(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614840
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20191125BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20191125BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/16 503
H01L21/60 301C
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-145602(P2015-145602)
(22)【出願日】2015年7月23日
(65)【公開番号】特開2017-24276(P2017-24276A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知広
【審査官】
高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−154709(JP,A)
【文献】
特開平10−004113(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0065963(US,A1)
【文献】
特開2012−116064(JP,A)
【文献】
特開平04−120745(JP,A)
【文献】
特開2015−077732(JP,A)
【文献】
特開2011−093299(JP,A)
【文献】
特開2011−240522(JP,A)
【文献】
特開2006−297753(JP,A)
【文献】
特開平10−044441(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0183265(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101920597(CN,A)
【文献】
特開2012−134276(JP,A)
【文献】
特開2011−251416(JP,A)
【文献】
特開2008−120056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01−2/215H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する記録素子基板と、液体を吐出するための電気信号を前記記録素子基板に供給する電気配線基板と、前記記録素子基板に設けられた複数の電極端子と前記電気配線基板に設けられた複数の接続端子とを電気的に接続する複数のワイヤーと、前記複数の電極端子と前記複数の接続端子と前記複数のワイヤーとを含む電気接続部を封止する封止材とを有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数のワイヤーからなるワイヤー列の配列方向の一端部に位置する少なくとも1つのワイヤーは、前記ワイヤー列の他のワイヤーよりも線径が大きいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記少なくとも1つのワイヤーは、前記他のワイヤーよりも、前記電極端子への接続点と前記接続端子への接続点との直線距離に対する長さの割合が小さい、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
液体を吐出する記録素子基板と、液体を吐出するための電気信号を前記記録素子基板に供給する電気配線基板とを有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記記録素子基板に複数の電極端子を形成し、前記電気配線基板に複数の接続端子を形成する工程と、前記複数の電極端子と前記複数の接続端子とをワイヤーボンディングにより電気的に接続し、複数のワイヤーからなるワイヤー列を形成する工程と、前記複数の電極端子と前記複数の接続端子と前記複数のワイヤーとを含む電気接続部を封止材で封止する工程とを含み、
前記ワイヤー列を形成する工程が、前記ワイヤー列の配列方向の一端部に位置する少なくとも1つのワイヤーの長さを、前記ワイヤー列の他のワイヤーの長さよりも短くすることを含み、
前記電気接続部を封止する工程が、前記配列方向に対して前記少なくとも1つのワイヤーの外側を起点とし、前記配列方向に沿って、前記電気接続部を覆うように液状の硬化性樹脂を塗布することを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記ワイヤー列を形成する工程が、前記少なくとも1つワイヤーの、前記電極端子への接続点と前記接続端子への接続点との直線距離に対する長さの割合を、前記他のワイヤーの前記割合よりも小さくすることを含む、請求項3に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記複数の電極端子および前記複数の接続端子を形成する工程が、前記少なくとも1つのワイヤーに接続される端子を、前記記録素子基板への電気信号の供給に寄与しないダミー端子として形成することを含む、請求項3または4に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
