(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記辺部領域は、前記第3コーナ面及び前記第4コーナ面と、前記第3面及び前記第4面との間に位置するとともに、前記第3コーナ面及び前記第4コーナ面から離れるにしたがって下方に向かって傾斜する、第5面を更に有している、請求項1〜7のいずれか1つに記載の切削インサート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一実施形態に係る切削インサート(以下、インサートともいう)及びこれを備えた切削工具について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本開示のインサート及び切削工具は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率などを忠実に表したものではない。これらの点は、後述する切削加工物の製造方法においても同様である。
【0008】
<インサート>
まず、一実施形態のインサート1について図面を用いて説明する。本実施形態のインサート1は、外径加工等に用いられる刃先交換式の旋削工具におけるインサートとして好適に用いられる。
【0009】
本実施形態のインサート1は、
図1などに示すように、上面3、下面5及び側面7を有している。上面3は、少なくとも一部がすくい面として機能する面である。上面3は、
図2に示すように、略多角形状であり、少なくとも一つの角部3a及び複数の辺部3bを有している。本実施形態においては、上面3は略四角形状であり、4つの角部と4つの辺部を有している。4つの角部は、2つの鋭角の角部及び2つの鈍角の角部によって構成されている。
図1〜
図4においては、2つの鋭角の角部が「角部3a」であり、この角部3aから延びる辺部が「辺部3b」である。
【0010】
なお、本実施形態での上面3における角部3aは、
図2などに図示しているように、それぞれ厳密な角となっておらず、丸みを帯びた形状となっている。また、上面3における辺部3bは、厳密に直線形状に限定されるものではなく、曲線形状となっている領域を有していてもよい。
【0011】
下面5は、上面3とは反対側に位置する面であり、本実施形態のインサート1をホルダに取り付ける際にポケットへの着座面として機能する。本実施形態における下面5は、上面3と同様に略多角形状、具体的には略四角形状である。本実施形態における下面5は上面3と同じ形状であり、上面視した場合に上面3と下面5とが重なり合っている。したがって、
図3及び
図4に示すように、側面7は、上面3及び下面5に直交している。なお、下面5は上面3よりも一回り小さくなるように構成されていてもよい。この場合には、下面5は上面3に対して相似形となるように構成され、側面7は、上面3から離れるにしたがって後述する中心軸O1に向かって傾斜している。
【0012】
なお、上面3及び下面5の形状としては、上記の形態に限定されるものではない。本実施形態のインサート1においては上面視した場合の上面3の形状が略四角形であったが、例えば、上面視した場合の上面3の形状が三角形、五角形又は六角形のような多角形状であってもよい。また、上面3の形状が四角形の場合においては、上面3の形状が長方形、平行四辺形、菱形又は正方形であってもよい。
【0013】
側面7は、少なくとも一部が逃げ面として機能する面である。上面3に隣接する面である。本実施形態における側面7は、
図3及び
図4に示すように、上面3及び下面5の間に位置しており、上面3及び下面5にそれぞれ接続されている。辺部3bは、上面3および側面7の稜部にあたる。なお、
図1に示すインサート1における側面7は、4つの平らな領域7bと、それぞれ平らな領域同士の間(角部3aの下方)に位置する4つの湾曲した領域7aと、を有している。
【0014】
インサート1の材質としては、例えば、超硬合金又はサーメットなどが挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、WC−Co、WC−TiC−Co又はWC−TiC−TaC−Coなどが挙げられる。WC−Coは、炭化タングステン(WC)にコバルト(Co)の粉末を加えて焼結して生成される。WC−TiC−Coは、WC−Coに炭化チタン(TiC)を添加したものである。WC−TiC−TaC−Coは、WC−TiC−Coに炭化タンタル(TaC)を添加したものである。
【0015】
また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料である。具体的には、サーメットとして、炭化チタン(TiC)又は窒化チタン(TiN)などのチタン化合物を主成分としたものが挙げられる。
【0016】
インサート1の表面は、化学蒸着(CVD)法、又は物理蒸着(PVD)法を用いて被膜でコーティングされていてもよい。被膜の組成としては、例えば、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)又はアルミナ(Al
