特許第6614149号(P6614149)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6614149非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614149
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20191125BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20191125BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20191125BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20191125BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20191125BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M4/505
   H01M4/36 A
   H01M4/525
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-537726(P2016-537726)
(86)(22)【出願日】2015年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2015003401
(87)【国際公開番号】WO2016017073
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-154466(P2014-154466)
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116078
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】新名 史治
(72)【発明者】
【氏名】大北 一成
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−023015(JP,A)
【文献】 特開2012−195239(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/049964(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
H01M 10/05−0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+xMn2+c(式中、x、a、bおよびcは、x+a+b=1、0<x≦0.2、0.09≦a、−0.1≦c≦0.1の条件を満たし、MはMn以外の遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、第13族元素および第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物の一次粒子が結合したリチウム含有遷移金属複合酸化物の二次粒子を含む非水電解質二次電池用正極であって、
酸化タングステン及びリン酸化合物が、前記リチウム含有遷移金属複合酸化物の前記二次粒子表面に付着しており、
前記リン酸化合物が、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウム、リン酸コバルト、リン酸ニッケル、リン酸マンガン、リン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記リチウム含有遷移金属複合酸化物の前記二次粒子表面に付着する前記酸化タングステンは、タングステン元素換算で、前記リチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の総量に対して0.05mol%以上、10mol%以下であって、
前記リチウム含有遷移金属酸化物の前記二次粒子表面に付着する前記リン酸化合物は、前記リチウム含有遷移金属複合酸化物の総質量に対し、リン元素換算で、0.01質量%以上、1.5質量%以下である、
非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記リチウム含有遷移金属複合酸化物に付着するリン酸化合物は、前記リチウム含有遷移金属複合酸化物の前記二次粒子表面にのみ付着する、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記酸化タングステンがWOである請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記リン酸化合物が、リン酸リチウムである請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記MがNiを含む請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記MがZrを含む請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極を用いた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、スマートフォン等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての二次電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行う非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
【0003】
さらに最近では、非水電解質二次電池は、電動工具、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等の動力用電源としても注目されており、さらなる用途拡大が見込まれている。こうした動力用電源では、長時間の使用が可能となるような高容量化や、比較的短時間に大電流充放電を繰り返す場合の出力特性の向上が求められる。
【0004】
特に、電動工具、EV、HEV、PHEV等の用途では、大電流充放電での出力特性を維持しつつ高容量化を達成することが必須となっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ニッケル酸リチウムを主体とする複合酸化物にタングステン酸化合物とリン酸化合物を被着させ、加熱処理を行うことにより、保存時の電池内部でのガス発生が抑制できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−40383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術を用いても、正極活物質や正極を大気曝露した場合には、初期充電容量の低下を抑制できないことがわかった。
【0008】
