特許第6614741号(P6614741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6614741PI3Kを阻害する新規キナゾリノン誘導体とそれを含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614741
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】PI3Kを阻害する新規キナゾリノン誘導体とそれを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 473/34 20060101AFI20191125BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20191125BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20191125BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20191125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20191125BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20191125BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20191125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   C07D473/34 361
   C07D473/34CSP
   A61K31/52
   A61P1/16
   A61P29/00
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P37/02
   A61P43/00 111
【請求項の数】4
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2019-513840(P2019-513840)
(86)(22)【出願日】2017年7月13日
(65)【公表番号】特表2019-522678(P2019-522678A)
(43)【公表日】2019年8月15日
(86)【国際出願番号】KR2017007535
(87)【国際公開番号】WO2018012907
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2019年3月8日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0089417
(32)【優先日】2016年7月14日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0086691
(32)【優先日】2017年7月7日
(33)【優先権主張国】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519013054
【氏名又は名称】バイオウェイ.、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン−ウ
(72)【発明者】
【氏名】リー、チ−ウ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ス−ジ
【審査官】 安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/082540(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/089106(WO,A2)
【文献】 国際公開第2005/016348(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/016349(WO,A1)
【文献】 特表2008−501707(JP,A)
【文献】 特表2007−537291(JP,A)
【文献】 特表2012−508775(JP,A)
【文献】 特表2005−509635(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/061204(WO,A1)
【文献】 Annals of Pharmacotherapy,2015年,49(10),1162-1170
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で示される化合物またはこれの医薬的に許容される塩:
[化学式1]
【化1】
Xはハロゲン、または−CHであり、
3〜4のシクロアルキル基である。
【請求項2】
血液悪性腫瘍、肝疾患、または自己免疫疾患を予防または治療するための医薬組成物であって、有効成分としての下記化学式1で示される化合物、またはこれの医薬的に許容される塩を含む、医薬組成物。
[化学式1]
【化2】
Xはハロゲン、または−CHであり、
3〜4のシクロアルキル基である。
【請求項3】
前記血液悪性腫瘍は白血病またはリンパ腫である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記肝疾患は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝腺腫、インシュリン過敏症、肝癌から成る群から選択される、請求項2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPI3Kを阻害する新規キナゾリノン誘導体と、これらの誘導体を調製する方法とに関する。
【0002】
さらに、本発明は、血液癌、肝疾患、または自己免疫疾患を治療する、キナゾリノン誘導体を含む医薬組成物を提供する。
【背景技術】
【0003】
癌はアメリカ合衆国において、心疾患に次いで2番目に多い死因である(キャンサー・ファクツ・アンド・フィギュアーズ、2005年、アメリカがん協会)。癌形成の初期段階では、腫瘍を除去したり、または化学療法や放射線療法などにより癌細胞を殺したりする方法が選択され得る。しかし、末期の癌患者の場合、積極的な治療に起因する副作用が比較的大きく、治療後の奏効率は低い。したがって、癌の進行を遅らせることで副作用を減らし、生命の質を改善する治療が選択され得る。これらの観点から、抗癌剤は癌細胞を破壊することで癌の再発を防ぐのみならず、また、完全に治癒することを期待することが難しい場合でも、癌細胞の成長と増殖を阻害することで、生存期間を延長させることが意図されている。
【0004】
転移性の癌に対する既存の化学療法は、これらの低い有効性のために、長期の治療を提供することができない。さらに、新しい化学療法が医療の現場に導入されてきているが、化学療法に耐性のある腫瘍の治療に対して、単一の治療の、または既存の薬剤とともに用いる治療の、一次、二次、または三次治療としての新規な有効薬の必要性が依然としてある。
【0005】
さらに、強い効力のある抗癌剤でさえ、全ての癌に適用できるものではなく、そのため、治療の効率を向上させる薬剤を開発する緊急の必要性がある。
【0006】
標的療法は、腫瘍特異的で、有効で、既存の全身性の抗癌治療に比較して、正常細胞に対してはるかに影響が少ない点で有利である。タンパク質キナーゼの機能不全は、癌細胞に一般に見出される。そのため、抗癌剤の開発にとって魅力的なターゲットとなる。
【0007】
脂質キナーゼの中でも、PI3K(ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼの異性体)の構造と機能は、近年次第に明確に解明されてきている。PI3Kは細胞内情報伝達経路において重要な役割を果たす酵素のファミリーに属していることが知られており、細胞の成長、増殖、分化、運動、生存、細胞内輸送のような主要な細胞機能に関与している。
【0008】
過去20年間にわたって、PI3Kがその調節機能を失った場合に、多くのタイプの疾患を生じる過剰な活性化などの問題が細胞内情報伝達経路において起きることが着実に解明されてきている。
【0009】
