特許第6612711号(P6612711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6612711濃度算出装置、濃度算出システムおよび濃度算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612711
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】濃度算出装置、濃度算出システムおよび濃度算出方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20191118BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20191118BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20191118BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   F01N3/08 H
   F01N3/00 F
   F01N3/24 E
   F01N3/035 E
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-206020(P2016-206020)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-66336(P2018-66336A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中埜 吉博
(72)【発明者】
【氏名】日比野 功稔
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−224504(JP,A)
【文献】 特開2011−075546(JP,A)
【文献】 特開2010−071195(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102012211705(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38,9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するために前記内燃機関の排気管に設置される選択還元触媒と、前記選択還元触媒へ還元剤を供給する還元剤供給部と、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を除去するために前記排気管に設置されるフィルタ部と、前記選択還元触媒および前記フィルタ部を通過した前記排気ガスに含まれるアンモニアの濃度である下流アンモニア濃度を検出する第1センサと、前記選択還元触媒および前記フィルタ部を通過した前記排気ガスに含まれる成分であって前記下流アンモニア濃度とは異なる特定成分濃度を検出する第2センサと、を備える浄化システムにおいて、前記第1センサの出力である第1センサ出力値に基づいて前記下流アンモニア濃度を算出する濃度算出装置であって、
前記第2センサは、自身の出力である第2センサ出力値が前記特定成分濃度のみならず前記下流アンモニア濃度の変化に応じても変化する特性を有しており、
前記フィルタ部の再生処理中の前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値を用いて、前記第1センサ出力値または前記下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算する補正値演算部、
を備える濃度算出装置。
【請求項2】
前記フィルタ部の再生処理中の前記第1センサ出力値を検出する第1センサ出力検出部と、
前記フィルタ部の再生処理中の前記第2センサ出力値を検出する第2センサ出力検出部と、
前記第2センサ出力値を用いて、前記第1センサ出力値の換算値である出力換算値および前記下流アンモニア濃度の換算値である濃度換算値のうち少なくとも一方を演算する換算値演算部と、
を備え、
前記補正値演算部は、前記第1センサ出力値と前記出力換算値との比較結果、または前記下流アンモニア濃度と前記濃度換算値との比較結果に基づいて、前記補正値を演算する、
請求項1に記載の濃度算出装置。
【請求項3】
前記フィルタ部の再生処理中の前記第2センサ出力値が所定の閾値以上であるか否かを判定する出力値判定部が備えられ、
前記補正値演算部は、前記出力値判定部にて前記第2センサ出力値が前記閾値以上であると判定される場合に、前記補正値を演算し、前記出力値判定部にて前記第2センサ出力値が前記閾値以上ではない判定される場合に、前記補正値を演算しない、
請求項1または請求項2に記載の濃度算出装置。
【請求項4】
前記第1センサはアンモニアセンサであり、前記第2センサはNOxセンサである、
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の濃度算出装置。
【請求項5】
前記アンモニアセンサは、前記NOxセンサと一体化されたマルチセンサとして備えられる、
請求項4に記載の濃度算出装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の濃度算出装置と、
前記第1センサとしてのアンモニアセンサと、
前記第2センサとしてのNOxセンサと、
を備える濃度算出システム。
【請求項7】
内燃機関から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するために前記内燃機関の排気管に設置される選択還元触媒と、前記選択還元触媒へ還元剤を供給する還元剤供給部と、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を除去するために前記排気管に設置されるフィルタ部と、前記選択還元触媒および前記フィルタ部を通過した前記排気ガスに含まれるアンモニアの濃度である下流アンモニア濃度を検出する第1センサと、前記選択還元触媒および前記フィルタ部を通過した前記排気ガスに含まれる成分であって前記下流アンモニア濃度とは異なる特定成分濃度を検出する第2センサと、を備える浄化システムにおいて、前記第1センサの出力である第1センサ出力値に基づいて前記下流アンモニア濃度を算出する濃度算出方法であって、
前記第2センサは、自身の出力である第2センサ出力値が前記特定成分濃度のみならず前記下流アンモニア濃度の変化に応じても変化する特性を有しており、
前記フィルタ部の再生処理中の前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値を用いて、前記第1センサ出力値または前記下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算する補正値演算ステップ、
を備える濃度算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択還元触媒から排出されるアンモニアの濃度を算出する濃度算出装置、濃度算出システムおよび濃度算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するために、内燃機関の排気管にSCR(Selective Catalytic Reduction )触媒を設置し、還元剤として尿素をSCR触媒へ供給するように構成されたシステムが存在する。
【0003】
このようなシステムにおいて、SCR触媒から流出するNOxを検出するNOxセンサのセンサ出力(NOxセンサ出力)と、SCR触媒から流出するアンモニアを検出するアンモニアセンサのセンサ出力(アンモニアセンサ出力)とを比較することにより、アンモニアセンサの出力を補正する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
上記の技術では、内燃機関のフューエルカット時において、尿素(アンモニア)の噴射を実行して、尿素(アンモニア)に対するNOxセンサ出力とアンモニアセンサ出力とを用いて、アンモニアセンサのセンサ出力を補正するための補正値を演算する。
【0005】
なお、上記の技術においては、補正値を演算するにあたり排気ガス中にNOxが存在しないことが前提となるため、フューエルカット時に補正値を演算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−224504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来技術は、補正値を演算するにあたり排気ガス中にNOxが存在しないことが前提となるが、内燃機関の構造によっては、フューエルカット時であっても排気ガス中にNOxが存在する場合があり、補正値を適切に演算できない可能性がある。
【0008】
例えば、排気ガス再循環装置(EGR)を備える内燃機関の場合には、フューエルカット時であってもNOxがアンモニアセンサ配置領域に到達することがある。このような場合には、NOxの影響によってセンサ出力が変動してしまい、アンモニアセンサの補正値を適切に演算できない可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、内燃機関のフューエルカット時以外のタイミングでも、アンモニアセンサのセンサ出力を補正するための補正値を演算できる濃度算出装置、濃度算出システムおよび濃度算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの局面における濃度算出装置は、内燃機関から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するための浄化システムにおいて、第1センサの出力である第1センサ出力値に基づいて下流アンモニア濃度を算出する濃度算出装置であって、補正値演算部を備える。
