特許第6614199号(P6614199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614199
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】車両用サウンドシステム
(51)【国際特許分類】
   B60R 11/02 20060101AFI20191125BHJP
【FI】
   B60R11/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-94626(P2017-94626)
(22)【出願日】2017年5月11日
(65)【公開番号】特開2018-188093(P2018-188093A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】任田 功
(72)【発明者】
【氏名】黒木 治
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−271700(JP,A)
【文献】 特開2008−213760(JP,A)
【文献】 特開2009−040130(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0263963(US,A1)
【文献】 特開2000−045895(JP,A)
【文献】 特開2011−017320(JP,A)
【文献】 特開平02−115512(JP,A)
【文献】 特開2007−010810(JP,A)
【文献】 特開2013−167851(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0096101(US,A1)
【文献】 特許第2776092(JP,B2)
【文献】 特開平05−085288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が着座される車室が車体構造体により規定されると共に、車室外にエンジンと該エンジンの排気音を低減させる消音器が配設された車両における車両用サウンドシステムであって、
エンジン音または排気音を、運転席に着座される運転者よりも前方位置において車室内に導入すると共に、その導入レベルを調整可能な第1導入手段と、
エンジン音または排気音を、運転席に着座される運転者よりも後方位置において車室内に導入すると共に、その導入レベルを調整可能な第2導入手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段で検出された走行状態に応じて、前記第1導入手段からの導入レベルと前記第2導入手段からの導入レベルとを変更する導入レベル制御手段と、
を備え、
前記走行状態検出手段が、エンジン回転数を検出するものとされ、
前記導入レベル制御手段は、エンジン回転数の上昇に応じて、車室内で聞こえるエンジン音または排気音の位置が前方から後方へと移行されるように、前記第1導入手段からの導入レベルと前記第2導入手段からの導入レベルとを制御し、
エンジン回転数が第1所定回転数よりも低い回転数域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルが大きくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルが小さくなるように制御し、
エンジン回転数が該第1所定回転数よりも高回転に設定された第2所定回転数よりも大きい高回転域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルが小さくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルが大きくなるように制御する、
ことを特徴とする車両用サウンドシステム。
【請求項2】
運転者が着座される車室が車体構造体により規定されると共に、車室外にエンジンと該エンジンの排気音を低減させる消音器が配設された車両における車両用サウンドシステムであって、
エンジン音または排気音を、運転席に着座される運転者よりも前方位置において車室内に導入すると共に、その導入レベルを調整可能な第1導入手段と、
エンジン音または排気音を、運転席に着座される運転者よりも後方位置において車室内に導入すると共に、その導入レベルを調整可能な第2導入手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段で検出された走行状態に応じて、前記第1導入手段からの導入レベルと前記第2導入手段からの導入レベルとを変更する導入レベル制御手段と、
を備え、
