(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィラメント紡糸工程では、前記フィラメントデニールが、6.0以上8.0以下の値の前記フィラメントを紡糸する、請求項2又は3に記載のトウバンドの製造方法。
前記トウバンド形成工程では、前記トータルデニールが、7000以上15000以下の値の前記トウバンドを形成する、請求項2乃至4のいずれか1項に記載のトウバンドの製造方法。
請求項2乃至5のいずれか1項に記載のトウバンドの製造方法で製造されたトウバンドにより、円周長が14mm以上17mm以下の値のシガレットフィルターを製造する、シガレットフィルターの製造方法。
【背景技術】
【0002】
本書では「フィラメント」、「ヤーン」、「トウバンド」、「フィラメントデニール」、「トータルデニール」、「詰込み量」の各用語を以下の定義とする。
【0003】
「フィラメント」は、1の紡糸孔から押し出して紡糸した1本の繊維(単繊維)を指す。
【0004】
「ヤーン」は、1の紡糸筒で紡糸した複数本のフィラメントを合一して得た1の繊維束(単繊維の集合体)を指す。
【0005】
「トウバンド」は、紡糸筒相当数の全ヤーン、すなわち全ての紡糸機で紡糸した全フィラメントを合一し、これに捲縮処理を実施して得た多数本のフィラメントの繊維束を指す。
【0006】
「フィラメントデニール」は、単位長さ9000m当たりの質量(g)によって表されるフィラメント(単繊維)の繊度であり、以下、「FD」とも称する。トウバンドのFDは、トウバンドを構成する1本分のフィラメントの繊度を意味する。
【0007】
「トータルデニール」は、単位長さ9000m当たりの質量(g)によって表されるトウバンドの繊度であり、以下、「TD」とも称する。
【0008】
「詰込み量」は、1本のフィルターロッドに充填されるトウバンドの正味重量である。
【0009】
シガレットフィルター(「プラグ」または「チップフィルター」とも称する。)の素材として、たとえばセルロースアセテート繊維を用いたトウバンドが用いられている。
【0010】
トウバンドを製造する場合は、一例として、セルロースアセテートを有機溶剤に溶解し、紡糸原液を調整する。複数の紡糸筒(塔)を備えた紡糸機に紡糸原液を供給し、各紡糸筒に配された紡糸口金における多数の紡糸孔から紡糸原液を吐出して複数本のフィラメントを紡糸する。この複数本のフィラメントを集めてヤーンを形成し、さらに合一したヤーンに対して所定の捲縮処理を実施することでトウバンドを得る。トウバンドとその製造方法については、たとえば特許文献1及び2に開示されている。
【0011】
シガレットフィルターを製造する場合は、一例として上記のように製造したトウバンドを開繊し、トリアセチン等の可塑剤を添加した後に円柱状に成型し、外周を巻紙で巻回し、所定長さに切断してフィルターロッドを形成する。このフィルターロッドをさらに所定長さに切断することでシガレットフィルターを得る。
【0012】
近年、シガレットの嗜好が変化してきており、いわゆる「スーパースリム」や「ウルトラスーパースリム」等と称される、一般のシガレットに比べて直径が細いシガレットが市販されている。たとえば特許文献3には、Y型等の異形断面形状を有するフィラメントを用いたトウバンドにより、直径が3.0mm以上6.0mm以下の細いシガレットと、これに用いるシガレットフィルターの製造方法とが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
細いシガレットに用いるシガレットフィルターを製造する場合、幾つかの問題を生じる場合がある。たとえば、一般のシガレットフィルターの製造に用いるトウバンドを細いシガレットの径に合わせ、圧縮して成形すると、トウバンドの詰込み量が多くなって通気抵抗(PD)が上昇し、吸いづらくなる場合や、シガレットフィルターがパンクする等の不具合を生じる場合がある。
【0015】
また、香味成分を封入したカプセルをシガレットフィルター内に埋設する場合、細いシガレットでは、シガレットフィルター内の空隙がカプセルにより埋まり、PDが上昇して吸いづらくなる場合がある。