【0011】
浄化システムは、選択還元触媒と、還元剤供給部と、フィルタ部と、第1センサと、第2センサと、を備える。
選択還元触媒は、内燃機関から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するために内燃機関の排気管に設置される。還元剤供給部は、選択還元触媒へ還元剤を供給する。フィルタ部は、排気ガスに含まれる粒子状物質を除去するために排気管に設置される。第1センサは、選択還元触媒およびフィルタ部を通過した排気ガスに含まれるアンモニアの濃度である下流アンモニア濃度を検出する。第2センサは、選択還元触媒およびフィルタ部を通過した排気ガスに含まれる成分であって下流アンモニア濃度とは異なる特定成分濃度を検出する。第2センサは、自身の出力である第2センサ出力値が特定成分濃度のみならず下流アンモニア濃度の変化に応じても変化する特性を有している。
【0012】
補正値演算部は、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いて、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算する。
【0013】
浄化システムにおいては、粒子状物質を捕集したフィルタ部の再生処理(燃焼により粒子状物質を除去する処理)を実行するために、排気ガスを高温にすることがある。このようなフィルタ再生中は、排気ガスが高温になるため、フィルタ部のみならず、選択還元触媒も高温状態となる。このようにして選択還元触媒が高温になると、選択還元触媒に吸着されたアンモニアが剥がれて、選択還元触媒の下流にアンモニアが流れる。このとき、そのアンモニアの影響により第1センサの第1センサ出力値が変化するとともに、第2センサの第2センサ出力値も変化する。なお、第1センサ出力値が変化する場合、第1センサ出力値に基づいて算出される下流アンモニア濃度も変化する。
【0014】
濃度算出装置においては、補正値演算部が、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いて、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算する。
【0015】
このように、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いることで、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)の影響により第1センサ出力値および下流アンモニア濃度の変動が生じているか否かを判定できる。例えば、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値と第2センサ出力値との比較結果を用いることで、第1センサの状態に応じて、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算できる。
【0016】
この濃度算出装置においては、補正値演算にあたり、高温となった選択還元触媒から剥がれたアンモニアを用いるため、補正値演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となる。また、この濃度算出装置は、選択還元触媒が高温状態であれば、任意のタイミングで補正値を演算できるため、補正値の演算タイミングがフューエルカット時に限定される場合に比べて、第2センサ出力値に影響を及ぼす特定成分が排気管に存在しないタイミングの選択が容易となる。
【0017】
よって、この濃度算出装置によれば、補正値の演算タイミングがフューエルカット時に限定されないため、補正値の演算に際しての煩雑さが軽減される。また、この濃度算出装置によれば、補正値の演算頻度(更新頻度)が高まることで、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に起因して第1センサ出力値および下流アンモニア濃度が変動した場合でも、早期に第1センサ出力値および下流アンモニア濃度を補正でき、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0018】
さらに、この濃度算出装置によれば、補正値の演算にあたり、選択還元触媒からアンモニアが供給されるため、補正値演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となり、装置構成の複雑化を抑制できる。
【0019】
次に、上述の濃度算出装置においては、第1センサ出力検出部と、第2センサ出力検出部と、出力換算値および濃度換算値のうち少なくとも一方を演算する換算値演算部と、を備え、補正値演算部は、第1センサ出力値と出力換算値との比較結果、または下流アンモニア濃度と濃度換算値との比較結果に基づいて、補正値を演算してもよい。
【0020】
第1センサ出力検出部はフィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値を検出する。第2センサ出力検出部は、フィルタ部の再生処理中の第2センサ出力値を検出する。換算値演算部は、第2センサ出力値を用いて、第1センサ出力値の換算値である出力換算値および下流アンモニア濃度の換算値である濃度換算値のうち少なくとも一方を演算する。
【0021】
フィルタ部の再生処理中の第2センサ出力値を用いた演算により得られる出力換算値および濃度換算値は、フィルタ再生中に発生するアンモニアの影響により値が変化する。このため、第1センサ出力値と出力換算値との比較結果、または下流アンモニア濃度と濃度換算値との比較結果は、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に応じて変化する。
【0022】
つまり、第1センサ出力値と出力換算値との比較結果、または下流アンモニア濃度と濃度換算値との比較結果を用いることで、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算できる。
【0023】
よって、この濃度算出装置によれば、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に応じて、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算できる。
次に、上述の濃度算出装置においては、フィルタ部の再生処理中の第2センサ出力値が所定の閾値以上であるか否かを判定する出力値判定部が備えられ、補正値演算部は、出力値判定部にて第2センサ出力値が閾値以上であると判定される場合に、補正値を演算し、出力値判定部にて第2センサ出力値が閾値以上ではない判定される場合に、補正値を演算しない構成であってもよい。
【0024】
フィルタ再生中の第2センサ出力値が閾値以上である場合には、フィルタ再生中に発生するアンモニアの量が一定以上である場合であり、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)が第1センサ出力値および第2センサ出力値の比較結果に与える影響が一定以上になる。つまり、フィルタ再生中の第2センサ出力値が閾値以上である場合には、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)の判定精度が向上し、より適切な補正値を演算することができる。
【0025】
換言すれば、フィルタ再生中の第2センサ出力値が閾値以上である場合には、第1センサおよび第2センサのそれぞれに対してアンモニアが到達していると判定でき、そのときの第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いて演算された補正値は、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に応じた適切な値となる。
【0026】
他方、フィルタ再生中の第2センサ出力値が閾値以上ではない場合には、第1センサおよび第2センサのうち少なくとも一方に対してアンモニアが到達していない可能性があり、そのときの第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いて演算された補正値は、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に応じた値ではない。
【0027】
このため、フィルタ再生中の第2センサ出力値が閾値以上であるか否かによって、補正値を演算する場合と演算しない場合とを選択する構成を採ることで、常に補正値を演算する構成に比べて、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に応じた適切な補正値を演算することが可能となる。
【0028】
よって、この濃度算出装置によれば、補正値が不適切な値に設定されるのを抑制できるため、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
