(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6614733
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】アルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤及びその洗浄剤を使用した洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/72 20060101AFI20191125BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20191125BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20191125BHJP
B08B 9/032 20060101ALI20191125BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
B29C33/72
C11D7/32
B08B3/04 Z
B08B9/032 321
C11D17/08
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-74014(P2019-74014)
(22)【出願日】2019年4月9日
【審査請求日】2019年4月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310014148
【氏名又は名称】株式会社二幸技研
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100218822
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 一臣
(72)【発明者】
【氏名】秀倉 健太
(72)【発明者】
【氏名】高藤 恵
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−113930(JP,A)
【文献】
特開平08−244040(JP,A)
【文献】
特開平02−060727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−アルキル−2−ピロリドン及びω−ラクタムを含む混合物からなる液体であって、
N−アルキル−2−ピロリドンが、N−メチル−2−ピロリドン又は/及びN−エチル−2−ピロリドンである、
ことを特徴とするアルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤。
【請求項2】
アルカリ重合ナイロンの原料残液又は/及び原料残渣物が付着したアルカリ重合ナイロン製造装置用の洗浄剤であって、
N−メチル−2−ピロリドン又は/及びN−エチル−2−ピロリドンからなる、
ことを特徴とするアルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤。
【請求項3】
請求項1記載のアルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤において、
ω−ラクタムの量が60重量%以下である、
ことを特徴とするアルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤。
【請求項4】
アルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄方法において、
アルカリ重合ナイロン製造装置は、少なくとも原料タンク、計量ポンプ、送液配管及び混合機を備え、
前記原料タンクに請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤を投入し、原料タンク内で混合撹拌後、原料タンク内の洗浄剤を含む洗浄物全量を、計量ポンプ、送液配管を通して混合機に送り、混合機から吐出し、その後、原料タンクに加圧窒素ガスを導入し、窒素ガスは原料タンクから、計量ポンプ、送液配管、混合機を通り、噴出する、
ことを特徴とするアルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄方法。
【請求項5】
アルカリ重合ナイロン製造装置の撹拌タンクの洗浄方法において、