2O
3)などが挙げられる。
【0017】
図1及び
図2に示すように、インサート1は、貫通孔9を有している。貫通孔9は、上面3の中心から下面5の中心まで貫通している。貫通孔9は、インサート1を切削工具のホルダに固定するために設けられている。具体的には、例えば、インサート1を切削工具のホルダにネジ止め固定する際にネジを挿入するために貫通孔9は設けられる。インサート1をホルダに固定する方法としては、上記のネジ止め固定には限定されない。例えば、クランパー又はレバーでインサート1をホルダに固定する際にも貫通孔9が利用され、この場合、貫通孔9は下面9まで貫通しなくてもよい。
【0018】
貫通孔9の中心軸O1は、上面3の中心及び下面5の中心を通る仮想直線と一致している。また、貫通孔9の中心軸O1の方向、言い換えれば、貫通孔9の貫通方向は、上面3及び下面5に対して直交している。
【0019】
なお、貫通孔9は、上面3の中心から下面5の中心にかけて位置している構成に限定されるものではない。例えば、貫通孔9は、側面7における互いに向かい合って位置する平らな領域7b間に位置していてもよい。
【0020】
本実施形態のインサート1においては、上面視した場合の上面3の最大幅が、例えば、6〜25mmである。ここで、上面視における上面3の最大幅とは、
図2によれば、角部3a間の距離のことである。また、下面5から上面3までの高さは、例えば、1〜10mmである。ここで、下面5から上面3までの高さとは、上面3の上端と下面5の下端との間における中心軸O1に平行な方向での長さを意味している。
【0021】
上面3と側面7とが交わる部分である稜部のうち少なくとも一部は、切刃31として被削材の切削加工に用いられる。すなわち、切刃31は、角部3a及び、角部3aに接続された辺部3bの少なくとも一部である。なお、辺部3bの全体が切刃31として用いられてもよい。
【0022】
切刃31は、すなわち、上面3と側面7とが交わる稜部は、鋭利に尖っていなくてもよい。切刃31が鋭利に尖っているときには、切削性が増加する。一方、切刃31(上面3と側面7とが交わる稜部)は、わずかに曲面形状となっていてもよい。切刃31が曲面形状である場合には、切刃31の耐久性が高まる。なお、切刃31を曲面形状にするためには、例えば周知のホーニング加工を切刃31の配置箇所に施せばよい。
【0023】
本実施形態における上面3は、例えば
図5及び
図6に示すように、角部3aから上面における中央部に向かって延びるコーナ部領域10を有している。ここで、中央部とは、例えば、中心軸O1とみなしてよい。コーナ部領域10は、角部3aの側から順に、第1コーナ面11、第2コーナ面12、第3コーナ面13及び第4コーナ面14を有している。
【0024】
次に、コーナ部領域10について、
図8を用いて説明する。
図8は、
図7におけるC1−C1断面図である。なお、
図8は角部3aの二等分線及び貫通孔9の中心軸O1を含む断面となっている。第1コーナ面11は、角部3aから離れるにしたがって下方に向かって傾斜した面である。本実施形態において、第1コーナ面11は、C1−C1断面においては直線形状で示される。一方、特に図示しないが、第1コーナ面11は、角部3aの二等分線に直交する断面において凹状に湾曲する形状となっている。また、インサート1において、第1コーナ面11は、切削加工時に切屑が流れるすくい面として機能する。
【0025】
第2コーナ面12は、第1コーナ面11よりも中央部側に位置しており、第1コーナ面11から離れるにしたがって上方に向かって傾斜した面である。本実施形態において、第2コーナ面12は、主に切屑をカールさせる面として機能する。また、本実施形態において、第2コーナ面12は平らな面である。すなわち、第2コーナ面12は、C1−C1断面において直線形状で示されるとともに、角部3aの二等分線に直交する断面においても直線形状で示される。第2コーナ面12は必ずしも第1コーナ面11に連続している必要はない。すなわち、第1コーナ面11と第2コーナ面12との間に、他の面が位置していてもよい。例えば、第1コーナ面11と第2コーナ面12との間に下面5に対して平行であって平坦な面領域が位置していてもよい。
【0026】
第3コーナ面13は、第2コーナ面12よりも中央部側に位置しており、第2コーナ面12から離れるにしたがって上方に向かって傾斜した面である。本実施形態において、第3コーナ面13は、第2コーナ面12と第4コーナ面14との間に空間を確保するためのものである。また、本実施形態において、第3コーナ面13は平らな面である。すなわち、第3コーナ面13は、C1−C1断面において直線形状で示されるとともに、角部3aの二等分線に直交する断面においても直線形状で示される。第3コーナ面13は必ずしも第2コーナ面12に連続している必要はない。すなわち、第2コーナ面12と第3コーナ面13との間に、他の面が位置していてもよい。例えば、第2コーナ面12と第3コーナ面13との間に2つの面を接続する曲面領域が位置していてもよい。
