(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6613478
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】車両の衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
B60R 19/34 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
B60R19/34
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-50810(P2016-50810)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-165185(P2017-165185A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 康夫
(72)【発明者】
【氏名】山根 豪太
(72)【発明者】
【氏名】許 奕輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 督矢
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−216797(JP,A)
【文献】
特開2004−148915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/00 − 19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバンパリインフォースとサイドメンバとの間に介装されて、車両前後方向に潰れて衝撃を吸収する衝撃吸収部材であって、
左右の側壁部と、上壁部と、底壁部を有する角型筒体形状を有しており、
車両前後方向の一端側に設けたフランジ部を前記バンパリインフォースに結合させ、他端側に設けたフランジ部を前記サイドメンバに結合させて、前記バンパリインフォースと前記サイドメンバとの間に介装されており、前記バンパリインフォース側のフランジ部と、前記サイドメンバ側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆向きに設定され、かつ、前記左右の側壁部の前側のフランジ部の折り曲げ方向と、前記上壁部と前記底壁部の前側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆向きに設定された衝撃吸収部材。
【請求項2】
請求項1記載の衝撃吸収部材であって、左右の側壁部を備えており、該左右の側壁部の前端に左右相互に離間する外側へ折り曲げられた左右の前側フランジ部を備え、該左右の側壁部の後端に左右相互に接近する内側へ折り曲げられた左右の後側フランジ部を備えた衝撃吸収部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の衝撃吸収部材であって、上壁部と底壁部を備えており、該上壁部と該底壁部の前端に上下相互に接近する内側へ折り曲げられた上下の前側フランジ部を備え、該上壁部と該底壁部の後端に上下相互に離間する外側へ折り曲げられた上下の後側フランジ部を備えた衝撃吸収部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の衝撃吸収部材であって、前記左右の側壁部と、前記底壁部との間に跨ってビード部を配置した衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の例えばフロントバンパと車両ボディ前部との間に介装される衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントバンパと車両ボディのフロントサイドメンバとの間に、クラッシュボックスと称される衝撃吸収部材を介装して、車両前突時等の衝撃をこの衝撃吸収部材を変形させることにより吸収する技術が提供されている。係る衝撃吸収部材に関する技術が下記の特許文献に開示されている。特許文献1には、ボックス本体が衝撃を受けて軸方向に変位(軸圧潰)する際に、側壁部の内側若しくは外側への変位を抑制して衝撃吸収能を高める技術が開示されている。特許文献2には、ボックス本体の側壁部間をリインフォースで相互に結合し、リインフォースの大きさや形状を適宜設定することにより衝撃吸収能をコントロールする技術が開示されている。
【0003】
特許文献3には、ボックス後端を傾斜面に突き当てた状態で溶接することにより溶接位置を支点としたモーメントの発生を抑制し、これによりボックス本体の内側への座屈の発生を抑制して効率のよい軸圧縮変形を実現する技術が開示されている。特許文献4には、ボックス本体とバンパ骨格部材との間に断面コ字形に開いた補強部材を介在させ、これらの圧縮強度を適切に設定してボックス本体の設計の自由度を高める技術が開示されている。これら特許文献に開示されているようにこのの種の衝撃吸収部材について従来より様々な改良が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−154663号公報