アルカリ重合ナイロン製造装置は少なくとも原料タンク、計量ポンプ、送液配管、混合機及び撹拌タンクを備え、
前記撹拌タンクから原料混合物を吐出し、吐出バルブを閉じた後、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤を撹拌タンクに投入し、撹拌タンク内で所定時間撹拌し、その後、撹拌タンク内の洗浄剤を含む洗浄物を吐出し、吐出バルブを閉じ、撹拌タンクに加圧窒素ガスを導入、噴出する、
ことを特徴とするアルカリ重合ナイロン製造装置の撹拌タンクの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄に使用される洗浄剤及びその洗浄剤を使用した当該装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ω−ラクタムをアルカリ触媒と開始剤との作用で重合させてナイロンを製造する方法は、ω−ラクタムのアルカリ重合法として知られている。ω−ラクタムのアルカリ重合法で製造されるナイロン(以下、「アルカリ重合ナイロン」という。)の製造に使用される製造装置として、二つの原料タンクと、それぞれの原料タンク内の原料を吸引して計量する計量手段(計量ポンプ)と、それら計量手段から供給される原料を混合する撹拌混合機と、撹拌混合された原料を注入する成形型を備えたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
前記製造装置の二つの原料タンクのうちの一つの原料タンクには、実質的に無水のω−ラクタムと所定量のアルカリ触媒を含む成分(A成分)が、他の原料タンクには、実質的に無水のω−ラクタムと所定量の開始剤を含む成分(B成分)が撹拌下に保温保持される。アルカリ重合ナイロン製造の際、A成分、B成分は夫々の計量ポンプで計量され、夫々の送液配管を通って撹拌混合機に供給され、混合される。撹拌混合機は着色剤、強化材等の添加剤が使用される場合、混合機と撹拌タンクで構成され、混合機でA成分とB成分を混合した後、A、B成分混合物は撹拌タンクに供給され、撹拌タンク内でA、B成分混合物及び添加剤を含む原料混合物は撹拌混合後、吐出され、成形型に注入される。
【0004】
アルカリ重合ナイロン製造装置の運転では、運転後に原料タンク、計量ポンプ、送液配管、混合機、撹拌タンクの各箇所に原料の残液が残るため、適宜、洗浄が必要となる。原料タンク、計量ポンプ、送液配管、混合機は、触媒、開始剤の残渣等が徐々に蓄積されるため、定期的に洗浄される。撹拌タンクは、原料混合物を混合撹拌するため、原料混合物吐出後、A成分、B成分の混合により生成する重合初期生成物や添加剤等が付着物として撹拌タンク内壁面や撹拌翼に残る。これらの付着物は製造されるアルカリ重合ナイロン不良の原因となるため、アルカリ重合ナイロン製造毎に、撹拌タンクの洗浄が必要となる。
【0005】
従来、アルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄に関しては、原料タンク、計量ポンプ、送液配管及び混合機等は、先ず、窒素ガスでブローした後、実質的に無水のω−ラクタムで洗浄する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、毎回、洗浄を必要とする撹拌タンクの洗浄に関する記載はない。又、特許文献2に記載されている、洗浄に使用されるω−ラクタムは、融点の低いα−ピペリドンでも、常温では固体であり、使用に先立ちω−ラクタムを溶融し、使用時まで溶融状態で保温保持するため、溶融設備や溶融作業が必要であった。また、製造装置の運転開始時は、装置内各箇所に洗浄液ω−ラクタムが凝固付着しており、運転開始に時間が必要である。また、洗浄作業開始時に洗浄液のω−ラクタムが製造装置内で固化することがある等の課題もあった。撹拌タンクをω−ラクタムで洗浄する場合、重合初期生成物や添加剤等の付着物は、ω−ラクタム洗浄1回では不十分なことがあり、繰返しの洗浄が必要となることがあり、洗浄時間が長くなり、作業性が悪いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−165802号公報