【0016】
近年、シガレットの嗜好は細さが進む傾向にあるため、従来より一層細いシガレットでPDが低いものが求められている。PDの低減は、例えば、FDを大きくすることにより達成できる。しかしながら、例えば、FDが6.0以上のトウバンドは、TDを小さくしなければ、細いシガレットの径に合わせた詰め込みが困難である。そこで、FDを大きく、かつTDを小さくしたトウバンドが求められているが、このようなトウバンドを用いてシガレットフィルターを製造すると、個々のシガレットフィルターのPDのばらつきが大きくなることが判った。すなわち、このようなシガレットフィルターを用いて複数のシガレットを製造した場合、個々のシガレットで喫味が異なり、喫煙の満足が阻害されるおそれがある。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、細いシガレットフィルターのPDを良好に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、セルロースアセテート繊維からなる複数本のフィラメントを束状に合一しかつ捲縮してなるトウバンドであって、フィラメントデニールが、6.0以上11.0以下であり、かつ、トータルデニールが、5000以上15000以下であり、捲縮数のCv値が、4%以下である構成とする。
【0019】
ここで言う「Cv値」とは、標準偏差を算術平均で割った変動係数を百分率で示してなる値を指す。
【0020】
また、本発明の別の態様は、合一されて搬送されるヤーンを捲縮して搬送する捲縮機を備え、前記捲縮機は、互いの周面を対向させて軸支された一対のローラと、前記一対のローラよりも前記ヤーンの搬送方向下流側に配され、各一方の板面が対向するように間隙をおいて配置された一対の板状部材と、前記間隙内に配され、前記ヤーンを前記一対の板状部材のいずれかの前記板面に向かって押圧するように付勢する付勢部材と、を有し、前記一対の板状部材における一方の板状部材のうち、少なくとも前記一対のローラと近接する部分が、前記ヤーンの搬送方向下流側に向かって、前記間隙が漸増するように配されている、トウバンド製造装置とする。
【0021】
また、本発明の別の態様におけるトウバンドの製造方法は、複数の紡糸孔のそれぞれより紡糸原液を吐出して複数本のフィラメントを紡糸するフィラメント紡糸工程と、前記複数本のフィラメントからなるヤーンを合一しかつ捲縮してトウバンドを形成するトウバンド形成工程と、を有し、前記フィラメント紡糸工程では、フィラメントデニールが、6.0以上11.0以下の前記フィラメントを紡糸し、前記トウバンド形成工程においては、TDが、5000以上15000以下であり、かつ、捲縮数のCv値が、4%以下のトウバンドを形成する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様におけるトウバンド及びトウバンドの製造方法では、フィラメントのFDを6.0以上11.0以下とし、かつ、トウバンドのTDを15000以下とするとともに、トウバンドの捲縮数のCv値を4%以下に抑える。これにより、フィラメントのFDを大きくし、かつトウバンドのTDを小さくするとともに、トウバンドにおいて生じうる捲縮のばらつきを防止し、トウバンドの全体にわたって均一な捲縮性を付与する。このトウバンドを用いることで、シガレットフィルターのPDを低く保ちながら、かつそのPDのばらつきを抑制できる。
【0023】
また、本願発明者らの検討によれば、トウバンド製造装置において、互いの周面を対向させて軸支された一対のローラと、前記一対のローラよりもヤーンの搬送方向下流側に配され、各一方の板面が対向するように間隙をおいて配置された一対の板状部材と、前記間隙内に配され、前記ヤーンを前記一対の板状部材のいずれかの前記板面に向かって押圧するように付勢する付勢部材とを有する捲縮機を用いた場合、前記一対の板状部材の内の一方の板状部材のうち、少なくとも前記一対のローラと近接する部分を、前記フィラメントの搬送方向下流側に向かって、前記一対の板状部材の間隙が漸増するように配すると、フィラメントのFDを増大させた場合や、トウバンドのTDを低減させた場合であっても、トウバンドに均一な捲縮性を付与できることを見出した。本発明の別の態様におけるトウバンド製造装置は、この着想に基づいて実現されたものである。