液体を吐出する記録素子基板と、液体を吐出するための電気信号を前記記録素子基板に供給する電気配線基板とを有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記記録素子基板に複数の電極端子を形成し、前記電気配線基板に複数の接続端子を形成する工程と、前記複数の電極端子と前記複数の接続端子とをワイヤーボンディングにより電気的に接続し、複数のワイヤーからなるワイヤー列を形成する工程と、前記複数の電極端子と前記複数の接続端子と前記複数のワイヤーとを含む電気接続部を封止材で封止する工程とを含み、
前記ワイヤー列を形成する工程が、前記ワイヤー列の配列方向の一端部に位置する少なくとも1つのワイヤーの線径を、前記ワイヤー列の他のワイヤーの線径よりも大きくすることを含み、
前記電気接続部を封止する工程が、前記配列方向に対して前記少なくとも1つのワイヤーの外側を起点とし、前記配列方向に沿って、前記電気接続部を覆うように液状の硬化性樹脂を塗布することを含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記ワイヤー列を形成する工程が、前記少なくとも1つワイヤーの、前記電極端子への接続点と前記接続端子への接続点との直線距離に対する長さの割合を、前記他のワイヤーの前記割合よりも小さくすることを含む、請求項6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記電気接続部を封止する工程が、前記配列方向に対して前記少なくとも1つのワイヤーの外側に、液状の硬化性樹脂を滴下し、その後、該滴下した硬化性樹脂を起点とし、前記配列方向に沿って、前記電気接続部を覆うように液状の硬化性樹脂を塗布することを含む、請求項3から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドの記録素子基板と電気配線基板とを電気的に接続する方法の一つにワイヤーボンディングがある。ワイヤーボンディングは、金、銅、アルミニウムなどのワイヤーを用いて、記録素子基板上の電極端子と電気配線基板上の接続端子とを電気的に接続する方法である。
液体吐出ヘッドでは、使用時の発熱や使用環境の変化により、記録素子基板や電気配線基板の温度が変化して、これらの部品に熱収縮が発生する。この熱収縮の影響により、記録素子基板と電気配線基板との距離が変化すると、記録素子基板と電気配線基板とを接続するワイヤーに応力がかかる。特に、記録素子基板と電気配線基板との距離が大きくなると、ワイヤーには破断方向(長手方向)に応力がかかり、ワイヤーが破断するという問題が発生することがある。
これに対し、特許文献1には、ボンディングワイヤーに意図的に大きなたるみをもたせることで、ワイヤーの長手方向に応力がかかっても、その応力を吸収してワイヤーの破断を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-12596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術を液体吐出ヘッドに適用した場合、上述したように、ワイヤーの長手方向に作用する応力に対しては有効であるが、横方向から作用する外力(荷重)に対しては有効ではない。すなわち、記録素子基板と電気配線基板とを接続する複数のワイヤー(ワイヤー列)のそれぞれに大きなたるみをもたせた場合、横方向からの荷重に対してワイヤーが横倒れしやすいため、隣接するワイヤー同士が接触してショートするという問題が発生する。このような問題は、複数のワイヤーを含む記録素子基板と電気配線基板との電気接続部を封止材で封止する工程において、ディスペンサーを用いてワイヤー列の配列方向の外側から高粘度の液状封止材を塗布する場合に特に顕著である。この場合、高粘度の封止材を塗布するために高圧力を必要とするため、ディスペンスニードルの先端から吐出される封止材は、圧力が解放されてニードルの周囲に勢いよく飛び出し、ワイヤー列の端部のワイヤーに横方向から荷重を加えることになる。
