(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一形態によれば、下記化学式(1):
【0019】
(上記化学式(1)において、
Aは、不可避不純物であり、
Mは、1または2以上の遷移金属元素であり、
x、y、z、wおよびaは、質量%の値を表し、この際、0<y<100、0<z<100、0≦w<100であり、xおよびaは残部である。)
で表される組成を有し、ケイ素の結晶構造の内部にスズが固溶してなる非晶質または低結晶性のケイ素を含むa−Si相が、遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド相中に分散されてなる構造を有するケイ素含有合金からなる、電気デバイス用負極活物質が提供される。
【0020】
本発明に係る負極活物質を構成するケイ素含有合金では、所定の微細組織構造を有することで、a−Si相のアモルファス化が十分に進行している。すなわち、非晶質領域(a−Si相)周期配列領域(Middle−Range Order;MRO)のサイズが小さい値を示すようになる。これにより、充電時にSiとLiとが合金化する際のアモルファス−結晶の相転移(Li
15Si
4への結晶化)を抑制しつつ、充放電時の活物質粒子の膨張を緩和することにつながる。また、a−Si相にスズが(および場合によってはアルミニウムも)固溶してなる構成を有することで、非晶質領域(a−Si相)のSi正四面体間距離がより大きくなる。これにより、Si−Si間の距離が広がり、充放電時におけるリチウムイオンの可逆的な挿入・脱離反応が進行しやすくなる。すなわち、充放電によりSi相の微細構造中にLiの挿入・脱離を繰り返しても、放電状態(Li脱離状態)では、Si−Siの結合が維持される。さらに、シリサイド相が海島構造の海(連続相)を構成することで、負極活物質(ケイ素含有合金)の電子伝導性をよりいっそう向上させることができ、しかもa−Si相の膨張時の応力を緩和して活物質の割れを防止することができる。これらが複合的に作用する結果、本発明に係る負極活物質によれば、電気デバイスのサイクル耐久性の向上がもたらされる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の電気デバイス用負極活物質およびこれを用いてなる電気デバイスの実施形態を説明する。但し、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
以下、本発明の電気デバイス用負極活物質が適用されうる電気デバイスの基本的な構成を、図面を用いて説明する。本実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示して説明する。
【0023】
まず、本発明に係る電気デバイス用負極活物質を含む負極の代表的な一実施形態であるリチウムイオン二次電池用の負極およびこれを用いてなるリチウムイオン二次電池では、セル(単電池層)の電圧が大きく、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる。そのため本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるリチウムイオン二次電池では、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。その結果、車両の駆動電源用等のリチウムイオン二次電池として好適に利用できる。このほかにも、携帯電話などの携帯機器向けのリチウムイオン二次電池にも十分に適用可能である。
【0024】
すなわち、本実施形態の対象となるリチウムイオン二次電池は、以下に説明する本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるものであればよく、他の構成要件に関しては、特に制限されるべきものではない。
【0025】
例えば、上記リチウムイオン二次電池を形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
【0026】
また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。
【0027】
リチウムイオン二次電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれの電解質層のタイプにも適用し得るものである。該ポリマー電池は、さらに高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。
【0028】
したがって、以下の説明では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いてごく簡単に説明する。但し、本実施形態のリチウムイオン二次電池の技術的範囲が、これらに制限されるべきものではない。
【0029】
<電池の全体構造>
図1は、本発明の電気デバイスの代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された正極と、電解質層17と、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
【0031】
これにより、隣接する正極、電解質層、および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層15が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、
図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0032】
正極集電体12および負極集電体11は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板27および負極集電板25がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25は、それぞれ必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体12および負極集電体11に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0033】
上記で説明したリチウムイオン二次電池は、負極に特徴を有する。以下、当該負極を含めた電池の主要な構成部材について説明する。
【0034】
<活物質層>
活物質層13または15は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
【0035】
[正極活物質層]
正極活物質層15は、正極活物質を含む。
【0036】
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、LiMn
2O
4、LiCoO
2、LiNiO
2、Li(Ni−Mn−Co)O
2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられ、さらに好ましくはLi(Ni−Mn−Co)O
2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
【0037】
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
【0038】
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):Li
aNi
bMn
cCo
dM
xO
2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
【0039】
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
【0040】
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と寿命特性とのバランスを向上させるという観点からは好ましい。例えば、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2は、一般的な民生電池で実績のあるLiCoO
2、LiMn
2O
4、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2などと比較して、単位重量あたりの容量が大きく、エネルギー密度の向上が可能となることでコンパクトかつ高容量の電池を作製できるという利点を有しており、航続距離の観点からも好ましい。なお、より容量が大きいという点ではLiNi
0.8Co
0.1Al
0.1O
2がより有利であるが、寿命特性に難がある。これに対し、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2はLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2並みに優れた寿命特性を有しているのである。
【0041】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0042】
正極活物質層15に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。
【0043】
正極活物質層15は、バインダを含みうる。
【0044】
(バインダ)
バインダは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。正極活物質層に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダは、1種単独で用いてもよいし、2種併用してもよい。
【0045】
正極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0046】
正極(正極活物質層)は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、混練法、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法および溶射法のいずれかの方法によって形成することができる。
【0047】
[負極活物質層]
負極活物質層13は、負極活物質を含む。
【0048】
(負極活物質)
本実施形態において、負極活物質は、Si−Sn−M(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される三元系、またはSi−Sn−M−Al(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される四元系の合金組成を有し、ケイ素の結晶構造の内部にスズが固溶してなる非晶質または低結晶性のケイ素を含むa−Si相が、遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド相中に分散されてなる構造を有するケイ素含有合金からなるものである。
【0049】
〈ケイ素含有合金の組成〉
上述したように、本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金は、まず、Si−Sn−M(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される三元系、またはSi−Sn−M−Al(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される四元系の合金組成を有している。より具体的に、本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金は、下記化学式(1)で表される組成を有するものである。
【0051】