【0024】
このようなトウバンド製造装置を用いることで、前記した本発明の一態様のトウバンドを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を、各図を参照して説明する。
【0027】
<実施形態>
[トウバンド製造装置]
図1は、実施形態に係るトウバンド製造装置1の全体構成を示す図である。
図2は、紡糸筒11の紡糸口金12の構成を示す正面図である。
【0028】
図1に示すように、トウバンド製造装置1は、ミキサー2と、濾過機3と、紡糸機4と、捲縮機5と、捲縮機5で形成したトウバンドTBを残留溶剤及び水分を除去することにより乾燥させるための乾燥機6と、一対の搬送ローラ7と、乾燥後のトウバンドTBを折り畳んでベールとし、梱包箱に梱包するための梱包機8とを備える。
【0029】
ミキサー2は、容器とその内部に配された攪拌機とを有し、容器に投入されたフィラメントFの材料を含む紡糸原液を混合する。本実施形態では、ミキサー2は、セルロースアセテート繊維をフィラメントFとして紡糸機4で紡糸するための紡糸原液を調整する目的で用いる。濾過機3は、ミキサー2で調整された紡糸原液を濾過して不純物を除去する。
【0030】
紡糸機4は、並設された複数の紡糸筒11と、各紡糸筒11に配された紡糸口金12と、不図示の紡糸ポンプとを備える。図
1及び2に示すように、各紡糸筒11は、いずれも長尺状の筒体であり、筒軸を鉛直方向に向けて配されている。紡糸口金12は、紡糸筒11の上端部に設けられている。紡糸口金12には、所定数の複数の紡糸孔10が形成されている。紡糸孔10の周縁形状は、円形状である。
【0031】
フィラメント紡糸工程において、紡糸機4では、一例として乾式紡糸法に基づき、紡糸原液を前記紡糸ポンプにより各紡糸口金12に送り込み、紡糸孔10から下方に向けて紡糸原液を吐出することでフィラメントFを紡糸する。各紡糸筒11の下方におけるフィラメントFの搬送方向下流側には、各フィラメントFを合一してなるヤーンYに対して繊維油剤及び水を含むオイルエマルジョンを付着させるためのオイリング装置14と、ヤーンYを合一するために軸支したゴデットローラ15とが配されている。これにより、紡糸口金12から下方に向かって搬送される各フィラメントFを、ゴデットローラ15の周面において互いに合一し、ヤーンYを形成する。合一されたヤーンYには、オイリング装置14においてオイルエマルジョンを付着する。その後、ヤーンYを捲縮機5に搬送する。
【0032】
トウバンド製造装置1では、紡糸口金12の紡糸孔10の周縁形状及びサイズ等を調整することにより、フィラメントFのFDを所定の範囲に調整する。フィラメントFのFDとしては、6.0以上11.0以下の範囲が望ましく、6.0以上10.0以下がさらに好適であり、6.0以上8.0以下が一層望ましい。ここでは一例として、FDを6.0に調整する。また、紡糸孔10の周縁形状を三角形状または円形状とすることにより、フィラメントFが略Y字形状または略円形状の断面形状を有するように調整する。このような断面形状を有するフィラメントFを用いることで、トウバンドTB中で、各フィラメントF同士が過度に密着するのを防止し、各フィラメントF同士の間に間隙を確保して、トウバンドTBを用いて製造したシガレットフィルターのPDが上昇しにくいように図れる。
【0033】
さらに、複数本のフィラメントFをゴデットローラ15の周面において互いに合一し、ヤーンYを形成する際、紡糸筒11の数を調整することにより、最終的に得られるトウバンドTBのTDを所定の範囲に調整する。トウバンドTBのTDとしては、例えば5000以上15000以下が望ましく、7000以上12000以下がさらに好適である。本実施形態では、一例として、トウバンドTBのTDを12000に設定する。このようにTDを調整したトウバンドTBを用いることで、トウバンドTBの密度を適度に低減し、トウバンドTBを用いて製造したシガレットフィルターのPDが上昇しにくいように図れる。なお、トウバンドTBのTDが5000未満であると、複数本のフィラメントFに対し、以下に示す捲縮が掛けづらくなるため、本実施形態では、トウバンドTBのTDの下限値を5000としている。