PI3Kは、クラスI、クラスII、およびクラスIIIに分類される。クラスIはさらにクラスIAとクラスIBのサブクラスに分類される。クラスIのPI3Kは二量体から形成され、二量体は触媒サブユニットと調節サブユニットとに分類される。クラスIAのPI3Kはp110触媒サブユニットとp85調節サブユニットから成る二量体であり、この点について、p110触媒サブユニットは、3つのアイソフォーム、すなわち、p110α、p110β、p110δを含む。こうして、PI3Kのアイソフォームは、PI3Kα、PI3Kβ、PI3Kδと呼ばれる。
【0010】
一方、クラスIBのPI3Kは、p110γ触媒サブユニットとp101調節サブユニットとの二量体から成り、このPI3Kは一般的にPI3Kγと呼ばれる。
【0011】
PI3Kδは主に受容体型チロシンキナーゼ(RTK)によって誘導されてPIP2をリン酸化してPIP3を生成し、PI3Kγは主にGタンパク質共役型受容体(GPCR)によって誘導されてPIP2をリン酸化してPIP3を生成する。PIP3はタンパク質キナーゼB(Akt/PKB)を活性化し、下流の情報伝達経路を連続的に活性化する。これにより、細胞の成長、増殖、分化、運動、生存、細胞内輸送のような主要な細胞内機能の調節に関与している。PI3KδとPI3Kγが細胞内情報伝達を正常に制御できなくなると、炎症および自己免疫疾患から血液悪性腫瘍および固形癌にわたる様々な疾患を生じるということが、近年の最も強い関心のうちの1つである。従って、調節機能を失ったPI3KδとPI3Kγを阻害することで、炎症、自己免疫、血液悪性腫瘍、固形癌を治療する薬剤の開発に集中的な取り組みが行われている。
【0012】
この分野で開発されている代表的な薬剤の例はイデラリシブであり、ギリアド・カリストガ社によって開発された物質で、選択的にPI3Kδを阻害する。この薬剤は様々な種類の血液悪性腫瘍に対して優れた有効性があり、そのため、既存の細胞毒性のある抗癌剤の問題(特に正常細胞に対する細胞毒性)に取り組むブレークスルーとなる薬剤として関心を引いており、また、既存の抗癌剤の有効性の問題を補う。しかしながら、ヨーロッパでは、臨床試験中に重篤な毒性が生じたいくつかのケースがあり、患者は肺炎で亡くなった。そのため、この薬剤の開発は現在中断されている。報告によると、この理由は、この薬剤の阻害活性がPI3KαやPI3KβよりもむしろPI3Kδに対して十分に選択的で効力をもつものの、PI3Kγに対してよりも十分に選択的ではなかったことである。デュベリシブはPI3KδとPI3Kγの両方に対して阻害活性を示し、そのため、血液悪性腫瘍、炎症、自己免疫疾患を治療する非常に有望な薬剤として開発される可能性があった。しかしながら、臨床試験中に、デュベリシブの開発はイデラリシブと同様の問題により終了した。この物質の阻害効果は、PI3KβよりもPI3KδやPI3Kγに対して十分に選択的ではなかったことが知られている。従って、少なくともイデラリシブよりもむしろ、PI3Kδをより選択的に阻害することができる薬剤の開発が求められている。
【0013】
一方、キナゾリノン誘導体は、催眠鎮静剤であるメタカロン、鎮咳薬であるクロロカロン、抗てんかん薬であるピリカロンのような多くの生理活性を有する化合物に存在する特殊な構造を有している。キナゾリノンとその誘導体は、催眠、鎮痛、抗けいれん、鎮咳、抗炎症活性のような広範囲の生理活性を有している。
【0014】
特に、キナゾリノン誘導体は、癌を含む細胞増殖性疾患の治療に使用され、近年広く使用されている治療薬のうちの1つである。例えば、米国特許登録番号5747498および5773476では、受容体型チロシンキナーゼの過剰な活性化または異常な活性化によって誘導される癌の治療に使用されるキナゾリノン誘導体が開示されている。従って、キナゾリノン誘導体は、細胞増殖性疾患の治療に対する様々なアプローチを通して研究され、開発されることが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、PI3Kを阻害する新規キナゾリノン誘導体と、この誘導体を調製する方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、血液腫瘍、肝疾患、または自己免疫疾患を予防または治療するキナゾリノン誘導体を含む医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本出願の一態様によれば、下記化学式1で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩が提供される。
[化学式1]
【化1】
ここで、Xは−H、ハロゲン、−CH3、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。
【0018】
本発明の別の一態様によれば、血液癌、肝疾患、自己免疫疾患を予防または治療するための有効成分として、下記化学式1で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩を含む医薬組成物が提供される。
[化学式1]
【化2】
ここで、Xは−H、ハロゲン、−CH3、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。
【0019】
血液癌は、白血病またはリンパ腫であり得る。
【0020】
肝疾患は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝腺腫、インシュリン過敏症、肝癌から成る群から選択され得る。
【0021】
自己免疫疾患は、アレルギー性鼻炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチから成る群から選択され得る。
【0022】
本発明のさらに別の一態様によると、下記化学式1で示される化合物の調製方法が提供される。その方法は、下記化学式2で示される化合物と下記化学式3で示される化合物とを反応させ、下記化学式4で示される化合物を調製する段階と、下記化学式4で示される化合物の保護基を外して、下記化学式5で示される化合物を調製する段階と、下記化学式5で示される化合物と化学式6で示される化合物とを反応させて、化学式1の化合物を調製する段階とを備える方法を含む。
[化学式1]
【化3】
ここで、化学式1において、Xは−H、ハロゲン、−CH3、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基であり、
[化学式2]
【化4】
ここで、化学式2において、Xは−H、ハロゲン、−CH3、または−NHであり、
[化学式3]
【化5】
ここで、化学式3において、 YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基であり、
[化学式4]
【化6】
ここで、化学式4において、Xは−H、ハロゲン、−CH3、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基であり、
[化学式5]
【化7】
ここで、化学式5において、Xは−H、ハロゲン、−CH3、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基であり、
[化学式6]
【化8】
ここで、化学式6において、Zはハロゲンである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、新規キナゾリノン誘導体は、血液癌や肝疾患を治療するのに効果的である。
【0024】
特に、既存のPI3Kδ阻害剤と比較して、本発明のキナゾリノン誘導体はPI3Kδ、またはPI3KδとPI3Kγを同時に、高い選択性で阻害することで免疫毒性を顕著に減少させることができ、こうして血液悪性腫瘍などに対する抗癌治療のみならず、また自己免疫疾患の治療をも可能にするものである。 これらの標的治療薬は、深刻な細胞毒性を伴う既存の抗癌治療の副作用のような問題に取り組むものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実験例1のアダプタキナーゼ解析の実験の原理を示すものである。
図2】白血病およびリンパ腫の株化細胞において、AKTのセリン473のリン酸化が減少する効果を確認する実験例2の結果を示す。
図3】白血病およびリンパ腫の細胞の成長に対する阻害効果を確認する実験例3の結果を示す。
図4】びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)の細胞と急性リンパ性白血病(ALL)の細胞のアポトーシスに対する効果を確認する実験例4のSDS−PAGE解析の結果を示す。