【特許文献2】特開2002−103344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題は、前記問題の解決された洗浄剤及び洗浄方法、即ち、溶融や保温保持等が不要であり、洗浄作業開始時に洗浄剤が固化することがなく、洗浄作業の容易な、アルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤及び洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題解決のため、鋭意検討した結果、N−アルキル−2−ピロリドン単独あるいはN−アルキル−2−ピロリドン及びω−ラクタムを含む混合物は、常温で低粘度の液体であり、アルカリ重合ナイロン製造装置や洗浄の困難な撹拌タンクも、1回の洗浄作業で洗浄可能なことを見出し、本発明のアルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤(以下、「本洗浄剤」という。)に到達した。
【0009】
[アルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤]
本洗浄剤(以下、単に「洗浄剤」ということもある。)は、N−アルキル−2−ピロリドン単独あるいはN−アルキル−2−ピロリドン及びω−ラクタムを含む混合物からなる液体である。N−アルキル−2−ピロリドン及びω−ラクタムを含む混合物における、ω−ラクタムの量は60重量%以下、好ましくは1〜40重量%が適する。ωーラクタムの量が60重量%より多くなると、室温保存時に部分的に凝固することがある。
【0010】
[アルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄方法]
本発明のアルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄方法(以下、単に「洗浄方法」ということもある。)は、当該製造装置の二つの原料タンクそれぞれに本洗浄剤を投入し、混合撹拌後、それぞれの計量ポンプ、送液配管を通して、夫々の原料タンク内の残液を含む本洗浄剤全量を混合機に送り、混合機から吐出し、その後、二つの原料タンクに加圧窒素ガスを導入、窒素ガスはそれぞれの計量ポンプ、配管、混合機に送られ、混合機から噴出させる方法で行われる。加圧窒素ガスの導入、噴出の操作を2回以上繰り返すと洗浄効果は高くなる。
【0011】
[撹拌タンクの洗浄方法]
毎回の洗浄が必要な撹拌タンクの洗浄方法は、アルカリ重合ナイロンの製造で、撹拌タンクから原料混合物を吐出、吐出バルブを閉じた後、当該撹拌タンクに本洗浄剤を投入し、所定時間撹拌する。その後、撹拌タンク内の付着物を含む洗浄物を吐出し、吐出バルブを閉じてから、撹拌タンクに加圧窒素ガスを導入し、吐出バルブを開き、窒素ガスと残液を噴出する方法で行われる。この洗浄方法では、本洗浄剤1回の撹拌タンクへの投入で洗浄が可能であるが、加圧窒素ガスの導入、噴出の操作を2回以上繰り返すと洗浄効果は高くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の洗浄剤は常温で低粘度液体であるため、次のような効果がある。
(1)使用にあたり、溶融及び保温保持用の設備や作業が不要である。
(2)アルカリ重合ナイロン製造時の重合反応を阻害しない。
【0013】
本発明の洗浄方法は本発明の前記洗浄剤を使用するため次のような効果がある。
(1)洗浄作業終了後、製造装置の温度低下後、製造装置に凝固成分が残らない。
(2)洗浄装置に洗浄剤が凝固することがなく、作業性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の洗浄剤で洗浄されるアルカリ重合ナイロン製造装置の一例を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(洗浄剤の実施形態)
本洗浄剤は、N−アルキル−2−ピロリドン単独あるいはN−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムを含む混合物からなる。いずれも低粘度の液体である。
【0016】
[N−アルキル−2−ピロリドン]
