(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614770
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】漢方成分含有油剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/076 20060101AFI20191125BHJP
A61K 36/21 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/23 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/232 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/237 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/238 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/284 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/484 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/515 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/59 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/716 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/736 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/804 20060101ALI20191125BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20191125BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20191125BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
A61K36/076
A61K36/21
A61K36/23
A61K36/232
A61K36/237
A61K36/238
A61K36/284
A61K36/484
A61K36/515
A61K36/59
A61K36/65
A61K36/716
A61K36/736
A61K36/752
A61K36/804
A61K36/9068
A61P25/02
A61P29/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-257785(P2014-257785)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-117677(P2016-117677A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】514325022
【氏名又は名称】今井 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】今井 淳
【審査官】
鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−086931(JP,A)
【文献】
特開昭58−085817(JP,A)
【文献】
特開平08−259456(JP,A)
【文献】
特開2010−018594(JP,A)
【文献】
中薬大辞典 第四巻,1985年,p.2454「4933 マユ」
【文献】
医学のあゆみ,2012年,Vol.242, No.12,pp.951-957
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎経活血湯の粉末をゴマ油に浸漬して、疎経活血湯の油溶出部分をゴマ油中に溶出すること、を含む浮腫の減少や痛みの軽減のために用いる漢方成分含有油剤の製法。
【請求項2】
疎経活血湯を煎じた煎じ滓を粉砕して疎経活血湯の粉末を得た後、
得られた粉末をゴマ油に浸漬して、疎経活血湯の油溶出部分をゴマ油中に溶出すること、を含む浮腫の減少や痛みの軽減のために用いる漢方成分含有油剤の製法。
【請求項3】
前記漢方成分含有油剤が外用剤である、請求項1または2に記載の漢方成分含有油剤の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方成分含有油剤に関する。詳しくは、本発明は、漢方薬の油溶出部分からなる漢方成分含有油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
漢方薬は、一般的に複数の生薬をあらかじめ組み合わせた方剤をさす。漢方薬を構成する生薬の組み合わせは、各々の生薬の分量やその比率に理論・意図があり、種々の経験、歴史を経て、効果的で安全な薬として確立されたものが漢方薬である。例えば、「葛根湯」という漢方薬は、「葛根・麻黄・桂枝・芍薬・生姜・大棗(タイソウ)・甘草」という生薬で構成されている。
【0003】
これらの漢方薬は、水やお湯を加えて煎じた液を服用するものであり、煎じた後の滓(煎じ滓)は利用されることなく廃棄されている。