図5】びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)の細胞と急性リンパ性白血病(ALL)の細胞のアポトーシスに対する効果を確認する実験例5のフローサイトメトリーの結果を示す。
図6】血管形成に対する阻害効果を確認する、チューブ形成を示すCytation5(商標)蛍光顕微鏡(バイオテック)イメージの実験例6の結果を示す。
図7】血管形成に対する阻害効果を確認する実験例6の、血管形成の阻害効果を示すグラフである。
図8】血管形成に対する阻害効果を確認する実験例6の、化合物で処理したHUVECの生細胞の数を示すグラフである。
図9】ラットの単回投与の毒性試験である実験例7の、化学式7の化合物と化学式8の化合物の濃度による毒性を確認する表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の詳細について説明する。本明細書および請求項で使用される用語や単語は、通常の、または辞書的な意味に限定して解釈すべきではなく、発明者が発明者の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に画定できる原理に基づいて本発明の趣旨と一致するように意味や概念を解釈すべきである。したがって、本明細書で明らかにする実施形態で説明される構成は、本発明の代表的な実施形態にすぎず、本発明の全ての技術的な思想を示しているものではない。そして、これらの実施形態を置き換え得る様々な均等物や改良が、本出願の出願時点でなされ得ることを理解すべきである。
【0027】
本発明はPI3K阻害剤としてのキナゾリノン誘導体の新規化合物に関する。PI3K阻害剤はp110δのATP結合部位に結合することでPI3K−AKT情報伝達経路をブロックする。そして、PI3K経路の活性化はPI3K触媒のアイソタイプ、すなわちp110α、p110β、p110δ、p110γによって仲介される。
【0028】
p110δは血液癌やB細胞の発生において重要な役割を果たしており、造血系幹細胞に主に発現している。また、p110δは白血病、リンパ腫、大腸癌、膀胱癌、悪性神経膠腫などを含む多くの癌で発現している。p110δは関係するサイトカインやケモカインの刺激を通じて、PI3K−AKT情報伝達経路を介して細胞増殖を制御している。
【0029】
さらに、本発明によれば、新規キナゾリノン誘導体は、肝毒性を含む既存の毒性の問題を克服する。PI3Kのp110δは進行した肝細胞癌においてさえ高発現し得るので、本発明による新規キナゾリノン誘導体は、固形癌である肝細胞癌に対しての治療薬としてもまた有効である。
【0030】
既存のキナゾリノンに基づく抗癌剤の問題に鑑みて、新規キナゾリノン誘導体は十分に、かつ選択的にPI3Kδを阻害するべきである。好ましくは、PI3K異性体間の選択性は、IC50値を用いて、PI3Kα/PI3KδおよびPI3Kβ/PI3Kδのそれぞれの比が150超であり、少なくともPI3Kγ/PI3Kδの比はイデラリシブの比よりも大きいという基準を満たす必要がある。
【0031】
さらに、PI3KδとPI3Kγが同時に阻害される場合、PI3Kβ/PI3KδおよびPI3Kβ/PI3Kの比が、デュベリシブの比の値よりも大きいことが好ましい。
【0032】
本発明は、化学式1で示される化合物、またはそれの医薬的に許容される塩を提供する。
[化学式1]
【化9】
ここで、Xは、H、ハロゲン、−CH、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。本明細書で用いられる用語「ハロゲン」は、フッ素(F)、臭素(Br)、塩素(Cl)、またはヨウ素(I)を指す。化学式1において、Yは(S)−異性体または(R)−異性体の形態で結合を形成し得るが、好ましくは(S)−異性体の形態で結合を形成し得る。
【0033】
化学式1の化合物の具体例として、以下の化学式7から14で示される化合物が含まれるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
本発明に係る化学式7の化合物は、Xは−Fであり、Yはシクロプロピル基である化学式1の化合物である。
[化学式7]
【化10】
【0035】
さらに、本発明に係る化学式8の化合物は、Xはメチル基であり、Yはシクロプロピル基である化学式1の化合物である。
[化学式8]
【化11】
【0036】
さらに、本発明に係る化学式9の化合物は、Xは−NHであり、Yはシクロプロピル基である化学式1の化合物である。
[化学式9]
【化12】
【0037】
さらに、本発明に係る化学式10の化合物は、Xは−NHであり、Yはメチル基である化学式1の化合物である。
[化学式10]
【化13】
【0038】
さらに、本発明に係る化学式11の化合物は、Xは−NHであり、Yはエチル基である化学式1の化合物である。
[化学式11]
【化14】
【0039】
さらに、本発明によれば、化学式12の化合物は、化学式1で、Xは−Clであり、Yはシクロプロピル基の化合物である。
[化学式12]
【化15】
【0040】
さらに、本発明に係る化学式13の化合物は、Xは−Fであり、Yはシクロブチル基である化学式1の化合物である。
[化学式13]
【化16】
【0041】
さらに、本発明に係る化学式14の化合物は、Xは−Clであり、Yはシクロブチル基である化学式1の化合物である。
[化学式14]
【化17】
【0042】
本発明の化学式1で示される化合物は、医薬的に許容される塩の形で使用され得、また、塩は医薬的に許容されるフリーの酸によって形成される酸付加塩であり得る。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硝酸、亜リン酸のような無機酸や、脂肪族のモノまたはジカルボン酸、フェニル基で置換されたアルカン酸塩、ヒドロキシアルカン酸塩およびアルカン二酸塩、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの毒性のない有機酸、または、酢酸、安息香酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、グルコン酸、メタンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、酒石酸、フマル酸のような有機酸から得られる。 これらの医薬的に毒性のない塩の例は、硫酸塩、ピロ硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソブチル酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−二酸塩、ヘキサン−1,6−二酸塩、安息香酸塩、塩化安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、クロロベンゼンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニルブチル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、マンデル酸塩などを含む。
【0043】
本発明によれば、酸付加塩は従来の方法を用いて調製し得る。例えば、これらの酸付加塩は、化学式1の誘導体を、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタン、アセトニトリルのような有機溶媒に溶解し、これに有機酸や無機酸を添加して沈殿を生成し、沈殿を濾過し乾燥させることで調製し得るし、また、減圧下で溶媒と過剰の酸を蒸溜し、次に生じた溶液を乾燥させ、続いて有機溶媒の存在下で結晶化させることで調製し得る。
【0044】
さらに、医薬的に許容される金属塩は塩基を用いることで調製し得る。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩は例えば、化合物を過剰の水酸化アルカリ金属塩または水酸化アルカリ土類金属塩溶液に溶解し、不溶性の化合物塩を濾過し、濾液を蒸発させ、乾燥させることで得られる。このとき、金属塩として、ナトリウム塩、カリウム塩、またはカルシウム塩が調製されることが医薬的に好ましい。さらに、これに対応する塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩を適切な銀の塩(例えば硝酸銀)と反応させることで得られる。
【0045】
