(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の多層発泡シートについて詳細に説明する。
本発明の多層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層と、該発泡層の両面側に共押出により積層接着された帯電防止層とからなり、サンドイッチ構造を有するものである。さらに、該多層発泡シートの帯電防止層は、後述するように特定の配合の混合樹脂組成物から形成され、さらに該混合樹脂組成物が後述するモルフォロジーを形成していることにより、本発明の多層発泡シートは緩衝性を維持しつつも、全体としてコシが強くて取扱い性に優れ、帯電防止性に優れるものである。
【0011】
本発明の多層発泡シートの厚みは、0.05〜2mmである。前記したように、近年の基板用ガラス板の大型薄肉化を考慮すると、その上限は、1.5mmが好ましく、より好ましくは1.3mm、さらに好ましくは1.0mmである。一方、その下限は、より高い緩衝性を確保するために、0.07mmが好ましく、より好ましくは0.10mm、さらに好ましくは0.15mmである。
【0012】
また、該多層発泡シート全体の見掛け密度は、30kg/m
3以上であり、好ましくは35kg/m
3以上であり、より好ましくは40kg/m
3以上である。通常、該見掛け密度が低いほど剛性が低くなる傾向にある。これに対し本発明の多層発泡シートは、特定の帯電防止層を有するため、多層発泡シート全体が低い見掛け密度であっても剛性に優れたものとなる。緩衝性を考慮すると、該見掛け密度の上限は、300kg/m
3程度であり、好ましくは200kg/m
3である。
【0013】
また、該多層発泡シートの坪量は、取扱い性の観点から、その上限は、好ましくは200g/m
2であり、より好ましくは100g/m
2、さらに好ましくは50g/m
2、特に好ましくは30g/m
2である。一方、その下限は、好ましくは10g/m
2程度であり、より好ましくは20g/m
2である。
【0014】
本発明における多層発泡シート全体の厚みは、多層発泡シートの全幅に亘って幅方向に1cm間隔で測定される厚み(mm)の算術平均値である。
【0015】
本発明における多層発泡シートの見掛け密度(kg/m
3)は、多層発泡シートの全体坪量(g/m
2)を該多層発泡シートの厚み(mm)で除して、単位換算することにより得られる値である。
【0016】
また、本発明の多層発泡シートの幅は、大型のガラス板の包装に使用可能であることから、1000mm以上が好ましい。なお、その上限は概ね5000mmである。
【0017】
また、本発明の多層発泡シートの独立気泡率は発泡シートの緩衝性、被包装物の表面保護性、適切な滑り性などの観点から15%以上、更に20%以上が好ましい。
【0018】
前記独立気泡率は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、測定された多層発泡シート(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算する。なお、25mm×25mm×多層発泡シート厚みのサンプルを複数枚切り出して重ねることにより、25mm×25mm×約20mmの測定用カットサンプルとする。測定装置としては東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型などを使用することができる。
【0019】
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(Va−W/ρ) (1)
Vx:上記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm
3)であり、カットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の容積との和に相当する。
Va:測定に使用されたカットサンプルのカットサンプルの見かけ上の体積(cm
3)であり、カットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分及び連続気泡部分の気泡全容積との和に相当する。
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)。