上記化学式(1)において、Aは、不可避不純物であり、Mは、1または2以上の遷移金属元素であり、x、y、z、wおよびaは、質量%の値を表し、この際、0<y<100、0<z<100、0≦w<100であり、xおよびaは残部である。
【0052】
上記化学式(1)から明らかなように、w=0のとき、本実施形態に係るケイ素含有合金(Si
xSn
yM
zA
aの組成を有するもの)は、Si、SnおよびM(遷移金属)の三元系である。また、w>0のとき、本実施形態に係るケイ素含有合金(Si
xSn
yM
zAl
wA
a(w>0)の組成を有するもの)は、Si、Sn、M(遷移金属)およびAlの四元系である。かような組成を有することで、高いサイクル耐久性の実現が可能となる。また、本明細書において「不可避不純物」とは、Si含有合金において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。当該不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、Si合金の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。
【0053】
本実施形態において特に好ましくは、負極活物質(ケイ素含有合金)への添加元素(M;遷移金属)としてTiを選択することで、Li合金化の際に、アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、これによって、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。したがって、本発明の好ましい実施形態によると、上記化学式(1)で表される組成において、Mがチタン(Ti)であることが好ましい。
【0054】
ここで、Si系負極活物質では、充電時にSiとLiとが合金化する際、Si相がアモルファス状態から結晶状態へと転移して大きな体積変化(約4倍)を起こす。その結果、活物質粒子自体が壊れてしまい、活物質としての機能が失われてしまうという問題がある。このため、充電時におけるSi相のアモルファス−結晶の相転移を抑制することで粒子自体の崩壊を抑制することができ、活物質としての機能(高容量)が保持され、サイクル寿命も向上させることができる。
【0055】
上述したように、本発明の一実施形態に係るケイ素含有合金(Si
xSn
yM
zA
aの組成を有するもの)は、Si、SnおよびM(遷移金属)の三元系である。このような実施形態において、各構成元素の構成比(質量比x、y、z)の合計は100質量%であるが、x、y、zのそれぞれの値について特に制限はない。ただし、xについては、充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持および初期容量のバランスという観点から、好ましくは60≦x≦73であり、より好ましくは60≦x≦70であり、さらに好ましくは60≦x≦67であり、特に好ましくは60≦x≦65である。また、yについては、Si相中に固溶し、Si相中のSi正四面体間距離を増大させることにより、充放電時の可逆的Liイオンの挿入脱離を可能にするという観点から、好ましくは2≦y≦15であり、より好ましくは2≦y≦10であり、さらに好ましくは5≦y≦10である。そして、zについては、xと同様に充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持および初期容量のバランスという観点から、好ましくは25≦z≦35であり、より好ましくは27≦z≦33であり、さらに好ましくは28≦z≦30である。すなわち、本実施形態(w=0である形態)において特に好ましくは、60≦x≦65であり、5≦y≦10であり、28≦z≦30である。このように、Siを主成分としつつ、Tiを比較的多めに含ませ、かつ、Snについてもある程度含ませることで、本実施形態に係るケイ素含有合金の微細組織構造を達成しやすくなる。
【0056】
このような実施形態において、各構成元素の構成比(質量比x、y、z、w)の合計は100質量%であるが、x、y、z、wのそれぞれの値について特に制限はない。ただし、xについては、充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持および初期容量のバランスという観点から、好ましくは60≦x≦75であり、より好ましくは60≦x≦73であり、さらに好ましくは60≦x≦71であり、特に好ましくは60≦x≦69である。また、yについては、Si相中に固溶し、Si相中のSi正四面体間距離を増大させることにより、充放電時の可逆的Liイオンの挿入脱離を可能にするという観点から、好ましくは1≦y≦15であり、より好ましくは1.2≦y≦12であり、さらに好ましくは1.5≦y≦8である。さらに、zについては、xと同様に充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持および初期容量のバランスという観点から、好ましくは25≦z≦37であり、より好ましくは27≦z≦33であり、さらに好ましくは28≦z≦31である。そして、wについては、アルミニウムがa−Si相中に固溶することでSi正四面体間距離を増大させるとともに、a−Si相中に均一に分散することで、a−Si相中に存在するSnをより微細に分散させるという観点から、好ましくは0.3≦w≦3であり、より好ましくは0.5≦w≦2である。ここで、Si−Tiは非常に強い結合性、Si−Snは反発性、Ti−Snは結合性を示すことにより上述したような効果が得られるが、第2の実施形態であるSi−Ti−SnにAlを微量添加した四元系合金では、Si−Alは反発性、Ti−Alは結合性とAlはSnと同様の働きをすることに加え、Si−Alは液相状態では隣接が安定であるという性質を有する。これにより、SnよりもAlの方がSi相へ固溶・分散しやすく、a−Si相の正四面体間距離を広げられることにより、充放電(Liイオンの挿入脱離)に伴うa−Si相の膨張収縮に対する耐久性をより効果的に向上することができるものと考えられる。さらに、AlはSiとは価電子数が異なることから、a−Si相にAlが均一に分散することによりa−Si相の導電性が向上し、a−Si相中での充放電(Liイオンの挿入脱離)が均一に進行しやすくなる。よってこの点からも、Alの添加により充放電サイクル耐久性を効果的に向上させることができるものと考えられる。
【0057】
すなわち、本実施形態(w>0である形態)において特に好ましくは、60≦x≦69であり、1.5≦y≦8であり、28≦z≦31であり、0.3≦w≦3である。このように、Siを主成分としつつ、Tiを比較的多めに含ませ、かつ、SnおよびAlについてもある程度含ませることで、本実施形態に係るケイ素含有合金の微細組織構造を達成しやすくなる。
【0058】
ただし、上述した各構成元素の構成比の数値範囲はあくまでも好ましい実施形態を説明するものに過ぎず、特許請求の範囲に含まれている限り、本発明の技術的範囲内のものである。
【0059】
なお、Aは上述のように、原料や製法に由来する上記3成分(または4成分)以外の不純物(不可避不純物)である。前記aは、好ましくは0≦a<0.5であり、0≦a<0.1であることがより好ましい。負極活物質(ケイ素含有合金)が上記化学式(I)の組成を有するか否かは、蛍光X線分析(XRF)による定性分析、および誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法による定量分析により確認することが可能である。
【0060】
〈ケイ素含有合金の微細組織構造〉
上述したように、本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金は、a−Si相がシリサイド相中に分散されてなる構造を有する点にも特徴がある。すなわち、連続相としてのシリサイド相からなる海の中に、分散相としてのa−Si相からなる島が分散しているいわゆる海島構造を有することが、本実施形態に係るケイ素含有合金の特徴の1つである。なお、ケイ素含有合金がこのような微細組織構造を有しているか否かは、例えば、後述する実施例の欄において説明するように、ケイ素含有合金を高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いて観察した後、観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)により元素強度マッピングを行うことにより確認することができる。
【0061】
〈a−Si相〉
ここで、本実施形態に係るケイ素含有合金において、a−Si相は、ケイ素の結晶構造の内部にスズが(四元系合金においてはアルミニウムも)固溶してなる非晶質または低結晶性のケイ素を含む相である。このa−Si相は、本実施形態の電気デバイス(リチウムイオン二次電池)の作動時にリチウムイオンの吸蔵・放出に関与する相であり、電気化学的にリチウムと反応可能(すなわち、重量あたりおよび体積あたりに多量のリチウムを吸蔵・放出することが可能)な相である。また、a−Si相を構成するケイ素の結晶構造の内部にはスズが(四元系合金においてはアルミニウムも)固溶しているが、ケイ素は電子伝導性に乏しいことから、母相にはリンやホウ素などの微量の添加元素や遷移金属などが含まれていてもよい。a−Si相のサイズについて特に制限はないが、充電時(微細構造中へのLiイオン挿入時)と放電時(微細構造中からのLiイオン脱離時)とのa−Si相の寸法変化を小さくするという観点から、a−Si相のサイズは小さいほど好ましく、具体的には10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。一方、a−Si相のサイズの下限値についても特に制限はないが、好ましくは5nm以上である。なお、a−Si相の直径の値については、HAADF−STEMでの高倍率(25nmスケールバー)のSiのEDX元素マッピングおよびM(例えば、Ti)のEDX元素マッピングを比較し、Siが存在しMが存在しない領域をSi相とみなし、MのEDX元素マッピングで強度が最大値の1/10を閾値とし、この閾値以下となる領域について二値化画像処理を行い、得られた二値化画像より、各Si相の寸法を読み取るという手法により5個以上の相について測定して得られた測定値の相加平均値として得ることができる。同様に、後述するシリサイド相の直径の値については、Cs−STEMでの高倍率(25nmスケールバー)のSiのEDX元素マッピングおよびM(例えば、Ti)のEDX元素マッピングを比較し、Siが存在しMも存在する領域をシリサイド相とみなし、MのEDX元素マッピングで強度が最大値の1/10を閾値とし、この閾値以上となる領域について二値化画像処理を行い、得られた二値化画像より、各シリサイド相の寸法を読み取るという手法により5個以上の相について測定して得られた測定値の相加平均値として得ることができる。
【0062】
このa−Si相は、後述するシリサイド相よりもアモルファス化していることが好ましい。かような構成とすることにより、負極活物質(ケイ素含有合金)をより高容量なものとすることができる。なお、a−Si相がシリサイド相よりもアモルファス化しているか否かは、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いたa−Si相およびシリサイド相のそれぞれの観察画像を高速フーリエ変換(FFT)して得られる回折図形から判定することができる。すなわち、この回折図形に示される回折パターンは、単結晶相については二次元点配列のネットパターン(格子状のスポット)を示し、多結晶相についてはデバイシェラーリング(回折環)を示し、非晶質相についてはハローパターンを示す。これを利用することで、上記の確認が可能となる。本実施形態において、a−Si相は、非晶質または低結晶性であればよいが、より高いサイクル耐久性を実現するという観点から、a−Si相は、非晶質のものであることが好ましい。
【0063】