本洗浄剤で使用されるN−アルキル−2−ピロリドンは、ω−ラクタムのアルカリ重合反応を阻害しない化合物であり、アルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄剤材料として適している。N−アルキル−2−ピロリドンの具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、N−ペンチル−2−ピロリドン等がある。これらは単独で使用しても良く、混合して使用しても良い。これらの中では、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンが好ましい。N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンは共に、25℃の粘度5mPa・s以下の液体であり、室温でも、溶融されたω−ラクタムと同等以上の洗浄効果を有する。
【0017】
[ω−ラクタム]
本洗浄剤で使用されるω−ラクタムは、N−アルキル−2−ピロリドンと混合して、常温で液体となるω−ラクタムである。具体例としては、α−ピロリドン、ε−カプロラクタムがある。α−ピロリドン、ε−カプロラクタムは、単独で使用しても良く、混合して使用しても良い。ω−ラクタムは製造装置内に残った付着物との親和性があり、本洗浄剤はω−ラクタムとN−アルキル−2−ピロリドンとを混合することにより、N−アルキル−2−ピロリドン単独あるいはω−ラクタム単独の場合より、洗浄効果が高くなることがある。N−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムを含む混合物からなる本洗浄剤は25℃で、100mPa・s以下、殆どは20mPa・s以下である。
【0018】
N−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムとを混合する場合、混合比率により、両者を均一に混合分散することが難しくなることがある。両者を均一に混合分散させるため、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤の添加により、両者の混合分散は良くなる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく使用される。非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ポリエチレングリコール等がある。これらの中では、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールは、室温でN−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムとを容易に混合分散させるため、好ましく使用される。本洗浄剤中での界面活性剤の使用量は、0.5〜10重量%、好ましくは、1〜5重量%である。界面活性剤の使用量が、前記下限(0.5重量%)より少ない場合、N−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムとの混合分散性の改良が難しくなることがある。前記上限(10重量%)より多い場合、N−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムとの混合分散に変わりがなく、また、両者の混合液による洗浄効果に変わりがないため、これ以上使用する必要がない。
【0019】
[洗浄剤の調整]
本洗浄剤がN−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムを含む場合、以下の方法で調整される。N−アルキル−2−ピロリドンとしてN―メチル−2−ピロリドンを、ω−ラクタムとしてε−カプロラクタムを使用した例で説明する。
【0020】
N−メチル−2−ピロリドン及びε−カプロラクタムは実質的に無水のものが使用される。撹拌機付きの容器に所定量のN−メチル−2−ピロリドンを入れ、室温〜100℃、好ましくは、25〜80℃の温度範囲で、撹拌下に所定量のε−カプロラクタム及び必要に応じて、非イオン性界面活性剤を加え、5〜30分間撹拌することにより、本洗浄剤は調整できる。N−アルキル−2−ピロリドンとω−ラクタムとを含む本洗浄剤中のω−ラクタムの量は60重量%以下、好ましくは、1〜40重量%である。ω−ラクタムの量が60重量%より多くなると、ω−ラクタムとN−アルキル−2−ピロリドンとを含む混合物が固体化することがある。ε−カプロラクタムは、常温で固体である。本洗浄剤調整では、フレーク状や粉末状等、固体状態のε−カプロラクタムを使用できるが、N−アルキル−2−ピロリドン中に加えた際、液体状態になるまでに時間を要するため、70〜100℃の溶融したε−カプロラクタムを使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤の添加時期は、本洗浄剤調整中であれば、いつでも良いが、ε−カプロラクタムを加える前に添加することが好ましい。
