特許第6612984号(P6612984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6612984
(24)【登録日】2019年11月8日
(45)【発行日】2019年11月27日
(54)【発明の名称】塩化銀ペースト
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0408 20060101AFI20191118BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20191118BHJP
【FI】
   A61B5/04 300X
   H01B1/20 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-525136(P2018-525136)
(86)(22)【出願日】2017年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2017023234
(87)【国際公開番号】WO2018003702
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-130502(P2016-130502)
(32)【優先日】2016年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】篠原 啓彰
(72)【発明者】
【氏名】森田 崇
(72)【発明者】
【氏名】芳野 眞次
(72)【発明者】
【氏名】寺田 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 章郎
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−182513(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/004614(WO,A1)
【文献】 特開2007−85763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0408
H01B 1/20
A61N 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、担体に塩化銀が担持されてなる塩化銀担持体とを含む、塩化銀ペースト。
【請求項2】
前記塩化銀担持体中の前記塩化銀の担持量は、80重量%以下である、請求項1に記載の塩化銀ペースト。
【請求項3】
塩化銀ペースト中の前記塩化銀担持体の含有量は、50重量%以下である、請求項1または2に記載の塩化銀ペーストである。
【請求項4】
前記担体は、シリカである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の塩化銀ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塩化銀ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、銀/塩化銀を含む不分極電極膜を備えた生体用電極が開示されている。特許文献1の銀/塩化銀の不分極電極膜は、銀/塩化銀ペーストから形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開平5−95922号公報」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2015−210883号公報」
【特許文献3】国際公開第2015/162931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、不分極性を有する新規の構成の塩化銀ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための発明の態様1に係る発明は、バインダー樹脂と、担体に塩化銀が担持されてなる塩化銀担持体とを含む、塩化銀ペーストである。
この構成では、不分極性を有する新規の構成の塩化銀ペーストが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、ゲル化法シリカからなるシリカの図解的な粒子構造の一例を示す模式図である。
図2図2は、ゲル化法シリカからなるシリカに塩化銀が担持されてなる塩化銀担持シリカの粒子構造の一例を図解的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[1]塩化銀ペースト
本発明の実施形態に係る塩化銀ペーストは、バインダー樹脂と、担体に塩化銀が担持されてなる塩化銀担持体とを含む。
本発明の実施形態に係る塩化銀ペーストは、不分極性を有する新規の構成の塩化銀ペーストである。したがって、本発明の実施形態に係る塩化銀ペーストは、生体用電極または参照電極等の不分極電極膜を形成するのに適した塩化銀ペーストである。
[2]バインダー樹脂
バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を使用できる。具体的には、バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、又はポリビニルアルコール樹脂等を使用できる。ポリエステル樹脂としては、例えば、日本合成化学株式会社製の溶剤可溶型ポリエスターTP−220、TP−217、TP−249、TP−235、TP−236、TP−290、TP−270、LP−035、LP−033、LP−050、LP−011、LP−022、TP−219、ユニチカ株式会社製のエリーテルUE3220、UE3223、UE3230、UE3231、UE3400、UE3500、UE3200、UE9200、UE3201、UE3203、UE3600、UE9600、UE3660、UE3690、UE3210、UE3215、UE3216、UE3620、UE3240、UE3250、東亜合成株式会社製のアロンメルトPES310S30、又はPES360HVXM30等を使用できる。
[3]塩化銀担持体
塩化銀担持体は、担体と、当該担体に担持された塩化銀とからなる。
[3.1]担体
担体の材料としては、金属(銀以外の金属であることが好ましい)、非金属、有機物、又は無機物等の各種材料を使用できる。バインダー樹脂中に塩化銀担持体を分散させやすくするためには、塩化銀担持体をバインダー樹脂内で沈殿させないようにすることが好ましい。この観点から、担体としては、バインダー樹脂に近い密度を有しているものが好ましい。また、担体としては、塩化銀を担持させやすく、低コストのものがより好ましい。
【0008】
具体的には、担体としては、(1)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、又はポリアミド樹脂、(2)エポキシ樹脂等からなるポリマー粒子、シリカ、マイカ、又はガラスビーズ、(3)炭酸カルシウム等からなる無機粒子を使用できる。
[3.2]塩化銀担持体の実施例1
塩化銀担持体の実施例1は、シリカ(二酸化ケイ素)に塩化銀が担持された塩化銀担持シリカである。
【0009】
塩化銀が担持されるシリカは、沈殿法シリカ、又はゲル化法シリカ(ゲル法シリカ)等の湿式法シリカであってもよく、乾式法シリカであってもよい。シリカは、ゲル化法シリカであることが好ましい。この実施形態では、シリカは、ゲル化法シリカである。
図1は、ゲル化法シリカからなるシリカの図解的な粒子構造の一例を示す模式図である。ゲル化法シリカからなるシリカ2は、例えば、複数の一次粒子(骨格粒子)3Aが、ブドウの房状に集まって二次粒子3を構成したような粒子構造を有している。
【0010】
以下において、シリカの比表面積とは、単位質量当たりの表面積をいう。シリカの表面積は、シリカの外部面積と内部面積(シリカの細孔内面の面積)との和である。シリカの細孔容積とは、単位質量当たりのシリカの細孔の容積をいう。シリカの平均細孔径とは、シリカの細孔(空隙)の直径の平均をいう。シリカの平均粒子径とは、二次粒子の直径D(図1参照)の平均をいう。
【0011】
シリカの比表面積は、20m/g以上1000m/g以下であることが好ましく、100m/g以上700m/g以下であることが特に好ましい。また、シリカの細孔容積は、0.2ml/g以上2.0ml/g以下であることが好ましく、0.3ml/g以上1.2ml/g以下であることが特に好ましい。また、シリカの平均細孔径は、2nm以上100nm以下であることが好ましく、2nm以上30nm以下であることが特に好ましい。また、シリカの平均粒子径は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0012】
図2は、ゲル化法シリカからなるシリカに塩化銀が担持されてなる塩化銀担持シリカの粒子構造の一例を図解的に示す模式図である。図2に示される塩化銀担持シリカ1は、シリカ2と、シリカ2の表面(細孔の内容面を含む)に担持された塩化銀4とからなる。
塩化銀担持シリカは、例えば、次のような製造方法によって製造される。この製造方法は、銀化合物を溶液に溶解させることにより、銀化合物溶液を生成するステップと、銀化合物溶液を用いて、シリカ(細孔の内面を含む)に銀化合物を担持させるステップとを含む。銀化合物としては、硝酸銀、塩化銀等が用いられる。
【0013】
銀化合物として、例えば硝酸銀が用いられる場合には、まず、硝酸銀粉末を水系溶媒に溶解させることにより、硝酸銀溶液を生成する。次に、硝酸銀溶液を用いて、シリカに硝酸銀を担持させる。シリカに硝酸銀を担持させる方法としては、沈殿法、ゲル化法、含侵法、又はイオン交換法等が挙げられる。この後、シリカに担持された硝酸銀に、塩酸、塩化ナトリウム等、又は塩化物イオンを含む化合物を反応させることにより、シリカに塩化銀を担持させる。
【0014】
銀化合物として、例えば塩化銀が用いられる場合には、まず、アンモニア水、濃塩酸溶液、アルカリ性シアン化物水溶液、チオ硫酸塩水溶液、又は炭酸アンモニウム水溶液等の水溶液に、塩化銀粉末を溶解させることにより、塩化銀溶液を生成する。次に、塩化銀溶液を用いて、シリカに塩化銀を担持させる。シリカに塩化銀を担持させる方法としては、沈殿法、ゲル化法、含侵法、又はイオン交換法等が挙げられる。この後、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、又はブチルセロソルブなどの水系溶媒に溶解する有機溶媒を、シリカに担持された塩化銀に添加することにより、シリカに塩化銀を担持させる。