エンジン音または排気音を、前記第1導入手段による導入位置と前記第2導入手段による導入位置との間において車室内に導入する共に、その導入レベルを調整可能な第3導入手段をさらに備え、
前記導入レベル制御手段が、前記第3導入手段をも制御し、
前記走行状態検出手段が、エンジン回転数を検出するものとされ、
前記導入レベル制御手段は、エンジン回転数の上昇に応じて、車室内で聞こえるエンジン音または排気音の位置が前方から後方へと移行されるように、前記第1導入手段からの導入レベルと前記第2導入手段からの導入レベルと前記第3導入手段からの導入レベルとを制御し、
エンジン回転数が第1所定回転数よりも低い回転数域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルが大きくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルおよび前記第3導入手段からの導入レベルがそれぞれ小さくなるように制御し、
エンジン回転数が該第1所定回転数よりも高回転に設定された第2所定回転数よりも大きい高回転域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルおよび前記第3導入手段からの導入レベルがそれぞれ小さくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルが大きくなるように制御し、
エンジン回転数が該第1所定回転数と前記第2所定回転数との間となる中回転域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルおよび前記第2導入手段からの導入レベルがそれぞれ小さくなるように、かつ前記第3導入手段からの導入レベルが大きくなるように制御する、
ことを特徴とする車両用サウンドシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第1導入手段からはエンジン音が導入され、
前記第2導入手段からは排気音が導入される、
ことを特徴とする車両用サウンドシステム。
【請求項4】
請求項3において、
車室前方に前記エンジンが配設され、
車室後方に前記消音器が配設されている、
ことを特徴とする車両用サウンドシステム。
【請求項5】
請求項2において、
前記第3導入手段は、フロアパネルに形成されたトンネル部内の空間を経由して伝達されるエンジン音または排気音を車室内に導入する、ことを特徴とする車両用サウンドシステム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サウンドシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両においては、車室内にオーディオ音を流すオーディオ装置が装備されていることが一般的となっている。特許文献1、特許文献2には、オーディオ音が乗員にとって車室内の所定位置から聞こえるようにするために、オーディオ音の定位を行うものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2776092号公報
【特許文献2】特開平5−85288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばスポーツカー等の走行を楽しむことが重視される車両においては、エンジン音や排気音を運転者(運転席乗員)に対して積極的に聞かせる(聴かせる)ことが望まれるものである。すなわち、エンジン音や排気音は、車両状態をよく示すことから、走行を楽しむ場合にエンジン音や排気音というものが非常に重要な要素なる。
【0005】
しかしながら、エンジン音や排気音が重視される従来の車両は、エンジン音については、エンジンそのものをスムーズに回転されるようにしつつ高回転型とし、さらに吸気音をチューニングする程度のことしか行われていないのが実情である。また、排気音については、排気抵抗を小さくしつつ、マフラー(消音器)等によって排気音のチューニングを行う程度のことした行われていないのが実情である。そして、従来は、エンジン音や排気音を車室内でどのように聞かせるかということまでは意図されていなかった。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、車室内の運転席乗員が、エンジン音あるいは排気音を車両の走行状態に応じて好適に聞くことのできるようにした車両用サウンドシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような基本的な解決手法を採択してある。すなわち、
運転者が着座される車室が車体構造体により規定されると共に、車室外にエンジンと該エンジンの排気音を低減させる消音器が配設された車両における車両用サウンドシステムであって、