【0021】
[アルカリ重合ナイロンの製造]
アルカリ重合ナイロンは、ω−ラクタムをアルカリ触媒及び開始剤の作用で重合させる公知のω−ラクタムのアルカリ重合法により製造される。ω−ラクタムとしては、α−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ω−カプリロラクラム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。これらの中では、ε−カプロラクタムが好ましく使用される。
【0022】
[アルカリ触媒]
アルカリ触媒としては、ω−ラクタムのアルカリ重合法において使用される公知のアルカリ触媒が使用できる。具体例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、これらの水素化物、酸化物、アルキル化物、アルコキシド、グリニャール試薬、更に、上記の金属又は金属化合物とω−ラクタムとの反応生成物、例えば、ω−ラクタムのナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。好ましいアルカリ触媒はω−ラクタムのナトリウム塩、ω−ラクタムのカリウム塩である。アルカリ触媒の使用量はω−ラクタム1モルに対して、0.2〜5モル%、好ましくは0.5〜3モル%である。アルカリ触媒が、前記下限(0.2モル%)より少ないと重合反応速度が遅くなり、また、前記上限(5モル%)より多いと、ω−ラクタムとアルカリ触媒との混合液中に低分子量物が生成することがあり、低分子量物は、重合反応を不安定にする。また、この低分子量物が蓄積すると製造装置運転トラブルの原因となるため、製造装置の洗浄が必要となる。尚、ε−カプロラクタムに所定量のω−ラクタムのアルカリ金属が配合された、Addonyl(登録商標)Kat NL(Rheln Chemie Rheinau GmbH製)や3NI−NYLON KW SERIES KW−100B((株)二幸技研製)も使用できる。
【0023】
[開始剤]
開始剤としては、ω−ラクタムのアルカリ重合法において使用される公知の開始剤が使用できる。具体例としては、イソシアネート化合物、カルバミドラクタム化合物、酸クロライド化合物、アシルラクタム等が挙げられるが、好ましい開始剤は、イソシアネート化合物である。イソシアネート化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート3量体(旭化成株式会社、登録商標デュラネート)やこれらイソシアネート化合物とω−ラクタムとの反応物である。これらの中では、ヘキサメチレンジイソシアネート3量体とω−ラクタムとの反応物、トリカルバミドラクタム化合物が好ましく使用される。開始剤の使用量はアルカリ触媒1モルに対して、0.1〜1.5モル、好ましくは、0.2〜1.0モルである。使用量が上記下限(0.1モル)より少ない場合、また、上記上限(1.5モル)より多い場合、いずれの場合も重合速度が遅くなる。なお、ε−カプロラクタムに所定量の開始剤が配合された3NI−NYLON KW SERIES KW−100A((株)二幸技研製)も使用できる。
【0024】
[添加剤]
アルカリ重合ナイロンの製造の際、重合反応を阻害しない顔料や染料などの着色剤、ミルドグラス、ガラス繊維、繊維状マグネシウム化合物、チタン酸カリウム繊維、グラファイト繊維、ボロン繊維、炭素繊維、スチール繊維等の繊維、炭酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、黒鉛、石膏、長石、雲母、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の充填剤、各種柔軟材等の添加剤を使用することができる。着色剤の使用量はω−ラクタムに対して0.05〜3重量%である。繊維、充填剤、柔軟材等の添加剤の使用量は、ω−ラクタムに対して5〜30重量%である。
【0025】
アルカリ重合ナイロンは、一例として、
図1の製造装置を使用して製造される。