本発明の一局面によれば、その目的は、大気曝露した正極活物質や正極を用いた場合でも、初期充電容量の低下が抑制される非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池用正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面によれば、一般式Li1+xMn2+c(式中、x、a、bおよびcは、x+a+b=1、0<x≦0.2、0.09≦a、−0.1≦c≦0.1の条件を満たし、MはMn以外の遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、第13族元素および第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物の一次粒子が結合したリチウム含有遷移金属複合酸化物の二次粒子を含む非水電解質二次電池用正極であって、酸化タングステン及びリン酸化合物が、リチウム含有遷移金属複合酸化物の二次粒子表面に付着しており、リン酸化合物が、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウム、リン酸コバルト、リン酸ニッケル、リン酸マンガン、リン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、リチウム含有遷移金属複合酸化物の二次粒子表面に付着する酸化タングステンは、タングステン元素換算でリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の総量に対して0.05mol%以上、10mol%以下であって、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着するリン酸化合物は、リチウム含有遷移金属複合酸化物の総質量に対し、リン元素換算で、0.01質量%以上、1.5質量%以下である、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一局面によれば、大気曝露した正極活物質や正極を用いた場合でも、初期充電の低下が抑制される非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実験例で用いた三電極式試験セルを示す模式図である。
図2】本発明の一実験例におけるWOのXRDピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について以下に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[正極]
本発明の実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極は、一般式Li1+xMn2+c(式中、x、a、bおよびcは、x+a+b=1、0<x≦0.2、0.09≦a、−0.1≦c≦0.1の条件を満たし、MはMn以外の遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、第13族元素および第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物を含む非水電解質二次電池用正極であって、かつ非水電解質二次電池用正極に酸化タングステン及びリン酸化合物を含んでいるものである。
【0014】
正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合剤層とで構成されることが好適である。正極集電体には、例えば、導電性を有する薄膜体、特にアルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属箔や合金箔、アルミニウムなどの金属表層を有するフィルムが用いられる。正極合剤層には、正極活物質粒子の他に、結着剤、導電剤を含むことが好ましい。
【0015】
大気曝露による特性劣化の原因は、LiOH生成反応であり、具体的には、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に存在する水分とリチウム含有遷移金属複合酸化物とが反応し、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面層にあるLiと水素の置換反応が起こることにより、リチウム含有遷移金属複合酸化物からLiが引き抜かれてLiOHが生成する反応である。
【0016】
しかし、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面近傍に酸化タングステンが存在すると、LiOHの生成反応が抑制されるため、大気曝露後に充電した際に充電容量が低下するという、大気曝露による初期充電特性の劣化を低減することができる。
【0017】
加えて、一般式Li1+xMn2+c(式中、x、a、bおよびcは、x+a+b=1、0<x≦0.2、0.09≦a、−0.1≦c≦0.1の条件を満たし、MはMn以外の遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、第13族元素および第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた正極にリン酸化合物を混合することで、Mn4+とPn−(xとyとnは任意の数字)の特異的な相互作用によって、リチウム含有遷移金属複合酸化物への大気中に存在する水分の吸着を抑制することができる。
【0018】
この作用は、一般式Li1+xMn2+c(式中、x、a、bおよびcは、x+a+b=1、0<x≦0.2、0.09≦a、−0.1≦c≦0.1の条件を満たし、リン酸化合物が酸化タングステンと共存している場合に得られる相互作用であって、リン酸化合物が酸化タングステンと共存しない場合には得られないと考えられる。
【0019】
また、上述のリチウム含有遷移金属複合酸化物への水分吸着が抑制されることに起因して、上記LiOH生成反応に使われる水分量も少なくなるため、大気曝露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応をさらに抑制することができ、これにより大気曝露による初期充電特性の劣化を一層低減することができる。
【0020】
このような相乗効果が発揮されることによって、大気曝露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応を抑制することができ、この結果、大気曝露による初期充電特性の劣化を飛躍的に低減することができる。
【0021】
リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、上述したとおり一般式Li1+xMn2+c(式中、x、a、bおよびcは、x+a+b=1、0<x≦0.2、0.09≦a、−0.1≦c≦0.1の条件を満たし、MはMn以外の遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、第13族元素および第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物であれば、特に限定されるものではないが、Liを1価、Oを−2価とした際のMnの形式価数が4価となるように、Mは、価数が2価となる元素を含むことが好ましく、中でも構造安定性の観点からNiを含むことが好ましい。
【0022】
さらに構造が安定することからニッケルの他にコバルトが含まれるニッケルコバルトマンガン酸リチウムがより好ましく、さらに好ましくは、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比が、5:2:3、5:3:2、6:2:2、7:1:2、7:2:1、8:1:1である等、公知の組成のものを用いることができる。
【0023】
また、リチウム含有遷移金属複合酸化物において、Liの組成比(1+x)におけるxが0<x≦0.2の条件を満たすものを用いるのが好ましい。
【0024】
これは、0<xのときは、WO共存下で、Mn4+とPn−との相互作用が高まり、リチウム含有遷移金属複合酸化物への大気中に存在する水分の吸着を抑制することができるためである。
