特許第6614900号(P6614900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6614900
(24)【登録日】2019年11月15日
(45)【発行日】2019年12月4日
(54)【発明の名称】水質浄化体
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/10 20060101AFI20191125BHJP
   E02B 1/00 20060101ALI20191125BHJP
【FI】
   C02F3/10 Z
   E02B1/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-193255(P2015-193255)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-64630(P2017-64630A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 真依子
(72)【発明者】
【氏名】川又 睦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一教
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−226991(JP,A)
【文献】 特開2006−205068(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/108680(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02−3/10
E02B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の多孔質担体と、
複数の棒材を立体枠状に組んで前記多孔質担体を収容する付着体と、を少なくとも含む水質浄化体であって、
前記付着体は、立方体状の収容空間ができるように格子状に組み立てられており、
前記多孔質担体は、前記収容空間よりも大きく、
前記各棒材の端部は、前記収容空間から延出していることを特徴とする、水質浄化体。
【請求項2】
前記付着体に、ゴム製の緩衝材を設けることを特徴とする、請求項1に記載の水質浄化体。
【請求項3】
内部に多孔質担体を収容した付着体と、内部に多孔質担体を収容しない付着体と、を組み合わせたことを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載の水質浄化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設置する水質浄化体に関し、より詳細には生物付着性に優れる水質浄化体に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や海洋における水質浄化技術として、ポーラスコンクリート等の多孔質担体を利用する方法がある。
特に、中空構造のバイオポラコンは、外部が好気性、内部が嫌気性と異なる環境が同時に形成され、多種多様な生物が棲息しやすいため、生物による環境の浄化を促進することができる。
【0003】
ポーラスコンクリートを用いた水質浄化技術に関する特許文献を以下に示す。
特許文献1には、浮島を、ポーラスコンクリートで製作する技術がされている。
特許文献2には、水質浄化材を、ポーラスコンクリート浄化槽に浄化材を充てんした水質浄化体が開示されている。
特許文献3には、水質浄化材を、ポーラスコンクリートブロックと粒状の木炭を袋材で内包した製作した技術が開示されている。
【0004】
前記特許文献1に係る浮島は、ポーラスコンクリートの比表面積が大きく、生物種が単なるコンクリート護岸よりも付着しやすいものの、一定量以上の付着があると、生物種が剥落しやすいという問題がある。
そして、ポーラスコンクリートそのものが脆弱であるため、崩壊しやすいという問題もある。
また、ポーラスコンクリートは、水深が深い場所では足場の確保やダイバーによる作業が必要となり、単体での設置は労力がかかるという問題もある。
【0005】
前記特許文献2および3に係る水質浄化体は、ポーラスコンクリートの他に、別途浄化材を併用するため、水質浄化機能の維持のために、適宜浄化材の補充や入替が必要となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−136983号公報