図1のA成分タンク1にε−カプロラクタムと所定量のωーラクタムのアルカリ金属塩が配合された3NI−NYLON KW SERIES KW−100B((株)二幸技研製)(A成分)を入れ、B成分タンク2にε−カプロラクタムと所定量の開始剤が配合された3NI−NYLON KW SERIES KW−100A(B成分)を入れ、不活性ガス雰囲気下、撹拌下に90〜130℃の温度で温調保持する。アルカリ重合ナイロン製造の際、A成分、B成分それぞれがA成分計量ポンプ3、B成分計量ポンプ4で必要量が計量され、A成分送液配管5、B成分送液配管6を通り、混合機7に送られ、A成分、B成分は混合された後、撹拌タンク8に送られる。撹拌タンク8には少なくとも混合されたA成分とB成分(以下、「A、B成分混合物」という。)の入口9、洗浄剤入口10、窒素ガス入口11及び添加剤入口12が設けられている。着色剤、繊維、充填剤等の添加剤は、A、B成分混合物が送られる前に撹拌タンク8に投入される。撹拌タンク8で撹拌混合された原料混合物(A、B成分混合物及び添加物等)は、吐出、所定温度に加熱された成形型に注入され、撹拌タンク8の吐出バルブ13が閉じる。原料混合物は成形型14内で重合固化し、アルカリ重合ナイロンは製造される。
【0026】
(洗浄方法の実施形態)
[アルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄]
アルカリ重合ナイロンを製造すると、A成分タンク1にはアルカリ触媒に起因するオリゴマーが徐々に蓄積され、B成分タンク2には開始剤に起因する生成物が徐々に蓄積される。蓄積された量が多くなると、製造装置運転トラブルが発生する。そのため、原料タンク、計量ポンプ、送液配管及び混合機等は、定期的な洗浄が必要となる。
【0027】
以下、本洗浄剤を使用したアルカリ重合ナイロン製造装置の原料タンク、計量ポンプ、送液配管及び混合機等の定期洗浄の方法を
図1により説明する。A成分タンク1、B成分タンク2にそれぞれ本洗浄剤を入れ、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら、5〜10分間保持する。本洗浄剤の投入量は、A成分タンク1やB成分タンク2に投入された原料の量と同程度以上であれば良い。洗浄時の各機器の温度は常温でも良いが40〜110℃に加熱した方が洗浄効果は高くなる。その後、A成分タンク1やB成分タンク2内の残液や蓄積物を含む洗浄物全量は、それぞれの計量ポンプ3、4により排出され、計量ポンプ3、4、送液配管5、6、混合機7を洗浄して、吐出される。その後、A成分タンク1、B成分タンク2に加圧窒素ガスを導入、窒素ガスはそれぞれの計量ポンプ3、4、送液配管5、6、混合機7中の洗浄残液と共に噴出され、洗浄工程が終了する。
【0028】
加圧窒素ガスの導入、噴出の操作は2回以上繰り返すことが好ましい。加圧窒素ガスの圧力は0.5MPaあれば十分である。A成分タンク1、B成分タンク2、計量ポンプ3、4、送液配管5、6、混合機7はいずれも60〜130℃の温度範囲に温調保持されていることが好ましい。本洗浄剤及び窒素ガスの投入は、製造装置の成形運転操作プログラムに組み込まれた自動操作で行うこともできる。また、手動操作で行うこともできる。
【0029】
[撹拌タンクの洗浄]
撹拌タンク8ではA、B成分混合物及び各種添加剤が所定時間、混合撹拌される。重合反応はA成分、B成分の混合で開始するため、A、B成分混合物には重合初期生成物が含まれる。撹拌タンク8から原料混合物を吐出した際、撹拌タンク8内の原料混合物を全て吐出することはできず、重合初期生成物や添加剤の一部が撹拌タンク8の内壁や撹拌翼に付着して残る。これら重合初期生成物や添加剤はアルカリ重合ナイロン製造のトラブルの原因となる。そのため、撹拌タンク8は原料混合物吐出後、毎回、洗浄が必要となる。
【0030】
以下、本洗浄剤を使用した撹拌タンク8の洗浄方法を説明する。撹拌タンク8から原料混合物が吐出され、吐出バルブ13が閉じると、直ちに、洗浄剤入口10から本洗浄剤が投入され、撹拌下に撹拌タンク8内の付着物が洗浄される。所定時間、撹拌後、撹拌タンク8内の付着物を含む洗浄物は吐出口から排出され、吐出バルブ13が閉じる。直ちに、窒素ガス入口11から加圧窒素ガスが導入され、吐出バルブ13が開き、窒素ガスは排出される。窒素ガス導入、排出の操作は1回でも良いが、2、3回繰り返すことが好ましい。通常、本洗浄剤による撹拌タンク8の洗浄は、本洗浄剤の投入、排出の操作1回と窒素ガスの導入、排出の1回以上の操作で、撹拌タンク8内の付着物はほぼ除去される。本洗浄剤及び窒素ガスの投入は、製造装置の成形運転操作プログラムに組み込まれた自動操作で行うこともできる。また、手動操作で行うこともできる。