次に、上述の濃度算出装置においては、第1センサはアンモニアセンサであり、第2センサはNOxセンサであってもよい。
【0029】
つまり、NOxセンサが出力するNOxセンサ出力値は、NOx濃度のみならずアンモニア濃度の変化に応じて変化することから、第2センサとして利用できる。
なお、第2センサは、第1センサとは別の補正用アンモニアセンサである構成であってもよい。このような補正用アンモニアセンサは、アンモニア濃度のみならず、NOx濃度に応じてもセンサ出力値が変化する特性を有している。
【0030】
次に、第1センサがアンモニアセンサであり、第2センサがNOxセンサである上述の濃度算出装置においては、アンモニアセンサは、NOxセンサと一体化されたマルチセンサとして備えられる構成であってもよい。
【0031】
このようにアンモニアセンサおよびNOxセンサがマルチセンサとして備えられることで、各センサによるガス検出位置が遠く離れた構成ではなく、各センサによるガス検出位置が同一となる構成となるため、アンモニアセンサ出力値(第1センサ出力値)とNOxセンサ出力値(第2センサ出力値)とが同一のガス状態に対する変化を示すことになる。
【0032】
このようなアンモニアセンサ出力値(第1センサ出力値)およびNOxセンサ出力値(第2センサ出力値)を用いることで、補正値を演算するにあたり、アンモニアセンサ(第1センサ)の状態(耐久劣化や被毒等)がより精度良く反映された補正値を得ることができる。
【0033】
よって、この濃度算出装置によれば、アンモニアセンサ(第1センサ)の状態(耐久劣化や被毒等)がより精度良く反映された補正値を得ることができ、より一層、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0034】
次に、本発明の他の局面における濃度算出システムは、上述の濃度算出装置と、第1センサとしてのアンモニアセンサと、第2センサとしてのNOxセンサと、を備える濃度算出システムである。
【0035】
この濃度算出システムによれば、上述の濃度算出装置と同様に、補正値の演算タイミングがフューエルカット時に限定されないため、補正値の演算に際しての煩雑さが軽減される。
【0036】
次に、本発明の他の局面における濃度算出方法は、内燃機関から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するための浄化システムにおいて、第1センサの出力である第1センサ出力値に基づいて下流アンモニア濃度を算出する濃度算出方法であって、補正値演算ステップ、を備える。
【0037】
浄化システムは、選択還元触媒と、還元剤供給部と、フィルタ部と、第1センサと、第2センサと、を備える。
選択還元触媒は、内燃機関から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するために内燃機関の排気管に設置される。還元剤供給部は、選択還元触媒へ還元剤を供給する。フィルタ部は、排気ガスに含まれる粒子状物質を除去するために排気管に設置される。第1センサは、選択還元触媒およびフィルタ部を通過した排気ガスに含まれるアンモニアの濃度である下流アンモニア濃度を検出する。第2センサは、選択還元触媒およびフィルタ部を通過した排気ガスに含まれる成分であって下流アンモニア濃度とは異なる特定成分濃度を検出する。第2センサは、自身の出力である第2センサ出力値が特定成分濃度のみならず下流アンモニア濃度の変化に応じても変化する特性を有している。
【0038】
補正値演算ステップでは、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いて、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算する。
【0039】
浄化システムにおいては、粒子状物質を捕集したフィルタ部の再生処理(燃焼により粒子状物質を除去する処理)を実行するために、排気ガスを高温にすることがある。このようなフィルタ再生中は、排気ガスが高温になるため、フィルタ部のみならず、選択還元触媒も高温状態となる。このようにして選択還元触媒が高温になると、選択還元触媒に吸着されたアンモニアが剥がれて、選択還元触媒の下流にアンモニアが流れる。このとき、そのアンモニアの影響により第1センサの第1センサ出力値が変化するとともに、第2センサの第2センサ出力値も変化する。なお、第1センサ出力値が変化する場合、第1センサ出力値に基づいて算出される下流アンモニア濃度も変化する。
【0040】
濃度算出方法においては、補正値演算ステップにて、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いて、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するための補正値を演算する。
【0041】
このように、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値および第2センサ出力値を用いることで、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)の影響により第1センサ出力値および下流アンモニア濃度の変動が生じているか否かを判定できる。例えば、フィルタ部の再生処理中の第1センサ出力値と第2センサ出力値との比較結果を用いることで、第1センサ出力値または下流アンモニア濃度を補正するため補正値を演算できる。
【0042】
この濃度算出方法においては、補正値演算にあたり、高温となった選択還元触媒から剥がれたアンモニアを用いるため、補正値演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となる。また、この濃度算出方法は、選択還元触媒が高温状態であれば、任意のタイミングで補正値を演算できるため、補正値の演算タイミングがフューエルカット時に限定される場合に比べて、第2センサ出力値に影響を及ぼす特定成分が排気管に存在しないタイミングの選択が容易となる。
【0043】
よって、この濃度算出方法によれば、補正値の演算タイミングがフューエルカット時に限定されないため、補正値の演算に際しての煩雑さが軽減される。また、この濃度算出方法によれば、補正値の演算頻度(更新頻度)が高まることで、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に起因して第1センサ出力値および下流アンモニア濃度が変動した場合でも、早期に第1センサ出力値および下流アンモニア濃度を補正でき、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0044】
さらに、この濃度算出方法によれば、補正値の演算にあたり、選択還元触媒からアンモニアが供給されるため、補正値演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となり、濃度算出方法が複雑化することを抑制できる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の濃度算出装置および濃度算出方法によれば、補正値の演算タイミングがフューエルカット時に限定されないため、補正値の演算に際しての煩雑さが軽減される。また、この濃度算出装置および濃度算出方法によれば、補正値の演算頻度(更新頻度)が高まることで、第1センサの状態(耐久劣化や被毒等)に起因して第1センサ出力値および下流アンモニア濃度が変動した場合でも、早期に第1センサ出力値および下流アンモニア濃度を補正でき、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】尿素SCRシステムの概略構成を示す図である。
図2】上流NOxセンサとNOxセンサ制御装置の概略構成を示す図である。
図3】マルチガスセンサとマルチガスセンサ制御装置の概略構成を示す図である。
図4】アンモニア検出部の概略構成を示す展開図である。
図5】第1実施形態の補正係数算出処理の処理内容を示すフローチャートである。
図6】DPF再生が開始された場合の、排ガス温度、下流NOx出力値、下流アンモニア出力値のそれぞれの変化状態の一例を表すグラフである。
図7】第2尿素SCRシステムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
尚、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0048】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
以下に本発明の第1実施形態を図面とともに説明する。
【0049】
本発明が適用された実施形態の尿素SCR(Selective Catalytic Reduction )システム1は、図1に示すように、酸化触媒2、DPF(Diesel Particulate Filter )3、SCR触媒4、尿素水インジェクタ5、上流NOxセンサ6、NOxセンサ制御装置7、マルチガスセンサ8、マルチガスセンサ制御装置9および浄化制御装置10を備える。
【0050】
尿素SCRシステム1は、内燃機関51(以下、ディーゼルエンジン51ともいう)から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するための浄化システムの一例である。