【0025】
一方、x>0.2になると、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に残留するアルカリが多くなって、電池を作製する工程においてスラリーがゲル化し易くなると共に、酸化還元反応を行う遷移金属量が少なくなり、正極容量が低下するためである。
【0026】
このようなことを考慮すれば、0.05≦x≦0.1、特に、0.07≦x≦0.1の条件を満たすことが一層好ましい。
【0027】
また、一般式Li1+xMn2+c中のMにジルコニウム(Zr)が存在した場合、さらに大気曝露による初期充電特性の低下を改善することができる。 上記リチウム含有遷移金属複合酸化物は、さらに他の添加元素を含んでいてもよい。
【0028】
添加元素としては、Mn、Ni、Co以外の遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、第13族元素および第14族元素が挙げられ、具体的には、ホウ素(B)マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)等が挙げられる。
【0029】
上記リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、平均粒径2〜30μmの粒子が挙げられ、この粒子は、100nmから10μmの一次粒子が結合した二次粒子の形態でもよい。
【0030】
また、本実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極において、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に酸化タングステンとリン酸化合物が付着したものであることが好ましい。これにより、上記酸化タングステンとリン酸化合物による相乗効果が一層発揮され、大気曝露による初期充電特性の低下がより一層改善される。
【0031】
さらに、正極に含まれる酸化タングステンは、特に限定されないが、タングステンの酸化数が最も安定である6価となるWOが好ましい。
【0032】
正極に酸化タングステンが含まれる状態とは、酸化タングステンがリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質粒子の表面近傍に存在している状態であり、好ましくは表面に点在して付着している状態であり、より好ましくは、表面に均一に点在して付着している状態である。
【0033】
そのような状態では、上記LiOH生成反応の抑制効果がリチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の表面全体において十分に抑制することができる。
【0034】
ここで、混合したタングステンの量が少ないと、タングステンによる上記のような作用効果が十分に得られなくなる一方、タングステンの量が多くなりすぎると、酸化タングステンによって、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面が広く覆われる(被覆部位が多くなり過ぎる)ため、電池の充放電特性が低下する。
【0035】
このため、本発明の正極活物質においては、正極活物質中におけるタングステンの量はリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の総量に対して0.05mol%以上、10mol%以下にすることが好ましく、より好ましくは0.1mol%以上、5mol%以下、さらに好ましくは0.2mol%以上、3mol%以下である。
【0036】
酸化タングステンを含む正極を作製する方法としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物と酸化タングステンをあらかじめ機械的に混合して付着させる方法の他、導電剤と結着剤を混練する工程で酸化タングステンを添加する方法が挙げられる。
【0037】
酸化タングステン粒子の粒径はリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒径より小さいことが好ましく、特に、1/4より小さいことが好ましい。酸化タングステンがリチウム含有遷移金属複合酸化物より大きいと、リチウム含有遷移金属複合酸化物との接触面積が小さくなり効果が十分に発揮されない恐れがある。
【0038】
また、正極に含まれるリン酸化合物は、特に限定されないが、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウム、リン酸コバルト、リン酸ニッケル、リン酸マンガン、リン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウムであることが好ましく、これらの中でも、特にリン酸リチウムであることが好ましい。これらのリン酸化合物を用いると、大気曝露による初期充電容量低下の抑制効果が一層発揮される。
【0039】
リチウム含有遷移金属複合酸化物の総質量に対するリン酸化合物の割合は、リン元素換算で、0.01質量%以上、1.5質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上1.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上、1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
上記割合が0.01質量%未満になると、酸化タングステンとリン酸化合物による効果が十分に得られず、極板の大気曝露による特性劣化を抑制できないことがある。一方、上記割合が1.5質量%を超えると、その分だけ正極活物質の量が減るため正極容量が低下する。
【0041】
リン酸化合物を含む正極を作製する方法としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物とリン酸化合物をあらかじめ機械的に混合して付着させる方法の他、導電剤と結着剤を混練する工程でリン酸化合物を添加する方法が挙げられる。
【0042】
リン酸化合物粒子の粒径はリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒径より小さいことが好ましく、特に、1/4より小さいことが好ましい。リン酸化合物がリチウム含有遷移金属複合酸化物より大きいと、リチウム含有遷移金属複合酸化物との接触面積が小さくなり効果が十分に発揮されない恐れがある。
【0043】
ここで、リン酸化合物は酸化タングステンの近傍に存在していればよく、この場合にも、上記リン酸化合物と酸化タングステンによる効果が得られる。すなわち、リン酸化合物はリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面に付着していてもよいし、表面に付着することなく正極内において酸化タングステンの近傍に存在していてもよい。なお、リン酸化合物をあらかじめリチウム含有遷移金属複合酸化物と混合するなどして、より選択的にリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面に付着させると、リン酸化合物と酸化タングステンの相乗効果が大きくなるため特に好ましい。
【0044】