【0031】
撹拌タンク8への本洗浄剤の投入量は、撹拌タンク8で混合撹拌される原料混合物(A、B成分混合物及び必要に応じて使用される添加剤)の量と同量以上であれば良い。洗浄時間は通常、5〜20分間である。洗浄時の撹拌タンク8の好ましい温度は40〜110℃である。本洗浄剤及び窒素ガスの投入は、製造装置の成形運転操作プログラムに組み込まれた自動操作で行うこともできる。また、手動操作で行うこともできる。なお、本洗浄剤は、撹拌タンク8だけでなく、定期点検や緊急時に実施するA成分タンク1、B成分タンク2、計量ポンプ3、4、送液配管5、6、混合機7の洗浄にも使用できる。
【0032】
アルカリ重合ナイロンの製造に使用される成形型は鉄、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム等の金属製型や、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂製型が使用できる。A成分、B成分、添加剤を含む混合物を注入する際、成形型14は120〜200℃、好ましくは、130〜180℃の温度に加熱される。成形型14の温度が前記下限(120℃)より低いと、十分に重合反応が進まないことがある。前記上限(200℃)より高いと、得られるアルカリ重合ナイロンの一部が溶融することがあり、アルカリ重合ナイロンの機械的強度等の特性が低下することがある。
【0033】
以下、本洗浄剤及び洗浄方法について、実施例、比較例を用いて説明する。実施例、比較例で使用する洗浄剤の粘度は東機産業株式会社製TVC−10形粘度計を使用し、25℃で測定した。撹拌タンク8内の洗浄状態は、撹拌タンク8の上部蓋を開き、目視観察により評価した。
【0034】
[実施例1]
撹拌装置付きの容器に25℃のN−メチル−2−ピロリドン3000gを入れ、撹拌下に100℃のε−カプロラクタム2000gを添加し、50℃で、20分間混合撹拌し、洗浄剤5000gを調整した。調整した洗浄剤の粘度は25℃で、4mPa・sであった。運転停止中のアルカリ重合ナイロン製造装置の原料タンク、計量ポンプ等の機器を70℃に昇温後、A成分タンク1(内容量2リットル)、B成分タンク2(内容量2リットル)それぞれに先に調整した洗浄剤1500gを入れ、70℃で、15分間撹拌した後、それぞれの計量ポンプ3、4を運転して、洗浄物全量をA成分タンク1、B成分タンク2から排出し、計量ポンプ3、4、送液配管5、6、混合機7を洗浄しながら流し、混合機7から排出した。その後、A成分タンク1、B成分タンク2それぞれに加圧窒素ガス(0.3MPa)を導入し、約2分間保持後、計量ポンプ3、4を運転して、送液配管5、6を通じて、混合機7から噴出させた。A成分タンク1、B成分タンク2の上部蓋を開け、残存物がなく、洗浄できていることを確認した。また、混合機7も残存物の付着がないことを確認した。製造装置の洗浄作業終了後、A成分タンク1、B成分タンク2等各機器が室温になった時点で、A成分タンク1、B成分タンク2の上部蓋を開けた。上部蓋、A成分タンク1、B成分タンク2内に付着物は観察されなかった。
【0035】
[比較例1]
撹拌装置付きの容器に25℃のN−メチル−2−ピロリドン1000gを入れ、撹拌下に100℃のε−カプロラクタム4000gを添加し、50℃で20分間撹拌し、5000gの洗浄剤を調整した。洗浄剤調整終了時は液体であった。しかし、25℃では固化した。洗浄剤として使用する場合、溶融させる必要があった。
【0036】
[比較例2]
撹拌装置付きの容器にε−カプロラクタム5000gを入れ、溶融して100℃で温調保持した。実施例1で調整した洗浄剤の代わりに100℃のε−カプロラクタムを使用した以外は、実施例1と同様の方法でアルカリ重合ナイロン製造装置の洗浄を実施した。製造装置の温度が70℃では、計量ポンプ3、4や送液配管5、6の一部でε−カプロラクタムが凝固し、送液できず、洗浄作業を実施するためには、製造装置の温度を100℃に昇温する必要があった。また、製造装置の洗浄作業終了後、A成分タンク1、B成分タンク2等各機器が室温になった時点で、A成分タンク1、B成分タンク2の上部蓋を開けた。上部蓋、A成分タンク1、B成分タンク2内にはε−カプロラクタムが付着していた。
【0037】
