特許第6613845号(P6613845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6613845
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20191125BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20191125BHJP
   F16C 35/063 20060101ALI20191125BHJP
   F16C 35/067 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   F16C33/58
   F16C19/06
   F16C35/063
   F16C35/067
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-229933(P2015-229933)
(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公開番号】特開2017-96423(P2017-96423A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 陽三
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−322579(JP,A)
【文献】 特開2007−078137(JP,A)
【文献】 特開昭53−139047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
F16C 35/063
F16C 35/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する保持器と、を備え、前記内輪と前記外輪との内の一方が回転輪であって他方が固定輪である転がり軸受であって、
前記固定輪が取り付けられる相手部材との嵌め合い面に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、
前記環状溝は、溝本体部と、当該溝本体部の軸方向両側それぞれに当該溝本体部よりも浅く形成され当該溝本体部側に向かうにしたがって深くなっている傾斜溝部と、を有し、
前記傾斜溝部は、前記転動体から受ける径方向荷重によって前記固定輪が弾性変形すると、前記相手部材と接触可能であり、
前記溝本体部は、軸方向中央の第一溝と、当該第一溝の軸方向両側それぞれに当該第一溝と連続して形成され当該第一溝よりも浅い第二溝と、を有し、
前記第二溝は、前記転動体から受ける径方向荷重によって前記固定輪が弾性変形すると、当該第二溝の内の前記第一溝側の一部が前記相手部材と接触可能となる溝深さを有している、転がり軸受。
【請求項2】
前記傾斜溝部は、前記固定輪に作用する径方向荷重の大きさに応じて、前記相手部材と接触する状態と前記相手部材と非接触になる状態とのいずれか一方の状態となる、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記第二溝の前記一部は、前記固定輪に作用する径方向荷重の大きさに応じて、前記相手部材と接触する状態と前記相手部材と非接触になる状態とのいずれか一方の状態となる、請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機器には多くの転がり軸受が用いられている。転がり軸受は、内輪、外輪、これら内輪と外輪との間に介在している複数の転動体、及びこれら転動体を保持する保持器を備えている。例えば、図10に示すように、ハウジング97内の回転軸95を支持する転がり軸受90では、内輪91が回転軸95に外嵌して取り付けられており、外輪92がハウジング97の内周面98に取り付けられている。
【0003】
特に、転がり軸受90が深溝玉軸受であり、また、一方向の軸方向荷重が作用する軸受である場合、内輪91と回転軸95とは「締まり嵌め」の状態で組み立てられるのに対して、外輪92とハウジング97とは「すきま嵌め」の状態で組み立てられることが多い。このため、回転軸95が回転している使用状態で、外輪92とハウジング97との間においてクリープ(ハウジング97に対する外輪92の周方向の滑り)が発生しやすい。
【0004】