ここで、本発明の非水電解質二次電池においては、上記のような正極活物質に対して、さらに他の正極活物質と混合させて使用することも可能である。そして、混合させる他の正極活物質は、可逆的にリチウムを挿入・脱離可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、安定した結晶構造を維持したままリチウムイオンの挿入脱離が可能である層状構造や、スピネル構造や、オリビン構造を有するもの等を用いることができる。なお、同種の正極活物質のみを用いる場合や異種の正極活物質を用いる場合において、正極活物質としては、同一の粒径のものを用いても良く、また、異なる粒径のものを用いてもよい。
【0045】
結着剤としては、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。例えば、フッ素系高分子としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等、ゴム系高分子としてエチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。結着剤は、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘剤と併用されてもよい。
【0046】
導電剤としては、例えば、炭素材料としてカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物と、上記リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に付着している酸化タングステンと、上記リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に付着しているリン酸化合物とを含んでいるものである。これにより、上記酸化タングステンとリン酸化合物による上記相乗効果が発揮され、大気曝露による初期充電特性の劣化を低減することができる。
【0048】
[負極]
負極としては、従来から用いられてきた負極を用いることができ、例えば、負極活物質と、結着剤とを水あるいは適当な溶媒で混合し、負極集電体に塗布し、乾燥し、圧延することにより得られる。負極集電体には、導電性を有する薄膜体、特に銅などの負極の電位範囲で安定な金属箔や合金箔、銅などの金属表層を有するフィルム等を用いることが好適である。結着剤としては、正極の場合と同様にPTFE等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いることが好ましい。結着剤は、CMC等の増粘剤と併用されてもよい。
【0049】
上記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、SiやSn等のリチウムと合金化する金属或いは合金材料や、金属複合酸化物等を用いることができる。また、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよく、炭素材料やリチウムと合金化する金属或いは合金材料や金属複合酸化物の中から選ばれた負極活物質を組み合わせたものであってもよい。
【0050】
[非水電解質]
非水電解質の溶媒としては、従来から使用されている、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、高誘電率、低粘度、低融点の観点でリチウムイオン伝導度の高い非水系溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、この混合溶媒における環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比は、2:8〜5:5の範囲に規制することが好ましい。
【0051】
また、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステルを含む化合物;プロパンスルトン等のスルホン基を含む化合物;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテルを含む化合物;ブチロニトリル、バレロニトリル、n−ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,3,5−ペンタントリカルボニトリル等のニトリルを含む化合物;ジメチルホルムアミド等のアミドを含む化合物等を上記の溶媒とともに用いることもでき、また、これらの水素原子Hの一部がフッ素原子Fにより置換されている溶媒も用いることができる。
【0052】
一方、非水電解質の溶質としては、従来から用いられてきた溶質を用いることができ、例えば、フッ素含有リチウム塩であるLiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CSO、及びLiAsFなどを用いることができる。さらに、フッ素含有リチウム塩に、フッ素含有リチウム塩以外のリチウム塩〔P、B、O、S、N、Clの中の一種類以上の元素を含むリチウム塩(例えば、LiClO等)〕を加えたものを用いても良い。特に、高温環境下においても負極の表面に安定な被膜を形成する点から、フッ素含有リチウム塩とオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩とを含むことが好ましい。
【0053】
上記のオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩の例として、LiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕、Li[B(C)F]、Li[P(C)F]、Li[P(C]が挙げられる。中でも特に負極で安定な被膜を形成させるLiBOBを用いることが好ましい。
【0054】
なお、上記溶質は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
[セパレータ]
セパレータとしては、従来から用いられてきたセパレータを用いることができる。例えば、ポリプロピレン製やポリエチレン製のセパレータ、ポリプロピレン−ポリエチレンの多層セパレータや、セパレータの表面にアラミド系樹脂等の樹脂が塗布されたものを用いることができる。
【0056】
また、正極とセパレータとの界面、又は、負極とセパレータとの界面には、従来から用いられてきた無機物のフィラーからなる層を形成することができる。フィラーとしても、従来から用いられてきたチタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物等で処理されているものを用いることができる。
【0057】
上記フィラー層の形成方法は、正極、負極、或いはセパレータに、フィラー含有スラリーを直接塗布して形成する方法や、フィラーで形成したシートを、正極、負極、或いはセパレータに貼り付ける方法等を用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施するための形態について実験例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、以下に示す実験例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池用正極活物質の一例を説明するために例示したものであり、本発明は以下の実験例に何ら限定されるものではない。本発明は、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0059】
〔第1実験例〕
(実験例1)
[正極活物質の作製]