【0034】
[捲縮機]
図3は、トウバンド製造装置1の捲縮機5の周辺構成を示す図である。
図3に示すように、捲縮機5はスタフィングボックス型であって、一対のローラ5a、5bと、一対の板状部材5c、5dと、板状部材5cに取り付けられた付勢部材5eとを有する。捲縮機5は、
図3中、合一されたヤーンY(フィラメントF)を紙面左側から右側に向かって搬送する。
【0035】
一対のローラ5a、5bは、互いの周面を対向させて軸支したニップローラ(「押し込みローラ」とも称する。)である。ここでは、各ローラ5a、5bの各周面部分をニップ点N1、N2とする。このローラ5a、5bのニップ点N1、N2における間隙
G1は、例えば、トウバンドTBの厚み相当の間隙とすることができ、一例として、2mm以上5mm以下である。また、一対のローラ5a、5bのニップ点N1、N2におけるニップ圧は、複数のフィラメントFを一対の板状部材5c、5dの間に導入するために十分な圧力とすることができる。
【0036】
一対の板状部材5c、5dは、ヤーンYの搬送方向下流側で各板面が対向するように配置される。捲縮機5では、一例として、板状部材5cが上方に配置され、板状部材5dが下方に配置されている。一対の板状部材5c、5dは、不図示の垂直方向に延びる一対の側壁部材と組み合わされ、角筒状のクリンパボックス5fを構成している。
【0037】
ここで、一般の捲縮機においては、一対の板状部材は平行に配されるが、捲縮機5では、一対の板状部材5c、5dにおける一方の板状部材のうち、少なくとも一対のローラ5a、5bと近接する部分が、ヤーンYの搬送方向下流側に向かって、一対の板状部材5c、5dの間隙が漸増するように配される。ここで言う「近接する部分」とは、たとえば
図3に示すように、一対の板状部材5c、5dにおいて、一対のローラ5a、5bと最近接する板状部材5cの端部5c1または板状部材5dの端部5d1のいずれかから、ヤーンYの搬送方向に延びた領域の部分を指す。一例として、捲縮機5では、一対の板状部材5c、5dにおける一方の板状部材は、ヤーンYの搬送方向下流側に向かって、0°より大きく4°より小さい傾斜角度θで傾斜勾配をなすように配される。具体的には、下方に位置する板状部材5dは、板面が水平になるように配され、上方に位置する板状部材5cは、ヤーンYの搬送方向下流側に向かって、0°より大きく4°より小さい傾斜角度θで上がり勾配をなすように配される。傾斜角度θとしては、一例として、2.5°である。一対の板状部材5c、5dの一対のローラ5a、5bと近接する部分の間隙G
2は、一般の捲縮機では4.5mm程度であるのに対し、捲縮機5では、2mm以上7mm以下に設定する。ここでは、間隙G
2は一例として3mmに設定する。なお、捲縮機5では、板状部材5cを板面が水平になるように配し、板状部材5dをヤーンYの搬送方向下流側に向かって、4°より小さい傾斜角度θをなして下がり勾配をなすように配してもよい。
【0038】
付勢部材5eは、ヤーンYを一対の板状部材5c、5dのいずれかの板面に向かって押圧するように付勢する。一例として、付勢部材5eは、長尺状の板状体として構成し、
図3に示すように、その幅方向の一端側に位置する側部5e1において、板状部材5cと連結させて配する。これにより付勢部材5eは、板状部材5cとの連結部分を揺動中心Pとして揺動する。付勢部材5eでは、その幅方向の他端側に位置する側部5e2が、不図示のばね体の弾性力により板状部材5dの表面に押圧される方向に付勢されている。付勢部材5eは、合一されたヤーンYに対し、ヤーンYの搬送方向と直交する方向において均一に所定のクリンパ圧を掛けられるように配されている。なお、付勢部材5eは、一例として、油圧によりクリンパ圧を合一されたヤーンYに掛ける構成としてもよい。
【0039】
