(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ルームエアコン、パッケージエアコンなどの空調機器、家庭用冷凍冷蔵庫などの低温機器、産業用冷凍機、およびハイブリッドカー、電気自動車などのカーエアコンには、オゾン層の破壊などの原因となる、塩素を含むフロン冷媒に代えて、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)、ペンタフルオロエタン(R−125)、ジフルオロメタン(R−32)とR−125の混合冷媒であるR−410Aなどハイドロフルオロカーボン(HFC)が冷媒として使用されている
【0003】
しかし、上述したHFC冷媒はオゾン層破壊係数がゼロであるものの、地球温暖化係数(GWP)が1000以上と高い。そのため、温室効果の低減を目的とした規制の対象となっており、使用が制限されてくることからGWPの低い冷媒の使用が検討されている。例えばGWPが4である2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)や、GWPが675であるR−32の単独使用などへの転換が進められている。
【0004】
低GWPのHFC冷媒への転換が進むに従い、これら低GWP冷媒との相溶性が高いポリオールエステルを基油とする冷凍機油用エステルが種々提案されている。また、代替冷媒候補のうちR−32、またはR−32を含む混合冷媒など圧力が高くなる冷媒使用時は、コンプレッサーでの吐出温度が高くなり、コンプレッサー内の潤滑条件がより厳しくなることから、潤滑性および安定性を向上した冷凍機油用エステルが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、R−32を含む混合冷媒の使用に伴い、熱的に厳しい環境で運転されるコンプレッサーにおいても高い安定性を有するエステルとして、ペンタエリスリトールと2−エチルヘキサン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸とからなるエステルを主成分とした冷凍機油用潤滑油が開示されている。
また、ハイドロカーボン(HC)冷媒の場合は、HC分子内に潤滑性を高めるフッ素がない事から、HFC冷媒等のように冷媒による潤滑性向上効果が期待できず、さらにHC冷媒への冷凍機油への溶解度が高く、油の粘度を下げることから、潤滑条件がさらに厳しくなる。特許文献2には、このような厳しい潤滑条件においても優れた潤滑性および優れた耐熱性を有するコンプレックスエステルが提案されており、1,4−ブタンジオールを原料に用いることで潤滑性が向上すること、1価のアルコールを原料に用いることで耐熱性が向上することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、冷凍機油を使用した機器のコンパクト化(1台あたりの冷凍機油使用量の減少)や省エネルギー化(インバーター制御による圧縮機の稼働時間の伸張)が進むことで、冷凍機油の使用条件はさらに過酷になっている。そのため、圧縮機の摺動部における摩擦熱によって、局部的に高温条件下に晒された冷凍機油が熱分解し、生成した分解物が金属部材を腐食したり、樹脂材料に悪影響を与える可能性があることから、より過酷な条件下においても優れた潤滑性および熱安定性を示す冷凍機油用エステルの開発が求められている。
【0008】
本発明の課題は、優れた潤滑性および耐熱性を有する冷凍機油用エステル潤滑油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、特定の2価アルコール、2価カルボン酸、1価アルコールを構成成分とするエステルが、優れた潤滑性および耐熱性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1) 下記成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)から得られる冷凍機油用エステルであって、
前記エステル中の前記成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して、前記成分(B)由来の構成成分0.1〜0.4モル、前記成分(C)由来の構成成分0.8〜2.8モルおよび前記成分(D)由来の構成成分0.3〜2.3モルの比率であり、
前記エステルのヒドロキシル価が5〜40mgKOH/gであり、式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする。
(A) ネオペンチルグリコール
(B) 炭素数2〜6で両末端の炭素にヒドロキシル基を有する直鎖状の2価アルコール
(C) 炭素数4〜10で両末端の炭素にカルボキシル基を有する直鎖状の2価カルボン酸
(D) 炭素数6〜12の1価アルコール
0.08 ≦ B
OH/(A
OH+B
OH)≦ 0.15 ・・・(1)
〔B
OH/(A
OH+B
OH)〕/〔B
mol/(A
mol+B
mol)〕 ≦ 0.9
・・・(2)
(前記式(1)および前記式(2)において、
A
OHは、前記エステル中の前記成分(A)由来の末端ヒドロキシル基のモル数であり、
B
OHは、前記エステル中の前記成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル数であり、
A
molは、前記エステル中の前記成分(A)由来の構成成分のモル数であり、