まず、共沈により得られた[Ni0.5Co0.20Mn0.30](OH)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で焼成して、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。次に、水酸化リチウムと、上記で得たニッケルコバルトマンガン複合酸化物とを、リチウムと、遷移金属全体とのモル比が1.15:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。その後、この混合物を空気雰囲気中にて900℃で10時間焼成し、粉砕することにより、平均二次粒子径が約8μmのLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を得た。
【0060】
そして、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子と、酸化タングステン(WO)とリン酸リチウムを所定の割合で混合し正極活物質を作製した。なお、このようにして作製した正極活物質中におけるタングステンの量はリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の総量に対して1.0mol%だった。また、正極活物質中におけるリン酸リチウムの量は0.5wt%であった。
【0061】
[正極極板の作製]
上記正極活物質と導電剤としてのカーボンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質と導電剤と結着剤との質量比が92:5:3となるように秤量し、これらを混練して正極合剤スラリーを調製した。
【0062】
次いで、上記正極合剤スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにアルミニウム製の集電タブを取り付けることにより、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極極板を作製した。
【0063】
得られた正極極板について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、平均粒径が150nmの酸化タングステンと平均粒径100nmのリン酸リチウムの粒子が、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に付着していることが確認された。但し、一部は導電剤と結着剤を混合する工程において正極活物質粒子の表面から酸化タングステン、リン酸リチウムが剥がれる場合があるので、正極活物質粒子に付着することなく、正極内に含まれている場合もある。また、リン酸リチウムは、酸化タングステンに付着しているか酸化タングステンの近傍に存在していることが確認された。
【0064】
そして、図1に示すように、上記のようにして作製した正極を作用極11として用いる一方、負極となる対極12及び参照極13にそれぞれ金属リチウムを用い、また非水電解液14として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボネートとを3:3:4の体積比で混合させた混合溶媒にLiPFを1mol/lの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%溶解させたものを用いて、三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0065】
[大気曝露した正極極板を用いた電池の作製]
正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、以下の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A1と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B1)を作製した。
・大気曝露条件
温度60℃、湿度30%の恒温恒湿槽に3日静置した。
【0066】
(実験例2)
実験例1における正極活物質の作製において、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステンの量を増やした以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例2の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A2と称する。なお、このようにして作製した正極活物質中におけるタングステンの量はリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の総量に対して3.0mol%だった。
【0067】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A2と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B2)を作製した。
【0068】
(実験例3)
実験例1における正極活物質の作製において、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子に対してリン酸リチウムの量を増やした以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例3の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A3と称する。なお、このようにして作製した正極活物質中におけるリン酸リチウムの量は3wt%であった。
【0069】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A3と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B3)を作製した。
【0070】
(実験例4)
実験例1における正極活物質の作製において、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステン、リン酸リチウムを混合させなかった以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例4の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。
【0071】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A4と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B4)を作製した。
【0072】
(実験例5)
実験例1における正極活物質の作製において、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステンのみを混合した以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例5の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A5と称する。
【0073】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A5と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B5)を作製した。
【0074】
(実験例6)
実験例5における正極活物質の作製において、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステンの量を増やした以外は、上記の実験例5の場合と同様にして、実験例6の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A6と称する。