そこで、外輪92の外周面92bにクリープ発生を抑制するための溝(環状溝)93を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献1参照)。この転がり軸受90によれば、径方向(ラジアル方向)の大きな荷重が作用している場合に発生しやすいクリープを抑制することが可能となる。なお、このような荷重が作用している場合に発生しやすいクリープは、軸受回転方向と同方向へゆっくりと外輪92が滑るクリープである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−322579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のとおり、外輪92の外周面92bに環状溝93を形成することで、転がり軸受90に径方向の大きな荷重が作用した場合の前記クリープを抑制することが可能となるが、この径方向の大きな荷重によって、環状溝93の軸方向両側の角部99がハウジング97に接触することで、ハウジング97のうち、この角部99が接触する部分において接触面圧が局所的に高くなってしまう。この場合、外輪92が少しでもクリープすると、ハウジング97の摩耗が進行しやすくなる。
【0007】
そこで、本発明は、転がり軸受の固定輪にクリープ抑制用として環状溝を形成した場合において、この固定輪が取り付けられる相手部材に発生する接触面圧が局所的に高くなるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する保持器と、を備え、前記内輪と前記外輪との内の一方が回転輪であって他方が固定輪である転がり軸受であって、前記固定輪が取り付けられる相手部材との嵌め合い面に、クリープ抑制用の環状溝が形成されており、前記環状溝は、溝本体部と、当該溝本体部の軸方向両側それぞれに当該溝本体部よりも浅く形成され当該溝本体部側に向かうにしたがって深くなっている傾斜溝部と、を有し、前記傾斜溝部は、前記転動体から受ける径方向荷重によって前記固定輪が弾性変形すると、前記相手部材と接触可能である。
【0009】
この転がり軸受によれば、転動体から受ける径方向荷重によって固定輪が弾性変形すると、従来のように環状溝の角部が相手部材に接触するのではなく、傾斜溝部が相手部材と面を介して接触することができるので、相手部材における接触面圧が局所的に高くなるのを抑制することが可能となる。
【0010】
また、前記傾斜溝部は、前記固定輪に作用する径方向荷重の大きさに応じて、前記相手部材と接触する状態と前記相手部材と非接触になる状態とのいずれか一方の状態となるのが好ましい。
この場合、固定輪に作用する径方向荷重が比較的大きくなって固定輪のひずみが大きくなると、前記のとおり、傾斜溝部が相手部材と面を介して接触した状態となり、相手部材における接触面圧が局所的に高くなるのを抑制することが可能となる。そして、固定輪に作用する径方向荷重が比較的小さくて固定輪のひずみが小さいと、傾斜溝部が相手部材と非接触の状態となり、これにより、溝本体部及び傾斜溝部を含む環状溝の溝幅を大きくすることができ、クリープ抑制の効果を向上させることができる。
【0011】
また、前記溝本体部は、軸方向中央の第一溝と、当該第一溝の軸方向両側それぞれに当該第一溝と連続して形成され当該第一溝よりも浅い第二溝と、を有し、前記第二溝は、前記転動体から受ける径方向荷重によって前記固定輪が弾性変形すると、当該第二溝の内の前記第一溝側の一部が前記相手部材と接触可能となる溝深さを有しているのが好ましい。
この場合、転動体から受ける径方向荷重によって固定輪が弾性変形すると、第二溝の前記一部が相手部材と接触した状態となり、固定輪の環状溝において発生する応力を低減することが可能となる。
【0012】
また、前記第二溝の前記一部は、前記固定輪に作用する径方向荷重の大きさに応じて、前記相手部材と接触する状態と前記相手部材と非接触になる状態とのいずれか一方の状態となるのが好ましい。