酸化触媒2は、ディーゼルエンジン51の排気管52を介して、ディーゼルエンジン51から排出される排気ガスを取り込み、取り込んだ排気ガス中のNOxの酸化窒素(NO)を酸化して二酸化窒素(NO)を生成する。
【0051】
SCR触媒4は、上流側から供給される尿素をアンモニアに加水分解し、排気管52を介して、酸化触媒2から排出される排気ガスを取り込み、取り込んだ排気ガス中のNOxをこのアンモニアで還元する触媒として作用し、NOxを窒素ガスと水蒸気に転換する。これによりSCR触媒4は、NOxが還元された排気ガスを排出する。つまり、SCR触媒4は、ディーゼルエンジン51から排出される排気ガスに含まれるNOxを浄化するために排気管52に設置されている。
【0052】
DPF3は、排気管52を介して、SCR触媒4から排出される排気ガスを取り込み、取り込んだ排気ガス中の粒子状物質を除去する。つまり、DPF3は、粒子状物質を捕集して排気ガスから粒子状物質を除去するために排気管52に設置されている。
【0053】
尿素水インジェクタ5は、排気管52における酸化触媒2とSCR触媒4との間に設置され、尿素水を排気ガス中に噴射する。噴射された尿素水は高温下で加水分解され、これによりアンモニアガスが生成される。このアンモニアガスは、NOx還元の還元剤として用いられる。つまり、尿素水インジェクタ5は、SCR触媒4に対して還元剤としての尿素水を供給するために備えられている。
【0054】
上流NOxセンサ6は、排気管52における酸化触媒2とSCR触媒4との間に設置され、酸化触媒2から排出された排気ガス中のNOx濃度を検出する。
NOxセンサ制御装置7は、上流NOxセンサ6を制御するとともに、上流NOxセンサ6の検出結果に基づいて、酸化触媒2から排出された排気ガス中のNOx濃度(以下、上流NOx濃度ともいう)を算出する。NOxセンサ制御装置7は、通信線を介して、浄化制御装置10との間でデータを送受信することが可能に構成されており、上流NOx濃度を示す上流NOx濃度情報を浄化制御装置10へ送信する。
【0055】
マルチガスセンサ8は、排気管52におけるDPF3の下流側に設置され、DPF3から排出された排気ガス中のNOx濃度と下流アンモニア濃度を検出する。
マルチガスセンサ制御装置9は、マルチガスセンサ8を制御するとともに、マルチガスセンサ8の検出結果に基づいて、DPF3から排出された排気ガス中のNOx濃度(以下、下流NOx濃度ともいう)と、酸素濃度(以下、下流酸素濃度ともいう)と、アンモニア濃度(以下、下流アンモニア濃度ともいう)を算出する。マルチガスセンサ制御装置9は、通信線を介して、浄化制御装置10との間でデータを送受信することが可能に構成されており、下流NOx濃度を示す下流NOx濃度情報と、下流アンモニア濃度を示す下流アンモニア濃度情報を浄化制御装置10へ送信する。
【0056】
浄化制御装置10は、CPU21、ROM22、RAM23および信号入出力部24などを備えるマイクロコンピュータを主要部として構成されている。信号入出力部24には、尿素水インジェクタ5、NOxセンサ制御装置7およびマルチガスセンサ制御装置9が接続される。
【0057】
浄化制御装置10は、通信線を介して、NOxセンサ制御装置7およびマルチガスセンサ制御装置9との間でデータを送受信することが可能に構成されている。さらに浄化制御装置10は、通信線を介して、ディーゼルエンジン51を制御する電子制御装置53との間でデータを送受信することが可能に構成されている。以下、電子制御装置53をエンジンECU(Electronic Control Unit)53という。
【0058】
[1−2.上流NOxセンサ]
上流NOxセンサ6は、図2に示すように、絶縁層113、固体電解質層114、絶縁層115、固体電解質層116、絶縁層117、固体電解質層118、絶縁層119および絶縁層120が順次積層されて構成されている。絶縁層113,115,117,119,120は、アルミナを主体として形成されている。固体電解質層114,116,118は、酸素イオン導電性を有するジルコニアを主体として形成されている。
【0059】
上流NOxセンサ6は、固体電解質層114と固体電解質層116との間に形成される第1測定室121を備える。上流NOxセンサ6は、先端側にNOx検出部101を備えている。NOx検出部101は、拡散抵抗体122を介して、外部から第1測定室121の内部に排気ガスを導入するように構成されている。拡散抵抗体122は、固体電解質層114と固体電解質層116との間のうち、第1測定室121に隣接する位置に配置されている。拡散抵抗体122は、アルミナ等の多孔質材料で形成されている。
【0060】
上流NOxセンサ6は、第2測定室148を備える。第2測定室148は、固体電解質層114と固体電解質層118との間で、絶縁層115、固体電解質層116および絶縁層117を貫通して形成される。上流NOxセンサ6は、第1測定室121から拡散抵抗体123を介して排出された排気ガスを第2測定室148の内部に導入するように構成されている。拡散抵抗体123は、固体電解質層114と固体電解質層116との間のうち、第1測定室121に隣接する領域であって拡散抵抗体122とは反対側の領域に配置されている。拡散抵抗体123は、アルミナ等の多孔質材料で形成されている。
【0061】
上流NOxセンサ6は、第1ポンピングセル130を備える。第1ポンピングセル130は、固体電解質層114と、ポンピング電極131,132を備える。ポンピング電極131,132は、白金を主体として形成されている。ポンピング電極131は、固体電解質層114において第1測定室121と接触する面上に配置される。ポンピング電極131における第1測定室121側の表面は、多孔質体からなる保護層133によって覆われる。ポンピング電極132は、固体電解質層114を挟んでポンピング電極131とは反対側で固体電解質層114の面上に配置される。ポンピング電極132が配置された領域とその周辺の領域の絶縁層113は除去され、絶縁層113の代わりに多孔質体134が充填される。多孔質体134は、ポンピング電極132と外部との間でガス(酸素)の出入りを可能とする。
【0062】
上流NOxセンサ6は、酸素濃度検出セル140を備える。酸素濃度検出セル140は、固体電解質層116と、検知電極141と、基準電極142を備える。検知電極141と基準電極142は、白金を主体として形成されている。検知電極141は、第1測定室121内においてポンピング電極131よりも下流側(すなわち、拡散抵抗体122よりも拡散抵抗体123に近い側)になるようにして、固体電解質層116における第1測定室121と接触する面上に配置される。基準電極142は、固体電解質層116を挟んで検知電極141とは反対側で固体電解質層116の面上に配置される。
【0063】
上流NOxセンサ6は、基準酸素室146を備える。基準酸素室146は、固体電解質層116と固体電解質層118との間で基準電極142と接触するようにして形成されている。基準酸素室146の内部には、多孔質体が充填されている。
【0064】
上流NOxセンサ6は、第2ポンピングセル150を備える。第2ポンピングセル150は、固体電解質層118と、ポンピング電極151,152を備える。ポンピング電極151,152は、白金を主体として形成されている。ポンピング電極151は、固体電解質層118において第2測定室148と接触する面上に配置される。ポンピング電極152は、基準酸素室146を挟んで基準電極142とは反対側で固体電解質層118の面上に配置される。
【0065】
上流NOxセンサ6は、ヒータ160を備える。ヒータ160は、白金を主体として形成され、通電されることで発熱する発熱抵抗体であり、絶縁層119と絶縁層120との間に配置される。
【0066】
NOxセンサ制御装置7は、制御回路180と、マイクロコンピュータ190(以下、マイコン190という)を備える。
制御回路180は、回路基板上に配置されたアナログ回路である。制御回路180は、Ip1ドライブ回路181、Vs検出回路182、基準電圧比較回路183、Icp供給回路184、Vp2印加回路185、Ip2検出回路186およびヒータ駆動回路187を備える。
【0067】
そして、ポンピング電極131、検知電極141およびポンピング電極151は、基準電位に接続される。ポンピング電極132は、Ip1ドライブ回路181に接続される。基準電極142は、Vs検出回路182とIcp供給回路184に接続される。ポンピング電極152は、Vp2印加回路185とIp2検出回路186に接続される。ヒータ160は、ヒータ駆動回路187に接続される。
【0068】
Ip1ドライブ回路181は、ポンピング電極131とポンピング電極132との間に第1ポンピング電流Ip1を供給するとともに、供給した第1ポンピング電流Ip1を検出する。
【0069】
Vs検出回路182は、検知電極141と基準電極142との間の電圧Vsを検出し、検出した結果を基準電圧比較回路183へ出力する。
基準電圧比較回路183は、基準電圧(例えば、425mV)とVs検出回路182の出力(電圧Vs)とを比較し、比較結果をIp1ドライブ回路181へ出力する。そしてIp1ドライブ回路181は、電圧Vsが基準電圧と等しくなるように、第1ポンピング電流Ip1の流れる向きと第1ポンピング電流Ip1の大きさとを制御するとともに、第1測定室121内の酸素濃度を、NOxが分解しない程度の所定値に調整する。
【0070】