なお、本実施形態に係るケイ素含有合金はスズを必須に含むが、スズはケイ素との間でシリサイドを形成しない元素であることから、シリサイド相ではなくa−Si相に存在することになる。そしてスズの含有量が少ない場合には全てのスズ元素はa−Si相においてケイ素の結晶構造の内部に固溶して存在する。一方、スズの含有量が多くなると、a−Si相のケイ素中に固溶しきれなくなったスズ元素は凝集してスズ単体の結晶相として存在する。本実施形態において、このようなスズ単体の結晶相は存在しないことが好ましい。同様に、ケイ素含有合金が四元系合金である場合、当該合金はAlも必須に含むが、アルミニウムもケイ素との間でシリサイドを形成しない元素であることから、アルミニウムもまた、シリサイド相ではなくa−Si相に存在し、アルミニウムの含有量が少ない場合には全てのアルミニウム元素はa−Si相においてケイ素の結晶構造の内部に固溶して存在する。ケイ素含有合金が四元系合金である場合には、アルミニウム単体の結晶相も存在しないことが好ましい。
【0064】
また、本発明の好ましい実施形態においては、a−Si相についての周期配列領域(MRO)のサイズの好ましい範囲が規定される。ここで、a−Si相についての周期配列領域(MRO)のサイズは、下記のTEM−MRO解析により測定するものとする(後述する実施例についても同様の測定を行った)。
【0065】
(TEM−MRO解析によるa−Si相の周期配列領域(MRO)のサイズの測定)
本測定では、ケイ素含有合金の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)により得られた格子像から、フーリエ変換処理を行い、回折図形を得る。この回折図形の中で、Si正四面体間距離を1.0とした場合の、0.7〜1.0の幅に存在する回折リング部分に対して逆フーリエ変換処理を行い、得られたフーリエ変換画像から、周期配列に注目し、周期配列領域(MRO)のサイズを測定することができる。
【0066】
・HAADF−STEM観察による格子像
ここで、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いた観察は、通常、HAADF−STEMおよびコンピュータを用いて行うことができる。HAADF−STEMによる観察は、電子線を被観察試料にあて、被観察試料を透過してきた電子が作り出す格子像(干渉像)を拡大してコンピュータで観察(モニタ)する手法などが利用できる。透過型電子顕微鏡(TEM)によれば、原子レベルまで拡大された高分解能の観察像であって、高いコントラストを有するものを取得することができる。例えば
図6(A)は、本実施形態のケイ素含有合金(詳しくは、実施例1−1で作製したもの)のHAADF−STEMにより得られた格子像を拡大した写真である。
【0067】
次に、HAADF−STEMにより得られた格子像から、フーリエ変換処理を行い、回折図形を得る。この際、フーリエ変換処理は、例えば、Gatan社製のソフトウェア「デジタルマイクログラフ」にて実施することができる。なお、HAADF−STEMにより得られた格子像からのフーリエ変換処理には、当業者であれば容易に再現(実施)できる汎用性のある他のソフトウェアを用いてもよい。ここで、
図6(A)に示すHAADF−STEM像は、明るい部分と暗い部分とを有している。明るい部分は、原子列が存在する部分に対応し、暗い部分は、原子列と原子列との間の部分に対応している。
【0068】
・回折図形
次いで、
図6(A)に示す格子像(HAADF−STEM像)の40nm四方の部分(破線で囲った部分)につき、フーリエ変換(FT)処理を行う。ここでは取得した格子像の破線で囲った範囲に対してフーリエ変換処理を行うことで、複数の原子面に対応した複数の回折スポットを含む回折図形(回折データ)を取得する。このフーリエ変換処理は、例えば、Gatan社製のソフトウェア「デジタルマイクログラフ」にて実施することができる。なお、このフーリエ変換処理には、当業者であれば容易に再現(実施)できる汎用性のある他のソフトウェアを用いてもよい。
【0069】
図6(B)は、
図6(A)に示す実施例1−1のケイ素含有合金の格子像(HAADF−STEM像)に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を施して取得した回折図形を示す写真である。
図6(B)に示すに示す回折図形では、絶対値を示す強度としては中心部に見える最も明るいスポットを中心として、リング状(環状)に、複数の回折リング部分(回折スポット)が観察される。
【0070】
図6(B)に示す回折図形の中で、Si正四面体間距離を1.0とした場合の、0.7〜1.0の幅に存在する回折リング部分を決定する。ここで、Si正四面体間距離とは、Si正四面体構造の中心Si原子と近接するSi正四面体構造の中心Si原子との距離(単に、Si−Si間距離とも略記する)に相当する。ちなみに、この距離は、Siダイヤモンド構造におけるSi(220)面の面間隔に相当する。このことから、このステップでは、複数の回折リング部分(回折スポット)のうち、Si(220)面に対応した回折リング部分を帰属し、その回折リング部分を、Si正四面体間距離を1.0とした場合の、0.7〜1.0の幅に存在する回折リング部分とする。回折リング部分(回折線)の帰属は、例えば、公知の文献(公報や学術書など)やインターネット上に公開されている各種のケイ素の電子回折線に関する文献を用いることができる。例えば、インターネット上に公開されている名古屋大学工学研究科・工学部「技報」,Vol.9,2007年3月,I.技術部技術研修会 8.透過電子顕微鏡による電子回折図形観察に関わる技術修得,齋藤徳之、荒井重勇,工学研究科・工学部技術部 物質・分析技術系(http://etech.engg.nagoya−u.ac.jp/gihou/v9/047.pdf)等のケイ素の電子回折線に関する文献を参考にして行うことができる。
【0071】
・逆フーリエ変換画像
次いで、回折図形の上記Si正四面体間距離を1.0とした場合の、0.7〜1.0の幅に存在する回折リング部分、すなわち、Si(220)面に対応した回折リング部分につき、逆フーリエ変換処理を行う。このSi(220)面に対応した回折リング部分(のデータが抽出された抽出図形・抽出データ)につき逆フーリエ変換処理を行うことで、逆フーリエ変換画像を取得する。逆フーリエ変換処理は、例えば、Gatan社製のソフトウェア「デジタルマイクログラフ」にて実施することができる。なお、この逆フーリエ変換処理には、当業者であれば容易に再現(実施)できる汎用性のある他のソフトウェアを用いてもよい。
【0072】
図6(C)は、
図6(B)のSi(220)面に対応した回折リング部分のデータが抽出された抽出図形に対して逆高速フーリエ変換処理を行い、得られた逆フーリエ変換画像を示す写真である。
図6(C)に示すように、得られた逆フーリエ変換画像では、複数の明るい部分(明部)と、複数の暗い部分(暗部)とからなる明暗模様が観察される。明部および暗部の大部分は、周期配列することなく、不規則に配置されている非晶質領域(Siアモルファス領域)である。ただし、
図6(C)に示すように、明部が周期的に配列された領域(
図6(C)中、破線で囲った楕円内に存在する周期配列部分)が散点(散在)している。すなわち、
図6(C)に示す逆フーリエ変換画像のうち、破線で囲った楕円内に存在する周期配列部分以外の非晶質領域では、明部と暗部とは、途中で曲がるなどして直線状に延伸しておらず、規則的にも並んでいない。また、明部と暗部との間で明るさのコントラストが弱くなっている部分もある。このような破線で囲った楕円内に存在する周期配列部分以外の非晶質領域における明部と暗部とからなる明暗模様の構造は、被観察試料が、当該非晶質領域において、アモルファスないし微結晶(MROの前駆体)構造を有することを示している。したがって、
図6(C)に示すような逆フーリエ変換画像を取得することで、非晶質領域(アモルファス領域)中に破線で囲った楕円内に存在する周期配列を有する領域(結晶化領域ないし結晶構造領域)を有するか否かを、容易に解析することができる。この「周期配列を有する領域」を、本明細書では「周期配列領域(Middle Range Order;MRO)」とも称する。
【0073】
本形態において、「周期配列領域(MRO)」とは、少なくとも明部が3点以上連続してほぼ直線状に配置したものが2列以上規則的に並んで配置されている領域をいう。この周期配列領域(MRO)では、被観察試料が結晶構造を有することを示している。すなわち、[周期配列領域(MRO)」は、フーリエ画像中の大部分を占めるSiアモルファス領域中に散点(散在)する結晶化(結晶構造)領域を示している。
【0074】
また、
図7は、「周期配列領域(MRO)の長軸径」を模式的に表した図面である。
図7では、周期配列領域(MRO)の暗部A(
図6(C)の明部)を便宜上、黒丸●で表記し、周期配列を有する領域に隣接する不規則に配置されている領域(Siアモルファス領域)の暗部B(
図6(C)の明部)を便宜上、白丸○で表記している。また
図7では、「周期配列領域(MRO)」として、暗部(
図6(C)の明部)が3点連続して直線状に配置したものが2列隣接して並行に配置されている領域を用いて説明している。本形態において、「周期配列領域(MRO)の長軸径」は、以下のように求めることができる。まず、
図7に示すように「周期配列領域(MRO)」の暗部A(●)と、これらに隣接する不規則に配置されている領域の暗部B(○)とを結ぶ最短ルートの中間点Cをとる。これらの中間点Cを結んで作図した一点破線の枠(楕円方程式に合致していなくてもよい)から長軸方向と短軸方向の4点D
1〜D
4を選定し、これらのうち少なくとも長軸方向の2点(好ましくは4点全て)を用いて、楕円方程式により作図した楕円(
図6(C)中、破線で囲った楕円;画像上に作図可能な楕円の作図ソフトを使用できる)の長軸径(L)を求めることができる。例えば、
図7に示すように「周期配列領域(MRO)」の長軸方向の最長となる両端の暗部A
1(●)の長さを、2点間の距離を計測可能な画像解析ソフト(例えば、楕円の作図ソフトによる長軸径のデータ)を用いて計測する。次に、「周期配列領域(MRO)」の長軸方向の両端の暗部A
1(●)に隣接する不規則に配置されている領域の暗部B
1(○)の長さを同様に計測する。これらから、「周期配列領域(MRO)」の長軸方向の両端の暗部A
1(●)と、これらに隣接する不規則に配置されている領域の暗部B
1(○)とを結ぶ両端の中間点C
1の長さを求め、この長さを長軸径(L)とすることができる。なお、
図6(C)中、破線で囲った楕円は、
図7に示すように長軸方向の2点を長軸径とし、短軸方向の2点を短軸径として、周期配列を有する領域がすべて含まれるように、楕円方程式により楕円を作図(画像上に作図可能な楕円の作図ソフトを使用)したものである。
【0075】
また、本形態において、「最大5点のものの長軸径の平均値により得られたサイズ」とは、逆フーリエ変換画像中の「周期配列領域(MRO)」を特定し、得られた複数の「周期配列領域(MRO)」につき、その長軸径を上記「周期配列領域(MRO)の長軸径」の定義により作図した楕円から求める。得られた複数の長軸径の中から、長軸径の値が大きい方から5点を求め、その平均値を算出し、その平均値を周期配列領域(MRO)のサイズとする。なお、「最大5点のもの」としたのは、逆フーリエ変換画像(40×40nmの視野中;
図6(C)参照)から得られた「周期配列領域(MRO)の長軸径」が5点に満たない場合(4点以下)もあるためである。この場合には、逆フーリエ変換画像から得られた「周期配列領域(MRO)」の全ての長軸径の平均値を算出し、その平均値の大きさ(サイズ)を周期配列領域(MRO)のサイズとする。なお、本形態では、逆フーリエ変換画像(40×40nmの視野)中の「周期配列領域(MRO)」は複数(2か所以上)存在すればよいが、好ましく3か所以上、より好ましくは4か所以上、さらに好ましくは5か所以上である。また、逆フーリエ変換画像(40×40nmの視野)中の「周期配列領域(MRO)」の個数の上限値は、Siアモルファスの特性(作用効果)が損なわれない範囲であればよく、10か所以下が好ましい。
