(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スロットル弁の開度と開口面積との関係と、前記スロットル弁における吸気の目標流量及び実流量とに基づき、前記スロットル弁の開度を制御するエンジンの制御装置において、
前記スロットル弁の上流圧に対する下流圧の比である圧力比を算出する算出部と、
前記目標流量と前記実流量とに基づき、前記開度を補正する補正部とを備え、
前記補正部は、前記圧力比が所定圧力比未満の場合と比較して前記所定圧力比以上の場合に、前記開度の単位時間あたりの補正量を減少させて前記開度を経時変化させる
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
前記圧力比が前記所定圧力比未満の場合に、前記補正部での補正量を前記関係に反映させる学習を実施し、前記圧力比が前記所定圧力比以上の場合に、前記学習を停止する学習部を備える
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、実施形態としてのエンジンの制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
[1.構成]
図1は、車両に搭載されるエンジン10及びこれを制御するエンジン制御装置8を示す図である。エンジン10の吸気通路11にはスロットル弁13が介装され、その上流側には吸気流量Qを検出するエアフローセンサー14が設けられる。また、スロットル弁13の下流側には、インマニ圧P
2(インマニ12の圧力)を検出するインマニ圧センサー15が設けられる。
図1中の符号16〜18はそれぞれ、アクセル開度Acを検出するアクセル開度センサー16,大気圧P
1を検出する大気圧センサー17,エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサー18である。上記のセンサー14〜18で検出された情報は、エンジン制御装置8に伝達される。
【0016】
エンジン制御装置8は、車載ネットワークに接続されてエンジン10の運転状態を司る電子制御装置であり、CPU,MPUなどのプロセッサー装置6やROM,RAMなどのメモリー装置7を集積した電子デバイスである。このエンジン制御装置8は、少なくともスロットル弁13の開度(スロットル開度θ)を制御する機能を持つ。ここでは、車両に要求されるトルクや出力に応じた吸気量が気筒内に導入されるように、スロットル開度θが制御される。スロットル開度θを制御するためのプログラムはメモリー装置7に記録され、プロセッサー装置6で実行される。
図1のエンジン制御装置8の内部には、スロットル開度制御の処理内容を説明するためのブロック図を示す。
【0017】
スロットル開度制御の処理内容を機能的に分類すると、エンジン制御装置8には、算出部1,制御部2,第二算出部3,補正部4,学習部5が設けられる。本実施形態では、これらの各機能が、メモリー装置7に記録されたソフトウェアで実現されるものとする。ただし、各機能の一部又は全部をハードウェア(電子制御回路)で実現してもよく、あるいはソフトウェアとハードウェアとを併用して実現してもよい。
【0018】
[1−1.算出部]
算出部1は、車両に要求されるトルクや出力に応じて、スロットル開度θの制御目標値である目標スロットル開度θ
thを算出するものである。ここでは、スロットル弁13を通過させたい吸気量の目標値である目標吸気流量Q
thが算出されるとともに、スロットル弁13の上流圧と下流圧との関係を表す圧力相関値が算出される。また、圧力相関値に基づいて、スロットル弁13を通過する吸気の流速に相当する流速相当値Vが算出される。さらに、目標吸気流量Q
thと流速相当値Vとに基づいて、スロットル弁13における開口面積Sの目標値である目標開口面積S
thが算出される。そして、目標開口面積S
thに基づいて目標スロットル開度θ
thが算出される。ここで算出された目標スロットル開度θ
thの情報は、制御部2に伝達される。
【0019】
目標吸気流量Q
thは、エンジン10に要求される出力(要求出力)を発生させるのに必要な吸気量(質量流量)に相当する。エンジン10の要求出力の大きさは、外部負荷装置(変速機,空調装置,各種補機など)やアクセル開度Ac,エンジン回転速度Neに応じて算出される。具体的な目標吸気流量Q
thの算出手法は任意であり、公知の各種算出手法を採用することができる。
【0020】
圧力相関値は、スロットル弁13の上流圧と下流圧との相対的な関係を表すパラメーターであり、例えば上流圧に対する下流圧の比である「圧力比」や、下流圧に対する上流圧の比である「第二圧力比」がこれに含まれる。本実施形態では、大気圧P
