特許第6614098号(P6614098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614098
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】木質音板材及び音板打楽器
(51)【国際特許分類】
   G10D 13/00 20060101AFI20191125BHJP
   G10D 13/08 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   G10D13/00 300
   G10D13/00 160
   G10D13/08 120
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-214132(P2016-214132)
(22)【出願日】2016年11月1日
(65)【公開番号】特開2018-72656(P2018-72656A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】平井 絵里
(72)【発明者】
【氏名】曽我 一樹
(72)【発明者】
【氏名】平工 達也
【審査官】 山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−73397(JP,A)
【文献】 特開昭57−179895(JP,A)
【文献】 特開平8−314448(JP,A)
【文献】 特開昭51−127712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 13/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の表層のうち少なくとも一部の領域に樹脂組成物を含浸した木質音板材であって、
前記木材が、その表層のうち少なくとも前記一部の領域に前記木材の導管の平均径の1.2倍より小さい平均径を有する複数の細孔を有し、
前記複数の細孔の平均径が10μm以上500μm以下であることを特徴とする木質音板材。
【請求項2】
前記複数の細孔の中心軸方向が前記木材の表面と略垂直である請求項1に記載の木質音板材。
【請求項3】
前記複数の細孔の平均深さが0.1mm以上10mm以下である請求項1又は請求項2に記載の木質音板材。
【請求項4】
前記複数の細孔の平均ピッチが0.2mm以上10mm以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の木質音板材。
【請求項5】
前記複数の細孔の配設密度が14孔/cm以上900孔/cm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の木質音板材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の木質音板材を備える音板打楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質音板材及び音板打楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
音板打楽器は、音板を叩いて振動させることによって音を発生させる楽器である。例えばマリンバ、シロフォン等の木琴は、複数の音階に対応する複数の音板を有する音板打楽器である。従来、木琴の音板は、例えばローズウッド等の天然木から形成される。しかしながら、近年、高品質の木材資源は枯渇状態にあり、良質な音板材を得ることが極めて難しくなっている。
【0003】
そこで、比較的安価な木材に樹脂を含浸させることによって、音響特性を向上させた音板材が提案されている(特開平8−314448号公報参照)。この公報には、音板材として用いられる木材の細胞壁のみに熱硬化性樹脂を含浸することによって、表面硬度及び弾性率を向上しながら、音の立ちの悪化を抑制すると共に損失を低下できることが記載されている。
【0004】
前記公報に記載の音板材は、溶媒で薄めた樹脂を用いることで樹脂を木材に含浸し易くしているが、天然木の個体差や個体内の部分的な組織の不均一さに起因して樹脂の含浸量がばらつきやすいという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−314448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記不都合に鑑みて、本発明は、音響特性に優れかつ品質が安定した木質音板材及び音板打楽器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた発明は、木材の表層のうち少なくとも一部の領域に樹脂組成物を含浸した木質音板材であって、前記木材が、その表層のうち少なくとも前記一部の領域に前記木材の導管の平均径の1.2倍より小さい平均径を有する複数の細孔を有することを特徴とする木質音板材である。
【0008】
前記複数の細孔の中心軸方向が前記木材の表面と略垂直であるとよい。