ρ:多層発泡シートを脱泡して求められる樹脂の密度(g/cm
3)
【0020】
次に、本発明の多層発泡シートの発泡層を形成する樹脂について説明する。
該発泡層はポリエチレン系樹脂により形成されている。なお、該発泡層を形成するポリエチレン系樹脂と後述する帯電防止層を形成する混合樹脂組成物中のポリエチレン系樹脂とを区別するために、発泡層を形成するポリエチレン系樹脂をポリエチレン系樹脂Aともいい、該混合樹脂組成物を形成するポリエチレン系樹脂をポリエチレン系樹脂Bともいう。
【0021】
本発明において、ポリエチレン系樹脂とは、エチレン成分単位が50モル%以上の樹脂を意味する。ポリエチレン系樹脂としては、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)やこれらの混合物等が挙げられる。
ポリエチレン系樹脂Aとしては、発泡性に優れ、多層発泡シートがより緩衝性に優れたものとなることから、低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0022】
なお、発泡層には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、その他の合成樹脂やエラストマー、気泡調整剤、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤、収縮防止剤、無機充填剤等の添加剤を添加することができる。
【0023】
次に、本発明の多層発泡シートの帯電防止層について説明する。
該帯電防止層は、ポリエチレン系樹脂B、ポリスチレン系樹脂、高分子型帯電防止剤及びスチレン系エラストマーを含む混合樹脂組成物から形成されており、該混合樹脂組成物中においては、ポリエチレン系樹脂Bが連続相を形成し、ポリスチレン系樹脂及び高分子型帯電防止剤が該連続相中に分散する分散相を個別に形成している。該混合樹脂組成物においてポリエチレン系樹脂Bが連続相を形成しているので、該帯電防止層は、発泡層との接着性に優れたものとなる。また、ポリエチレン系樹脂よりも弾性率が高いポリスチレン系樹脂が、混合樹脂組成物中で分散相を形成していることから、本発明の多層発泡シートは、従来の発泡シートと異なり、厚みが薄くても剛性に優れコシが強いものとなる。さらに、高分子型帯電防止剤が分散相を形成していることにより、帯電防止層は優れた帯電防止性を発現し、帯電防止層が積層接着された多層発泡シートは、静電荷が蓄積しにくく、埃が付着しにくいものとなる。
【0024】
該ポリエチレン系樹脂Bは帯電防止層を構成する混合樹脂組成物中で連続相を形成している。連続相を形成させやすいことから、その融点は140℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下である。また、その下限は概ね80℃である。
なお、ポリエチレン系樹脂の融点は、JIS K7121−1987のプラチックの転移温度測定方法に基づき、試験片の状態調節として「(2)一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」を選択して測定される融解ピーク温度である。
【0025】
帯電防止層を構成するポリエチレン系樹脂Bと発泡層を構成するポリエチレン系樹脂Aとは、同じ種類のものを用いることが、共押出時に発泡層の気泡を破壊しにくく、さらに接着性に優れることから好ましい。但し、異なる種類の樹脂を用いることもできる。
【0026】
該樹脂層において前記モルフォロジーを形成させやすいことから、前記帯電防止層を構成する混合樹脂組成物中におけるポリエチレン系樹脂Bの含有量は、混合樹脂組成物全体の20〜80重量%であることが好ましく、40〜75重量%がより好ましく、50〜70重量%がさらに好ましい。
【0027】
該混合樹脂組成物を構成するポリスチレン系樹脂の例としては、例えば、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン−αメチルスチレン共重合体、スチレン−pメチルスチレン共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。これらの中でも、良好な帯電防止層が得られやすいことからポリスチレン又はゴム変性ポリスチレンが好ましい。
【0028】