【0076】
(周期配列領域(MRO)のサイズ)
本発明の好ましい実施形態では、周期配列領域(MRO)のサイズが3.2nm以下であることが好ましく、より好ましくは1.6nm以下である。周期配列領域(MRO)のサイズが上記範囲(要件)を満足することで、Siが十分にアモルファス化された状態となり、充放電時のSi粒子の膨張を緩和することができ、耐久性を大幅に向上することができるSi合金活物質を提供することができる。すなわち、Siが十分にアモルファス化された状態となることにより、高い耐久性能を有するSi合金を得るために必要とされるSi(220)面の回折リング部分を発現(確認)できる。加えて、Si(220)面の回折リング部分の逆フーリエ変換画像から、アモルファス中に規則性があるMRO(Si結晶化領域)が形成され、このMROのサイズをより小さくすることで、アモルファス化度が進み、活物質として用いた際に、不可逆的なLi−Si合金結晶相を形成し難くなる。さらに、アモルファス化度が進むことで、充放電時の活物質粒子の膨張を緩和することができ、耐久性を大幅に向上することができる。なお、周期配列領域(MRO)のサイズの下限は、特に制限されるものではないが、理論的観点から1nm以上であればよい。
【0077】
また、本発明の他の好ましい実施形態においては、a−Si相についてのSi正四面体間距離の好ましい範囲も規定される。ここで、a−Si相についてのSi正四面体間距離の値についても、周期配列領域(MRO)の測定について上述したTEM−MRO解析により測定することができる(後述する実施例についても同様の測定を行った)。具体的には、まず、上述した
図6(C)に示すような逆フーリエ変換画像の破線で囲った楕円内に存在する周期配列領域(MRO)を含まない領域(非晶質領域)内で、例えば、任意の20nm四方(20×20nmの視野)の領域を確保(選定)し、この視野領域内の明部(ドット=Si正四面体ユニットに相当)の数を測定する。次に、当該視野の一辺の長さである20nmを明部の数の平方根で除した値をSi正四面体間距離とする。例えば、任意の20nm四方の視野領域内の明部(ドット=Si正四面体ユニットに相当)の数が100個であれば、20nm÷√(100)=20nm/10=2nmがSi正四面体間距離となる。
【0078】
(Si正四面体間距離)
本発明の好ましい実施形態において、上記非晶質領域におけるSi正四面体間距離が0.36nm超であることが好ましく、より好ましくは0.40nm以上であり、さらに好ましくは0.44nm以上であり、特に好ましくは0.48nm以上である。上記非晶質領域でのSi正四面体間距離が上記範囲を満足することにより、上記非晶質領域のアモルファス化を進めることができる。その結果、充放電時には広げられたSi−Si間にLiイオンが容易に挿入・脱離することができる。本形態の負極活物質を用いた負極及び電気デバイスの耐久性を大幅に向上することができるものである。なお、上記非晶質領域におけるSi正四面体間距離の上限値は、特に制限されるものではないが、理論的観点から0.55nm以下といえる。
【0079】
〈シリサイド相〉
一方、上述した海島構造の海(連続相)を構成するシリサイド相は、遷移金属のケイ化物(シリサイド)を主成分とする結晶相である。このシリサイド相は、遷移金属のケイ化物(例えばTiSi
2)を含むことでa−Si相との親和性に優れ、特に充電時の体積膨張における結晶界面での割れを抑制することができる。さらに、シリサイド相はa−Si相と比較して電子伝導性および硬度の観点で優れている。このように、シリサイド相はa−Si相の低い電子伝導性を改善し、かつ膨張時の応力に対して活物質の形状を維持する役割をも担っている。本実施形態においては、このような特性を有するシリサイド相が海島構造の海(連続相)を構成することで、負極活物質(ケイ素含有合金)の電子伝導性をよりいっそう向上させることができ、しかもa−Si相の膨張時の応力を緩和して活物質の割れを防止することができ、サイクル耐久性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0080】
シリサイド相には複数の相が存在していてもよく、例えば遷移金属元素MとSiとの組成比が異なる2相以上(例えば、MSi
2およびMSi)が存在していてもよい。また、異なる遷移金属元素とのケイ化物を含むことにより、2相以上が存在していてもよい。ここで、シリサイド相に含まれる遷移金属(M)の種類について特に制限はないが、好ましくはTi、Zr、Ni、Cu、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはTiまたはZrであり、特に好ましくはTiである。これらの元素は、ケイ化物を形成した際に他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導度を示し、かつ高い強度を有するものである。特に遷移金属元素がTiである場合のシリサイドの1種であるTiSi
2は、非常に優れた電子伝導性を示すため、好ましい。シリサイドのこのような特性と、上述した非晶質Siの優れた特定に鑑みると、遷移金属のケイ化物はTiSi
2であり、かつ、a−Si相は非晶質であることが好ましい。
【0081】
特に、遷移金属元素MがSiであり、シリサイド相に組成比が異なる2相以上(例えば、TiSi
2およびTiSi)が存在する場合は、シリサイド相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%がTiSi
2相である。
【0082】
上記シリサイド相のサイズについて特に制限はないが、好ましい実施形態において、シリサイド相のサイズは50nm以下であり、より好ましくは30nm以下であり、さらに好ましくは25nm以下である。かような構成とすることにより、負極活物質(ケイ素含有合金)をより高容量なものとすることができる。一方、シリサイド相のサイズの下限値についても特に制限はないが、Li挿入脱離に伴うa−Si相の膨張・収縮を抑え込むという観点から、シリサイド相の直径は上述したa−Si相の直径よりも大きいことが好ましく、その絶対値としては、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは15nm以上である。
【0083】
さらに、本発明者らの検討によれば、本発明の好ましい実施形態においては、活物質として機能しうるSi相であるavailable−Si相とシリサイド相との質量比が所定の範囲内の値であると、よりいっそう優れたサイクル耐久性が実現可能であることが判明した。具体的に、まず、ケイ素含有合金が三元系合金であるとき(すなわち、w=0のとき)、ケイ素含有合金におけるavailable−Si相の質量(m
1)に対するシリサイド相の質量(m
2)の比(m
2/m
1)の値は、好ましくは1.78〜2.63であり、より好ましくは1.97〜2.20である。
【0084】
同様に、ケイ素含有合金が四元系合金であるとき(すなわち、w>0のとき)、ケイ素含有合金におけるavailable−Si相の質量(m
1)に対するシリサイド相の質量(m
2)の比(m
2/m
1)の値は、好ましくは1.76〜2.00である。ここで、当該実施形態において、ケイ素含有合金におけるavailable−Si相の質量比についても特に制限はないが、他の構成元素の特性を発揮させつつ十分な容量を確保するという観点から、ケイ素含有合金100質量%に占めるavailable−Si相の質量(m
1)の比は、好ましくは24質量%以上であり、より好ましくは29〜36質量%である。特にケイ素含有合金が四元系合金である(すなわち、w>0である)実施形態によれば、スズ(原子量=118.7)の一部をアルミニウム(原子量=26.98)によって置き換えることで、スズとアルミニウムとの合計原子数(原子モル数)が一定の場合でもこれらの質量比を低下させることが可能となる。その結果、m
2/m
1の値を比較的高めに維持したまま、ケイ素含有合金からなる負極活物質の容量を増大させることが可能となる。また、アルミニウムはスズと比較して極めて安価であることから、負極活物質のコストの低減にも大きく寄与することができる。
【0085】
また、同様の観点から、ケイ素含有合金におけるavailable−Si相の質量およびシリサイド相の質量をそれぞれm
1およびm
2としたときに、m
1≧61−14.3×(m
2/m
1)を満足することが好ましい。なお、m
2/m
1の値を算出するためのケイ素含有合金におけるavailable−Si相の質量(m
1)およびシリサイド相の質量(m
2)については、合金組成における構成金属元素の質量%を原子%へ変換し、Tiが全てTiSi
2になるものと仮定して、下記式により算出される理論値であり、後述する実施例においてもこの手法にてavailable−Si量およびTiSi
2量を算出している。
【0086】
available−Si量(質量%)=
([at%Si]−[at%Ti]×2)×28.0855(Si原子量)/{([at%Si]−[at%Ti]×2)×28.0855(Si原子量)+[at%Sn]×118.71(Sn原子量)+[at%Ti]×104.038(TiSi
2式量)}
ここで、Si
65Sn
5Ti
30合金を例に挙げて計算すると、合金のat%Si=77.58原子%、合金のat%Ti=21.01原子%であることから、available−Si量(質量%)は29.8質量%と算出される。
【0087】
同様に、シリサイド(TiSi
2)量は、
TiSi
2量(質量%)=
([at%Ti]×104.038(TiSi
2式量))/{([at%Si]−[at%Ti]×2)×28.0855(Si原子量)+[at%Sn]×118.71(Sn原子量)+[at%Ti]×104.038(TiSi
2式量)}
にて算出可能である。ここでもSi
65Sn
5Ti
30合金を例に挙げて計算すると、合金のat%Si=77.58原子%、合金のat%Ti=21.01原子%であることから、TiSi
2量(質量%)は65.2質量%と算出される。
【0088】
本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金の粒子径は特に制限されないが、平均粒子径として、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜10μmである。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱法により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(D50)を意味する。
【0089】
(負極活物質の製造方法)
本実施形態に係る電気デバイス用負極活物質の製造方法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうるが、本願では、ケイ素の結晶構造の内部にスズが(四元系合金においてはアルミニウムも)固溶してなる非晶質または低結晶性のケイ素を含むa−Si相が、遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド相中に分散されてなる構造を有するケイ素含有合金からなる負極活物質の製造方法の一例として、以下のように液体急冷凝固法による急冷薄帯の作製およびメカニカルアロイング処理を併用する製造方法が提供される。すなわち、本発明の他の形態によれば、上記化学式(I)で表される組成を有するケイ素含有合金からなる電気デバイス用負極活物質の製造方法であって、前記ケイ素含有合金と同一の組成を有する母合金を用いた液体急冷凝固法により急冷薄帯を作製し、前記急冷薄帯に対してメカニカルアロイング処理を施して前記ケイ素含有合金からなる電気デバイス用負極活物質を得る、電気デバイス用負極活物質の製造方法もまた、提供される。このように、メカニカルアロイング処理の前に液体急冷凝固法を実施して負極活物質(ケイ素含有合金)を製造することで、上述した微細組織構造を有する合金を製造することが可能となる。また、得られる合金におけるSi正四面体間距離をより大きくすることができ、また、周期配列領域(MRO)のサイズも小さくすることができるなど、負極活物質のサイクル耐久性の向上に有効に寄与し得る製造方法が提供されるのである。以下、本形態に係る製造方法について、工程ごとに説明する。