そこで、本発明の目的は、ボンディングワイヤーに対して横方向から荷重が加えられても、隣接するワイヤー同士の接触を抑制して、信頼性の高い液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する記録素子基板と、液体を吐出するための電気信号を記録素子基板に供給する電気配線基板と、記録素子基板に設けられた複数の電極端子と電気配線基板に設けられた複数の接続端子とを電気的に接続する複数のワイヤーと、複数の電極端子と複数の接続端子と複数のワイヤーとを含む電気接続部を封止する封止材とを有
し、複数のワイヤーからなるワイヤー列の配列方向の一端部に位置する少なくとも1つのワイヤーは、ワイヤー列の他のワイヤーよりも線径が大きい。
また、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、液体を吐出する記録素子基板と、液体を吐出するための電気信号を記録素子基板に供給する電気配線基板とを有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、記録素子基板に複数の電極端子を形成し、電気配線基板に複数の接続端子を形成する工程と、複数の電極端子と複数の接続端子とをワイヤーボンディングにより電気的に接続し、複数のワイヤーからなるワイヤー列を形成する工程と、複数の電極端子と複数の接続端子と複数のワイヤーとを含む電気接続部を封止材で封止する工程とを含んでいる。本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の一態様では、ワイヤー列を形成する工程が、ワイヤー列の配列方向の一端部に位置する少なくとも1つのワイヤーの長さを、ワイヤー列の他のワイヤーの長さよりも短くすることを含み、電気接続部を封止する工程が、配列方向に対して少なくとも1つのワイヤーの外側を起点とし、配列方向に沿って、電気接続部を覆うように液状の硬化性樹脂を塗布することを含んでいる。本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の他の態様では、ワイヤー列を形成する工程が、ワイヤー列の配列方向の一端部に位置する少なくとも1つのワイヤーの線径を、ワイヤー列の他のワイヤーの線径よりも大きくすることを含み、電気接続部を封止する工程が、配列方向に対して少なくとも1つのワイヤーの外側を起点とし、配列方向に沿って、電気接続部を覆うように液状の硬化性樹脂を塗布することを含んでいる。
このような液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法によれば、ワイヤー列の端部に位置するワイヤーは、他のワイヤーと比べて、相対的に長さが短く、または線径が大きいため、横方向への可動量を小さくすることができる。したがって、端部のワイヤーは、ワイヤー列の外側から横方向の荷重を受けたとしても横倒れしにくいため、隣接するワイヤーと接触してショートを発生させることはない。また、端部のワイヤーは、ワイヤー列の外側からの横方向の荷重に対する防波堤の役割を果たすため、他のワイヤーに横方向の荷重が伝わるのを低減することができ、他のワイヤーの横倒れも抑制することができる。
【発明の効果】
【0006】
以上、本発明によれば、ボンディングワイヤーに対して横方向から荷重が加えられても、隣接するワイヤー同士の接触を抑制して、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図である。
【
図2】本実施形態の液体吐出ヘッドの要部の斜視図である。
【
図3】本実施形態の液体吐出ヘッドの要部の平面図および断面図である。
【
図4】第1の塗布工程後の液体吐出ヘッドの要部の平面図および断面図である。
【
図5】第2の塗布工程における液体吐出ヘッドの要部の平面図である。
【
図6】第2の塗布工程後の液体吐出ヘッドの要部の平面図および断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの要部の平面図である。
【
図8】各塗布工程における液体吐出ヘッドの要部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図である。
液体吐出ヘッド10は、
図1に示すように、支持部材1と、記録素子基板2と、電気配線基板3と、第1の封止材4と、第2の封止材5とを有している。記録素子基板2および電気配線基板3は、記録素子基板2が電気配線基板3に形成された開口部(
図1には図示せず)内に位置するように、支持部材1に接合されている。記録素子基板2と電気配線基板3の開口部との隙間は、第1の封止材4によって封止され、記録素子基板2と電気配線基板3との電気接続部は、第2の封止材5によって封止されている。
【0010】
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッドの要部を示す斜視図である。
図3(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッドの要部を示す平面図である。
図3(b)は、