エンジン音または排気音を、運転席に着座される運転者よりも前方位置において車室内に導入すると共に、その導入レベルを調整可能な第1導入手段と、
エンジン音または排気音を、運転席に着座される運転者よりも後方位置において車室内に導入すると共に、その導入レベルを調整可能な第2導入手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段で検出された走行状態に応じて、前記第1導入手段からの導入レベルと前記第2導入手段からの導入レベルとを変更する導入レベル制御手段と、
を備えているようにしてある。
【0008】
上記基本的な解決手法によれば、車室内に積極的にエンジン音又は排気音を導入することから、運転席乗員は、エンジン音または排気音に基づいて車両状態を的確に把握して、スポーツ走行を行う上で好ましいものとなり、また安全確保の上でも好ましいものとなる。また、エンジン音又は排気音が前後方向に隔置された状態で車室内に導入されることから、運転席乗員は、エンジン音又は排気音をその音像位置から容易に識別して、上記の効果をより十分に得ることができる。さらに、車両の走行状態に応じてエンジン音または排気音が聞こえてくる位置を前後方向に変化させて、車室内の運転席乗員にとってエンジン音あるいは排気音を車両の走行状態に応じて好適に聞くことができる。
【0009】
上記基本的な解決手法を有していることに加えて、本件第1発明にあっては、次のような解決手法をさらに採択してある。
前記走行状態検出手段が、エンジン回転数を検出するものとされ、
前記導入レベル制御手段は、エンジン回転数の上昇に応じて、車室内で聞こえるエンジン音または排気音の位置が前方から後方へと移行されるように、前記第1導入手段からの導入レベルと前記第2導入手段からの導入レベルとを制御し、
エンジン回転数が第1所定回転数よりも低い回転数域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルが大きくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルが小さくなるように制御し、
エンジン回転数が該第1所定回転数よりも高回転に設定された第2所定回転数よりも大きい高回転域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルが小さくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルが大きくなるように制御する、
ようにしてある(請求項1対応)。本件第1発明によれば、エンジン回転数はスポーティな走行度合いを示す指標となることから、スポーティな走行度合が高まるほど、エンジン音または排気音が後方へ移動した位置から聞こえるようにすること、つまり音を置き去りにするような爽快感を感じさせる上で好ましいものとなる。
【0010】
以上に加えて、低回転でおとなしい運転を行っているときは、後方からの音が押さえられることから、いたずらに運転席乗員を刺激してしまうことが抑制される。
【0011】
上記基本的な解決手法を有していることに加えて、本件第2発明にあっては、次のような解決手法をさらに採択してある。
エンジン音または排気音を、前記第1導入手段による導入位置と前記第2導入手段による導入位置との間において車室内に導入する共に、その導入レベルを調整可能な第3導入手段をさらに備え、
前記導入レベル制御手段が、前記第3導入手段をも制御し、
前記走行状態検出手段が、エンジン回転数を検出するものとされ、
前記導入レベル制御手段は、エンジン回転数の上昇に応じて、車室内で聞こえるエンジン音または排気音の位置が前方から後方へと移行されるように、前記第1導入手段からの導入レベルと前記第2導入手段からの導入レベルと前記第3導入手段からの導入レベルとを制御し、
エンジン回転数が第1所定回転数よりも低い回転数域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルが大きくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルおよび前記第3導入手段からの導入レベルがそれぞれ小さくなるように制御し、
エンジン回転数が該第1所定回転数よりも高回転に設定された第2所定回転数よりも大きい高回転域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルおよび前記第3導入手段からの導入レベルがそれぞれ小さくなるように、かつ前記第2導入手段からの導入レベルが大きくなるように制御し、
エンジン回転数が該第1所定回転数と前記第2所定回転数との間となる中回転域において、前記導入レベル制御手段は、前記第1導入手段からの導入レベルおよび前記第2導入手段からの導入レベルがそれぞれ小さくなるように、かつ前記第3導入手段からの導入レベルが大きくなるように制御する、