Icp供給回路184は、検知電極141と基準電極142との間に微弱な電流Icpを流す。これにより、酸素が第1測定室121から固体電解質層116を介して基準酸素室146に送り込まれるため、基準酸素室146は、基準となる所定の酸素濃度に設定される。
【0071】
Vp2印加回路185は、ポンピング電極151とポンピング電極152との間に、一定電圧Vp2(例えば、450mV)を印加する。これにより、第2測定室148では、第2ポンピングセル150を構成するポンピング電極151,152の触媒作用によって、NOxが解離(還元)される。この解離により得られた酸素イオンがポンピング電極151とポンピング電極152との間の固体電解質層118を移動することにより第2ポンピング電流Ip2が流れる。Ip2検出回路186は、第2ポンピング電流Ip2を検出する。
【0072】
ヒータ駆動回路187は、発熱抵抗体であるヒータ160の一端にヒータ通電用の正電圧を印加するともに、ヒータ160の他端にヒータ通電用の負電圧を印加することにより、ヒータ160を駆動する。
【0073】
マイコン190は、CPU191、ROM192、RAM193および信号入出力部194を備える。
CPU191は、ROM192に記憶されたプログラムに基づいて、上流NOxセンサ6を制御するための処理を実行する。信号入出力部194は、Ip1ドライブ回路181、Vs検出回路182、Ip2検出回路186およびヒータ駆動回路187に接続される。
【0074】
CPU191は、第1ポンピングセル130のポンピング動作により第1測定室121の酸素濃度を調整し、第2測定室148の酸素濃度をNOx検知が可能なNOx検知用濃度に設定して、第2ポンピング電流Ip2の電流値に基づきNOx濃度を算出する。またCPU191は、信号入出力部194を介してヒータ駆動回路187へ駆動信号を出力することによりヒータ160を制御する。
【0075】
[1−3.マルチガスセンサ]
マルチガスセンサ8は、図3に示すように、NOx検出部201と、アンモニア検出部202を備える。
【0076】
NOx検出部201は、上流NOxセンサ6の絶縁層113上に固体電解質層112が積層され、更に固体電解質層112上に絶縁層111が積層された点以外は上流NOxセンサ6と同一である。絶縁層111は、アルミナを主体として形成されている。固体電解質層112は、酸素イオン導電性を有するジルコニアを主体として形成されている。
【0077】
つまり、マルチガスセンサ8のNOx検出部201は、SCR触媒4およびDPF3を通過した排気ガスに含まれるNOxの濃度(下流NOx濃度)を検出するために備えられている。
【0078】
アンモニア検出部202は、検知電極211と、基準電極212と、選択反応層213と、拡散層214を備える。
検知電極211と基準電極212は、図4に示すように、固体電解質層112の上において互いに離間するように配置される。検知電極211は、金を主成分とする材料で形成される。基準電極212は、白金を主成分とする材料で形成される。基準電極212よりも検知電極211の方がアンモニアとの反応性が高いため、検知電極211と基準電極212との間で起電力が生じる。
【0079】
選択反応層213は、金属酸化物を主成分として形成され、検知電極211と基準電極212を覆うようにして配置される。選択反応層213は、アンモニア以外の可燃性ガス成分を燃焼させる機能を有する。すなわち、アンモニア検出部202は、選択反応層213により、可燃性ガス成分の影響を受けずに排気ガス中のアンモニアを検出することができる。
【0080】
拡散層214は、多孔質材料で形成され、選択反応層213を覆うようにして配置される。拡散層214は、外部からアンモニア検出部202に流入する排気ガスの拡散速度を調整可能に構成される。
【0081】
つまり、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202は、SCR触媒4およびDPF3を通過した排気ガスに含まれるアンモニアの濃度(下流アンモニア濃度)を検出するために備えられている。
【0082】
図3に示すように、マルチガスセンサ制御装置9は、制御回路220とマイコン230を備える。
制御回路220は、起電力検出回路221が追加された点が、NOxセンサ制御装置7の制御回路180と異なる。起電力検出回路221は、検知電極211と基準電極212との間の起電力(以下、アンモニア起電力EMFという)を検出し、検出結果を示す信号をマイコン230へ出力する。
【0083】
マイコン230は、CPU231、ROM232、RAM233、EEPROM234および信号入出力部235を備える。
CPU231は、ROM232に記憶されたプログラムに基づいて、マルチガスセンサ8を制御するための処理を実行する。信号入出力部235は、Ip1ドライブ回路181、Vs検出回路182、Ip2検出回路186、ヒータ駆動回路187および起電力検出回路221に接続される。
【0084】
CPU231は、CPU191と同様にして、NOx濃度を算出する。またCPU231は、第1ポンピング電流Ip1の通電方向および電流値に基づいて酸素濃度を算出する。
【0085】
またCPU231は、アンモニア起電力EMFとアンモニア濃度との対応関係を示すアンモニア濃度変換式を用いて、アンモニア起電力EMFをアンモニア濃度に変換することによりアンモニア濃度を算出する。アンモニア濃度変換式は、オフセット値と傾きを係数とし、アンモニア起電力EMFを変数とする一次式である。アンモニア濃度変換式のオフセット値および傾きは、それぞれ予め定められた数値がEEPROM234に記憶されている。
【0086】
なお、CPU231は、検出したアンモニア起電力EMFの値(以下、下流アンモニア出力値Saともいう)を補正するためのアンモニア出力補正処理を実行する。具体的には、検出した下流アンモニア出力値Saに対してGain補正係数を乗算することで、補正後の下流アンモニア出力値Saを得る。
【0087】
Gain補正係数は、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202の状態(劣化状態、被毒状態など)に応じて定められる補正値である。アンモニア検出部202のセンサ出力であるアンモニア起電力EMFの値(下流アンモニア出力値Sa)は、アンモニア検出部202の状態に応じて変動することがある。そのため、その変動の影響を低減するために、アンモニア検出部202の状態に応じて定められる補正値がGain補正係数として設定されている。
【0088】
このため、CPU231は、アンモニア起電力EMFの値(下流アンモニア出力値Sa)とアンモニア濃度変換式を用いてアンモニア濃度を算出する際には、下流アンモニア出力値Saとして補正後の下流アンモニア出力値Saを利用する。
【0089】
またCPU231は、信号入出力部235を介してヒータ駆動回路187へ駆動信号を出力することによりヒータ160を制御する。
マルチガスセンサ制御装置9のマイコン230は、各種処理を実行しており、その1つとして補正係数算出処理を実行する。
【0090】
[1−4.補正係数算出処理]
ここで、補正係数算出処理の手順を説明する。補正係数算出処理は、マルチガスセンサ制御装置9のマイコン230が起動した直後に、その処理を開始する。
【0091】
図5は、補正係数算出処理の処理内容を示すフローチャートである。
補正係数算出処理が実行されると、まず、S110(Sはステップを表す)にて、DPF再生処理中であるか否かを判定し、肯定判定するとS120に移行し、否定判定するとS130に移行する。なお、S110では、浄化制御装置10から受信したDPF再生信号がオン状態である場合に、DPF再生中であると判断し、DPF再生信号がオフ状態である場合に、DPF再生中ではないと判断する。
【0092】
DPF再生信号は、DPF再生処理中であるか否かを示す信号であり、DPF再生中の場合には電圧がハイレベル(オン状態)となり、DPF再生中ではない場合には電圧がローレベル(オフ状態)となる。DPF信号は、エンジンECU53から浄化制御装置10へ送信され、更に、浄化制御装置10からマルチガスセンサ制御装置9へ送信される。
【0093】
DPF再生処理は、エンジンECU53で実行される各種制御処理の1つである。DPF再生処理を実行するエンジンECU53は、例えば、内燃機関の運転状態を制御して排気ガスの温度を上昇させる処理を行い、排気ガスによってDPF3を高温状態に制御する。なお、DPF再生処理は、DPF3を高温状態に制御することで、DPF3に捕集された粒子状物質を燃焼により除去し、DPF3における粒子状物質の捕集能力を改善することで、DPF3を再生する処理である。
【0094】
このようなDPF再生処理の実行中は、排気ガスが高温になるため、DPF3のみならず、SCR触媒4も高温状態となる。この場合、SCR触媒4に吸着されたアンモニアが剥がれて、排気管におけるSCR触媒4の下流領域にアンモニアが流れる。このとき、そのアンモニアの影響により、マルチガスセンサ8で検出された下流アンモニア出力値Saが変化するとともに、マルチガスセンサ8で検出されたNOx出力値が変化する。
【0095】
このことから、S110では、DPF再生処理中であるか否かを判定することで、SCR触媒4が高温状態であるか否かを判定している。
S110で肯定判定されてS120に移行すると、S120では、マルチガスセンサ8で検出されたNOx出力値(以下、下流NOx出力値Snともいう)および下流アンモニア出力値Saの記録処理(保存処理)を開始する。S120が終了すると、S140に移行する。