[実施例2]
撹拌装置付きの容器に25℃のN−メチル−2−ピロリドン3750gを入れ、撹拌下に100℃のε−カプロラクタム1250gを添加し、実施例1と同様に実施して、5000gの洗浄剤を調整した。調整した洗浄剤は25℃で、粘度は8mPa・sであった。アルカリ重合ナイロン製造装置のA成分タンク1に100℃の3NI−NYLON KW SERIES KW−110Aを1000g入れ、B成分タンク2に100℃の3NI−NYLON KW SERIES KW−100Bを1000g入れ、それぞれ、撹拌下に100℃で温調保持した。それぞれの計量ポンプ3、4で各500gを計量し、混合機7に送り、混合機7でA成分、B成分を混合して、ガラス繊維が300g入っている撹拌タンク8に入れ、原料混合物(A、B成分混合物とガラス繊維)を撹拌後、吐出して、150℃の成形型14に注入した。原料混合物を吐出後、撹拌タンク8の吐出バルブ13は自動的に閉まる。直ちに、100℃に温調された撹拌タンク8に、洗浄剤入口から調整した洗浄剤1500gが入れられ、数分間撹拌した後、吐出バルブ13が開き、混合タンク8内の洗浄物等を吐出、吐出バルブ13が閉まると加圧窒素ガス(0.5MPa)が導入される。10〜15秒後に吐出バルブ13が開き、窒素ガスと残存物を噴出させた。加圧窒素ガスの導入、排出の操作を再度実施した。その後、撹拌タンク8の上部蓋を開き、撹拌タンク8内を観察した。撹拌タンク8の内壁及び撹拌翼共に付着物は観察されなかった。なお、洗浄剤の投入、排出、加圧窒素ガスの導入、噴出は製造装置の運転プログラムにより実施された。
【0038】
[比較例3]
撹拌装置付きの容器にε−カプロラクタム2000gを入れ、溶融して100℃で温調保持した。実施例2で調整した洗浄剤の代わりに、洗浄剤として溶融した100℃のε−カプロラクタム(25℃、固体、100℃での粘度9mPa・s)1500gを使用した以外は実施例2と同様の方法で実施し、撹拌タンク8を洗浄した。その後、撹拌タンク8の上蓋を開き、撹拌タンク8内を観察した。撹拌タンク8の内壁及び撹拌翼共に付着物が観察された。そのため、ε−カプロラクタム洗浄、窒素ガス導入、噴出を再度実施した。再実施した結果、撹拌タンク8内に付着物は観察されなかった。
【0039】
[実施例3]
実施例2で調整した洗浄剤の代わりに、洗浄剤として25℃のN−メチル−2−ピロリドン1500gを準備した。洗浄剤として室温のN−メチル−2−ピロリドンを使用した以外は実施例2と同様の方法で実施して、撹拌タンク8を洗浄した。その後、撹拌タンク8の上部蓋を開き、撹拌タンク8内を観察した。撹拌タンク8の内壁及び撹拌翼共に付着物は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本洗浄剤の使用によりアルカリ重合ナイロン製造装置が効率良く、確実に洗浄でき、アルカリ重合ナイロン製造装置のトラブルが減少し、生産性が向上する。本洗浄剤は、液体原料から製造されるポリウレタン、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の製造装置用洗浄剤として期待できる。
【符号の説明】
【0041】
1 A成分タンク
2 B成分タンク
3 A成分計量ポンプ
4 B成分計量ポンプ
5 A成分送液配管
6 B成分送液配管
7 混合機
8 撹拌タンク
9 (A、B成分混合物の)入口
10 洗浄剤入口
11 窒素ガス入口
12 添加剤入口
13 吐出バルブ
14 成形型
M モーター
【要約】
【課題】 溶融や保温保持等が不要であり、洗浄作業開始時に洗浄剤が固化することがなく、洗浄作業の容易な、アルカリ重合ナイロン製造装置用洗浄剤及び洗浄方法を提供する。
【解決手段】 本発明の洗浄剤は、N−アルキル−2−ピロリドン単独あるいはN−アルキル−2−ピロリドン及びω−ラクタムを含む混合物からなる。本発明の洗浄方法は、二つの原料タンクのそれぞれに前記洗浄剤を投入し、混合撹拌後、それぞれの計量ポンプを運転し、洗浄剤で計量ポンプ、送液配管、混合機を洗浄後、二つの原料タンクに加圧窒素ガスを入れ、窒素ガスはそれぞれの計量ポンプ、送液配管、混合機を通して噴出させる洗浄方法である。製造装置の撹拌タンクの洗浄は原料混合物を吐出し、吐出バルブを閉め、当該撹拌タンクに前記洗浄剤を入れ、所定時間撹拌後、残存物を含む洗浄物を吐出し、吐出バルブを閉め、加圧窒素ガスを入れ、窒素ガスを噴出させる洗浄方法である。
【選択図】
図1