ようにしてある(請求項2対応)。本件第2発明によれば、前後方向中間位置からもエンジン音または排気音を導入させて、前述した効果をより一層効果的に得る上で好ましいものとなる。
【0012】
また、エンジン音または排気音が、エンジン回転数の上昇に応じて後方へと移動する感覚をより滑らかに得ることができる。さらに、エンジン回転数の上昇に応じて、エンジン音または排気音が聞こえてくる位置を後方へと滑らかに移動させることができる。
【0013】
【0014】
本発明の好ましい態様は次のとおりである。
前記第1導入手段からはエンジン音が導入され、
前記第2導入手段からは排気音が導入される、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、エンジン音および排気音を共に車室内に導入して、この両方の音に基づいて運転席乗員は車両状態をより的確に把握することができる。また、車両においては、車室前方にエンジンが配設されてエンジン音が前方から聞こえてくる一方、車室後方に消音器が配設されて後方から排気音が聞こえてくるのが一般的なことから、エンジンや消音器の配設位置を一般的な車両とは異なる設定を採択した場合でも、聞こえてくるエンジン音位置や排気音位置を、広く普及している形式の車両の場合と同じような設定とすることができる。
【0015】
車室前方に前記エンジンが配設され、
車室後方に前記消音器が配設されている、
ようにしてある(請求項4対応)。この場合、エンジンおよび消音器の配設位置が一般的な形態とされている車両に対応して、請求項3に対応した効果をより一層十分に発揮させる上で好ましいものとなる。
【0016】
前記第3導入手段は、フロアパネルに形成されたトンネル部内の空間を経由して伝達されるエンジン音または排気音を車室内に導入する、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、トンネル部内の空間を、エンジン音または排気音の伝達空間として有効利用することができる。また、トンネル部は前後方向に長いことから、第3導入手段からの導入位置の前後方向での選択の自由度が高くなり、車室内に導入される音のうちエンジン音と排気音との割合(レベル割合)を所望のものにすることも可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車室内の運転席乗員に対して、エンジン音あるいは排気音を車両の走行状態に応じて好適に聞かせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明が適用された車両の一例を示す平面図。
図2図1に示す車両の側面一部断面図。
図3】ダッシュパネルに形成されたエンジン音透過部分の構造を示す分解斜視図。
図4】車室前部の状態を車室後部から前方を見た正面図。
図5】エンジン音をトンネル部内の空間を介して車室内に導入させる部分を示す要部断面図。
図6】本発明の制御系統例をブロック図的に示す図。
図7】第1導入手段からの導入レベルを示す特性図。
図8】第2導入手段からの導入レベルを示す特性図。
図9】第3導入手段からの導入レベルを示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1図2において、車両Vは、実施形態では、2ドアのオープンカーとされている。図中、1はダッシュパネルで、エンジンルーム2と車室3とを仕切っている。4は、エンジンルーム2を上方から覆うボンネット、5R、5Lは、左右一対のサイドドア、6はトランクリッド、7はルーフである。また、8は運転席、9は助手席、10はステアリングハンドルである。さらに、11はインストルメントパネル、12はフロントウインドガラスである。
【0020】
図2に示すように、ルーフ7は、リアウインドガラス7aを有しており、図2では、ルーフ7が閉状態のとき、つまりルーフ7によって車室3が上方から覆われた状態が示される。また、図1では、ルーフ7が閉じられた状態を示すが、ルーフ7を透視した状態となっており、またフロントウインドガラス12の上端部を一部カットした状態が示される。
【0021】
車室3の床面を構成するフロアパネル20は、車幅方向中央部において前後方向に延びるトンネル部21を有し、トンネル部21の上面はトリム材22により覆われている。フロアパネル20の後端部は、キックアップ部23を経てリアパネル24へと連なっている。
【0022】
ダッシュパネル1の前方に構成されたエンジンルーム2には、エンジン30が配設されている。エンジン30は、実施形態では縦置きとされて、エンジン本体が符号30Aで示され、吸気系部材が符号30Bで示され、排気系部材が符号30Cで示される。エンジン30(エンジン本体30A)の後部には、変速機31が連結されている。