B
molは、前記エステル中の前記成分(B)由来の構成成分のモル数である)
(2) 非塩素系フロン冷媒または自然冷媒と、(1)の冷凍機油用エステルとを含有することを特徴とする、冷凍機油用作動流体組成物。
【0011】
また、前記冷凍機油用エステルを得るには、好ましくは、成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を100〜150℃の温度で1次エステル化反応に供し、次いで150℃〜250℃の温度で2次エステル化反応に供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の冷凍機油用エステルは、高い耐熱性を有するため、熱安定性が特に要求される冷凍空調機器のコンプレッサーに好適に用いることができる。また、本発明の冷凍機油用エステルは、非塩素系フロン冷媒や自然冷媒との相溶性が高いため、これら冷媒を含有する冷凍機用作動流体組成物に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の冷凍機油用エステルについて説明する。
なお、本明細書において記号「〜」を用いて規定された数値範囲は「〜」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2〜5」は「2以上、5以下」を表す。
【0014】
本発明の冷凍機油用エステルは、ネオペンチルグリコール(成分(A))と、炭素数2〜6で両末端の炭素にヒドロキシル基を有する直鎖状の2価アルコール(成分(B))と、炭素数4〜10で両末端の炭素にカルボキシル基を有する直鎖状の2価カルボン酸(成分(C))と、炭素数6〜12の1価アルコール(成分(D))とを混合し、エステル化反応させることで得られる。
【0015】
なお、成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)の用語は便宜的な総称であり、各成分に属する化合物が一種類であってもよく、または各成分に属する化合物が二種類以上であってもよい。各成分に二種類以上の化合物が含まれる場合には、各成分の量は、その成分に属する二種類以上の化合物の合計量とする。
【0016】
本発明で使用される成分(A)のネオペンチルグリコールとしては、工業的に入手可能なネオペンチルグリコールを使用することができ、ネオペンチルグリコールの形状として、固体状もしくは水で希釈された液状のものを使用する事ができる。
【0017】
成分(B)は、炭素数2〜6で両末端の炭素にヒドロキシル基を有する直鎖状の2価アルコールであり、具体的にはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。好ましくは直鎖状の2価飽和アルコールであり、1,4−ブタンジオールを用いることがとくに好ましい。成分(B)によって、粘度指数、低温安定性、潤滑性において優れたエステルを得ることができる。
【0018】
成分(C)は、炭素数4〜10で両末端の炭素にカルボキシル基を有する直鎖状の2価カルボン酸であり、具体的にはコハク酸(炭素数4)、グルタル酸(炭素数5)、アジピン酸(炭素数6)、ピメリン酸(炭素数7)、スベリン酸(炭素数8)、アゼライン酸(炭素数9)、セバシン酸(炭素数10)などが挙げられる。直鎖状の炭素数6〜8の2価飽和カルボン酸を用いることが好ましい。成分(C)によって、粘度指数と低温安定性において優れたエステルを得ることができる。
【0019】
成分(D)は、炭素数6〜12の1価アルコールであり、これらは直鎖アルコール、分岐アルコールのいずれであっても良い。具体的には1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノールなどが挙げられる。好ましくは炭素数6〜10の飽和分岐アルコールであり、低温安定性に優れたエステルを得ることができる。特に2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノールを用いることが好ましい。
【0020】
本発明の冷凍機油用エステルは、成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して、成分(B)由来の構成成分0.1〜0.4モル、成分(C)由来の構成成分0.8〜2.8モル、成分(D)由来の構成成分0.3〜2.3モルの比率で構成された冷凍機油用エステルである。
【0021】
成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して、成分(B)由来の構成成分の量が0.1モルを下回ると、所望粘度指数および潤滑性が得られ難く、0.4モルを超えると、エステルの低温安定性が悪化する。好ましくは、成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して、成分(B)由来の構成成分の量を0.1〜0.3モルとすることができる。
【0022】
成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して成分(C)由来の構成成分の量が0.8モルを下回ると、高い粘度指数が得られ難く、2.8を超えると、潤滑性が得られ難くなる。成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して成分(C)由来の構成成分の量を0.9モル以上とすることが好ましく、また、2.3モル以下とすることが好ましい。