【0009】
前記複数の細孔の平均径が10μm以上500μm以下、平均深さが0.1mm以上10mm以下であるとよい。
【0010】
前記複数の細孔の平均ピッチが0.2mm以上10mm以下であるとよい。
【0011】
前記複数の細孔の配設密度が14孔/cm以上900孔/cm以下であるとよい。
【0012】
前記課題を解決するためになされた別の発明は、当該木質音板材を備える音板打楽器である。
【0013】
ここで、「表層」とは外面近傍領域を意味し、木材の裏面や側面の近傍領域を含む概念である。また、「略垂直」とは、法線方向からの傾斜角度が10°以下、好ましくは3°以下であることを意味する。また、「平均径」とは、光学顕微鏡により測定される円相当径の平均値を意味する。また、「平均深さ」とは、各細孔の最大深さの平均値を意味する。また、「平均ピッチ」とは、基準となる複数の細孔にそれぞれ最も近い2つの細孔の中心と基準となる細孔の中心との距離の平均値を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の木質音板材及び音板打楽器は、表層のうち少なくとも一部の領域に樹脂組成物が含浸される木材の表層に前記木材の導管の平均径の1.2倍より小さい平均径を有する複数の細孔が形成されているので、この細孔に比較的容易に樹脂が含浸するため、木材の個体差及び内部組織のばらつきに左右されず比較的均一に所望量の樹脂を含浸することができる。このため、当該木質音板材及び当該音板打楽器は、音響特性に優れかつ品質が安定している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の木質音板材を示す模式的側面図である。
図2図1の木質音板材の模式的部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0017】
[木質音板材]
図1に示す本発明の一実施形態に係る木質音板材は、木材1の表層のうち少なくとも一部の領域(図示する例では上側面の表層全体)に、相対的にピッチの小さいハッチングで示す樹脂組成物2が含浸されている。また、当該木質音板材は、木材1の表層の樹脂組成物2が含浸される領域に、図2に詳しく示すように、木材1の導管3の平均径と同程度以下の平均径を有する複数の細孔4が形成されている。
【0018】
当該木質音板材において、樹脂組成物2が含浸される領域としては、当該木質音板材から形成される打楽器用音板において打面となる領域とされることが好ましい。これにより、比較的安価な木材1の振動特性を改良して高級感のある音を発生することを可能にすると共に、打面の耐久性を向上することができる。
【0019】
<木材>
木材1は、天然木から切り出されるものであって、通常は板材である。
【0020】
木材1の気乾比重の下限としては、0.5が好ましく、0.6がより好ましい。一方、木材1の気乾比重の上限としては、1.2が好ましく、1.1がより好ましい。木材1の気乾比重が前記下限に満たない場合、樹脂組成物2の含浸によっても十分な音響特性が得られないおそれがある。逆に、木材1の気乾比重が前記上限を超える場合、加工性が不十分となるおそれや、当該木質音板材が不必要に高価となるおそれがある。
【0021】
この木材1の樹種としては、例えばローズウッド、パドック、カリン、カエデ、ハードメープル、シデ、ブナ、ナラ、マトワ、マホガニー等を挙げることができ、中でも比較的安価で音響特性に優れる木質音板材が得られるパドック及びカリンが好適に用いられる。
【0022】
(細孔)
複数の細孔4は、木材1の表層の少なくとも一部の領域に、略一定のピッチで均等に形成されることが好ましい。これにより、木材1の複数の最高4を形成した領域に均一に樹脂組成物2を含浸させることができる。つまり、樹脂組成物2は、細孔4の内部に迅速に浸入し、木材1の外表面及び細孔4の内壁面に隣接する領域に緩慢に浸透するが、細孔4から遠い木材1の深部には浸透できない。
【0023】
また、複数の細孔4の中心軸方向は、木材1の表面(細孔4が開口する外表面)と略垂直であることが好ましい。これにより、細孔4を通して木材1に樹脂組成物2を含浸させることが比較的容易となる。
【0024】
複数の細孔4の平均径の木材1の導管3の平均径に対する比の下限としては、0.05が好ましく、0.10がより好ましく、0.15がさらに好ましい。一方、複数の細孔4の平均径の木材1の導管3の平均径に対する比の上限としては、1.2であり、1.0が好ましく、0.8がより好ましく、0.6がさらに好ましい。複数の細孔4の平均径の木材1の導管3の平均径に対する比が前記下限に満たない場合、樹脂組成物2が細孔4に浸入し難くなるおそれがある。逆に、複数の細孔4の平均径の木材1の導管3の平均径に対する比が前記上限を超える場合、当該木質音板材の強度が不十分となるおそれや外観が不自然となるおそれがある。
【0025】