【0090】
〈液体急冷凝固法〉
まず、所望のケイ素含有合金と同一の組成を有する母合金を用いて液体急冷凝固法を実施する。これにより、急冷薄帯を作製する。
【0091】
ここで、母合金を得るために、原料として、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、遷移金属(例えば、チタン(Ti))のそれぞれについて、高純度の原料(単体のインゴット、ワイヤ、板など)を準備する。続いて、最終的に製造したいケイ素含有合金(負極活物質)の組成を考慮して、アーク溶解法などの公知の手法により、インゴット等の形態の母合金を作製する。
【0092】
その後、上記で得られた母合金を用いて液体急冷凝固法を実施する。この工程は、上記で得られた母合金を溶融させた溶融物を急冷して凝固させる工程であり、例えば、高周波誘導溶解−液体急冷凝固法(双ロールまたは単ロール急冷法)によって実施することができる。これにより、急冷薄帯(リボン)が得られる。なお、液体急冷凝固法は非晶質合金の作製法としてよく使われており、その手法自体に関する知見は多く存在する。なお、液体急冷凝固法は、市販の液体急冷凝固装置(例えば、日新技研株式会社製の液体急冷凝固装置NEV−A05型)を用いて実施することができる。この際、噴射圧はゲージ圧で0.03〜0.09MPa程度とするのがよく、真空チャンバー内圧はゲージ圧で−0.03〜−0.07MPa(絶対圧で0.03〜0.05MPa)とすることで、チャンバー内圧と噴射圧との差圧は0.06〜0.16MPaとすることがよく、ロールの回転数は好ましくは4000〜6000rpm(周速として40〜65m/sec)とするのがよい。
【0093】
なお、チタンのダイシリサイド(TiSi
2)には、C49構造およびC54構造という2種類の結晶構造が存在する。C49構造は抵抗率が60μΩ・cm程度と高抵抗率を示す相(準安定相)であり、底心−斜方晶系の構造である。一方、C54構造は抵抗率が15〜20μΩ・cm程度と低抵抗率の相(安定相)であり、面心−斜方晶系の構造である。ここで、後述の実施例の欄において
図8を参照して説明するように、液体急冷凝固法を用いて得られた急冷薄帯は、初晶組織と考えられるダイシリサイド(TiSi
2)からなる組織、および当該シリサイドとa−Si相との共晶組織が混在した微細組織構造を有していることが判明した。また、上記観察画像における各部位(初晶シリサイド相、共晶のa−Si相および共晶のシリサイド相)を高速フーリエ変換処理して得られた回折図形から、液体急冷凝固法により得られた急冷薄帯に含まれるダイシリサイド(TiSi
2)の結晶構造はC49構造であることが確認された。C49構造を有するダイシリサイド(TiSi
2)は、C54構造を有するものと比較して低硬度であることから、この急冷薄帯を用いてメカニカルアロイング処理を施して負極活物質(ケイ素含有合金)を製造する際に、長時間のメカニカルアロイング処理を施さなくとも十分にシリサイド相が破壊されて最終的に得られる合金中に分散しやすくなっているものと考えられる。このように、液体急冷凝固法によって得られた急冷薄帯に含まれるC49構造を有するシリサイド相の低硬度の性質を有効に利用できるという観点からも、本形態に係る製造方法は有利なものであるといえる。なお、データは示していないが、メカニカルアロイング処理を施して得られた負極活物質(ケイ素含有合金)に含まれるダイシリサイド(TiSi
2)はC54構造を有するものであることも確認されている。上述したようにC54構造はC49構造と比較して低い抵抗率(高い電子伝導性)を示すことから、負極活物質としてはより好ましい結晶構造を有するものであるということができる。
【0094】
〈メカニカルアロイング処理〉
続いて、上記で得られた急冷薄帯を用いて、メカニカルアロイング処理を行う。ここで、必要に応じて、上記で得られた急冷薄帯を粉砕する工程を行い、得られた粉砕物に対してメカニカルアロイング処理を行うことが好ましい。
【0095】
メカニカルアロイング処理により合金化処理を行うことで、相の状態の制御を容易に行うことができるため、メカニカルアロイング処理は、後述する実施例で用いたようなボールミル装置(例えば、遊星ボールミル装置)を用いて、粉砕ポットに粉砕ボールおよび合金の原料粉末を投入し、回転数を高くして高エネルギーを付与することで、合金化を図ることができる。合金化処理は、回転数を高くして原料粉末に高エネルギーを付与することで合金化させることができる。すなわち、高エネルギー付与により熱が生じ、原料粉末が合金化してa−Si相のアモルファス化および当該相へのスズの固溶、並びにシリサイド相の形成が進行する。合金化処理で用いる装置の回転数(付与エネルギー)を高くする(実施例で用いた装置の場合、500rpm以上、好ましくは600rpm以上)ことにより、上記非晶質領域における周期配列領域(MRO)のサイズを小さくすることができ、かつ、当該非晶質領域におけるSi正四面体間距離を大きくすることができる。また、メカニカルアロイング処理を実施する時間を長くするほど、好適な微細組織構造を有するケイ素含有合金を得ることができる。かような観点から、メカニカルアロイング処理の時間は、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは24時間以上であり、さらに好ましくは30時間以上であり、いっそう好ましくは36時間以上であり、特に好ましくは42時間以上であり、最も好ましくは48時間以上である。なお、合金化処理のための時間の上限値は特に設定されないが、通常は72時間以下であればよい。
【0096】
本形態では、上記合金化処理の時間の他に、使用する装置の回転数や粉砕ボール数、試料(合金の原料粉末)充填量などを変化させることによっても、ケイ素含有合金に与えられるエネルギーが変化するため、上記非晶質領域における周期配列領域(MRO)のサイズやSi正四面体間距離を制御することが可能である
上述した手法によるメカニカルアロイング処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、メカニカルアロイング処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理および/または分級処理を行うことが好ましい。
【0097】
また、本願では、上述したような所定の構造を有するケイ素含有合金からなる負極活物質の製造方法の他の一例として、付与エネルギーの大きいボールミル装置を用いたメカニカルアロイング処理により合金化処理を施す製造方法もまた、提供される。すなわち、本発明の他の形態によれば、上記化学式(I)で表される組成を有するケイ素含有合金からなる電気デバイス用負極活物質の製造方法であって、前記ケイ素含有合金と同一の組成を有する母合金の粉末に対して、20[G]以上の遠心力が加わるようなボールミル装置を用いてメカニカルアロイング処理を施すことにより、前記ケイ素含有合金からなる電気デバイス用負極活物質を得る、電気デバイス用負極活物質の製造方法もまた、提供される。
【0098】
本形態に係る製造方法では、メカニカルアロイング処理に用いられるボールミル装置によって内容物に加えられる遠心力が20[G]以上である点に特徴がある。このように比較的大きい遠心力が加わるようなボールミル装置を用いてメカニカルアロイング処理を施すことで、非晶質領域(a−Si相)におけるSi正四面体間距離を大きくすることができるなどの作用により、より短い時間の処理でも同等以上のサイクル耐久性を発揮しうるケイ素含有合金(負極活物質)を製造することが可能となる。また、比較的高価な原料であるSnの使用量を低減させることも可能となることから、ケイ素含有合金(負極活物質)の製造コストを低減させることも可能となる。なお、上記遠心力の値は、好ましくは50[G]以上であり、より好ましくは100[G]以上であり、さらに好ましくは120[G]以上であり、特に好ましくは150[G]以上であり、最も好ましくは175[G]以上である。一方、遠心力の上限値について特に制限はないが、通常は200[G]程度が現実的である。
【0099】
ここで、ボールミル装置において内容物に加わる遠心力の値は、下記の数式によって算出される:
【0101】
上記数式において、Gnlは遠心力[G]、rsは公転半径[m]、rplは自転半径[m]、iwは自転公転比[−]、rpmは回転数[回/分]である。したがって、公転半径rsを大きくするほど、自転半径rplを小さくするほど、また、回転数を大きくするほど、遠心力Gnlの値は大きくなることがわかる。
【0102】
ボールミル装置の具体的な構成について特に制限はなく、上述した遠心力の規定を満たす限り、遊星ボールミル装置、撹拌ボールミル装置など従来公知のボールミル装置が用いられうる。ただし、本形態に係る製造方法において、好ましくは撹拌ボールミル装置が用いられる。この撹拌ボールミル装置は、円筒状の内面を有する容器と、この容器内に設けられた撹拌翼とを備えている。この撹拌ボールミル装置の容器内には、原料粉末、ボール、溶媒および処理剤が仕込まれるようになっている。遊星ボールミル装置と異なり、容器が回転することなく、容器内に設けられた撹拌翼が回転して原料粉末を合金化するようになっている。このような撹拌ボールミル装置を使用すると、撹拌翼によって容器の内容物を勢いよく撹拌することができることから、他のボールミル装置よりも大きい遠心力を容器の内容物に加えることができる。
【0103】
なお、一般に、メカニカルアロイング処理を実施する時間を長くするほど、好適な微細組織構造を有するケイ素含有合金を得ることができるが、本形態に係る製造方法では、上述したように比較的大きな遠心力が内容物に加わるようにメカニカルアロイング処理を施すことから、メカニカルアロイング処理の時間を短縮させても同等以上のサイクル耐久性を実現することが可能となる。かような観点から、本形態に係る製造方法において、メカニカルアロイング処理の時間は、好ましくは45時間以下であり、より好ましくは30時間以下であり、さらに好ましくは20時間以下であり、いっそう好ましくは15時間以下であり、特に好ましくは10時間以下であり、最も好ましくは5時間以下である。なお、メカニカルアロイング処理の時間の下限値は特に設定されないが、通常は0.5時間以上であればよい。
【0104】
なお、ボールミル装置を用いたメカニカルアロイング処理においては、従来周知のボールを使用して原料粉末の合金化を行うことができるが、好ましくは、ボールとして、1mm以下、特に0.1〜1mmの直径を有するチタンまたはジルコニア製のものが使用される。特に、本形態においては、プラズマ回転電極法によって製造されたチタン製のボールが好適に使用される。このようなプラズマ回転電極法によって製造された直径が1mm以下のチタンまたはジルコニア製ボールは、均一な球形を有しており、ケイ素含有合金を得るためのボールとして特に好ましい。
【0105】
また、本形態において、撹拌ボールミルの容器に仕込まれる溶媒も、特に限定されない。このような溶媒としては、例えば水(特にイオン交換水)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ジメチルケトン、ジエチルケトン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジフェニルエーテル、トルエンおよびキシレンが挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または適宜組み合わせて使用される。