その上、本発明は化学式1で示される化合物およびその医薬的に許容される塩を含むのみならず、またそれらから調製され得る溶媒和物、立体異性体、水和物などを含む。
【0046】
本発明はまた、下記化学式1で示される化合物またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む、血液癌、肝疾患、自己免疫疾患を予防または治療する医薬組成物をも提供する。
[化学式1]
【化18】
ここで、Xは、H、ハロゲン、−CH、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。
【0047】
化学式1において、Yは(S)−異性体または(R)−異性体の形態で結合を形成し得るが、好ましくは(S)−異性体の形態で結合を形成し得る。 本発明による医薬組成物において、化学式1で示される化合物またはその医薬的に許容される塩は、臨床的投与の間、経口的に、または非経口的に様々な投与形態で投与され得、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤のような一般的に用いられる希釈剤や賦形剤を使用することによって製剤化され得る。
【0048】
経口投与のための製剤は、例えば、錠剤、丸薬、ハードまたはソフトカプセル、液体、懸濁液、乳化液、シロップ、顆粒、エリキシル剤、懸濁液、トローチなどを含み得る。これらの製剤は、有効成分に加えて、希釈剤(例えば、乳糖、ブドウ糖、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、および/またはグリシン)、または潤沢剤(例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸およびそれらのマグネシウム塩またはカルシウム塩、および/またはポリエチレングリコール)を含む。錠剤はマグネシウムアルミニウムケイ酸塩、デンプンペースト、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドンのような結合剤を含み得る。また、いくつかの場合、デンプン、寒天、アルギン酸、またはそれらのナトリウム塩のような崩壊剤や煮沸混合物、および/または吸収剤、着色剤、香味料、甘味料を含み得る。
【0049】
化学式1で示される化合物を有効成分として含む医薬組成物は、非経口的に投与され得、また、非経口投与は皮下注射、静脈注射、筋肉内注射、または胸腔内注射によって行われる。
【0050】
これに関して、非経口投与のための製剤を調製するために、化学式1で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩は溶液または懸濁液を調製するために水中で安定剤または緩衝液とを混合し、続いてアンプルまたはバイラルユニットの投与形態として調製する。組成物は滅菌され得、および/または防腐剤、安定剤、水和剤、浸透圧を制御するための塩のようなアジュバント、および/または緩衝液、およびその他の治療に有効な材料を含み得る。また、混合したり、顆粒化したり、コーティングしたりなどの従来の方法を用いて製剤化され得る。
【0051】
本発明の組成物は、キナゾリノン化合物に加えて、1またはそれ以上の同一の、または類似した機能を示す有効成分をさらに含み得る。
【0052】
本発明の医薬組成物の適切な用量は、患者の状態および体重、症状の重篤度、投与形態、投与の経路、投与の期間に依存して適切に選択され得る。本発明の組成物において、有効成分は、最適な有効性のために、1日あたり0.2mg/kgから200mg/kgの量で投与することが好ましい。組成物は一日に一回、または複数回投与され得るが、本発明はこれに限定されない。
【0053】
本発明によれば、血液癌は、白血病またはリンパ腫であり得る。
【0054】
白血病は急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)から選択され得る。また、急性リンパ性白血病は、急性リンパ芽球性白血病としても知られる。
【0055】
リンパ腫は、成熟(末梢)B細胞腫瘍であり得る。特に、B細胞型慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、例えば、脾辺縁帯B細胞性リンパ腫(+/−絨毛リンパ球)、節性辺縁帯リンパ腫(+/−単球様B細胞)、粘膜関連リンパ組織(MALT)型節外性辺縁帯B細胞性リンパ腫、有毛細胞白血病、形質細胞性骨髄腫/形質細胞腫、濾胞性リンパ腫、濾胞中心リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、(縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫、血管内大細胞型B細胞性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫を含む)、バーキットリンパ腫/バーキット細胞リンパ腫から選択され得る。
【0056】
さらに、リンパ腫は多発性骨髄腫(MM)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、B細胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)から選択され得る。
【0057】
本発明の肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝腺腫、インシュリン過敏症、肝癌から成る群から選択され得る。
【0058】
肝癌は、例えば、肝腫瘍、肝腺腫、肝細胞癌であり得る。
【0059】
自己免疫疾患は、アレルギー性鼻炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチから成る群から選択され得る。
【0060】
本発明はまた、下記化学式1で示される化合物を調製する方法を提供する。ここで、その方法は、下記化学式2で示される化合物と下記化学式3で示される化合物とを反応させ、下記化学式4で示される化合物を調製し、化学式4の化合物の保護基を外して下記化学式5で示される化合物を調製し、下記化学式5で示される化合物を化学式6で示される化合物と反応させ、化学式1で示される化合物を調製することを含む。
[化学式1]
【化19】
ここで、化学式1において、Xは、H、ハロゲン、−CH、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。
[化学式2]
【化20】
ここで、化学式2において、Xは、H、ハロゲン、−CH、または−NHである。
[化学式3]
【化21】
ここで、化学式3において、 YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。
[化学式4]
【化22】
ここで、化学式4において、Xは、H、ハロゲン、−CH、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。
[化学式5]
【化23】
ここで、化学式5において、Xは、H、ハロゲン、−CH、または−NHであり、YはC1〜2の鎖状アルキル基、またはC3〜4のシクロアルキル基である。
[化学式6]
【化24】
ここで、化学式6において、Zはハロゲンである。
【0061】
ステップ1は化学式2で示される化合物と化学式3で示される化合物とを反応させることで、化学式4で示される化合物を調製する処理である。
【0062】
例えば、トリフェニルホスファイトは化学式2で示される化合物と化学式3で示される化合物とをピリジン溶媒の存在下で一緒に混合した溶液を室温で撹拌する間に加えられ得る。
【0063】
このとき、温度は特に限定されないが、混合物は30℃から100℃、好ましくは45℃から80℃、より好ましくは55℃から60℃の温度で撹拌され得る。
【0064】
撹拌時間は特に限定されないが、撹拌処理は5時間から20時間、好ましくは8時間から16時間、より好ましくは10時間から14時間で行われ得る。
【0065】
続いて、反応を生じさせるためにアニリンが加えられ得る。 このとき、温度は特に限定されないが、反応は50℃から200℃、好ましくは90℃から150℃、より好ましくは100℃から120℃の温度で生じ得る。
【0066】
このとき、反応時間は特に限定されないが、反応は1時間から20時間、好ましくは3時間から15時間、より好ましくは5時間から10時間で生じ得る。
【0067】