該混合樹脂組成物がスチレン系エラストマーを含むことにより、帯電防止層の製膜性が向上するので、良好な帯電防止層を形成することができる。具体的には、製膜性を向上させることにより、片面当たりの坪量1〜10g/m
2の帯電防止層を共押出により発泡層に積層することができる。
更にスチレン系エラストマーは、混合樹脂組成物のモルフォロジーを制御することができる。具体的には、混合樹脂組成物がスチレン系エラストマーを含むことにより、ポリエチレン系樹脂の連続相中に、ポリスチレン系樹脂の分散相、および高分子型帯電防止剤の分散相が個別に分散するモルフォロジーを形成することができる。
【0029】
該スチレン系エラストマーを用いてポリエチレン系樹脂中にポリスチレン系樹脂および高分子型帯電防止剤を個別に分散させることにより、帯電防止層の剛性の向上と帯電防止性の発現とを両立することが可能となり、帯電防止性能を付与しつつ多層発泡シートのコシ強度を強くすることができる。なお、ポリスチレン系樹脂がポリエチレン系樹脂中に分散されている場合であっても、粒状に分散させるよりシートの平面方向に引き伸ばされた状態で分散させる方が、より強いコシ強度が得られる。
【0030】
本発明で用いられるスチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体などのスチレン−ジエン共重合体、これらの共重合体の部分水添物や完全水添物などが挙げられる。該共重合体はブロック共重合体であることが好ましい。該スチレン−ジエンブロック共重合体としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−エチレン‐ブチレン‐スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
また、スチレン系エラストマー中のスチレン成分の含有量が20〜50重量%であることがより好ましく、より好ましくは30〜45重量%である。
【0031】
該スチレン系エラストマーの、前記帯電防止層を構成する混合樹脂組成物中における含有量は、混合樹脂組成物全体の2〜20重量%であることが好ましい。該含有量の下限は、3重量%が好ましく、その上限は、15重量%が好ましく、より好ましくは10重量%である。該含有量が少なすぎると、所望される製膜性が得られないおそれがある。一方、該含有量が多すぎると、帯電防止層のコシ強度が低下するおそれがある。
【0032】
該混合樹脂組成物において前記モルフォロジーを形成させやすいことから、該混合樹脂組成物中におけるポリスチレン系樹脂の含有量は混合樹脂組成物全体の15〜50重量%であることが好ましく、20〜45重量%であることがより好ましい。
【0033】
前記帯電防止層を構成する混合樹脂組成物は、高分子型帯電防止剤を含有するものであり、高分子型帯電防止剤はポリエチレン系樹脂の連続相中に分散している。従って、多層発泡シートは帯電防止性能を示し、その表面抵抗率を好ましくは1×10
7〜1×10
14(Ω)にすることができ、より好ましくは1×10
7〜1×10
13Ωにすることができる。かかる範囲の表面抵抗率を有する多層発泡シートは、静電荷が蓄積しにくく、埃が付着しにくいものとなる。該高分子型帯電防止剤は、前記ポリスチレン系樹脂と同様に、連続相を形成するポリスチレン系樹脂中に該ポリスチレン系樹脂とは別個に分散しており、少量の配合量で十分な表面抵抗率を発現することができる。
【0034】
多層発泡シートの表面抵抗率は、JIS K6271(2001年)に準拠して測定される値である。すなわち、測定対象物である多層発泡シートから切り出した試験片(縦100mm×横100mm×厚み:測定対象物厚み)を温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下に24時間放置することにより試験片の状態調節を行い、印加電圧500Vの条件にて、試験片の表面層側に電圧印加を開始して1分経過後の表面抵抗率を測定する。
【0035】
該高分子型帯電防止剤は、表面抵抗率が1×10
12Ω未満、好ましくは1×10
11Ω未満、より好ましくは1×10
10Ω未満の樹脂からなるものである。具体的には、ポリエーテル、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルとポリオレフィンとのブロック共重合体、アイオノマー樹脂などである。これらの中でも、ポリエーテルとポリオレフィンとのブロック共重合体、アイオノマー樹脂がより好ましい。
