【実施例】
【0054】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕(触媒Aの調製)
酸化ジルコニウム(日本電工社製「N−PC」、比表面積28m
2/g)を空気中で700℃で6時間焼成して、焼成酸化ジルコニウム(比表面積17m
2/g)を得た。
ジニトロジアンミン白金(Pt(NO
2)
2(NH
3)
2; 白金 60.5%含有)10gを20%硝酸50gに加熱溶解して、白金として10.1質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液を得た。
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウム(Ir(NO
3)
4)の希硝酸溶液(10.84g)と前記の白金として10.1質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(5.94g)とを混合し、純水(10ml)で希釈して硝酸酸性水溶液を調整した。この硝酸酸性水溶液に前記の焼成酸化ジルコニウム30gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒A)を得た。この触媒Aの比表面積は17m
2/gであった。
【0056】
〔実施例2〕(触媒Bの調製)
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウム(Ir(NO
3)
4)の希硝酸溶液(12.64g)と白金として10.1質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(6.93g)とを混合し、純水(16ml)で希釈して硝酸酸性水溶液を得た。この硝酸酸性水溶液をホットプレートを用いて撹拌しながら液温を75℃に60分保って熟成させた。熟成した硝酸酸性水溶液を、実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム35gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒B)を得た。この触媒Bの比表面積は17m
2/gであった。
【0057】
〔実施例3〕(触媒Cの調製)
熟成の条件を液温85℃で80分としたほかは実施例2と同様にして3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒C)を得た。
【0058】
〔実施例4〕(触媒Dの調製)
熟成の条件を室温(約25℃)で22日間としたほかは実施例2と同様にして3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒D)を得た。
【0059】
〔実施例5〕(触媒Eの調製)
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウム(Ir(NO
3)
4)の希硝酸溶液(7.59g)と白金として10.1質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(4.12g)とを混合し、純水(9ml)で希釈し、さらにクエン酸2gを加えて撹拌溶解し、硝酸酸性水溶液を得た。硝酸酸性水溶液の(クエン酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約1.9、(クエン酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約6である。この硝酸酸性水溶液に、実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム21gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。蒸発乾固し、110℃で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒E)を得た。
【0060】
〔参考例1〕(触媒Fの調製)
イリジウムとして8.6質量%を含有するヘキサクロロイリジウム酸(H
2IrCl
6)の希塩酸溶液(11.2g)および白金として16.3質量%を含有するヘキサクロロ白金酸(H
2PtCl
6)水溶液(3.93g)を混合し、純水(14ml)で希釈して硝酸酸性水溶液を得た。この硝酸酸性水溶液を実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム32gに含浸させた。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒F)を得た。この触媒Fの比表面積は17m
2/gであった。
【0061】
〔参考例2〕(触媒Gの調製)
ヘキサクロロ白金酸(H
2PtCl
6)水溶液に代えて実施例1と同じ硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液を用いた他は、参考例1と同様にして3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒G)を得た。この触媒Gの比表面積は17m
2/gであった。
【0062】
〔参考例3〕(触媒Hの調製)
ヘキサクロロイリジウム酸(H
2IrCl
6)の希塩酸溶液に代えて実施例1と同じ硝酸イリジウムの希硝酸溶液を用いた他は、参考例1と同様にして3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒H)を得た。この触媒Hの比表面積は17m
2/gであった。
【0063】
〔比較例1〕(触媒Iの調製)
ヘキサヒドロキソ白金酸(H
2Pt(OH)