【0023】
成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して成分(D)由来の構成成分の量を0.3〜2.3モルとすると、冷凍機油用として好適な粘度のエステルが得られやすくなる。成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して成分(D)由来の構成成分の量を0.5モル以上とすることが好ましく、また2.1モル以下とすることが好ましい。
【0024】
上述した各構成成分のモル比率は、ガスクロマトグラフィーにより分析して算出する。エステル0.1gをトルエン/メタノール(80wt%/20wt%)混合溶媒5gで希釈し、次いで28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業(株))を0.3g加え、60℃にて30分静置することにより、エステルを加メタノール分解する。得られたエステル分解溶液をガスクロマトグラフィーで分析し、得られた成分(A)、成分(B)成分(C)、成分(D)のピーク面積比をモル比へ換算することによって、算出することができる。なお、各成分単独のガスクロマトグラフィーを分析することで、エステル分解物の成分を同定することができる。
【0025】
本発明のエステルは、各成分(A)、(B)、(C)、(D)由来の構成成分のモル比率を調整することによって、成分(C)のカルボキシル基が成分(A)、(B)または(D)によって封鎖されるように合成したエステルであり、末端構造が成分(D)由来のアルキル基であるエステルの他、マイナー成分としてエステルの末端構造が成分(A)由来のヒドロキシル基、成分(B)由来のヒドロキシル基であるエステルが含まれる。
【0026】
本発明のエステルの具体的な末端構造の一例として、式(3)、(4)、(5)を用いて説明する。式(3)は、エステルの末端に成分(D)由来のアルキル基を有する構造であり、式(4)はエステルの末端に成分(A)由来のヒドロキシル基を有する構造であり、式(5)はエステルの末端に成分(B)由来のヒドロキシル基を有する構造である。
【0030】
mは1〜5の整数であり、R
1は成分(D)由来のアルキル基を示している。
【0031】
このような構造設計とすることによって、冷凍機油として使用した際に、加水分解や熱分解を起こしにくく、安定性に優れたエステルとすることができる。
【0032】
本発明の冷凍機油用エステルは、式(1)および式(2)を満たす。
0.08 ≦ B
OH/(A
OH+B
OH)≦ 0.15 ・・・(1)
(A
OHは、エステル中の成分(A)由来の末端ヒドロキシル基のモル数であり、
B
OHは、エステル中の成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル数である。)
式(1)は、エステル中の成分(A)由来の末端ヒドロキシル基と成分(B)由来の末端ヒドロキシル基の合計に対する成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル比率を表している。
【0033】
〔B
OH/(A
OH+B
OH)〕/〔B
mol/(A
mol+B
mol)〕 ≦ 0.9
・・・(2)
(A
OHは、エステル中の成分(A)由来の末端ヒドロキシル基のモル数であり、
B
OHは、エステル中の成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル数であり、
A
molは、エステル中の成分(A)由来の構成成分のモル数であり、
B
molは、エステル中の成分(B)由来の構成成分のモル数である。)
【0034】
式(2)の分子は、[B
OH/(A
OH+B
OH)]であるが、これは式(1)に示したものであり、エステル中における成分(A)由来の末端ヒドロキシル基と成分(B)由来の末端ヒドロキシル基の合計に対する成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル比率を表している。
一方、式(2)の分母は、[B
mol/(A
mol+B
mol)]であるが、これはエステル中の成分(A)由来の構成成分と成分(B)由来の構成成分との合計に対する成分(B)由来の構成成分のモル比率を表している。
【0035】
ゆえに、式(2)は、エステル中の成分(B)由来の構成成分のモル比率に対して、成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル比率がどの程度小さくなっているかを表しており、言い換えると、エステル全体構造に対する末端構造における(B)成分の偏在度合いを表している。
【0036】
なお、式(1)(2)の各数値は以下のようにして測定する。
(式(1)の数値および式(2)の分子の数値:B
OH/(A
OH+B
OH))
1H-NMRスペクトルの内、成分(A)由来のヒドロキシル基に対するα水素のピーク(3.2〜3.4ppm)の積分値と、成分(B)由来のヒドロキシル基に対するα水素のピーク(3.6〜3.8ppm)の積分値を求め、各積分値の和によって、成分(B)由来のヒドロキシル基に対するα水素の積分値を除することで算出した。
【0037】
(式(2)の分母の数値:B
mol/(A
mol+B
mol))
前記のガスクロマトグラフィー分析により成分(A)および成分(B)由来の各構成成分のモル数を求め、モル比率を算出した。
【0038】