【0106】
さらに、本発明において、容器に仕込まれる処理剤も、特に限定されない。このような処理剤としては、例えば、容器の内壁への内容物の付着を防止するためのカーボン粉末のほか、界面活性剤および/または脂肪酸が挙げられる。
【0107】
上述した手法によるメカニカルアロイング処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、メカニカルアロイング処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理および/または分級処理を行うことが好ましい。
【0108】
以上、負極活物質層に必須に含まれる所定の合金について説明したが、負極活物質層はその他の負極活物質を含んでいてもよい。上記所定の合金以外の負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどのカーボン、SiやSnなどの純金属や上記所定の組成比を外れる合金系活物質、あるいはTiO、Ti
2O
3、TiO
2、もしくはSiO
2、SiO、SnO
2などの金属酸化物、Li
4/3Ti
5/3O
4もしくはLi
7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物(複合窒化物)、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Liなどが挙げられる。ただし、上記所定の合金を負極活物質として用いることにより奏される作用効果を十分に発揮させるという観点からは、負極活物質の全量100質量%に占める上記所定の合金の含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%であり、特に好ましくは95〜100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0109】
続いて、負極活物質層13は、バインダを含む。
【0110】
(バインダ)
バインダは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。負極活物質層に用いられるバインダの種類についても特に制限はなく、正極活物質層に用いられるバインダとして上述したものが同様に用いられうる。よって、ここでは詳細な説明は省略する。
【0111】
なお、負極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層に対して、0.5〜20質量%であり、より好ましくは1〜15質量%である。
【0112】
(正極および負極活物質層15、13に共通する要件)
以下に、正極および負極活物質層15、13に共通する要件につき、説明する。
【0113】
正極活物質層15および負極活物質層13は、必要に応じて、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等を含む。特に、負極活物質層13は、導電助剤をも必須に含む。
【0114】
導電助剤
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0115】
活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上の範囲である。また、活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下の範囲である。活物質自体の電子導電性は低く導電助剤の量によって電極抵抗を低減できる活物質層での導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。即ち、電極反応を阻害することなく、電子導電性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができる。
【0116】
また、上記導電助剤とバインダの機能を併せ持つ導電性結着剤をこれら導電助剤とバインダに代えて用いてもよいし、あるいはこれら導電助剤とバインダの一方ないし双方と併用してもよい。導電性結着剤としては、既に市販のTAB−2(宝泉株式会社製)を用いることができる。
【0117】
電解質塩(リチウム塩)
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(C
2F
5SO
2)
2N、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3等が挙げられる。
【0118】
イオン伝導性ポリマー
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0119】
正極活物質層および負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水溶媒二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0120】
各活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮し、通常1〜500μm程度、好ましくは2〜100μmである。
【0121】
<集電体>
集電体11、12は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
【0122】
集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
【0123】
集電体の形状についても特に制限されない。
図1に示す積層型電池10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
【0124】
なお、負極活物質をスパッタ法等により薄膜合金を負極集電体12上に直接形成する場合には、集電箔を用いるのが望ましい。
【0125】
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。
【0126】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0127】
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
【0128】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0129】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0130】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0131】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
【0132】
<電解質層>
電解質層17を構成する電解質としては、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0133】
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩(電解質塩)が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)等のカーボネート類が例示される。
【0134】
また、リチウム塩としては、Li(CF
3SO
2)
2N、Li(C
2F
5SO
2)
2N、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiTaF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3等の電極の活物質層に添加され得る化合物を採用することができる。
【0135】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質とに分類される。
【0136】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質(電解液)が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導を遮断することが容易になる点で優れている。
【0137】
マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0138】
ゲル電解質中の上記液体電解質(電解液)の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。本実施形態では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
【0139】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質や真性ポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータ(不織布を含む)の具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜や多孔質の平板、更には不織布が挙げられる。
【0140】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0141】
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0142】
<集電板およびリード>
電池外部に電流を取り出す目的で、集電板を用いてもよい。集電板は集電体やリードに電気的に接続され、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。
【0143】
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
【0144】
正極端子リードおよび負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。正極端子リードおよび負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0145】
<電池外装材>
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
【0146】
なお、上記のリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することができる。
【0147】
<リチウムイオン二次電池の外観構成>
図2は、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0148】
図2に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板59、負極集電板58が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極集電板59および負極集電板58を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、
図1に示すリチウムイオン二次電池(積層型電池)10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0149】
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のもの(ラミネートセル)に制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のもの(コインセル)や角柱型形状(角型セル)のもの、こうした円筒型形状のものを変形させて長方形状の扁平な形状にしたようなもの、更にシリンダー状セルであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型や角柱型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0150】