図3に示すように、トウバンド形成工程においては、捲縮機5では、合一されて搬送されるヤーンYを一対のローラ5a、5bの間に通し、ニップ点N1、N2で所定のニップ圧を掛けて押し出すことで捲縮し、ヤーンYに対して微細な一次捲縮を掛ける。その後、ヤーンYをクリンパボックス5fの内部に搬送し、間隙G
2以降の一対の板状部材5c、5dの対向間でヤーンYを波形に大きく蛇行させながら折り畳み、ヤーンYに対して高次捲縮を掛ける。さらに、その後もヤーンYを搬送しながら、付勢部材5eによりヤーンYにクリンパ圧を付与し、ヤーンYに対してさらに大きな高次捲縮を掛ける。このように、捲縮機5では、一次捲縮を掛けたヤーンYをクリンパボックス5f内で一旦開放し、その後、ヤーンYに対して高次捲縮を掛けていく。ヤーンYに対して二次、三次にわたり捲縮処理を実施することで、トウバンドTBを形成する。
【0040】
図4は、トウバンド形成工程において形成されたトウバンドTBの構成を示す一部拡大図である。
図4に示すように、トウバンドTBには、捲縮処理によって、ヤーンYの搬送方向に向かって、山部TBaと谷部TBbとが交互に形成される。なお、捲縮機5では、一対のローラ5a、5bの周面に水分をスプレーし、ヤーンYを濡らしながら捲縮処理を行ってもよい。
【0041】
捲縮機5においては、一例として、捲縮数が25mm当たり25山以上35山以下となるようにヤーンYを捲縮する。ここで、本書において「捲縮数」とは、一次捲縮の数値である。すなわち、「捲縮数」とは、
図4に示す山部TBaの数を指す。
【0042】
捲縮機5では、ニップ点N1、N2の間隙
G1を2mm以上5mm以下の範囲(一例として3mm)に設定するとともに、板状部材5cをその板面がヤーンYの搬送方向下流側に向けて上がり勾配をなすように配することによって、捲縮数のCv値が4%以下の均一な捲縮性が付与されたトウバンドTBを製造する。
一般に、フィラメントFのFDを大きくすると、トウバンドTB中におけるフィラメントF間の間隙が大きくなり、PDの抑制を期待できるが、フィラメントFの紡糸工程で、フィラメントFの乾燥不良が生じ易くなる。従って、フィラメントFのFDを増やすことには限界があった。一方、トウバンドTBのTDを小さくすると、トウバンドTBを用いてなるシガレットフィルターの単位体積当たりのフィラメントFの本数が減ることにより、PDの低減をある程度期待できる。しかしながら、このようなトウバンドTBは体積密度が小さいために、合一されたヤーンYに対して均一に捲縮を掛けにくいという問題があった。
【0043】
これに対し、トウバンド製造装置1は、捲縮機5を上記したような構成とすることで、トウバンドTBにおける捲縮数のCv値(捲縮数の変動値)を4%以下に抑制する。これにより、FDが6.0以上11.0以下に設定され、かつTDが5000以上15000以下に設定されたトウバンドTBであっても、トウバンドTBの全体にわたって均一な捲縮性を付与できる。
【0044】
捲縮機5を出たトウバンドTBは、乾燥機6にて乾燥する。その後、トウバンドTBを一対のローラ7の間に搬送し、梱包機8で圧縮する。圧縮されたトウバンドTBは、ベール状に折り畳み、所定の梱包箱B(
図5参照)に梱包する。梱包箱Bは、一例として、顧客に搬送する。トウバンドTBはこの後、フィルターロッド製造装置20において、フィルターロッドの製造に供する。
【0045】
[フィルターロッド製造装置20]
図5は、フィルターロッド製造装置20の構成を示す図である。
図5に示すように、フィルターロッド製造装置20は、第一開繊ジェット装置21と、第二開繊ジェット装置22と、プレテンションローラ23と、第一開繊ローラ24と、第二開繊ローラ25と、第三開繊ジェット装置26と、スプレーブース27と、送りローラ28と、搬送ジェット装置29と、ファンネル30と、筒体32と、回転ブレード33とを備える。
【0046】
フィルターロッドを製造する際には、まず、梱包箱Bから繰り出したベール状のトウバンドTBを、第一開繊ジェット装置21と第二開繊ジェット装置22とに順に通過させる。第一開繊ジェット装置21と第二開繊ジェット装置22とでは、トウバンドTBに所定の張力を掛けた状態で、ボックス内で圧縮空気をトウバンドTBに吹き付け、トウバンドTBの開繊を行う。これにより、トウバンドTBの幅を調整する。