【0023】
なお、エンジン30には、エンジン本体30Aにより駆動されるオルタネータ、エアコン用コンプレッサ等々の補器類が装備されているが、これらは図示を略してある。エンジン音は、エンジン本体30Aが回転されたり燃焼されるときに発生される音の他、吸気音や排気音、補器類が駆動される音、変速機31が変速されるときの音がミックスされた音となる。
【0024】
車両Vの後部には、差動装置(デファレンシャルギア)40が配設されている。この差動装置40と、変速機31(つまりエンジン30)とが、プロペラシャフト41によって連結されている。つまり、車両Vは、実施形態では後輪駆動車とされている。そして、変速機31と差動装置40とが、プロペラシャフト41を取り巻くように配設された円環状のトルクチューブ44によって連結されている(図5をも参照)。
【0025】
エンジン30から延びる排気通路42が後方へ延びている。この排気通路42は、車両後部の下方に配設されたマフラー43に接続されている。マフラー43は、後方へ開口された左右一対の排気パイプ43Aが接続されている。排気ガスが、最終的に、排気パイプ43Aから外部(大気)へ排出される。
【0026】
車室3内に対して、エンジン音、排気音が前後方向に間隔をあけて合計3箇所から導入されるようにしてある。実施形態では、エンジン音あるいは排気音について、運転席乗員にとって特定の位置から聞こえてくるように(特定の位置から音が導入されるように)、図2符号T1〜T3で示す位置に定位するようにしてある。
【0027】
第1の位置T1は、フロントウインドガラス12のうち、運転者の眼の位置と略同じ高さ位置で、車幅方向略中央部に位置するように設定されている。第2の位置T2は、車室3の後部で、具体的にはキックアップ部23のうち車幅方向略中央部に設定してある(図1図2参照)。第3の位置T3は、トンネル部21部分に設定されて、運転席8の側方に設定されている。なお、定位位置T1、T2の領域は、図示したものに限らず、例えば、車幅方向や上下方向に拡大した領域でもよく、またT1の位置は、例えばフロントウインドガラス12の領域内において、車両状態、例えばステアリング舵角等に応じて可変としてもよい。
【0028】
次に、エンジン音を第1の位置T1に定位する具体構造例について説明する。まず、ダッシュパネル1のうち、エンジン30(エンジン本体30A)が位置する高さおよび車幅方向位置に、図3に示すように開口部50が形成される。この開口部50は、エンジンルーム2とインストルメントパネル11(の空間)内とを連通している。そして、開口部50は、空気を遮断する膜部材51によって施蓋されている。つまり、エンジンルーム2からのエンジン音が、膜部材51を震動させてインストルメントパネル11内へと効果的に伝達される。
【0029】
インストルメントパネル11には、その上面に開口部11aが形成されている(図2参照)。インストルメントパネル11内に伝達されたエンジン音は、開口部11aを通過してフロントウインドガラス12に向けて伝達されることにより、このフロントウインドガラス12で反射されて、運転席8に着座している運転者へと伝達されることになる。つまり、第1の位置T1は、エンジン音がフロントウインドガラス12で反射される部位とされる。エンジンルーム2内の空気や液体は、膜部材51で遮断されて、車室3へと流れこむことが防止される。
【0030】
図3に示すように、膜部材51により施蓋された開口部50には、弁部材52が取付けられている。弁部材52は、開口部50に臨む短い筒部材52Aと、筒部材52Aを開閉する電磁式の弁体52Bとを有する。弁部材52を開位置とすることにより、開口部50からのエンジン音が、筒部材52Aを通ってインストルメントパネル11内に伝達される(第1の位置T1での定位実現)。弁部材52の開度調整を行うことにより、第1の位置T1でのエンジン音の導入レベルが変更される。
【0031】
第2の位置T2(の開口部)には弁部材45(52に対応した弁部材)を配設した構造となっており、実質的に図3に示すのと同様の構造とされているので、その重複した説明は省略する。そして、第2の位置T2(の開口部)は、車室内の換気用となる外部に開口されたエキストラチャンバ80に対して、ダクト81を介して接続されている(図1図2参照)。エキストラチャンバ80は、排気パイプ30Aの近くに形成されていることから、排気音が効果的に第2の位置T2へと伝達することができる。弁部材45の開度調整によって、第2の位置T2からの排気音の導入レベルが変更される。
【0032】
第3の位置T3からのエンジン音の導入のため、トンネル部55の前端部上面に形成された開口部に、弁部材55が配設される(図2参照)。弁部材55は、前述した図3に示す弁部材52と実質的に同様の構成とされている。すなわち、トンネル部21に形成された開口部が空気を遮断する膜部材により施蓋されて、ここに弁部材55が取付られる。