【特許文献2】特開2009−234377号公報
【特許文献3】特開2008−94236号公報
【特許文献4】特開2007−283868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この種の衝撃吸収部材については、特にそのコンパクト化を図る上でさらに改良を施す必要があった。従来の一般的な衝撃吸収部材が
図7に示されている。
図7は、フロントバンパのリインフォース2とフロントサイドメンバ3との間に介在された衝撃吸収部材1を示している。一般に、この種の衝撃吸収部材1では、フロントバンパを経て入力される衝突エネルギーを効率よく吸収するため、フロントオーバーハングに相当する長さL
0は、長辺aと短辺bに依存する軸圧潰波形の半波長(λ
0/2)の整数倍に設定される。このため、衝撃吸収部材1の長さL
0を軸圧潰波形の1波長λ
0に相当する90mmに設定した場合には効率のよい衝撃吸収がなされるが、例えば
図8及び
図9に示すように衝撃吸収部材1の長さL
0を例えば70mmに短縮すると、1波長λ
0に不足する部分は変形しないため、衝突エネルギーの吸収に寄与しなくなる。
【0006】
このように、従来軸圧潰波形の半波長(λ
0/2)の整数倍を設定するために長さL
0として少なくとも90mmを要していたため、効率のよい衝撃吸収能を確保しつつ長さL
0のコンパクト化を図ること困難であった。本発明は、係る従来の問題に鑑みてなされたもので、クラッシュボックスと称される衝撃吸収部材の衝撃吸収能を低下させることなく、その軸方向の長さ寸法を短縮化できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は下記の各発明により解決される。第1の発明は、車両のバンパリインフォースとサイドメンバとの間に介装されて、車両前後方向に潰れて衝撃を吸収する衝撃吸収部材である。第1の発明では、車両前後方向の一端側に設けたフランジ部をバンパリインフォースに結合させ、他端側に設けたフランジ部をサイドメンバに結合させて、当該衝撃吸収部材がバンパリインフォースとサイドメンバとの間に介装されている。第1の発明では、バンパリインフォース側のフランジ部と、サイドメンバ側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆向きに設定されている。
【0008】
第1の発明によれば、車両衝突時等において、衝撃吸収部材が車両前後方向(軸方向)に潰れるように変形して衝撃が吸収される。この軸方向に潰れる軸圧潰(じくあっかい)時には、前端側と後端側に設けたフランジ部がその曲げ側へ変位するように当該衝撃吸収部材が変形する。第1の発明は係るフランジ結合による軸圧潰時の現象を利用してなされている。第1の発明では、バンパリインフォース側のフランジ部とサイドメンバ側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆向きに設定されている。このため、当該衝撃吸収部材は、バンパリインフォース側とサイドメンバ側とで相互に逆方向へ膨らむように潰れる。
【0009】
このように、当該衝撃吸収部材がその長手方向中央を境にして相互に逆方向に膨らむ(内側に膨らむ内凸と外側に膨らむ外凸)ことにより、当該衝撃吸収部材の前端から後端に至る全長の範囲内で軸圧潰波長の1波長を生成されやすくすることができる。一端から他端に至る全長の範囲内で軸圧潰波長の1波長が生成されるように潰れることから、全長にわたって潰れて効率よく衝撃が吸収される。第1の発明によれば、衝撃吸収部材の一端側から他端側に至る全長の範囲で強制的に軸圧潰波長が1波長生成されることから、従来のように軸方向の長さ寸法について制約を受けることなく効率のよい衝撃吸収を実現でき、ひいては従来よりも長さL
0が短い衝撃吸収部材で衝撃を効率よく吸収することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、左右の側壁部と、上壁部と、底壁部を有する角型筒体形状を有しており、前記左右の側壁部の前側のフランジ部の折り曲げ方向と、前記上壁部と前記底壁部の前側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆向きに設定された衝撃吸収部材である。
【0011】
