【実施例】
【0025】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)魚油と鯨油の脂質組成の比較
魚油としてタラ肝油を用い、鯨油としてゴンドウ鯨油を用いて、脂質クラスを測定した。脂質クラスの測定は以下の通りにして行った。
【0027】
薄層クロマトグラフィーを基にしたイアトロスキャンを用いてタラ肝油とゴンドウ鯨油の脂質クラスをエリア%で表した。
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1より、タラ肝油とゴンドウ鯨油の脂質クラスは、ほぼ同様であり、各成分組成に有意差はなかった。
【0030】
次に、タラ肝油とゴンドウ鯨油の脂肪酸含有量を測定した。脂肪酸含有量の測定は以下の通りにして行った。
【0031】
脂肪酸含有量については、キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィーで測定し、総脂肪酸量に対する割合で示した。
結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2より、ゴンドウ鯨油では、EPA(20:5n−3)及びDHA(22:6n−3)等のn−3系高度不飽和脂肪酸の含有量が、タラ肝油と比較して少なく、特に、EPAの含有量がタラ肝油と比較して少なかった。
【0034】
(実施例2)養魚用飼料の調製
試験区1〜5及び対照区の各試験飼料を、表3に示す各成分を混合して調製した。試験区1〜3では、脂質として魚油(タラ肝油)と鯨油(ゴンドウ鯨油)を特定の比で併用した(試験区1;魚油:鯨油=3:1、試験区2;魚油:鯨油=1:1、試験区3;魚油:鯨油=1:3)。試験区4では、脂質としてイカ肝油と鯨油を併用した。試験区5では、脂質として鯨油を単独で用いた。対照区では、脂質として魚油を単独で用いた。各試験飼料において、魚粉、イカミール及びオキアミミールはタンパク質源として用い、α−セルロース及びデキストリンは炭水化物源として用い、活性グルテンは粘結剤として用いた。
【0035】
【表3】
【0036】
(実施例3)ヒラメの養殖試験
実施例2で調製した試験区1〜5及び対照区の6種類の試験飼料を、試験開始時の体重が2.8gのヒラメ(各水槽15匹、各試験区3水槽、合計45匹ずつ)にそれぞれ給与し、40日間飼育した。飼育システムは流水式で、試験中の水質を良好に保った。試験中の水温は16〜17℃とした。給餌は、朝、夕2回の飽食で行った。試験終了時に、増重率(%)、生残率(%)、比肝重量(%)、肥満度、並びに魚体脂質クラス及び脂肪酸含有量を測定した。
増重率(%)、生残率(%)、比肝重量(%)及び肥満度の結果を表4に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
表4より、増重量については、試験区4(イカ肝油:鯨油=1:3)で最も大きかったが、他の試験区でも、対照区と遜色なく、同等の成長を示した。また、生残率、比肝重量及び肥満度については、試験区間の差はあまりなかった。
【0039】
魚体脂質クラスの測定は飼料中の脂質ブライとダイアーの方法で抽出したのち、イアトロスキャンを用いてその抽出油の脂質クラスを測定した。
【0040】
魚体から得られた中性脂質及び極性脂質の脂肪酸含有量の測定は、上記のタラ肝油及び鯨油の脂肪酸含有量の測定と同様にして測定した。
【0041】
魚体脂質クラス、並びに魚体から得られた中性脂質及び極性脂質の脂肪酸含有量の測定結果を表5、表6及び表7に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
表5より、試験終了時の魚体脂質クラスは、試験区1〜5と、対照区の間で有意差はなかった。また、表6及び表7より、魚体脂質の脂肪酸含有量については、用いた脂質の脂肪酸含有量の傾向を反映して、鯨油を単独で用いた試験区5では、魚油を単独で用いた対照区と比較して、EPA(20:5n−3)及びDHA(22:6n−3)等のn−3系高度不飽和脂肪酸の含有量が少なかった。
【0046】
(実施例4)カンパチの養殖試験
試験区6〜9及び対照区の5種類の試験飼料を、試験開始時の体重が73.2gのカンパチ(各試験区20匹ずつ)にそれぞれ給与し、45日間飼育した。試験区6〜9及び対照区の試験飼料として、それぞれ、実施例2で調製した試験区2〜5の試験飼料及び対照区の試験飼料を用いた。すなわち、試験区6〜7では、脂質として魚油(タラ肝油)と鯨油(ゴンドウ鯨油)を特定の比で併用した(試験区6;魚油:鯨油=1:1、試験区7;魚油:鯨油=1:3)。試験区8では、脂質としてイカ肝油と鯨油を1:3の比で併用した。試験区9では、脂質として鯨油を単独で用いた。対照区では、脂質として魚油を単独で用いた。飼育システムは流水式で、試験中の水質を良好に保った。試験中の水温は15〜22℃とした。給餌は、朝、夕2回の飽食で行った。試験終了時に、増重率(%)、生残率(%)、比肝重量(%)、肥満度、摂餌量、魚体の成分組成及び魚体の血液中のヘマトクリット値を測定した。
まず、試験区6〜9及び対照区の試験飼料の脂肪酸含有量を測定した。結果を表8に示す。
【0047】
【表8】
【0048】
表8より、鯨油を用いた試験区6〜9では、魚油を単独で用いた対照区と比較して、EPA(20:5n−3)の含有量が少なかった。DHA(22:6n−3)については、試験区6、7及び9は対照区とほぼ同等の量であり、イカ肝油を用いた試験区8は他の試験区と比較してDHAの含有量が多かった。
【0049】
次に、増重率(%)、生残率(%)、比肝重量(%)、肥満度及び摂餌量の測定結果を表9に示す。
【0050】
【表9】
【0051】
表9より、増重率及び生残率については、試験区6〜9は、対照区と比較して高かった。比肝重量については、試験区9が他の試験区と比較して若干低かったが、試験区間の差はほぼなかった。肥満度については、試験区間の差はなかった。摂餌量については、試験区6、9が他の試験区より高かった。
【0052】
また、魚体の成分組成の測定結果を表10に示す。
【0053】
【表10】
【0054】
表10より、試験終了時の魚体の成分組成は、鯨油を高い比率で用いた試験区7〜9では、試験区6及び対照区と比較して総脂質の割合が高かった。他の成分については、試験区間で有意差はなかった。
【0055】
魚体の血液中のヘマトクリット値の測定結果を
図1に示す。
図1より、試験区6と9間で有意差が検出されたが、対照区と試験区間の有意差は検出されず、いずれの試験区においてもカンパチの健康状態に悪影響は及ぼされなかった。
【0056】
以上の結果から、鯨油は、魚油と比較してEPA(20:5n−3)及びDHA(22:6n−3)等のn−3系高度不飽和脂肪酸の含有量は少ないが、全く問題なく、養魚用飼料において、鯨油を魚油に代えて用いて、又は鯨油を魚油と共に用いて、魚油を用いた飼料と同等の飼育効果を得ることができ、魚油を鯨油で代替することができることが示された。