【特許文献2】特開2005−95773号公報
【特許文献3】特許5330165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、各従来技術に係る水質浄化構造は、以下の点について、改善の余地が残されている。
(1)浄化材の役割を果たす生物の付着量を増やすこと。
(2)付着した生物の剥落を防止して固定化すること。
(3)脆弱な多孔質担体を保護すること。
(4)水中への設置方法を簡易化および効率化すること。
(5)浄化材の補充などを行わずとも、1年を通じて浄化機能を発揮し続けること。
【0008】
本発明は、上記した各種の改善点を解消することが可能な水質浄化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、1つ以上の多孔質担体と、複数の棒材を立体枠状に組んで前記多孔質担体を収容する付着体と、を少なくとも含む水質浄化体であって、前記付着体は、立方体状の収容空間ができるように格子状に組み立てられており、前記多孔質担体は、前記収容空間よりも大きく、前記各棒材の端部は、前記収容空間から延出していることを特徴とする。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記付着体に、ゴム製の緩衝材を設けることを特徴とする。
また、本願の第3発明は、前記第1発明または第2発明において、内部に多孔質担体を収容した付着体と、内部に多孔質担体を収容しない付着体と、を組み合わせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に記載する効果を奏する。
(1)多孔質担体とは別部材である付着体を設けることにより、生物の付着可能な表面積が増え、水質浄化体の単位体積当たりの生物付着量の増加に寄与する。また、付着した生物による浄化機能も向上することになる。
(2)付着体に付着した生物が剥落しにくいため、生物付着量の減少が起こりづらい。
(3)多孔質担体や付着体に付着した生物が剥落しても、周囲の多孔質担体や付着体への再付着が期待できる。
(4)多孔質担体の周囲に配置した付着体が保護フレームとなることによって、波などの影響等による多孔質担体の崩壊を防止することができる。
(5)多孔質担体の周囲に配置した付着体によって、多孔質担体と付着体との間の隙間にも生物が生息し易くなる。
(6)多孔質担体と付着体とを連結してユニット化することにより、護岸の形状に合わせた水質浄化体を形成することができ、水中への設置作業も簡易化・効率化することができる。
(7)冬場に生物の活性が落ちる時期には多孔質担体での水質浄化機能を生かし、春から秋にかけて生物が活性化する時期は積極的に生物の付着量を多くする構造体とすることで、1年を通じた水質浄化機能の発揮が可能である。
(8)付着体に用いる素材を複数組み合わせることにより、付着する生物の多様性も確保することができる。
(9)付着体を鋼製とすると、付着体の鉄分によって周囲の海藻などの成長を促進させることができる。
(10)付着体にゴム製の緩衝材を設けることにより、さらなる多孔質担体の保護が可能となり、岸壁などの構造物への衝突による破損等も防止することができる。また、緩衝材を付着体と異なる材料とすれば、付着する生物の多様性も確保することができる。
(11)内部に多孔質担体を収容した付着体と、内部に多孔質担体を収容しない付着体とを組み合わせることで、水質浄化に必要な水の流れの確保を制御しやすい。
(12)水質浄化体を、付着体のみからなる支持フレームで支持する構造体を構成することで、該構造体の設置の際に太陽光が当たりやすい水深の浅い箇所のみに水質浄化体を配置することで、水質浄化機能の最適化を図ることができる。
(13)撤去時も枠体で一体化しているので容易、担体の交換、貝の除去などのメンテナンスも容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る水質浄化体の概略斜視図
図2図1に係る水質浄化体の使用方法を示す概略図
図3】水質浄化体の設置時間毎の比較写真
図4】本発明に係る水質浄化体の他の形状例1を示す概略図
図5】本発明に係る水質浄化体の他の形状例2を示す概略図
図6】本発明に係る水質浄化体の他の形状例3を示す概略図
図7】本発明に係る水質浄化体のその他の設置例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【実施例】