この場合、固定輪に作用する径方向荷重が比較的大きくなって固定輪のひずみが大きくなると、前記のとおり、第二溝の前記一部が相手部材と接触した状態となり、これにより、環状溝に生じる応力を低減することが可能となる。そして、固定輪に作用する径方向荷重が比較的小さくて固定輪のひずみが小さいと、第二溝の前記一部は相手部材と非接触の状態となり、これにより、第一溝及び第二溝を含む環状溝の溝幅を大きくすることができ、クリープ抑制の効果を向上させることができる。すなわち、環状溝の溝幅を広くしてクリープ抑制の効果を向上させると共に、径方向荷重が大きくなっても、環状溝に生じる応力を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固定輪に環状溝が形成されていることでクリープの発生を抑制することができ、しかも、固定輪が取り付けられる相手部材における接触面圧が局所的に高くなるのを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の転がり軸受を含む回転装置の実施の一形態を示す縦断面図である。
図2】転がり軸受の断面図である。
図3】環状溝及びその周囲を示す拡大断面図である。
図4】環状溝及びその周囲を示す拡大断面図である。
図5】環状溝の機能を説明するための説明図である。
図6】環状溝の変形例を説明する断面図である。
図7図6に示す環状溝の機能を説明する断面図である。
図8】環状溝の説明図である。
図9】転がり軸受の他の形態を示す断面図である。
図10】従来の転がり軸受を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の転がり軸受7を含む回転装置1の実施の一形態を示す断面図である。回転装置1はハウジング2及び回転軸4を有しており、一対の転がり軸受7,7によって回転軸4がハウジング2に回転自在となって支持されている。回転軸4は、転がり軸受7,7が取り付けられている小径軸部4a,4aと、転がり軸受7,7(内輪11,11)の間に介在し小径軸部4aよりも外径が大きい大径軸部4bとを有している。
【0016】
ハウジング2の内周面3(以下、ハウジング内周面3ともいう。)の軸方向両側には、環状部5a,5bが設けられている。転がり軸受7,7は、モータ用の予圧付与型の軸受であり、転がり軸受7,7は軸方向の荷重(予圧)が付与された状態にある。
【0017】
軸方向一方側(図1では右側)の転がり軸受7と、軸方向他方側(図1では左側)の転がり軸受7とは同じ構成である。以下において、軸方向一方側(図1では右側)の転がり軸受7を代表として詳細な構成を説明する。
【0018】
図2は、転がり軸受7の断面図である。転がり軸受7は、回転軸4に外嵌して取り付けられている内輪11と、ハウジング内周面3に取り付けられている外輪12と、これら内輪11と外輪12との間に介在している複数の転動体と、これら転動体を保持する環状の保持器14とを備えている。本実施形態の転動体は玉13であり、図2に示す転がり軸受7は深溝玉軸受である。そして、前記のとおり、この転がり軸受7には一方向の軸方向荷重が作用している。
【0019】
本実施形態では、内輪11と回転軸4とは「締まり嵌め」の状態で組み立てられており、内輪11は回転軸4に密着して嵌合しており回転軸4と一体回転可能である。これに対して、外輪12は、固定状態にあるハウジング2に取り付けられているが、この外輪12はハウジング内周面3に「すきま嵌め」の状態で組み立てられている。
このため、回転軸4が内輪11と共に回転している使用状態で、外輪12とハウジング2との間においてクリープ(ハウジング2に対する外輪12の周方向の滑り)が発生することがある。なお、クリープについては、後にも説明する。
【0020】
内輪11の外周面には、玉13が転動する内輪軌道溝(軌道面)11aが設けられており、外輪12の内周面には、玉13が転動する外輪軌道溝(軌道面)12aが設けられている。そして、複数の玉13は、内輪11と外輪12との間の環状空間15に設けられており、転がり軸受7が回転すると(内輪11が回転すると)、これら玉13は保持器14によって保持された状態で内輪軌道溝11aと外輪軌道溝12aとを転動する。
【0021】
保持器14は、複数の玉13を周方向に沿って所定間隔(等間隔)をあけて保持することができ、このために、保持器14には玉13を収容するためのポケット18が周方向に沿って複数形成されている。本実施形態の保持器14は、玉13の軸方向一方側に設けられている円環部14aと、この円環部14aから軸方向他方側に延在している複数の柱部14bとを有している。そして、円環部14aの軸方向他方側(図2では左側)であって、周方向で隣り合う一対の柱部14b,14b間が、ポケット18となる。なお、保持器14は、他の形態であってもよく、例えば、軸方向他方側にも円環部を有する構成とすることができる。