【0036】
前記ブロック共重合体は、ポリオレフィンのブロックとポリエーテルのブロックとが、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、イミド結合などの結合を介して繰り返し交互に結合した構造を有するものが挙げられる。
【0037】
前記アイオノマー樹脂とは、エチレンと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などのカルボン酸との共重合体の金属塩架橋物であり、この金属塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、典型金属塩、または遷移金属塩等が挙げられる。
【0038】
このような高分子型帯電防止剤の具体例としては、例えば、ポリエーテルとポリオレフィンとのブロック共重合体として三洋化成工業株式会社製「ペレスタット300」、「ペレスタット230」、「ペレスタットHC250」、「ペレクトロンPVH」、「ペレクトロンPVL」、「ペレクトロンHS」など、アイオノマー樹脂として三井・デュポンポリケミカル株式会社製「エンティラSD100」、「エンティラMK400」などの商品名で市販されているものが挙げられる。
【0039】
該帯電防止層における高分子型帯電防止剤の含有量は、高分子型帯電防止剤自体の性能にもよるが、帯電防止層を構成する前記混合樹脂組成物全体の2〜30重量%が好ましく、より好ましくは3〜20重量%、更に好ましくは4〜15重量%、特に好ましくは5〜15重量%である。
また、発泡層に高分子型帯電防止剤を含有させることもできる。発泡層に高分子型帯電防止剤を含有させる場合には、押出時の発泡性と得られる多層発泡シートの帯電防止性能とのバランスの観点から、発泡層中の高分子型帯電防止剤の含有量は2〜15重量%であることが好ましく、より好ましくは3〜8重量%である。
【0040】
次に、本発明における帯電防止層を形成する混合樹脂組成物のモルフォロジーについて詳細に説明する。
該混合樹脂組成物中においては、ポリエチレン系樹脂が連続相を形成し、ポリスチレン系樹脂が分散相を形成し、高分子型帯電防止剤も分散相を形成している。即ち、ポリエチレン系樹脂が連続相を形成し、剛性に優れるポリスチレン系樹脂が分散相を形成していることから、本発明の多層発泡シートは、従来の発泡シートと異なり、厚みが薄くても、剛性に優れコシが強いものとなっている。そのため、該多層発泡シートは、真空吸引時の追従性等に優れており、厚みが薄い場合であっても、従来のものと同様に扱うことができる。また、ポリスチレン系樹脂とは別に永久帯電防止性に優れる高分子型帯電防止剤も分散相を形成している。そのため、該帯電防止層を有することにより、多層発泡シートは、帯電防止性を発現することができる。
【0041】
上記ポリスチレン系樹脂の分散相は、前記のごとく、多層発泡シートの平面方向に沿って引き伸ばされていることが好ましく、多層発泡シートの垂直断面において、アスペクト比(長辺方向長さ/短辺方向長さ)が3以上のポリスチレン系樹脂の分散相が含まれることがより好ましい。
【0042】
ポリスチレン系樹脂及び高分子型帯電防止剤が個別に分散している例を
図1に示す。なお、図中、1はポリエチレン系樹脂の連続相を、2はポリスチレン系樹脂の島状の分散相を、3は高分子型帯電防止剤の分散相をそれぞれ示す。なお、帯電防止層の混合樹脂組成物のモルフォロジーは、その断面を透過型電子顕微鏡などを用いて観察することによって確認することができる。
【0043】
本発明の多層発泡シートの片面あたりの帯電防止層の坪量は10g/m
2以下である。帯電防止層の坪量がこの範囲内であると、発泡層の緩衝性が損なわれないので多層発泡シートが十分な緩衝性を有するものとなる。かかる観点から、帯電防止層の坪量の上限は5g/m
2であることが好ましく、3g/m
2であることがより好ましく、2g/m
2であることがさらに好ましい。なお、薄いにもかかわらず破れた個所がなく良好な帯電防止層を形成するという観点からは、帯電防止層の坪量の下限は1g/m
2である。また、取扱い性の観点から、両面の帯電防止層の坪量を出来る限り等しくすることが好ましい。