ステップ2は化学式4で示される化合物の保護基を外すことにより、化学式5で示される化合物を調製する処理である。
【0068】
例えば、化学式5で示される化合物は、次のように調製され得る。化学式4で示される化合物が、トリフルオロ酢酸(CFCOOH)が溶解しているジクロロメタン溶液に加えられ、次に室温で0.1時間から2時間、好ましくは0.2時間から1.5時間、より好ましくは0.5時間から1時間反応させる。
【0069】
ステップ3は化学式5で示される化合物を化学式6で示される化合物と反応させることで、化学式1で示される化合物を調製する処理である。
【0070】
例えば、化学式5で示される化合物は、tert−ブタノールに加えられ、これにN,N−ジイソプロピルエチルアミンが加えられ、次に化学式6で示される化合物が生じた溶液に加えられ、反応溶液が10時間から48時間、好ましくは15時間から30時間、より好ましくは20時間から26時間還流される間に撹拌され得る。
【0071】
本発明は血液腫瘍や肝疾患を予防または軽減するための、新規キナゾリノン化合物またはそれの医薬的に許容される塩を有効成分として含む健康機能食品を提供する。
【0072】
健康機能食品は様々な種類の飲料、ガム、茶、菓子、複合ビタミン剤、健康補助食品の形で調製され得るが、これに限定されない。
【0073】
以下に、例や実験例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0074】
しかしながら、これらの例や実験例は例示的な目的のみで提供されるのであり、本発明の範囲を制限することは意図されない。
【0075】
<例1>
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン (化学式7)の調製
[反応スキーム1]
【化25】
ステップ1:(S)−tert−ブチル−シクロプロピル(5−フルオロ−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)メチルカルバメートの調製
トリフェニルホスファイト(1.4当量)を、2−アミノ−6−フルオロ安息香酸(1.0当量)と(S)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−2−シクロプロピル酢酸(1.0当量)とをピリジン溶媒中で混合した溶液に加え、その間溶液を室温で撹拌した。 結果として得られた混合物を55℃から60℃で12時間撹拌した。アニリン(1.4当量)をこれに加え、次におよそ110℃で7時間反応させた。その後、混合した反応溶液を室温に冷却し、酢酸エチルと水で抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウム(MgSO)で脱水し、減圧下で濃縮した。n−ヘプタンを残留物に加え、続いて30分撹拌して固体を析出させた。固体は濾過し、n−ヘプタンで洗浄し、次に結果として得られた固体を乾燥させて(S)−tert−ブチル−シクロプロピル(5−フルオロ−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)メチルカルバメートを収率65%〜80%で得た。
【0076】
H NMR(300MHz、CDCl):δ 7.66−7.73(m、1H)、7.50−7.61(m、4H)、7.32−7.40(m、2H)、7.09−7.15(t、J=18Hz、1H)、5.53−5.56(d、J=9Hz、1H)、4.18−4.23(t、J=15Hz、1H)、1.42(s、9H)、1.08−1.16(m、1H)、0.38−0.42(m、2H)、0.24−0.30(m、1H)、0.01−0.11(m、1H)。
【0077】
ステップ2:(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
トリフルオロ酢酸((S)−tert−ブチル−シクロプロピル(5−フルオロ−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)メチルカルバメートの約8倍の重量)を、(S)−tert−ブチル−シクロプロピル(5−フルオロ−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)メチルカルバメートが溶解したジクロロメタン溶液((S)−tert−ブチル−シクロプロピル(5−フルオロ−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)メチルカルバメートの約15倍の重量)に加えた。 反応溶液を室温で約0.5時間から約1時間撹拌し、次に炭酸ナトリウム水溶液を用いて反応溶液のpHを約7に調製した。 ジクロロメタン溶液を分離し、硫酸マグネシウム(MgSO)を用いて脱水して濾過し、硫酸マグネシウム(MgSO)を除去した。次に、濾液を減圧下で濃縮し、(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを収率80%から95%で得た。
【0078】
H NMR(400MHz、CDCl):δ 7.66−7.71(m、1H)、7.47−7.57(m、4H)、7.27−7.31(m、2H)、7.08−7.12(t、J=16Hz、1H)、2.97−2.99(d、J=8Hz、1H)、1.87(s、2H)、1.22−1.31(m、1H)、0.39−0.53(m、2H)、0.01−0.15(m、2H)。
【0079】
ステップ3:(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
ステップ2で得られた(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンをtert−ブタノール((S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの約15倍の重量)に加え、N,N−ジイソプロピルアミン((S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの約2倍当量)と6−ブロモ−9H−プリンをこれに加え、次に反応溶液を24時間還流される間に撹拌した。
【0080】
反応混合物を冷却し、減圧下で濃縮してtert−ブタノールを除去した。酢酸エチルを濃縮物に加え、連続して希塩酸溶液と希釈した炭酸カリウム溶液で洗浄した。酢酸エチル層は無水硫酸マグネシウム(MgSO)で脱水して濾過し、濾液を減圧下で濃縮して、(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式7)を固体の形で収率60%から80%で得た。
【0081】
H NMR(300MHz、CDCl):δ 13.02(s、1H)、8.03(s、1H)、7.98(s、1H)、7.50−7.71(m、6H)、7.39−7.42(dd、J=9Hz、1H)、7.08−7.14(t、J=18Hz,1H)、6.76−6.79(d、J=9Hz、1H)、4.93(br.s.、1H)、1.72(br.s.、1H)、1.33−1.44(m、1H)、0.49−0.53(m、2H)、0.37−0.46(m、1H)、0.21−0.27(m、1H)。 ESI−MS m/z 428.45[M+H]+
【0082】
<例2>
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−メチル−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式8)の調製
[反応スキーム2]
【化26】
ステップ1:(S)−tert−ブチル−シクロプロピル(5−メチル−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)メチルカルバメートの調製
(S)−tert−ブチル−シクロプロピル(5−メチル−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)メチルカルバメートを、2−アミノ−6−フルオロ安息香酸の代わりに2−アミノ−6−メチル安息香酸を使用したことを除いては、例1と同様に調製した。
【0083】
H NMR(400MHz、CDCl):δ 8.33(br.s.、3H)、7.50(d、4H、J=7.9Hz)、7.28(t、11H、J=7.7Hz)、7.07(t、2H、J=7.3Hz)、5.35(br.s.、1H)、3.61(br.s.、3H)、1.32−1.51(m、12H)、1.17−1.30(m、1H)、0.51−0.73(m、4H)、0.47(td、3H、J=4.7、9.6Hz)。