6)0.82gを40%硝酸16gに加熱溶解した。これにイリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウム(Ir(NO
3)
4)の希硝酸溶液(9.57g)を混合した。この混合溶液を実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム26.5gに含浸させた。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒I)を得た。この触媒Iの比表面積は17m
2/gであった。
【0064】
〔比較例2〕(触媒Jの調製)
イリジウムとして4.4質量%を含有するヘキサアンミンイリジウム水酸塩([Ir(NH
3)
6](OH)
3)19.1gと白金として5.8質量%を含有するテトラアンミン白金硝酸塩([Pt(NH
3)
4](NO
3)
2)9.7gを混合した。この混合溶液に、実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム28gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒J)を得た。この触媒Jの比表面積は17m
2/gであった。
【0065】
〔比較例3〕(触媒Kの調製)
イリジウム原料として硝酸イリジウムを用いた他は、特許文献6の逐次含浸法に準じて調製した。まず、イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウムの硝酸酸性溶液(7.59g)を14mlの純水で希釈した溶液を用いて、実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウムにイリジウムを担持し、ホットプレート上で蒸発乾固、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中275℃で12時間焼成し、イリジウム/酸化ジルコニウムを得た。ジニトロジアンミン白金0.714gを28%アンモニア水40gに加熱溶解し、pH12の水溶液を得た。この溶液に前記のイリジウム/酸化ジルコニウムを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。これをホットプレート上で蒸発乾固、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中550℃で6時間焼成し、3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒K)を得た。
【0066】
〔実施例6〕(触媒Lの調製)
クエン酸の添加量を1gとした他は実施例5と同様にして、3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒L)を得た。硝酸酸性水溶液中の(クエン酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約1.0、(クエン酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約3である。
【0067】
〔実施例7〕(触媒Mの調製)
クエン酸の添加量を0.2gとした他は実施例5と同様にして、3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒M)を得た。硝酸酸性水溶液中の(クエン酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約0.2、(クエン酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約0.6である。
【0068】
〔実施例8〕(触媒Nの調製)
クエン酸2gに代えて、リンゴ酸(DL−リンゴ酸)2gを用いた他は実施例5と同様にして、3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒N)を得た。硝酸酸性水溶液中の(リンゴ酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約1.9、(リンゴ酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約5.5である。
【0069】
〔実施例9〕(触媒Oの調製)
リンゴ酸の添加量を1gとした他は実施例8と同様にして、3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒O)を得た。硝酸酸性水溶液中の(リンゴ酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約1.0、(リンゴ酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約3である。
【0070】
〔実施例10〕(触媒Pの調製)
リンゴ酸1gに代えて酒石酸(DL−酒石酸)1gを用いた他は実施例9と同様にして、3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒P)を得た。硝酸酸性水溶液中の(酒石酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約1.0、(酒石酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約2.5である。
【0071】
〔参考例4〕(触媒Qの調製)
イリジウムとして8.6質量%を含有するヘキサクロロイリジウム酸(H
2IrCl
6)の希塩酸溶液(7.33g)および白金として16.3質量%を含有するヘキサクロロ白金酸(H