【0096】
S110で否定判定されてS130に移行すると、S130では、マルチガスセンサ8で検出されたNOx出力値(以下、下流NOx出力値Snともいう)および下流アンモニア出力値Saの記録処理(保存処理)を停止する。S130が終了すると、再びS110に移行する。
【0097】
S120が終了すると、S140では、下流NOx出力値Snが予め定められた判定値Ath(本実施形態では、NOx濃度が100[ppm]であるときの第2ポンピング電流Ip2の電流値)以上であるか否かを判定し、肯定判定するとS150に移行し、否定判定すると再びS110に移行する。
【0098】
S140で肯定判定されてS150に移行すると、S150では、マルチガスセンサ8で検出された下流アンモニア出力値Saがピーク値を過ぎたか否かを判定し、肯定判定するとS160に移行し、否定判定すると再びS110に移行する。
【0099】
S150で肯定判定されてS160に移行すると、S160では、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saのそれぞれのピーク値が各値に応じた予め定められた有効判定範囲に含まれるか否かを判定し、肯定判定するとS170に移行し、否定判定するとS190に移行する。なお、S160では、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saの両者が有効判定範囲に含まれる場合には、肯定判定し、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saのうち少なくとも一方が有効判定範囲に含まれない場合には、否定判定する。
【0100】
本実施形態では、下流NOx出力値Snのピーク値に対応する有効判定範囲は「下流アンモニア濃度が100〜300[ppm]の範囲内であるときの第2ポンピング電流Ip2の電流値が採りうる範囲」に予め設定されている。また、下流アンモニア濃度のピーク値に対応する有効判定範囲は、「下流アンモニア濃度が100〜300[ppm]の範囲内であるときのアンモニア起電力EMFの値が採りうる範囲」に予め設定されている。
【0101】
S160で肯定判定されてS170に移行すると、S170では、マルチガスセンサ8で検出された下流NOx出力値Snのピーク値を用いて、下流アンモニア出力値Saに相当する換算値である下流アンモニア換算値Caを演算する。
【0102】
なお、マルチガスセンサ8のNOx検出部201は、NOx濃度のみならずアンモニア濃度の変化に応じても第2ポンピング電流Ip2が変動する特性を有する。このため、マルチガスセンサ8で検出された下流NOx出力値Snは、下流アンモニア換算値Caを得ることにも利用できる。例えば、下流NOx出力値Snと下流アンモニア換算値Caとの相関関係を表した数値変換手段(マップあるいは演算式など)を予め準備しておき、その数値変換手段に基づいて下流NOx出力値Snのピーク値に対応する下流アンモニア換算値Caを演算することで、下流アンモニア換算値Caのピーク値を得ることができる。
【0103】
次のS180では、マルチガスセンサ8で検出された下流アンモニア出力値Saのピーク値と、S170で得られた下流アンモニア換算値Caのピーク値と、を用いて、Gain補正係数を算出するとともに、算出結果であるGain補正係数をマルチガスセンサ制御装置9のRAMまたは記憶部(ハードディスクなど。図示省略。)に記憶する。具体的には、下流アンモニア換算値Caのピーク値を下流アンモニア出力値Saのピーク値で除算して得られる値をGain補正係数として記憶する。
【0104】
次のS190では、複数のGain補正係数を記憶したか否かを判定し、肯定判定するとS200に移行し、否定判定すると再びS110に移行する。
なお、本実施形態では、1回のDPF再生処理において1個の算出結果(Gain補正係数)を得られる構成であるが、算出誤差が生じる可能性があるため、1個の算出結果(Gain補正係数)をそのまま利用することはしない。つまり、複数回のDPF再生処理を通じて得られた複数の算出結果(Gain補正係数)を用いてGain補正係数を更新することで、算出誤差の影響を低減している。そのため、補正係数算出処理では、複数のGain補正係数を記憶したか否かを判定するステップ(S190)を備えている。
【0105】
S190で肯定判定されてS200に移行すると、S200では、複数のGain補正係数の平均値を算出する。このときの平均値の算出方法としては、移動平均、加重平均、相加平均などを用いてもよい。また、例えば、平均値の算出に用いるGain補正係数の個数を予め定めてもよい。
【0106】
次のS210では、補正後の下流アンモニア出力値Saの演算に用いるGain補正係数を更新する。具体的には、S200で算出したGain補正係数の平均値を、補正後の下流アンモニア出力値Saの演算に用いるGain補正係数に設定する。
【0107】
S210が終了すると、再びS110に移行する。
この補正係数算出処理は、マルチガスセンサ制御装置9のマイコン230が停止するまで、上述の処理を継続する。つまり、DPF再生処理が実施される毎に、マルチガスセンサ8で検出された下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saが有効判定範囲であるか否かを判定し、有効判定範囲である場合には、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saに基づいてGain補正係数の算出が実施される。そして、複数のGain補正係数が記憶されると、複数のGain補正係数の平均値を用いて、補正後の下流アンモニア出力値Saの演算に用いるGain補正係数に設定する。
【0108】
次に、図6は、DPF再生が開始された場合の、排ガス温度、下流NOx出力値Sn、下流アンモニア換算値Ca、下流アンモニア出力値Saのそれぞれの変化状態の一例を表すグラフである。
【0109】
なお、下流NOx出力値Snは、第2ポンピング電流Ip2の値である。下流アンモニア換算値Caは、下流NOx出力値Snに基づき演算された下流アンモニア出力値Saの換算値である。下流アンモニア出力値Saは、アンモニア起電力EMFの値である。
【0110】
図6に示す変化状態では、時刻t1でDPF再生が開始されて、その後、排ガス温度が徐々に上昇していき、時刻t2で排ガス温度が所定値を超えると、その後、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saがそれぞれ上昇する。このあと、時刻t3で下流NOx出力値Snが判定値Athを超えて、時刻t4で下流アンモニア出力値Saがピーク値となる。このあと、時刻t5までの期間中に、時刻t4での下流NOx出力値Snのピーク値に基づき下流アンモニア換算値Caが演算されるとともにGain補正係数が演算され、さらに、複数のGain補正係数の平均値が算出され、時刻t5でGain補正係数の平均値を用いてGain補正係数が更新される。
【0111】
なお、図6では、下流アンモニア出力値Saが下流アンモニア換算値Caよりも小さい値を示しており、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202の状態(劣化状態、被毒状態など)に起因して、下流アンモニア出力値Saが変動している状態を示している。このような状態に応じてGain補正係数が更新されて、そのGain補正係数を用いて下流アンモニア出力値Saを補正することで、下流アンモニア出力値Saを用いてアンモニア濃度を算出するにあたり、算出誤差を低減できる。
【0112】
[1−5.効果]
以上説明したように、本実施形態のマルチガスセンサ制御装置9は、補正係数算出処理の実行時にDPF再生処理中と判定された場合(S110で肯定判定)に、マルチガスセンサ8で検出された下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saの記録処理(保存処理)を開始する(S120)。
【0113】
そして、マルチガスセンサ制御装置9は、下流NOx出力値Snのピーク値を用いて下流アンモニア換算値Caを演算し(S170)、下流アンモニア換算値Caと下流アンモニア出力値Saとの比較結果に基づいてGain補正係数を算出する(S180)。
【0114】
このように、下流NOx出力値Snを用いて下流アンモニア換算値Caを演算して、下流アンモニア換算値Caと下流アンモニア出力値Saとを比較することで、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)の影響により下流アンモニア出力値Saの変動が生じているか否かを判定できる。つまり、下流アンモニア換算値Caと下流アンモニア出力値Saとを比較することで、アンモニア検出部202の状態に応じてGain補正係数を演算できる。
【0115】
また、マルチガスセンサ制御装置9は、Gain補正係数の演算にあたり、高温となったSCR触媒4から剥がれたアンモニアを用いるため、Gain補正係数の演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となる。
【0116】
また、マルチガスセンサ制御装置9は、SCR触媒4が高温状態であれば、任意のタイミングでGain補正係数を演算できるため、Gain補正係数の演算タイミングがフューエルカット時に限定される場合に比べて、NOxが排気管52に存在しないタイミングの選択が容易となる。