【0084】
ステップ2:(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−メチル−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−メチル−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを、例1と同様に調製した。
【0085】
H NMR(400MHz、DMSO−d):δ 8.41(br.s.、2H)、7.79(t、1H、J=7.7Hz)、7.54−7.73(m、2H)、7.31−7.46(m、1H)、2.74(s、3H)、1.23(br.s.、1H)、1.18(tt、1H、J=4.4、8.7Hz)、0.51(s、1H)、0.32−0.41(m、1H、J=4.8、10、10Hz)。
【0086】
ステップ3:(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−メチル−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−メチル−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式8)を、(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの代わりに、(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−メチル−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを使用したことを除いては、例1と同様に調製した。
【0087】
H NMR(400MHz、CDCl):δ 8.29(s、1H)、7.96(br.s.、1H)、7.36−7.71(m、7H)、7.19−7.25(m、1H)、6.83(d、1H、J=6.6Hz)、4.96(t、1H、J=8.1Hz)、2.82(s、3H)、1.24−1.43(m、2H)、0.29−0.67(m、3H)、0.24(s、1H)、0.07(s、1H)。 ESI−MS m/z 424.48[M+H]+
【0088】
<例3>
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−アミノ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式9)の調製
[反応スキーム3]
【化27】
ステップ1:(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−((4−メトキシベンジル)アミノ)−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
エタノール(トリエチルアミンの15倍の体積)に、例1で調製した(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(1.0当量)とトリエチルアミン(5.0当量)を順次添加して調製した溶液を収容した密封チューブに、さらに4−メトキシベンジルアミンを加えた。
【0089】
続いて、チューブを窒素で置換し密封した。次に、反応混合物を180℃に加熱して、1日反応させた。 室温に冷却したのち、減圧下でエタノール溶媒を除去した。その後、粗製混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(ジクロロメタン/メタノール 20:1)にかけて、(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−((4−メトキシベンジル)アミノ)−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを黄色固体として得た(収率38%)。
【0090】
H NMR(300MHz、CDCl):δ 13.67(s、1H)、8.80−8.84(t、J=12Hz、1H)、8.31(s、1H)、7.96(s、1H)、7.52−7.62(m、4H)、7.39−7.48(m、2H)、7.23−7.25(d、J=6Hz、2H)、6.84−6.92(t、J=24Hz、2H)、6.80−6.84(d、J=12Hz、2H)、6.46−6.49(d、J=9Hz、1H)、4.92(s、1H)、4.31−4.33(d、J=6Hz、2H)、3.76(s、3H)、1.37−1.39(m、1H),0.43−0.50(m、2H)、0.38−0.40(m、1H)、0.20−0.25(m、1H)。
【0091】
ステップ2:(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−アミノ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−(4−メトキシベンジルアミノ)−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(1.0当量)をジクロロメタン((S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−(4−メトキシベンジルアミノ)−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの6倍の体積)に溶解した溶液に、トリフルオロ酢酸(ジクロロメタンの2倍の体積)を加え、生じた溶液を室温で0.5時間から2時間撹拌した。 その後、1MのNaOH溶液を用いて粗製混合物のpHを0℃下で7に調整した。 生じた溶液をジクロロメタンで3回抽出し、混ぜ合わさった有機物相を無水硫酸マグネシウム(MgSO)で脱水し、減圧下で濃縮した。 残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−アミノ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式9)をアイボリー色の固体として得た(収率21%)。
【0092】
H NMR(300MHz、CDCl):δ 13.16(s、1H)、8.30(s、1H)、7.97(s、1H)、7.53−7.64(m、4H)、7.40−7.45(t、J=15Hz、2H)、6.92−6.95(d、J=9Hz、1H)、6.84−6.86(d、J=6Hz、1H)、6.54−6.56(d、J=6Hz、1H)、6.15(s、2H)、4.93(s、1H)、1.32−1.41(m、1H)、0.47−0.48(m、2H)、0.38−0.43(m、1H),0.22−0.25(m、1H)。
【0093】
<例4>
(S)−2−(1−((7H−プリン−6−イル)アミノ)エチル)−5−アミノ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式10)の調製
[反応スキーム4]
【化28】
(S)−2−(1−((7H−プリン−6−イル)アミノ)エチル)−5−アミノ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式10)を、(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの代わりに(S)−2−(1−((7H−プリン−6−イル)アミノ)エチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを使用したことを除いては、例3と同様に調製した。
【0094】
H NMR(500MHz、DMSO−d):δ 8.00−8.22(m、1H)、7.32−7.78(m、4H)、7.06(br.s.、1H)、6.55−6.70(m、1H)、1.99(s、1H)、1.06−1.55(m、4H)、0.70−0.93(m、2H)。
【0095】
<例5>
(S)−2−(1−(7H−プリン−6−イルアミノ)プロピル)−5−アミノ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式11)の調製
[反応スキーム5]
【化29】