2PtCl
6)水溶液(2.58g)を混合し、純水(10ml)で希釈し、さらにクエン酸2gを加えて撹拌溶解した。この溶液を実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム21gに含浸させた。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中で550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒F)を得た。この触媒Qの比表面積は17m
2/gであった。
【0072】
〔活性評価試験〕
実施例1〜10、参考例1〜4および比較例1〜3において調製した触媒A〜Qをそれぞれ打錠成形してから砕いて粒径を1〜2mmに揃えたものを、各成形体1.45g(約1.5ml)を石英製反応管(内径15mm)に充填した。次いで、メタン1,000ppm、酸素10%、水蒸気10%(いずれも体積基準)および残部窒素からなる組成を有するガスを、2リットル/分(標準状態における体積)の流量で反応管に流通し、触媒層温度375℃、400℃、425℃および450℃におけるメタン転化率を測定した(初期の転化率)。反応前後のガス組成は、水素炎イオン化検知器および熱伝導度検出器を有するガスクロマトグラフにより測定した。その後、触媒層温度を450℃に保ったまま、反応ガスに二酸化硫黄3ppmを添加して反応を継続し、20、60時間後のそれぞれの時点で、触媒層温度375℃、400℃、425℃および450℃におけるメタン転化率を同様に測定した。いずれの触媒・反応条件でも、メタン濃度の減少に対応する二酸化炭素の生成が確認され、メタンは触媒上で完全酸化されていた。
【0073】
メタン転化率の測定結果を表1に示す。ここで、メタン転化率とは、以下の式によって求められる値である。
CH
4転化率(%)=100×((1−(CH
4−OUT))/(CH
4−in))
式中、「CH
4−OUT」とは触媒層出口のメタン濃度を示し、「CH
4−in」とは触媒層入口のメタン濃度を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1〜5の触媒A〜Eは、初期において400℃で81〜90%のメタン転化率を示し、20時間後で78〜87%、60時間後でも75〜84%と高い値を維持していた。熟成処理を行った触媒B〜Dの活性は、いずれも概ね熟成処理をしない触媒Aよりも高い活性を示したが、85℃で80分間熟成処理をした触媒Cの活性は触媒Aと同程度ないし高温側では劣る傾向がみられ、やや熟成の温度が高すぎた可能性がある。常温で長時間熟成した触媒Dとクエン酸を添加した触媒Eの活性は、参考例である塩化物を用いて調製された触媒と同等以上であり、本発明のメタン酸化除去用触媒およびメタン酸化除去方法により、塩化物を用いることなく、これに劣らない高活性触媒が得られることが明らかである。
【0076】
これに対して、比較例1あるいは2の触媒の活性は明らかに低く、実施例1〜5の触媒A〜Eのように硝酸イリジウムとジニトロジアンミン白金の組み合わせが、高活性触媒を得るためには必要であることが明らかである。また、比較例3の触媒の活性も顕著に低い。この結果は、特許文献6には示された逐次担持法により高活性な触媒が得られるとの結果とは異なる。その原因は明らかではないが、特許文献6の方法ではイリジウムの担持に塩化イリジウムを用いているのに対し、比較例3では塩化物の使用を避けるため、塩化イリジウムに代えて硝酸イリジウムを用いた。この点は特許文献6の方法とは異なっており、塩化物を用いない場合には、逐次担持法の効果は得られないためとも考えられる。
【0077】
実施例5〜7の結果を比較すると、硝酸酸性水溶液中の(クエン酸)/(イリジウム+白金)の質量比が0.2である触媒Mでも、触媒Aとの比較では、活性の向上が見られている。具体的には、60時間後の400℃におけるメタン転化率は触媒Aの75%に対し、触媒Mは77%である。
そして、硝酸酸性水溶液中の(クエン酸)/(イリジウム+白金)の質量比を1.0とした触媒L、および、質量比を約1.9とした触媒Eでは、さらなる活性の向上が見られている。具体的には、60時間後の400℃におけるメタン転化率は触媒Lで81%、触媒Eは84%である。
すなわち、硝酸酸性水溶液中の(クエン酸)/(イリジウム+白金)の質量比が0.2〜2.0である場合に、硝酸酸性水溶液中に多価カルボン酸を含まない場合に比べて、メタン転化率が有意に向上するとの効果が得られたことが分かる。
【0078】
また、実施例8〜10の結果を参照すれば、多価カルボン酸としてのクエン酸に代えて、これと同じく多価カルボン酸であるリンゴ酸および酒石酸を用いた場合でも同等の効果を奏することは明らかである。
さらに実施例5および7の結果を考慮すると、硝酸酸性水溶液中の(多価カルボン酸)/(イリジウム+白金)の質量比が0.2〜2.0である場合に、硝酸酸性水溶液中に多価カルボン酸を含まない場合に比べて、メタン転化率が有意に向上するとの効果が得られたことが分かる。
もしくは、硝酸酸性水溶液中の(多価カルボン酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比が0.6〜6.0である場合に、硝酸酸性水溶液中に多価カルボン酸を含まない場合に比べて、メタン転化率が有意に向上するとの効果が得られた、とも言い換えることが出来る。
【0079】
一方、参考例1と参考例4の結果を比較すると、塩化物を用いて調製する場合には、クエン酸を添加するとメタン酸化活性は却って低下することが判る。多価カルボン酸を添加することによる活性向上については、不明な点が多いが、少なくともどのような場合でも多価カルボン酸の添加による活性向上が期待できるわけではないことは明らかといえる。