特許第6614618号(P6614618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社丸安の特許一覧

<>
  • 特許6614618-魚の干物 図000002
  • 特許6614618-魚の干物 図000003
  • 特許6614618-魚の干物 図000004
  • 特許6614618-魚の干物 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614618
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】魚の干物
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/03 20060101AFI20191125BHJP
   A22C 25/00 20060101ALI20191125BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20191125BHJP
【FI】
   A23B4/03 501E
   A22C25/00 Z
   A23L17/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-242264(P2017-242264)
(22)【出願日】2017年12月19日
(65)【公開番号】特開2019-106935(P2019-106935A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2018年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】505159593
【氏名又は名称】株式会社丸安
(74)【代理人】
【識別番号】100127225
【弁理士】
【氏名又は名称】江波戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】潮来 幹章
【審査官】 堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−226134(JP,A)
【文献】 特開2005−34042(JP,A)
【文献】 特開2010−88414(JP,A)
【文献】 特開昭56−23837(JP,A)
【文献】 特開平8−9928(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103393155(CN,A)
【文献】 特開2003−9762(JP,A)
【文献】 "冬季限定!自家製さんまの干物 丸干し *"、[online],2015年 2月 1日,[2019年7月22日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20160117010949/https://cookpad.com/recipe/2992868>
【文献】 "板前はこうして焼いている。秋刀魚の塩焼きが格段に美味しくなる裏技 - まぐまぐニュース!"、[online],2016年 9月12日,[2019年7月22日検索]、インターネット<URL:https://www.mag2.com/p/news/219541>
【文献】 "知れば得!自宅でもできるプロの便利技3選"、[online],東洋経済オンライン,2015年10月24日,[2019年7月22日検索]、インターネット<URL:https://toyokeizai.net/articles/-/89492>
【文献】 "さんまの骨を簡単に取る方法"、[online],2017年11月23日,[2019年7月22日検索]、インターネット<URL:https://kumiko-jp.com/archives/66788.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/03
A22C 25/00−25/22
A23L 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
干物とする魚類の魚体において、
(1)頭骨後端から尾骨前縁付近まで、背鰭、担鰭骨及び神経棘に沿って、それらの左右片側又は両側に、
(2)魚体の背面側から、脊柱に達する程度の深さに切り込んで形成した、
ことを特徴とする切り込み面を有する、丸干しによる魚類の干物。
【請求項2】
請求項1記載の魚類の干物とする魚類の魚体において、
(1)尾柄部の尾骨前縁付近で、尾柄部表皮及び脊柱に対し略垂直に、