(S)−2−(1−((7H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−アミノ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式11)を、(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの代わりに(S)−2−(1−((7H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを使用したことを除いては、例3と同様に調製した。
【0096】
H NMR(300MHz、CDCl):δ 8.31(s、1H)、7.97(s、1H)、7.35−7.68(m、6H)、6.91−6.94(d、J=9Hz、1H)、6.82−6.84(d、J=6Hz、1H)、6.53−6.56(d、J=9Hz、1H)、6.15(s、2H)、5.16(s、1H)、1.91−2.05(m、1H)、1.74−1.84(m、1H)、0.84−0.89(t、J=15H、3H)。
【0097】
<例6>
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式12)の調製
[反応スキーム6]
【化30】
ステップ1:(S)−tert−ブチル(5−クロロ−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)(シクロプロピル)メチルカルバメートの調製
(S)−tert−ブチル(5−クロロ−4−オキソ−3−フェニル−3,4−ジヒドロキナゾリン−2−イル)(シクロプロピル)メチルカルバメートを、2−アミノ−6−フルオロ安息香酸の代わりに2−アミノ−6−クロロ安息香酸を使用したことを除いては、例1と同様に調製した。
【0098】
ステップ2:(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを、例1と同様に調製した。
【0099】
ステップ3:(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロプロピル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式12)を、(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンの代わりに(S)−2−(アミノ(シクロプロピル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンを使用したことを除いては、例1と同様に調製した。
【0100】
H NMR(300MHz、CDCl):δ 13.02(s、1H)、8.02(s、1H)、7.98(s、1H)、7.15−7.68(m、8H)、6.76−6.79(d、J=9Hz、1H)、4.93(br.s.、1H)、1.72(br.s.、1H)、1.33−1.44(m、1H)、0.49−0.53(m、2H)、0.37−0.46(m、1H)、0.21−0.27(m、1H)。 ESI−MS m/z 444.40[M+H]+
【0101】
<例7>
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロブチル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式13)の調製
【化31】
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロブチル)メチル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式13)を、(S)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−2−シクロプロピル酢酸の代わりに、(S)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−2−シクロブチル酢酸を使用したことを除いては、例1と同様に調製した。
【0102】
H NMR(300MHz、DMSO−d):δ 12.95(s、1H)、8.13(br.s.、1H)、7.85(br.s.、1H)、7.24−7.60(m、8H)、5.18(br.s.、1H)、3.05(br.s.、1H)、1.64−2.01(m、1H)。
【0103】
<例8>
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロブチル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式14)の調製
【化32】
(S)−2−(((7H−プリン−6−イル)アミノ)(シクロブチル)メチル)−5−クロロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン(化学式14)を、2−アミノ−6−フルオロ安息香酸の代わりに2−アミノ−6−クロロ安息香酸を使用し、(S)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−2−シクロプロピル酢酸の代わりに(S)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−2−シクロブチル酢酸を使用したことを除いては、例1と同様に調製した。
【0104】
H NMR(300MHz、DMSO−d):δ 12.88(s、1H)、8.17(br.s.、1H)、8.00(s、1H)、7.12−7.87(m、8H)、5.18(br.s.、1H)、3.06(br.s.、1H)、1.62−1.99(m、7H)。
【0105】
化学式7から14の化合物の構造を以下の表1に示す。
【表1】
【0106】
<実験例1>
PI3Kキナーゼ活性度テスト
【0107】
(1)実験方法
実験は均一系蛍光免疫測定法であるアダプタキナーゼアッセイを用いて実施した。
【0108】
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社から入手できるセレクトスクリーン(登録商標)サービスを行った。実験の原理を図1に示す。
【0109】
(2)実験結果
実験の結果を以下の表2に示す。
【0110】
表2に示すように、化学式7の化合物および化学式8の化合物は、対照薬であるイデラリシブよりも高い活性を示した。特に、これらの化合物はp110δに対して特異的な阻害活性を示し、また、p110γに関しては優れた阻害活性を示した。
【0111】
特に、IC50の値としてのPI3Kα/PI3KδおよびPI3Kβ/PI3Kδの比は、化学式7の化合物の場合はそれぞれ412と210で、化学式8の化合物の場合はそれぞれ1488と1800で示された。
【0112】
さらに、化学式7の化合物および化学式8の化合物はデルタ(PI3Kδ)に高い選択性があることが確認された。これらの化合物のそれぞれが、PI3Kγ/PI3Kδの比がそれぞれ51および95を示した。一方で、イデラリシブは約25の比の値を示した。これらの結果から、化学式7および8の化合物はデルタ(PI3Kδ)依存的な癌に関して、有効で十分な活性を有することが確認された。
【表2】
【0113】
<実験例2>
白血病細胞およびリンパ腫株化細胞におけるAKT(セリン473)のリン酸化を減少させる効果を確認する実験
【0114】
(1)実験方法
株化細胞(SUDHL5、SUDHL10、CCRF−SB、MOLT4)を2時間血清飢餓状態にし、次に1μMの化学式7の化合物、化学式8の化合物、イデラリシブ(対照薬1)、TGR1202(対照薬2)、DMSOのそれぞれで1時間処理した。 続いて、細胞を溶解し、サイズに従って分取し、続いてリン酸化Akt(セリン473)に対する抗体で免疫ブロットを行った。
【0115】
(2)実験結果
実験結果を図2に示す。
【0116】
図2に示すように、化学式7の化合物および化学式8の化合物は、様々なびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)や急性リンパ性白血病(ALL)細胞でAKTリン酸化の減少を誘導することが確認された。
【0117】
<実験例3>
白血病細胞およびリンパ腫細胞の増殖を阻害する効果を確認する実験
【0118】
(1)実験方法
PI3K p110δは白血病細胞およびリンパ腫細胞の株化細胞に高く発現しており、細胞の増殖はPI3K p110δを抑制することで阻害される。
【0119】