【0117】
よって、マルチガスセンサ制御装置9によれば、Gain補正係数の演算タイミングがフューエルカット時に限定されないため、Gain補正係数の演算に際しての煩雑さが軽減される。また、マルチガスセンサ制御装置9によれば、Gain補正係数の演算頻度(更新頻度)が高まることで、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)に起因して下流アンモニア出力値Saが変動した場合でも、早期に下流アンモニア出力値Saを補正でき、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0118】
さらに、マルチガスセンサ制御装置9によれば、Gain補正係数の演算にあたり、SCR触媒4からアンモニアが供給されるため、Gain補正係数の演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となり、装置構成の複雑化を抑制できる。
【0119】
次に、マルチガスセンサ制御装置9においては、下流アンモニア濃度に応じて変化する状態量として、マルチガスセンサ8のNOx検出部201のセンサ出力(下流NOx出力)を検出している。そして、下流アンモニア出力値Saを検出するアンモニア検出部202は、NOx検出部201と一体化されたマルチガスセンサ8として備えられる。
【0120】
このようにアンモニア検出部202およびNOx検出部201が、マルチガスセンサ8として一体的に備えられることで、各検出部によるガス検出位置が遠く離れた構成ではなく、各検出部によるガス検出位置が同一となる構成となる。これにより、アンモニア検出部202の下流アンモニア出力値Saと、NOx検出部201の下流NOx出力値Snとが、同一のガス状態に対する変化を示すことになる。
【0121】
このような下流NOx出力値Snを用いて演算されたGain補正係数を用いることで、下流アンモニア換算値Caと下流アンモニア出力値Saとの比較結果に基づいてGain補正係数を演算するにあたり、アンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)がより精度良く反映されたGain補正係数を得ることができる。
【0122】
よって、マルチガスセンサ制御装置9によれば、アンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)がより精度良く反映されたGain補正係数を得ることができ、より一層、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0123】
次に、マルチガスセンサ制御装置9においては、マイコン230は、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saのそれぞれのピーク値が各値に応じた予め定められた有効判定範囲に含まれるか否かを判定し(S160)、判定結果に応じて、そのときの下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saを用いたGain補正係数の演算を許容または禁止するように構成されている。
【0124】
マイコン230は、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saの両者が有効判定範囲に含まれると判定されると(S160で肯定判定)、そのときの下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Sa(詳細には、下流アンモニア換算値Ca)を用いたGain補正係数の演算(S170、S180)を許容する。
【0125】
つまり、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saの両者が有効判定範囲に含まれる場合には、アンモニア検出部202およびNOx検出部201のそれぞれに対してアンモニアが到達していると判定できる。このため、そのときの下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Sa(詳細には、下流アンモニア換算値Ca)を用いて演算されたGain補正係数は、アンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)に応じた適切な値となる。
【0126】
また、マイコン230は、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saのうち少なくとも一方が有効判定範囲に含まれないと判定されると(S160で否定判定)、そのときの下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saを用いたGain補正係数の演算を禁止する。
【0127】
つまり、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saのうち少なくとも一方が有効判定範囲に含まれない場合には、アンモニア検出部202およびNOx検出部201のうち少なくとも一方に対してアンモニアが到達していない可能性がある。このため、そのときの下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Sa(詳細には、下流アンモニア換算値Ca)を用いて演算されたGain補正係数は、アンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)に応じた値ではない。
【0128】
そこで、マイコン230が、S160での判定結果に基づいて、そのときの下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Sa(詳細には、下流アンモニア換算値Ca)を用いたGain補正係数の演算を許容または禁止することで、アンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)に応じた適切な値のGain補正係数を得ることができるとともに、Gain補正係数が不適切な値に設定されることを抑制できる。
【0129】
よって、マルチガスセンサ制御装置9によれば、Gain補正係数が不適切な値に設定されるのを抑制できるため、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
[1−6.文言の対応関係]
ここで、本実施形態における文言の対応関係について説明する。
【0130】
尿素SCRシステム1が浄化システムの一例に相当し、マルチガスセンサ制御装置9が濃度算出装置の一例に相当する。
SCR触媒4が選択還元触媒の一例に相当し、尿素水インジェクタ5が還元剤供給部の一例に相当し、DPF3がフィルタ部の一例に相当し、マルチガスセンサ8がマルチセンサの一例に相当し、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202が第1センサ(アンモニアセンサ)の一例に相当し、マルチガスセンサ8のNOx検出部201が第2センサ(NOxセンサ)の一例に相当する。
【0131】
Gain補正係数が補正値の一例に相当し、S120を実行するマイコン230が第1センサ出力検出部および第2センサ出力検出部の一例に相当し、S170を実行するマイコン230が換算値演算部の一例に相当し、S180を実行するマイコン230が補正値演算部の一例に相当する。
【0132】
S170が換算値演算ステップの一例に相当し、S180が補正値演算ステップの一例に相当する。
[2.第2実施形態]
上記の第1実施形態では、浄化システムの一例として、排気管52において酸化触媒2、SCR触媒4、DPF3がこの順番に配置された構成の尿素SCRシステム1について説明したが、浄化システムはこのような構成に限定されるものではない。
【0133】
そこで、第2実施形態として、リーンNOxトラップ302(LNT302)、DPF3、SCR触媒4がこの順番に配置されて構成されている第2尿素SCRシステム301について説明する。
【0134】
なお、第2実施形態について説明するにあたり、第1実施形態と同様な内容の説明は省略又は簡易化して説明する。第1実施形態と同様な構成には同様な番号を付与する。
[2−1.第2尿素SCRシステム]
図7に示すように、第2尿素SCRシステム301は、LNT302、DPF3、SCR触媒4、上流NOxセンサ6、NOxセンサ制御装置7、アンモニアセンサ311、下流NOxセンサ313、マルチガスセンサ制御装置9および浄化制御装置10を備える。
【0135】
なお、第2尿素SCRシステム301について説明するにあたり、第1実施形態の尿素SCRシステム1と同様な内容の説明は省略又は簡易化して説明する。なお、第1実施形態と同様な構成には同様な番号を付与する。
【0136】
LNT302は、ディーゼルエンジン51の排気管52を介して、ディーゼルエンジン51から排出される排気ガスを取り込み、取り込んだ排気ガス中のNOxを吸蔵し、吸蔵したNOxを浄化する。
【0137】
つまり、LNT302は、ディーゼルエンジン51のリーン燃焼時には、排気ガス中のNOxを吸着(貯蔵)する機能を発揮する。また、LNT302は、ディーゼルエンジン51のリッチ燃焼時には、排気ガス中の水素(H)と一酸化炭素(CO)によって、吸着したNOxを還元して、水(HO)と二酸化炭素(CO)と窒素(N)へ浄化する。このとき、副生成物としてアンモニア(NH)が生成される。つまり、LNT302は、リーン燃焼時にはNOx吸蔵機能を発揮し、リッチ燃焼時にはNOx浄化機能およびNH生成機能を発揮する。