複数の細孔4の平均径の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましく、15μmがさらに好ましく、50μmが特に好ましい。一方、複数の細孔4の平均径の上限としては、500μmが好ましく、200μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。複数の細孔4の平均径が前記下限に満たない場合、樹脂組成物2が細孔4に浸入し難くなるおそれがある。逆に、複数の細孔4の平均径が前記上限を超える場合、木材1の強度が低下するおそれや外観が不自然となるおそれがある。なお、細孔4の平均径が小さいほど形成する細孔4の数を多くする必要がある。このため、細孔4の平均径を50μmより小さくする場合、細孔4の平面配置パターンやピッチに工夫が必要となる場合がある。
【0026】
複数の細孔4の平均深さの下限としては、0.1mmが好ましく、1mmがより好ましい。一方、複数の細孔4の平均深さの上限としては、10mmが好ましく、5mmがより好ましい。当該木質音板材では、細孔4の深さによって樹脂組成物2の含浸深さを調節することができる。複数の細孔4の平均深さが前記下限に満たない場合、木材1への樹脂組成物2の含浸を十分に促進できないおそれがある。逆に、複数の細孔4の平均深さが前記上限を超える場合、当該木質音板材の表層の衝撃に対する強度(靱性)が不十分となるおそれや自然な音を発生できなくなるおそれがある。
【0027】
また、木材1には表裏に細孔4を設けてもよいが、木材1の表裏それぞれの細孔4の平均深さの合計(一方の面だけに細孔4を設ける場合はその面の細孔の平均深さ)の下限としては、木材1の平均厚さの1/50が好ましく、1/40がより好ましい。一方、前記細孔4の平均深さの合計の上限としては、木材1の平均厚さの1/2が好ましく、1/3がより好ましい。前記細孔4の平均深さの合計が前記下限に満たない場合、当該木質音板材の音響特性を十分に向上できないおそれがある。逆に、前記細孔4の平均深さの合計が前記上限を超える場合、当該木質音板材の表層の衝撃に対する強度(靱性)が不十分となるおそれや自然な音を発生できなくなるおそれがある。
【0028】
細孔4の平均ピッチの下限としては、0.2mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、細孔4の平均ピッチの上限としては、10mmが好ましく、5mmがより好ましい。細孔4の平均ピッチが前記下限に満たない場合、当該木質音板材の靱性が不十分となるおそれや自然な音を発生できなくなるおそれがある。逆に、細孔4の平均ピッチが前記上限を超える場合、木材1に均一に樹脂組成物2を含浸することができないおそれがある。
【0029】
細孔4の配設密度の下限としては、14孔/cmが好ましく、20.5孔/cmがより好ましい。一方、細孔4の配設密度の上限としては、900孔/cmが好ましく、350孔/cm孔がより好ましい。細孔4の配設密度が前記下限に満たない場合、木材1への樹脂組成物2の含浸を十分に促進できないおそれがある。逆に、細孔4の配設密度が前記上限を超える場合、当該木質音板材の表層の靱性が不十分となるおそれがある。
【0030】
<樹脂組成物>
樹脂組成物2の主成分としては、木材1に含浸させるときには低粘度で含浸が容易であり、含浸後に容易に硬化させて固定できる熱硬化性樹脂が好ましい。なお、主成分とは、最も質量含有率が大きい成分を意味する。
【0031】
樹脂組成物2の主成分とされる熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリケート樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。中でもエポキシ樹脂、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に用いられる。
【0032】
また、樹脂組成物2の主成分となる熱硬化性樹脂の木材1に含浸する時点での数平均分子量としては、200以上500以下が好ましい。樹脂組成物2の主成分となる熱硬化性樹脂の木材1に含浸する時点での数平均分子量が前記範囲内であることによって、木材1への樹脂組成物2の含浸が可能となり、かつ硬化後の樹脂組成物2に十分な強度を付与することができる。
【0033】
また、木材1に含浸する時点での樹脂組成物2は、例えば硬化を促進する硬化剤、樹脂組成物2の物性を調整する他の樹脂、低粘度化により木材1への含浸を促進する溶媒等を含有してもよい。
【0034】
[製造方法]
当該木質音板材は、例えば、木材1の表層に複数の細孔4を形成する工程<細孔形成工程>と、細孔4を形成した木材1に樹脂組成物2を含浸させる工程<含浸工程>と、木材1中に含浸した樹脂組成物2を硬化させる工程<硬化工程>とを備える方法によって製造することができる。
【0035】
<細孔形成工程>
細孔4の形成方法としては、針を突き刺す方法、流体を吹き付ける方法等を採用してもよいが、レーザーを用いる方法、つまりレーザーインサイジング加工を採用することが、比較的正確に小径の細孔を形成できる点で好ましい。
【0036】