こうして、化合物が細胞増殖を阻害する効果を確認するための実験を行った。
【0120】
びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に由来する細胞および急性リンパ性白血病(ALL)に由来する細胞を、対照培地に加えて化学式7の化合物、化学式8の化合物、またはイデラリシブとともに48時間培養した。
【0121】
DLBCLに由来する細胞およびALLに由来する細胞に対する細胞増殖の阻害効果を、細胞計数キット−8(CCK−8)染料の吸光度を測定することにより評価した。48時間のうちの最後の3時間の間、10μMのCCK−8染料をそれぞれのプレートに加えて、次に培養した。
【0122】
全てのデータは3回の独立した実験の平均値(±標準偏差)で表現する。
【0123】
(2)実験結果
実験の結果を図3に示す。
【0124】
図3に示すように、DLBCLに由来する細胞およびALLに由来する株化細胞の増殖は0.625μMから20μMの範囲の濃度で減少した。
【0125】
このとき、半数致死濃度(LC50)、つまり50%の細胞が死ぬ化合物の濃度を表3に示す。化学式7の化合物および化学式8の化合物はイデラリシブよりもより低いLC50の値を示すことが確認された。
【表3】
【0126】
<実験例4>
SDS−PAGEによる、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)および急性リンパ性白血病(ALL)細胞のアポトーシスへの効果を確認する実験
【0127】
(1)実験方法
2.6x10個の細胞を、50μMの濃度のイデラリシブ(対照薬)、化学式7の化合物、または化学式8の化合物とともに36時間培養した。次に、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によるタンパク質解析を行った。
【0128】
アポトーシスに関与しているタンパク質である、カスパーゼ3および9PARPタンパク質は通常不活性型の前駆体(FL)として存在している。これらのタンパク質は、アポトーシスを刺激する信号を受け取ることで切断されることにより(CL)活性化される。免疫ブロット解析を、これらに対する抗体を用いて行った。グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)をローディングコントロールとして使用した。
【0129】
(2)実験結果
実験結果を図4に示す。
【0130】
図4に示すように、化学式7の化合物および化学式8の化合物はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)および急性リンパ性白血病(ALL)細胞においてアポトーシスを誘導した。
【0131】
さらに、化学式7の化合物および化学式8の化合物で処理したものは、対照薬(イデラリシブ)で処理したものよりも、より強くアポトーシスを生じた。
【0132】
これらの結果から、化学式7の化合物および化学式8の化合物はアポトーシスによって細胞増殖を阻害することが確認された。
【0133】
<実験例5>
フローサイトメトリーによる、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)および急性リンパ性白血病(ALL)細胞のアポトーシスへの効果を確認する実験
【0134】
(1)実験方法
1x10個のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)細胞および1x10個の急性リンパ性白血病(ALL)細胞を、50μMの濃度の対照薬(イデラリシブ)、化学式7の化合物、および化学式8の化合物それぞれで24時間処理および培養した。 細胞はPBSで洗浄し、次に結合緩衝液に懸濁した。5μlのアネキシンV−FITCのストック溶液(ベクトンディッキンソンサイエンス社)および5μlのPI(20μg/ml)をこれに加え、続いて遮光下で15分間室温で培養した。次に、ターゲットマテリアルをFACScan(登録商標)(ベクトンディッキンソン)でフローサイトメトリーにより定量化した。
【0135】
(2)実験結果
実験の結果を図5に示す。
【0136】
図5に示すように、化学式7の化合物および化学式8の化合物は対照薬(イデラリシブ)よりもより効果的にアポトーシスを誘導することが確認された。
【0137】
<実験例6>
血管形成に対する阻害効果を確認する実験
【0138】
(1)実験方法
化学式7の化合物、化学式8の化合物、および対照薬(イデラリシブ)の血管形成阻害のレベルを比較するため、血管内皮細胞であるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)および内皮細胞増殖培地をライフテクノロジー社から得た。
【0139】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、基底膜マトリクス上で、化学式7の化合物、化学式8の化合物、または対照薬(イデラリシブ)とともに、37℃で培養した。 18時間後に、チューブの形成をサイテーション(登録商標)5蛍光顕微鏡(バイオテック社)を用いて写真撮影し、分枝点によって形成されるエリアの数を、ソフトウェアを用いてカウントした(図6を参照)。
【0140】
(2)実験結果
実験の結果を図7および8に示す。
【0141】
図7に示すように、化学式7の化合物および化学式8の化合物は対照薬(イデラリシブ)よりもより血管形成を阻害した。
【0142】
さらに、図8に示すように、化学式7の化合物および化学式8の化合物はヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞毒性に対して顕著な影響を与えなかった。
【0143】
<実験例7>
ラットでの単回投与の毒性試験
【0144】
(1)実験方法
化学式7の化合物および化学式8の化合物を8匹の6週齢のメスのラットに経口投与して、それらの単回投与の経口毒性を観察し、おおよその致死量を得た。投与量は10mL/kgにセットし、それぞれのラットの投与量を体重に基づいて算出した。それぞれの化合物は100mg/kg、300mg/kg、900mg/kg、1,500mg/kgの用量で投与し、一般的な症状を投与1日後から2日後まで1日1回観察した。
【0145】
(2)実験結果
実験の結果を図9に示す。
【0146】
化学式7の化合物の致死量は1500mg/kg超であり、化学式8の化合物の致死量は1500mg/kgであった。
【0147】
一方、本発明に係る化学式1で示される化合物は様々な形態で処方され得る。 本発明に係る化学式1で示される化合物を有効成分として用いたいくつかの製剤の方法は例示的な目的のみで以下に提供されるが、本発明を制限することを意図しない。
【0148】
<調製例1>
医薬製剤の調製
【0149】
1−1.粉末の調製
化学式1の化合物 500mg
ラクトース 100mg
タルク 10mg
上記の成分を混合し、これらを気密性のパッケージに充填し、粉末を調製した。
【0150】
1−2.錠剤の調製
化学式1の化合物 500mg
コーンスターチ 100mg
ラクトース 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記の成分を混合し、次に錠剤調製の一般的な方法に従って錠剤を調製した。
【0151】
1−3.カプセルの調製
化学式1の化合物 500mg
コーンスターチ 100mg
ラクトース 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記の成分を混合し、次にカプセル調製の一般的な方法に従ってこれらをゼラチンカプセルに充填し、カプセルを調製した。
【0152】
1−4.注射薬の調製
化学式1の化合物 500mg
注射用の滅菌蒸留水 適量
pH調製物 適量
注射薬の一般的な調製方法に従って、上記の成分を単一のアンプル(2mL)に含ませてアンプルを調製した。
【0153】
1−5. 液体の調製
化学式1の化合物 100mg
異性化糖 10g
マンニトール 5g
精製水 適量
それぞれの成分を一般的な液体の調製方法に従って精製水に加えて溶解した。適量のレモンフレーバーを加え、上記の成分を混合した。精製水をこれらに加えて、生じた溶液の全体量が100mlになるように調整した。茶瓶にこれらを充填し、滅菌して液体を調製した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9