【0075】
なお、このようにして作製した正極活物質中におけるタングステンの量はリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の総量に対して3.0mol%だった。なお、X線回折(XRD)によって正極活物質を測定した結果、図2に示すようにJCPDS 72−1465に同定されるWOに起因するピークを確認することができた。
【0076】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A6と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B6)を作製した。
【0077】
(実験例7)
実験例1における正極活物質の作製において、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子に対してリン酸リチウムのみを混合した以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例7の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A7と称する。
【0078】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A7と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B7)を作製した。
【0079】
(実験例8)
実験例7における正極活物質の作製において、上記のLi1.07[Ni0.465Co0.186Mn0.279]Oからなる正極活物質粒子に対してリン酸リチウムの量を増やした以外は、上記の実験例7の場合と同様にして、実験例8の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A8と称する。なお、このようにして作製した正極活物質中におけるリン酸リチウムの量は3wt%だった。
【0080】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A8と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B8)を作製した。
【0081】
<充電条件>
25℃の温度条件下において、0.2mA/cmの電流密度で4.3V(vs.Li/Li)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li)の定電圧で電流密度が0.04mA/cmになるまで定電圧充電を行った。
【0082】
<大気曝露による充電容量の劣化率の算出>
上記で求めた初期充電容量のうち、大気曝露なし(大気曝露していない正極極板使用時)の初期充電容量を「曝露なし初期充電容量」とし、大気曝露あり(大気曝露した正極極板使用時)の初期充電容量を「曝露あり初期充電容量」とし、下記に示す式(1)に基づき、対応する電池の曝露なし初期充電容量と曝露あり初期充電容量の差から大気曝露による劣化充電容量を算出した。
【0083】
そして、酸化タングステンおよびリン酸リチウムのいずれも混合していない実験例(実験例4)の大気曝露による充電容量の劣化率を「100」として、各実験例の大気曝露による充電容量の劣化率を求めた。
劣化充電容量=(曝露なし初期充電容量)−(曝露あり初期充電容量) (1)
【0084】
その結果を纏めて下記表1に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
上記表1の結果からわかるように、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面に酸化タングステンとリン酸リチウムが付着した実験例1〜実験例3の電池は、実験例4〜実験例8の電池に比べ、大気曝露による充電容量の劣化率が大きく低減している。
【0087】
加えて、酸化タングステンのみを付着した実験例5、実験例6の電池、及びリン酸リチウムのみを付着した実験例7、実験例8の電池は、それらのどちらも備えていない実験例4の電池と比べ、大気曝露による充電容量の劣化率にほとんど差が見られなかったが、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面に酸化タングステンとリン酸リチウムが付着した実験例1〜実験例3の電池は、それら個々の効果をはるかに上回る改善がみられている。このような結果が得られた理由は、下記に述べるとおりのものと考えられる。
【0088】
酸化タングステンとリン酸リチウムがリチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に同時に付着している実験例1〜実験例3の電池の場合、酸化タングステンにより、大気曝露による特性劣化の原因であるLiOH生成反応の進行が抑制されるため、大気曝露後に充電した際に充電容量が低下するという、大気曝露による初期充電特性の劣化を低減することができると考えられる。
【0089】
加えて、リチウム含有遷移金属複合酸化物中のMn4+とLiPO中のPO3−との特異的な相互作用によりリチウム含有遷移金属化合物への大気中の水分の吸着が抑制される。この水分吸着量を少なくできることに起因して、大気曝露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応の進行がさらに抑制され、大気曝露による初期充電特性の劣化を一層低減することができると考えられる。
【0090】
このような相乗効果が発揮されることによって、大気曝露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応を抑制することができ、この結果、大気曝露後に充放電した際に充電容量が低下するという、大気曝露による初期充電特性の劣化を飛躍的に低減することができる。
【0091】
なお、上述した作用は、一般式Li1+xMn2+c(式中、x、a、bおよびcは、x+a+b=1、0<x≦0.2、0.09≦a、−0.1≦c≦0.1の条件を満たし、リン酸化合物が酸化タングステンと共存している場合に得られる相互作用であって、リン酸化合物が単独で存在する場合には発揮されないと考えられる。
【0092】
酸化タングステンのみが付着している実験例5、実験例6の電池の場合、酸化タングステンとリン酸リチウムによる上記相乗効果が得られない。すなわち、酸化タングステンの存在により大気曝露の劣化原因である上記LiOH生成反応が若干抑制できるものの、リン酸化合物が存在していないことからリチウム含有遷移金属複合酸化物表面への水分吸着量が多くなる。このため、大気曝露の劣化原因である上記LiOH生成反応の進行が加速され、大気曝露による初期充電特性の劣化を十分に抑制することができなかったと考えられる。
【0093】
リン酸リチウムのみが付着している実験例7、実験例8の電池の場合もまた、酸化タングステンとリン酸リチウムによる上記相乗効果が得られない。すなわち、上述のとおりリン酸リチウムが酸化タングステンと共存せず単独で存在する場合には、リチウム含有遷移金属複合酸化物への大気中の水分吸着を抑制することができず、上記LiOH生成反応の進行が加速されたと考えられる。
【0094】
加えて、実験例7、実験例8の電池においては酸化タングステンが存在しないために、酸化タングステンによる上記LiOH生成反応の抑制効果も得られなかったと考えられる。即ち、実験例7、実験例8の電池のようにリン酸化合物を付着させるだけでは、大気曝露による初期充電特性の劣化を抑制する効果が得られないことがわかる。