インサイジング加工に用いるレーザー光としては、紫外レーザー光が好適に利用される。紫外レーザー光を用いることで、木材1を熱分解して細孔4を形成することができ、残渣(炭化物等)の少ない加工が可能であるため、細孔4の径及び深さを比較的自由に調整することができる。具体的には、インサイジング加工に用いるレーザー光の波長としては、100nm以上400nm以下が好ましく、例えばUV−YAGレーザー(3倍波)を用いることができる。レーザー光の波長を前記範囲内とすることによって、形成される細孔4の径及び深さを比較的容易に適正化することができる。
【0037】
また、インサイジング加工に用いるレーザー光の出力としては、1W以上10W以下が好ましい。レーザー光の出力を前記範囲内とすることによって、形成される細孔4の径及び深さを比較的容易に適正化することができる。
【0038】
<含浸工程>
含浸工程では、硬化前の樹脂組成物2を木材1に含浸させる。この含浸工程は、減圧により木材1を脱気しつつ樹脂組成物2を含浸させる減圧含浸工程と、常圧下で減圧含浸工程において木材1に生じた歪みを除去しつつさらに樹脂組成物2を含浸させる常圧含浸工程とを有することが好ましい。減圧含浸工程を有することで、樹脂組成物2の含浸を促進することができ、得られる当該木質音板材ひいては当該木質音板材から形成される音板及びこの音板を備える楽器の品質を安定化できる。
【0039】
含浸工程における樹脂組成物2の粘度としては、10mPa・s以上1Pa・s以下とすることが好ましい。樹脂組成物2の粘度を前記範囲内とすることによって、樹脂組成物2を木材1に比較的効率よく含浸することができる。
【0040】
(減圧含浸工程)
減圧含浸工程を設けることにより、木材1の表層(細孔4に隣接する領域)に比較的均等かつ迅速に樹脂組成物2を含浸させることができる。
【0041】
この減圧含浸工程における圧力としては、例えばゲージ圧で−0.20MPa以上−0.05MPa以下とすることができる。減圧含浸工程における圧力を前記範囲内とすることによって、不必要に製造コストを増大させることなく、樹脂組成物2の木材1への含浸を促進することができる。
【0042】
また、減圧含浸工程における含浸時間としては、例えば30分以上180分以下とすることができる。減圧含浸工程における含浸時間を前記範囲内とすることによって、樹脂組成物2を木材1の表層部に選択的にかつ比較的均一に含浸させられる。なお、減圧含浸工程における含浸時間は、樹脂組成物2の樹脂が硬化しない範囲でさらに長い時間としてもよい。
【0043】
(常圧含浸工程)
常圧含浸工程を設けることにより、減圧含浸工程での減圧によって生じた木材1の歪みを除去し、得られる木質音板材の残留応力を小さくすることができる。この常圧含浸工程における温度としては、減圧含浸工程における温度と同様とすることができる。
【0044】
また、常圧含浸工程における含浸時間としては、例えば30分以上180分以下とすることができる。常圧含浸工程における含浸時間を前記範囲内とすることによって、樹脂組成物2を木材1に比較的均一に含浸させられる。なお、常圧含浸工程における含浸時間も、樹脂組成物2の樹脂が硬化しない範囲でさらに長い時間としてもよい。
【0045】
<硬化工程>
硬化工程では、木材1中に含浸している樹脂組成物2の主成分である樹脂を重合させることにより、樹脂組成物2を硬化させる。硬化した樹脂組成物2は、木材1の振動特性を改善してより高級な材料の振動特性に近付ける。樹脂組成物2を硬化させる方法としては、樹脂組成物2の組成にもよるが、一般的には加熱が用いられる。
【0046】
この硬化工程における加熱温度としては、硬化剤の種類に応じて選択されるものであるが、例えば120℃以上200℃以下とすることができる。硬化工程における加熱温度を前記範囲内とすることによって、樹脂組成物2の硬化を促進することができる。
【0047】
また、硬化工程における加熱時間としては、硬化剤の種類に応じて選択されるものであるが、例えば30分以上120分以下とすることができる。硬化工程における加熱時間を前記範囲内とすることによって、比較的効率よく樹脂組成物2を硬化させられ、かつ木材1の含水率が低下して割れを生じることを防止できる。
【0048】
<利点>
当該木質音板材は、木材1の樹脂組成物2が含浸される表層領域にインサイジング加工により木材1の導管3の平均径より小さい平均径を有する複数の細孔4が形成されて、樹脂組成物2の含浸が容易化されている。つまり、樹脂組成物2は、先ず、複数の細孔4並びに木材1の表面及び細孔4に開口する導管3に速やかに行き渡り、細孔4及び導管3から周囲に徐々に浸透する。このため、当該木質音板材は、木材1の個体差に左右されず比較的一定量の樹脂が比較的一定の深さまで含浸しており、音響特性が向上していると共に品質が安定している。
【0049】
[木琴]
本発明の別の実施形態に係る木琴(音板打楽器)は、図1の木質音板材から形成される複数の音板を備える。つまり、当該木琴は、複数の音階を奏でる複数の音板が、それぞれ当該木質音板材から形成される。
【0050】
具体的には、当該木琴の音板は、当該木質音板材の樹脂組成物2が含浸している上面を打面とし、この打面以外の面を切削することによって、各音階に対応する所定の固有振動数を有する形状に成形されている。