成分(A)は、β炭素に水素が結合していない(β水素が存在しない)ため、エステル構造末端で生ずる末端ヒドロキシル基については、成分(A)由来の末端構造は成分(B)由来の末端構造と比較して耐熱性に優れている。すなわち、成分(A)由来のエステル構造末端がより多く存在するエステルは、そうでないエステルと比較して耐熱性に優れている。この結果、全ヒドロキシル基に占める成分(B)由来のヒドロキシル基のモル比率を0.15以下とすることによって、より優れた耐熱性を有するエステルとすることができる。成分(A)由来の末端ヒドロキシル基と成分(B)由来の末端ヒドロキシル基の合計に対する成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル比率が0.08〜0.15において潤滑性と耐熱性に優れたエステルが得られやすい。この観点からは、前記モル比率は、0.09以上が更に好ましく、また、0.14以下が更に好ましい。
【0039】
さらに、エステル中の成分(B)由来の構成成分のモル比率に対して、成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル比率が小さくなるように偏在させたエステルは、耐熱性により優れたものとなる。末端構造における(B)成分の偏在度合いは、エステル中の成分(B)由来の構成成分のモル比率に対する成分(B)由来の末端ヒドロキシル基のモル比率により表すことができ、その値を0.9以下とすることで、より耐熱性に優れたエステルを得ることができる。この値は、0.9以下とするが、0.8以下とすることが更に好ましい。また、この値の下限は特にないが、0.2以上とすることが好ましく、0.3以上とすることがより好ましく、0.5以上とすることが更に好ましい。
【0040】
本発明のエステルは、エステル中の成分(A)由来の構成成分と成分(B)由来の構成成分の和に対する成分(B)由来の構成成分のモル比に対して、エステル中の全ヒドロキシル基に占める成分(B)由来のヒドロキシル基のモル比率を低減したエステルであり、上述した理由により、式(1)および式(2)を満足するエステルは、さらに耐熱性に優れたエステルとなる。
【0041】
エステルの製造に際しては、まず上記成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を適切な反応器に全て仕込み、常圧、窒素雰囲気にてエステル化反応を行なう。エステル化反応は、効率よく反応生成水を除去するために通常150〜250℃で行なうことができる。しかし、より優れた耐熱性を有するエステルを得るという観点から、まず100〜150℃にて1次エステル化反応を行なう。その後、150℃〜250℃にて2次エステル化反応を行なう。
【0042】
この1次エステル化反応は、好ましくは100〜140℃、さらに好ましくは100〜130℃で行なうことによって、耐熱性に優れたエステルが得られやすくなる。また、1次エステル化反応は、好ましくは1〜10時間、さらに好ましくは2〜8時間とすることで耐熱性に優れたエステルが得られやすくなる。
【0043】
2次エステル化反応は、好ましくは160〜260℃、さらに好ましくは180〜250℃で行なうことが好ましい。この時、酸価が10mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下、さらに好ましくは2mgKOH/gとなるまで2次エステル化反応を行なう。
また、エステル化反応はブレンステッド酸触媒やルイス酸触媒を使用してもよいが、無触媒で行なうことが好ましい。
【0044】
エステル化反応後、過剰な成分(D)を減圧下で留去し、粗エステルを得る。さらに粗エステルを吸着剤にて精製処理することにより、目的の冷凍機油用エステルを得ることができる。
【0045】
本発明の冷凍機油用エステルの40℃における動粘度は、好ましくは、20〜500mm
2/sである。より好ましくは20〜300mm
2/sであり、さらに好ましくは20〜250mm
2/s、最も好ましくは20〜180mm
2/sである。またヒドロキシル価は、好ましくは5〜40mgKOH/gであり、さらに好ましくは15〜35mgKOH/gである。
【0046】
本発明の冷凍機油用エステルは、単独で基油として使用することもできるし、その他の基油と混合して使用することもできる。また、公知の添加剤、例えばフェノール系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール、チアジアゾールまたはジチオカーバメートなどの金属不活性化剤、エポキシ化合物またはカルボジイミドなどの酸捕捉剤、リン系の極圧剤などの添加剤を目的に応じて適宜配合することができる。
【0047】
本発明の冷凍機油用エステルは、非塩素系フロン冷媒や自然冷媒との相溶性が高いため、これら冷媒を含有する冷凍機用作動流体組成物に好適に用いることができる。非塩素系フロン冷媒としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、ハイドロカーボン(HC)や自然冷媒の単体、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0048】
ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒の具体的な例としては、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)、ペンタフルオロエタン(R−125)、ジフルオロエタン(R−32)、トリフルオロメタン(R−23)、1,1,2,2−テトラロフルオロエタン(R−134)、1,1,1−トリフルオロエタン(R−143a)、1,1−ジフルオロエタン(R−152a)等のいずれかの1種または2種以上の混合物であることが好ましい。上記混合冷媒としては、例えばR−407C(R−134a/R−125/R−32=52/25/23質量%)、R−410R(R−125/R−32=50/50質量%)、R−404A(R−125/R−143/R−134a=44/52/4質量%)、R−407E(R−134a/R−125/R−32=60/15/25質量%)、R−410B(R−32/R−125=45/55質量%)などが挙げられる。これらの中でも、特にR−134a及びR−32の少なくとも一種を含む冷媒が好ましく、単一のR−32冷媒がさらに好ましく挙げられる。
【0049】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)冷媒の具体的な例としては、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ye)、および3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等のいずれかの1種または2種以上の混合物であることが好ましい。冷媒物性の観点からは、HFO−1225ye、HFO−1234zeおよびHFO−1234yfから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0050】
また、ハイドロカーボン(HC)冷媒としてはプロパン(R290)やイソブタン(R600a)等やそれらの混合物が挙げられ、自然冷媒としては、アンモニアや二酸化炭素等が挙げられる。とくに、R290、R600および二酸化炭素が好ましく挙げられる。
【0051】
冷凍機油用作動流体組成物は、通常、本発明による冷凍機油用エステルと非塩素系フロン冷媒もしくは自然冷媒との質量比が、10:90から90:10である。冷媒の質量比がこの範囲にあれば、作動流体組成物が適度な粘性を有するので、潤滑性に優れ、かつ冷凍効率も高いものとなり好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0053】
なお実施例および比較例で得られた冷凍機油用エステルの各種分析は、以下の方法に従って分析した。
酸価: JIS K2501に準拠して測定した。
水酸基価: JIS K0070に準拠して測定した。
動粘度: JIS K2283に準拠して測定した。
【0054】
実施例1の製造
ネオペンチルグリコール124g(1.19mol)、1,4−ブタンジオール30g(0.34mol)、アジピン酸355g(2.43mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノール339g(2.35mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、120℃で反応水を留去しつつ常圧で3時間反応を行なった。その後、200℃で酸価が2以下となるまで反応を7時間継続した。ついで、200℃、1〜5kPaの減圧下にて過剰な3,5,5−トリメチルヘキサノールを留去し、粗エステルを得た。粗エステルを冷却し、これに酸性白土およびシリカ−アルミナ系の吸着剤を、それぞれ理論上得られるエステル量の1.0質量%となるように添加して吸着処理した。吸着処理温度、圧力、および吸着処理時間は100℃、1〜5kPa、2時間とした。最後に1ミクロンのフィルターを用いて濾過を行い、目的のエステルを得た。
【0055】
実施例2の製造
ネオペンチルグリコール180g(1.73mol)、1,4−ブタンジオール25g(0.28mol)、アジピン酸360g(2.47mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノール256g(1.78mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、115℃で反応水を留去しつつ常圧で4時間反応を行なった。以降の工程は実施例1と同様にして行い目的のエステルを得た。
【0056】
実施例3の製造
ネオペンチルグリコール205g(1.97mol)、1,4−ブタンジオール26g(0.28mol)、アジピン酸373g(2.55mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノール217g(1.50mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、125℃で反応水を留去しつつ常圧で3時間反応を行なった。以降の工程は実施例1と同様にして行い目的のエステルを得た。
【0057】
実施例4の製造
ネオペンチルグリコール174g(1.66mol)、1,4−ブタンジオール46g(0.51mol)、アジピン酸373g(2.55mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノール238g(1.65mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、120℃で反応水を留去しつつ常圧で4時間反応を行なった。以降の工程は実施例1と同様にして行い目的のエステルを得た。