【0027】
第4コーナ面14は、第3コーナ面13よりも中央部側に位置しており、第3コーナ面13から離れるにしたがって上方に向かって傾斜した面である。本実施形態において、第4コーナ面14も、主に切屑をカールさせる面として機能する。また、本実施形態において、第4コーナ面14は平らな面である。すなわち、第4コーナ面14は、C1−C1断面において直線形状で示されるとともに、角部3aの二等分線に直交する断面においても直線形状で示される。第4コーナ面14は必ずしも第3コーナ面13に連続している必要はない。すなわち、第3コーナ面13と第4コーナ面14との間に、他の面が位置していてもよい。例えば、第3コーナ面13と第4コーナ面14との間に2つの面を接続する曲面領域が位置していてもよい。
【0028】
なお、上記における「平らな面」とは、厳密に平坦な面形状である必要はない。例えば、上記における「平らな面」は、
図8に示すように角部3aに直交する断面において、曲率半径が5mm以上の緩やかな曲線で示される面形状であってもよく、また、0.5μm程度の算術平均表面粗さを有する面形状であってもよい。
【0029】
図8に、第1コーナ面11の傾斜角(第1傾斜角)θ11、第2コーナ面12の傾斜角(第2傾斜角)θ12、第3コーナ面13の傾斜角(第3傾斜角)θ13、第4コーナ面14の傾斜角(第4傾斜角)θ14を示している。本実施形態においては、第2傾斜角θ12が第3傾斜角θ13よりも大きく、第4傾斜角θ14が第2傾斜角θ12よりも大きい。ここで、第2傾斜角θ12が第3傾斜角θ13よりも大きいことから、第4傾斜角度θ14は、第2傾斜角θ12だけでなく第3傾斜角θ13よりも大きい。
【0030】
なお、各コーナ面11、12、13、14の傾斜角は、下面5が当接するようにインサート1を平面に載置した場合において、この平面に平行な仮想平面となす角度を傾斜角度としている。言い換えれば、下面5に平行な仮想平面となす角度を傾斜角度とすることができる。
図8に示す断面においては、該仮想平面が基準線Sとして示される。なお、本実施形態においては、上面3の中心と下面5の中心を通る仮想直線(貫通孔9の中心軸O1)に対して直交する線を基準線Sとしてもよい。
【0031】
上面3の角部3aのみを切刃31として用いる場合のような、切り込み量が小さく且つ送り量が小さい切削加工においては、切屑は幅が狭く且つ薄い形状となる。該形状の切屑は、一般的に変形し易く不安定になり易い。このような場合において切屑は、すくい面として機能する第1コーナ面11を通過して第2コーナ面12に向かう。ここで、本実施形態においては、第3コーナ面13よりも角部3aに近い第2コーナ面12の第2傾斜角θ12が第3コーナ面13の第3傾斜角θ13よりも大きい。そのため、変形し易く不安定になり易い切屑を、第2コーナ面12において安定してカールさせることができる。
【0032】
特に、第2コーナ面12が平らな面であるときには、上記の切削加工において、切屑を安定して第2コーナ面12に接触させることができる。
【0033】
また、切り込み量が小さい場合において、送り量が大きくなると切屑の厚みが厚くなるため、第2コーナ面12及び第3コーナ面13に加わる負荷が大きくなる。ここで、本実施形態においては、第2コーナ面12に続いて第3コーナ面13が上方に向かって傾斜している。そのため、コーナ部領域10のうち第2コーナ面12及び第3コーナ面13によって構成される部分の強度が高いため、耐久性の良好なインサート1となる。
【0034】
本実施形態においては、第4傾斜角θ14が第2傾斜角θ12及び第3傾斜角θ13よりも大きい。このことから、切り込み量が小さく送り量が大きな切削条件下において、切屑が第4コーナ面14を乗り越えてしまう可能性を低減でき、第4コーナ面14において切屑を安定してカールさせることができる。
【0035】
また、送り量が大きい切削加工においては、第4コーナ面14でカールする切屑のカール径が大きくなり易い。本実施形態においては、第2コーナ面12と第4コーナ面14との間に、傾斜角が第2傾斜角θ12及び第4傾斜角θ14よりも小さい第3コーナ面13が位置している。それゆえ、角部3aと第4コーナ面14との間のスペースを広く確保できる。その結果、切屑の詰まりを低減し、安定して切屑をカールさせることができる。
【0036】
また、第2コーナ面12の第2傾斜角θ12が第4コーナ面14の第4傾斜角θ14よりも小さいことから、切屑が仮に第2コーナ面12に接触した場合であっても、送り量が大きい切削加工においては、第2コーナ面12においてはカールされにくい。角部3aに近い第2コーナ面12においてカール径の大きな切屑が生じにくいことから、切屑の詰まりが生じにくい。
【0037】
