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特許6612897エネルギー蓄積分子材料、結晶誘電体層およびコンデンサ
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  • 特許6612897-エネルギー蓄積分子材料、結晶誘電体層およびコンデンサ 図000047
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612897
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】エネルギー蓄積分子材料、結晶誘電体層およびコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/14 20060101AFI20191118BHJP
   C07D 519/00 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   H01G4/14
   C07D519/00 311
【請求項の数】6
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2017-558522(P2017-558522)
(86)(22)【出願日】2016年5月20日
(65)【公表番号】特表2018-520503(P2018-520503A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】US2016033628
(87)【国際公開番号】WO2016187584
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2019年5月15日
(31)【優先権主張番号】14/719,072
(32)【優先日】2015年5月21日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517126875
【氏名又は名称】キャパシタ サイエンシス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラザレフ,パヴェル,イワン
【審査官】 須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−504952(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0058080(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101541890(CN,A)
【文献】 特表2007−532758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/14
H01G 9/028
H01G 9/07
C07D 519/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般的な分子構造式を有し、
【化1】
そのうち、Corは、π−π相互作用によって柱状超分子スタックを形成する主に平面状の多環式分子系であり、前記平面状の多環式分子系が、トルキセン、デカシクレン、アンタンスレン、ヘキサベンゾトリフェニレン、1.2,3,4,5,6,7,8−テトラ−(ペリ−ナフチレン)アントラセン、ジベンゾオクタセン、テトラベンゾヘプタセン、ペルピレン、ヘキサベンゾコロネンの組から選択された平面縮合多環式炭化水素を含み、かつ構造7〜17の組から選択される一般構造式を有し、
【表1】
Pは極化ユニットであり、前記極化ユニットが、ドープされたオリゴアニリンおよびp‐オリゴ−フェニレンの組から選択されるか、または構造式26〜32の組から選択される一般構造式を有する導電性オリゴマーを含み、ただし、X=2,3,4,5,6,7,8,9,10,11または12であり、
【表2】
Iは高耐圧絶縁置換基であり、nは1,2,3,4,5,6,7または8であり、mは1,2,3,4,5,6,7または8であり、前記高耐圧絶縁置換基の少なくとも1つが、‐(CH‐CH、‐CH((CHCH)(n=1….50)、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、分枝アルキル、分枝アリール、およびそれらの任意の組合せから選択され、アルキル基はメチル、エチル、プロピル、ブチル、I‐ブチル基およびt‐ブチル基から選択され、アリール基は、フェニル、ベンジルおよびナフチル基から選択される
ことを特徴とする静電界の形態でエネルギーを蓄積するエネルギー蓄積分子材料。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギー蓄積分子材料において、