【0004】
生薬は、漢方薬を構成する原料であり、薬草の根・葉・皮・果実・種等を用いる。この生薬には水溶性部分だけでなく精油などの水に不溶な成分があることは知られており、西洋では精油に着目してハーブアロマとして、美容等に用いられている。
【0005】
特許文献1(特開2001−86931号公報)には、生薬ウコンの精油等の油溶性成分を食用油脂中に溶出させて腸に吸収されやすくすること、ウコン特有の異臭と苦味を除いた食用油脂の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−86931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生薬を組合せた漢方薬の油溶出部分に着目し、漢方薬の油溶出部分を含む製剤を提供するものである。また本発明は、疎経活血湯の油溶出部分を含む外用鎮痛製剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、漢方薬の油溶出部分を含む植物油からなる漢方成分含有油剤である。
【0009】
さらに本発明は、疎経活血湯の油溶出部分を含む植物油からなる疎経活血湯含有鎮痛外用油剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、漢方薬の油溶出部分を含む製剤を提供することが可能となる。また本発明により、従来は廃棄されていた漢方薬の煎じ滓の油溶出部分を含む製剤を提供することが可能となる。
【0011】
さらに本発明により、疎経活血湯の油溶出部分を含む植物油からなる疎経活血湯含有鎮痛外用油剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、漢方薬の油溶出部分を含む植物油からなる漢方成分含有油剤に関する。
【0013】
本発明に用いる漢方薬は、薬局方記載の生薬を組合せたものを用いることができる。漢方薬としては、例えば、葛根湯、葛根湯加川キュウ辛夷、乙字湯、安中散、十味敗毒湯、八味地黄丸、大柴胡湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏瀉心湯、黄連解毒湯、半夏厚朴湯、五苓散、桂枝加朮附湯、小青竜湯、防已黄耆湯、小半夏加茯苓湯、消風散、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桂枝加竜骨牡蛎湯、麻黄湯、越婢加朮湯、麦門冬湯、真武湯、呉茱萸湯、人参湯、大黄牡丹皮湯、白虎加人参湯、四逆散、木防已湯、半夏白朮天麻湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、苓桂朮甘湯、猪苓湯、補中益気湯、六君子湯、桂枝湯、七物降下湯、釣藤散、十全大補湯、荊芥連翹湯、潤腸湯、ヨク苡仁湯、疎経活血湯、抑肝散、麻杏甘石湯、五淋散、温清飲、清上防風湯、治頭瘡一方、桂枝加芍薬湯、桃核承気湯、防風通聖散、五積散、炙甘草湯、帰脾湯、参蘇飲、女神散、芍薬甘草湯、茯苓飲、香蘇散、四物湯、甘麦大棗湯、柴陥湯、調胃承気湯、四君子湯、竜胆瀉肝湯、キュウ帰膠艾湯、麻杏ヨク甘湯、平胃散、柴胡清肝湯、二陳湯、桂枝人参湯、抑肝散加陳皮半夏、大黄甘草湯、神秘湯、当帰飲子、六味丸、二朮湯、治打撲一方、清肺湯、竹ジョ温胆湯、滋陰至宝湯、滋陰降火湯、五虎湯、柴朴湯、大防風湯、黄耆建中湯、小建中湯、大建中湯、升麻葛根湯、当帰湯、酸棗仁湯、辛夷清肺湯、通導散、温経湯、牛車腎気丸、人参養栄湯、小柴胡湯加桔梗石膏、立効散、清心蓮子飲、猪苓湯合四物湯、三黄瀉心湯、胃風湯、胃苓湯、茵陳蒿湯、茵陳五苓散、温胆湯、黄耆建中湯、黄ゴン湯、応鐘散、黄連阿膠湯、黄連湯、化食養脾湯、葛根黄連黄ゴン湯、葛根紅花湯、加味温胆湯、加味帰脾湯、加味逍遙散合四物湯、乾姜人参半夏丸、甘草瀉心湯、甘草湯、桔梗湯、帰耆建中湯、キュウ帰調血飲、響声破笛丸、杏蘇散、苦参湯、駆風解毒湯、桂枝加黄耆湯、桂枝加葛根湯、桂枝加厚朴杏仁湯、桂枝加芍薬生姜人参湯、桂枝加芍薬大黄湯、桂枝加苓朮附湯、桂枝茯苓丸加ヨク苡仁、啓脾湯、荊防敗毒湯、桂麻各半湯、鶏鳴散加茯苓、堅中湯、甲字湯、香砂平胃散、香砂六君子湯、厚朴生姜半夏人参甘草湯、五虎湯、牛膝散、五物解毒散、柴芍六君子湯、柴朴湯、三黄散、三物黄ゴン湯、紫雲膏、四逆散、柿蒂湯、鷓胡菜湯、生姜瀉心湯、小建中湯、小承気湯、小青竜湯加石膏、小青竜湯合麻杏甘石湯、升麻葛根湯、逍遙散、四苓湯、参苓白朮散、清肌安蛔湯、清暑益気湯、清上ケン痛湯、折衝飲、千金鶏鳴散、銭氏白朮散、大建中湯、大半夏湯、中黄膏、猪苓湯合四物湯、当帰建中湯、当帰散、当帰四逆湯、当帰貝母苦参丸、独活葛根湯、独活湯、理中丸、排膿散、排膿湯、白虎桂枝湯、白虎湯、不換金正気散、茯苓飲加半夏、茯苓飲合半夏厚朴湯、茯苓沢瀉湯、分消湯、防已黄耆湯、補気建中湯、麻子仁丸、苓桂甘棗湯及び苓桂朮甘湯を挙げることができる。
これらの中でも、疎経活血湯を好ましいものとして挙げることができる。
疎経活血湯を用いる場合、本発明の油剤は、例えば、関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛、浮腫、ならびに浮腫に起因する痛み等に効果がある。
【0014】
本発明に用いる漢方薬は、漢方薬を粉砕して細末とし、抽出用の植物油に浸漬して、その上澄みをそのまま、あるいは希釈して使用することができる。
この際、処方そのものを粉砕した漢方薬の細末を用いてもよく、水やお湯などの水性溶媒により煎じた後の煎じ滓を粉砕した漢方薬の細末を用いても良い。煎じ滓を用いることで漢方薬を有効に利用することができ、資源の有効活用、ゴミの減量にも貢献できる。