以上の理由から、コーナ部領域10を有する本実施形態のインサート1では、切り込み量が小さい場合において、送り量が小さい切削加工及び送り量が大きい切削加工の両方で良好に被削材を切削することが可能である。
【0038】
なお、本実施形態において、上面視における、角部3aの二等分線に沿った方向における、各コーナ面の寸法L(各コーナ面の長さ)は、次のように設定してもよい。例えば、第1コーナ面11の寸法L11は、0.2〜0.35mmであり、第2コーナ面12の寸法L12は、0.2〜0.3mmであり、第3コーナ面13の寸法L13は、0.8〜1.1mmであり、第4コーナ面14の寸法L14は、0.2〜0.4mmである。また、このとき、第3コーナ面13の寸法L13は、他のコーナ面の寸法L11、L12、L14よりも大きくても良い。このような場合には、角部3aと第4コーナ面14との間のスペースを広く確保できる。その結果、切屑の詰まりを低減し、安定して切屑をカールさせることができる。
【0039】
さらに、本実施形態において、上面における、角部3aの二等分線に直交する方向における、各コーナ面の寸法W(各コーナ面の幅)は、次のように設定してもよい。例えば、第1コーナ面11の寸法W11は、0.2〜0.35mmであり、第2コーナ面12の寸法W12は、0.2〜0.5mmであり、第3コーナ面13の寸法W13は、0.3〜0.7mmであり、第4コーナ面14の寸法W14は、0.3〜0.6mmである。また、このとき、第2コーナ面12の寸法W12は、他のコーナ面の寸法W11、W13、W14よりも大きくても良い。ここで、各コーナ面の寸法Wが角部3aの二等分線に沿って変化する場合には、各コーナ面の寸法Wとしては、角部3aの二等分線に直交する方向における各コーナ面の寸法のうち最大の値を寸法Wとすればよい。本実施形態において、角部3aの二等分線に直交する方向における第2コーナ面12の寸法W12は、角部3aの側において最も大きく、中央部の側において最も小さい。
【0040】
さらに、
図6に示すように、第3コーナ面13の寸法W13は、上面3の中央部に向かうにつれて増加するとともに、第4コーナ面14の寸法W14は、第3コーナ面13から離れるにしたがって減少してもよい。このような場合には、下面5からの高さが相対的に高い第4コーナ面14が、辺部3bに近づきすぎて、生成された切屑が乗り上げてしまう可能性を低減することができる。それゆえ、コーナ部領域10及び辺部領域20によって切屑を安定してカールさせることができる。
【0041】
また、本実施形態における上面3は、
図5及び
図6に示すように、辺部3bに沿って位置する辺部領域20を有していてもよい。このとき、辺部領域20は、辺部3bの側から順に、第1面21、第2面22、第3面23及び第4面24を有している。第1面21は、第1コーナ面11に向かって延びている。第2面22は、第2コーナ面12に向かって延びている。第4面24は、第4コーナ面14に向かって延びている。第3面23は、第2面22と第4面24との間に位置している。なお、辺部領域20は、コーナ部領域10の両脇に位置していてもよい。すなわち、上面3は、一対の辺部領域20を有していてもよい。
【0042】
上面3のうち、辺部領域20、すなわち、第1面21、第2面22、第3面23及び第4面24によって構成される領域は、辺部3bから上面3における中央部に向かって位置している。第1面21は、辺部3bから離れるにしたがって下方に向かって傾斜した面である。本実施形態において第1面21は、切削加工時に切屑が流れるすくい面として機能する。
【0043】
第2面22は、第1面21よりも中央部側に位置しており、辺部3bから、言い換えれば、第1面21から離れるにしたがって上方に向かって傾斜した面である。本実施形態において、第2面22は、主に切屑をカールさせる面として機能する。また、本実施形態において、第2面22は平らな面である。すなわち、第2面22は、辺部3bに直交する断面において直線形状で示され、且つ、辺部3bに平行な断面においても直線形状で示される。第2面22は必ずしも第1面21に連続している必要はない。すなわち、第1面21と第2面22との間に、他の面が位置していてもよい。本実施形態においては、
図10に示すように、例えば、第1面21と第2面22との間に平坦な面領域が位置していてもよい。このような構成によれば、切屑が勢い良く進行して第2面22と強く接触することを低減することができる。
【0044】
第3面23は、第2面22よりも中央部側に位置した平らな面である。本実施形態において、第3面23は、第2面22と第4面24との間に空間を確保するためのものである。
図10及び
図11に、第3面23の傾斜角(第7傾斜角)θ23を示している。本実施形態において、第3面23は、基準線Sに対して必ずしも傾斜している必要はなく、基準線S(仮想平面)に対して平行であってもよい。すなわち、第7傾斜角θ23は0°であってもよい。また、第3面23は必ずしも第2面22に連続している必要はない。すなわち、第2面22と第3面23との間に、他の面が位置していてもよい。例えば、第2面22と第3面23との間に2つの面を接続する曲面領域が位置していてもよい。