1を上流圧とし、インマニ圧P
2を下流圧として、大気圧P
1に対するインマニ圧P
2の比率を「圧力比R」と定義する(R=P
2/P
1)。圧力比Rは、圧力相関値の一例である。
【0021】
流速相当値Vは、圧力比Rに基づいて算出される。算出部1には、流速相当値Vと圧力比Rとの関係を表す数式やマップ,グラフなどが予め設定される。流速相当値Vと圧力比Rとの関係を、
図2(A)に例示する。流速相当値Vは、圧力比Rが1に近づくほど0に近づき、圧力比Rが0に近づくほど所定速度相当値V
0(音速に相当する臨界速度)に漸近する特性を持つ。
【0022】
目標開口面積S
thは、目標吸気流量Q
thと流速相当値Vとに基づいて算出される。一般に、スロットル弁13を通過する吸気流量Qは、スロットル弁13の開口面積Sと流速と吸気密度ρとの積で表現することができる。したがって、目標開口面積S
thは、目標吸気流量Q
thを流速及び吸気密度ρの積で除した値に相当する。吸気密度ρは定数としてもよいし、吸気温度(外気温)やインマニ温度に基づいて推定してもよい。
【0023】
目標スロットル開度θ
thは、目標開口面積S
thに基づいて算出される。算出部1には、スロットル弁13の開口面積Sとスロットル開度θとの対応関係を表す数式やマップ,グラフなどが予め設定される。開口面積Sとスロットル開度θとの関係を
図3(A)に例示する。スロットル開度θは、開口面積Sが増大するほど大きくなる特性を持つが、スロットル開度θの増加割合は、開口面積Sが増大するほど減少する(グラフの右側ほど傾きが小さくなる)特性を持つ。
【0024】
このような対応関係に基づき、算出部1は目標開口面積S
thに対応するスロットル開度θを目標スロットル開度θ
thとして算出する。ここで、開口面積Sとスロットル開度θとの対応関係を規定するマップのことを「開度・開口面積マップ」と呼ぶ。また、グラフ上における任意の点のことを「状態点」と呼び、開口面積S,スロットル開度θの各座標を用いてその位置を表現する。
【0025】
[1−2.制御部]
制御部2は、算出部1で算出された目標スロットル開度θ
thに対応する目標開度電圧の制御信号をスロットル弁13に出力するものである。目標スロットル開度θ
thと目標開度電圧との関係は、スロットル弁13の特性に応じて、数式やマップ,グラフとして制御部2に予め設定されている。実際のスロットル開度θが目標スロットル開度θ
thに一致するように制御されると、理論上はスロットル弁13を通過する吸気流量Qが目標吸気流量Q
thに一致することになる。一方、スロットル弁13の個体ばらつきなどにより、吸気流量Qと目標吸気流量Q
thとが一致せず、目標吸気流量Q
thに対する吸気流量Qの偏差が残留する場合がある。このような偏差は、第二算出部3で算出される。
【0026】
[1−3.第二算出部]
第二算出部3は、スロットル弁13を通過する吸気の目標流量と実流量との相違量に応じた値を持つ流量相関値を算出するものである。流量相関値は、目標流量と実流量とがどの程度ずれているのかを表すパラメーターであり、例えば目標流量と実流量との差(流量差)や、目標流量と実流量との比(流量比)がこれに含まれる。本実施形態では、目標吸気流量Q
thを目標流量とし、エアフローセンサー14で検出された吸気流量Qを実流量として、目標吸気流量Q
thから吸気流量Qを減じた値を「流量差D」と定義する(D=Q
th-Q)。流量差Dは、流量相関値の一例である。ここで算出された流量差Dの情報は、補正部4に伝達される。
【0027】
[1−4.補正部]
補正部4は、スロットル弁13を通過する吸気の目標流量と実流量とに基づき、スロットル開度θを補正するものである。ここでは、例えば流量相関値に基づいてスロットル開度θが補正される。本実施形態では、流量差Dの絶対値が所定値D
th以上(所定量以上)である場合に、スロットル開度θが補正される。このとき、流量差Dが正の場合(吸気流量Qが目標吸気流量Q
thよりも所定値D
th以上小さい場合)には、スロットル開度θが増加補正され、流量差Dが負の場合(吸気流量Qが目標吸気流量Q
thよりも所定値D
th以上大きい場合)には、スロットル開度θが減少補正される。
【0028】
補正量は、流量差Dに応じて設定してもよいし、予め設定された固定値としてもよい。本実施形態では、流量差Dにゲインgを乗じた大きさの補正量が設定される。このような補正により、流量差Dの絶対値が大きいほど補正量が増大し、流量差Dの絶対値が小さくなるに連れて補正量も減少する。これにより、流量差Dがゼロに漸近するように、スロットル開度θが補正される。また、補正部4は、補正前を基準として、補正後のスロットル開度θの変化分を合計補正量Xとして算出する。この合計補正量Xは、補正が開始されてからのトータルの補正量に相当する。例えば、目標吸気流量Q