【0095】
実験例4の電池の場合は、酸化タングステンとリン酸リチウムの両方がリチウム含有遷移金属化合物の表面に付着していないため、酸化タングステンによる効果も酸化タングステンとリン酸リチウムによる相乗効果も得られないために、上記LiOHが生成する反応が抑制できず、大気曝露による初期充電特性の劣化が抑制されなかったと考えられる。
【0096】
〔第2実験例〕
(実験例9)
実験例1で用いたニッケルコバルトマンガン複合物と水酸化リチウムとニッケルコバルトマンガン複合酸化物と、酸化ジルコニウム(ZrO)とを、リチウムと、遷移金属全体としてのニッケルコバルトマンガンと、ジルコニウムとのモル比が1.15:1:0.005になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合し焼成した以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例9の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A9と称する。
【0097】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A9と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B9)を作製した。
【0098】
(実験例10)
実験例9における正極活物質の作製において、酸化タングステン、リン酸リチウムを混合させなかった以外は、上記の実験例9の場合と同様にして、実験例10の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A10と称する。
【0099】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A10と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B10)を作製した。
【0100】
実験例9、実験例10の電池を用いて、上記第1実験例と同様に、酸化タングステンおよびリン酸リチウムのいずれも混合していない実験例(実験例10)の大気曝露による充電容量の劣化率を「100」として、実験例9の大気曝露による充電容量の劣化率を求めた。その結果を実験例1、実験例4の電池の結果とともに纏めて下記表2に示した。
【0101】
【表2】
【0102】
上記表2の結果からわかるように、酸化ジルコニウムを水酸化リチウムと遷移金属複合酸化物と共にリチウム含有遷移金属複合酸化物を作製する際に混合した実験例9の電池は、酸化タングステンとリン酸リチウムの両方がリチウム含有遷移金属化合物の表面に付着していない実験例10の電池と比べて大気曝露による初期充電特性の劣化を大きく抑制していることがわかった。
【0103】
また、リチウム含有遷移金属複合酸化物を作製時に酸化ジルコニウムが含まれていない実験例1と比べても抑制効果が大きいことが明らかとなった。
【0104】
上記ジルコニウムの効果は明らかではないが、リチウム含有遷移金属化合物への大気中の水分の吸着が抑制され、この結果、大気曝露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応の進行がさらに抑制されたため、大気曝露による初期充電特性の劣化を一層低減することができたと考えられる。
【0105】
〔第3実験例〕
(実験例11)
まず、共沈により得られた[Ni0.70Co0.20Mn0.10](OH)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で焼成して、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。次に、水酸化リチウムと、上記で得たニッケルコバルトマンガン複合酸化物とを、リチウムと、遷移金属全体とのモル比が1.05:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。
【0106】
その後、この混合物を酸素雰囲気中にて850℃で10時間焼成し、粉砕することにより、平均二次粒子径が約14μmのLi1.024[Ni0.683Co0.195Mn0.098]Oで表されるリチウムニッケル酸複合酸化物を得た。
【0107】
そして、上記のLi1.024[Ni0.683Co0.195Mn0.098]Oからなる正極活物質粒子を用いた以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例11の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A11と称する。
【0108】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A11と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B11)を作製した。
【0109】
(実験例12)
実験例11における正極活物質の作製において、上記のLi1.024[Ni0.683Co0.195Mn0.098]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステン、リン酸リチウムを混合させなかった以外は、上記の実験例11の場合と同様にして、実験例12の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A12と称する。
【0110】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A12と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B12)を作製した。
【0111】
(実験例13)
実験例11における正極活物質の作製において、上記のLi1.024[Ni0.683Co0.195Mn0.098]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステンのみを混合した以外は、上記の実験例11の場合と同様にして、実験例13の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A13と称する。
【0112】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A13と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B13)を作製した。
【0113】
(実験例14)
実験例11における正極活物質の作製において、上記のLi1.024[Ni0.683Co0.195Mn0.098]Oからなる正極活物質粒子に対してリン酸リチウムのみを混合した以外は、上記の実験例11の場合と同様にして、実験例14の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A14と称する。
【0114】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A14と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B14)を作製した。
【0115】
(実験例15)
まず、共沈により得られた[Ni0.82Co0.15Al0.03](OH)で表されるニッケルコバルトアルミ複合水酸化物を500℃で焼成して、ニッケルコバルトアルミ複合酸化物を得た。次に、水酸化リチウムと、上記で得たニッケルコバルトアルミ複合酸化物とを、リチウムと、遷移金属全体とのモル比が1.03:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。
【0116】
その後、この混合物を酸素雰囲気中にて850℃で10時間焼成し、粉砕することにより、平均二次粒子径が約14μmのLi1.015[Ni0.808Co0.148Al0.029]Oで表されるリチウムニッケル酸複合酸化物を得た。
【0117】
そして、上記のLi1.015[Ni0.808Co0.148Al0.029]Oからなる正極活物質粒子を用いた以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例15の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A15と称する。
【0118】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A15と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B15)を作製した。
【0119】
(実験例16)
実験例15における正極活物質の作製において、上記のLi1.015[Ni0.808Co0.148Al0.029]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステン、リン酸リチウムを混合させなかった以外は、上記の実験例15の場合と同様にして、実験例16の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A16と称する。
【0120】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A16と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B16)を作製した。
【0121】
(実験例17)
実験例15における正極活物質の作製において、上記のLi1.015[Ni0.808Co0.148Al0.029]Oからなる正極活物質粒子に対して酸化タングステンのみを混合した以外は、上記の実験例15の場合と同様にして、実験例17の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A17と称する。
【0122】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A17と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B17)を作製した。
【0123】
(実験例18)
実験例15における正極活物質の作製において、上記のLi1.015[Ni0.808Co0.148Al0.029]Oからなる正極活物質粒子に対してリン酸リチウムのみを混合した以外は、上記の実験例15の場合と同様にして、実験例18の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A18と称する。
【0124】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A18と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B18)を作製した。
【0125】
(実験例19)
まず、共沈により得られた[Ni0.80Co0.15Mn0.05](OH)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で焼成して、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。次に、水酸化リチウムと、上記で得たニッケルコバルトマンガン複合酸化物とを、リチウムと、遷移金属全体とのモル比が1.05:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。
【0126】
その後、この混合物を酸素雰囲気中にて850℃で10時間焼成し、粉砕することにより、平均二次粒子径が約14μmのLi1.024[Ni0.781Co0.146Mn0.049]Oで表されるリチウムニッケル酸複合酸化物を得た。
【0127】
そして、上記のLi1.024[Ni0.781Co0.146Mn0.049]Oからなる正極活物質粒子を用いた以外は、上記の実験例1の場合と同様にして、実験例19の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A19と称する。
【0128】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A19と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B19)を作製した。
【0129】
(実験例20)
実験例19における正極活物質の作製において、上記のLi1.024[Ni0.781Co0.146Mn0.049]からなる正極活物質粒子に対して酸化タングステン、リン酸リチウムを混合させなかった以外は、上記の実験例19の場合と同様にして、実験例20の三電極式試験セルを作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A20と称する。
【0130】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気曝露を行ったこと以外は、上記電池A20と同様にして大気曝露した正極極板を用いた電池(電池B20)を作製した。
【0131】
実験例11と実験例12、実験例13〜実験例16および実験例17〜実験例20の電池を用いて、上記第1実験例と同様に、酸化タングステンおよびリン酸リチウムのいずれも混合していない実験例(実験例12、実験例16および実験例20)の大気曝露による充電容量の劣化率を「100」として、各実験例の大気曝露による充電容量の劣化率を求めた。その結果を実験例1、実験例4の電池の結果とともに纏めて下記表3に示した。
【0132】
【表3】
【0133】
上記表3の結果からわかるように実験例11の電池では、実験例1の電池の場合と同様に、大気曝露による初期充電特性の劣化を大幅に抑制することができた。
【0134】
一方、実験例15及び実験例19の電池では、大気曝露による初期充電特性の劣化を抑制する効果が小さかった。
【0135】
これは、実験例15及び実験例19の電池で用いた正極活物質粒子のMn量が9mol%より低かったため、Mn4+とPO3−との特異的な相互作用による大気中の水分の吸着が充分でなく、LiOHが生成する反応が抑制できず、大気曝露による初期充電特性の劣化が抑制されなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の一局面の非水電解質二次電池用正極及びこれを用いた非水電解質二次電池は、例えば、携帯電話、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット端末等の移動情報端末の駆動電源で、特に高エネルギー密度が必要とされる用途に適用することができる。さらに、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)や電動工具のような高出力用途への展開も期待できる。
【符号の説明】
【0137】
11 作用極(正極)
12 対極(負極)
13 参照極
14 非水電解液
20 三電極式試験セル
図1
図2