図3(a)のA−A線に沿った断面図であり、
図3(c)は、
図3(a)のB−B線に沿った断面図である。なお、
図2および
図3では、簡単のために、第1および第2の封止材の図示を省略している。
記録素子基板2および電気配線基板3は、接着剤5によって支持部材1に接合されている。記録素子基板2には、インクなどの液体を吐出する複数の吐出口21と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子(図示せず)と、エネルギー発生素子に電力を供給するパッド状の複数の電極端子22とが形成されている。複数の電極端子22は、記録素子基板2の長手方向の両端部に、長手方向と直交する方向に沿って配列されている。電気配線基板3には、記録素子基板2を受け入れる開口部31と、記録素子基板2の電極端子22に対して、液体を吐出するための電気信号を供給するリード状の複数の接続端子32とが形成されている。複数の接続端子32は、開口部31の周縁の、記録素子基板2の電極端子22に対向する位置に配置され、電極端子22の配列方向に沿って配列されている。
【0011】
複数の電極端子22と複数の接続端子32とは、金からなるワイヤーを用いたワイヤーボンディングによって電気的に接続されている。すなわち、液体吐出ヘッド10は、複数の電極端子22と複数の接続端子32とを接続する複数のワイヤー6a,6bを有している。複数のワイヤー6a,6bは、電極端子22および接続端子32の配列方向に沿ってワイヤー列6を構成している。複数のワイヤー6a,6bは、ワイヤー列6の配列方向Xの一端部に位置する第1のワイヤー6aと、それ以外の複数の第2のワイヤー6bとを含んでいる。第1のワイヤー6aは、
図3(b)に示すように相対的に長さが短く、後述するように、封止材の塗布時に荷重を受けて横方向に可動したとしても、その可動量を小さくすることができる。第2のワイヤー6bは、
図3(c)に示すように相対的に長さが長く、記録素子基板2や電気配線基板3の熱収縮によって長手方向に応力が加えられた場合でも、その応力を緩和することができる。第1のワイヤー6aの長さは、一例として、1.80mmであり、第2のワイヤー6bの長さは、一例として、1.90〜1.95mmである。
なお、複数の電極端子22は、記録素子基板2の短手方向の両端部に、短手方向と直交する方向に沿って配列されていてもよい。また、ワイヤーボンディングには、ボールボンディング方式やウエッジボンディング方式などがあるが、本実施形態では、ボールボンディング方式が用いられている。また、ワイヤー6a,6bの材質としては、ワイヤーボンディングの方式に応じて、金の他に、例えば、銅やアルミニウムなどを用いることができる。ワイヤー6a,6bの線径は、一例として、25μmである。
【0012】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。ここでは、特に、第1の封止材を塗布する第1の塗布工程と、第2の封止剤を塗布する第2の塗布工程とについて説明する。
図4(a)は、第1の塗布工程後の液体吐出ヘッドの要部を示す平面図である。
図4(b)は、
図4(a)のA−A線に沿った断面図であり、
図4(c)は、
図4(a)のB−B線に沿った断面図である。
図5は、第2の塗布工程における液体吐出ヘッドの要部を示す平面図である。
図6(a)は、第2の塗布工程後の液体吐出ヘッドの要部を示す平面図であり、
図6(b)は、
図6(a)のA−A線に沿った断面図である。
【0013】
図4に示す第1の塗布工程では、ディスペンサー(図示せず)を用い、記録素子基板2と電気配線基板3の開口部31との隙間7(
図3(a)参照)に、低粘度(例えば粘度10Pa・s)の熱硬化型エポキシ樹脂からなる第1の封止材4を塗布する。このとき、第1の封止材4は、低粘度であることから、そのメニスカス力により、
図4(b)および
図4(c)に示すように、ワイヤー6a,6bと電極端子22との隙間や、ワイヤー6a,6bと接続端子32との隙間に浸入する。その結果、絶縁性物質である第1の封止材4によって、ワイヤー6a,6bの下部に形成される空間を隙間なく満たすことができる。
第1の封止材4としては、電気絶縁性に富んだ低粘度の液状硬化性樹脂であればよく、エポキシ樹脂の他、例えば、アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、イミド樹脂、アミド樹脂などを用いることができる。
【0014】
図5および
図6に示す第2の塗布工程では、ディスペンサーを用い、電極端子22と接続端子32とワイヤー6a,6bとを含む電気接続部40(
図3(a)参照)に、第2の封止材5を塗布する。具体的には、ディスペンスニードル11を、第1のワイヤー6aの外側を起点としてワイヤー列6の配列方向Xに沿って一往復しながら、第2の封止材5を塗布する。ここで、ディスペンスニードル11の内径は、例えば、1mmであり、ディスペンサーの吐出圧力は、例えば、0.3MPaである。こうして、