前記ドープされたオリゴアニリンが、アニリンのフェニル環上にSまたはCOO基を有する自己ドープされたオリゴアニリンである。
【請求項3】
請求項1に記載のエネルギー蓄積分子材料において、
前記ドープされたオリゴアニリンが、酸化状態オリゴアニリンと混合された、アルキル‐SOH酸またはアルキル‐COOの組から選択される酸化合物によって混合ドープされる。
【請求項4】
請求項1に記載のエネルギー蓄積分子材料において、
主に平面状の多環式分子系(Cor)と極化ユニット(P)を接続する、構造33〜42から選択される少なくとも1つのリンカーユニットをさらに含む。
【表3】
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のエネルギー蓄積分子材料を含む
ことを特徴とする結晶誘電体層。
【請求項6】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された結晶誘電体層と、
を含み、
前記結晶誘電体層が、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエネルギー蓄積分子材料を含む
ことを特徴とするコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンデンサは、静電界の形態でエネルギーを蓄積するために使用される受動電子部品であり、誘電体層によって分離された一対の電極を含む。2つの電極間に電位差が存在すると、誘電体層に電界が存在する。理想的なコンデンサは、各電極上の電荷とそれらの間の電位差との比である静電容量の単一の一定値によって特徴付けられる。実際には、電極間に位置する誘電体層は少量の漏れ電流を通過することがある。電極およびリード線は等価直列抵抗を導入させ、誘電体層は破壊電圧をもたらす電界強度に制限を有する。最も単純なエネルギー蓄積装置は、誘電率εの誘電体層によって分離された2つの平行する電極からなり、各電極は面積Sを有し、互いに距離dをおいて配置されている。電極は面積Sにわたって均一に延びると考えられ、表面電荷密度は式:±ρ=±Q/Sで表すことができる。電極の幅が間隔(距離)dよりもはるかに大きいので、コンデンサの中心付近の電場は、大きさE=ρ/εで均一になる。電圧は、電極間の電界の線積分として定義される。理想的なコンデンサは、式(1)で定義される一定の静電容量Cによって特徴付けられる。
C = Q/V (1)
これは容量が面積と共に増加し、距離と共に減少することを示している。 したがって、高誘電率の材料で作られた装置では、容量は最大である。
【0002】
破壊強度Ebdとして知られる特性電界は、コンデンサ内の誘電体層が導電性になる電界である。これが起こる電圧は、デバイスの降伏電圧と呼ばれ、絶縁強度と電極間の間隔との積によって与えられる。
bd = Ebdd (2)
【0003】
コンデンサに蓄積される最大体積エネルギー密度は、〜ε・ε×Ebdに比例する値によって制限される。ここで、εは誘電率、Ebdは破壊強度である。したがって、コンデンサの蓄積エネルギーを増加させるためには、誘電体の誘電率εおよび誘電体の破壊強度Ebdを高める必要がある。
【0004】
通常に、電界の強度が十分に高くなって、エネルギー蓄積分子材料の原子から電子を「引っ張って」、一方の電極から他方の電極へ電流を伝導させると、誘電体層の破壊が起こる。エネルギー蓄積分子材料中の不純物の存在または結晶誘電体層の不完全性は、観測されるようなアバランシェ降伏をコンデンサにおいて生じさせる可能性がある。
【0005】
エネルギー蓄積分子材料の他の重要な特徴は、その誘電率である。異なる種類のエネルギー蓄積分子材料は、コンデンサに使用され、セラミック、ポリマーフィルム、紙、および異なる種類の電解コンデンサを含む。最も広く使用されるフィルム材料は、ポリプロピレンおよびポリエステルである。誘電率の増加は体積エネルギー密度の増加を可能にし、それが重要な技術的課題となる。
【0006】
ポリアニリン(PANI‐DBSA/PAA)の極めて高い誘電率複合物は、dodecylbenzeneスルホン酸塩の面前でポリアクリル酸の水分散でアニリンの元の位置の重合を使って合成された(Chao−Hsien Hoa、ほか、“High dielectric constant polyaniline/poly(acrylic acid) composites prepared by in situ polymerization”、Synthetic Metals 158 (2008)、pp. 630‐637を参考する)。水溶性PAAは重合スタビライザーとして用いられ、PANI粒子を肉眼で見える寄せ集めから保護する。重さによって30%のPANIを含んでいる複合物においては、およそ2.0×10(1kHzで)の非常に高い誘電率が得られた。複合物の形態、誘電性、電気特性に対するPANI含量の影響は調査された。