【0022】
本実施形態の転がり軸受7では、固定輪である外輪12がハウジング2(相手部材)に取り付けられており、この外輪12の外周面が、ハウジング2(内周面3)に対する嵌め合い面22となっている。そして、図2に示すように、この嵌め合い面22に環状溝32が形成されている。環状溝32は、周方向に連続する環状の凹溝からなり、その断面形状は、周方向に沿って変化しておらず同じである。環状溝32は、嵌め合い面22の軸方向の中央部に形成されている。外輪軌道溝12aに対する玉13の接触点Pの径方向外側の位置が、環状溝32の軸方向中央部と一致している。
【0023】
なお、環状溝32を示す各図では、その形状の説明を容易とするために深く記載しているが、実際の環状溝32の深さは外輪12の厚さに比べて極めて小さく、環状溝32の深さは、例えば1mm未満とすることができる。
【0024】
ここで、ハウジング2と外輪12との間で生じるクリープについて説明する。転がり軸受7において発生する可能性のあるクリープには、次の三つが考えられる。なお、下記の軸受回転方向とは、本実施形態の場合、回転輪である内輪11の回転方向である。
・第1のクリープ:軸受回転方向と同方向へゆっくりと外輪12が滑るクリープ
・第2のクリープ:軸受回転方向と同方向へ速く外輪12が滑るクリープ
・第3のクリープ:軸受回転方向と逆方向に外輪12が滑るクリープ
【0025】
第1のクリープは、転がり軸受7に径方向(ラジアル方向)の大きな荷重が作用している場合に発生しやすく、下記のメカニズムによって発生すると考えられる。すなわち、転がり軸受7に径方向の大きな荷重が作用している場合、玉13が高負荷を受けて外輪軌道溝12aを通過し、その際、玉13の直下である外輪外周側が部分的に弾性変形する。玉13は外輪軌道溝12aに沿って移動することから、外輪12は脈動変形(脈動変位)する。これにより、外輪12のハウジング2との接触領域における弾性変形に起因して相対滑りが生じ、この相対滑りにより第1のクリープが発生すると考えられる。
【0026】
第2のクリープは、第1のクリープと外輪12の移動方向(滑り方向)は同じであるが、転がり軸受7が径方向に関して無負荷である状態で発生しやすい。つまり、径方向に無負荷である場合、内輪11の回転によって外輪12を連れ回りさせ、これにより第2のクリープが発生すると考えられる。
【0027】
第3のクリープは、外輪12の移動方向(滑り方向)が第1及び第2のクリープと反対であり、これは、例えば径方向の荷重が偏荷重となることで外輪12がハウジング内周面3に沿って振れ回りすることで発生すると考えられる。
【0028】
そして、本実施形態の転がり軸受7では、前記第1のクリープを抑制するために、外輪12の嵌め合い面22であって外輪軌道溝12aの径方向外側に前記環状溝32が形成されている。図2に示す環状溝32は、外輪軌道溝12aの軸方向幅Yよりも大きな溝幅X0を有しているが、外輪軌道溝12aの軸方向幅Y以下の溝幅X0を有していてもよい。
【0029】
このようにハウジング2に対する外輪12の嵌め合い面22に環状溝32が形成されていることで、前記の第1のクリープの発生メカニズムで説明したような弾性変形に起因する相対滑りの発生を抑えることができ、第1のクリープを抑制することが可能となる。
つまり、転がり軸受7に径方向の大きな荷重が作用している場合、外輪12のうちの外輪軌道溝12aの径方向外側の領域は径方向外側に弾性変形(拡径)するが、その領域に環状溝32が形成されていることにより、弾性変形(拡径)を主に環状溝32の範囲で生じさせることができる。このため、弾性変形部分とハウジング内周面3とが直接的に接触する範囲を減らすことができ、弾性変形が相手部材であるハウジング2に(ほとんど)伝わらず、外輪12とハウジング2との間における第1のクリープの発生が抑制される。以上より、環状溝32は、第1のクリープ抑制用の溝(逃げ溝)となる。
【0030】
このような環状溝32が設けられていることから、外輪12は、環状溝32の軸方向両側に円筒部36,37を有している。これら円筒部36,37の外周面36a,37aは、転がり軸受7の軸受中心線C0を中心とする円筒面からなり、ハウジング2(内周面3)に沿って接触可能な面となる。図2に示すように、軸受中心線C0を含む断面において、円筒部36,37の外周面36a,37aの断面形状は、軸受中心線C0に平行な直線形状を有している。