図6に示すように、絶縁性物質である第2の封止材5によって、記録素子基板2と電気配線基板3との電気接続部40を覆うことができる。
第2の封止材5には、記録素子基板2と電気配線基板3との電気接続部40を外力から保護するとともに、液体の接触による電気接続部40の腐食を防止する機能が求められる。したがって、第2の封止材5は、第1の封止材4と同様、電気絶縁性に富んだ硬化性樹脂であることが好ましい。また、第2の封止材5は、その後の硬化工程において硬化するまでその形状を保持し、記録素子基板2と電気配線基板3との電気接続部40を覆った状態を維持できるように、高粘度の液状硬化性樹脂であることが好ましい。第2の封止材5としては、例えば粘度200Pa・sの熱硬化型エポキシ樹脂を用いることができる。
【0015】
その後、100℃で3時間の加熱工程を行い、第1の封止材4および第2の封止材5を硬化させる。そして、液体を保持する吸収部材を収容し、液体を充填して、
図1に示す液体吐出ヘッド10が完成する。なお、封止材の硬化方法としては、加熱による熱硬化の他、2液混合硬化(硬化剤の混合による硬化)、紫外線照射によるUV硬化などを用いることができる。
【0016】
ここで、本実施形態の液体吐出ヘッドにおける第1のワイヤーの効果について説明する。
第2の塗布工程(
図5参照)において、加圧された第2の封止材5は、ディスペンスニードル11の先端から吐出される際に、その圧力が瞬時に解放されるため、ディスペンスニードル11の周囲に勢いよく飛び出し、第1のワイヤー6aに接触する。高粘度の第2の封止材5が接触することで、第1のワイヤー6aには横方向の荷重が加えられる。しかしながら、第1のワイヤー6aは、長さが短いため、第2の封止材5から荷重を受けて横方向に可動したとしても、その可動量を小さくすることができる。すなわち、第1のワイヤー6aは、横方向から荷重を受けても横倒れしにくくなっているため、隣接する第2のワイヤー6bと接触してショートを発生させることはない。
【0017】
なお、ワイヤーの横倒れを抑制するためには、例えば、ディスペンサーの吐出圧力を下げるなどして、封止材がディスペンスニードルの周囲に飛び出す勢いを低減させて、ワイヤーに加えられる荷重自体を低減することも考えられる。しかしながら、封止材の吐出圧力を低下させると、封止材の吐出速度が低下してしまい、塗布工程に要する時間が長くなることで、生産性が低下してしまう。これに対し、本実施形態によれば、第1のワイヤー6aに横倒れしにくい構成を採用し、第1のワイヤー6aの側から高粘度の第2の封止材5の塗布(吐出)を開始することで、その吐出速度を低下させる必要がない。そのため、本実施形態は、ショートの発生を抑制するために、塗布工程の所要時間が長くなることがなく、生産性を低下させることがない点で有利である。
また、第1のワイヤー6aは、横方向への可動量が小さいため、ディスペンスニードル11から吐出される第2の封止材5の勢いを弱める防波堤の役割も果たしている。したがって、第1のワイヤー6aは、第2の封止材5による横方向から荷重が第2のワイヤー6bに伝わるのを低減することで、第2のワイヤー6bの横倒れを抑制できる点でも有利である。
【0018】
以上、本実施形態では、第1のワイヤー6aとして、ワイヤー列6の配列方向Xの一端部に位置する1本のワイヤーのみ長さを短くした例について説明したが、これに限られるものではない。例えば、1本だけでなく複数本のワイヤーの長さを短くすることも効果的である。また、第2の封止材5の塗布方法によっては、配列方向Xの一端だけでなく両端のワイヤーの長さを短くすることが効果的な場合もある。この場合も、それぞれ1本以上のワイヤーの長さを短くすることができる。
また、第1のワイヤー6aは、長さが短いことで、記録素子基板2や電気配線基板3の熱収縮によって長手方向(破断方向)に大きな応力を受けやすい。そのため、第1のワイヤー6aの破断が懸念される場合には、第1のワイヤー6aに接続される端子を、記録素子基板2と電気配線基板3との間の電気的な接続に寄与しないダミー端子とする方法も有効である。すなわち、第1のワイヤー6aを、ダミー端子同士を接続するダミーワイヤーとすることで、封止材の塗布工程後に記録素子基板2や電気配線基板3の熱収縮により第1のワイヤー6aが破断しても、液体吐出ヘッド10の信頼性に影響を及ぼすことはない。
【0019】
第1のワイヤー6aの横方向への可動量を小さくして横倒れしにくくする方法としては、上述したワイヤーの長さを相対的に短くする方法に限られるものではなく、他の方法を用いることもできる。例えば、第1のワイヤー6aのたるみ度合いを相対的に小さくすることで、第1のワイヤー6aを横倒れしにくくすることができる。ここで、ワイヤーのたるみ度合いは、ボンディング点b1とボンディング点b2との直線距離に対する、ワイヤーの長さの割合で定義される。ボンディング点b1は、電極端子22上のボンディング点(接続点)であり、ボンディング点b2は、接続端子32上のボンディング点(接続点)である(