(2)魚体側面の左右片側又は両側から、脊柱又は尾骨に達する程度の深さに切り込んで形成した、
ことを特徴とする切り込み面を有する、請求項1記載の魚類の干物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の干物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
干物は一般に、魚介類の身を干して乾燥させた食品である。奈良時代から干物が食されてきた日本国にあっては、魚の干物は社会に広く浸透・定着しており、食品加工業者のみならず、一般家庭においても、干物が作られている。
【0003】
鮮魚を干物に加工する過程において、その身を干して乾燥させる前には、主として材料である魚の大きさや種類に応じて、切開・切断等の下処理が行われる。そうした下処理の程度・種類によって食品の外観は異なったものとなり、通常、干物は、丸干し、開き干し、切り干しに大別されている。
【0004】
しかし、魚類には小骨も多く、調理後も箸では食べづらいという欠点がある(非特許文献1等。)。そのため、干物製造における切開・切断等の下処理工程において、食べやすくするための試みがされている。また、干物自体も、単に干して乾燥するだけでなく、保存や味付けのための処理が行われることも多くなっており、そうした処理等についても下処理工程の段階から工夫を加える試みがされている。
【0005】
特許文献1には、予め背骨(連結した脊椎骨。脊柱。)を切断しておくことにより、加熱調理後に分断された脊柱を箸で取り除きやすくして、食べやすくした、開き干しによる干物が記載されている。
【0006】
特許文献2には、三枚におろした魚の切り身を用いる切り干し干物の製造において、下処理工程で魚肉に切れ込みを入れ、調味料が魚肉へ浸透する度合いを調節する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−88414号公報
【特許文献2】特開2013−123422号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】木村清志監修 「新魚類解剖図鑑」緑書房 2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
魚類の干物は、加熱調理後でも箸では食べづらいという欠点がある。
【0010】
魚類を背開き又は腹開きとし、又は二枚おろし、三枚おろし、切り身へと加工する干物加工の下処理工程は、手作業による場合は熟練を要し、機械加工による場合は専用機が必要となり、いずれにしても費用及び時間がかかるうえ、材料を傷めやすい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載した発明は、干物として加工する魚類の魚体において、その頭骨後端から尾骨前縁付近まで、背鰭、担鰭骨及び神経棘に沿って、それらから可能な限り距離を置かずに、それらの左右片側又は両側に、魚体の背面側から脊柱に達する程度の深さに切り込んで形成した切り込み面を有する、丸干しによる魚類の干物である。
【0012】
「魚体の背面側」とは、鰭を除いた魚体のうち、背鰭のある背側のことであり、具体的には後頭部から項部、背側面を経て尾柄部に至る背側を指す。「背鰭、担鰭骨及び神経棘に沿って」とは、切り込み面が、背鰭、担鰭骨、神経棘及び脊柱を含む平面と略平行になるように、といった意味である。(非特許文献1参照)
【0013】
本発明では、一般的な魚の背開き、二枚おろし又は三枚おろしにおいて、背側から切り込むときと同様に切り込みを入れる。すなわち、魚体背側の中心線に沿って、その左右片側又は両側から魚体内部に向けて筋肉部分に切り込むのであるが、その切り込み方を指して「背鰭、担鰭骨及び神経棘に沿って」としたものである。
【0014】
「脊柱に達する程度の深さ」とは、ちょうど脊柱に達する程度の深さという意味である。切り込み深さは、ちょうど脊柱に達するのが望ましいが、切り込み加工を行う工程において、魚体の外観のみから脊柱の位置を精確に知って切り込み深さを加減することが難しいので、切り込み深さの目標を示したものであり、これよりも多少浅くなったり、深くなったりしてもよい。
切り込みが浅過ぎれば、その分、調理後に魚体を箸で開きにくくなるが、本発明の効果が失われるというわけではない。逆に、干物加工工程の途中で魚体が切開された状態にならない程度であれば、脊柱を超える深さであってもよい。
【0015】