【0045】
第4面24は、第3面23よりも中央部側に位置しており、辺部3bから、言い換えれば、第3面23から離れるにしたがって上方に向かって傾斜した面である。本実施形態において、第4面24は、主に切屑をカールさせる面として機能する。また、本実施形態において、第4面24は平らな面である。すなわち、第4面24は、辺部3bに直交する断面において直線形状で示され、且つ、辺部3bに平行な断面においても直線形状で示される。第4面24は必ずしも第3面23に連続している必要はない。すなわち、第3面23と第4面24との間に、他の面が位置していてもよい。例えば、第3面23と第4面24との間に2つの面を接続する曲面領域が位置していてもよい。
【0046】
図11に、第1面21の傾斜角(第5傾斜角)θ21、第2面22の傾斜角(第6傾斜角)θ22、第3面23の傾斜角(第7傾斜角)θ23、第4面24の傾斜角(第8傾斜角)θ24を示している。
【0047】
本実施形態においては、
図11に示すように第1面21、第2面22、第3面23及び第4面24を含む断面において、第6傾斜角θ22が第7傾斜角θ23よりも大きく、第8傾斜角θ24が第6傾斜角θ22よりも大きい。
【0048】
なお
図9は、
図7に示すように第1面21及び第2面22を含み、辺部3bに対して直交する断面である。
図10は、
図7に示すように第1面21、第2面22及び第3面23を含み、辺部3bに対して直交する断面である。
図11は、
図7に示すように第1面21、第2面22、第3面23及び第4面24を含み、辺部3bに対して直交する断面である。
図9〜
図11は、互いに平行な断面である。
【0049】
上面3における角部3a及び辺部3bを切刃31として用いる場合のような、切り込み量が大きく且つ送り量が小さい切削加工においては、切屑は幅が広く且つ薄い形状となる。該形状の切屑は、一般的に変形し易く不安定になり易い。このような場合において切屑は、第1面21を通過して第2面22に向かう。ここで、本実施形態においては、第3面23よりも辺部3bに近い第2面22の第6傾斜角θ22が第3面23の第7傾斜角θ23よりも大きくてもよい。このような関係を満たすときには、変形しやすく不安定になり易い切屑を、第2面22において安定してカールさせることができる。
【0050】
特に、第2面22が平らな面であるときには、上記の切削加工において、切屑を安定して第2面22に接触させることができる。
【0051】
そして、送り量が大きくなると、切屑の厚みが厚くなる。本実施形態においては、第8傾斜角θ24が第6傾斜角θ22及び第7傾斜角θ23よりも大きくてもよい。このような関係を満たすときには、送り量が大きい切削条件下においても、切屑が第4面24に乗り越えてしまう可能性を低減できる。その結果、第4面24において切屑を安定してカールさせることができる。
【0052】
特に、第4面24が平らな面であるときには、上記の切削加工において、切屑を安定して第4面24に接触させることができる。
【0053】
また、送り量が大きい切削加工においては、第4面24でカールする切屑のカール径が大きくなり易い。本実施形態においては、第2面22と第4面24との間に、傾斜角が第6傾斜角θ22及び第8傾斜角θ24よりも小さい第3面23が位置している。それゆえ、辺部3bと第4面24との間のスペースを広く確保できる。その結果、切屑の詰まりを低減し、安定して切屑をカールさせることができる。
【0054】
また、第2面22の傾斜角θ22が第4面24の傾斜角θ24よりも小さいときには、切屑が第2面22に接触した場合であっても、第2面22においてはカールされにくい。辺部3bに近い第2面22においてカール径の大きな切屑が生じにくいときには、切屑の詰まりが生じにくい。
【0055】
以上の理由から、本実施形態のインサート1が上記辺部領域20を有する場合には、切り込み量が大きい場合においても、送り量が小さい切削加工及び送り量が大きい切削加工の両方で良好に被削材を切削することが可能である。また、本実施形態のインサート1において、上記辺部領域20がコーナ部領域10の両脇に一対で位置する場合には、切り込み量が小さく送り量が大きな切削条件下において、切屑をより一層安定して排出することができる。
【0056】
なお、本実施形態において、上面視における、辺部3bに直交する方向における、各面の寸法W(各面の幅)は、次のように設定してもよい。例えば、第1面21の寸法W21は、0.2〜0.4mmであり、第2面22の寸法W22は、0.2〜0.3mmであり、第3面23の寸法W23は、0.1〜0.2mmであり、第4面24の寸法W24は、0.1〜0.3mmである。ここで、各面の寸法Wが角部3aの二等分線に沿って変化する場合には、各コーナ面の寸法Wとしては、辺部3bに直交する方向における各面の寸法のうち最大の値を寸法Wとすればよい。