thが一定であるとき、補正により流量差Dがほぼゼロになると、補正量がそれ以上増減しなくなるため、合計補正量Xの値もほぼ一定となる。
【0029】
一方、スロットル弁13の上流圧と下流圧とが比較的近い運転状態では、スロットル開度θの補正量が急変しやすく、補正精度が低下しうる。例えば、流量差Dがゼロの前後で振動し、これに合わせて合計補正量Xの値も振動することがある。このような課題に鑑みて、補正部4は、圧力比Rに基づいて補正手法を変更する。すなわち、圧力比Rが所定圧力比R
th未満である場合と比較して、圧力比Rが所定圧力比R
th以上である場合には、単位時間あたりの補正量を減少させて補正速度を遅くする。例えば、圧力比Rが所定圧力比R
th未満であるときのゲインg
1よりも、圧力比Rが所定圧力比R
th以上であるときのゲインg
2を小さく設定する(g
2<g
1)。これにより、スロットル開度θの補正量が急変しにくくなり、制御安定性が向上する。なお、上記の所定圧力比R
th(所定量)の具体的な値は任意に設定可能であり、本実施形態では所定圧力比R
thが1に近い値(例えば0.95)に設定される。
【0030】
上記の通り、補正部4は、流量相関値が相違量を所定量以上とする値を持つ場合に(流量差Dの絶対値が所定値D
th以上である場合に)、スロットル開度θを補正する機能を持つ。また、補正部4は、圧力比Rが所定圧力比R
th未満である場合と比較して、圧力比Rが所定圧力比R
th以上である場合に、単位時間あたりの補正量を減少させる機能を持つ。
【0031】
[1−5.学習部]
学習部5は、補正部4で設定された補正量を、
図3(A)に示すような開度・開口面積マップに反映させる学習を実施するものである。ここでは、補正部4によるスロットル開度θの補正が実施された後、補正量が安定していることを条件として、スロットル開度θの学習が実施される。本実施形態では、流量差Dがほぼゼロとなり、その状態が所定時間以上継続した状態であって、合計補正量Xが所定補正量X
th以上である場合に、学習が実施される。
【0032】
例えば、
図3(B)に示すように、スロットル弁13の目標開口面積S
thがS
0であるときに、開度・開口面積マップに基づいて算出される目標スロットル開度θ
thがθ
0であったとする。この状態点(S
0,θ
0)での目標吸気流量Q
thと吸気流量Qとの流量差Dが所定値D
th以上であれば、補正部4がスロットル開度θの補正を実施する。この補正により状態点が(S
0,θ
0)から(S
0,θ
1)へと移動した後、補正量が安定(状態点の位置が停止したまま安定)すると、今度は学習部5が学習を実施する。
【0033】
学習速度は、補正部4による補正速度よりも遅い速度とされる。すなわち、開口面積S
0に対応するスロットル開度θ
0をただちにθ
1へと変更するのではなく、状態点を(S
0,θ
0)から(S
0,θ
1)へとゆっくりと移動させながら更新する。例えば、ゲインg
2よりも小さい値のゲインg
3を流量差Dに乗じ(g
3<g
2)、その値をスロットル開度θ
0の学習量とする。また、学習後のグラフ形状は、移動した状態点に近づくように変形させる。このような状態点の学習を繰り返し実施することで、
図3(B)に示すように、開口面積Sとスロットル開度θとの対応関係が、破線グラフから実線グラフへと変更され、スロットル弁13の個体ばらつきが吸収される。
【0034】
一方、スロットル弁13の上流圧と下流圧とが比較的近い運転状態では、補正精度だけでなく学習精度も低下しうる。このような課題に鑑みて、学習部5は、圧力比Rに基づいて学習手法を変更する。すなわち、圧力比Rが所定圧力比R
th未満であることを学習の実施条件とし、圧力比Rが所定圧力比R
th以上である場合には学習を停止する。ここでいう所定圧力比R
thは、補正部4での補正手法が変更される所定圧力比R
thと同一値である。これにより、スロットル開度θの補正量が急変しやすい不安定な状態での学習が回避され、学習精度の低下が抑制される。
【0035】
圧力比Rとスロットル弁13の開口面積Sとの関係を、
図2(B)に示す。学習が実施可能となる運転領域は、圧力比Rが所定圧力比R
th未満となる領域である。したがって、エンジン回転速度NeがNe
1であるときには、開口面積Sが0からS