【0031】
環状溝32の構成について説明する。図3は、環状溝32及びその周囲を示す拡大断面図である。環状溝32は、軸方向中央の溝本体部40と、この溝本体部40の軸方向両側それぞれに設けられている傾斜溝部48とを有している。図3に示す環状溝32の場合、溝本体部40は、円筒形状である溝底面40aと、この溝底面40aの軸方向両側に設けられている円環形状となる溝側面40b,40bとを有しており、この溝本体部40は、断面矩形の凹溝形状を有している。
【0032】
一対の傾斜溝部48,48それぞれは、溝本体部40側に向かうにしたがって深くなっている傾斜形状(テーパー形状)を有している。傾斜溝部48は、最も深い部分(最も溝本体部40側の部分)となるこの傾斜溝部48の終端48cにおいて、溝本体部40よりも浅い。傾斜溝部48の底面48aと前記外周面36a(37a)との交差部が、傾斜溝部48の始端48bとなっている。また、傾斜溝部48の底面48aと溝本体部40の側面40bとの交差部が、傾斜溝部48の終端48cとなっている。そして、傾斜溝部48の底面48aは、軸受中心線C0を含む断面において直線的な傾斜形状となっている。外周面36a(37a)と底面48aの延長線との成す角度を図3ではθとしている。
【0033】
傾斜溝部48の形状(傾斜角度θ)は、次のように設定されている。
図2において、転がり軸受7に径方向荷重が作用すると、外輪12は径方向外側に膨らむようにして弾性変形するが、この際、図4に示すように、傾斜溝部48,48は(その少なくとも一部が)ハウジング内周面3と面により接触する形状となっている。これに対して、図4に示す状態よりも径方向荷重が小さい場合、図3に示すように、傾斜溝部48,48はハウジング2と接触しない形状となっている。このように、図3に示す環状溝32では、傾斜溝部48,48それぞれは、外輪12に作用する径方向荷重の大きさに応じて、ハウジング2と非接触となる状態(図3参照)と、ハウジング2と接触する状態(図4参照)とのいずれか一方の状態となることができる。
【0034】
前記のとおり、傾斜溝部48の傾斜形状(傾斜角度θ)は、外輪12に作用する径方向荷重が比較的大きくなって外輪12のひずみが大きくなると、底面48aがハウジング内周面3に面接触するように、設定されている。つまり、大きな径方向荷重が外輪12に作用して外輪12が傾斜溝部48において弾性変形すると、この傾斜溝部48の底面48aが、軸受中心線C0を中心とする円筒面に近づくように、この傾斜溝部48の形状は設定されている。
【0035】
このような傾斜溝部48,48を有している環状溝32によれば、外輪12に作用する径方向荷重が比較的大きくなって外輪12のひずみが大きくなると、傾斜溝部48の少なくとも一部がハウジング2に対して、角ではなく面を介して接触する状態となり、ハウジング2における接触面圧が局所的に高くなるのを抑制することが可能となる。そして、外輪12に作用する径方向荷重が比較的小さくて外輪12のひずみが小さい場合、傾斜溝部48がハウジング2と非接触の状態となる。これにより、環状溝32は、溝本体部40及び傾斜溝部48,48を含む構成となり、その溝幅X0(図3参照)を大きくすることができ、この結果、クリープ抑制の効果を向上させることができる。
【0036】
環状溝32の溝幅X0を大きくすることによってクリープ抑制の効果が向上することについて説明する。
外輪12が径方向荷重によって径方向外側に弾性変形すると、外輪12の外周部におけるひずみ量は、図5に示すように、玉13と外輪軌道溝12aとの接触点Pに近い中央部Q1において大きくなり、軸方向両側部Q2,Q3に向かうにしたがってひずみ量は小さくなる。なお、図5では上側の領域に、外輪外周部におけるひずみ量を示している。また、図5では、説明を容易とするために環状溝32を矩形溝としてしる。
そこで、前記のような第1のクリープを抑制するためには、ひずみ量が大きくなる領域に環状溝32をできるだけ形成すればよく、このため、図5の破線で示す環状溝32−1(溝幅X0−1)を形成する場合と比較して、図5の実線で示す環状溝32−2(溝幅X0−2)を形成する方が、外輪12のひずみ量が大きくなる領域をハウジング2(図2参照)に接触させないで済む。これにより、外輪12の脈動変形(脈動変位)に起因する第1のクリープが抑えられる。以上より、環状溝32の溝幅X0が大きい程、第1のクリープ抑制の作用が高まる。