第2の発明によれば、左右側壁部の前側のフランジ部の折り曲げ方向と、上壁部と底壁部の前側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆向きである結果、左右側壁部の前側の膨らみ方向と、上壁部と底壁部の前側の膨らみ方向が相互に逆方向になり、これによっても効率のよう衝撃吸収がなされる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、左右の側壁部を備えた衝撃吸収部材である。第3の発明では、左右の側壁部の前端に左右相互に離間する外側へ折り曲げられた左右の前側フランジ部を備え、左右の側壁部の後端に左右相互に接近する内側へ折り曲げられた左右の後側フランジ部を備えた構成となっており、前側のフランジ部と後側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆になっている。
【0013】
第3の発明によれば、左右の前側フランジ部が例えばバンパリインフォース側に結合され、左右の後側フランジ部が例えばサイドメンバ側に結合されて、当該衝撃吸収部材がバンパリインフォースとサイドメンバとの間に介装されている。この場合、バンパリインフォースを経て衝撃吸収部材に衝撃が入力されると、左右の側壁部はフランジ部をそれぞれ平板形に戻す方向に変位して当該衝撃吸収部材が潰れて衝撃が吸収される。これは、フランジ部の曲げを戻す方向の荷重の方が、曲げ角度をより大きくするための荷重よりも小さいという特性を利用している。このため、左右の側壁部の前側が相互に接近する方向(内側へ膨らむ方向)に変位し、後側が相互に離間する方向(外側へ膨らむ方向)に変位し、これにより左右の側壁部の全長について軸圧潰波長が強制的に1波長生成され、その結果衝撃吸収部材が全長にわたって効率よく潰れて衝撃が吸収される。
【0014】
第4の発明は、第1〜第3の何れか一つの発明において、上壁部と底壁部を備えた衝撃吸収部材である。第4の発明では、上壁部と底壁部の前端に上下相互に接近する内側へ折り曲げられた上下の前側フランジ部を備え、上壁部と底壁部の後端に上下相互に離間する外側へ折り曲げられた上下の後側フランジ部を備えた構成となっており、前側のフランジ部と後側のフランジ部の折り曲げ方向が相互に逆になっている。
【0015】
第4の発明によれば、上下の前側フランジ部が例えばバンパリインフォース側に結合され、上下の後側フランジ部が例えばサイドメンバ側に結合されて、当該衝撃吸収部材がバンパリインフォースとサイドメンバとの間に介装されている。この場合、バンパリインフォースを経て衝撃吸収部材に衝撃が入力されると、フランジ部の上記特性により上壁部と底壁部はフランジ部をそれぞれ平板形に戻す方向に変位して当該衝撃吸収部材が潰れて衝撃が吸収される。このため、上壁部と底壁部の前側が相互に離間する方向(外側へ膨らむ方向)に変位し、後側が相互に接近する方向(内側へ膨らむ方向)に変位し、これにより上壁部と底壁部の全長について軸圧潰波長が強制的に1波長生成され、その結果衝撃吸収部材が全長にわたって効率よく潰れて衝撃が吸収される。
【0016】
第5の発明は、第1の発明において、左右の側壁部と、上壁部と、底壁部を有する角型筒体形状を有しており、左右の側壁部と、底壁部との間に跨ってビード部を配置した衝撃吸収部材である。
【0017】
第5の発明によれば、左右側壁部の左右方向の変位及び上壁部と底壁部の上下方向の変位について、ビード部を配置した長手方向部位に、軸圧潰波長の頂部若しくは谷部(腹部)が生成されやすくなり、これにより当該衝撃吸収部材の全長(前端から後端に至る範囲)に軸圧潰波長の1波長を確実に生成できるようになる。ビード部は、左右の側壁部と上壁部との間に跨って配置しても同等の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る衝撃吸収部材及びその周辺の斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る衝撃吸収部材及びその周辺の分解斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る衝撃吸収部材の斜視図である。
【
図4】本実施形態に係る衝撃吸収部材の横断面図である。
【
図5】本実施形態に係る衝撃吸収部材の縦断面図である。
【
図6】
図5中(VI)部について別形態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を
図1〜
図6に基づいて説明する。図中示した前後、左右、上下の各方向は、車両の前後、左右(車幅)、上下方向に一致している。
図1及び
図2に示すように本実施形態では、車両のフロントバンパとサイドメンバとの間に介装された左右の衝撃吸収部材のうち右側の衝撃吸収部材10を図示して説明する。図示されていない左側の衝撃吸収部材についても同様に構成されている。また、車両の後側の衝撃吸収部材についても以下説明する構成を適用することができる。
【0020】
クラッシュボックスとも称される衝撃吸収部材10は、車両のフロントバンパのバンパリインフォース2と右側のサイドメンバ3との間に介装されている。衝撃吸収部材10の前端がバンパリインフォース2に結合され、後端がサイドメンバ3に結合されている。例えば車両前突時等の衝撃がバンパリインフォース2を経てこの衝撃吸収部材10に入力されると、当該衝撃吸収部材10が車両前後方向(軸方向)に潰れることにより衝撃が吸収されて乗員の保護が図られる。