誘電率の周波数に対する依頼性、誘電損、損失タンジェント、及び電気定数は、0.5kHzから10MHzまでの周波数レンジで分析された。SEM顕微鏡写真では、多数のナノ・スケールPANI粒子からなる高いPANI含量(すなわち、20重量%)による複合物がPAAマトリックスに均一に配布されることが明らかにされた。高い誘電率は、PANI粒子の小型コンデンサの総合に起因した。この材料の欠点は、電界の下で少なくとも1本の連続伝導路の発生とパーコレーションの可能性があり、かつ電界の増加につれてさらに発展する可能性があることである。隣接の導電PANI粒子を通しての少なくとも1本の連続経路(通路)がコンデンサの電極の間で作られるとき、そのようなコンデンサの破壊電圧を減少させることが可能である。
【0007】
アニリン・オリゴマーがドップされた単結晶は、単純な溶解ベースの自組み立て方法によって生産された(Yue Wang、ほか、“Morphological and Dimensional Control via Hierarchical Assembly of Doped Oligoaniline Single Crystals”、J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, pp. 9251−9262を参考する)。一次元(1−D)のナノ繊維のような構造がより高い順序構造に集計されることができる「ボトムアップ」の階層的なアセンブリで、異なる形態と次元の結晶が生産されることができることが、詳細な機械学の研究で分かった。結晶の核形成とアニリンのオリゴマーの間の非共有結合的な相互作用をコントロールすることによっては、一次元のナノ繊維とナノワイヤ、二次元のナノリボンとナノシート、三次元のナノプレート、積み重ねられたシート、ナノ花、多孔質ネットワーク、中身のない球とひねくれたコイルを含む多種多様な結晶ナノ構造が得られることができる。形状依存の結晶度のような注目された構成と性能の関係のように、これらのナノスケール結晶は、それらのブロック対照物と比較して、強化された伝導率を示している。さらに、分子の溶解作用を監視することにより、これらの構成の形態及び次元数を予想し合理化することができることは、専門研究にて明らかにされた。モデル・システムとして四価のアニリンを使うことにより、本文に示される結果と策略は、有機材料の形状とサイズを制御する一般的な方法を提供する。
【0008】
エネルギー蓄積装置としてのコンデンサは、電気化学的エネルギー蓄積装置(例えばバッテリー)に比べて公知な利点を有する。バッテリーと比較して、コンデンサは非常に高いエネルギー密度、つまり充電・放電率でエネルギーを蓄積することができ、ほとんど退廃がなく長い寿命を有し、かつ何十万もまたは何百万も回に(循環して)充放電することができる。
【0009】
しかし、コンデンサは、バッテリーのように小体積あるいは軽量で、あるいは低いエネルギーコストでエネルギーを蓄積することができず、若干のアプリケーション(たとえば電気自動車)にとって非実用となる。より高い容積、大きいエネルギー蓄積密度、及び低いコストを有するコンデンサを提供するために、エネルギー蓄積技術の改良は必要となる。
【0010】
本発明は、エネルギー蓄積装置に蓄積するエネルギーの体積および質量密度を向上するとともに、材料及び製造プロセスのコストを低減するという課題を解決しようとするものである。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、いくつかのエネルギー蓄積装置に関連する、蓄積するエネルギーの体積および質量密度を向上するとともに、材料及び製造プロセスのコストを低減するという課題を解決することができるエネルギー蓄積分子材料、結晶誘電体層およびコンデンサを提供する。エネルギー蓄積分子材料は、分子構造を有する比較的低分子量の誘電性結晶材料である。他の誘電材料、例えばポリマーも分子であるが、分子量の分布を特徴とする。
【0012】
一態様では、本発明は、以下の一般的な分子構造式を有するエネルギー蓄積分子材料を提供する:
【化1】
Corは、π−π相互作用によって柱状超分子スタックを形成する主に平面状の多環式分子系であり、Pは極化性を提供する極化ユニットであり、Iは高耐圧絶縁置換基(high−breakdown insulating substituent group)であり、nは1,2,3,4,5,6,7または8であり、mは、1,2,3,4,5,6,7または8である。
【0013】
別の態様では、本発明は、以下の一般的な分子構造式を有するエネルギー蓄積分子材料を提供する:
【化2】