【0037】
そこで、図2に示す転がり軸受7では、溝本体部40の軸方向両側に傾斜溝部48,48を形成して、環状溝32の溝幅X0を拡大している。これにより、この環状溝32による第1のクリープ抑制の作用を高めている。
【0038】
なお、前記のとおり、比較的大きな径方向荷重が作用する(ひずみ量が大きくなる)場合には、例えば回転装置1(図1参照)が停止していたり低速で回転していたりする状態から急速に回転数を高めるために回転軸4に高トルクが作用する場合が含まれる。これに対して、比較的小さな径方向荷重が作用する(ひずみ量が小さくなる)場合には、例えば定常運転時において低トルクが回転軸4に作用する場合が含まれる。
【0039】
以上より、図2に示す転がり軸受7では、外輪12に形成されている環状溝32において、傾斜溝部48,48それぞれは、玉13から受ける径方向荷重によって外輪12が弾性変形すると、図4に示すように、ハウジング2と接触可能となる傾斜形状を有している。このため、従来(図10参照)のように環状溝93の角部99がハウジング97に接触するのではなく、図4に示すように、傾斜溝部48が、ハウジング2と面を介して接触することができるので、ハウジング2における接触面圧が局所的に高くなるのを抑制することが可能となる。
【0040】
図6は、環状溝32の変形例を説明する断面図である。この環状溝32が有している溝本体部40は、軸方向中央の第一溝41と、この第一溝41の軸方向両側それぞれに設けられている第二溝42,42とを有している。第一溝41とその両側の第二溝42,42とは連続している。本実施形態の溝本体部40(環状溝32)は、第一溝41を中心として(図6において)左右対称形状を有している。第一溝41は、第一深さh1を有している。第二溝42,42それぞれは、第一溝41よりも浅い第二深さh2を有している。したがって、溝本体部40は、中央が深くなっている段付き形状を有する凹溝となっている。なお、前記深さh1,h2は、外周面36a,37aからの深さ寸法である。そして、この第二溝42,42の軸方向両側に、図3に示す形態と同様の傾斜溝部48,48が設けられている。
【0041】
図6に示す環状溝32の機能について説明する。前記のとおり、転がり軸受7に径方向荷重が作用すると、外輪12は、玉13から受ける径方向外側向きの径方向荷重によって弾性変形する。比較的大きな径方向荷重によって外輪12が弾性変形すると、図7に示すように、第二溝42の内の第一溝41側の一部43が、ハウジング2(内周面3)と接触する。つまり、第二溝42(図6参照)は、前記一部43がハウジング2と接触可能となる溝深さ(h2)を有している。
【0042】
これに対して、第一溝41は、比較的大きな径方向荷重、つまり、前記一部43がハウジング2に接触するほどの大きな径方向荷重が外輪12に作用した場合であっても、図6に示すように、ハウジング2(内周面3)に接触不可能となっている。つまり、第一溝41は、ハウジング2に接触不可能である溝深さ(h1)を有している。
【0043】
また、図6に示す環状溝32では、第二溝42の深さh2が、次のようにも設定されている。すなわち、転がり軸受7に径方向荷重が作用すると外輪12は弾性変形するが、図7に示すように、この弾性変形によるひずみ量が大きくなる場合、第二溝42の前記一部43はハウジング2と接触し、図6に示すように、ひずみ量が小さくなる場合、第二溝42の前記一部43はハウジング2と接触しないように、第二溝42の深さh2は設定されている。このように本実施形態では、第二溝42の前記一部43は、外輪12に作用する径方向荷重の大きさに応じて、ハウジング2と接触する状態(図7参照)と、ハウジング2と非接触になる状態(図6参照)とのいずれか一方の状態となることができる。
【0044】