【0047】
次に、トウバンドTBを、プレテンションローラ23における一対のローラ23a、23bの間に通過させる。このとき、プレテンションローラ23によってトウバンドTBに一定の張力を掛けた状態とし、第一開繊ローラ24における一対のローラ24a、24bと、第二開繊ローラ25における一対のローラ25a、25bとの各間にトウバンドTBを順に通過させる。第一開繊ローラ24と第二開繊ローラ25との回転速度の速度差によって、トウバンドTBをさらに開繊し、トウバンドTBのその幅を調整する。次に、トウバンドTBを第三開繊ジェット装置26に通過させる。第三開繊ジェット装置26では、第一開繊ジェット装置21及び第二開繊ジェット装置22と同様にトウバンドTBを開繊し、トウバンドTBの幅を調整する。
【0048】
このように、複数の段階に分けて十分に開繊したトウバンドTBに対し、スプレーブース27においてトリアセチン等の可塑剤をスプレーにより添着する。その後、トウバンドTBを送りローラ28の間に搬送し、トウバンドTBを筒状の搬送ジェット装置29の内部で円柱状に圧縮して成形する。その後、円柱状のトウバンドTBを円錐状のファンネル30の内部に送り込み、円柱状のトウバンドTBの外周にロール31から繰り出したラッピング紙(
図6のチップペーパー42bに相当する。)を巻回する。続いて、筒体32の内部において、ラッピング紙を接着剤で貼着し、トウバンドTBとラッピング紙とを回転ブレード33で所定の長さ(たとえば100mm以上120mm以下程度の長さ)に切断する。これにより、複数本のフィルターロッドFRを製造する。なお、得られたフィルターロッドFRは、さらに所定長さに切断する。これにより、後述するシガレット40のシガレットフィルター42aを得る(
図6参照)。
【0049】
なお、トウバンドTBの捲縮数のCv値が大きいということは、トウバンドTBのある部分とその他の部分との捲縮数がばらついていることを示す。トウバンドTBの捲縮数は、当該トウバンドTBを用いて製造したシガレットフィルターのPDに直接影響する。トウバンドTBの捲縮数のCv値がばらつくと、当該トウバンドTBを用いて製造したシガレットフィルターのPDのばらつき(PDCvの増大)を招く。このように、トウバンドTBの捲縮数のCv値のばらつきは、シガレットフィルターの品質低下を招く原因となる。
【0050】
これに対して本実施形態では、トウバンドTBが、FDが6.0以上11.0以下でありかつTDが5000以上15000以下で構成されるとともに、捲縮数のCv値が4%以下に抑えられ、トウバンドTBに均一な捲縮性が付与される。従って、均一な品質のシガレットフィルターを提供できる。
【0051】
[シガレット]
図6は、シガレット40の構成を示す図である。
図6では、巻取紙43を一部展開し、シガレット40の内部構成を示した状態を示す。
図6に示す本実施形態のシガレット40は、細巻タイプであり、シガレットロッド41と、フィルター42と、巻取紙43とを備える。シガレットロッド41は、円柱状に充填されたシガレット充填材41aと、シガレット充填材41aの外周に巻回された巻紙41bとを有する。フィルター42は、フィルターロッドFRを所定の長さに切断してなる円柱状のシガレットフィルター42aと、シガレットフィルター42aの外周に巻回されたチップペーパー42bとを有する。シガレットフィルター42aとチップペーパー42bとは、シガレットロッド41と同軸上に揃えて配される。巻取紙43は、シガレットロッド41の外周の一部と、フィルター42の外周とにわたって巻回され、シガレットロッド41とフィルター42とを固定する。
【0052】
シガレット40の円周長は、例えば14mm以上17mm以下が望ましく、14mm以上15mm以下がさらに好適である。ここでは一例として、シガレット40の円周長は14.5mmに設定される。シガレット40の長さは、例えば100mm以上150mm以下程度が望ましい。ここでは一例として、シガレット40の長さは100mmに設定される。
【0053】