D部分(D−moiety)は、π−π相互作用によって柱状超分子スタックを形成する極化ユニットであり、Iは高耐圧絶縁置換基であり、mは、1,2,3,4,5,6,7または8である。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、開示されたエネルギー蓄積分子材料を含む結晶誘電体層を提供する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は、第1の電極、第2の電極、および前記第1および第2の電極の間に配置された結晶誘電体層を含むコンデンサを提供する。電極は、平坦で平面であり、互いに平行に配置されている。結晶誘電体層は、開示されたエネルギー蓄積分子材料を含む。
【0016】
個々の刊行物、特許、または特許出願が具体的かつ個別に参照により組み込まれると示されていると同様に、本明細書中に言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、参照により本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1は、本発明の一態様によるコンデンサの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の様々な態様が本明細書に示され、記載されるが、そのような態様は単なる例として提供されることは当業者にとって明らかであろう。本発明から逸脱することなく、多くの変形、変更、および置換が当業者にて考えることができる。本明細書に記載された実施形態に対する様々な代替が採用され得ることを理解されたい。
【0019】
本発明は、エネルギー蓄積分子材料を提供する。本開示の実施例および態様によれば、エネルギー蓄積分子材料は、異なる(様々な)機能を実行する3つの成分を含む。主に平面状の多環式分子系(Cor)は、超分子を形成する能力をエネルギー蓄積分子材料に与える。次に、超分子は、結晶誘電体層の結晶構造を形成することを可能にする。極化ユニット(P)は、高い誘電率を有する分子材料を提供するために使用される。金属伝導性を有する分子、モノマーおよびポリマーの双極子極化、イオン極化、および超電子極化などのいくつかのタイプの極化がある。列挙されたタイプの極化を有する全ての極化ユニットは、本発明の態様において使用することができる。絶縁置換基(I)は、誘電体結晶層における超分子間の電気的絶縁を提供し、エネルギー蓄積分子材料の高い耐圧を提供する。
【0020】
本発明の1つの態様によれば、平面多環式分子系は、表1に示される構造1〜6を含む組からの一般構造式を有するテトラピロールのマクロ環式断片を含むことができ、そのうち、Mは金属の原子または2つのプロトン (2H)である。
表1テトラピロールマクロ環式断片を含む多環式分子系の例
【表1】
【0021】
本発明の別の態様によれば、平面多環式分子系は、トルキセン、デカシクレン、アンタンスレン(antanthrene)、ヘキサベンゾトリフェニレン(hexabenzotriphenylene)、1.2,3.4,5.6,7.8‐テトラ‐(ペリ‐ナフチレン)‐アントラセン(1.2,3.4,5.6,7.8−tetra−(peri−naphthylene)−anthracene)、ジベンゾオクタセン、テトラベンゾヘプタセン(tetrabenzoheptacene)、ペルピレン(peropyrene)、ヘキサベンゾコロネン(hexabenzocoronene)を含む組から選択される平面縮合多環式炭化水素を含み、かつ表2に示す構造7〜17を含む組からの一般構造式を有することができる。
表2.平面縮合多環式炭化水素を含む多環式分子系の例
【表2】
【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、平面多環式分子系は、表3に示す構造18〜25を含む組からの一般構造式を有するコロネン断片(coronene fragments)を含むことができる。
表3.コロネン断片を含む多環系の例
【表3】
【0023】
本発明のさらに別の態様では、極化ユニットは、表4に示す構造26〜32の導電性オリゴマーを含むことができ、ただし、X=2,3,4,5,6,7,8,9,10,11または12。
表4.導電性オリゴマーを含む極化ユニットの例
【表4】
【0024】
本発明のさらに別の態様において、極化ユニットは、表5に示す構造33〜53を含む組からの一般構造式を有するリレン(rylene)断片を含むことができる。
表5.リレン断片を含む極化ユニットの例
【表5】
【0025】
本発明の1つの態様によれば、極化ユニットは、ドープされたオリゴアニリン(oligoaniline)およびp‐オリゴ‐フェニレン(p−oligo−phenylene)を含む組から選択されることができる。本発明の別の実施形態において、ドープされたオリゴアニリンは、アニリンのフェニル環上にSO基またはCOO基を有する自己ドープされたオリゴアニリンである。本発明のさらに別の実施形態では、ドープされたオリゴアニリンは、酸化状態でオリゴアニリンと混合された、アルキル‐SOH酸またはアルキル‐COOHを含む組から選択される酸化合物によって混合ドープされる。