【0057】
なお、切り込み量が大きい場合と比較して切り込み量が小さい場合には、切屑の幅が狭くなるため、切屑の挙動がより不安定になり易い。本実施形態においては、第2コーナ面12の上端が第2面22の上端よりも下方に位置していてもよい。このような構成によれば、切り込み量が小さく送り量が大きい場合において、切屑が第2コーナ面12に接触しにくく第2面22に安定して接触させることができる。従って、切り込み量が小さく送り量が大きい場合において、安定して切屑を第3コーナ面13、第4コーナ面14へと流れさせることができる。
【0058】
ここで、第2コーナ面12の上端とは、第2コーナ面12のうち、上面3の中心及び下面5の中心を通る仮想直線(貫通孔9の中心軸O1)に平行な方向における、最も下面5から離れて位置する部分である。同様に、第2面22の上端とは、第2面22のうち、上面3の中心及び下面5の中心を通る仮想直線(貫通孔9の中心軸O1)に平行な方向における、最も下面5から離れて位置する部分である。なお、本実施形態においては、第2コーナ面12及び第2面22は、いずれも中央部に向かうにつれて上方に傾斜した傾斜面である。したがって、第2コーナ面12の上端及び第2面22の上端は、第2コーナ面12の内周端部及び第2面22の内周端部とそれぞれ言い換えることができる。
【0059】
また、本実施形態においては、第3コーナ面13の上端が第3面23の上端よりも上方に位置していてもよい。このような構成によれば、第3コーナ面13と第3面23との間に別途面を設けることができるスペースを確保することができる。それゆえ、該別途設けることが可能な面によって、切り込み量が中程度であり且つ送り量が中程度である場合に生じる切屑を安定してカールさせることができる。なお、第3コーナ面13の上端及び第3面23の上端は、上述した第2コーナ面12の上端及び第2面22の上端と同様に定義することができる。
【0060】
さらに、本実施形態において、第3面23が、上面3の辺部3bの内側に位置している一方で、第3コーナ面13は、上面3の角部3aの内側に位置している。そのため、例えば、切り込み量且つ送り量が大きい場合などにおいて、第3コーナ面13が位置する部分には、第3面23が位置する部分よりも大きな負荷が加わり易い。ここで、本実施形態においては、第3コーナ面13の第3傾斜角θ13が、第3面23の第7傾斜角θ23よりも大きくてもよい。このような関係を満たす場合には、第3コーナ面13が位置する部分の強度を第3面23が位置する部分よりも高めることができる。そのため、耐久性の良好なインサート1とすることができる。
【0061】
また、本実施形態において、第2コーナ面12の第2傾斜角θ12は、第2面22の第6傾斜角θ22よりも大きくてもよい。このような関係を満たす場合には、切り込み量が小さい場合においても、安定して切屑をカールさせる作用が高まる。
【0062】
さらに、本実施形態において、第1面21の第1傾斜角θ21、第2面22の第2傾斜角θ22、第4面24の第7傾斜角θ23は、辺部3bに沿って一定であってもよい。このような場合には、切り込み量の大きさに関わらず、切屑のカール作用を安定させることができる。
【0063】
またさらに、第2コーナ面12の第2傾斜角θ12と第4コーナ面14の第4傾斜角θ14の差は、第2面22の第6傾斜角θ22と第4面24の第8傾斜角θ24の差よりも小さくてもよい。このような関係を満たす場合には、第2コーナ面12と第4コーナ面14の間に位置する第3コーナ面13が角部3aから過度に遠ざかってしまう可能性を低減するとともに、コーナ部領域10における第2コーナ面12及び第4コーナ面14のカール作用を確保することができる。それゆえ、切り込み量が小さく送り量が大きい場合における切屑排出性が図れる。加えて、切り込み量及び送り量が大きい場合に生成する切屑が第4面24に乗り上げる可能性を低減できる。それゆえ、切り込み量及び送り量が大きい場合における切屑排出性が図れる。その結果、送り量が大きい場合において、切り込み量の大きさに関わらず、安定した切屑処理を発揮することができる。
【0064】
また、第2コーナ面12の傾斜角θ12は、第2面22の傾斜角θ22よりも大きくてもよい。このような関係を満たす場合には、第2コーナ面12の長さL12が相対的に短くなり、第3コーナ面3の長さL13を長く確保しやすい。それゆえ、切り込み量が小さく、送り量が大きい場合において、切屑が第3コーナ面13にスムーズに案内されやすくなる。
【0065】
そして、第3コーナ面13の傾斜角θ13は、第3面23の傾斜角θ23よりも大きく、且つ、第2面22の傾斜角θ22及び前記第4面24の傾斜角θ24よりも小さくてもよい。このような関係を満たす場合には、切り込み量が中程度であり且つ送り量が中程度である切削条件下において、切屑のカール作用が高まる。
【0066】