【0015】
本発明に用いる植物油は、植物由来の油を使用することができる。
植物油としては、例えば、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ピーナッツ油、菜種油、サフラワー油(紅花油)、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、アーモンド油、カシュー油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、モンゴンゴ油、ペカン油、松の実油、ピスタチオ油、クルミ油、ヒョウタン実油、バッファローカボチャ油、カボチャ実油、スイカ実油、アサイーベリーエキス、カシス油、ルリジサ種子油、月見草油、アマランサス油、あんず種子油、リンゴ油、アルガン油、アーティチョーク油、アボカド油、ババス油、モリンガ油、ボルネオ脂、ケープ栗油、ココアバター、キャロブ油、コフネヤシ油、コリアンダー種油、ディカ油、アマナズナ油、アマニ油、グレープシード油、ヘンプ油、カポック実油、ラッレマンチア油、マルーラ油、メドウフォーム油、カラシ油、ナツメグバター、オクラ油、パパイヤ油、シソ油、ペクイ油、松の実油、ケシ油、プルーン油、キヌア油、ニガー種子油、こめ油、サッチャインチ油、ツバキ油、アザミ油、トマト油、コムギ油、カブ油、ブドウ油、ヤシの実油、スクワレン油、及びホホバ油を挙げることができる。
これらの中でも、ゴマ油、スクワレン油、ホホバ油、グレープシード油、スイートアーモンド油、及びセサミ油を好ましいものとして挙げることができる。
【0016】
本発明において、漢方薬粉砕物を浸漬する植物油の温度は、0℃から80℃、または1℃から30℃(室温)とすることができる。
本発明において、漢方薬の細末を植物油に浸漬する時間は、細末の細かさ、植物油の温度、漢方薬の種類などに応じて、適宜選択することができる。好ましくは、1時間から1ヶ月程度、あるいは、1日から14日程度である。
【0017】
本発明の漢方成分含有油剤は、経口または非経口により投与することが可能である。必要に応じて漢方薬の溶出に用いる油と同じ油、または異なる油で希釈して使用してもよい。希釈に用いる油として、上述の植物油を用いることができる。
経口投与の場合は、カプセル等に充填し、カプセル製剤として服用することができ、非経口投与の場合は、患部またはその周辺の皮膚に塗布する外用(経皮投与)剤として適用することができる。
【0018】
本発明のカプセル製剤に用いるカプセルは、当業者に周知の方法により製造しても、商業的に入手可能なものを用いてもよい。カプセルの素材は、特に限定されないが、例えば、ゼラチン等を用いることができる。さらに、カプセルの素材には、必要に応じて可塑剤、保存剤、分散剤、その他公知の添加剤を加えることができる。
【0019】
本発明の油剤を外用剤として用いる場合、患部に直接適用できるため、即効性に優れ、消化器系の副作用を排除することができる。
外用の場合は、油剤を直接塗布しても良いが、ハップ剤やテープ剤のような貼付剤として用いても良い。その場合、本発明の油剤以外に、基材や界面活性剤、防腐剤、抗酸化剤、pH調整剤等の添加物を加えることができる。
【0020】
本発明の漢方成分含有油剤は、水等で煎じて用いる漢方薬の煎じ液の成分とは異なる、水等では抽出できない油性の成分や揮発性の成分を含んでいる。すなわち本発明の油剤は、同じ漢方薬を煎じた煎じ液とは、全体として構成が異なるほか、その含有比率が異なる。そのため、同じ漢方薬であっても煎じ液の場合とは異なる薬効を発揮する。
【0021】
本発明は、疎経活血湯の油溶出部分を含む植物油からなる疎経活血湯含有鎮痛外用油剤に関する。
疎経活血湯を粉砕して細末とし、抽出用の植物油に浸漬してその上澄みをそのまま、あるいは希釈して使用する。この際、処方そのものを粉砕した疎経活血湯の細末を用いてもよく、煎じ滓を粉砕した疎経活血湯の細末を用いても良い。煎じ滓を用いることで疎経活血湯を有効に利用することができ、資源の有効活用、ゴミの減量にも貢献できる。
植物油は、上述の植物油を用いることができる。
【0022】
本発明の疎経活血湯含有鎮痛外用油剤は、例えば、関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛、または浮腫に起因する痛み等に効果がある。本発明の製剤は、外用の油剤であるため、痛みのある部分のみに適用することができ、即効性に優れ、経口投与の際に生じる消化器系や全身性の副作用を避けることができる。
また、症状や適用部位に応じて、本発明の外用油剤を適用しながら、あるいは適用した後、マッサージを行うことでさらに効果を促進することができる。
【実施例】
【0023】
疎経活血湯を粉砕器で砕き、16号篩を通過させて細末とした。この細末100gをゴマ油200gに加え、室温で10日間浸漬し、濾過して濾液を得た。この濾液100gをとり、スクワラン油100gを加えて疎経活血湯油を作成した。この疎経活血湯油を、足首を捻挫して浮腫及び痛みのある部位に塗布したところ、浮腫が減少し、痛みが軽減された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の漢方成分含有油剤ならびに疎経活血湯含有鎮痛外用油剤は、治療剤や漢方処方製剤として利用することができる。本発明の漢方成分含有油剤ならびに疎経活血湯含有鎮痛外用油剤は、鎮痛効果あるいは浮腫に効果を有する治療剤や漢方処方製剤として利用することができる。