本発明の多層発泡シートは、前記のごとく、帯電防止層の坪量が小さい場合であっても、該帯電防止層が特定の配合の混合樹脂組成物が特定のモルフォロジーを形成していることにより、十分な剛性を発現することができる。
【0044】
次に、本発明の多層発泡シートの製造方法について説明する。
本発明の多層発泡シートの製造方法としては、帯電防止層を形成する溶融樹脂と発泡層を形成する溶融樹脂とをダイ内にて合流積層して押出発泡する共押出発泡法が採用される。該共押出発泡方法は、帯電防止層の厚みを薄くできると共に、帯電防止層と発泡層との間の接着力が高い多層発泡シートを得ることができるので好ましい。
【0045】
共押出発泡法によりシート状の多層発泡シートを製造する方法には、共押出用フラットダイを用いてシート状に共押出発泡させてシート状の多層発泡シートとする方法と、共押出用環状ダイを用いて共押出発泡させて筒状の積層発泡体を得て、次いで該筒状発泡体を切り開いてシート状の多層発泡シートとする方法等がある。これらの中では、共押出用環状ダイを用いる方法が、幅が1000mm以上の幅広の多層発泡シートを容易に製造することができると共に、帯電防止層中のポリスチレン系樹脂の分散相をシートの平面方向に引き伸ばしやすくなるので、好ましい方法である。
【0046】
前記環状ダイを用いて共押出しする方法について以下に詳細に説明する。
まず、前記ポリエチレン系樹脂Aと、必要に応じて添加される気泡調整剤などの添加剤とを発泡層形成用押出機に供給し、加熱混練してから物理発泡剤を圧入し、さらに混練してポリエチレン系樹脂発泡層形成用樹脂溶融物とする。同時に、前記ポリエチレン系樹脂Bと、前記ポリスチレン系樹脂と、前記スチレン系エラストマー、前記高分子型帯電防止剤とを帯電防止層形成用押出機に供給し、加熱混練して帯電防止層形成用樹脂溶融物とする。次に、該発泡層形成用樹脂溶融物と該帯電防止層形成用樹脂溶融物を共押出用環状ダイに導入し、積層して共押出することにより多層発泡シートを製造する。
【0047】
なお、特に発泡性に優れることから、ポリエチレン系樹脂AのMFRは、0.5〜15g/10分であることが好ましい。また、共押出により帯電防止層を発泡層に積層するためには、ポリエチレン系樹脂BのMFRは、ポリエチレン系樹脂AのMFRと同じか、それ以上であることが好ましい。
【0048】
また、帯電防止層中で、ポリエチレン系樹脂を連続相とし、ポリスチレン系樹脂及び高分子型帯電防止剤を連続相中に分散する分散相とするには、前記したように、スチレン系エラストマーの配合によりモルフォロジーを制御することができる。さらに、ポリスチレン系樹脂として特定のメルトフローレイト(MFR)を有するものを用いることと、揮発性可塑剤の添加とを組合わせる方法を採用することが好ましい。
【0049】
ポリエチレン系樹脂Bのメルトフローレイト(MFR)は、共押出を行うことの容易さの観点から、5.0〜15g/10minであることが好ましく、より好ましくは6.0〜14g/10minである。
【0050】
前記帯電防止層の製膜性の観点から前記ポリスチレン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、5.0〜30g/10minが好ましい。
特に帯電防止層においてポリスチレン系樹脂の分散相をシートの平面方向に引き伸ばしやすいことから、5.0〜15g/10minであることが好ましく、より好ましくは6.0〜14g/10minである。さらに、ポリスチレン系樹脂のMFRが前記範囲内であると共に、ポリエチレン系樹脂BのMFRに対して0.5〜2倍程度であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5倍であり、さらに好ましくは0.5〜1倍である。
【0051】
帯電防止層を発泡層と共押出する際に、混合樹脂組成物の溶融物中でポリスチレン系樹脂が極めて微細に分散していると、押出時にポリエチレン系樹脂の連続相中でポリスチレン系樹脂が変形しにくくなり、ポリスチレン系樹脂の分散形状を維持して、粒状の分散相を形成しやすくなる。一方、ポリスチレン系樹脂のMFRが前記範囲であると、帯電防止層を薄膜に製膜できる範囲において、ポリスチレン系樹脂の分散径を大きくすることができ、その結果、共押出時にポリスチレン系樹脂がシートの平面方向に沿って引き伸ばされやすくなる。
【0052】
前記MFRは共に、JIS K7210−1999の条件H(200℃、荷重5kg)に基づき測定される値である。