【0013】
<1>全体構成
図1に本発明に係る水質浄化体を示す。
本発明に係る水質浄化体Aは、1つ以上の多孔質担体10と、前記多孔質担体10を収容可能に構成するか、または前記多孔質担体10に差し込むように設ける、付着体20と、からなる。
以下、各部材の詳細について説明する。
【0014】
<2>多孔質担体
多孔質担体10は、水質浄化機能を発揮するための部材である。
多孔質担体10は、多孔性を呈する担体であり、担体全体に設けてある孔の空隙部分に微生物の棲息が可能な部材であればいかなる部材を用いる事ができる。
本実施例では、多孔質担体10に、ポーラスコンクリートを用いている。
この多孔質担体10は、担体内部を通水する過程で、担体に付着した微生物等の生物種が、表面では好気的な生物分解、内部では嫌気的な生物分解を行うものである。
【0015】
<2.1>多孔質担体の形状
多孔質担体10の形状は、球状、立方体状などあらゆる形状を採用することができる。
本実施例では、多孔質担体10を球状に形成している。
多孔質担体10を球状に形成しておけば、複数の多孔質担体10同士を組み合わせたときに、空隙が生まれやすく、日光があたりやすくなるほか、水の通りや生物の移動、生物種の住処になるなどの利点が生じやすい。
【0016】
<3>付着体
付着体20は、生物の付着量を増加させるための部材である。
付着体20は、立体状に組み立てた棒材21を前記多孔質担体10の周囲に設けるように構成することができる。
本実施例では、略中央に立方体状の空間ができるように、複数の棒材21を立法格子状に組み立てて付着体20を構成している。各棒材の端部は前記した立方体状の空間から延出した状態とする。
前記した立方体状の空間が、前記多孔質担体10の収容空間23となる。
本実施例に係る付着体20は、箱体20aと蓋体20bとの二つの部材に分けて製作されており、箱体20aの収容空間23へと多孔質担体10を収めてから、蓋体20bを取り付けて、図示していないクリップ金具等で固定することで、多孔質担体10と付着体20とを一体化している。
このとき、前記収容空間23が立方形状である場合、等長である一辺の長さよりも、前記多孔質担体10の直径を大きくするようにしておけば、多孔質担体10が付着体20から抜け落ちる事は無い。
【0017】
<3.1>付着体の素材
付着体20の素材は、多孔質担体10の保護や、岸壁との衝突などに耐えられる程度の素材であれば、あらゆる素材を用いることができる。
本実施例では、鋼製の棒材21を用いている。
棒材21を鋼製とした場合、棒材21から溶け出す鉄分が周囲の海藻などへの養分となる点で有益である。
【0018】
<3.2>異種素材の組合せ
付着体20は、材質の異なる棒材21(防錆塗装鉄筋やSUS等の金属素材、樹脂製など)を組み合わせて構成することもできる。
付着体20に付着する生物の種類は、棒材21の材質によって変わるため、異種素材を組合せて付着体20を構築すれば、付着する生物種の多様性を確保することができる。
【0019】
<3.3>緩衝材の追加
付着体20には、別途緩衝材22を設けても良い。この緩衝材22は、付着体20が岸壁などに衝突した際に、何れか或いは双方の破損を防止するための部材である。
緩衝材22の素材は、公知の弾性部材を用いることができる。
緩衝材22の取付態様は、棒材21の周囲に巻き付ける態様や、棒材21の自由端の先端に取付ける態様などがある。
本実施例では、棒材21の自由端先端にタップ加工を施し、当該部分にゴム製の球状の緩衝材22を螺合している。
【0020】
<4>水質浄化体の使用方法
次に、図2を参照しながら、前記した水質浄化体の使用方法について説明する。
まず、前記した水質浄化体Aを、上下方向に適宜所定間隔を設けつつ連結ロープ30を介して複数連結した連結体を地上で製作する。前記連結対の下端には、錘40を取り付けておき、岸壁Xの近傍の水中に配置する際に、前記錘40が水底Yに達するように構成している。
【0021】
図3に、水質浄化体Aの設置後の経過を示す。
図3(a)は、2月の設置から約1ヶ月が経過した際に引き上げた水質浄化体Aの写真であり、図3(b)は、設置から約3ヶ月が経過した際に引き上げた水質浄化体Aの写真である。
図3(b)の通り、設置から約3ヶ月程度で、付着体20に収容した多孔質担体10が外から視認できないほどの付着生物の存在が確認できる。