【0051】
当該木琴は、各音板が当該木質音板材から形成されているので、価格に比して高級な音色を発することができる。
【0052】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0053】
当該木質音板材は、木材の複数の面に細孔が形成されて樹脂が含浸されていてもよい。また、当該木質音板材は、木材の1つの面の一部の領域のみに細孔が形成されて樹脂が含浸されていてもよい。また、当該木質音板材は、樹脂が含浸される領域の一部分にのみ細孔が形成されていてもよい。
【0054】
また、図示した実施形態では、木材の板目面に細孔が形成されて樹脂が含浸されているが、木材の正目面や木口面に細孔が形成されて樹脂が含浸されていてもよい。
【0055】
当該木質音板材における樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とするものであってもよい。この場合、樹脂組成物は含浸後に重合して硬化されることが好ましい。
【0056】
本発明に係る音板打楽器は、木琴に限定されず、例えばカスタネット、ウッドブロック、カホン、木魚等であってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0058】
[木質音板材の試作]
以下の要領で、木質音板材の試作品1〜4を試作すると共に、加工を加えない無垢の板材である比較品1,2を用意して、打音を確認する試験を行った。
【0059】
(試作品1)
木材として、幅約60mm、長さ約350mm、厚さ約25mmの汎用品グレードのパドックを用い、一方の面全体にインサイジング加工を施してから樹脂組成物を含浸することにより試作品1を得た。
【0060】
木材の導管の直径を光学顕微鏡の画像処理により測定し、算出した平均径は、206μmであった。
【0061】
インサイジング加工(細孔の形成)は、出力が4W(100%)、波長が355nm、周波数が50kHzの紫外レーザー装置を用い、照射時間を8msecとして、レーザー光を木材の表面に垂直に照射することによって行った。細孔は、縦横に均等に配列する正方配置とし、そのピッチ(中心間隔)を2.5mmとした。
【0062】
このインサイジング加工により得られた細孔は、平均径が113μm(導管平均径の55%)、平均深さが3mmであった。
【0063】
前記細孔を形成した木材にビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物を含浸させた。
【0064】
前記エポキシ樹脂としては、三菱化学社の「jER828」と反応性希釈剤1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとイミダゾール系硬化剤2−エチル−4−メチルイミダゾールとを95:5:30の比で混合したものを木材に含浸する樹脂組成物とした。
【0065】
樹脂組成物を減圧含浸してから常圧含浸した。減圧含浸は、ゲージ圧−0.1MPaで1時間行った。また、常圧含浸は、大気圧で1時間行った。
【0066】
このようにして樹脂組成物を含浸した木材を180℃で1時間加熱することによって、樹脂組成物を硬化させて試作品1とした。
【0067】
(試作品2)
試作品2は、レーザー光の出力を3W(75%)とした以外は、試作品1と同じ条件で試作した。この試作品2における細孔は、平均径が91μm(導管平均径の44%)、平均深さが3mmであった。
【0068】
(試作品3)
試作品3は、レーザー光の出力を2W(50%)とした以外は、試作品1と同じ条件で試作した。この試作品2における細孔は、平均径が73μm(導管平均径の35%)、平均深さが3mmであった。
【0069】
(試作品4)
試作品4は、レーザー光の出力を1W(25%)とした以外は、試作品1と同じ条件で試作した。この試作品2における細孔は、平均径が53μm(導管平均径の26%)、平均深さが3mmであった。
【0070】
(比較品1)
比較品1として、音板用高級材であるホンジュラス産ローズウッドの無垢材を試作品1〜4と同じ寸法に切り出した板材を用意した。
【0071】
(比較品2)
比較品2として、試作品1〜4の原料とした木材と同じものを用意した。
【0072】
<評価試験>
試作品1〜4及び比較品1,2について、マレットで打撃し、発生する音を10人のパネルにより官能評価した。
【0073】
この結果、安価な天然木そのままの比較品2は、比較的高級な天然木である比較品1と比べて音色の点で明らかに劣っていた。一方、インサイジング加工を施して樹脂組成物を含浸した試作品1〜4は、比較品1に近い音を発生することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る木質音板材は、中上級者向けの音板打楽器の音板を形成するために特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 木材
2 樹脂組成物
3 導管
4 細孔
図1
図2