このように、図6に示す転がり軸受7では、比較的大きな径方向荷重が作用して、玉13から受ける径方向荷重によって外輪12が弾性変形すると、図7に示すように、第二溝42の内の第一溝41側の一部43がハウジング2と接触可能となる。この接触した状態では、前記径方向荷重の一部が第二溝42の前記一部43からハウジング2に伝達される。このため、環状溝32において発生する応力を低減することが可能となる。つまり、溝本体部40に含まれる一対の前記一部43,43がハウジング2に接触することで、図8に示すように外輪12を二点支持梁Bとして考えた場合、これら一部43,43が梁Bの支点となり、これら支点43,43間の距離L2が小さくなることから(L2<L1)、環状溝32の中央部(梁Bの中央部)において発生する応力を低減することが可能となる。なお、図8に示す距離L1は、第二溝42の前記一部43がハウジング2に接触していない場合に、その外輪12を二点支持梁Bとして考えた際の支点間の距離である。
【0045】
更に、図6に示す環状溝32の場合、外輪12に作用する径方向荷重が比較的小さくて外輪12のひずみが小さい場合には、前記のとおり(図6参照)第二溝42,42の一部43,43はハウジング2と非接触の状態となり、これにより、第一溝41及び第二溝42,42を含む環状溝32の溝幅X0を大きくすることができる。この結果、クリープ抑制の効果を向上させることができる。
【0046】
このように、第二溝42の前記一部43は、外輪12に作用する径方向荷重の大きさに応じて、ハウジング2と接触する状態(図7参照)と、ハウジング2と非接触になる状態(図6参照)とのいずれか一方の状態となることができる。この構成によれば、環状溝32の溝幅X0を可及的に広くしてクリープ抑制の効果を向上させると共に、径方向荷重が大きくなっても、第二溝42の一部43がハウジング2に接触することで、環状溝32において生じる応力を低減することが可能となる。
【0047】
なお、外輪12に作用する径方向荷重が大きくなって、第二溝42の一部43がハウジング2と接触する場合であっても、第一溝41はハウジング2に非接触となっており、外輪12のクリープ抑制の作用を有することが可能となる。
【0048】
前記実施形態(図1参照)では、内輪11が、この内輪11が取り付けられている相手部材(回転軸4)と一体回転する回転輪であり、外輪12が、この外輪12が取り付けられている相手部材(ハウジング2)に(クリープするが)固定されている固定輪である。
しかし、本発明では、内輪11と外輪12との内の一方が回転輪であって他方が固定輪であればよく、前記の各形態と反対に、図9に示すように、軸54に取り付けられている内輪11が固定輪であって、外輪12がハウジング55と共に一体回転する回転輪であってもよい。この場合、内輪11と軸54との間がすきま嵌めの状態とされ、軸54に対して内輪11がクリープすることから、相手部材である軸54に対する内輪11の嵌め合い面(内周面)21に(図2の形態と同様に)環状溝50が形成される。そして、この環状溝50は、溝本体部40と、この溝本体部40の軸方向両側それぞれに設けられている傾斜溝部48,48とを有している。各傾斜溝部48は、図2に示す形態の場合と同様に、溝本体部40よりも浅く形成されており、また、溝本体部40側に向かうにしたがって深くなっている。そして、各傾斜溝部48は、玉13から受ける径方向荷重によって内輪11が径方向内側に弾性変形すると、軸54と接触可能となる傾斜形状を有している。なお、図2等に示す前記各形態の環状溝32に関する各構成を、図9に示す環状溝50に適用することができる。
【0049】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の転がり軸受は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
図1では、転がり軸受7をモータ用の予圧付与型の軸受として説明したが、モータ用以外であってもよく、本発明の転がり軸受は、クリープが課題となる回転機器に適用可能である。
また、転がり軸受は深溝玉軸受以外にアンギュラ玉軸受であってもよく、また、転動体は玉以外であってもよく、円筒ころや円すいころであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
2:ハウジング(相手部材) 7:転がり軸受 11:内輪
13:玉(転動体) 14:保持器
21:内輪の内周面(嵌め合い面) 22:外輪の外周面(嵌め合い面)
32:環状溝 40:溝本体部 41:第一溝
42:第二溝 43:一部 48:傾斜溝部
50:環状溝 54:軸(相手部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10