【0033】
また、トルクチューブ44の上面には、弁部材55付近の位置において、開口部44aが形成されている。これにより、エンジンルーム2からのエンジン音(実際には、変速機31での変速音や若干の排気音を含む)が、トルクチューブ44内、開口部44a、トンネル部21内を経て、弁部材55の位置に伝達される。このように、弁部材55の部分には、エンジン音が十分に伝達されるような設定とされている。
【0034】
トンネル部21を覆うトリム材22の前端部上面には、回動式の開閉部材56が設けられている。この開閉部材56は、図5に示すように、トリム材22の上面の一部を実質的に構成する円弧状の板材により形成されて、その一部に開口部56aが形成されている。開閉部材56は、図示略アクチュエータによって図5紙面直角方向に延びる軸線Z回りに回動可能とされている。図5では、開口部56aが、運転席側に向けて斜め上方に向かう状態、つまり運転席乗員に向けて指向された状態となっている。なお、開閉部材56は、その開口部56aが、運転席乗員側を向いた(指向された)状態と、上方を向いた状態との間で変更可能とされている。なお、開口部56cを開閉する部材を別途設けることもでき、この場合、開口部56aの開口面積を段階的あるいは連続可変式に変更することもできる。なお、開閉部材56の開口部56aが助手席側を向く状態を選択できるようにすることもできる。
【0035】
図2図5から明かなように、弁部材55が開位置とされている状態では、開口部56aを運転席乗員に向けて指向させることにより、トンネル部21内に伝達されたエンジン音が開口部56aを通して、運転席乗員に向けて指向されることになり、運転席乗員はより明確にエンジン音を認識することのできる状況となる。弁部材55の開度を調整することにより、第3の位置T3からのエンジン音の導入レベルが変更される。
【0036】
図6は、各位置T1〜T3からの導入レベルの制御を行うための制御系統例を示す。図中、Uはマイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラである。コントローラUには、走行状態を示すエンジン回転数を検出する回転数センサS1からの信号が入力される。また、コントローラUは、各弁部材52、45、55を制御する。
【0037】
コントローラUは、エンジン回転数に応じて、前方の弁部材52を図7のような特性に従うように制御し、後方の弁部材45を図8のような特性に従うように制御し、前後方向中間位置の弁部材55を図9のような特性に従うように制御する。
【0038】
図7図9において、制御しきい値用のエンジン回転数として、第1所定回転数(実施形態では2000rpm)と、これよりも高回転数となる第2所定回転数(実施形態ではあ5000rpm)が設定されている。なお、エンジン30の最高許容回転数は7500rpm程度とされている。
【0039】
もっとも前方の位置T1用の弁部材52は、図7にように、エンジン回転数が第1所定回転数よりも小さい低回転域では、導入レベルを大きくするために全開あるいはほぼ全開とされる一方、第2所定回転数よりも大きい高回転域では、導入レベルを小さくするために全閉あるいはほぼ全閉とされる。そして、第1所定回転数と第2所定回転数との中回転位置では、エンジン回転数が上昇するのに伴って徐々にに開度が小さくなるように設定されている。なお、弁部材52の開度特性は、エンジン回転数の変化に応じて連続して滑らかに変化するように設定されているが、低回転域と中回転域と高回転域とで一気に開度が変更される段階式とすることもできる。
【0040】
もっとも後方の位置T2用の弁部材45は、図8にように、エンジン回転数が第1所定回転数よりも小さい低回転域では、導入レベルを小さくするために全閉あるいはほぼ全閉とされる一方、第2所定回転数よりも大きい高回転域では、導入レベルを大きくするために全開あるいはほぼ全開とされる。そして、第1所定回転数と第2所定回転数との中回転位置では、エンジン回転数が上昇するのに伴って徐々に開度が大きくなるように設定されている。なお、弁部材45の開度特性は、エンジン回転数の変化に応じて連続して滑らかに変化するように設定されているが、低回転域と中回転域と高回転域とで一気に開度が変更される段階式とすることもできる。
【0041】
前後方向中間位置となる位置T3用の弁部材55は、図9にように、エンジン回転数が第1所定回転数よりも小さい低回転域および第2所定回転数よりも大きい高回転域では、導入レベルを小さくするために全閉あるいはほぼ全閉とされる一方、第1所定回転数と第2所定回転数との間の中回転域では、導入レベルを大きくするために全開あるいはほぼ全開とされる。そして、中回転域から低回転域あるいは高回転域へ移行するときは、かなり急激に開度が小さくされる。なお、弁部材55の開度特性は、エンジン回転数の変化に応じて連続可変式に変化するように設定されているが、低回転域と中回転域と高回転域とで一気に開度が変更される段階式とすることもできる。
【0042】
上述した弁部材52、45、55の特性設定から、車室3内で運転席乗員にとってエンジン音、排気音がよく聞こえてくる位置が、エンジン回転数の上昇に応じて前方から後方へと徐々に移動する感覚を受けることになる。つまり、スポーツ走行のように、スポーティな運転を行っているときは、エンジン音、排気音がより後方から聞こえることから、音を置き去りにするような爽快感を感じることになる。逆に、低回転でおとなしい運転を行っているときは、エンジン音が前方から聞こえて、後方からの排気音が押さえられることから、いたずらに運転席乗員を刺激してしまうことが抑制される。
【0043】
勿論、積極的にエンジン音、排気音を車室3内に導入することから、運転席乗員はエンジン音や排気音に基づいて車両状態を的確に把握して、スポーツ走行を楽しむ上で極めて好ましいものであり、また安全対策の上でも好ましいものとなる。上述したことは、車室3をルーフ7で覆ったときにより効果的となる。そして、エンジン音や排気音は、前後方向に隔置された状態で車室内へと導入されることから、運転席乗員は、特にエンジン音をその音像位置から容易に判断することができ、エンジン音(の変化)に応じて車両状態を的確に把握する上で極めて好適となる。
【0044】
ここで、車両においては、エンジンが車室前方に配設される一方、マフラー43が車室後方に配設されることが多い(一般的)。したがって、基本的に、エンジン音は前方から聞こえてくるようにかつ排気音が後方から聞こえてくるようにするのが、好ましいものであり、実施形態ではこのことを考慮したものとなっている。
【0045】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特
許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のようにすることもできる。
(1)第1の位置T1は、運転席乗員の前方であれば、適宜の位置を選択することができ、例えばインストルメントパネルの上面や後面、ダッシュパネルのうち運転席乗員の足下の直前方位置、フロントピラー部分等を選択することができる。同様に、第2位置T2、第3の位置T3も適宜選択できる。
(2)弁部材52、45、55の開度調整を行うための走行状態を示すパラメータとしては、適宜選択でき、例えば車速やアクセル開度を選択することができる。この場合、図7図9に示す特性は、エンジン回転数の代わりに車速あるいはアクセル開度を用いればよい。
(3)エンジン30が、運転席8の後方に配設される車両であってもよい(いわゆるRR車やミッドシップ車)。また、変速機31が、運転席8の後方に配設されたものであってもよい(作動装置40部分に変速機31が配設)。
(4)車室3内に導入させる音としては、実質的にエンジン音のみあるいは排気音のみとすることもできる。
(5)本発明は、オープンカーに限らず、セダン型やSUV型、4輪駆動車等、種々の形式の車両に適用できる。また、変速機31が車両後部(差動装置40の位置)に配設されたものであってもよく、プロペラシャフト41を有しない前輪駆動車(いわゆるFF車)やエンジン30が車室後方に配設されたものであってもよい。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、エンジン音または排気音を運転席乗員に対して好適に聞かせることができ、特にスポーツタイプの車両おいて好適となる。
【符号の説明】
【0047】
T1:エンジン音の定位位置
T2:排気音の定位位置
T3:エンジン音の導入位置
U:コントローラ
S1:回転数センサ
1:ダッシュパネル
2:エンジンルーム
3:車室
5L、5R:サイドドア
8:運転席
9:助手席
11:インストルメントパネル
11a:開口部(エンジン音通過用)
12:フロントウインドガラス
20:フロアパネル
21:トンネル部
22:トリム材
23:キックアップ部
30:エンジン
31:変速機
40:差動装置
41:プロペラシャフト
42:排気通路
43:マフラー
43A:排気パイプ
44:トルクチューブ
45:弁部材(第2導入部からの導入レベル変更用)
50:開口部(エンジン音透過用)
51:膜部材
52:弁部材(第1導入部からの導入レベル変更用)
55:弁部材(第3導入部からの導入レベル変更用)
56:開閉部材
56a:開口部
80:エキストラチャンバ
81:ダクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9