本実施形態においては、上述したように、下面5の形状と上面3の形状が同じであり、下面5と側面7とが交差する部分の少なくとも一部にも切刃が位置していてもよい。このような場合には、インサート1の上面3と下面5とを反転させた状態で、インサート1を切削加工に用いることができる。このとき、本実施形態のインサート1では、第4コーナ面14の上端の高さが、第4面24の上端の高さと同じである。そのため、上面3をポケットへの着座面として安定して機能させることができる。
【0067】
なお、第4コーナ面14の上端の高さが、第4面24の上端の高さと同じであるとは、両者の高さが厳密に同じである必要はなく、例えば、2%程度のズレがあってもよい。具体的には、第4コーナ面14の上端の高さを1とした場合に、第4面24の上端の高さが0.98〜1.02程度であればよい。ここで、第4コーナ面14の上端及び第4面24の上端は、上述した第2コーナ面12の上端及び第2面22の上端と同様に定義することができる。さらに、第4コーナ面14の上端の高さは、上面3の中心及び下面5の中心を通る仮想直線(貫通孔9の中心軸O1)に平行な方向における、下面5から第4コーナ面14の上端までの寸法である。同様に、第4面24の上端の高さは、上面3の中心及び下面5の中心を通る仮想直線(貫通孔9の中心軸O1)に平行な方向における、下面5から第4面24の上端までの寸法である。
【0068】
また、切り込み量が大きい切削加工と比較して切り込み量が小さい切削加工においては、切屑の幅が狭くなるため、切屑の挙動がより不安定になり易い。本実施形態においては、上面視において、第3コーナ面13の幅(第3コーナ面13の寸法W)が角部3aから離れるにしたがって広くなっていてもよい。このような構成によれば、切り込み量が中程度であり且つ送り量が中程度である切削加工において、カール機能を有する第3コーナ面13の側方に位置する領域が、より辺3bに近づく。それゆえ、該切削加工において生成する切屑を第3コーナ面13に安定して接触させることができ、切屑のカール作用が高まる。
【0069】
さらに、本実施形態においては、上面視において、第3コーナ面13の幅(第3コーナ面13の寸法W)が角部3aから離れるにしたがって広くなっている一方で、第4コーナ面14の幅(第4コーナ面14の寸法W)は、角部3aから離れるにしたがって狭くなっていてもよい。このような構成によれば、第4コーナ面14に隣接する第4面24における辺部3bに沿った方向での幅を確保することができる。そのため、切り込み量が大きく、送り量が大きい切削加工において切屑を第4面24で安定してカールさせることができる。
【0070】
また、本実施形態において、辺部領域20は、更に第5面25を有していてもよい。このとき、第5面25は、
図5、
図6及び
図10に示すように、第3コーナ面13及び第4コーナ面14と、第3面23及び第4面24との間に位置するとともに、第3コーナ面13及び第4コーナ面14から離れるにしたがって下方に向かって傾斜している。このような第5面25を有している場合には、切り込み量の大きさに関わらず、切屑を安定してカールさせる作用が高まる。
【0071】
また、本実施形態においては、切刃31は、側面視において、直線状であってもよい。このとき、切刃31の下面5からの高さは一定であってもよい。
【0072】
さらに、切刃31に直交する断面視において、第3面23は、下面5と平行であっても良いし、切刃31から離れるにしたがって下方に向かって傾斜していてもよいし、下方に向かって凸の曲線であってもよい。いずれの場合においても、第2面22と第4面24との間に切屑が流れるスペースを確保することができ、切屑の詰まりを低減することができる。
【0073】
また、本実施形態においては、上面3は、切刃31に沿って位置するランド部を更に有していてもよい。すなわち、角部3a及び辺部3bに沿って位置するランド部を更に有していてもよい。より具体的には、上面3において、角部3aと第1コーナ面11との間、及び辺部3bと第1面21との間に、ランド部が位置していてもよい。このような場合には、刃先強度をより高めることができ、より厳しい切削条件下でも優れた切削性能を発揮することができる。
【0074】
以上、一実施形態のインサート1について図面を用いて説明したが、本開示のインサートは、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲であって、特に詳述していない変形も含むものである。
【0075】
例えば、本実施形態においては、第1コーナ面11が凹曲面であり、第2コーナ面12、第3コーナ面13及び第4コーナ面14が平らな面である形態を例示したが、本開示のインサートはこれに限られない。すなわち、本開示のインサートにおける各コーナ面の形状は、コーナ部領域10を構成する各コーナ面の傾斜角が上述した関係を満たすものであれば、いずれの形状であってもよい。辺部領域20を構成する各面の形状も、同様である。
【0076】
<切削工具>
次に、一実施形態の切削工具101について図面を用いて説明する。