通常、魚類の「丸干し」は、内臓を除去せずにそのまま干物にすることを指すが、本願にあっては内蔵を除去し、又は内臓を除去した腹腔内に他の食材や調味料を詰めたものであっても、魚類をそのままの形で干物にしたものであれば、「丸干し」による「丸干し干物」という。
【0016】
請求項2に記載した発明は、干物として加工する魚類の魚体において、その尾柄部の尾骨前縁付近で、その尾柄部表皮及び脊柱に対し略垂直に、魚体側面の左右片側又は両側から、脊柱又は尾骨に達する程度の深さに切り込んで形成した切り込み面を有する、丸干し又は開き干しによる魚類の干物である。
【0017】
「尾柄部」とは、鰭を除いた魚体のうち、概ね、臀鰭後端から尾鰭の基部付近までをいう。(非特許文献1参照)
【0018】
請求項2における「脊柱又は尾骨に達する程度の深さ」とは、魚体の表皮や筋肉を切断すべく、脊柱ないし尾骨前縁近くまで達する程度の深さに切り込むが、脊柱や尾骨にまで切り込むことのない深さという意味である。
【0019】
「魚体側面の左右片側又は両側から」とあるが、開き干しによる干物においては、左右に開かれた半身のうち、脊柱が残っている半身側に切り込み面を形成する。
【発明の効果】
【0020】
魚体背面側から切り込み面を形成した丸干し干物は、加熱調理後に箸で魚体を容易に割り開くことができる。
【0021】
また、脊柱を切断しないので、加熱調理後に分断された脊柱を箸で一つ一つ取り除くのではなく、脊柱全体を一気に取り除くことができる。
【0022】
本発明による丸干し干物では、比較的目立たない部位に切り込み面を形成するため、魚体表面に切り込み線が現れるものの、従来の丸干し干物と外観はさほど変わらない。魚の内臓を残して加工できるため、従来の丸干し干物と同様に、内臓を食べることもできる。
【0023】
開き干物や、二枚、三枚におろした切り身の干物等との比較において、丸干し干物は、乾燥時ににじみ出てしまう脂肪分や旨み成分などが魚体に蓄積されたままとなって、食味が良いという利点がある。本発明による丸干し干物は、そうした従来の丸干し干物の利点を損なわない。
【0024】
本発明を実施するための切り込みを行う干物製造の下処理工程は、鮮魚を背開き又は腹開き、二枚おろし、三枚おろしや切り身へと加工する下処理工程と比較すると、手作業であっても、機械を用いた加工であっても、比較的簡単で熟練を要せず、また、短時間で済む。そのため、費用も抑えられるほか、材料の傷みも少ない。
【0025】
下処理として背面側から切り込み面を形成しておけば、干物の製造工程に調味液の浸透工程がある場合は、切り込み面から魚肉に調味液が浸透しやすくなる。
【0026】
背面側から切り込み面を形成した丸干し干物にあっては、最終製品の切り込み面に固形又はゲル状の調味料を挟み込んで出荷することも可能である。
【0027】
尾柄部に切り込み面を形成した丸干し干物にあっては、魚体を割り開いた後、いっそう容易に背骨を取り外すことができる。
【0028】
尾柄部への切り込み面の形成は、開き干し干物にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、丸干し干物へと加工する魚体の背面側から切り込む際の切り込み面の位置及び大きさを示した説明図である。(実施例1)
図2図2は、魚体骨格に対する切り込み面の位置及び大きさを示した説明図である。(実施例1)
図3図3は、魚体断面の略図であり、切り込み面の位置及び深さを示した説明図である。(実施例1)
図4図4は、魚体尾柄部の尾骨前縁付近に切り込み面を形成した丸干し干物の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図1図3に基づいて説明する。なお、各図は非特許文献1の、主にニシン目に関する図を参考にして描いたものであるが、実際には、魚種によって体形、骨格等は大きく相違する。
【0031】
図1は、丸干し干物とする魚体の輪郭を図示したものである。図中のC1線は、魚体の背面側から背鰭3、担鰭骨51及び神経棘52に沿って魚体の左側に切り込んだ場合における切り込み線を示すものであり、魚体内部に形成された切り込み面の位置及び大きさを斜線領域C2として示してある。
【0032】
図2は、魚体の骨格に対する切り込み面の位置及び大きさを閉曲線C3として示したものである。閉曲線C3は、図1の斜線領域C2で示す切り込み面と同様だが、骨格との位置関係を図示するために、閉曲線の上側を広くとって描いている。
【0033】
図3は、魚体の脊柱2に略垂直な面における断面の略図であり、切り込み面C4の位置及び切り込み深さLdを示した説明図である。断面位置を特定しない略図であり、図1及び図2とは必ずしも対応していない。切り込み面C4は、神経棘52に沿ってその直近に、略平行な直線として表れている。