また、
図2に示す正極集電板59、負極集電板58の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板59と負極集電板58とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板59と負極集電板58をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよいなど、
図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、集電板に変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0151】
上記したように、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる負極ならびにリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、好適に利用することができる。即ち、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0152】
なお、上記実施形態では、電気デバイスとして、リチウムイオン電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには一次電池にも適用できる。また、電池だけではなくキャパシタにも適用できる。
【実施例】
【0153】
本発明を、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0154】
[実施例1:液体急冷凝固法+遊星ボールミルによるメカニカルアロイング処理、三元系合金]
(実施例1−1)
[ケイ素含有合金の製造]
高純度金属Siインゴット(5N)、高純度Tiワイヤ(3N)、高純度Sn板(3N)を用い、アーク溶解法を用いて、Si合金(Si60質量%、Sn10質量%、Ti3質量%)のインゴットを作製した。
【0155】
続いて、上記で得られたインゴットを母合金として用いて、液体急冷凝固法によりケイ素含有合金を作製した。具体的には、日新技研株式会社製の液体急冷凝固装置NEV−A05型を用いて、Ar置換のうえゲージ圧−0.03MPaに減圧したチャンバー内に設置した石英ノズル中に、Si
60Sn
10Ti
30のインゴット(母合金)を入れ、高周波誘導加熱により融解した後、0.05MPaの噴射圧にて、回転数4000rpm(周速:41.9m/sec)のCuロール上に噴射して、薄帯状合金(急冷薄帯)を作製した。
【0156】
その後、上記で得られた薄帯状合金(急冷薄帯)を直径でD50=7μm(D90=20μm)のサイズに粉砕し、得られた粉砕物に対してメカニカルアロイング処理を施した。具体的には、ドイツ フリッチュ社製遊星ボールミル装置P−6を用いて、ジルコニア製粉砕ポットにジルコニア製粉砕ボールおよび上記粉砕物を投入し、600rpm、48時間の条件でメカニカルアロイング処理を施して合金化させた。その後、400rpm、1時間の粉砕処理を施して、ケイ素含有合金(負極活物質)を得た。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径はD50=1.2μmであった。
【0157】
[負極の作製]
負極活物質である上記で製造したケイ素含有合金(Si
60Sn
10Ti
30)80質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック 5質量部と、バインダであるポリアミドイミド 15質量部と、を混合し、N−メチルピロリドンに分散させて負極スラリーを得た。次いで、得られた負極スラリーを、銅箔よりなる負極集電体の両面にそれぞれ負極活物質層の厚さが30μmとなるように均一に塗布し、真空中で24時間乾燥させて、負極を得た。
【0158】
[リチウムイオン二次電池(コインセル)の作製]
上記で作製した負極と対極Liとを対向させ、この間にセパレータ(ポリオレフィン、膜厚20μm)を配置した。次いで、負極、セパレータ、および対極Liの積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。さらに、正極と負極との間の絶縁性を保つためガスケットを装着し、下記電解液をシリンジにより注入し、スプリングおよびスペーサを積層し、コインセルの上部側を重ねあわせ、かしめることにより密閉して、リチウムイオン二次電池(コインセル)を得た。
【0159】
なお、上記電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(体積比)の割合で混合した有機溶媒に、リチウム塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0160】
(実施例1−2)
液体急冷凝固法における噴射圧を0.03MPaとし、メカニカルアロイング処理における処理時間を36時間としたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径は1.8μmであった。
【0161】
(実施例1−3)
メカニカルアロイング処理における処理時間を24時間としたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径は7.8μmであった。
【0162】
(実施例1−4)
メカニカルアロイング処理における処理時間を12時間としたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径は8.2μmであった。
【0163】
(比較例)
母合金の組成をSi
60Sn
20Ti
20へと変更し、かつ、液体急冷凝固法により得られた薄帯状合金(急冷薄帯)を直径でD50=7.2μm(D90=20μm)のサイズに粉砕したものを負極活物質として用いたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0164】
[実施例2:撹拌ボールミルによるメカニカルアロイング処理、三元系合金]
(実施例2−1)
以下の手法により、Si
65Sn
5Ti
30(組成比は質量比)の組成を有するケイ素含有合金を製造した。
【0165】
具体的には、ドイツ ZOZ社製撹拌ボールミル装置C−01Mを用いて、SUS製粉砕ポットに1920gのジルコニア製粉砕ボール(φ5mm)および1gのカーボン(SGL)を投入し、その後1000rpmで10分間、プレ粉砕処理を実施した。その後、合金の各原料粉末(高純度金属Siインゴット(5N)、高純度Tiワイヤ(3N)、高純度Sn板(3N))を100g投入し、1500rpmで5時間かけて合金化させ(合金化処理)、その後400rpmで1時間、微粉砕処理を実施して、ケイ素含有合金(負極活物質)を得た。なお、本実施例において用いた撹拌ボールミル装置において、公転半径rs=0.070[m]、自転半径rpl=0[m]、回転数rpm=1500[回/分]であったことから、遠心力Gnl=176.0[G]と算出された。また、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は5.4μmであった。
【0166】
そして、このようにして得られたケイ素含有合金(負極活物質)を用いて、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0167】
(実施例2−2)
ケイ素含有合金の組成をSi
66Sn
5Ti
29に変更したこと以外は、上述した実施例2−1と同様の手法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を
作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は6.7μmであった。
【0168】
(実施例2−3)
ケイ素含有合金の組成をSi
67Sn
5Ti
28に変更したこと以外は、上述した実施例2−1と同様の手法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は4.8μmであった。
【0169】
[実施例3:撹拌ボールミルによるメカニカルアロイング処理、四元系合金]
(実施例3−1)
以下の手法により、Si
68.5Sn
2.5Ti
28.5Al
0.5(組成比は質量比)の組成を有するケイ素含有合金を製造した。
【0170】
具体的には、ドイツ ZOZ社製撹拌ボールミル装置C−01Mを用いて、SUS製粉砕ポットに1920gのジルコニア製粉砕ボール(φ5mm)および1gのカーボン(SGL)を投入し、その後1000rpmで10分間、プレ粉砕処理を実施した。その後、合金の各原料粉末(高純度金属Siインゴット(5N)、高純度Tiワイヤ(3N)、高純度Sn板(3N)、高純度化学製・高純度Al粉末(3N))を100g投入し、1500rpmで5時間かけて合金化させ(合金化処理)、その後400rpmで1時間、微粉砕処理を実施して、ケイ素含有合金(負極活物質)を得た。なお、本実施例において用いた撹拌ボールミル装置において、公転半径rs=0.070[m]、自転半径rpl=0[m]、回転数rpm=1500[回/分]であったことから、遠心力Gnl=176.0[G]と算出された。また、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は7.8μmであった。
【0171】
そして、このようにして得られたケイ素含有合金(負極活物質)を用いて、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0172】
(実施例3−2)
ケイ素含有合金の組成をSi
69Sn
2Ti
28.5Al
0.5に変更したこと以外は、上述した実施例3−1と同様の手法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は6.4μmであった。
【0173】
(実施例3−3)
ケイ素含有合金の組成をSi
67.5Sn
2Ti
29Al
1.5に変更したこと以外は、上述した実施例3−1と同様の手法により、負極活物質、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は3.2μmであった。
【0174】
[負極活物質の組織構造の分析]
実施例1−1において作製した負極活物質(ケイ素含有合金)の組織構造を分析した。
【0175】
図3Aの上段左の写真は、実施例1−1の負極活物質(ケイ素含有合金)の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)による観察画像(高倍率)である。また、
図3Aの上段右の写真は、当該観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)により元素強度マッピングを行った画像である。そして、
図3Aの下段の写真は、左からSn、Si、Tiのそれぞれの元素に対するマッピング画像である。これらの結果から、Tiが存在する部位にはSiも存在することから当該部位にはシリサイド(TiSi
2)相が存在するものと考えられた。また、Tiが存在しない部位にもSiが存在すること、SnはTiが存在せずSiが存在する部位に存在することもわかった。
【0176】
続いて、
図3Bの上段左の写真は
図3Aの上段左の写真と同じ実施例1−1の負極活物質(ケイ素含有合金)のHAADF−STEMによる観察画像である。また、
図3Bの下段左の写真は当該観察画像における太線で囲んだ部位(シリサイド(TiSi
2)相が存在するものと考えられた部位)の画像を高速フーリエ変換して得られた回折図形であり、