図3(a)および
図3(b)参照)。第1のワイヤー6aのたるみ度合いは、一例として、1.08であり、このときの第1のワイヤー6aの長さは1.95mmであり、ボンディング点b1とボンディング点b2との直線距離は1.80mmである。一方、第2のワイヤー6bのたるみ度合いは、一例として、1.15〜1.20であり、このときのボンディング点b1とボンディング点b2との直線距離は1.70〜1.90mmである。
この変形例においても、長さを短くする場合と同様に、ワイヤー列6の一端だけでなく、両端のワイヤーのたるみ度合いを小さくすることが有効であり、それぞれ1本以上のワイヤーのたるみ度合いを小さくすることも有効である。また、たるみ度合いを小さくしたワイヤーをダミーワイヤーとすることも同様に有効である。
【0020】
第1のワイヤー6aを横倒れしにくくする他の方法として、第1のワイヤー6aの線径を相対的に大きくすることで、ワイヤー自体の剛性を高める方法も有効である。これにより、第1のワイヤー6aに横方向から荷重が加えられても、第1のワイヤー6aはほとんど横倒れすることなく、したがって、隣接する第2のワイヤー6bに接触することもない。第1のワイヤー6aの線径は、一例として、50μmであり、第2のワイヤー6bの線径は、一例として、25μmである。なお、このときの第1および第2のワイヤー6a,6bの長さは、一例として、共に1,900〜1,950μmであり、第1および第2のワイヤー6a,6bのたるみ度合いは、一例として、共に1.15〜1.20である。
なお、この変形例においても、ワイヤー列6の一端だけでなく、両端のワイヤーの線径を大きくすることが有効であり、それぞれ1本以上のワイヤーの線径を大きくすることも有効である。また、線径を大きくしたワイヤーのたるみ度合いを小さくすることで、ワイヤーをより横倒れしにくくすることもできる。
【0021】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの要部を示す平面図である。
本実施形態は、電気配線基板3に開口部が形成されておらず、記録素子基板2の周囲に第1の封止材を充填する隙間が形成されていない点で第1の実施形態と異なっている。これに伴い、本実施形態では、第1のワイヤー6aがワイヤー列6の一端だけでなく両端に設けられており、第1および第2の塗布工程の前に新たな封止材の塗布工程が追加されている。以下では、本実施形態で追加された予備塗布工程と、その後の第1および第2の塗布工程について説明する。
図8は、各塗布工程における液体吐出ヘッドの要部を示す平面図である。
図8(a)および
図8(b)に示す予備塗布工程では、ディスペンスニードル11を用い、記録素子基板2と電気配線基板3との間であってワイヤー列6の両端の第1のワイヤー6aの外側に、補助封止材8をポッティング(滴下)する。補助封止材8は、第2の封止材と同様に、電気絶縁性に富んだ硬化性樹脂であるとともに、その後の硬化工程において硬化するまでその形状を保持できるように、高粘度であることが好ましい。補助封止材8としては、例えば粘度200Pa・sの熱硬化型エポキシ樹脂を用いることができる。
高粘度の補助封止材8は、第2の封止材と同様に、ディスペンスニードル11の先端から吐出される際に、その周囲に勢いよく飛び出すため、ワイヤー列6の両端の第1のワイヤー6aに接触して横方向に荷重を加える。しかしながら、第1のワイヤー6aは、長さが短いため、横方向から荷重を受けても横倒れしにくく、隣接する第2のワイヤー6bと接触してショートを発生させることはない。
その後、
図8(c)に示す第1の塗布工程において、第1の実施形態と同様に、ワイヤー列6の下部に形成される空間を隙間なく満たすように、低粘度の液状硬化性樹脂からなる第1の封止材4を塗布する。このとき、第1の封止材4は、補助封止材8でせき止められ、上記空間から漏れ出すことはない。そして、
図8(d)に示す第2の塗布工程において、第1の実施形態と同様に、記録素子基板2と電気配線基板3との電気接続部40(
図7参照)を覆うように、高粘度の液状硬化性樹脂からなる第2の封止材5を塗布する。
なお、本実施形態においても、ワイヤー列6の両端の1本ずつだけでなく、複数本ずつ第1のワイヤー6aとすることができる。また、第1のワイヤー6aに対して、ワイヤーのたるみ度合いを小さくしたり、ワイヤーの線径を大きくしたりすることができ、線径を大きくしたワイヤーのたるみ度合いを小さくすることもできる。
【符号の説明】
【0022】
2 記録素子基板
3 電気配線基板
6 ワイヤー列
6a 第1のワイヤー
6b 第2のワイヤー