なお、背鰭3、臀鰭及び尾鰭4は断面図に表れることもあるはずだが、図3では省略している。また、上神経骨、上肋骨その他のいわゆる小骨等も、図示を省略した。
【0034】
本発明の第一の形態は、干物として加工する魚体の、頭骨1後端から尾骨41前縁付近まで切り込むことによって、切り込み面C2ないしC3を形成するものである。魚体表面には、切り込んだ結果として、図1の切り込み線C1が形成される。
図2は、頭骨1へも切り込むように描いているが、頭骨1への切り込みの有無は、本発明の効果に影響しない。
【0035】
切り込み面は、図3のC3に示すように、魚体の背面側から、背鰭3、担鰭骨51及び神経棘52に沿って、それらから可能な限り距離を置かずに、それらの左右片側又は両側に、脊柱2に達する程度の深さに切り込むことによって形成する。この際、背鰭3、担鰭骨51及び神経棘52には切り込まない。原則として脊柱2にも切り込まないようにするのが望ましいが、脊柱2を分断しない限り、その側面を多少削ぐことになっても差支えない。
【0036】
切り込み線C1であらわされる切り込み位置は、魚類の加工・調理において、二枚おろし、三枚おろし、あるいは背開きと称される下処理において包丁を入れる位置とほぼ同等である。ただ、本発明においては魚体を切断又は切開せずに、所定の深さに切り込みを入れるにとどめている。
【0037】
切り込み深さは、ちょうど脊柱2に達する程度が望ましい。
図3においては、切り込み深さLdは上椎体骨54に達していないが、上椎体骨54を切断する程度の深さまで切り込めば、加熱調理後に箸で魚体を割り開く際に、より割り開きやすくなる。
【0038】
切り込み深さLdは、魚種や魚体の大きさに応じて適切な深さとなるように調節・設定する必要がある。切り込み深さLdが浅過ぎると、調理後に箸で魚体を開きづらくなる。切り込みが多少浅くなれば、その分だけ調理後に魚体を箸で開きにくくはなるが、切り込み面を形成しない場合よりは容易に魚体を割り開くことができ、本発明の効果が失われるわけではない。
【0039】
逆に、切り込み深さLdが深過ぎると、干物加工工程の途中で魚体が切開され、いわゆる「開き」の状態になってしまう可能性がある。そうならない程度であれば、部分的に脊柱2を超える深さになってもよい。これによって、切り込み面が上椎体骨54や、肋骨53を切断し、さらには腹腔に達したとしても、本発明の効果等には影響しない。むしろ魚種や魚体の大きさによっては、腹腔に達するまで切り込んだ方が、本発明の効果がより発揮される場合もある。
【0040】
出願人においては、魚体各部において、図3に示す魚体各部の高さLの約3分の1程度を切り込み深さLdの目安としている。これは、通常、脊柱に達する程度の深さとなる。
魚種によっては、頭部の直ぐ後方で、脊柱2の位置が魚体の高さLに対し、相対的にやや高い位置にある場合もある。そのような場合には、上記目安に基づいて切り込むと、切り込み深さLdは、概ね、脊柱2を超える程度か、あるいはそれよりもやや深く、腹腔に達する程度となる。
【0041】
魚体背面側から切り込む切り込み面C2ないしC4は、魚体の左右両側に設けたならば、三枚おろしにした場合と同様な形状に箸で割り開くことも可能となるが、通常丸干し干物とする大きさの魚体ならば、片側だけに切り込み面を設ければ十分である。
【0042】
魚体背面側からの切り込み面を形成した丸干し干物では、これを加熱調理することで、筋肉を構成するたんぱく質が凝固し、筋肉と骨との境界面が剥離しやすくなる。その結果、切り込み面に箸を差し込んで開けば、容易に魚体を割り開くことができる。割り開いた魚体は、いわゆる背開きによる開き干物と同様な外観を呈する。
【0043】
本発明の第二の形態は、干物として加工する魚体の、魚体尾柄部の尾骨41前縁付近に、切り込み面を形成するものである。
【0044】
図4は、魚体尾柄部の尾骨41前縁付近に、切り込み面を形成した丸干し干物を図示したものである。図中、魚体左半面の尾柄部に描いた線C5は、切り込みによって形成される切り込み線を示したものである。
【0045】
魚体尾柄部の切り込みは、図4の切り込み線C5を目安として、魚体の左右片側又は両側において、魚体尾柄部表皮及び脊柱に対し略垂直に、脊柱2又は尾骨41前縁近くまで達する程度の深さに切り込んで形成する。この際、脊柱2及び尾骨41には切り込まない。
【0046】