【0021】
本実施形態の衝撃吸収部材10の概要が
図3に示されている。本実施形態の衝撃吸収部材10は、左右の側壁部11,12と、上壁部13と、底壁部14と、取り付け壁部17を有する角型筒体形状を有している。衝撃吸収部材10は、U字形に折り曲げた鋼板の左右側部を左右の側壁部11,12とし、底部を底壁部14としている。左右の側壁部11,12間には、リインフォース15が結合されている。リインフォース15は、矩形平板形状の鋼板の左右側部をそれぞれ上側へ折り曲げたもので、左右の折り曲げ部15aをそれぞれ左右の側壁部11,12の内面に当接させた状態で溶接により結合されている。リインフォース15は、左右側壁部11,12間の上下方向ほぼ中程に結合されている。
【0022】
左右の側壁部11,12の前部には、それぞれ相互に離間する外側へL字形に折り曲げられてフランジ部11a,12aが設けられている。両側壁部11,12の上部にも、それぞれ外側へL字形に折り曲げられてフランジ部11b,12bが設けられている。上部側の両フランジ部11b,12b間に跨って上側の開口を塞ぐように上壁部13が結合されている。左右の側壁部11,12の後部には、それぞれ相互に接近する内側へL字形に折り曲げられてフランジ部11c,12cが設けられている。
【0023】
上壁部13の前部には、内側(下側)へL字形に折り曲げられてフランジ部13aが設けられている。上壁部13の後部には、外側(上側)へL字形に折り曲げられてフランジ部13bが設けられている。底壁部14の前部には、内側(上側)へL字形に折り曲げられてフランジ部14aが設けられている。底壁部14の後部には、外側(下側)へL字形に折り曲げられてフランジ部14bが設けられている。取り付け壁部17は、左右の側壁部11,12のフランジ部11c,12cと上壁部13のフランジ部13bがスポット溶接により結合されて左右の側壁部11,12の後部に沿って結合されている。この取り付け壁部17が4箇所でボルト締結されて当該衝撃吸収部材1がサイドメンバ3の前部に結合されている。なお、フランジ部の曲げ方向については、当該衝撃吸収部材10が角型円筒形状を有することから当該円筒形状の外周側を外側、内周側を内側と言い、外側への折り曲げを外曲げ、内側への折り曲げを内曲げとも言う。
【0024】
このように、相互に対向する左右の側壁部11,12の前側のフランジ部11a,12aの折り曲げ方向と後側のフランジ部11c,12cの折り曲げ方向は、前者が外曲げであり、後者が内曲げである意味で相互に逆方向になっている。また、相互に対向する上壁部13と底壁部14のそれぞれの前側のフランジ部13a,14aと、後側の底壁部14の前側のフランジ部14aと後側のフランジ部14bの折り曲げ方向についても、前者が内曲げで、後者が外曲げである意味で相互に逆方向になっている。
【0025】
左右の側壁部11,12の前側のフランジ部11a,12aと、底壁部14の前側のフランジ部14aがバンパリインフォース2に当接されて溶接により結合されている。また、左右側壁部11,12の後側のフランジ部11c,12cが、サイドメンバ3の前部に当接されて溶接により結合されている。上壁部13の後側のフランジ部13bと、底壁部14の後側のフランジ部14bは、それぞれ2本のボルト3aによりサイドメンバ3に結合されている。
【0026】
左右の側壁部11,12と底壁部14とにより形成される角部には、左右一対のビード部16が設けられている。左右のビード部16は、当該角部を局部的に内側へ盛り上がらせる方向に変形させて設けられている。
【0027】
以上のように構成した本実施形態の衝撃吸収部材10によれば、その前後方向の長さL
1を例えば約70mmに設定した場合にも効率のよい衝撃吸収がなされる。
図4に示すようにバンパリインフォース2を経て衝撃吸収部材10に衝撃Fが入力されると、その潰れる過程において左右の側壁部11,12は図中破線で示した長手方向中央を境にして前側は内側へ膨らむ方向に変位し、後側は外側へ膨らむ方向に変位する。これは、前側のフランジ部11a,12aが外曲げであるので側壁部11,12の前側は両フランジ部11a,12aの曲げを戻す方向である内側へ膨らみ、後側のフランジ部11c,12cが内曲げであるので側壁部11,12の後側は同じく両フランジ部11c,12cの曲げを戻す方向である外側へ膨らむ方向に変位する現象に拠る。
【0028】
この点は、
図5に示すように上壁部13と底壁部14についても同様で、その潰れる過程において上壁部13と底壁部14は図中破線で示した長手方向中央を境にして前側は外側へ膨らむ方向に変位し、後側は内側へ膨らむ方向に変位する。前側のフランジ部13a,14aが内曲げであるので、上壁部13と底壁部14の前側は両フランジ部13a,14aの曲げを戻す方向である外側に膨らみ、後側のフランジ部13b,14bが外曲げであるので上壁部13と底壁部14の後側は両フランジ部13b,14bの曲げを戻す方向となる内側へ膨らむ方向に変位する現象に拠る。