【0053】
前記帯電防止層形成用樹脂溶融物には、ポリエチレン系樹脂の連続相を形成し、ポリスチレン系樹脂の分散相を形成し、更に前記高分子型帯電防止剤の分散相を形成するために、揮発性可塑剤が添加されていることが好ましい。揮発性可塑剤としては、樹脂溶融物の溶融粘度を低下させる機能を有すると共に帯電防止層形成後に、該帯電防止層より揮発して帯電防止層中に存在しなくなるものが用いられる。揮発性可塑剤を樹脂溶融物中に添加することにより、多層発泡シートを共押出しする際に、帯電防止層形成用樹脂溶融物の押出温度を発泡層形成用樹脂溶融物の押出温度に近づけることができると共に、軟化状態の帯電防止層の溶融伸びを著しく向上させることができる。そうすると、発泡時に帯電防止層の熱によって発泡シートの気泡が破壊されにくくなり、さらに該帯電防止層の伸びが発泡シートの発泡時の伸びに追随しやすくなる。特に、環状ダイを用いて円筒状に押出し、円筒状の発泡体を拡径(ブローアップ)しながら引き取って発泡シートを製造することにより、帯電防止層において、ポリスチレン系樹脂の分散相を、多層発泡シートの平面方向に引き伸ばして配向させて、剛性を向上させることができる。
【0054】
前記揮発性可塑剤としては、炭素数3〜7の脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、又は炭素数2〜8の脂肪族エーテルから選択される1種、或いは2種以上のものが好ましく用いられる。揮発性可塑剤の代わりに所謂、滑剤のように揮発性の低いものを用いた場合、該滑剤は帯電防止層に残存し、被包装体の表面を汚染することがある。これに対し揮発性可塑剤は、帯電防止層の樹脂を効率よく可塑化させ、得られる帯電防止層に揮発性可塑剤自体が残り難いという点から好ましいものである。
【0055】
揮発性可塑剤の沸点は、帯電防止層から揮発し易いことから、120℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下である。揮発性可塑剤の沸点が該範囲であれば、共押出しした後、得られた多層発泡シートを放置しておけば、共押出し直後の熱や、更に後の室温下でのガス透過により、揮発性可塑剤は帯電防止層から自然に揮散して除去される。該揮発性可塑剤の沸点の下限値は、概ね−50℃である。
【0056】
揮発性可塑剤は、帯電防止層形成用のポリエチレン樹脂Bとポリスチレン系樹脂と、スチレン系エラストマーと、高分子型帯電防止剤との合計100重量部に対して5重量部〜50重量部となるように添加することが好ましい。
【0057】
また、帯電防止層形成用樹脂溶融物には、本発明の目的を阻害しない範囲において該溶融物を形成する樹脂に各種の添加剤を添加してもよい。各種の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、充填剤、抗菌剤等が挙げられる。その場合の添加量は添加剤の目的、効果に応じて適宜定められるが、前記混合樹脂組成物100重量部に対して各々10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が特に好ましい。
【0058】
前記発泡層形成用樹脂溶融物に添加される物理発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等の有機系物理発泡剤、窒素、二酸化炭素、空気、水等の無機系物理発泡剤が挙げられる。場合によっては、アゾジカルボンアミド等の分解型発泡剤を使用することもできる。前記した物理発泡剤は、2種以上を混合して併用することが可能である。これらのうち、特にポリエチレン樹脂との相溶性、発泡性の観点から有機系物理発泡剤が好ましく、中でもノルマルブタン、イソブタン、又はこれらの混合物を主成分とするものが好適である。
【0059】
物理発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする見掛け密度に応じて調整する。また気泡調整剤の添加量は、目的とする気泡径に応じて調節する。例えば、発泡剤としてイソブタン30重量%とノルマルブタン70重量%とのブタン混合物を用いて前記見掛け密度範囲の多層発泡シートを得るためには、ブタン混合物の添加量は、基材樹脂100重量部当たり3〜30重量部、好ましくは4〜20重量部、より好ましくは6〜18重量部である。