【0058】
実施例5の製造
ネオペンチルグリコール129g(1.23mol)、1,5−ペンタンジオール28g(0.26mol)、スベリン酸393g(2.25mol)、n−オクタノール300g(2.30mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、120℃で反応水を留去しつつ常圧で5時間反応を行なった。以降の工程は実施例1と同様にして行い目的のエステルを得た。
【0059】
実施例6の製造
ネオペンチルグリコール215g(2.07mol)、1,3−プロパンジオール22g(0.29mol)、アジピン酸385g(2.64mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノール214g(1.49mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、120℃で反応水を留去しつつ常圧で4時間反応を行なった。以降の工程は実施例1と同様にして行い目的のエステルを得た。
【0060】
実施例7の製造
ネオペンチルグリコール211g(2.03mol)、1,6−ヘキサンジオール42g(0.36mol)、アジピン酸385g(2.64mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノール206g(1.43mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、115℃で反応水を留去しつつ常圧で5時間反応を行なった。以降の工程は実施例1と同様にして行い目的のエステルを得た。
【0061】
比較例1の製造
ネオペンチルグリコール174g(1.66mol)、1,4−ブタンジオール46g(0.51mol)、アジピン酸373g(2.55mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノール238g(1.65mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、200℃で反応水を留去しつつ酸価が2以下となるまで常圧で反応を7時間継続した。ついで、200℃、1〜5kPaの減圧下にて過剰な3,5,5−トリメチルヘキサノールを留去し、粗エステルを得た。粗エステルを冷却し、これに酸性白土およびシリカ−アルミナ系の吸着剤を、それぞれ理論上得られるエステル量の1.0質量%となるように添加して吸着処理した。吸着処理温度、圧力、および吸着処理時間は100℃、1〜5kPa、2時間とした。最後に1ミクロンのフィルターを用いて濾過を行い、目的のエステルを得た。
【0062】
比較例2の製造
ネオペンチルグリコール104g(1.00mol)、1,4−ブタンジオール27g(0.30mol)、アジピン酸351g(2.40mol)を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、200℃で反応水を留去しつつ常圧で、酸価が270以下となるまで3時間反応を行い、エステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらに3,5,5−トリメチルヘキサノール361g(2.50mol)を添加し酸価が2以下となるまで反応を7時間継続した。ついで、200℃、1〜5kPaの減圧下にて過剰な3,5,5−トリメチルヘキサノールを留去し、粗エステルを得た。粗エステルを冷却し、これに酸性白土およびシリカ−アルミナ系の吸着剤を、それぞれ理論上得られるエステル量の1.0質量%となるように添加して吸着処理した。吸着処理温度、圧力、および吸着処理時間は100℃、1〜5kPa、2時間とした。最後に1ミクロンのフィルターを用いて濾過を行い、目的のエステルを得た。
【0063】
耐熱性(加熱試験)
上記の冷凍機油用エステルについて加熱試験を実施することで、冷凍機油用エステルの耐熱性を評価した。耐熱性試験は空気雰囲気下、130℃の恒温槽内で72時間加熱し、加熱後の冷凍機油用エステルの酸価を測定した。
【0064】
潤滑性(SRV試験)
上記の冷凍機油用エステルについてSRV試験機にて潤滑性を評価した。SRV試験はボール/ディスクで行い、試験片はそれぞれSUJ‐2製を用いた。試験条件は試験温度60℃、荷重100N、振幅1mm、振動数50Hzで行い、試験時間25min経過後の摩耗痕径を測定した。
【0065】
実施例1〜7および比較例1〜2の製造条件を表1、表2にまとめ、物性値、耐熱性、潤滑性について表3、表4にまとめた。なお、表1、表2には、各成分の仕込み比率を記載しており、表3、表4には、生成したエステルにおける各成分に由来の構成成分のモル比率の測定値を記載した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
表1〜表4に示すように、実施例1〜7のエステルは、潤滑性が優れており、かつ耐熱性にも優れていることから、コンプレッサー内の厳しい潤滑条件下においても劣化し難く長期で使用する事ができるものである。また、加熱試験での酸価上昇を抑えられていることから、コンプレッサー内の金属等の腐食原因となる分解物の発生も抑えられるものである。
【0071】
一方、比較例1〜2では、実施例のエステルと異なり酸価の上昇幅が大きいことから、実施例と比較して加熱試験によるエステルの分解が進んでいることが確認された。