1までの間でなければ、その開口面積Sに対応するスロットル開度θの学習を実施することができない。一方、エンジン回転速度Neが上昇するに連れて、同一の圧力比Rを与える開口面積Sが大きくなる。これにより、エンジン回転速度NeがNe
2(Ne
1<Ne
2)のときには、学習領域は開口面積Sが0からS
2(S
1<S
2)までの間に広げられる。また、エンジン回転速度Neが上昇してNe
3(Ne
2<Ne
3)になると学習領域がさらに拡大し、開口面積Sが0からS
3(S
2<S
3)までの間であれば学習が可能となる。
【0036】
このように、圧力比Rが所定圧力比R
th未満となることを学習条件とした場合であっても、エンジン回転速度Neが比較的高い運転領域では、幅広い開口面積Sのレンジに対応するスロットル開度θの学習が可能となる。
また、上記の通り、学習部5は、圧力相関値が1に近い値を持つ場合に(圧力比Rが所定圧力比R
th未満である場合に)、補正部4での補正量を対応関係に反映させる学習を実施し、圧力相関値が1から離れた値を持つ場合に(圧力比Rが所定圧力比R
th以上である場合に)、学習を停止する機能を持つ。
【0037】
[2.フローチャート]
スロットル開度制御の手順を
図4に例示する。このフローチャートに示された制御は、エンジン制御装置8にて所定周期で繰り返し実行される。算出部1では、車両の要求出力に基づいて目標吸気流量Q
thが算出され(ステップA1)、大気圧P
1に対するインマニ圧P
2の比率が圧力比Rとして算出される(ステップA2)。また、圧力比Rから流速相当値Vが算出され、その流速相当値Vと目標吸気流量Q
thとに基づいて目標開口面積S
thが算出される(ステップA3)。その後、開度・開口面積マップに基づき、目標開口面積S
thに対応する目標スロットル開度θ
thが算出され(ステップA4)、これに対応する目標開度電圧の制御信号が、制御部2からスロットル弁13へと出力される(ステップA5)。
【0038】
一方、第二算出部3では、目標吸気流量Q
thと吸気流量Qとの流量差Dが算出され(ステップA6)、流量差Dの絶対値が所定値D
th以上であるか否かが判定される(ステップA7)。ここで、|D|≧D
thの場合には、圧力比Rに応じた補正勾配(補正速度)が設定されて、スロットル開度θの補正が実施される(ステップA8〜A10)。すなわち、圧力比Rが所定圧力比R
th未満であればゲインg
1が用いられ、比較的大きい補正勾配(速い補正速度)で補正が実施される(ステップA9)。一方、圧力比Rが所定圧力比R
th以上であればゲインg
1よりも小さいゲインg
2が用いられ、比較的小さい補正勾配(遅い補正速度)で補正が実施される(ステップA10)。これらの補正が実施された後には、ステップA11に進む。なお、ステップA7で|D|<D
thの場合にもステップA11に進む。
【0039】
ステップA11では、補正部4において合計補正量Xが算出される。ここで、合計補正量Xの絶対値が所定補正量X
th以上であるとき(ステップA12)、圧力比Rが所定圧力比R
th未満であればゲインg
2よりもさらに小さいゲインg
3が用いられ、補正速度よりもゆっくりと学習が実施される(ステップA13,A14)。これにより、補正部4での補正内容が開度・開口面積マップへと徐々に反映され、スロットル開度θと開口面積Sとの対応関係が安定的に適正化される。一方、圧力比Rが所定圧力比R
th以上であれば、学習が禁止される(ステップA15)。なお、|X|<X
thの場合には学習が実施されず、そのまま本フローが終了する。
【0040】
[3.作用]
図5(A)〜(F)はそれぞれ、圧力比Rが所定圧力比R
th未満である場合における、吸気流量Q,圧力比R,目標開口面積S
th,スロットル開度θ,合計補正量X,学習値の経時変化を示すグラフである。時刻t
1〜t
3間にアクセルペダルが踏み込まれた場合、アクセル開度Ac,エンジン回転速度Neなどに基づいて目標吸気流量Q
thが算出され、圧力比Rに応じて流速相当値Vが算出される。また、目標吸気流量Q
thと流速相当値Vとから目標開口面積Sthが算出され、これに対応する目標スロットル開度θ
thが算出された後、実際のスロットル開度θが目標スロットル開度θ
thに一致するように、スロットル弁13が制御される。
【0041】
時刻t
2に目標吸気流量Q
thと実際の吸気流量Qとの流量差Dが所定値D
th以上になると、スロットル開度θの補正が開始される。このとき、圧力比Rが所定圧力比R
th未満であることから、
図5(E)に示すように、比較的大きな補正勾配で補正が実施される。その後、時刻t
4に流量差Dがほぼゼロになると、合計補正量Xがほぼ一定値となり、補正量が安定する。