また図3(b)では、棒材21を鋼製とし、緩衝材22をゴム製としているところ、棒材21には主にムラサキイガイが付着し、緩衝材22には主にフジツボが付着した。
このように、水質浄化体Aを構成する部材を異なる素材を組み合わせることで、付着する生物の多様性の確保も確認できる結果となった。
【0022】
多孔質担体10は、内部を通水する過程で、担体に付着した微生物等の生物種が、表面では好気的な生物分解、内部では嫌気的な生物分解をし、水質を浄化する効果がある。
一方、春から秋にかけては、生物種の成長も著しく、多孔質担体10の表面を生物被膜で覆ってしまうため、多孔質担体内部への通水効果が薄れる場合も考えられる。
しかし、付着した生物種の生物活動によっても炭素固定や水質浄化効果が期待できるため、生物種の付着量が増えることは、一定の水質浄化効果が見込まれる。
そこで、本発明に係る水質浄化体Aは、冬場に生物の活性が落ちる時期には多孔質担体10での水質浄化機能を生かし、春から秋にかけて生物が活性化する時期は、付着体20でもって、積極的に生物の付着量を多くする構造とすることで、1年を通じて水質浄化機能を発揮することが期待できる。
例えば、今回多く付着が確認されたムラサキイガイは、殻の隙間から足糸を出して付着する生物種である。冬場になるにつれ、死滅し、付着力が弱まった際には、一部剥落も考えられるが、残った殻の密集体は新たな多孔質担体として付着媒体となるため、翌年の生物種の付着に寄与し得る。
【0023】
<5>その他の形状例1
図4に、水質浄化体Aのその他の形状例1を示す。
本発明に係る付着体20は、多孔質担体10に棒材21を差し込んで連結した態様で構成することもできる。
本実施例では、球状の多孔質担体10の上下にそれぞれ棒材21の一端を差し込んでモルタルで接合しており、串刺し状を呈している。
棒材21の他端には、リング状の接続具24を設け、連結ロープ30などを取付可能に構成している。
本実施例に係る構造では、付着体20による多孔質担体10の保護機能は薄れるものの、付着体20による生物付着量の増加機能を発揮することができる。
【0024】
<6>その他の形状例2
図5に、水質浄化体Aのその他の形状例2を示す。
多孔質担体10は、太陽光の当たる深度、水の流れのある場所において効率よく効果を発揮するため、太陽光の当たらない水深の深い場所や、各ユニットが重なることで水の流れが無い場所では、水質浄化効果が薄くなる。
そこで、図5に示すように、内部に多孔質担体10を収容した付着体20と、内部に多孔質担体10を収容せずに、非収容空間26としたままの付着体20と、を組み合わせた水質浄化体Aとすることにより、多孔質担体10への水の流れを制御して、水質浄化機能の低下を抑制することができる。
【0025】
<7>その他の形状例3
図6に、水質浄化体Aのその他の形状例3を示す。
本発明に係る付着体20の形状および、該付着体20への多孔質担体10の収容態様は、その他にも種々の態様を採用することができる。
図6(a)は、籠状の付着体20に、複数の多孔質担体10を並べて配置した構造を呈している。
図6(b)は、複数の多孔質担体10を並べて配置した籠状の付着体20を、複数段積みしたような構造を呈している。
図6(c)は、串刺し状に配置した多孔質担体10および付着体20を並べて配置した構造を呈している。
これらの形状例は、設置箇所の条件に応じて、適宜選択すればよい。
【0026】
<8>その他の設置例
図7に、水質浄化体Aのその他の設置例を示す。
図7では、水質浄化体Aを含む構造体を水底に設置するにあたり、水深の浅い箇所には、水質浄化体Aが位置するようにし、水深の深い場所は、前記水質浄化体Aを支持するための支持フレームBを設けた構成としている。
支持フレームBは、前記した付着体20で構成してもよいし、前記水質浄化体Aを連結可能な公知の支持具で構成してもよい。
支持フレームBの固定は、公知の方法を採用することができる。
本実施例によれば、太陽光が当たりやすい水深の浅い箇所のみに、水質浄化体Aを配置することで、水質浄化機能の最適化を図ることができる。
【符号の説明】
【0027】
A 水質浄化体
10 多孔質担体
20 付着体
20a 箱体
20b 蓋体
21 棒材
22 緩衝材
23 収容空間
24 接続具
25 非収容空間
30 連結ロープ
40 錘
B 支持フレーム
X 岸壁
Y 水底
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7