【0026】
本発明のさらに別の態様において、高耐圧絶縁置換基の少なくとも1つは、‐(CH‐CH、‐CH((CHCH)(n=1….50)、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、分枝アルキル、分枝アリール、およびこれらの任意の組合せから選択され、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、I‐ブチル基およびt‐ブチル基から選択され、アリール基は、フェニル、ベンジルおよびナフチル基から選択される。
【0027】
本発明の別の態様では、エネルギー蓄積分子材料は、主に平面状の多環式分子系(Cor)と極化ユニット(P)を連結する、表6に示す構造54〜63を含む組から選択される少なくとも1つのリンカーユニットをさらに含むことができる。
表6.リンカーユニットの例
【表6】
【0028】
本発明の別の態様によれば、主に平面状の多環式分子系(Cor)は、リンカーユニット(L)によってペリレン構造のベイ位置に連結された極化ユニット(P)を含むペリレンであってもよく、sは0,1,2,3,4,5または6である。
【化3】
【0029】
本発明のさらに別の態様において、主に平面状の多環式分子系(Cor)は、リンカーユニット(L)によってペリレン構造の頂点位置に連結された極化ユニット(P)を含むペリレンであってもよく、sは0,1,2,3,4,5または6である。
【化4】
【0030】
本発明のさらに別の態様において、主に平面状の多環式分子系(Cor)は、以下の構造式のペリレンであってもよく、そのうち、Pは極化ユニットであり、Iは高耐圧絶縁置換基である。
【化5】
【0031】
本発明のさらに別の態様において、主に平面状の多環式分子系(Cor)は、以下の構造式のペリレンであってもよい。
【化6】
【0032】
そのうち、Pは極化ユニットであり、Iは高耐圧絶縁置換基である。
【0033】
本発明の1つの態様において、主に平面状の多環式分子系(Cor)は、以下の構造式のペリレンであってもよい。
【化7】
【0034】
そのうち、Pは極化ユニットであり、Iは高耐圧絶縁置換基である。
【0035】
本発明はさらに、以下の一般的な分子構造式を有するエネルギー蓄積分子材料を含む。
【化8】
【0036】
D部分(D−moiety)は、π−π相互作用によって柱状超分子スタックを形成する極化ユニットであり、Iは高耐圧絶縁置換基であり、mは1,2,3,4,5,6,7または8である。したがって、エネルギー蓄積分子材料は、異なる(様々な)機能を実行する2つの成分を含む。D部分は、超分子を形成する能力をエネルギー蓄積分子材料に与える。次に、超分子は、結晶誘電体層の結晶構造を形成することを可能にする。また、D部分は、高い誘電率を有する分子材料を提供するために使用される。金属伝導性を有する分子、モノマーおよびポリマーの双極子極化、イオン極化、および超電子極化などのいくつかのタイプの極化がある。列挙されたタイプの極化を有する全てのD部分は、本発明の態様において使用することができる。絶縁置換基(I)は、誘電体結晶層における超分子間の電気的絶縁を提供し、エネルギー蓄積分子材料の高い耐圧を提供する。
【0037】
本発明の1つの態様において、D部分は、表7に示す構造64〜70の導電性オリゴマーを含み、X=2,3,4,5,6,7,8,9,10,11または12である。
表7.導電性オリゴマーを含むD部分の例
【表7】
【0038】
本発明の別の態様において、D部分は、ドープされたオリゴアニリンおよびp‐オリゴ‐フェニレンを含む組から選択されることができる。本発明のさらに別の実施形態において、アニリンのフェニル環上にSO基またはCOO基を有する自己ドープされたオリゴアニリンである。本発明のさらに別の実施形態では、ドープされたオリゴアニリンは、酸化状態でオリゴアニリンと混合されたアルキル‐SOH酸またはアルキル‐COOHを含む組から選択される酸化合物によって混合ドープされる。本発明の一実施形態では、高耐圧絶縁置換基(I)の少なくとも1つは、‐(CH‐CH、‐CH((CHCH)(n=1….50)、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、分枝アルキル、分枝アリール、およびこれらの任意の組合せから選択され、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、I‐ブチル基およびt‐ブチル基から選択され、アリール基は、フェニル、ベンジルおよびナフチル基から選択される。本発明の別の実施形態では、エネルギー蓄積分子材料は、極化ユニット(D部分)を高耐圧絶縁置換基と連結する、表8に示す構造71〜80の少なくとも1つのリンカーユニットをさらに含む。
表8.リンカーユニットの例
【表8】
【0039】
本開示のさらに別の態様において、エネルギー蓄積分子材料は、D部分としてのペリレンを含み、高耐圧絶縁置換基(I)は、リンカーユニット(L)によってペリレン構造のベイ位置に連結されてもよく、ただし、sが0,1,2,3,4,5および6に等しい。
【化9】
【0040】
本発明のさらに別の態様において、エネルギー蓄積分子材料は、D部分としてのペリレンを含み、高耐圧絶縁置換基(I)は、リンカーユニット(L)によってペリレン構造の頂点位置に連結されてもよく、ただし、sが0,1,2,3,4,5および6に等しい。
【化10】
【0041】
本発明の1つの態様において、エネルギー蓄積分子材料は、以下の一般構造式を有することができ、mは1である。
【化11】
【0042】
本発明の関連する態様によれば、エネルギー蓄積分子材料は、以下の一般構造式を有することができ、mは2である。
【化12】
【0043】
本発明の態様は、開示されたエネルギー蓄積分子材料を含む結晶誘電体層を含む。このようなエネルギー蓄積分子材料は、適切な溶媒に溶解すると、分子がシステムの運動単位を構成する超分子錯体に凝集するコロイド系(リオトロピック液晶)を形成する。このリオトロピック液晶相は、本質的にシステムの秩序状態の前駆体であり、超分子錯体のその後の整列および溶媒の除去の期間に結晶誘電体層を形成する。
【0044】
限定ではなく一例として、超分子錯体を有するコロイド系から結晶誘電体層を作製する方法は、以下の工程を含むことができる:
‐コロイド系の基材への塗布。コロイド系は、典型的には、チキソトロピー特性(thixotropic properties)を有し、これは、予め設定された温度およびある濃度の分散相を維持することによって提供される。
‐機械的要因を利用して、または任意の他の手段、例えば追加の照明、磁場または光学場(例えば、コヒーレント光起電力効果)の有無にかかわらず、通常または高温で外部の電場を印加することによって、外部配向を行う。外部配向の程度は、コロイド系の運動単位に必要な配向を与え、結晶誘電体層の結晶格子の基部として機能する構造を形成するのに十分でなければならない。そして
‐溶媒を除去して最終的な結晶誘電体層構造を形成するために乾燥する。
【0045】
得られた結晶誘電体層において、主に平面状の多環式分子系の分子面は互いに平行であり、エネルギー蓄積分子材料は少なくとも一部で三次元結晶構造を形成する。製造技術の最適化は、単結晶誘電体層の形成を可能にすることができる。
【0046】
図1に示すように、本発明の態様は、第1の電極102、第2の電極104、および前記第1および第2の電極の間に配置された結晶誘電体層106を含むコンデンサ100を含む。結晶誘電体層106は、以下の一般的な分子構造式を有する開示されたエネルギー蓄積分子材料を含む。
【化13】
または本明細書で示された変形、あるいは以下の一般的な分子構造式を有してもよい。
【化14】
または本明細書で示された変形のいずれかを含む。
【0047】
このような材料は、約100〜約1,000,000の誘電率κおよび約0.01V/m〜約2.0V/nmの破壊電界Ebdによって特徴付けられる。
【0048】
電極は、任意の適切な導電性材料、例えば、アルミニウム(Al)または銅(Cu)のような金属で作成されることができる。いくつかの実施例では、一方または両方の電極は発泡アルミニウムのような発泡金属で作成されることができる。電極102および104は、平坦で平面であり、互いに平行に配置されてもよい。あるいは、電極は、平坦で平行であってもよいが、必ずしも平面でなくてもよい。例えば、コイル(coiled)、巻回(rolled)、曲げ、折り畳み、または他の形で形成してコンデンサの全体的な形状因子を低減してもよい。また、電極が非平坦、非平面、または非平行、またはこれらの2つ以上の何らかの組合せであることも可能である。限定ではなく一例として、電極102、104間の間隔dは、結晶誘電体層106の厚さに相当し、約1μm〜約10000μmの範囲であってもよい。上記の式(2)に示すように、電極102、103間の最大電圧Vbdは、破壊電界と電極間隔dとの積に近似することができる。例えば、Ebd = 0.1V/nmであり、間隔dが10000ミクロン(100000nm)である場合、最大電圧Vbdは100000ボルトである。
【0049】
電極は、互いに同じ形状、同じ寸法、および同じ面積Aを有することができる。限定ではなく一例として、各電極102および104の面積Aは、約0.01mから約1000mの範囲にあってもよい。限定ではなく一例として、巻回のコンデンサの場合、例えば長さが1000mおよび幅が1mまでの電極は、磁気テープまたは写真フィルムの製造に使用されるものと同様のロールツーロール(roll−to−roll)プロセスで製造可能である。
【0050】
これらの範囲は限定的ではない。電極間隔dおよび面積Aの他の範囲は、本発明の態様の範囲内である。
【0051】
間隔dが、電極の特性線形寸法(例えば、長さおよび/または幅)と比べて小さい場合、コンデンサ100の静電容量Cは、次式によって近似されることができる。
C = κεA/d (3)
ここで、εは自由空間の誘電率(8.85×10−12クーロン /(ニュートン・メートル))であり、κは結晶誘電体層106の誘電率である。コンデンサ100のエネルギー蓄積容量Uは以下に近似されることができる。
U = 1/2 CVbd (4)
式(2)および(3)を用いて以下のように書き直すことができる。
U = 1/2 κεAEbd (5)
【0052】
エネルギー蓄積容量Uは、誘電率κ、面積Aおよび破壊電界Ebdによって決定される。適切な設計によって、コンデンサまたはコンデンサバンクは、任意の所望のエネルギー蓄積容量Uを有するように設計されてもよい。限定ではなく一例として、前記範囲にある誘電率κ、電極面積A、及び破壊電界Ebdを与えると、本発明の態様によるコンデンサは、約500ジュールから約2×1016ジュールの範囲のエネルギー蓄積容量Uを有することができる。
【0053】
例えば約100〜約1000000の誘電率κと、例えば約0.1〜0.5V/nmの範囲の一定の破壊電界Ebdの場合、本明細書に記載のタイプのコンデンサは、単位質量当たりの比エネルギー容量が約10W・h/kgから約100000W・h/kgまでの範囲にあるが、実施はそれに限定されない。
【0054】
本発明の態様がより容易に理解され得るために、本発明を説明することを意図した以下の実施例を参照するが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
例1
この例は、一般構造式Iで表される、構造式6および35(表1および5)で表される断片を含むポルフィリン‐(フェニル‐ペリレンジイミド)‐化合物(TPP‐PDI)の合成方法を記載する。
【化15】

構造式I
【0055】
前記方法は、いくつかのステップを含む。
第1のステップでは、一般構造式81で表される1,7‐ジブロモペリレン‐3,4:9,10‐テトラカルボキシジアンヒドリドの合成を行った。
【化16】
構造式81
【0056】
このために、3,4:9,10‐ペリレンテトラカルボン酸二無水物(28.52g、72.7mmol)を420mlの濃硫酸に添加し、55℃で24時間撹拌した。ヨウ素(0.685g、2.70mmol)を反応混合物に加え、さらに5時間撹拌した。臭素(8.3ml、162mmol)を反応フラスコに1時間かけて滴下し、85℃で24時間撹拌した。過剰の臭素を次に窒素ガスNで置換した。冷却した混合物に水(66ml)を滴下し、沈殿物を濾別した。粗生成物を220mlの86%のHSOで、続いて水で洗浄し、この手順を2回繰り返して、粗生成物(32.32g、81%)を得た。 この生成物を精製せずにさらに使用した。MS:549.0(計算値:550.11)。
【0057】
第2のステップでは、一般式82で表される1,7‐(3’,5’‐ジ‐t‐ブチルフェノキシ)ペリレン‐3,4:9,10‐テトラカルボキシジアンヒドリド(PDA)の合成を行った。
【化17】
構造式82
【0058】
このために、1,7‐ジブロモペリレン‐3,4:9,10‐テトラカルボキシジアンヒドリド(0.89g、1.61mmol)、3,5‐ジ‐tert‐ブチルフェノール(1.0g、4.85mmol)およびCsCO(1.1g、3.38mmol)を、マグネチックスターラーバー、空気凝縮器およびアルゴン出口を備えた二口フラスコに入れた。次にDMF(15mL)を加え、得られた懸濁液を1.5時間激しく攪拌しながら還流した。最初は、赤いサスペンションが深い紫色に変わった。反応混合物を室温に冷却し、酢酸(10mL)を添加した。生成した沈殿物を室温で一晩撹拌し、濾過し、氷冷酢酸(40mL)および熱MeOH(40mL)で洗浄し、60℃で6時間真空乾燥して純粋な生成物1.2g(87%)を得た。MS:799.9(計算値:800.3)。 H NMR(CDCl)δ:9.69(d,J = 8.4Hz,2H),8.68(d,J = 8.4Hz,2H),8.37(s,2H),7.42(t,J = 1.7,2H),7.03(d,J = 1.7,4H),1.35(s,36H)。
【0059】
第3のステップでは、一般構造式83で表される、N‐(2‐エチルヘキシル)‐1,7‐(3’,5’‐ジ‐t‐ブチルフェノキシ)ペリレン‐3,4‐ジカルボキシ無水物‐9,10‐ジカルボキシイミド(PIA)の合成を実施した。
【化18】
構造式83
【0060】
このために、1,7‐(3’5’‐ジ‐t‐ブチルフェノキシ)ペリレン‐3,4:9,10‐テトラカルボキシジアンヒドリド(PDA)(0.85g、1.06mmol)、イミダゾール(0.85g、12.4mmol)を、空気スターラーバー、空気凝縮器、アルゴン導入管、および滴下漏斗を備えた三口フラスコに入れた。クロロホルム(CaHから新たに蒸留した、250mL)を添加した。得られた懸濁液を激しく攪拌しながら1時間還流させ、クロロホルム(8mL)中の2‐エチルヘキシルアミン(0.136g、1.06mmol)の溶液を1時間かけて滴下し、続いてCFCOOHを5滴加えた。反応混合物を3日間還流し、冷却し、減圧下で溶媒を除去した。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液CHCl対ヘキサン4:1)で精製して、赤色固体物質として分析的に純粋な一無水物(PIA)を生成した(収量:0.24g、24%)。 M.S.:911.50(計算値911.48)。H NMR(CDCl)δ:9.70(d,J = 2.6Hz,1H),9.68(d,J = 2.6Hz,1H),8.64(d,J = 5.03Hz,1H),8.62(d,J = 5.03,1H),8.36(s,1H),8.33(s,1H),7.38(t,J = 1.7Hz,1H),7.37(t,J = 1.7Hz,1H),7.027(d,J = 1.7 2H),7.02(d,J = 1.7Hz,2H),4.10(m,2H),1.98(m,1H),1.34(m,6H),1.21(s,18H),1.20(s,18 H),0.91(m,8H)。
【0061】
最後のステップでは、一般構造式Iで表されるポルフィリン‐(フェニル‐ペリレンジイミド)‐化合物(TPP‐PDI)の最終的な合成を行った。このために、5,10,15,20‐テトラキス(p‐アミノフェニル)ポルフィリン(50mg、0.074mmol)、PIA(334mg、0.36mmol)およびイミダゾール(3.0g)を10mlのピリジンに添加する。反応混合物を撹拌しながら2日間乾燥窒素下で加熱還流した。反応は遅く(MALDIでモニターした)、追加のPIA(252mg、0.28mmol)を加えた。反応混合物をさらに2日間還流し、次いでクロロホルムで希釈し、2N塩酸で1回、水で2回洗浄し、無水炭酸カリウムで乾燥させ、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。残渣をクロロホルムを用いたシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーに付して、TPP‐PDI(130mg、40%)を得る。質量スペクトル:4245(計算値4245)。H NMRδ(CDCL)9.8(ブロード,4H),9.7(ブロード,4H),8.8(ブロード,4H),8.6(ブロード,4H),8.5(ブロード,4H),8.2(ブロード,4H),7.7(ブロード,4H),7.5(ブロード,4H),7.47(ブロード,8H),7.39(ブロード,8H),7.15(ブロード,24H),4.1(m,8H),2.7(s,12H),2.7(ブロード,24H),2.0(ブロード,4H),1.3(ブロード,24H),1.4(ブロード,144H),0.8(ブロード,32H)。TPP‐PDIの合成は、既知の文献の手順に従って行われている(van der Boom,T.、Hayes,R.T.、Zhao,Y、Bushard,P.J.、Weiss,E.A.、Wasielewski,M. R. J. Am、Chem. Soc.、2002,124,9582;M.J.Ahrens、L.E. Sinks、B. Rybtchinski、W. Liu、B.A. Jones、J.M.Giaimo、A.V. Gusev、A.J. Goshe、D.M. Tiede、M.R. Wasielewski、J. Am、Chem. Soc.、2004,126,8284を参照)。
【0062】
上記は本発明の好ましい実施形態の完全な説明であるが、様々な代替、変更および等価物を使用することが可能である。したがって、本発明の範囲は、上記の説明に沿って決定されるではなく、代わりに、均等物の全範囲とともに添付の特許請求の範囲を参照して決定されるべきである。本明細書に記載された任意の特徴は、好ましいか否かにかかわらず、本明細書に記載された他の任意の特徴と組み合わせることができる。以下の特許請求の範囲において、不定冠詞「A」または「An」は、他に明示的に述べられている場合を除いて、その記事に続く1つまたは複数の項目の量を指す。本明細書で使用されるように、代替物の要素のリストでは、包括的意味として「または」という用語が使用され、例えば、「XまたはY」はX単独、Y単独またはXとYの両方を含むと理解されるべきである。選択肢としてリストアップされた2つ以上の要素を組み合わせることができる。添付の特許請求の範囲は、「手段」の句を使用して所与の請求項に明示的に記載されていない限り、手段+機能の制限を含むものとして解釈されるべきではない。
図1