【0029】
衝撃吸収部材10の左右の側壁部11,12及び上壁部13と底壁部14がそれぞれその長手方向中央を境にして相互に逆方向に膨らむように潰れることにより、当該衝撃吸収部材10の前端から後端に至る全長の範囲内で軸圧潰波長の1波長λ
1が過不足なく生成される。衝撃吸収部材10がその一端から他端に至る全長の範囲内で軸圧潰波長の1波長λ
1が生成されるように潰れることから、当該衝撃吸収部材10が全長にわたって潰れて効率よく衝撃Fが吸収される。なお、
図4,5では、側壁部11,12及び上壁部13と底壁部14がそれぞれ矢印で示す方向に膨らんで細線で示す波形に変形した様子が示されている。この波形が軸圧潰波形Jに相当する。軸圧潰波形の1波長λ
1が当該衝撃吸収部材10の前端から後端に至る全長の範囲内で過不足なく生成されている様子が示されている。
【0030】
このように衝撃吸収部材10の全長の範囲内で強制的に軸圧潰波長が過不足なく1波長λ
1生成されることから、従来のように軸方向の長さL
0について制約を受けることなく効率のよい衝撃吸収を実現できる。これにより、本実施形態の衝撃吸収部材10によれば、衝撃吸収能を損なうことなくその長さ寸法を従来の90mmから70mmに短縮化して前後方向のコンパクト化を図ることができる。
【0031】
この点、
図7に示す従来の衝撃吸収部材1によれば、その左右の側壁部1a,1b及び上壁部1cと底壁部1dの前端と後端をそれぞれ
図8,9に示すようにバンパリインフォース2とサイドメンバ3に突き当てた状態で結合されていた。このため、前側から衝撃が入力されると、左右の側壁部1a,1b及び上壁部1cと底壁部1dはそれぞれ細線で示すようにその前端から後端に至る全長の範囲内で軸圧潰波形Jの1/2波長λ
0を生成する必要上、当該衝撃吸収部材1の長さL
0を約90mmに設定する必要があり、その結果衝撃吸収能を損なうことなく、そのコンパクト化を図ることが困難であった。本実施形態に係る衝撃吸収部材10によれば、前後で逆向きに折り曲げられたフランジ部を当接させて当該衝撃吸収部材10を結合する構成とすることにより、軸圧潰波形Jを適切に制御することができ、これにより衝撃吸収能を低下させることなく当該衝撃吸収部材10のコンパクト化を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、左右の側壁部11,12と底壁部14との角部に左右一対のビード部16が設けられている。
図4に示すようにビード部16は、衝撃入力側(前側)の概ね1/4L
1の長さ位置に設けられている。このビード部16によれば、軸圧潰波長の膨らみの頂部若しくは谷部の長手方向の位置を前側1/4の位置に設定しやすくなり、これにより当該衝撃吸収部材10の全長において過不足なく軸圧潰波長の1波長λ
1をより確実に生成させることができるようになる。
【0033】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、
図6に示すように上壁部13の前側のフランジ部13aを省略して、バンパリインフォース2側に設けたフランジ部2aに対して結合する構成としてもよい。フランジ部13aを省略することにより、当該上壁部13の前部のバンパリインフォース2に対する溶接作業の便宜を図ることができる。
【0034】
また、車両前側の衝撃吸収部材10を例示したが、リヤバンパとサイドフレームとの間に介装する衝撃吸収部材について同様の構成を適用することができる。
【0035】
各フランジ部11a,12a、11c,12c、13a,14a、13b,14bの折り曲げ方向は外側、内側で逆にしてもよい。結合用のフランジ部は、各壁部11,12,13,14について前後で逆向きとなる方向に折り曲げて設けることにより同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
リインフォース15若しくはビード部16は省略することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…衝撃吸収部材(従来)
1a…側壁部(左)、1b…側壁部(右)、1c…上壁部、1d…底壁部
2…バンパリインフォース(フロント)
3…サイドメンバ(右側)
10…衝撃吸収部材
11…側壁部(左)
11a…フランジ部(前)、11b…フランジ部(上)、11c…フランジ部(後)
12…側壁部(右)
12a…フランジ部(前)、12b…フランジ部(上)、12c…フランジ部(後)
13…上壁部
13a…フランジ部(前)、13b…フランジ部(後)
14…底壁部
14a…フランジ部(前)、14b…フランジ部(後)
15…リインフォース、15a…折り曲げ部
16…ビード部
17…取り付け壁部
J…軸圧潰波形
λ
0、λ
1…軸圧潰波形Jの波長