【0138】
LNT302で生成されたアンモニアは、SCR触媒4でのNOx還元の還元剤として用いられる。つまり、LNT302は、排気ガス中のNOxを浄化するため、および、SCR触媒4に対して還元剤としてのアンモニアを供給するために備えられている。
【0139】
SCR触媒4でのNOx還元を実行する際には、エンジンECU53が内燃機関の運転状態をリッチ燃焼に制御することで、LNT302で還元剤としてのアンモニアが生成される。
【0140】
アンモニアセンサ311および下流NOxセンサ313は、マルチガスセンサ8の代わりとして備えられている。つまり、アンモニアセンサ311は、アンモニア検出部202と同様の機能を有しており、下流NOxセンサ313は、NOx検出部201と同様の機能を有している。
【0141】
マルチガスセンサ制御装置9は、アンモニアセンサ311をアンモニア検出部202と同様に制御し、下流NOxセンサ313をNOx検出部201と同様に制御する。
マルチガスセンサ制御装置9のマイコン230は、第1実施形態と同様の補正係数算出処理を実行する。
【0142】
つまり、マイコン230は、DPF再生処理が実施される毎に、下流NOxセンサ313およびアンモニアセンサ311で検出された下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saが有効判定範囲であるか否かを判定し、有効判定範囲である場合には、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saに基づいてGain補正係数の算出が実施される。そして、複数のGain補正係数が記憶されると、複数のGain補正係数の平均値を用いて、補正後の下流アンモニア出力値Saの演算に用いるGain補正係数に設定する。
【0143】
[2−2.効果]
以上説明したように、第2実施形態のマルチガスセンサ制御装置9は、第1実施形態と同様に、補正係数算出処理の実行時にDPF再生処理中と判定された場合(S110で肯定判定)に、下流NOxセンサ313およびアンモニアセンサ311で検出された下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saの記録処理(保存処理)を開始する(S120)。
【0144】
そして、マルチガスセンサ制御装置9は、下流NOx出力値Snのピーク値を用いて下流アンモニア換算値Caを演算し(S170)、下流アンモニア換算値Caと下流アンモニア出力値Saとの比較結果に基づいてGain補正係数を算出する(S180)。
【0145】
このように、下流NOx出力値Snを用いて下流アンモニア換算値Caを演算して、下流アンモニア換算値Caと下流アンモニア出力値Saとを比較することで、アンモニアセンサ311の状態(耐久劣化や被毒等)の影響により下流アンモニア出力値Saの変動が生じているか否かを判定できる。つまり、下流アンモニア換算値Caと下流アンモニア出力値Saとを比較することで、アンモニア検出部202の状態に応じてGain補正係数を演算できる。
【0146】
また、マルチガスセンサ制御装置9は、Gain補正係数の演算にあたり、高温となったSCR触媒4から剥がれたアンモニアを用いるため、Gain補正係数の演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となる。
【0147】
また、マルチガスセンサ制御装置9は、SCR触媒4が高温状態であれば、任意のタイミングでGain補正係数を演算できるため、Gain補正係数の演算タイミングがフューエルカット時に限定される場合に比べて、NOxが排気管52に存在しないタイミングの選択が容易となる。
【0148】
よって、マルチガスセンサ制御装置9によれば、Gain補正係数の演算タイミングがフューエルカット時に限定されないため、Gain補正係数の演算に際しての煩雑さが軽減される。また、マルチガスセンサ制御装置9によれば、Gain補正係数の演算頻度(更新頻度)が高まることで、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202の状態(耐久劣化や被毒等)に起因して下流アンモニア出力値Saが変動した場合でも、早期に下流アンモニア出力値Saを補正でき、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0149】
さらに、マルチガスセンサ制御装置9によれば、Gain補正係数の演算にあたり、SCR触媒4からアンモニアが供給されるため、Gain補正係数の演算のための特別な処理(還元剤(尿素、アンモニアなど)の噴射処理)が不要となり、装置構成の複雑化を抑制できる。
【0150】
[2−3.文言の対応関係]
ここで、本実施形態における文言の対応関係について説明する。
第2尿素SCRシステム301が浄化システムの一例に相当し、マルチガスセンサ制御装置9が濃度算出装置の一例に相当する。
【0151】
SCR触媒4が選択還元触媒の一例に相当し、リーンNOxトラップ302(LNT302)が還元剤供給部の一例に相当し、DPF3がフィルタ部の一例に相当し、アンモニアセンサ311が第1センサ(アンモニアセンサ)の一例に相当し、下流NOxセンサ313が第2センサ(NOxセンサ)の一例に相当する。
【0152】
Gain補正係数が補正値の一例に相当し、S120を実行するマイコン230が第1センサ出力検出部および第2センサ出力検出部の一例に相当し、S170を実行するマイコン230が換算値演算部の一例に相当し、S180を実行するマイコン230が補正値演算部の一例に相当する。
【0153】
S170が換算値演算ステップの一例に相当し、S180が補正値演算ステップの一例に相当する。
[3.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0154】
上記の実施形態では、下流アンモニア換算値Caの演算に用いる状態量として、マルチガスセンサ8のNOx検出部201または下流NOxセンサ313で検出されたNOx出力値(下流NOx出力値Sn)を用いる構成について説明したが、このような構成に限られることはない。例えば、排気管に補正用アンモニアセンサを設けて、その補正用アンモニアセンサのセンサ出力を下流アンモニア換算値Caの演算に用いる状態量として利用する構成であってもよい。
【0155】
なお、補正用アンモニアセンサは、排気管のうち、マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202またはアンモニアセンサ311の設置箇所の近傍領域(例えば、10cm以内の領域)に配置してもよい。補正用アンモニアセンサをこのように配置することで、補正用アンモニアセンサのセンサ出力と下流アンモニア出力値Sa(マルチガスセンサ8のアンモニア検出部202またはアンモニアセンサ311のセンサ出力)とが同一のガス状態に対する変化を示すことになる。このような補正用アンモニアセンサのセンサ出力を用いて演算された換算値(下流アンモニア換算値Ca)を用いることで、換算値とアンモニアセンサ出力(下流アンモニア出力値Sa)との比較結果に基づいて補正値(Gain補正係数)を演算するにあたり、アンモニアセンサの状態(耐久劣化や被毒等)がより精度良く反映された補正値を得ることができる。
【0156】
次に、上記の実施形態では、補正係数算出処理として、下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saのそれぞれのピーク値が有効判定範囲に含まれるか否かを判定するステップ(S160)を備える形態について説明したが、補正係数算出処理がこのようなステップを有しない形態であってもよい。つまり、補正係数算出処理を実行するマイコン230が下流NOx出力値Snおよび下流アンモニア出力値Saの各数値に関わらずGain補正係数の演算を行う形態であってもよい。このような形態の補正係数算出処理においては、S160での判定処理が不要となるため、マルチガスセンサ制御装置9のマイコン230の処理負荷が高くなりすぎることを抑制できる。
【0157】
次に、上記の実施形態では、NOxセンサ制御装置7、マルチガスセンサ制御装置9および浄化制御装置10を備える形態について説明したが、このような形態に限られることはない。例えば、制御装置7,9,10の代わりに、制御装置7,9,10の機能を備えた一体型の制御装置を備えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0158】
1…尿素SCRシステム、2…酸化触媒、4…SCR触媒、5…尿素水インジェクタ、6…上流NOxセンサ、7…NOxセンサ制御装置、8…マルチガスセンサ、9…マルチガスセンサ制御装置、10…浄化制御装置、51…内燃機関(ディーゼルエンジン)、53…電子制御装置(エンジンECU)、190…マイクロコンピュータ(マイコン)、201…NOx検出部、202…アンモニア検出部、220…制御回路、230…マイコン、301…第2尿素SCRシステム、302…リーンNOxトラップ(LNT)、311…アンモニアセンサ、313…NOxセンサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7