【0077】
本実施形態の切削工具101は、
図12に示すように、先端105a側にポケット103を有するホルダ105と、ポケット103に位置する上記のインサート1とを備えている。本実施形態の切削工具101においては、稜部における切刃31として用いられる部分がホルダ105の先端から突出するようにインサート1が装着されている。
【0078】
ホルダ105は、細長く伸びた棒状体である。そして、ホルダ105の先端105a側には、ポケット103が1つ設けられている。ポケット103は、インサートが装着される部分であり、ホルダ105の先端面に対して開口している。このとき、ポケット103がホルダ105の側面に対しても開口していることによって、インサートの装着を容易に行うことができる。具体的には、ポケット103は、ホルダ105の下面(不図示)に対して平行な着座面と、着座面に対して傾斜する拘束側面とを有している。
【0079】
ポケット103にはインサート1が位置している。このとき、インサート1の下面がポケット103に直接に接していてもよく、また、インサート1とポケット103との間にシートを挟んでいてもよい。
【0080】
インサート1は、稜部における切刃31として用いられる部分がホルダ105から外方に突出するように装着される。本実施形態においては、インサート1は、固定ネジ107によって、ホルダ105に装着されている。すなわち、インサート1の貫通孔に固定ネジ107を挿入し、この固定ネジ107の先端をインサートポケット103に形成されたネジ孔(不図示)に挿入してネジ部同士を螺合させる。これによって、インサート1がホルダ105に装着されている。
【0081】
ホルダ105の材質としては、例えば、鋼、鋳鉄などを用いることができる。また、ホルダ105の材質としては、これらの部材の中で靱性の高い鋼を用いてもよい。
【0082】
本実施形態においては、いわゆる旋削加工に用いられる切削工具を例示している。旋削加工としては、例えば、内径加工、外径加工又は溝入れ加工が挙げられる。なお、切削工具としては旋削加工に用いられるものに限定されない。例えば、転削加工に用いられる切削工具に上記の実施形態のインサートを用いてもよい。
【0083】
<切削加工物の製造方法>
次に、本開示の一実施形態の切削加工物の製造方法について、上述の実施形態に係る切削工具101を用いる場合を例に挙げて、図面を用いて説明する。
【0084】
切削加工物は、被削材201を切削加工することによって作製される。本実施形態における切削加工物の製造方法は、以下の(1)〜(4)の工程を備えている。
(1)準備された被削材201を回転させる工程(
図13参照)。
(2)回転している被削材201に向かって、X1方向に切削工具101を移動させて、被削材201に切削工具101を近付ける工程(
図13参照)。
(3)切削工具101をさらに被削材201に近づけることによって、切削工具101の切刃31を回転している被削材201の表面の所望の位置に接触させて、被削材201の表面を加工する工程(
図14参照)。
(4)切削工具101を被削材201からX2方向に離す工程(
図15参照)。
【0085】
(1)の工程において準備される被削材201の材質としては、例えば、アルミニウム、炭素鋼、合金鋼、ステンレス、鋳鉄、又は非鉄金属などが挙げられる。
【0086】
(2)の工程は、例えば、被削材201を軸O2の周りで回転させた状態で被削材201に近付けることにより行うことができる。なお、本工程では、被削材201とドリル101とは相対的に近付けばよく、被削材201をドリル101に近付けてもよい。
【0087】
(2)の工程は、例えば、被削材201を軸O2の周りで回転させた状態で、被削材201に切削工具101を相対的に近付けることにより行うことができる。なお、本工程では、被削材201と切削工具101とは相対的に近付けばよく、被削材201を切削工具101に近付けてもよい。
【0088】
(4)の工程においても、上述の(2)と同様に、被削材201と切削工具101とは相対的に離隔すればよく、例えば、被削材201を切削工具101から離してもよい。
【0089】
以上のような工程を経ることによって、切削加工物を得ることができる。本実施形態に係る切削加工物の製造方法によれば、切削工具101を使用することから、切り込み量が小さい場合において、送り量が小さかったり大きかったりする切削加工条件下においても、良好な切削加工を行うことができる。その結果、加工面精度が高い切削加工物を得ることができる。
【0090】
なお、以上に示したような被削材201の切削加工を複数回行う場合には、被削材201を回転させた状態を保持しつつ、被削材201の異なる箇所に切削工具101の切刃を接触させる工程を繰り返せばよい。
【0091】
以上、本開示に係る実施形態について例示したが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることはいうまでもない。