(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6613412
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】移植免疫応答の抑制方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/407 20150101AFI20191125BHJP
A61L 27/00 20060101ALI20191125BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20191125BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20191125BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
A61K35/407
A61L27/00
A61K39/395 N
A01N1/02
A61P37/06
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-511659(P2016-511659)
(86)(22)【出願日】2015年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2015061045
(87)【国際公開番号】WO2015152429
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-77230(P2014-77230)
(32)【優先日】2014年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508374520
【氏名又は名称】学校法人獨協学園獨協医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】松野 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐司
【審査官】
六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特表平04−501264(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/099917(WO,A1)
【文献】
腎移植・血管外科,2007年,Vol.19,No.2,p.104-112
【文献】
金沢大学十全医学会雑誌,1996年,Vol.105,No.3,p.420-426
【文献】
低温医学,2000年,Vol.26,No.3,p.145,S-3-II-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61K 39/00−39/44
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
C12N 1/00−7/08
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植用臓器を、抗T細胞抗体、抗DC細胞抗体、又は抗II型MHC抗体を含む保存液中で保存した後、移植前に当該保存液を洗い流すことを特徴とする、移植用臓器の処理方法。
【請求項2】
移植用臓器を、抗T細胞抗体、抗DC細胞抗体、又は抗II型MHC抗体を含む保存液中で保存した後、移植前に当該保存液を洗い流すことを特徴とする、移植免疫応答を抑制するためのグラフトT細胞又はグラフトDC細胞の事前除去方法。
【請求項3】
移植免疫応答が臓器移植後のGvH病である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
臓器が肝臓、肺又は消化管である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
移植免疫応答が臓器移植後の拒絶反応である請求項2に記載の方法。
【請求項6】
臓器が肝臓、心臓、肺、消化管、膵臓又は腎臓である請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体を添加した臓器保存液を用いた移植免疫応答の特異的抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植の臨床では、術後の移植免疫応答を抑制することが重要であるが、患者(host、ホスト)はそのために免疫抑制剤を一生服用しなければならず、免疫力低下のためホストに易感染性や造血系腫瘍の増加が起こるだけでなく、医療費も高額となり、医療行政の深刻な課題の一つになっている。臨床で臓器移植が始まって以来、この問題を根本から解決する抑制法の開発が待望されてきた。
移植免疫応答(
図1)には主に、[1]移植を受けるホストのリンパ臓器において、移植片(graft、グラフト)から血行性に遊走した、もしくはグラフト内に残存したグラフト由来の抗原提示樹状細胞(DC細胞)がホストT細胞と細胞集塊を形成し、直接、移植抗原を提示して(直接感作、
図2)、誘導されたキラーT細胞がグラフトを攻撃する拒絶反応(host vs graft反応(HvG反応))と、[2]逆に、グラフト由来の遊走したT細胞が宿主(ホスト)のDC細胞により直接感作を受け(
図3)、キラーT細胞となってホストを攻撃するGvH病(graft vs host反応、
図4)があり、いずれもグラフト内に残っているグラフト白血球(DC細胞またはT細胞)の遊走や残存が原因となっている。
【0003】
ここで詳述すると、
図2は、HvG反応を起こしたホストリンパ組織(リンパ節)の写真であり、グラフト由来のDC細胞(青)がホストT細胞と細胞集塊を形成し,その中で増殖性応答(赤)を起こしていることが分かる。
図3は、GvH反応を起こしたホストリンパ組織(リンパ節)の写真であり、グラフト由来のT細胞(青)がホストのDC細胞(茶)と細胞集塊を形成し,活性化したT細胞が大きくなり増殖している(核が赤)ことが分かる。
図4は、GvH病を起こしたホスト小腸組織の写真であり、大量のグラフト由来T細胞(青)が粘膜内に浸潤し、小腸組織の破壊を起こしていることが分かる。
【0004】
上記[1]に関して、本発明者は、ラット肝移植モデルにおいて、グラフト由来のDC細胞がホストの全身のリンパ臓器へ遊走し、遊走部位でホストのキラーT細胞を誘導して拒絶反応を促進する(
図5,6)ことを証明した(Hepatology 47:1352,2008(非特許文献1),Hepatology 56:1532,2012(非特許文献2))。また上記[2]に関しては、ヒトの肝臓移植症例では、特に親子間などのHLA半合致移植の時に、ホストの約1%が重度のGvH病を発症するといわれる。これはホストが免疫抑制されているので、グラフト由来のキラーT細胞が、抵抗されること無しに標的臓器であるホストの皮膚、消化管などを障害するためで、致命率も高い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hepatology 47:1352−1362,2008
【非特許文献2】Hepatology 56:1532−1545,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗体を添加した臓器保存液を用いた移植免疫応答の特異的抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、臓器保存液にグラフト白血球に対する特異的除去抗体を添加して反応させて洗い流すことにより、抗体は移植臓器内の標的細胞に結合したもののみ残り、移植後にはその抗体の作用で標的細胞のみ減少し、拒絶反応やGvH病が起こらなくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)移植用臓器を、抗白血球抗体を含む保存液中で保存した後、移植前に当該保存液を洗い流すことを特徴とする、移植用臓器の処理方法。
(2)移植用臓器を、抗白血球抗体を含む保存液中で保存した後、移植前に当該保存液を洗い流すことを特徴とする、移植免疫応答の抑制方法。
(3)抗白血球抗体が、抗T細胞抗体である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)移植免疫応答が臓器移植後のGvH病である(2)に記載の方法。
(5)臓器が肝臓、肺又は消化管である(4)に記載の方法。
(6)抗白血球抗体が、抗DC細胞抗体、又は抗II型MHC抗体である(1)又は(2)に記載の方法。
(7)移植免疫応答が臓器移植後のHvG反応である(2)に記載の方法。
(8)臓器が肝臓、心臓、肺、消化管、膵臓又は腎臓である(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、移植免疫応答の特異的抑制方法が提供される。本発明によれば、移植用臓器を冷蔵保存中に、保存液内に白血球に対する抗体を加えて臓器を前処理しておくことにより、GvH病や拒絶反応などの移植免疫応答を抑制することができる。従って、本発明の方法は、臓器移植医療に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1は、臓器移植後の移植抗原感作と移植免疫応答の機序を示す模式図である。
図2は、グラフト由来のDC細胞によりHvG反応を起こしたホストリンパ組織(リンパ節)の写真であり、グラフト由来のDC細胞(青)がホストT細胞と細胞集塊を形成し,その中で増殖性応答(赤)を起こしている。
図3は、GvH反応を起こしたホストリンパ組織(リンパ節)の写真であり、グラフト由来のT細胞(青)がホストのDC細胞(茶)と細胞集塊を形成し,活性化したT細胞が大きくなり増殖(核が赤)している。
図4は、GvH病を起こしたホスト小腸組織の写真であり、大量のグラフト由来T細胞(青)が粘膜内に浸潤し、小腸組織の破壊を起こしている。
図5は、ラット肝移植モデルにおいて、グラフト由来のDC細胞によりHvG反応を起こしたホストリンパ組織(脾臓)の写真である。
図6は、ラット肝移植モデルにおいて、HvG反応により誘導されたキラーT細胞(CD8陽性、青)がグラフト内に浸潤して、盛んに増殖(核が赤)・活性化していることを示すグラフト肝組織の写真である。
図7は、抗T細胞抗体による肝移植後GvH病の抑制を示す本発明の模式図(1)である。
図8は、抗DC細胞抗体による移植肝の拒絶反応の抑制を示す本発明の模式図(2)である。
図9は、肝移植後の個体別体重曲線と生存期間で、抗T細胞抗体による肝移植後GvH病の有意の抑制を示すグラフである。実験1と2はホストの免疫抑制の程度を変えて比較したものである。
図10は、抗グラフトMHC抗体のホスト内前投与による移植肝の拒絶反応の抑制を示す模式図である。
図11は、
図10または
図8の処置によりグラフトDC細胞が消失したことを示すホストリンパ組織(脾臓)の写真である。
図12は、肝移植後の個体別体重曲線と生存期間を示す図である。抗グラフトMHC抗体のホスト内前投与により、移植肝の拒絶反応の抑制が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者は、グラフト肝臓を保存液中で保存する際に、予めグラフト白血球に対する特異的除去抗体で処置しておけば、抗体が結合したグラフト白血球は、移植後すぐにホスト内で除去されるので、グラフト白血球が主因である拒絶反応もGvH病も選択的に抑制され予防できるのではないかという仮説を立てた。
ヒト臓器移植において、このような抗体を移植後に使用する場合には、グラフト特異的であることが必要であり、テイラーメイドの抗体作製が前提となるため、あまり実用的ではない。ここで、ヒト臓器移植の方法を考察してみると、グラフトの肝臓、腎臓、心臓、肺、腸、他ほとんどの臓器の血管に臓器保存液を満したままホストの待つ病院に運び、移植することが通例である。この臓器保存液は、移植直前に臓器を灌流して洗い流す事になっている。
【0012】
そこで本発明者は、この臓器保存液に抗体を添加して反応させた後、抗体含有保存液を洗い流すことにより、抗体は移植臓器内の標的細胞に結合したもののみ残り、移植後にはその抗体の作用で標的細胞のみ減少し、GvH病が起こらなくなることを見出した。拒絶反応についても抗体ホスト内前投与の予備実験で抑制を見ている。
【0013】
1.移植用臓器
本発明において、処理の対象となる臓器としては、特に限定されるものではないが、例えば肝臓、呼吸器(気管支・肺)、消化管(胃、小腸、大腸)、膵臓、心臓、又は腎臓などが挙げられる。
臓器は、血管を含んでいる(血管吻合ができる)限り、その全部であってもよく、一部でもよい。
例えば肝臓の場合、Couinaud(クイノー)の亜区域分類に基づいたそれぞれの区域ごと(S1〜S8)であってもよい。
S1:尾状葉、S2:左葉外側後区域、S3:左葉外側前区域、S4:左葉内側区域、S5:右葉前下区域、S6:右葉後下区域、S7:右葉後上区域、S8:右葉前上区域
また、大きさは血管吻合ができる大きさとすることができる。
心臓と腎臓の場合は、大血管基部を含む臓器全体となる。
呼吸器の場合は、肺葉に気管支と血管を含む部分移植から片肺、心臓と一緒に行う心肺全体移植までとなる。
消化管の場合は、胃から大腸までの一部で、血管吻合できる単位以上の部分移植となる。
【0014】
2.保存液
本発明において使用される保存液は、臓器移植に一般に使用されるビアスパン液(アステラス製薬社製)、クストディオール液(Essential Pharmaceuticals社製)、ユーロコリンズ液(アイロム製薬社製)などが挙げられる。保存時の温度は0℃から4℃である。必要に応じて、保存液に還元グルタチオン溶液などの添加物を添加することもできる。
【0015】
3.抗白血球抗体
本発明において、抗白血球抗体を用いて移植用臓器から除去する対象となる細胞は、T細胞、樹状細胞(dendritic cell;DC細胞)などである。
本発明において、抗白血球抗体とは、T細胞またはDC細胞を除去できるものを意味し、T細胞については抗T細胞抗体、DC細胞については抗DC細胞抗体(例えば抗CD11c抗体、抗CD103抗体、抗CD205抗体)、抗II型MHC抗体などが本発明において処理の対象となる。
抗体を保存液に含有させるには、例えば臓器を入れた保存液に抗体を添加する方法、あるいは予め抗体を含めた保存液をそのまま臓器保存に使用する方法のいずれを採用することもできる。保存液中の抗体の濃度は、臓器の大きさや種類と抗体の力価に応じて適宜変更することができ、例えば2−20μg/g臓器湿重量であり、低いほど良い。
上記抗体は市販品であり、eBioscience,BioLegend社などから入手することができる。
【0016】
4.保存方法
臓器を保存する方法は、臓器の大きさや種類、あるいは移植が必要な患者が登場するまでの時間に応じて異なるが、例えば、1時間〜36時間、好ましくは1日以内である。
保存温度は、0℃〜4℃、好ましくは氷冷(0℃〜2℃)である。
移植を受ける患者の所在地が、臓器が保存されている施設から遠隔地にある場合は、移動中は保存用容器に入れておく。このときの保存条件は、氷は臓器を入れている容器の外側に入れて、直接臓器に触れることのないようにして、保管容器の液中温度を0℃〜2℃に保てるようにする。
【0017】
5.保存液の洗浄
抗体を含む保存液で移植用臓器を保存した後は、移植前に保存液を灌流する。灌流とは、臓器内に洗浄液を入れて保存液を洗い流すことを意味する。
洗浄液は限定されるものではないが、例えば乳酸リンゲル液を用い、洗浄用器具は灌流チューブを用いて、30mL/分くらいの速度で灌流する。洗浄液量は肝臓全部の場合、1Lを門脈から灌流する。腎臓は250gあたり10−40mLを動脈から灌流する。
抗体は適正濃度を使用するため、1/100以下になればホストへの副作用はなく、通常の臓器保存液除去に必要な灌流量で十分である。
【0018】
6.移植免疫応答の抑制
上記のようにして処理された臓器を患者に移植することで、免疫応答を抑制することができる。従って、上記処理後の臓器をホストに移植しても、ホストにおける移植後の免疫応答を予防することができる。
本発明において「免疫応答」とは、GvH病及び拒絶反応(HvG病)の両者を含む。
GvH病は、重症度に応じて急性病がグレードIからIVの4段階に、慢性病が軽症、中等症、重症の3段階に分けられるが、本発明の処置を行うことで、それぞれ1,2段階以上緩和することが理論的に可能である。GvH病を予防する対象となる臓器は、前記の臓器のいずれでもよいが、例えば肝、肺、消化管(例えば腸)などの白血球を多く含む臓器が好ましい。
【0019】
拒絶反応は、ホストがグラフトの生着を拒否することを意味する。拒絶反応を予防する対象となる臓器は、前記の臓器のいずれでもよいが、例えば肝、肺、腸、心、腎、膵臓などが好ましい。拒絶反応に関しては、肝臓、心臓、腎臓、膵臓、呼吸器(肺)や消化管に関してもグラフトDC細胞が原因となるため、本手法で適切な特異的除去抗体が見つかればこれらの臓器にも応用可能である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
グラフトT細胞事前除去による肝臓移植後GvH病の特異的予防
実施例1では、グラフトT細胞事前除去による肝臓移植後GvH病の特異的予防を検討した(
図7)。
【0021】
(1)ラット肝移植モデルでホストを術前に免疫抑制処置することにより、急性GvH病が起こる条件を決定した。
(2)分離精製したドナーラット(種類:Lewisラット、年齢:8−12週齢)のT細胞懸濁液に様々な特異的抗体を入れて4℃で反応させた後にホストに静脈投与し、ホスト内でドナーT細胞除去作用を持つ抗体のスクリーニングを行った。
特異的抗体名と入手先:抗ラットT細胞受容体αβマウスモノクローナル抗体(eBioscience社)、抗ラットCD3マウスモノクローナル抗体(BioLegend社)。
ここで、臓器保存液(ビアスパン液、アステラス社製)は通常、氷冷温に冷却したものを用いるので、氷冷温でも結合し、移植後には標的細胞の除去効果がある抗体であることが前提となる。
(3)候補の抗体(抗ラットT細胞受容体αβマウスモノクローナル抗体)を使って、グラフトの臓器保存液中に加えて反応させて肝移植を行い、GvH病を発症する抗体処置無しのコントロールと比較することにより、平均生存日数とホスト内のGvH病態の時間的経緯を検索した。
【0022】
(4)結果
(4−1)ホストの免疫抑制処置として、移植前に致死量以下の放射線照射(X線3Gy 一回照射)とNK細胞およびCD8細胞を除去する抗体(抗ラットCD8αモノクローナル抗体,eBioscience社)を投与することにより、ラット同種肝移植後のGvH病高率発症系を作製した。ここで使用する近交系ラットは、ヒトのHLA半合致移植モデルとして、親のグラフトを一代雑種の子供(主要組織適合遺伝子複合体MHCが半合致になる)に行う組み合わせにしている。
(4−2)ドナーT細胞を抗ラットT細胞受容体αβ抗体で4℃、1時間処置するとホスト内で除去作用があるが、抗ラットCD3抗体では作用が弱いことを確認した。
(4−3)次に、臓器保存液(ビアスパン液、アステラス社製)に一般的な抗T細胞抗体(抗T細胞受容体αβ抗体、eBioscience社製)を用いて本手法をおこなったところ、有意にGvH病を抑制できることを確認した。
図9は、2つの実験の結果であり、肝移植後の個体別体重曲線と生存期間を示している。
図9において、実験1は免疫抑制法の実験結果であり(3+4匹)、グラフの実線(−)は臓器保存液中に抗T細胞抗体を添加したもの、破線(−−−)は溶媒のみ添加したもの(4+5匹)である。平均生存期間は抗体添加により、約20日が60日以上へと延長できている。
【実施例2】
【0023】
グラフトDC細胞事前除去による移植肝拒絶反応の特異的抑制
本実施例では、グラフトDC細胞事前除去による移植肝拒絶反応の特異的抑制の検討を行った(
図8)。
【0024】
(1)ヒトDC細胞のほとんどはII型MHC(MHC II)が陽性であるが、肝細胞および非実質細胞は、B細胞やKupffer細胞の一部を除き、MHC II陰性である(Am J Pathol 133:82,1988)。そこで予備実験として、ラット肝移植拒絶モデルで、グラフト樹状細胞を主に減少させる様々なグラフトMHC II特異的抗体をホストに前投与した後肝移植し、グラフトDC細胞の遊走や拒絶反応が抑制されるかどうかを検索した。
(2)次に、候補の抗体(グラフトMHC IIに対する特異抗体)を使って、グラフトの臓器保存液中に加えて反応させて肝移植を行い、グラフトDC細胞の遊走が抑制されるかどうかを検索した。
さらに、本発明においては、候補の抗体を使って、グラフトの臓器保存液中に加えて反応させ、移植した後にホスト内での除去作用を確認し、至適量を決定することができる。
この条件で肝移植を行い、抗体処置無しの急性拒絶コントロールと比較することにより、平均生存日数とホスト内の拒絶反応病態の時間的経緯を検索することができる。
(3)結果
(3−1)ホストにグラフトMHC IIに対する特異抗体(OX76マウスモノクローナル抗体,AbD Serotec社製)を腹腔内前投与した(
図10)。
その結果、ほとんどのグラフトDC細胞が消失し(
図11中央)、キラーT細胞の誘導抑制と拒絶反応の有意な遅延が起こるが、副作用としての肝障害は起こらないことを認めた(
図12、表1)。
(3−2)次に、臓器保存液(ビアスパン液、アステラス社製)に同じ抗体を用いて本手法をおこなったところ、投与量0.2mgで十分な血行性遊走性グラフトDC細胞の選択的除去効果を達成することができた(
図11右)。
【0025】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0026】
成熟期の日本で臓器移植手術は今後ますます増加し、厚生労働省の移植医療行政が格段に拡張することが予想される。GvH病や拒絶反応を発症した時は、大量の薬剤投与が必要で深刻な副作用を伴う上に予後不良である。本方法は、GvH病や拒絶反応をグラフト特異的に抑制できる簡便かつ安全な方法であり、免疫抑制剤の減量につながり移植医療に貢献できる。