【0060】
前記発泡層形成用樹脂溶融物に添加される添加剤の主要なものとして、通常、気泡調整剤が添加される。気泡調整剤としては有機系のもの、無機系のもののいずれも使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。また有機系気泡調整剤としては、リン酸−2,2−メチレンビス(4,6−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。またクエン酸と重炭酸ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と重炭酸ナトリウム等を組み合わせたもの等も気泡調整剤として用いることができる。これらの気泡調整剤は2種以上を混合して用いることもできる。
なお、気泡調整剤の添加量は、基材樹脂100重量部当たり0.01〜3重量部、好ましくは0.03〜1重量部である。
【0061】
前記環状ダイ、押出機等の製造装置は、従来押出発泡の分野で用いられてきた公知のものを用いることができる。
【0062】
本発明の多層発泡シートは、十分な緩衝性とコシ強度を有するので、ガラス板用の間紙として好適に使用できるものである。但し、該多層発泡シートの用途は、ガラス板用の間紙に限定されるものではなく、該多層発泡シートは精密機器用の包装材等としても好適に広く使用できるものである。
【実施例1】
【0063】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例、比較例において使用した、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂を表1に、高分子型帯電防止剤、スチレン系エラストマーを表2に示す。なお、表1中のメルトフローレートは、JIS K7210−1999に基づき、条件H(200℃、荷重5kg)で測定された値である。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
物理発泡剤及び揮発性可塑剤として、ノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%とからなる混合ブタンを用いた。
【0068】
気泡調整剤として、低密度ポリエチレン80重量%に対してタルク(松村産業株式会社製商品名「ハイフィラー#12」)を20重量%配合してなる気泡調整剤マスターバッチを用いた。
【0069】
ポリエチレン樹脂発泡層形成用の押出機として、直径90mmの第一押出機と直径120mm第二押出機からなるタンデム押出機を用い、帯電防止層形成用の押出機として直径50mm、L/D=50の第三押出機を用いた。更に、共押出用環状ダイに、第二押出機と第三押出機の夫々の出口を連結し、夫々の溶融樹脂を共押出用環状ダイ内で積層可能にした。
【0070】
実施例1〜5、比較例1〜4
表3に示す量のポリエチレン樹脂と、表3に示す量の気泡調整剤となるようなマスターバッチとをタンデム押出機の第一押出機の原料投入口に供給し、加熱混練し、約200℃に調整された溶融樹脂混合物とした。次に、該溶融樹脂混合物に、表3に示す量の発泡剤としての混合ブタンを圧入し、次いで前記第一押出機の下流側に連結された第二押出機に移送して、表3に示す押出樹脂温度に温調して発泡層形成用樹脂溶融物とし、該発泡層形成用樹脂溶融物を表3に示す吐出量で前記の共押出用環状ダイに導入した。
【0071】
同時に、表3に示す配合のポリエチレン樹脂とポリスチレン系樹脂と高分子型帯電防止剤とスチレン系エラストマーを第三押出機に供給して加熱混練し、揮発性可塑剤として表3に示す量の前記混合ブタンを圧入し、更に混練し、表3に示す押出樹脂温度に調節して帯電防止層形成用樹脂溶融物とし、該帯電防止層形成用樹脂溶融物を表3に示す吐出量で共押出用環状ダイに導入した。
【0072】
共押出用環状ダイに導入されてダイ内の樹脂流路を筒状に流動する発泡層形成用樹脂溶融物の外側と内側に、共押出用環状ダイに導入された帯電防止層形成用樹脂溶融物を合流積層し、溶融物の積層体をリップ径135mmのダイから大気中に押出して、帯電防止層/発泡層/帯電防止層からなる3層構成の筒状積層発泡体を形成した。実施例1〜3、比較例1、2においては、押出された筒状積層発泡体を拡径(ブローアップ比3.47)して引き取りながら押出方向に沿って切開いて、ロール状に巻き取って、幅1400mmの多層発泡シートを得た。また、実施例4、5、比較例3、4においては、押出された筒状積層発泡体を拡径(ブローアップ比2.85)して引き取りながら押出方向に沿って切開いて、ロール状に巻き取って、幅1150mmの多層発泡シートを得た。