なお、シガレットフィルター42aには香味カプセル等の香味放出材、或いは活性炭等の吸着剤を含ませてもよい。また、シガレット40のフィルター42は、複数のフィルターを用いてなるマルチセグメントフィルターの一部として構成してもよい。
【0054】
シガレット40では、前述した所定のFDとTDと捲縮数と捲縮数のCv値とを有するトウバンドTBを用いてシガレットフィルター42aを構成したことにより、所定の詰込み量のトウバンドTBを用いてシガレットフィルター42aを構成しながら、シガレットフィルター42aのPDが低減されている。これにより、シガレット40は、細巻タイプでありながらPDが十分に小さく、吸い易く構成されている。
【0055】
ここでシガレットフィルターのPDのCv値(通気抵抗の変動値)は、トウバンドTBの捲縮の均一性に依存する性質があり、トウバンドTBの捲縮数のCv値と相関関係にある。これにより、たとえばトウバンドTB中に、捲縮数が大きい部分と小さい部分とが混在していると、トウバンドTBを圧縮して成形したシガレットフィルターの内部の空間が閉塞され、PDが上昇することがある他、シガレット毎に吸い易さがばらつくおそれがある。このような問題は、TDが比較的小さいトウバンドTBを用いて細巻タイプのシガレットを製造する場合において比較的生じ易い傾向がみられる。
【0056】
これに対し、シガレット40は、シガレットフィルター42aを構成するトウバンドTBの捲縮数のCv値が4%以下の範囲にまで抑えられ、トウバンドTBの全体にわたって均一な捲縮性が付与されている。従って、複数本のシガレット40を製造する場合には、シガレットフィルター42aのPDを抑制するとともに、PDのばらつき(PDCv)を抑制することで、喫味が均一に保たれて喫煙の満足感が得られ、吸い易いシガレット40を安定した品質で製造できる。
【0057】
<実施例>
以下、本発明の性能を確認するために作製した各実施例と、これを用いて実施した性能測定試験について述べる。
【0058】
[板状部材の傾斜角度θ及び一対の板状部材の間隙G
2に対する捲縮依存性]
捲縮機5において、一対の板状部材5c、5dの間の間隙G
2を6mmに固定した状態で、板状部材5cの傾斜角度θを変化させた場合において、トウバンドTBの捲縮数のCv値(%)がどのように変化するかを調べた。
【0059】
また、前記トウバンドTBを用い、捲縮機5において、板状部材5cの傾斜角度θを1°に固定した状態で、一対の板状部材5c、5dの間の間隙G
2を変化させた場合において、トウバンドTBの捲縮数のCv値(%)がどのように変化するかを調べた。
【0060】
上記性能測定試験に用いるトウバンドTBは、FDが6.0でかつY字形状の断面の複数のフィラメントFを用いて作製し、トウバンドTBのTDを15000に設定した。トウバンドTBの捲縮数のCv値の具体的な測定方法としては、以下に示すトウバンド捲縮数測定方法に従った。
【0061】
(トウバンド捲縮数測定方法)
ベール状のトウバンドTBの任意の部分から、検査部分として、250mmの測定片をトウバンドTBの長さ方向にランダムに12点採取した。この各測定片の捲縮数を、長さ25mm毎に、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験方法)に規定されている捲縮数測定方法に従って測定した。これにより、各々のサンプルにおいて、測定して得られた合計120カ所の捲縮数の測定結果に基づき、下記の式に従い、捲縮数のCv値を算出した。
【0062】
捲縮数のCv値(%)=標準偏差/算術平均
上記各測定結果を表1及び2に示す。
【0064】
【表2】
表1に示すように、比較例1及び2の結果から、傾斜角度θが−1°または0°(傾斜なし)の場合、捲縮数のCv値が比較的高く、トウバンドTBの均一な捲縮性が得られにくいことが分かった。一方、傾斜角度θが0°より大きくなると、捲縮数のCv値に減少傾向が見られた。表1に示す結果では、傾斜角度θが1°、2.5°、3°、4°のいずれの場合も、捲縮数のCv値は、良好な値を示した。捲縮数のCv値は、傾斜角度θが2.5°の場合に最小の値となり、傾斜角度θが3°または4°の場合に若干高い値となるものの、それでも十分に低い値を示した。表1に示す結果から、傾斜角度θは、0°より大きければ好ましく、実施例1〜4に示すように、1°<θ<4°の範囲であれば、より好ましく、特に実施例2に示すように、2.5°付近であれば、一層好適であると言える。
【0065】
また、表2に示した結果から、比較例3に示すように、間隙G
2が1mmの場合と、比較例4に示すように、間隙G
2が8mmの場合に、捲縮数のCv値が比較的高くなることが分かった。一方、実施例5〜10に示すように、間隙G
2が2mm以上7mm以下の場合、捲縮数のCv値に減少傾向が見られた。表2に示す結果から、実施例5〜10に示すように、間隙G
2としては、2mm以上7mm以下の範囲であれば好ましく、特に、実施例6または8に示すように、3mm付近または5mm付近であれば、より好ましいと言える。
【0066】
なお、間隙G
2を変化させたときの捲縮数のCv値の変化は、傾斜角度θを変化させたときの捲縮数のCv値の変化に比べて小さい。傾斜角度θの値に関わらず、間隙G
2の数値が小さすぎる場合には、トウバンドTBに対して捲縮が均一に掛かりにくく、また、間隙G
2が大きすぎる場合には、トウバンドTBに対して捲縮が掛かり過ぎて捲縮数のばらつきが大きくなる傾向がみられる。従って、表2では、傾斜角度θを1°に固定した場合のデータのみを示しているが、傾斜角度θを1°以外の角度に設定した場合にも、好ましい間隙G
2の範囲は、表2に示した範囲とほぼ同様であると推測される。
【0067】
[トウバンドのFD及びTDとフィルターのPDとの関係]
次に、フィルターロッドのサンプルを以下の製造方法で製造した。まず、平均酢化度55%のセルロースジアセテートをアセトンに溶解し、濃度約25質量%の紡糸原液を調整した。この紡糸原液を温度40度以上50度以下の温度に調整して紡糸口金12に供給した。紡糸口金12の紡糸孔10は、直径7.0μm以上9.0μm以下の三角形状とした。紡糸原液を紡糸口金12より紡糸筒11内に吐出し、アセトンを蒸発させることにより、FDが6.0でY字形状の断面に設定されたフィラメントFを紡糸した。紡糸筒11より吐出されたヤーンYにオイルエマルジョンを付着させ、これをゴデットローラ15で巻き取った。このヤーンYを合一し、捲縮機5を用いて捲縮することにより、TDが17000の複数のトウバンドTBを作製した。捲縮機5において、間隙G
2を2mmに固定した状態で、傾斜角度θを−1°、0°、1°のいずれかに設定して、前記各トウバンドTBに捲縮を付与した。このときの捲縮数は、30個/25mmに設定した。捲縮後の各トウバンドTBを巻上加工して、フィルターロッド製造装置20を用いることにより、詰め込み量が0.32g/rod、長さが120mm、円周が16,7mmのフィルターロッドの各サンプルを作製した。
【0068】
これらの各フィルターロッドのサンプルについて、PD及びPDCvの測定を行った。PDの測定は、温度22±1度、湿度60±1度の空気を毎秒17.5ccの流量で各フィルターロッドサンプル中に通過させ、そのときのフィルター両端の圧力差を所定単位[mmWG](ミリメートルウォーターゲージ)で測定して行った。PDCv値の算出は、フィルターロッドサンプルを15本に一本の間隔で計300本についてサンプリングし、300本それぞれについて測定したPDの値から、Cv値を百分率で算出することで行った。これらの測定結果を以下の表3に併せて示した。
【0069】
【表3】
表3に示した比較例及び実施例の結果から、傾斜角度θが−1°から1°に近づくほど、フィルターロッドのPD及びPDCvがともに抑制されることが確認できる。このような結果が得られた理由としては、TDが小さく、かつFDを大きく調整するとともに、捲縮数のCv値を抑制したことで、シガレットフィルター内にフィラメントF同士の間の空隙が均一かつ安定して形成されて、PDCVが低減されたことが挙げられる。このように、シガレットフィルター毎のPDのばらつきが小さく抑えることで、PDが低減されたシガレットフィルターを安定した品質で製造できると考えられる。