活物質粒子間の優れた電気的導通とを両立することができると共に、充放電の繰り返しによる細孔の閉塞及び負極活物質含有層の割れも防ぐことができる。その結果、本実施形態に係る負極は、大電流での入出力特性及びサイクル寿命特性に優れた非水電解質電池を実現することができる。
【0206】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
集電体と、前記集電体に担持されており、ニオブチタン複合酸化物及び一般式LixM11-yM2yTi6-zM3zO14+δで表される複合酸化物から選ばれる少なくとも一つを含んだ活物質粒子を含んだ活物質含有層とを具備し、
前記活物質粒子は、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲内にある一次粒子、及び、平均粒子径が1〜30μmの範囲内にある二次粒子を含み、
水銀圧入法により得られる前記活物質含有層についての細孔径分布は、0.01〜2μmの範囲内において最大となる第1のピークと、6μm超20μm以下の範囲内において最大となる第2のピークとを有しており、前記第2のピークの強度は、前記第1のピークの強度の10分の1以上5分の1以下である非水電解質電池用電極。
(前記式中、
M1は、Sr、Ba、Ca、及びMgからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2は、Cs、K及びNaからなる群より選択される少なくとも1種であり、M3は、Al、Fe、Zr、Sn、V、Nb、Ta及びMoからなる群より選択される少なくとも1種であり、
xは2≦x≦6の範囲内にあり、yは0<y<1の範囲内にあり、zは0<z≦6の範囲内にあり、δは−0.5≦δ≦0.5の範囲内にある。)
[2]
前記第1のピークは、0.09〜0.4μmの範囲内において最大となる[1]に記載の非水電解質電池用電極。
[3]
電極密度が2.4g/cm3以上である[1]又は[2]に記載の非水電解質電池用電極。
[4]
[1]〜[3]の何れか1に記載の電極を用いる負極と、
正極と、
非水電解質と
を含む非水電解質電池。
[5]
[4]に記載の非水電解質電池を具備する電池パック。
[6]
複数の前記非水電解質電池を具備し、前記複数の非水電解質電池が電気的に直列及び/又は並列に接続されている[5]に記載の電池パック。
[7]
[5]又は[6]に記載の電池パックを具備し、
前記電池パックがエンジンルームに配置されている自動車。