図3Bの右側のグラフ・表は同部位について得られたEDXスペクトルである。上記回折図形には規則的な回折パターンが見られ(結晶構造の存在)、EDXスペクトルではSiとTiとがほぼ2:1の原子比で存在していたことから、当該部位はシリサイド(TiSi
2)相であることが確認された。
【0177】
同様に、
図3Cの上段左の写真は
図3Aの上段左の写真と同じ実施例1−1の負極活物質(ケイ素含有合金)のHAADF−STEMによる観察画像である。また、
図3Cの下段左の写真は当該観察画像における太線で囲んだ部位(Tiが存在せずSiが存在する部位)の画像を高速フーリエ変換して得られた回折図形であり、
図3Cの右側のグラフ・表は同部位について得られたEDXスペクトルである。上記回折図形には規則的な回折パターンが見られず、EDXスペクトルではSiが主成分として存在していたことから、当該部位はa−Si相であることが確認された。なお、
図3CのEDXスペクトルではa−Si相にSnが含まれていることも確認され、SnはSiとの間でシリサイドを形成しないことから、Snはa−Si相に固溶していると考えられた。
【0178】
なお、
図3Dは実施例1−1の負極活物質(ケイ素含有合金)のHAADF−STEMによる観察画像(低倍率)である。以上の結果をまとめると、実施例1−1の負極活物質(ケイ素含有合金)は、Siの結晶構造の内部にSnが固溶してなる非晶質または低結晶性のSiを含むa−Si相が、遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド(TiSi
2)相中に分散されてなる構造を有するものであることがわかった。また、実施例1−2の負極活物質(ケイ素含有合金)も同様の構造を有するものであることが、
図4A〜
図4Dに示す観察結果によって確認された。さらに、結果を図示はしていないが、実施例1−3〜1−4のそれぞれで得られた負極活物質(ケイ素含有合金)も同様の構造を有するものであることが確認されている。
【0179】
一方、
図5A〜
図5Dに示す観察結果からわかるように、比較例の負極活物質(ケイ素含有合金)では、実施例と同様の構造は確認されず、これとは逆にシリサイド(TiSi
2)相がa−Si相中に分散されてなる構造が確認された。
【0180】
また、これも結果を図示はしていないが、実施例2−1〜2−3のそれぞれで得られた負極活物質(ケイ素含有合金)もまた、実施例1−1〜1−4で得られた負極活物質(ケイ素含有合金)と同様の構造(すなわち、Siの結晶構造の内部にSnが固溶してなる非晶質または低結晶性のSiを含むa−Si相が、遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド(TiSi
2)相中に分散されてなる構造)を有するものであることが確認されている。
【0181】
さらに、実施例3−1〜3−3のそれぞれで得られた負極活物質(ケイ素含有合金)もまた、実施例1−1〜1−4で得られた負極活物質(ケイ素含有合金)と同様の構造(すなわち、Siの結晶構造の内部にSnが固溶してなる非晶質または低結晶性のSiを含むa−Si相が、遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド(TiSi
2)相中に分散されてなる構造)を有するものであることが確認されている。
【0182】
ここで、
図9Aの上段左の写真は、実施例3−1の負極活物質(ケイ素含有合金)の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)による観察画像(高倍率)である。また、
図9Aの上段右の写真は、当該観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)によりSi、SnおよびTiについて元素強度マッピングを行った画像である。そして、
図9Aの下段の写真は、左からSn、Si、Tiのそれぞれの元素に対するマッピング画像である。これらの結果から、Tiが存在する部位にはSiも存在することから当該部位にはシリサイド(TiSi
2)相が存在するものと考えられた。また、Tiが存在しない部位にもSiが存在することが確認され、SnはTiが存在せずSiが存在する部位の、Tiが存在する部位(シリサイド相と思われる領域)との境界の領域に高濃度に存在することもわかった。
【0183】
同様に、
図9Bの上段左の写真は、実施例3−1の負極活物質(ケイ素含有合金)の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)による観察画像(高倍率)である(
図9Aと同じ画像である)。また、
図9Bの上段右の写真は、当該観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)によりSi、TiおよびAlについて元素強度マッピングを行った画像である。そして、
図9Bの下段の写真は、左からAl、Si、Tiのそれぞれの元素に対するマッピング画像である(SiおよびTiのものは
図9Aと同じ画像である)。これらの結果から、Alは、Tiが存在せずSiが存在する部位に均一に分散して存在することがわかった。
【0184】
[負極活物質の非晶質領域のSi正四面体間距離(Si−Si間距離)および周期配列領域(MRO)のサイズの測定]
実施例1−1〜1−4および比較例、実施例2−1〜2−3、並びに実施例3−1〜3−3のそれぞれにおいて作製した負極活物質(ケイ素含有合金)について、HAADF−STEM観察画像を用いた画像解析により得られた逆フーリエ変換画像から非晶質領域(a−Si相)のSi正四面体間距離および周期配列領域(MRO)のサイズを測定(算出)した結果を下記の表1〜表3に示す。なお、既に説明したように、実施例1−1の負極活物質(ケイ素含有合金)のHAADF−STEM観察画像、このHAADF−STEM観察画像をフーリエ変換して取得した回折図形、およびこの回折図形のSi(220)面の回折リング部分を逆フーリエ変換して得られた逆フーリエ変換画像を
図6(A)〜(C)にそれぞれ示す。また、実施例1−1〜1−4および比較例、実施例2−1〜2−3、並びに実施例3−1〜3−3のそれぞれにおいて作製した負極活物質(ケイ素含有合金)におけるa−Si相およびシリサイド相の含有量およびこれらの質量比の値についても下記の表1〜表3に併せて示す。
【0185】
[サイクル耐久性の評価]
実施例1−1〜1−4および比較例、実施例2−1〜2−3、並びに実施例3−1〜3−3のそれぞれにおいて作製した各リチウムイオン二次電池(コインセル)について以下の充放電試験条件に従ってサイクル耐久性評価を行った。
【0186】
(充放電試験条件)
1)充放電試験機:HJ0501SM8A(北斗電工株式会社製)
2)充放電条件[充電過程]0.3C、2V→10mV(定電流・定電圧モード)
[放電過程]0.3C、10mV→2V(定電流モード)
3)恒温槽:PFU−3K(エスペック株式会社製)
4)評価温度:300K(27℃)。
【0187】
評価用セルは、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(評価用電極へのLi挿入過程をいう)では、定電流・定電圧モードとし、0.1mAにて2Vから10mVまで充電した。その後、放電過程(評価用電極からのLi脱離過程を言う)では、定電流モードとし、0.3C、10mVから2Vまで放電した。以上の充放電サイクルを1サイクルとして、同じ充放電条件にて、初期サイクル(1サイクル)〜70サイクルまで充放電試験を行った。そして、1サイクル目の放電容量(初期放電容量)に対する50サイクル目および70サイクル目の放電容量の割合(放電容量維持率[%])を求めた結果を、初期放電容量の値と併せて下記の表1に示す。
【0188】
【表1】
【0189】
【表2】
【0190】
【表3】
【0191】
上記表1に示す結果から、本発明に係る負極活物質を用いたリチウムイオン電池は、50サイクル/70サイクル後の放電容量維持率が高い値に維持されており、サイクル耐久性に優れるものであることがわかる。このように高いサイクル耐久性が実現できたのは、負極活物質を構成するケイ素含有合金がSi−Sn−M(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される三元系の合金組成、またはSi−Sn−M−Al(Mは1または2以上の遷移金属元素である)で表される四元系の合金組成を有するとともに、ケイ素の結晶構造の内部にスズが固溶してなる非晶質または低結晶性のケイ素を含むa−Si相が遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド相中に分散されてなる構造を有することによっている。そして、a−Si相のアモルファス化がより進行するほど(すなわち、非晶質領域(a−Si相)の周期配列領域(MRO)のサイズがより小さい値を示すほど)、充電時にSiとLiとが合金化する際のアモルファス−結晶の相転移(Li
15Si
4への結晶化)を抑制しつつ、充放電時の活物質粒子の膨張を緩和することにつながる。また、a−Si相にスズが固溶することによって非晶質領域(a−Si相)のSi正四面体間距離がより大きくなるほど(すなわち、Si−Si間の距離が広がるほど)、充放電時におけるリチウムイオンの挿入・脱離反応が進行しやすくなる。さらに、シリサイド相が海島構造の海(連続相)を構成することで、負極活物質(ケイ素含有合金)の電子伝導性をよりいっそう向上させることができ、しかもa−Si相の膨張時の応力を緩和して活物質の割れを防止することができる。本発明に係る負極活物質を構成するケイ素含有合金は所定の微細組織構造を有する結果、これらの複合的な効果として、サイクル耐久性の向上がもたらされているものと考えられる。シリサイド相/a−Si相の質量比についても、所定の値以上の値を示すことでよりいっそうサイクル耐久性の向上に寄与しうることがわかる。
【0192】
なお、実施例1−1の負極活物質(ケイ素含有合金)を製造する際のメカニカルアロイング処理前の粉砕物(液体急冷凝固法により得られた急冷薄帯の粉砕物)の微細組織構造をHAADF−STEMにより観察した。その結果得られた観察画像を
図8に示す。
図8に示すHAADF−STEM観察画像から明らかなように、液体急冷凝固法により得られた急冷薄帯は、ダイシリサイド(TiSi
2)からなる組織(初晶組織と考えられる)、および当該シリサイドとa−Si相との共晶組織が混在した微細組織構造を有していることが判明した。また、上記観察画像における各部位(初晶シリサイド相、共晶のa−Si相および共晶のシリサイド相)の領域を高速フーリエ変換処理して得られた回折図形も
図8に示す。
図8に示す回折図形から、液体急冷凝固法により得られた急冷薄帯に含まれるダイシリサイド(TiSi
2)の結晶構造はC49構造であることが確認された。C49構造を有するダイシリサイド(TiSi
2)は、C54構造を有するものと比較して低硬度であることから、この急冷薄帯を用いてメカニカルアロイング処理を施して負極活物質(ケイ素含有合金)を製造する際に、長時間のメカニカルアロイング処理を施さなくとも十分にシリサイド相が破壊されて最終的に得られる合金中に分散しやすくなっているものと考えられる。なお、データは示していないが、メカニカルアロイング処理を施して得られた負極活物質(ケイ素含有合金)に含まれるダイシリサイド(TiSi
2)はC54構造を有するものであることも確認されている。
【0193】
また、実施例2および実施例3に示す結果から、遠心力の大きい撹拌ボールミルを用いてメカニカルアロイング(合金化)処理を施すことにより、より短い処理時間で同等の性能(サイクル耐久性)を示す負極活物質(ケイ素含有合金)が得られることもわかる。
【0194】
本出願は、2015年11月10日に出願された日本特許出願番号2015−220803号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。