図5(D)中のハッチング領域の高さは、合計補正量Xに相当する。合計補正量Xが所定補正量X
th以上でほぼ一定値に収束すると学習条件が成立し、スロットル開度θの学習が開始される(時刻t
5)。この学習では、
図3(B)に示すように、状態点の位置(スロットル開度θの座標)が修正されるとともに、修正後の状態点に対応するようにグラフ形状が変更,更新される。これにより、
図5(D)中に一点鎖線で示すように、スロットル開度θの補正量が学習値として吸収される。時刻t
6に合計補正量Xの全てが開度・開口面積マップに反映されると、学習が完了する。
【0042】
図6(A)〜(F)はそれぞれ、圧力比Rが所定圧力比R
th以上である場合における、吸気流量Q,圧力比R,目標開口面積S
th,スロットル開度θ,合計補正量X,学習値の経時変化を示すグラフである。時刻t
7にアクセルペダルが踏み込まれ、時刻t
8に流量差Dが所定値D
th以上になると、スロットル開度θの補正が開始される。このとき、圧力比Rが所定圧力比R
th以上であれば、
図6(E)に示すように、比較的小さい補正勾配で補正が実施される。
図6(E)中の破線は、圧力比Rが所定圧力比R
th未満の場合の補正勾配である。これにより、スロットル開度θの補正量の急変が抑制される。また、圧力比Rが所定圧力比R
th以上の場合には、
図6(F)に示すように、学習が停止する。これにより、不安定な状態での学習が回避される。
【0043】
[4.効果]
(1)上記のエンジン制御装置8では、圧力比Rが所定圧力比R
th以上である場合には、圧力比Rが所定圧力比R
th未満である場合と比較して、単位時間あたりのスロットル開度θの補正量が減少し、補正速度が減少する。これにより、補正部4での補正量の急変や振動(補正量が大きく変動して暴れること)を抑制することができる。また、スロットル弁13の上流圧と下流圧とが比較的近い運転状態であっても、実際の吸気流量Qを目標吸気流量Q
thへと収束させることができ、スロットル弁13の開度θと開口面積Sとの対応関係を適正化することができ、エンジン10の制御性を向上させることができる。
【0044】
(2)上記のエンジン制御装置8では、スロットル弁13における実際の吸気流量Qと目標吸気流量Q
thとの流量差Dを用いて補正を実施することで、吸気流量Qを目標吸気流量Q
thに収束させやすくすることができ、エンジン10の制御性を向上させることができる。
(3)上記のエンジン制御装置8では、学習部5を設けることで、補正部4での補正内容を通常の制御に反映させることができる。したがって、目標吸気流量Q
thに対する吸気流量Qの収束性を向上させることができ、エンジン10の制御性を向上させることができる。また、学習部5で学習された内容は、その後の通常の制御における補正内容から除外されるため、補正部4での演算負荷を軽減しつつ、吸気流量Qを精度よく目標吸気流量Q
thに一致させることができる。
【0045】
(4)上記のエンジン制御装置8では、補正量が安定している場合に補正内容を学習することで、学習精度を向上させることができ、エンジン10の制御性を向上させることができる。
(5)上記のエンジン制御装置8では、学習速度を補正速度よりも遅くすることで、より確実な補正量を学習させることができ、学習精度を向上させることができ、エンジン10の制御性を向上させることができる。
(6)上記のエンジン制御装置8では、スロットル弁13の上流圧に対する下流圧の比(圧力比R)を用いることで、スロットル弁13を通過する吸気の流速を精度よく把握することができ、エンジン10の制御性を向上させることができる。
【0046】
[5.変形例]
上述の実施形態では、大気圧P
1を上流圧とし、インマニ圧P
2を下流圧とした圧力比Rが用いられているが、具体的な上流圧,下流圧の種類はこれに限定されない。例えば、スロットル弁13の直上流と直下流とに圧力センサーを設け、これらのセンサーで検出された値を用いて圧力比Rを算出してもよい。また、上流圧に対する下流圧の比だけでなく、下流圧に対する上流圧の比を用いることも可能である。また、上流圧に対する下流圧の差や、下流圧に対する上流圧の差を用いることも可能である。さらに、吸気流量Qと目標吸気流量Q
thとの流量差Dに基づいてスロットル開度θの補正,学習を実施するものを例示したが、この流量差Dの代わりに、目標吸気流量Q
thに対する吸気流量Qの比や、吸気流量Qに対する目標吸気流量Q
thの比を用いることも可能である。何れの場合においても、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。