なお、比較例2においては、帯電防止層にポリスチレン系樹脂が配合されているがスチレン系エラストマーが配合されていないため、帯電防止層の製膜性が悪く、得られた多層発泡シートの表面は荒れていた。
【0073】
【表3】
【0074】
実施例及び比較例にて得られた多層発泡シートの諸物性を表4に示す。
【0075】
実施例で得られた多層発泡シートにつき、帯電防止層における混合樹脂組成物のモルフォロジーを以下の方法により観察した。まず、多層発泡シートから帯電防止層を含む試験片を切り出した。該試験片を四酸化ルテニウムにより染色した後、多層発泡シートの押出方向に沿ってスライスして超薄切片とし、該超薄切片を日立製透過型電子顕微鏡(H−7100)を用いて、加速電圧100kVの条件にて観察した。
実施例1で得られた多層発泡シートの帯電防止層の垂直断面の透過型電子顕微鏡写真を
図1及び
図2に実施例2で得られた多層発泡シートの帯電防止層の垂直断面の透過型電子顕微鏡写真を
図3及び図4に示す。
図1〜
図4において、ポリエチレン系樹脂(PE)1が連続相(海)を形成し、ポリスチレン系樹脂(PS)2がポリエチレン系樹脂1の連続相中に分散する分散相(島)を形成すると共に、高分子型帯電防止剤(帯防)3もポリエチレン系樹脂1の連続相中に分散する分散相(島)を形成しているモルフォロジー(海/島/島)が確認された。スチレン系エラストマー4は、主に、ポリエチレン系樹脂1とポリスチレン系樹脂2との界面に存在していた。また、ポリスチレン系樹脂2の大部分が多層発泡シートの平面方向に引き伸ばされて配向したアスペクト比3以上の分散相を形成していた。なお、実施例3〜5で得られた多層発泡シートにおいても、同様なモルフォロジーが確認された。
【0076】
【表4】
【0077】
表4における多層発泡シートの厚みの測定は、前記の方法で行った(n=5)。
多層発泡シートの全体坪量は、ロールから巻き出した多層発泡シートからシートの全幅に亘って10cmの幅の試験片を切り出し、シートの全幅×10cmにて試験片の重量を割算することにより求めた(n=5)。
また、帯電防止層の坪量は、前記全体坪量をもとに、発泡層と帯電防止層との吐出量の比から求めた。
多層発泡シートの見掛け密度は、多層発泡シートの全体坪量を多層発泡シートの厚みで割算し、単位換算することにより求めた。
【0078】
表4中の製膜性の評価は次に示す基準で行った。
○:得られた多層発泡シートの帯電防止層に破れ無し
×:得られた多層発泡シートの帯電防止層に破れ有り
【0079】
表4中の垂れ曲り量の測定は次のように行った。
(水平垂れ下がり量)
得られたシートの押出方向と試験片の長さ方向とを一致させて、多層発泡シートの無作為に選択した10箇所から幅100mm×長さ200mmの測定用試験片をそれぞれ10枚切り出した。得られた試験片を水平な土台上に土台の端から水平方向に試験片の長さ方向を100mm突出させた状態で乗せて固定し、土台上面から垂れ下がった試験片の最下部までの垂直方向の距離を測定した。この測定を各試験片に対して行い、各測定値の算術平均値を水平垂れ下がり量とした。
(60°傾斜垂れ下がり量)
得られたシートの押出方向と試験片の長さ方向とを一致させて、多層発泡シートの無作為に選択した10箇所から幅200mm×長さ200mmの測定用試験片をそれぞれ10枚切り出した。得られた試験片を水平面より上方に60°傾斜させた土台の土台面上に土台の上端から土台面を真直ぐに延長した方向に試験片の長さ方向を100mm突出させた状態で乗せて固定し、垂れ下がった試験片の遊離先端から、土台面を真直ぐに延長した仮想面までの土台面と直交する方向の距離を測定した。この測定を各試験片に対して行い、各測定値の算術平均値を60°傾斜垂れ下がり量とした。
【0080】
多層発泡シートの帯電防止性能の評価は次のように行った。
前記のとおり、JIS K6271(2001年)に準拠して多層発泡シートの表面抵抗率を測定した。なお、測定サンプルの両面側の表面抵抗率を測定し、それらの算術平均値を多層発泡シートの表面抵抗率とした。