[3.2.1]塩化銀担持シリカの実施例1
塩化銀担持シリカの実施例1は、ゲル化法シリカであるシリカ(サイリシア710(商品名) 富士シリシア化学株式会社製)と当該シリカに担持された塩化銀(AgCl)とを含む。実施例1の塩化銀担持シリカでは、シリカ(二酸化ケイ素)の含有量は61重量%であり、塩化銀含有量は39重量%である。また、実施例1では、シリカの比表面積は397m/gであり、シリカの平均粒子径は2.9μmである。
【0015】
塩化銀担持シリカの実施例1を製造する方法について説明する。まず、硝酸銀粉末40gをイオン交換水50mlで溶解することにより、硝酸銀溶液を調整した。次に、シリカ(サイリシア710(商品名) 富士シリシア化学株式会社製)20gを硝酸銀溶液に添加し、4時間攪拌した。次に、攪拌後の溶液から、5種Aのろ紙を用いて固形分を回収し、回収した固形分を120℃の棚式乾燥機で16時間乾燥した。これにより、シリカに硝酸銀が担持された硝酸銀担持シリカを得た。
【0016】
次に、硝酸銀担持シリカの約34gを1Mの塩酸200mlに添加して4時間攪拌した。次に、攪拌後の溶液から、5種Aのろ紙を用いて固形分を回収し、回収した固形分を200mlのイオン交換水で洗浄した。次に、洗浄後の固形分を、120℃の棚式乾燥機で16時間乾燥した後、粉砕した。これにより、シリカに塩化銀が担持されたシリカ(塩化銀担持シリカ)が、約30g得られた。
[3.3]塩化銀担持体の他の製造方法
なお、塩化銀担持体は、担体に銀を被覆した後、塩化処理することによって、製造することもできる。担体に銀を被覆する方法としては、特許文献2,3等に記載された方法を用いることができる。
[4]塩化銀ペーストの製造方法の実施例
塩化銀担持体が塩化銀担持シリカである場合の塩化銀ペーストの製造方法の実施例について説明する。
【0017】
蓋つきの容器に、塩化銀担持シリカ粉末を50g入れた。塩化銀担持シリカにおける塩化銀の担持量は、0.1重量%以上80重量%の範囲内の任意量である。
次に、MEK(メチルエチルケトン)と酢酸エチルとトルエンとの混合溶剤(混合比 1:1:1)25gを、前記容器内に投入して、塩化銀担持シリカ粉末と混合した。
この後、バインダー樹脂(溶剤可溶型ポリエスターLP−035(固形分40%) 日本合成化学株式会社製)50gを前記容器内に投入し、攪拌した。具体的には、攪拌機(プライミクス株式会社製のTKホモデイスパーMODEL2.5)を使用し、3500r/minの回転速度で、攪拌を10分間行った。これにより、粉末凝集のない流動性のある塩化銀ペーストが得られた。
【0018】
なお、バインダー樹脂として、前述の日本合成化学株式会社製の溶剤可溶型ポリエスターLP−035(固形分40%)の代わりに、例えば、ユニチカ株式会社製のエリーテル♯3220(固形分40%)、ユニチカ株式会社製のエリーテル♯9200(固形分40%)等を用いてもよい。
また、攪拌機としては、プロペラ型攪拌機等の前述の攪拌機とは異なるタイプの攪拌機を用いてもよい。
[5]塩化銀担持シリカを用いた塩化銀ペーストの利点
塩化銀担持シリカを用いた塩化銀ペーストは、次のような利点を有している。
・塩化銀は凝集しやすい(分散性が低い)のに対して、シリカは凝集しにくい(分散性が高い)という性質を有している。このため、塩化銀担持シリカは、塩化銀に比べて分散性が高く、凝集しにくい。これにより、塩化銀担持シリカを用いた塩化銀ペーストでは、塩化銀(塩化銀担持シリカ)が凝集しにくくなる。
・塩化銀担持シリカは、シリカ(細孔の内面を含む)に塩化銀が担持されている。これにより、塩化銀ペースト中の塩化銀の総量が所定量である塩化銀ペーストを得ようとした場合に、塩化銀担持シリカを用いた塩化銀ペーストでは、従来の銀/塩化銀ペーストに比べて、塩化銀の表面積を増加させることが可能となる。これにより、分極抑制効果を向上させることができる。
・塩化銀担持シリカは、シリカ(細孔の内面を含む)に塩化銀が担持されている。これにより、塩化銀ペースト内での塩化銀の露出面積の総量が所定量である塩化銀ペーストを得ようとした場合に、塩化銀担持シリカを用いた塩化銀ペーストでは、従来の銀/塩化銀ペーストに比べて、塩化銀(または銀)の量を低減させることが可能となり、低廉化が図れる。
・塩化銀担持シリカを用いた塩化銀ペーストでは、シリカの細孔(空隙)内に担持されている塩化銀には光が入射されにくい。したがって、塩化銀担持シリカを用いた塩化銀ペーストは、従来の銀粒子および微粒子塩化銀を含む銀/塩化銀ペーストに比べて耐光性の向上化が図れる。
〔まとめ〕
発明の態様2に係る塩化銀ペーストは、上記の態様1において、前記塩化銀担持体中の前記塩化銀の担持量は、80重量%以下である。
【0019】
発明の態様3に係る塩化銀ペーストは、上記の態様1または2において、塩化銀ペースト中の前記塩化銀担持体の含有量は、50重量%以下である。
発明の態様4に係る塩化銀ペーストは、上記の態様1から2の何れかにおいて、前記担体は、シリカである。
【0020】
この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0021】
1 導電材
2 シリカ
3 二次粒子
3A 一次粒子
4 塩化銀

図1
図2