丸干し干物等、魚を一尾ごと加熱調理して食べる際は、上身を食べ終えた後又は魚体を割り開いた後に、手指及び箸を用いて脊柱2(いわゆる背骨)を取り外す。魚体尾柄部においては、表皮及び筋肉と、尾鰭4の部分とが尾骨41前縁付近で比較的しっかりとつながっているため、この部分が箸で切り外しづらい場合は、脊柱2を取り外しにくくなる。そこで、請求項2記載の干物のように、魚体尾柄部に予め切り込み面を形成しておけば、脊柱を容易に取り外すことができる。
【0047】
開き干しによる干物の魚体尾柄部に切り込み面を形成する場合には、左右に開かれた半身のうち、脊柱が残っている半身側に切り込み面を形成すればよい。
【0048】
また、魚体背面側から切り込む切り込み面C2ないしC4と、魚体尾柄部における切り込み面とは、それぞれを魚体の左右両側に設けることもできるが、必ずしもそのようにする必要はない。
例えば、魚体の左半身に背面側からの切り込み面を設けたならば、箸で魚体を割り開いたとき、脊柱は魚体の右半身に付着している。そのため、脊柱を取り除きやすくするには、魚体尾柄部の切り込み面は、右半身のみに設けてあれば十分である。
【0049】
本発明の丸干し干物の対象となるのは、一般的に丸干し干物へと加工される、主として側扁型体形の魚であって、箸で身を解して食べる程度の大きさの魚である。もっとも、箸で身を解す必要のない程度に魚体が小さい魚や、切り身で提供される程度に魚体が大きい魚については、本発明を適用する必要がない。
具体的には、例えばイワシ、サンマ、サバ等といった、いわゆる青魚への本発明適用が可能であるが、魚種による制限があるものではない。
尾柄部に切り込み面を形成した開き干し干物の対象魚についても同様に、魚体の大きさや体形による本発明適用の可否ないし適否はあるとしても、対象魚種その他の制限はない。
【0050】
本発明の丸干し干物にあっても、内蔵をそのまま残すことができるため、通常の丸干し干物同様に、内臓を食べることもできる。
あるいは、例えば干物加工の下処理工程又は後処理工程において魚体腹部を切開し、内臓を除去することも可能である。さらには、いわゆる(フナの)包み焼きと同様に、内臓を除去した後の腹腔内に他の食材を詰めることも可能である。
【0051】
丸干し干物の製造過程において、本発明による切り込み面形成を下処理工程とする場合も、その後の丸干し加工工程、及び、それに続く後処理、冷凍、包装等の工程は、通常の丸干し干物の製造過程と何ら変わらない。
丸干し干物の製造過程において、本発明による切り込み面形成を下処理工程とし、その後に調味液浸透工程、丸干し加工工程を行えば、調味液が切り込み面から魚肉へと浸透しやすくなる。
【0052】
本発明における切り込み面形成を、包丁を用いて手作業により切り込むものとすれば、特殊な機械器具を要せず、容易に実施可能である。また、割裁機を用いて切り込むものとすれば、作業は容易となり、また、短時間で済むため、加工費用も抑えられるほか、材料の傷みも少ない。
【0053】
また、本発明の丸干し干物では、その切り込み面内に固形又はゲル状の調味料等を挟み込んで出荷することも考えられる。
【0054】
本発明の切り込み面形成工程は、干物製造過程において、味付けや乾燥等といった干物加工工程の後工程とすることも可能である。さらには、出荷前の冷凍工程等と、出荷製品の梱包工程との間に切り込み面形成工程を置くことも考えられないわけではない。
【実施例1】
【0055】
体長20cm程のマイワシの魚体左側に、図1に示す切り込み面を形成して加熱調理したところ、箸で容易に魚体を割り開くことができた。割り開いた魚体の形状は、いわゆる開き干物と変わるところがない。
【0056】
尾柄部において魚体右半身の表皮及び筋肉と、尾鰭とが、やや切り外しづらかったが、その部分を切り外せば、魚体の右半身に残った背骨(脊柱)は、尾鰭をつまんで持ち上げれば容易に外すことができた。そこで、魚体右半身の尾柄部において、表皮及び筋肉と、尾鰭との間に切り込みがあれば、さらに容易に背骨を取り外すことができるであろうと推測される。
【0057】
左半身には小骨が残ったままであったが、右半身のいわゆる小骨も背骨に付着しており、背骨を取り外す際に、これらの小骨も背骨と一緒に取り外すことができた。
【0058】
加熱調理後、内臓部分はドロドロの味噌状になる。消費者の好みにもよるが、この内臓部分を食べることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 頭骨
2 脊柱
3 背鰭
4 尾鰭
41 尾骨及び尾鰭条
51 担鰭骨
52 神経棘
53 肋骨
54 上椎体骨
6 臀鰭
C1 切り込み線
C2〜C4 切り込み面
C5 尾柄部切り込み線
図1
図2
図3
図4